実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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サモンナイト3(完)


原作:サモンナイトシリーズ まったりさもんないと1

3-1

 

 

 忘れられた島に召喚されて……何日だろう。

 カレンダーとか無いから感覚が狂ってしまう。

 後でラトリクスの住人に確認しておこう。

 話は逸れたが俺は今、日本の無い世界にいる。

 召喚獣とか当然のようにいる世界らしく、ランダム召喚されたとか。

 宝くじ当てるより凄い確率な気がする。

 

 そんな世界に突然飛ばされた俺であるが、命がけのサバイバルとかを経て意外と難なく過ごしている。

 人間を受け入れるのは難しいとか何とか言われたが、俺は召喚獣枠として呼ばれたのだ。

 島の住人になるのは当然の権利だと推し切った。

 何がどう当然なのか、未だにわからない。

 

 そんな新入りの俺ではあるが、島でもやるとこは多い。

 機械仕掛けの住人が集うラトリクスでロボットたちと戯れたり、幽霊のような精神体が存在する狭間の領域で涼んだり、妖精と遊んだり、田んぼ仕事をしたり、いろいろとやることは尽きない。

 日本にいたときより充実しているのは気のせいではないはずだ。

 主な仕事はラトリクスで組んだ装備を片手に悪意を持っていたり自我の薄い召喚獣を退治することなのだけれど。

 

 島も召喚獣たちの元の世界ごとの4つの集落にわかれている。

 暇があったら島中に顔を出しているが、友好的な召喚獣は穏やかな気持ちにさせてくれる。

 女の子も可愛い。

 獣耳とか生えている娘もいる。

 やはりここが楽園だった。

 

 

 

 ここ最近は花の妖精であるマルルゥを頭部に乗せて島を探索する日々だ。

 彼女は他人の感情に影響されやすいらしいのだが、懐かれたらしく俺の頭を特等席としている。

 かなりの頻度で供に活動しており、最近はセット扱いされ始めた。

 基本的には島を回って誰かしらを手伝うか、敵対的な召喚獣がいれば気絶させたり電源を落として集落に連れて行って判断を仰ぐ。

 マルルゥがいるときは斬り捨て御免ではないのだ。

 飯は手伝った集落で世話になっている。

 

 今日はラトリクスで何か機械でも組んで遊ぼうかとマルルゥと相談していると、森が騒がしいことに気付いた。

 気味の悪い奇声が海岸沿いから聞こえてきた。

 何か事件だろうかと駆けつけてみると、はぐれ召喚獣に襲われている人間の集団を見つけた。

 不思議なこともあるものだ。

 なぜならこの島には人間がいないからだ。

 そして外部から入ってくることもできない、沖合で結界の様な嵐が起きるためだ。

 まあ、事情を聞くのは後でいいだろう。

 

 事前にマルルゥの許可を取り、崖から飛び降りる。

 マルルゥの「よろこんで~」が可愛くてやる気が出過ぎてヤバい。

 ポケットから柄を取り出し、魔力を通す。

 柄から生える様に緋色に淡く輝く刃が現れる。

 抜けば玉散る光の刃、と半漁人のようなはぐれ召喚獣を斬る。

 絶妙な魔力の加減によって非殺傷設定だ(ドヤァ

 さらに援軍が六人ほど、内四人は子供だったが、現れたことで勝利が確定的となった。

 浮足立っている敵に魔力を放出して怯ませ、斬るという単調な作業となった。

 

 

 

 海賊が3人、海賊の客分の召喚師が1人、家庭教師が2人、教え子が4人。

 総勢10名の人間が島へと現れた。

 事情を聞くと、海賊が船を襲っていろいろあって遭難したとか。

 なんて危険なやつらなんだ。

 刀に魔力を通そうとするがマルルゥと家庭教師に止められた。

 ……マルルゥの愛らしさと家庭教師のアティさんの卑猥さに免じて様子見しておこう。

 

 彼らは共に活動することに決めたようだ。

 教え子が不満を持っているようだが、追々折り合いをつけるしかないだろう。

 島での行動についてなど交渉したいらしい。

 マルルゥに言付けを頼もうかと思ったが、暗記が苦手なので諦めた。

 手紙を書くにしても、運ぶのが大変だろう。

 俺が行くと見張りがいなくなってしまう。

 4つの集落について説明し、どこに向かうか決めてもらう。

 サプレスの召喚獣が集う『狭間の領域』に向かうようだ。

 ファルゼンは良い奴だから悪いようにはならないだろうし、悪くない選択肢だ。

 

 それほど時間をかけずに各集落の代表が集まった。

 話し合いとしては、平和に進んだと思う。

 俺の意見も聞かれたので、それほど心配する必要はないと答えておいた。

 今後の交流次第だろう。

 話し合いの結果として集落の姿勢は生活するのに物資が必要なら協力するといったくらいだ。

 行動次第で変化するかもしれないが、なかなか良いのではないだろうか。

 頑張って歩み寄ると言った、綺麗な赤髪の双子である家庭教師のレックスとアティの今後に期待してみようじゃないか。

 

 

 

 思い付きで犬型の亜人であるパナシェを毛繕いしてみた。

 白い毛はふわふわで触り心地が実によい。

 パナシェの毛をマルルゥと楽しんでいると、教え子4兄弟の1人、アリーゼが現れた。

 4兄弟なんて言ったが、双子双子なので兄姉弟妹という構成なのでアリーゼは末っ子だ。

 あまり家庭教師の2人とは顔を合わせたくないらしい。

 自分たちの乗った船を襲ったがために島に流された身としては不満が溜まっているのだろう。

 こればっかりは気持ちの問題だ、俺には何も手助けすることはできない。

 甘い物でも食べたら、少しは気が晴れるだろうかと果樹園に誘う。

 こうやって考えて、悩んで、受け入れて、段々と大人になるんだろうなと思う辺り、俺も年かもしれん。

 

 楽しく果物を食べていると海賊が出たらしい。

 話し合いまでしたのに何か問題を起こしたのかと疑問を持つが、今回は別の海賊だとか。

 同じ時期にこんなにも人間が現れるとか、そろそろ沖合の嵐も寿命だろうか。

 大して問題にならないくらいの強さなので応援に行く必要はないようだ。

 これで援護が必要とか言われて走らされたら非殺傷を緩めたかもしれんね。

 

 それからよくアリーゼと遊ぶようになった。

 なんか気に入られたっぽい。

 召喚術(独学)か剣術(独学)、釣り(勘)、適当な遊び(日本のやつ)くらいしか出来ないが、それでも楽しそうだ。

 その様子に家庭教師の2人は複雑そうな表情をしていた。

 もう少し話し合えばいいんじゃないかな。

 話し合っても解決しないが、ストレスは吐けるし。

 

 今回、捕縛された海賊はユクレス村で畑仕事や果樹栽培に狩り出されるようになった。

 海の荒くれ者が陸で農家とか世も末だ。

 船長が魚嫌いらしいので、アリーゼと釣った魚を差し入れするようにした。

 だから陸に上がるのはいやなんじゃーとか、戦争じゃーとか度々叫んでいて面白い。

 なんか弄るのが楽しいんだよね。

 

 

 

 

 

 帝国軍人に子供たちが捉われた。

 人質というやつだ。

 気にせずに最大まで範囲を広げ、非殺傷で子供ごと斬って隙を突くことも出来たがやらない。

 やりたくない。

 アリーゼは友達なのだ。

 親しい人には優しくするというのが俺ルールである。

 友達を助けるためなら労力を惜しまないというのがカッコいい男であるとラノベや漫画で学んだ。

 彼女には全力を賭ける価値がある。

 

 

 

 灰色の召喚石を取り出す。

 中心は黒い闇が渦巻いている。

 魔力を込める、惜しみなく。

 そして祈り、唱える。

 

 「闇と夜の混沌から生まれ、眠りの先に立ち、死を司る我が神よ」

 

 切り取るように宙を奔った暗く毒々しい紫の光が六芒星を象る。

 明滅しつつ、ゆっくりと光が強くなる。

 まるで光が漏れてきているかのようだった。

 

 「契約により暗黒の館より出でて」

 

 六芒星の中心から死体のような真っ白の手がどこからともなく現れ、六芒星を掴んだ。

 空気が、空間が、世界が、軋む。

 徐々に六芒星が広がっていく。

 

 「唯人を」

 

 さらに手が現れた。

 六芒星を掴み、こじ開けた。

 

 「咎人を」

 

 怨嗟が聞こえる。

 吐き気を催すような怨嗟が、六芒星の奥から、聞こえる。

 六芒星が砕け散り、闇だけが残った。

 

 「冥府へ堕とせ」

 

 闇から獣の頭蓋骨を歪めたような無機質な仮面が顔を出した。

 そして後を追う様に、身体が現れる。

 翼のように背に広がる棺桶、それを連ねる鎖、その身に纏った黒い装束は拘束具を想像させる。

 意匠のない単純な刀が一振りだけ、その手に握られていた。

 

 「タナトス」

 

 絶対的な『死』の形が、召喚された。

 

 

 

 

 

 

 

 召喚したタナトスから視線を外せず、固まっている帝国軍を一瞥し、魔力を注ぐ。

 

 「歓喜の声をあげてはならぬ」

 

 注ぐ。

 

 「希望の目で空を仰ぐな」

 

 注ぐ。

 

 「この日よ、呪われろ」

 

 注ぐ。

 

 「メギド」

 

 タナトスが咆えた。

 そして破壊の光が降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3-2

 

 

 異世界に召喚されて最も変化したのは一日の生活サイクルだった。

 日本では昼前に起きて、日中は講義を受け、帰ったら夜遅くまでPCゲームという不摂生極まりない生活を送っていた。

 今は朝は早く、日中は仕事を真面目にし、夜は早めに寝るという健康至上主義だ。

 朝が早い理由としては、機械に管理されているラトリクスに俺の私室があり、決まった時間にクノンという医療看護用自動人形(フラーゼン)である機械少女が起こしてくれるためだ。

 昼間は島の人々と交友を深めるために顔を出して、仕事を手伝ってたらそうなっていた。

 夜はやることがないため、気まぐれに月や星を眺めて寝るだけである。

 

 改めて考えてみると、かなり充実した人生を送っていることに気付いた。

 体験してみると異世界ファンタジーに憧れる人が多いのもわかる。

 最初の交流や生活基盤作りなどの難を超えると待っているのがリア充ライフだし。

 

 

 

 

 

 朝からしっかりとしたバランスのよい食事が摂れるという幸運をかみしめながら朝食を食べ終え、クノンに礼を告げる。

 そのまま日課である軽めの健康診断を行う。

 クノンがいろいろと検査をしてくれるというので有り難く受けている。

 とはいえ、ここは日本では考えられないような科学技術溢れるラトリクスである、難しいことも煩わしいことも特になく、されるがままで大体が終わる。

 俺がやることといえば検温のためにクノンの手を握り、互いの指を軽く絡めるだけである。

 人に近いコンセプトで生まれたとあって、彼女の手のひらは心地よい柔らかさを感じさせ、少しだけひんやりとしていた。

 なんらかの測定をしているのか、ジッと見つめられる。

 医療看護用自動人形とやららしいので、瞳にはカメラレンズが入っているのだろうかと最初は想像していたがその考えは覆された。

 ジト目気味の大きな目は、伽羅のような色をしていて、瞳はどこまでも澄んでいるかのようだった。

 人間と大差ないもので、むしろクノンの目のほうが綺麗ですらあった。

 

 それから5分ほどで診断の終わりを告げられた。

 俺の体温が少しだけ伝わったのか、クノンの手は最初よりも温かみを帯びていた。

 絡めていた指を解く。

 今日も問題はないとのことだが、クノンが自分の手を見つめていた。

 何時もなら食器とともに部屋を出ていくが、今日は話があるのだろうか。

 座ったまま待っているとクノンが「人は温かいのですね」と小さく呟いた。

 何か琴線に触れるものがあったらしい。

 少しだけ普段と違うクノンの様子を見ていると、視線が合った。

 整った顔には、やはり澄んだ瞳がよく似合っていた。

 「クノンも温かいよ」と返す。

 俺はクノンが用意してくれる朝食や健康診断といった一緒に過ごす時間が好きだった。

 クノンには意味がわからなかったようで、首を少しだけ傾けていた。

 

 

 

 クノンとわかれた後はラトリクスで作業している適当な作業機械の上に乗って移動する。

 彼らは俺が乗ると作業を中断して、任意の場所まで送ってくれる。

 太陽光とか魔力で動くという驚きの技術だ。

 特に魔力とか俺には謎過ぎて困る。

 フロートユニットで浮いている作業機械の上に乗り、優雅にラトリクス上空を遊覧する。

 

 地上から10mくらいの高さまで上がったのを確認し、さわやかな風が頬を撫でるのを感じながら深呼吸。

 そして体の芯から湧き出るエネルギーを体表に纏い、循環させながら徐々に広げていく。

 これが異世界の謎技術であるストラと呼ばれるものだ。

 生命エネルギー、いわゆる『気』というやつを操り、身体能力を底上げしたり、自然治癒力を高めたりできるっぽい。

 

 異世界召喚された翌日くらいから使えるようになった謎技術その1である。

 その2は魔力、その3は召喚術だ。

 日本では身に付いていなかった技術だったので、違和感が半端なかった。

 違和感を調べるために、ストラと魔力を使い続けた結果、かなり感知力が上がったような気がする。

 真剣に頑張れば漫画みたく、『気』を感じ取ってどこにだれがいるか大まかにわかったりするが、普段は半径10mくらいが感知範囲だ。

 機界の召喚獣には『気』や『魔力』が感じられないものも居て感知できなかったがラトリクスで生活することと、毎朝準備運動と称して感知の練習をしたことで感じられるようになった。

 今なら弾丸も避け……られない。

 本音としては銃から発射された弾丸を避けるのはかなり厳しいので、相手の位置から予測して射線から離れるか手持ちの武器で弾いたり逸らしたりするのがベストである。

 

 ちなみに気と魔力は体内でため込む際に混ざり合うことが多々あるようだ。

 混ぜると爆発的なエネルギーを発する……という都合のいい話もない。

 用途も違うし、相性もよくないので無駄にロスすることになってしまう。

 なので俺は魔力を放出し続けながら気をため込み、気を使い切ったら外部から魔力を吸収してため込む、という感じで気と魔力の運用を交互に繰り返している。

 

 だから時間や日によって物理が得意か魔法や召喚術が得意か変わるのだ。

 面倒なことをしている自覚もあるが、理由もある。

 ファンタジーの世界に来たら武器を振り回したいし、魔法も使いたい、という高尚な理由だ。

 大したことないかもしれないが、俺的には大満足なので問題ない。

 

 操気術的な運動を終え、体内に貯め込まれていた魔力を緩やかに排出する。

 最初に魔力を吐き出してから運動しても良かったのだが、魔力という負荷があったほうがより良いと勝手に判断し、すべてが終わってから魔力を出していくことにしている。

 マルルゥの話を聞いた話だと、妖精や霊などには緩やかに垂れ流しされている気や魔力がかなり心地よいのだとか。

 頻繁に霊界『サプレス』から門によって召喚された召喚獣が背中に張り付いているが、そういった理由のためのようだ。

 餌として認識されているとかじゃ無いから、決して無いから。

 

 作業機械にお願いして幻獣界集落の「ユクレス村」に向かう。

 森を駆け抜けてもいいが、今乗っている作業機械は乗り心地が良いのでこのまま乗せてもらうことにした。

 魔力バッテリーを内臓している型なので賃料として垂れ流しの魔力を与えれば問題ない。

 ついでに目的地に付いたら軽くフレームを磨けばお礼としては完璧らしい。

 

 

 

 途中で朝から元気に遊んでいる少年少女、それを見守る先生らと合流し、ユクレス村へ。

 外から来た先生と生徒も、以前の帝国兵による人質事件を解決したおかげか互いに歩み寄る姿勢が見て取れた。

 村が見える場所まで来るとご機嫌なマルルゥが俺にパイルダーオン。

 まあ、マルルゥの機嫌がよくない日なんて見たことないけど。

 少しすると島の子供たちも集まって来たので授業の準備を手伝う。

 俺はこの世界について何も知らないので、子供に混ざって授業を受ける予定だ。

 島から外に出ることはできないから必要ないかもしれないが、事故としてだが外から入ってこれたのだから外に出られる機会もそう遠くはないと思っている。

 その時、何も知らないのと知っているのとでは段違いだと思っていたりいなかったり。

 文化が日本と完全に違うので知らないとやばいことに繋がりそうだし。

 

 今日は体を動かす授業のようだ。

 ……座学を期待していたのだが、知識はテキトーに気になったことを質問することにしよう。

 各々が得意な道具を使って自主練し、先生が助言するという形式のようだ。

 気や魔力の使い方も指南していることからファンタジーだなぁという印象を強く受けた。

 

 作業機械のフレームを丁寧に磨いていると、4兄弟の一人であるウィル少年に話しかけられた。

 少しばかり緊張しているようだ。

 話の内容は何をしたらいいか悩んでいるといったものだ。

 どうも器用らしく、召喚術についても剣術についても得意なようだ。

 両方学ぶことも視野に入れているとのことだが、とりあえず一芸を磨いたほうがいいと告げる。

 高いレベルになるとどっちも出来るようになるが、最初から手を伸ばすと器用貧乏になってしまうだろうし。

 俺は望んでやっているのでいいんです。

 

 決めるのが難しいなら目標とする人物に合わせたスタイルにすればいいんじゃないだろうか。

 先生であるレックスさんとアティさんはそれぞれ剣術と召喚術が得意だし、それ以外も結構できるっぽい。

 俺はどうなのかと聞かれたが、やめておいた方が無難であると思う。

 体内に気か魔力のどちらかを溜め込み、不要なほうを垂れ流しにできるならやってみる価値はありそうだが。

 先生の2人に俺のような垂れ流しは練習すればできるのかウィルが聞きに行ったが、渋い顔をして帰ってきた。

 「息を吐きながら吸うようなことはできる人はいない」というのが返事だったらしい。

 俺は人ではなかったことが判明した。

 いや、人だけどね。

 それくらい難しいということか。

 

 作業機械を磨き終えるころに、ウィルが召喚術に特化することに決めたと言ってきた。

 君ならできるさとか頑張れよとしか言えない。

 そもそも俺は召喚術をよく知らん。

 俺の場合は石に軽く魔力を込めると文が思い浮かぶので、それを詠唱すると魔法陣が出てくるのでそこから現れ、スタンドっぽく追従してくるようになるだけだ。

 さらに魔力を与えると魔法を放って消える。

 石の種類によって出現する召喚獣(?)は変わるがどれもピーキーな上に可愛くない。

 しかも一回召喚すると砕け散って石がなくなるという糞仕様。

 

 そういうわけでウィルやアリーゼ、マルルゥと一緒に召喚術や魔力運用を勉強する。

 さすがアティさんである、授業姿も実に魅力的だった。

 端的にいうと、エロかった。

 情操教育に最高に悪い気がするんですが、それは。

 

 

 

 昼をユクレス村で食べ、午後は軽い座学を行う。

 といっても将来どうしたいのかといった小学校でやったような授業だ。

 4兄弟は軍人を目指しているらしい。

 彼ら彼女らの家であるマルティーニ家は帝国でもトップクラスの豪商で、軍人がうんたら。

 この前の帝国軍を想像してしまった、結構殺伐とした将来の夢だなぁと。

 ちなみに先生たちも元軍人だったとかで首席次席だったとか。

 あんまり似合ってないから辞めて正解だったのかもしれんね。

 

 スバルは母親を守れるようになる、パナシェはまだ考えている最中、マルルゥは大きくなりたいとか。

 いい話である。

 パナシェは決めかねている自分が恥ずかしいようだが、まだまだ時間はあるのだからゆっくり考えなさいと励ますふりしてモフる。

 素晴らしいもふもふ具合だ。

 みんなの視線をちょっとばかり集めてしまったが、モフるためには仕方がなかった。

 マルルゥは大きくなりたいとの話だが、彼女が生まれたルシャナの花とやらが召喚前の世界にあるっぽいので、アンビリカブルケーブルが切断されたエヴァンゲリオン状態のようだ。

 ただ、今のマルルゥには俺の垂れ流した気や魔力が供給されているので完全に零ではないとのことだ。

 つまり、時間をかければいつかは大きくなるかもしれない。

 花の妖精だから、樹木に比べると小さく、アリーゼくらいが限度かもしれないけど。

 

 俺はそのうち島を出てファンタジーな異世界を見て回ってみたい。

 別に国とか作ろうとか貴族になろうとか、奴隷がほしいだなんて思ってない。

 獣耳の可愛い女性は見てみたいけど。

 ただ、将来について真剣に考えてはいないことも事実だ。

 何ができるか、何があるのか俺は全く知らないのだから考えようがない。

 だからこの世界についていろいろと興味がある。

 今のところは治安が一番気になるけど。

 このままだと外国に行くカモな日本人旅行者状態だし。

 

 

 

 授業が終わり、解散となると少年少女は遊びに向かうようで、先生たちのついでとばかりに誘われた。

 人一人くらいなら支えられる蓮の葉を足場に池を横切る蓮ジャンプをするらしい。

 中には腐っていたり、小さくて強度が足りないものもあるので、それを避けながら渡ってタイムを競うようだ。

 最初に挑戦したアティさんはすぐに池に落ちた。

 マジで次席だったのだろうかと怪しむ俺は悪くない。

 濡れた彼女は実に卑猥でした^q^

 

 レックスさんは無難に成功させていた。

 まあ、男が濡れても面白くないし。

 俺も挑戦することになったので、全力を出しつつ大人げない勢いで蓮ジャンプした。

 足にストラを纏って全力で跳躍して蓮を無視して池を飛び越える、水の上を走る、蓮が沈む前に駆け抜ける、召喚獣に乗って移動するなどだ。

 顰蹙を浴びるかと思ったが、子供には意外と受けがよかった。

 ストラジャンプを真似したスバルが池に落ちて、母であるミスミさまに怒られるという一幕もあったが、それでも童心に帰って楽しめた。

 

 そのあとは釣りに行こうぜって話になったので、海岸へと皆でぞろぞろ移動する。

 木の枝が落ちていたので拾って、ナイフで加工。

 インスタント・魚絶対殺す銛の完成だ。

 ジト目で見ていたベルフラウに、これは絶対に魚を貫く呪いの銛であることを説明。

 「そんなの絶対嘘に決まってますわ」とアナ・コッポラちゃん的な感じで否定されたので、ほんとだったらデコを撫でると告げておく。

 一つだけ言っておくと、フォースに導かれたジェダイばりの超感覚を有する俺が投擲した銛が外れるわけないじゃん。

 

 

 

 ストラで全身と銛を強化し、銛が逸れないために魔力の流れで緩やかなガイドレールを生み出し、投擲する。

 海が割れ、大きな波が起こる。

 やべっ、力が強すぎた。

 真っ二つに裂けた魚が海面に浮かび上がってきた。

 貫いて仕留めるとは、やはりあれは呪いの銛だったなとドヤ顔。

 銛を回収しにいくと気絶した魚が数匹浮かんでおり、銛には3匹ほど突かれていた。

 ……実に大量だった。

 

 魚を回収して浜辺に戻る途中で、海に浮かぶ少年を見つけた。

 抱えて戻ると、ちょっと怒られた。

 どうやら彼は浜辺に倒れていたらしく、そこに大きな波がきて飲まれてしまったのだとか。

 す、すみませんでした。

 

 どうやら新しい漂流者らしい。

 意識はないので一度ラトリクスで検査をさせたほうがいいだろう。

 漂流したことで体力が消耗したのだろうし。

 俺の波は関係ないが、やはり検査が必要だ。

 俺は関係ないが。

 ただ、俺もラトリクスに住んでいるので背負って連れて行くことにした。

 人助けも世の常である。

 

 その後、クノンに検査してもらったが特に異常はないらしい。

 衰弱しているだけなので直に意識が戻るだろうとのことだ。

 意識が戻ったらいろいろとやることもあるが、今は寝かせておくことにしよう。

 

 

 

 そんな感じで意識不明の少年を拾った翌日、巨大なアリっぽい生物と朝っぱらから戦うことになった。

 というか現在進行形で戦っている。

 事の発端はクノンがアルディラの薬を作るために散策に向かうというので付いていった結果、見つけて戦闘になったというから実にシンプルだ。

 意識不明な少年が目覚めたので島の案内をするとかいう話があったが、若干気まずいのクノンに付いてきたという隠れた理由もあるが些細なことだ。

 

 この巨大なアリっぽい召喚獣だが、この世界では害虫らしい。

 名前はジルコーダ。

 見た目も益虫っぽくないし、然もありなん。

 特徴としてなんでも食べてしまう、対話できる知能はない、酸を吐く、凶暴、増えるというデンジャラスな虫だ。

 殺処分しか道はない、こればっかりはしょうがないね。

 

 所持している武器は魔力刃くらいなのだが今は気が溜まっている状態だ、攻撃に蹴りを選択。

 軸足と蹴り足をストラで強化、配分は5対4くらい。

 残りの1割を推進力にジルコーダの頭部を蹴り上げると、軽い抵抗とともに首が飛んで行った。

 軸足が少しだけ地面に埋まったのでジルコーダの硬さを認識、虫は頑丈だからめんどくさい。

 飛び散った体液を避けるように下がる。

 残った胴体がわさわさと動いていてほんとにキモい。

 虫だから生命力があるし、マジで嫌なんですけど。

 

 胴体が爆ぜないように優しく、それでいて力強く蹴り上げ、宙に浮かせる。

 ジルコーダサッカーの出来上がりだ。

 このサッカーの難点は他に参加者がいない、ゴールがない、ジルコーダがボールではない、酸を吐くから溶けることもある、キモい、でかい、重いルールがないなどなどと挙げればキリがない。

 一か所に集まったところを少ない魔力を振り絞り、クノンの召喚術をアシスト。

 召喚したフレイムナイトの炎で一気に火葬した。

 

 一息つけるかな、と汗を拭おうとしたらクノンがやってくれました。

 この役得に浸りたいが、巣が近くにあるようでジルコーダのお代わりが出現した。

 ……岩で巣穴の入り口を塞いでしまおうかと考えていると、「だって私たち、仲間だもんげ!」とばかりに続々と島の仲間たちが!

 なんやかんやあって、どうとかで駆けつけてくれたらしい。

 有り難い話だわ。

 今から魔法型になることを周りに宣言しておく。

 回復の速さは魔力>気なのと召喚術のほうが範囲攻撃に優れているのでメインに魔力を選択。

 魔力は自然に満ちた生命力、気は人間の生命力、みたいな感じなので差異があり、利点も違う。

 出力は親和性を考えると気のほうが高いが、魔力は召喚術の餌みたいなものだし問題ないんじゃないかと。

 

 右手からストラを全力で放出してジルコーダを蹴散らしてから魔力回復に入る。

 これでいくらか時間が稼げるので、その間に相談する。

 必要なのは原因を排すこと、集落にジルコーダを向かわせないことの2つだ。

 巣に存在する女王を退治する班と外で駆逐する班に分かれ、戦闘をやり直す。

 先生2人とファルゼン、アルディラが巣に侵入していったので教え子たちをサポートしつつ召喚術を使う。

 タナトスを召喚し、巣が崩落しないよう加減しつつメギドを放つ。

 漂わせていた魔力と溜まった分が枯渇した。

 省エネで放ったのだが、相変わらずの糞燃費だ。

 

 魔力を使うようになるなら銃を持ってくるべきだったと悔やみながら魔力刃を振るう。

 威力は微妙だが、物理防御を無視できるので棒で叩いたり、無強化で殴打するよりも強い。

 糞燃費のせいで回復が追い付かない魔力にイラついていると、クノンからパフェを手渡された。

 これを食えと?

 

 ……若干回復したが、どうも腑に落ちない。

 

 

 ちなみに駆除が終わったら鍋で宴会をやるらしい。

 こんな虫のグロを至近距離で見続けて、そんな元気あるのだろうか。

 俺は虫苦手だから実はSAN値がごりごり減っているわけだが。

 

 

 

 

 

 鍋は普通に食べた。

 アティさんの魅力100な姿を見てたら虫なんて吹っ飛んだわ。

 座っているだけで魅力的とか帝国の最終兵器なのかもしれない。

 秘密兵器とか言われても俺は否定できそうにないし、勝てる気がしない。

 

 ついでに約束通りベルフラウのデコを撫でておいた。

 ゆっくりと絹に触れるよう繊細に、そして俺の手の熱が伝わるよう優しく、それでいて卑猥に。

 真っ赤になって熱を持ったデコもなかなかの手触りだったと言っておこう。

 

 

 後はなぜかアリーゼとマルルゥ、クノンが順番待ちしていた。

 

 

 

 

 

 

3-3(完)

 

 

 --1

 

 透き通る空、浮かぶ白い雲、聳え立つ近未来的な建物、真昼間からふらふらと歩き回る俺。

 異世界の島じゃなかったら不審者だったぜ。

 俺が何をしているか、答えは簡単。

 鉄くずの山で見つけた、予備電源だか太陽電池だかで生き延びていたロレイラルの機械兵士の修理である。

 メンバーは俺、マルルゥ、先生二人、教え子四人、クノン、そして特別ゲストのイスラだ。

 教師と教え子コンビはロレイラル文明についての課外学習。

 イスラはメディカルセンターにぶち込まれっぱなしだと、消毒液臭くなるだろうし、日光消毒のために呼んだ。

 近くだし、クノンがいるので問題は無い。

 

 真面目に勉強している横で鉄くずを漁ってたら発見した機械兵士だが、名前はヴァルゼルドというようだ。

 ロレイラル産には珍しく、愉快な性格をしている。

 すぐにマルルゥや教師生徒、おまけのイスラとも仲良くなっていた。

 クノンはバグってますね、と無表情に告げてきた。

 直さないとダメだろう。

 

 頑張るぞい、とパーツを探す手筈を整える。

 そして作業機械たちに必要なパーツの特徴を告げると、すぐに持ってきてくれるのだ。

 持つべきは友と手足だな。

 ロレイラルの機械はカッコいいし、俺の助けになってくれるから大好きだ。

 鼻歌とともにパーツを組み込んでヴァルゼルド、起動。

 

 

 

 ヴァルゼルド、暴走。

 どうも愉快な人格はバグによって生まれたらしく、本人格が消そうとしているらしい。

 異物に囚われる恐怖もわかる。

 暴走は電脳が乗っていない状態によるものらしい。

 バグで生まれた人格と俺たちは仲良くなってしまった。

 切り離すことはできないようだ。

 補助電脳を乗せ、全てを消して止めるしか方法はないようだった。

 壊すか、消すか。

 止めても電脳の無いヴァルゼルドをどうすることもできないのだ。

 

 どうしたらいいのか迷っている教師と教え子を尻目にヴァルゼルドに斬りかかる。

 機械兵士は魔法が弱点、魔力が潤沢な今の俺に負けは無い。

 ヴァルゼルドは指揮官機らしく、コマンド待ちだった他の兵器が湧いて出てくる。

 悩んでいる時間は無い。

 

 教師も教え子も、口々に騒いでいるが、無視して何度も攻撃する。

 理想を口にするのは結構だが、残念ながら代替案がないなら我が儘と一緒だ。

 新しい知り合いよりも、仲の良い友人を優先する。

 

 流れ弾が後ろに逸れた。

 イスラが、目立たないような動きだったが、綺麗に回避していた。

 何か戦いに心得のあるような動きだった。

 ……。

 

 

 

 直したヴァルゼルドを幾らか壊し、仲良くなった人格を上書きし、機械兵士を止めた。

 誰も何も言わなかった。

 何も言わず、去っていった。

 頭に感じるマルルゥの重さだけが、なんだか嬉しかった。

 

 

 

 

 

 --2

 

 ヴァルゼルドを壊した後の雰囲気は最悪だった。

 先生と生徒はお通夜である。

 一応、機械兵士としては残っているんだけどね。

 

 イスラも引き摺っている。

 要らなくなったら捨てるのか、みたいなことを問われた。

 状況によるとしか、俺には言えなかった。

 

 先生コンビの軍でのライバルだったアズリアとやらが、戦闘しようぜ!と言い出した。

 二人が持ってる剣が欲しいらしい。

 本来は一本の剣なのだが、双子だから魂が似ているのか、実は剣が二本になっているのだ。

 一本あげて和解すればいいのに、なんてね。

 無理だよなあ。

 ヴァルゼルドも無理だった。

 無理なことばかりだ。

 

 

 

 なんか帝国軍とバトってたらしいが俺は参加しなかった。

 イスラが情緒不安定なので近くにいたのだ。

 あとイスラって健康なときと不健康なときの落差が半端ないから、何かあったときのために控えている的な。

 

 体幹がすぐれている部分も気になっているけど。

 

 

 

 

 

 --3

 

 なんか色々とあったが剣ごと遺跡を封印したとか。

 遺跡は剣がカギとなって、なんかすごいパワーをくれる建造物だ。

 これで島の行き来を封じていた竜巻も解除されるとか。

 帝国は剣の凄いパワーが欲しいっぽいよ、知らんけど。

 

 封印したと主張しても剣を欲しがるアズリアが率いる帝国軍の部隊と再度衝突。

 ヤマもオチも無く勝った。

 と思ったら、イスラが敵に回った。

 なんか特殊部隊らしい。

 しかもイスラは別の剣を持ってた。

 帝国もえげつないことをする……。

 

 

 

 諦めの悪いアズリアが決戦を仕掛け、先生の友情パワーで打ち砕いた。

 封印したはずの剣がまた生えてきて、すっごいパワーでゴリ押ししただけだが。

 イスラの剣も使って封印しないとダメな雰囲気だ。

 めんどくさ。

 うっわ、めんどくさ。

 やっと先生や生徒たちと会話ができそうなほどにまた打ち解けて来たのに、イスラによってまた重い雰囲気に逆戻りだ。

 悲しい。

 

 決戦後になんやかんやあって、アズリアが下った。

 と思ったら笑い声をあげたイスラが「僕の部下は元気だから、もう一戦頑張るぞい^^」とか言い出した。

 マジか。

 こいつ空気読めなさ過ぎっしょ。

 

 イスラの部下だが、暗殺者集団だった。

 帝国軍もザクっと刺されて死んだ。

 やべー。

 頭やべー。

 こんなのおかしいよ!

 

 駄目そうな帝国軍の軍人を見捨て、俺が殿となってみんなを逃がす。

 先生は見捨てる軍人を助けたがったが、無理だ。

 俺一人なら敵を倒すことは出来るが、助けるのはマジで無理。

 お荷物ある状態なら撤退戦も難しい。

 遅滞戦闘で時間を稼ぎ、仲間を逃がすのが精いっぱい。

 

 

 

 いっぱい死んだ。

 逃げ遅れが無いか確認するために感覚を広げた俺にはわかった。

 致命傷を避けていても、毒でゆっくりと死んでいった。

 

 

 

 

 

 --4

 

 ラトリクスの自室で、ヴァルゼルドだった機械兵士のメンテを進める。

 だった、というのは変だな。

 型番がVAR-Xe-LDでヴァルゼルドなのだから、彼もヴァルゼルドなのだ。

 分けて考えるべきではないと、思い至った。

 装甲を磨いていると、夜にも関わらずアリーゼが飛び込んできた。

 夜の遅くまで起きているとはけしからん少女だ。

 叱ろうかとも思ったが、険しい表情に只事ではないと理解した。

 

 先生二人が喧嘩しているらしい。

 

 お、おう……?

 呆けた声が出たが、洒落にならない勢いのようだ。

 あの凄いパワーが発揮できる剣も使っているとか。

 あ、それは急がないとやばい。

 どのくらいヤバいか、言葉にできないくらいやばい。

 

 

 

 

 

 

 --4

 

 現場に辿り着くと、先生二人が言葉のドッジボールとともに、剣で打ち合っていた。

 おそらく限界だったのだろう。

 溜め込んだフラストレーションが、一気に爆発したのだ。

 慣れない環境での教師としての苦悩、生徒と打ち解けられない気まずさ、ヴァルゼルドとの別れ、帝国軍の友人との戦闘、イスラの裏切り、多くの死人。

 二人が腹を割って話せる相手なんて、この島にはいない。

 二人は教師だ。

 保護者として、大人として、弱みを見せることは出来なかった。

 それに深い知り合いもいない。

 だから、こうなるのは当然だった気がした。

 

 気が済むまでやらせるべきか、止めるべきか。

 悩んだのがいけなかった。

 後を着いてきていたヴァルゼルドが、二人の間に割って入った。

 そんな指示は出していない。

 

 

 

 交差するはずだった、二本に複製された「碧の賢帝(シャルトス)」がヴァルゼルドを叩き壊した。

 感情を忘れた機械兵士が「教官どの」と呟き、周囲に熱を撒き散らして爆ぜた。

 暗がりが、一瞬だけ赤く照らされた。

 欠片も傷ついてない筈だった、「碧の賢帝(シャルトス)」が砕け散った。

 一瞬、赤く照らされていた森が、幻想的な淡い輝きに包まれた。

 

 持ち主の二人は、糸が切れたように倒れ込んだ。

 砕け散った剣が転がった。

 

 

 

 全部壊れた。

 

 それを俺はただ見てるだけだった。

 

 

 

 

 

 --5

 

 アティさんもレックスさんも、ヴァルゼルドを壊して剣が砕けた後、眠ったままだった。

 剣が何か関係しているのかもしれない。

 メイメイという人物が森に住んでいると、アリーゼたちから聞いた。

 剣に詳しく、教師二人にも助言していたという。

 拾い集めた剣の破片を持って、そこに向かう。

 辿り着いたのは、中華風の小屋だった。

 

 メイメイに聞いた話を端折るが、二人が持っていた「碧の賢帝(シャルトス)」という銘の剣は、世界の魔力の流れに接続できる魔剣だという話だ。

 島に存在する遺跡にある核識とやらを経由するらしい。

 核識は元は人間であり、その魂と適応できる者のみが「碧の賢帝(シャルトス)」の適格者となる。

 二人が眠ったままになっている理由は、「碧の賢帝(シャルトス)」で魔力を引き出していた際に、砕けたことに依る物だという。

 「碧の賢帝(シャルトス)」を使った場合、魂そのものと接続するような形になるので、剣が砕けることで魂もダメージ負う。

 剣自体は非常に丈夫だが、心も繋がっているのでストレスによって脆くなっていたか、強いショックで砕けたか。

 

 ……。

 

 

 

 剣の破片を見せて治せるかと問うが、メイメイは難しいと答えた。

 剣を打つ技能も無く、複製された剣が互いを対消滅させてしまい、欠けた部分が存在しているためらしい。

 元の大きさから変わってしまえば、魂も変わる。

 引きずられる肉体がどうなるかわからないとも。

 他の魔剣は、欠けた部分の代替品にならないか聞いてみた。

 可能性は高いとのことだ。

 ……。

 

 代わりはイスラが持っている。

 

 

 

 出ていこうとした俺に、メイメイが我慢すれば後で俺も幸せになれるとしても行くのかと聞いてきた。

 占いだろうか。

 まあ、どっちにしろ行くんだが。

 十分今が幸せってやつである。

 

 

 

 やっぱり仲良くしてくれても、召喚獣は人間じゃない。

 人恋しくなるもので、そこに現れた人たちを大切にしたいと思うのは当たり前のような気がする。

 いや、イスラから奪うから良いこと言ってる風に装っただけだが。

 後から来て優先度と好感度が低いイスラが悪いわ。

 

 

 

 

 

 --6

 

 ロレイラルに運ばれたヴァルゼルドだったガラクタを見る。

 中身は無い。

 装甲も所々が欠けている。

 ファルゼンが、自分で使っている装甲用の素材をくれた。

 魔力を外に漏れないようにできるとか。

 なるほど、俺が外に放出する魔力を貯蔵できる的な感じだろうか。

 でかくて邪魔だけど、まあいいんじゃないかな。

 着る気は全く無いし。

 

 

 

 魔力刃を取り出す。

 殺傷設定だ。

 暗殺者連中は自爆したり毒を使ったりするらしいので、必殺が重要だ。

 

 連中が待機していた森ごと切り裂いた。

 

 

 

 

 

 --7

 

 野良の召喚獣も巻き込んだらしいが、必要経費である。

 上半身と下半身が別れてしまったらしい連中を乗り越え、イスラに斬りかかる。

 イスラは呪いにかかっているらしいが剣による魔力補給でブーストし、死ぬ直前まで行くが死なないとかどうとか。

 そりゃあ大変だね。

 

 不意打ちでダメージを負っていたイスラの回復を待たず、攻撃を続ける。

 今回は手抜き無しのガチだ。

 魔力刃に俺の魔力を注ぎ込み、凄まじい勢いで圧縮まで加えている。

 魔剣による膨大な魔抗も、易々と突き破って肉体を傷つけることが可能だ。

 イスラの胴体を切り裂き、返し手で首を切り離すところで邪魔が入った。

 

 居合の構えをしているおっさんと見知らぬ女である。

 幹部レベルっぽい。

 知らんけど。

 用心棒のウィゼルと二つ名持ちの暗殺者であるヘイゼルだとかなんとか。

 いや、知らんけど。

 

 サモナイト石を取り出し、魔力刃を砕き、詠唱。

 メギドで薙ぎ払う。

 砂と化した石を放り投げ、倒れているウィゼルヘイゼルコンビを無視し、ストラを練る。

 さあ、目的を果たそう。

 

 

 

 足裏からストラを放出する瞬動で、回復したイスラへと接近する。

 イスラの魔剣は、ストラを用いた硬気功の鎧も簡単に切り裂く。

 相手の魔力が多すぎるために起きる。

 単純に放出したストラだと相手が纏っている魔力を少し散らす程度に終わる。

 

 ストラの放出で削るように魔力を散らし、薄まった部分に拳を当てる。

 イスラは血反吐を撒き散らすが、戦闘は続行らしい。

 ダメージによる隙も、魔剣による魔力放出でカバーされる。

 心の折り合いになりつつある。

 

 イスラが刺突の構えを取った。

 魔力が渦巻いている。

 それを見て俺も魔力刃を形成する。

 当たれば終わる俺、リザレクションの連続で精神的に厳しいイスラ、互いに余裕はないのだ。

 負担がかかれば魔剣が折れるかもしれないが、そこまで行くと俺も致命傷を貰いそうだ。

 必殺しておきたい。

 

 

 イスラの刺突は速かった。

 マジで速い。

 見えないレベル。

 が、気や魔力を感知できる今の俺に、速度は無意味だ。

 始点と序盤の軌道さえわかれば、受け止めることは容易だ。

 

 身体中のストラを留めた左の掌で受け止める。

 手の平が貫通されたが、消し飛ばなかったので良し。

 神経が通っていてヤバいらしいが、消し飛ぶよりはマシ。

 柄を握っているイスラの手を、上から覆うように握って剣を動かせなくする。

 

 イスラの呪いは俺には解けない。

 この魔剣があれば先生二人は治る。

 ヴァルゼルドにも悪いことをした。

 俺にはできないことばかりだ。

 

 

 

 なんで泣いているのかって。

 自分の不甲斐なさに泣いてるんだ。

 あとはイスラのためにも。

 ははは、俺は良い奴なんだ。

 

 

 

 左手にストラを溜め、空になった体の部位に魔力を溜めておいた。

 つまり魔力刃を再度使えるというわけで。

 凝縮させた結果、ナイフのように短いが、今はそれで十分だ。

 心臓を貫き、イスラの意識が途切れて魔剣が弱まった瞬間を返し刃で叩く。

 

 ヴァルゼルドが爆ぜた時よりも、淡く弱い輝きに照らされた。

 

 

 

 

 

 --8

 

 イスラは死なないから魔剣ごと心を砕いた。

 これで動かないだろう。

 衣服が襤褸のようになっていて、血を吸ってひどく重い。

 飛び散った破片を拾い集め、メイメイの元へ行こう。

 疲れた。

 俺はもう疲れた。

 戦いの何が楽しいのか、死体の山を横目に、血に混ざった赤い破片を探し回る。

 

 居合のおっさんが魔剣をどうするのか聞いてきた。

 まだいたのか。

 もう一人の女は何時の間にかいなくなっていたのに。

 そらもうあれよ、砕けたもう一つの魔剣の接着剤にするに決まってる。

 

 

 

 何故かおっさんがメイメイの元に着いてきた。

 剣が打てるらしい。

 やるじゃん。

 

 

 

 

 

 メイメイが暗い顔をしていた。

 辛気臭いやつである。

 俺の流れが良くないようだ。

 まあ、大丈夫っしょ。

 

 

 

 

 

 --9

 

 寝て起きたらおっさんが新たな魔剣を生み出していた。

 すげー。

 おっさんすげぇ。

 何が凄いかわからないが凄い。

 朝一で訪ねて着たアリーゼに魔剣を託す。

 契約すればワンチャンあるらしい。

 

 余った部分で小太刀も打ったらしい、俺に渡してきた。

 アズリアにでも渡すか。

 イスラの遺品的な意味で。

 

 

 

 アズリアに斬りかかられた。

 イスラを中心とした血の海地獄を見たらしい。

 現代アートですまんな。

 苛立って、反撃してアズリアを切り捨て御免してしまった。

 身体が動いてしまったのだ。

 イスラの遺品がアズリアの血に染まった。

 戦えるって、損しか生まない。

 それをアティさんに見られていて……。

 

 新たな魔剣の抜剣覚醒は、美しい蒼だった。

 

 

 

 

 

 --10

 

 悪循環しかないんですがそれは。

 メイメイさんちのセーフハウスに逃げ込んだ。

 アティさんと斬り結ぶという事件が発生してしまった。

 落ち込む。

 しかもアティさんブチギレだったし。

 

 ぶっちゃけ、無色とイスラ惨殺とかアズリア切り捨て、アティさんとマジ戦闘をしたから島に居られない感。

 俺よりも向こうの比重が重そうだし。

 俺には致命的なレベルで人望が無い(絶望)

 凹んでいる俺を見たメイメイはがぶがぶと酒を呑みながら、何とかなるかもしれないようなならないような……と言葉を濁した。

 それってダメじゃん。

 慰めるならもっと頑張れよ。

 

 

 

 鞄に道具を詰め込んで、夜のラトリクスに忍び込み、ヴァルゼルド(壊)を手に入れた。

 その後は作業機械に頼んで浜辺に移動。

 もうラトリクスの機械たちだけが俺の癒しだ。

 さあ、島を出よう。

 

 ただまあ、俺には海を渡る技術が無いから無色の派閥本隊が乗っている船に忍び込んだ。

 

 

 

 

 

 --11

 

 船が出るまで、船倉で待機。

 飯とか有り難く貰う。

 ヴァルゼルド(壊)はかなり目立つし、なんとか隠せないかと、鎧をばらしてみる。

 中から半透明のイスラが出てきた。

 

 ^q^

 

 

 

 半透明で寝ているイスラを起こす。

 本人から話を聞くと、イスラに呪いとかいろいろかけていたオルドレイクが、呪いを解除して死んだんじゃないかって話だ。

 で、死後は幽霊として活動開始、みたいな。

 彷徨ってたらヴァルゼルドの鎧に魔力が籠ってていい感じだったから中に入ってたとか。

 なるほどなー。

 鎧も動かせるよ、とヴァルゼルド(イスラ入り)がガションガション。

 やるじゃん。

 

 幽霊だから触れないと思いきや、魔力を込めればある程度まで実体化できるっぽい。

 電池である俺から離れるとヤバいとも。

 俺の傍にいたいらしく、変なアピールを開始した。

 イスラ曰く、自分はアズリアと顔が似てるから、どう?みたいな感じのアピールだ。

 何がどう?なんですかねぇ(白目)

 

 

 

 そんな感じでイスラと遊んでいると、船が騒がしくなった。

 オルドレイクが負けて、逃亡するようだ。

 イスラ的にはオルドレイクをぶち殺したいようだが、船が陸に行かないのは不味い。

 大人しく待機である。

 

 

 

 

 

 --12

 

 陸地に近づいたので、火薬などに火を付けて、小舟でバックれた。

 後ろで響く爆発音が俺の新たな門出を祝ってくれている。

 

 

 

 まあ、何時かはこの世界を旅するのが目的だったのだ。

 今回はそれが早まっただけに過ぎない。

 俺には戦闘能力もあるし、魔法技能的なのもある、ファンタジー世界を楽しめるというものだ。

 問題は、ヒロインがいないという致命的なミス。

 イスラが「ボクボク」アピールしているけど、君は男なんだ。

 

 街を目指し、街道を歩いている途中でケンタロウという日本出身の板前を拾った。

 はぐれ召喚師が問題を起こしてどうとかこうとか。

 ボコられていたのを助けた。

 当然だが男である。

 違う、そうじゃないんだ。

 拾うなら普通はヒロイン展開だろ。

 おかしい、こんの絶対おかしい。

 

 

 

 


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