姫ノ湯始めました   作:成宮

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前回の投稿時、日刊ランキングに乗りました 本当にありがとうございました
大変遅くなりました スランプ気味です
そして相変わらずあまり進んでいません

読み返してはいるのですがおかしな部分があるかもしれません
ご指摘していただけると助かります

今回から前書きで旅館にいる人を書いておくことにします いるかいないかわからないと不便ですしね

現在 北郷 典韋 管路 張角 張宝 張梁 計6名


ニート自重して

「はぁ・・・」

雲ひとつない空に登った月がこの場を明るく照らす。

清潔に保たれた浴槽に、温すぎず、熱すぎないちょうど気持ちのよい温度の湯が流れこむ。湯に身を任せリラックスすると全身から疲れが流れ出るようだ。

しかしこの沈んだ気持は疲れとともに流れてはいかなかった。

 

『黄巾党』

三国志を語る上で必ずと言っていいほど出てくる黄巾の乱を起こした者達の名称である。これは本来は農民反乱だったがここでは少々事情が異なっていた。

誰が予測できるだろうか。アイドルグループの追っかけによる暴走劇によるものだと。

天和さんは順を追ってコレまでのことを一つづつ説明してくれた。

始めは旅芸人として各地を回っていたこと。その道中『太平要術の書』を手に入れたことで爆発的に人気が出たこと。大勢のファンに慕われ、大陸一番の歌姫に成りたいといったこと。次第に追っかけ以外のファンが増え、知らないうちに悪事を働いていたこと。そして止めることができず暴走し続けた結果、朝廷から討伐対象になったこと。・・・命からがら逃げ出したこと。

そこには後悔の念はなく、ただただ客観的な事実だけを述べていた。

 

「私はね、後悔していないんだ。でも人和ちゃんは地和ちゃんとは違って色々複雑に考え過ぎちゃってるの。私が言えばね、たぶん気にしないようになるかもしれない。でもそれは表面だけできっと奥底に抱え込んじゃう」

 

その一言を最後に天和さんは席をたった。

1人残された俺は気持ちを入れ替えるために風呂へいったというわけだ。

 

 

「夢のために頑張った結果がこれかー。やるせないな」

 

「そうか?夢を叶えるってことは少なからずいろいろな人に影響を与えるってことだぜ?傲慢になれ、とは言わないがそこはしっかりと割りきっておかなくちゃな」

 

「規模の問題だよ規模の。大陸一のアイドル目指したら中華全土を巻き込んじゃっての大騒動に発展するなんて誰が予想できたかって」

 

「それは覚悟の問題だろ?私は最悪殺されることも覚悟してたぜ」

 

いつの間にかひとりごとをすくい上げられ成立していた会話。

こんな喋り方をする奴は知る中では1人しか該当しない。

そいつは前を隠すこともなく堂々と近づき、そっと湯船に入ってきた。

 

「おいっ!何自然な流れで入ってきてんだ。あと前隠せっ、男らしすぎるだろ!」

 

「五月蝿いな、今なん時だと思ってるんだ」

 

はぁーと見た目にそぐわない息をつき、全身の力を抜き、気持ちよさそうに目を細めた姿はとても俺の親父に似ていた。そう入ってきたのは管路である。

 

「・・・ちゃんとかけ湯はしたか?」

 

「細かい男だなお前は」

 

「細かくないわ!というか俺が入ってるの知ってて入ってきたのか?」

 

「ああ、気づいていたけど問題無いだろ」

 

「問題あるわ!」

 

「そもそも私はいつもこの時間帯に入っていたんだぞ。それを無視して入っていたお前が悪い」

 

そもそももなにもそんなこと一切知らなかった。

むしろ部屋から一向に出てきていないこいつはきちんと風呂に入っていたことが既に驚きだ。

ついでなのでここで少し管路の話をしておこう。

結局彼女はうちの離れに住み着いた。基本離からは出ず、ずっと部屋の中で何かをしているようだ。一度、あまりにも音沙汰がなかったため様子を見に行ったところ、全裸で寝ているところを目撃、直後俺は共に来ていた流琉ちゃんに意識を刈り取られた。目を覚ました頃には管路は全裸ではなく、流琉ちゃんと同じスパッツにTシャツ姿になっていた。個人的にはスパッツも十分恥ずかしい部類に入る気がしないでもないが両者妥協、納得したのならば何も言うまい。

あと何故かやたら流琉ちゃんが管路に懐いており、まさかのお姉様呼ばわりと、少し前まではあなた呼ばわりとぞんざいな扱いをしていたのが嘘のようだった。

不審に思い管路に問い詰めると

「人を操りたいんならきちんと相手が望むもの、望むことを理解した上でしっかりとコントロールしなきゃな。導術なんかに頼ってるから大事な場面で解除されたりするんだぜ」

とよくわからないことを言っていたのでとりあえず制裁しておいた。実害を与えるニートとか何もしないニートよりもたちが悪い。出ていくはさらさら無さそうなので最早しっかりと部屋から一歩も出ないニートを満喫して貰いたかった。

 

「それで、張三姉妹が黄巾党の首領だって知ったんだな。全く、信頼されているな」

 

独り言に合わせていたことで疑っていたが、こいつは最初から知っていたらしい。

 

「何驚いた顔してるんだ」

 

「そりゃ驚くだろう。まともに顔を合わせていないお前に天和さんが事情を話した訳はないし」

「ああ、うん。ちょっとした関わりがあってな」

 

管路は実に困った顔をして顔を半分湯に沈める。

水中で何かを言っているようだがそれは声になることはなく気泡となってぶくぶくと音を鳴らすだけだった。その姿は歳相応に見えて、子供がちょっとしたいたずらを隠すような仕草。

 

「何やらかしたんだ?」

 

「何やらかしたとは失礼だな。・・・太平要術の書をあいつらにパチられただけだ」

 

・・・

 

「げげげ、元凶はお前かーーーー!」

 

「わ、わ、私だってそんなつもりなかったぜ!気がついたらなくなってたんだからな!」

 

管路の細い肩を抱き、力の限り揺さぶる。

大して管路も負けじと声を張り上げ言い訳を開始する。

 

「仕事もしないニートのくせにっ!何余計なことしてんだ!」

 

「うっさい不可抗力だ不可抗力!」

 

「大切なモノならきちんと管理しとけ!」

 

「むしろ私は被害者だからな!パクられたんだからな!」

 

「置き引きは置いといた方も悪いんだよバーカ!」

 

「なんだと!」

 

この風呂場での罵り合いは、お互いにのぼせ上がるまで続いたのだった。

 

 

 

「んでさっき言ってた覚悟ってなんだ?」

 

お互い脱衣所で一糸まとわぬ、ではなくタオル一枚被るだけという情けない姿。色気なんかなく、もはや羞恥心すら殆ど無いと言っても過言ではない。

 

「・・・私が占いしてたの知ってるだろ」

 

『黒点を引き裂いて、天より飛来する一筋の流星。その流星は天の御遣いを乗せ、乱世を鎮静す』本来であるならばそういう内容だったということは知っている。

 

「これさ、はっきり言って漢王朝を批判してる内容なんだよな。つまり私は流言を流した大悪党ってことになるんだぜ。実際は変わっちまったから微妙なところだけどな」

 

にししっとあっけらかんという内容に驚く。

管路は例え己が死刑になったとしても、この占いの内容を流す覚悟をしていたということだ。

 

「どうして、そこまでして?」

 

「それが私の夢だからな。人々に希望を与える、私にしかできないことだ。・・・誰かさんのお陰でご破算になっちまったけどな」

 

前半は胸を張って、後半ではジト目で責められる。俺のせいじゃないし、と口に出しそうになるが何とか止める。むしろそれよりも大事なことがある。

 

「夢?」

 

「ああ。私の一言で多くの人が希望を持つ。もちろん虚言じゃなくて真実でな。そして名を残したい、そう思ってた」

 

その時の管路の顔はなんというか、新しいおもちゃを買ってもらった時のような、希望に満ちた顔をしていた。

自分の夢を目指して、そんな顔ができるのが少しだけ羨ましい。

 

「ま、だから私と張三姉妹はどことなく共通点があるんだな。だから全部ではないけど、解ることもある」

 

大陸一の歌姫に成りたいという夢。

希望を与えた占い師として名を残したいという夢。

 

どちらもとてつもなく大変で、大勢の人に影響を与える。

そして管路や天和さんにはあって、人和ちゃんにはなかったもの。

どんな事が起きても、どんな犠牲を払ってでもきちんと受け止め、成し遂げるという覚悟。

管路は命を、天和さんは黄巾の乱を。

 

「おっ、なんかスッキリした顔になったな」

 

「そうだ、な」

 

管路はわざわざこのために来てくれたのだろうか。

ニートのくせに気使いやがって、と心のなかでつぶやいた。

 

「とまぁ私の夢も解ったな。ということで協力してくれ」

 

「協力?」

 

「ああ、占いが変化しちまったことはもうどうしようもないからな。じゃああとはきっちりこなしてもらうだけさ、な、一刀♪」

 

「おい、馬鹿くっつくな!暑苦しい!」

 

がばっと後ろから抱きつかれる。

長湯によって熱くなった身体が押し付けられ、せっかく冷めてきた身体が暑いと訴える。猛烈に拒否ったのは女の子に抱きつかれたからではない、念のため。

 

「お?照れてんのか?ん?ん?」

 

「うざっ!すごいうざい!」

 

そのどや顔殴りてぇ・・・

ロリに欲情するほど人生終わっとらんわい。

 

「人和を助けるって天和と約束したんだろう?とーぜん私も助けてくれるんだよな?」

 

「やっぱどっかで盗み聞きしてたんじゃねぇか!」

 

ちっと舌打ちをしたあと一旦管路から視線を逸らし考える。

といっても最早答えは出ているんだけど。

 

管路や天和さん達が覚悟していたと同じで俺も既に占いを実現させようって覚悟を決めていたのだから。

 

「わかったよ、でもお前もちゃんと手伝えよな」

 

「ああ、手助けくらい、だけどな。私は裏方しかできないからな。表は主人公であるお前に任せた」

 

「おう、任せろ!」

 

互いに拳を作り、コツンと軽く合わせた。

これからが俺と管路の本当の始まり。

 

「頼むぜ、盟友」

 

「きちんと働けよ、盟友」

 

くっくっく、とお互いらしい笑みを浮かべた。

 

「おっと忘れてたぜ。ついでだ、受け取っとけ」

 

「ん?何をだ?」

 

「私の真名は・・・」

 

夜が更ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

天和さん達が来てから日常生活にひとつの変化が現れた。

朝の調理の時間、包丁のリズミカルな音に加え、歌声が旅館に響く。

楽しそうな歌から切ない歌、時たまぎゃーぎゃーと喧嘩する声と飽きることはない。

そんなBGMを聞きながら朝食を作るのが、最近の1番の楽しみだ。

 

しかし先日『五月蝿い、朝のあいつらを何とかしてくれ』と管路(ニート)が言うものだから(物理的に)黙らせた。駄目だこいつ、早く何とかしないと・・・

 

ちなみにその間に流琉ちゃんが洗濯の準備をしていてくれているが、この役割分担を変えなければならないと思わざるをえない事件があった。

朝食の準備の最中、脱衣場で服を脱ぎっぱなしにしていたことに気づき回収に向かったのだが、流琉ちゃんが俺のシャツに顔を埋めている姿を確認してしまった。

予想が正しければこれはかなりまずい状況なのではないだろうか。こう、ヤンデレ的な意味で。

及川に無理やり押し付けられた漫画の如くだんだんとエスカレートして行かないことを強く願うことしかできない。

ついでにいうとそれ以降その俺のシャツは手元に戻ってきていない。・・・流琉ちゃんが怖い。

 

 

 

 

「・・・とさん。一刀さん」

 

「っと悪い。痛かった?」

 

いつの間にか思考の海に潜っていたらしい。

人和ちゃんに話しかけられていたことに気づきとりあえず当たり障りのない返事をしておく。

 

「えっと、少しだけ・・・」

 

控えめな主張に、他の二人の姉の自己主張の強さは遺伝ではないことを改めて思い知る。俺達は昼食を終え、暇と叫ぶ三姉妹の時間つぶしをするために縁側にて他愛のない話をしていた。

 

そして次第に怪我の話となりちょうどよい機会と思い、人和ちゃんの左足の経過を見ていた。見た目、腫れは引いていたが再度足に触れると痛みを耐えているのか顔をうつむかせる様子を見て、まだ油断はできないかもしれないと考えを改める。打ち身とか捻挫とかの怪我は道場で修行していた際に散々付き合っていたので大体把握していると自負していたがもしかしたら診断自体が間違っていたのかもしれないとしばしば不安になってしまう。

こんな時あいつがいたらなぁ、とついついいない男のことを考えてしまうのはないものねだりだろうか。

 

「一刀、いくら診察だからって女の子の足を舐めまわすかのようにジロジロ見るのはどうかと思うな~。あとちょ~っと手つきが怪しいかも!れんほーちゃんだって恥ずかしいものは恥ずかしいんだからね~」

 

「ね、姉さん、ちがっ」

 

「え、いやそんなつもりで見てたんじゃないって!それに触診!ただの触診だから!」

 

人和ちゃんが真っ赤になって否定してくれるが、むしろ正解にしか見えない。

確かにジロジロ見られるのも、他人に足を触られることもいい気はしないものだ。それに正式な医者ならばともかく、そんな免許すらないんだし。

世の中には男に髪を触られるだけでも嫌悪感でチキン肌になる人もいるのだ。

 

「えっと人和ちゃん。触られるのが嫌だって言うなら流琉ちゃんか天和さんに変わるから。はっきりと言っちゃっていいよ。その、うん。俺も気遣いが足りなかったよ、今までごめんね」

 

正直こういうことを口にだすことでもちょっとヘコむ。

そういえば今までお姫様抱っこで運んだりした時も相当我慢していたんだろうか。

あれ、俺もしかして今まですごい勘違いしていたとか?

いくら緊急事態だからって初対面の女の子をお姫様抱っことか寝てる直ぐ側で看病とか非常識だったり?!

 

実は朱里ちゃんや雛里ちゃんまでもが内心嫌がってたのではないかと悶えていると横から吹き出すような笑い声がし始めた。

 

「あははっ、一刀が今度はなにか身悶えてる~」

 

天和さんが俺を指差しぽわぽわと笑っていた。

対照的に、「れんほーは本気で嫌な人には言葉で突き放すから・・・」と俯き加減の地和ちゃんが付け足す。そこまで恐ろしい光景だったのだろうか。

 

「あ、あのその、私姉さん達みたいに肉付きも良くないし・・・あんまり自信なくて・・・その、恥ずかしがってただけですから・・・」

 

暗い顔した地和ちゃんと慌てた様子で人和ちゃんがフォローを入れてくれる。そんな二人の様子を見て改めていい娘達だなって思う。

 

「そんなことないって。筋肉も多すぎず少なすぎずバランスもいいし、肌もすべすべだし、日焼けとかシミとかもない綺麗な足だと思う」

 

嫌われてなさそうでよかったと安堵するとついつい口が軽くなってしまい、思ったことが口に出てしまう。

その一言で人和ちゃんはボンッと擬音が聞こえてきそうなくらい瞬間的に顔を真赤にしてしまう。チャームポイントである眼鏡が白く曇っているのは・・・見間違いです。

 

 

「おーい、誰かいないか?!」

 

不意に玄関の方から、はっきりとよく通る声が聞こえてくる。

それは流琉ちゃんでもなく、シャオちゃんでもない、初めて聞く女性の声。

 

「ごめん、ちょっと出てくる。人和ちゃんはもうしばらくおとなしくしておくこと。いいね」

 

急ぎ立ち上がり玄関の方に向かいつつ、念のため釘をさして置くのは忘れない。

性格的には無茶しないほうだと思うけど、無茶させる人間が周りに揃っているからなぁ。

 

「仕方ないわね。れんほーはちょっと私の華麗な踊りを見ていなさいっ!」

 

「ふう、張り切り過ぎて怪我しないようにね、ちぃ姉さん」

 

「一刀~また後でね」

 

早速元気よく庭の方に飛び出した地和ちゃんを苦笑しつつ眺める人和ちゃん、手を振って送り出してくれる天和さん。

三人に向かって軽く手を振って、この騒がしくも心地よい空間から移動していった。

 

 

 




管路回

よくよく考えると管路も命がけだよね っていう話
彼女は普段出てこないけど、大事な場面で出てくる・・・かもです

次回なのですが、その前に大変なことに気づきました。
それは 各陣営に属する前のほうがここに来やすいのではないか ということです
完全にアホです

というわけでどの位置かは確定してないのですが挿入投稿をしようと考えています
考えていたネタを消費できるし、新しいフラグにもなりますし
いかに計画性無く書いているかがよくわかりますね自分が

既に書き始めているので誰が来るのか楽しみにしていてください
今回も読んでいただきありがとうございました また次回があればよろしくお願いします

*あとそのうち登場人物紹介を載せるかもしれません 


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