客室に管輅を連れてゆき、そのあいだに流琉ちゃんにお茶を入れてきてもらう。
あまり関係ない話だが、流琉ちゃんはここに来るまでお茶というものを飲んだことがなかった。
なぜならこの時代お茶は贅沢品だからだ。むしろ酒なんかとは比べ物にならないほど高い。
初めて煎茶を出した際に、香りや味を楽しみ、心底お茶を味わっていた姿を見たときは心の中で感動していたものだ。
泣く声が聞こえなくなる頃、流琉ちゃんがお茶をそっと管輅の前に差し出した。
俺の前にも出されたお茶を飲みつつ、先程管輅が言っていた言葉を思い出す。
『わ、わたし、の占い、が変化、しちゃった、のぉ・・・』
占いの変化、変化前の占いにも俺らしき者が来るようなことを言っていた。
つまり俺がここに来るのは必然だった?
そして占いの結果がそのまま実現するとなればここには様々な傷を抱えた人達がやってくるのだろう。
「全く、やってられねーわ」
考えにふけっていると不意にドスの効いた声が聞こえた。
その出処は先程まで泣いていた管輅からであった。
タバコ(?)らしきものを口にくわえ胡座をかいて俺を睨みつけている姿は、どこからどう見てもただのチンピラである。
泣き止んだと思えばこの様子である。どうやらこれが素であるらしい。
「北郷一刀、お前はなんでこんなとこにいんの?さっさと表舞台に出てこいよ」
「んなこと言われても」
恐らく表舞台とはこの森の外、三国志のことだろう。
でも俺には全くそんな責められるいわれはない。なぜなら。
「ここから出れないし」
「ハァ!?」
せっかくの可愛い顔が台無しである。
いやタバコ加えている時点で台無しであったがより顔面が残念になったというかなんというか。
管輅は視線を俺から外し、唸りながら頭を捻る。
「兄様、とりあえず謝るべきでは?」
「理由もなく謝るのはちょっと・・・」
「見た目とは裏腹に表情、話し方が女性とは思えず、どう見ても詐欺にしか思えませんが一応女性を泣かせたんですから、どうせ兄様が悪いに決まってます」
「流琉ちゃん口悪いね、あと俺は悪くない」
機嫌が悪いオーラを周囲に振りまきながら吐く毒舌、ついでに俺に関してかなりの誤解が生じていると思われる。
俺、流琉ちゃんの前で女性を泣かせたことないと思うんですけど。
元の世界?ノーカンです。
「ち、だから占いの内容が変化したってことか。つまり私の役目も終わりってことだな」
管輅が頭を掻きながらぼやく。嬉しくも、悲しみもない無表情で。
「役目?」
「ああ、お前に警告を与えるとかな」
警告・・・ね。いい響きではないな。
「まいいか。北郷一刀」
「ん、なんだい?」
疲れきった顔から真剣な顔に入れ替わる。
普段からそうしていれば映えるだろうに、本当に残念な美少女だな。
一拍おいて、管輅の口から次の言葉が発せられる。
「責任を取れ」
「「お断りします」」
流琉ちゃんとハモった。
「なんで兄様があなたの責任を取らなければならないのですか?」
「全くもって」
「お前のせいで私の役目がなくなったんだ。責任を取るのがスジってもんじゃないのか?」
「不可抗力です。もともと俺のせいじゃないですし、むしろ俺も被害者ですし」
「なんだ、頼み方がいけなかったか?頬を赤らめて処女のように振舞ったほうがよかったか?」
「頭沸いてんのかおまえ」
狂人かお前は。
「ふむ、そこの少女はお前が責任をとって引き取ってったんじゃないのか?」
「むしろ勝手に住まれて困っています」
「兄様?!」
「なんだ違うのか、お似合いだと思ったのだが・・・」
「兄様、この人ちょこっとだけいい人かもしれません!」
変わり身早っ。でも評価ひくっ。
「ち」
「舌打ち?!評価低いことがそんなにショックだったの?!」
「兄様、とりあえず落ち着きましょう」
流琉ちゃん、君の責任もあるんだけど?
「あ、あとで困ってますの部分について追求させてもらいますので」
「後でね」
法廷で会おう、は一度は行ってみたいセリフ。
ここにはもちろんそんなものないだろうし、恐らく一方的に俺が痛めつけられるマゾ裁判になる予感。
「んで、責任って?結婚しろとか無理だから」
「・・・私の容姿が嫌か?」
「それ以前の問題。俺彼女いるし」
「「うそ!?」」
いたいいたい。
流琉ちゃんが叫ぶと同時に胸ぐらを掴む。
思い切り勢いよく掴まれたため、肺の空気が一気に押し出される。
加えて、息、出来ません。あれこれデジャブ?
「どういうことですか兄様?!私聞いてませんよ?!一体全体どこのどいつですか?!まさかシャオのことですか?!」
「おい待て、お前放せ。このままだと死ぬぞ」
ああ、ありがとう管輅さん。今なら責任とってもいいと思えるよ。
新鮮な空気が美味しいかな。過呼吸の如く音を立てて息をする。
「兄様、大丈夫ですか?!」
「げはっごほっ、うん、今度から禁止ね」
空気を吐かせてから締め上げて呼吸止めるとかデスコンボすぎる。
「そいつと同じだ。ここに住まわせてもらうぜ」
そういって流琉ちゃんを指差し堂々と同棲宣言。
「ま、私は何もしないけどな。旅館運営頑張れ!」
少し違った、ニート宣言だった。
「いやいや管輅さん、少しは手伝ってもらえたりしないの?」
この旅館は広い、広いのだ。
ぶっちゃけ現状では一定のレベルを保とうと思うとどうしても犠牲になる部屋が出る。
ここを本格的に旅館としてやっていくのなら増員は必須なのだ。
ガンガンガン
このニートをどうにか働かせる方法を考えていると玄関から扉を叩く大きな音が旅館に響き渡る。
「兄様・・・」
「ほらほら、お客さんがやっていたぜ。さっさと向かったらどうだ?」
ニヤニヤ笑う管輅の頭を思いっきりぶっ叩きたい衝動に駆られる、がなけなしの理性を総動員させどうにか押さえつける。
「行こうか流琉ちゃん。どうか流琉ちゃんはこんな性悪女になっちゃ駄目だよ」
「はい!」
「いてら~」
ごろんと寝転がってくつろぎモード。くそぅ、皮肉も通じやしない。
ひとまずこのニートは諦め流琉ちゃんの手を握り急ぎ玄関に向かった。
そして出会ったのだ。
渇望していた新戦力に!!
すみません、ここ数日バタバタしておりまともに書く暇がありませんでした
短いですが次回からはもう少し話を煮詰めてから投稿しようと思います