実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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原作:この素晴らしい世界に祝福を、この素晴らしい世界に爆焔を、ブロントさん、他 虹素晴_爆焔編(完)

1-1

 

 

 治療の甲斐なく俺は死んだらしい。

 傷の痛みと高熱を出して意識が朦朧としていたのが最後の記憶なのだが、教えて貰った話によると傷口に細菌が入ってなんらかの病気に感染して、体力が落ちていたので死んだようだ。

 入院した理由だが、高校の帰りにバイトへ行こうと橋を渡っていたら暴走車に轢かれそうになったが、イケメンに押されて緊急回避に成功。

 その後に橋から落ちて複雑骨折になっていたがかなりの時間放置され、入院しても手遅れだった的なサムシングだった。

 

 ちなみに俺を助けようとしてくれたイケメンは轢かれて死んだらしい。

 チラッと見ただけでイケメンだったが、轢かれた後もイケメンだったようで、通りかかった人々はイケメンを助けるために必死に頑張ったようだ。

 そのイケメンは轢かれた後もしばらくの間、みんなの期待に応えるために生死を彷徨っていたことで、野次馬たちはそちらに掛かりきりとなっていて。

 そんなわけで、橋の下で誰に看取られることも無くひっそりと人生を終わらせそうになっていた俺の処置が遅れたようだった。

 

 

 

 ……こんなん複雑な気分にならないほうがおかしいじゃーん^q^

 

 

 

 

 

 ―― こ の す ば ! ――

 

 

 

 

 

 そんなわけでポテチを貪っている水色の女神様とやらに、俺の死因の説明を受けた後に人生相談である。

 相談内容はこれからどうするのか、ということだ。

 両親は蒸発したのでいないし、祖父母も亡くなっていて家財諸共すべて持っていかれたので、明日の朝日拝むのが大変な状況だったし、これはかなりの幸運だった。

 

 今回は死んだら全て終わりで次の人生へ強制輸送というわけではなく、選択肢が与えられ、その中から好きな人生を送っていいようだ。

 ちなみに選択肢は三つ。

 一つ目、天国で老後のようなロハスな老後を送る。

 マジでつまらんから人生を楽しんで枯れてから来た方がいいらしい。

 二つ目、リセットして地球でもう一度人生を送る。

 文字通り、そのうち死ぬ人生を赤子でRE:ゼロから始まる地球生活的なやつ。

 三つ目、魔王がいる剣と魔法のファンタジー異世界でまた死ぬまで頑張る。

 現在のおすすめで今ならチート装備つけてくれるってよ。

 

 女神様イチオシは三つ目の選択肢である、異世界で頑張るやつらしい。

 今なら女神様を崇拝できるアクシズ教の信徒になれるサービス付きでお得!らしい。

 いや、そのアクシズ教とやらは要らないです。

 俺の人生が詰まった目録をテキトーにぺらぺら捲りながら「うわー、かなり苦しんで死んだのね。いたそー」ってポテチ食いながら流す女神様を崇拝するのは嫌です。

 もっと労わってほしい。

 そもそも俺の人生をポテチの油でべたべたにしないでください、マジなんでもします!

 

「ん? 今なんでもするって言った?」

 

「へ?」

 

「これはもう救うしかないわ! 異世界を!」

 

 そういうことで異世界に行くことになった。

 

 

 

 異世界行くことに決まったら話は終わりだとばかりにポテチの女神様は「忙しい忙しい」とスナック菓子をぼりぼり食べながら、俺の周りに魔法陣を展開。

 俺の体が透け透けになっていく。

 ちょっと待って、何も詳しい話を聞いてないんだけどと伝えようとしたが、声がどうにも届かない。

 

 「あ、いっけない。能力忘れてた。まあ、言葉とかは頭がパーにならなければ大丈夫だし。あとはエリスに任せれば……」

 

 

 

 

 

 気づけば森の中に立っていた。

 ここが異世界……。

 

 とりあえず何したらいいんですか、誰か教えてください。

 

 

 

 

 

 --1

 

 「夏芽 薺さん……。ようこそ、死後の世界へ。私は、あなたに新たな道を示す女神、エリス」

 

 白亜の神殿、その一角で俺は目覚めた。

 目の前には白銀の髪と透き通るような白い肌が目を引く美しい女性が、胸の前で両手を組みながら気遣わしげに俺を見つめていた。

 

 そうだ、俺は死んだのだ。

 死因は鮮明に覚えている。

 舌を噛み千切りながら鋭利な枝で腹と首を掻っ捌き、太めの枝で眼球から脳までを一直線に貫いてのダイナミック自殺。

 自分でも惚れ惚れとするような死に様だったと思う。

 いや、意味もなく死んだわけでは無くて、ちゃんとした理由があるわけで。

 

 あれは森に投げ出されて三日目の事。

 空腹を木の実や川の水で癒しながら、なんとか生き残ろうと頑張った頃に出会ったオークが原因だった。

 オークと言えば姫騎士が「くっ、殺せ!」という程の凶暴な生き物だが、この世界のオークはメスしかいないらしかった。

 俺の知ってる特徴のまま精力抜群、怪力乱神、傾国の不細工。

 そいつらが、俺を狙ってきたのだ。

 ちなみに逃げれば逃げるほどメスオークが増えるクソゲー、しかも聞こえるのは「オスメス合わせて百匹生まれるまで○○○させるわ、ダーリン! そのあとも海の見える家で四六時中いちゃいちゃしましょう!」などという地獄の怨嗟。

 逃走を続けたが、逃げ道が無くなったので自殺を選んだというオチだ。

 

 ダイナミックに死んだ理由は、ポテチの駄女神様が剣と魔法のファンタジーな異世界と言っていたので、万が一にでも回復魔法的なモノや薬で再生させられないようにするためだ。

 そういうわけで、生命と尊厳の危機を感じたので自殺したという、矛盾しすぎて一周して逆に自然な感じで自殺することと相成った。

 

 美しさの権化である女神エリス様が頭を抱えていた。

 さらさらと流れる御髪がきらきらと幻想的に輝いてた。

 エリス様いわく、スナック女神こと『アクア先輩』のちょっとしたミスで色々と設定が足りてなかったので、もう一回やり直させてくれるらしい。

 有り難いことである。

 ただ……

 

「出来ればでいいのですが、次はもっと簡単な場所で始めさせてくれると……」

 

 美しい女神様に注文を付けるのは心苦しいのだが、やはりセルフブレインシェイク(物理)はマジきっつい。

 

「ごめんなさいごめんなさい! 次は絶対に大丈夫ですから!」

 

 物腰穏やかそうなエリス様が頭を必死に何度も下げてくれた。

 あまりに必死過ぎてロックバンドのヘッドバンギングに見えてきそうだ。

 

 

 

 ―― 異世界の生き方 ――

 

 そのいち! 『自分だけの特殊な能力を手に入れよう!』

 

 地球から異世界に行く人はオリジナリティ溢れる特殊な能力を持って行けるらしい。

 片腕にサイコガンを取り付け、「だがもう無くなった!」とやってヒュー!と言われるのも自由。

 「倒してしまって構わんのだろう?」とカッコつけて帰らぬ人となるのも自由。

 「もうヤダ、この国」と文句を言いながら世界を滅ぼす兵器を作るのも自由。

 聞けば聞くほどなんでも有りの様だ。

 

 ただ、エリス様としてはあまり変なものを持ちこまれると困るらしい。

 特に、死後も残る武器防具は駄目って訳でもないが、おススメしたくないとか。

 持ち主の死後も悪用されたりするのだろうか。

 女神様を困らせるのは本意ではないので、そこら辺は調整が効くやつにしようかなと思ったり思わなかったり。

 

 とりあえずエリス様と二人で、能力を考える。

 過去にあった案を目録として見せてくれたので参考にしつつ、利便性があって、死後に影響しないもの。

 ……。

 ……死後に影響しない物はおそらく難しいので省略。

 

 『言霊を操る程度の能力』的な感じにすることにした。

 次点は『ゴミを木に変える能力』だった。

 エリス様おススメは『うどんを上手に茹でる木の棒』か『野菜を上手く収穫する軍手』だった。

 影響のない物を考慮したとはいえ、ホントにエリス様が俺のことを考えてくれているのか心配になりつつ、能力の調整へと進める。

 

 

 

 そのに! 『自分だけの特殊な能力を調整しよう!』

 

 言霊をそのまま操ると、全く喋れなくなるし、文字も書けなくなるという大きな欠点が、過去にあったらしいので、色々と調整して使いやすい能力にする。

 なぜ言葉に纏わる能力を選んだかという理由だが、俺の頭がそれほど良くないのでそれほど大きな影響は出ないだろうというものだ。

 頭が良いわけでもないので語彙が足りないし、言葉の意味もあまりわかっていないので、勝手にブレーキが効くだろうとも。

 

 まず異世界の言語で発動しないようにロックをかけ、能力が地球の言語に対応するように設定。

 次いで、発声しての発動は五秒以内でひらがなカナ漢字英数字含めて三文字まで。

 もちろん俺が意味を理解していないと発動しない。

 「凍れ」「燃えろ」みたいな単語を呟く中二スキルに昇華されてしまったが、想像力と魔力で云々らしいのでかなり抑え目になるという話だ。

 

 さらに、俺が書いた文字の影響だが、書いたひらがなカナ漢字英数字の影響を物質諸々に与えるという物になった。

 五文字制限で俺が知っていて意味のある単語や熟語のみが効果を発揮する。

 コップや湯飲み、皿などに「美味」とでも書いておけば、何時でも美味い物が飲み食いできるという万能な能力という空気がそこら中に迸っている。

 

 最後に、言語や文字によって効果を発揮させる始動キーとして、魔力を流すことを設定して終了。

 

 

 

 そのさん! 『自分だけの特殊な能力を使おう!』

 

 エリス様の空間だと発声系はロックがかかっている状態であり、異世界に行かないと試すことは出来ないようだ。

 メモ帳と羽ペンを渡されたので、とりあえず文字のほうを試してみよう。

 胸の前で両手を合わせ、祈るような姿勢のエリス様が可愛かったので、文字を書かずにずっとその様を見てたら、「ふざけたら駄目ですよ」とちょっと怒られた。

 それも可愛い。

 大天使か。

 あ、女神だった。

 

 もう一回祈るエリス様が見たい。

 邪な使い方だが、俺の能力ならいけるはず……!

 もう一回的な意味の単語……『RETRY』とか?

 

 書いて、自分に貼ってみる。

 記憶が甦るのか、タイムリープするのか。

 男は度胸ってね!

 

 

 

 

 

 気づけば森の中に立っていた。

 遠くにはメスオークの集団……。

 

 ひょ、ひょえー!( 'ω')

 

 

 

 俺が何したっていうんですか! 誰か助けてください!

 

 

 

 

 

 半泣きになりながら、震える手で拾った枝を構える。

 視界の端には青を通り越して白くなった顔色のオークが倒れている。

 油断して近づいてきたオークに枝で『苦痛』とほんのり痕が残るよう刻んだら、泡吹いて倒れた。

 それを見ていた他のメスオークどもは、近づくのを警戒している。

 

 膠着状態だが、俺の方が圧倒的に不利である。

 全員で飛び掛かられたら敗北が確定する。

 エリス様から貰ったメモ帳と羽ペンをこんなところで使いたくないと枝を構えているが、そんな場合でもない。

 『無敵』とか『高速』って紙に書いて自分に貼って逃げるべきではないだろうか。

 

 そんな俺の悩みを野生の察知能力とでも、乙女の勘とでもいうのか、オークが一斉に突撃してきた。

 その圧巻な様子と恐怖により、ペンを落してしまった。

 

 くっ、殺せ……!

 

「「はやくきて~はやくきて~」と泣き叫んでいる男のために俺はとんずらを使って普通ならまだ付かない時間でこーまの里kらきょうきょ参戦」

 

 眩いばかりに白く輝く鎧を身に付けた白髪の戦士が、襲い掛かってきたメスオークの集団を一蹴した。

 そして戦士は腰の抜けた俺を庇うように立った。

 先陣を切っていた数体のオークは真っ二つになり、唸り声と血しぶきを上げながら転がっている。

 

 「ナイトのおかげだもう勝負ついてるから。……おいィ? お前らは今の言葉聞こえたか?」

 

 そう戦士がオークに言い放ち、持っていた剣を地面に突き刺した。

 地面が爆ぜ、巻き上げられた泥とともに真っ二つに切り捨てられていた死骸が茫然としていたオークの集団に降りかかる。

 悲鳴と地鳴りを響かせ、オークが森へと消えて行った。

 

 「Burontさnなrなんだって守ってしまうまがないと。だろォう?」

 

 太陽に照らされた輝く戦士が俺に笑みを浮かべた。

 おとぎ話に出てくる騎士のように荘厳で、そして強かった。

 

 そんな彼を見た俺は「エリス様、異世界の言葉が上手く理解できません」と内心で悲鳴を挙げた。

 

 

 

 

 

――

 

オリ主

地球ではマジで貧乏すぎてヤバかったが死んだのでノーカン。

幸運は5くらい。

「意味を与える程度の能力」を持って異世界に参戦。

意味を正しく理解せず、ふわっとしたまま使うと危険な能力である。

『苦痛』と刻むとオリ主に降りかかった不幸や痛みを体験できる必殺技持ち。 

くっ殺枠。

 

ブロントさん

紅魔族として転生した地球人。

「ブロントさん」までが名前。

優秀な学生だったが魔法は初級を取っただけで卒業し、在学中に得たスキルポイントは戦士系に全振りした。

 

――

 

 

 

 

 

1-2

 

 「我が名はぶっころりー。紅魔族随一の靴屋のせがれ。アークウィザードにして、上級魔法を操る者……!」

 

 「バカが移るもういいからバカは黙ってろ。ナズーりん、おmえも異常な超状現状が移ってあrから注意そろ」

 

 この世界の住人である紅魔族のぶっころりー(?)とかいうのとぶろんとさんの二人を見て、内心で真剣にエリス様に祈る。

 エリス様、僕の言語は大丈夫ですよね!?

 ホントに大丈夫なんですよね!?

 

 

 

 

 

 ―― こ の す ば ! ――

 

 

 

 

 

 

 俺がブロントさんさん(『ブロントさん』までが名前らしい)に保護され、訪れたのは紅魔族の里。

 ここの住人はみんな目が赤く、独特の名乗り文句を持っているらしい。

 自己紹介を受けた感じだと、大体全員がなんらかで随一だとか唯一だとか特別なようだ。

 前口上は、その……げ、元気があっていいと思うよ?

 この里の特徴として、住人の誰もが魔法適正が高いため、上級魔法を操るジョブに就けるらしい。

 俺は他の場所を知らないし、この世界の常識も著しく欠如しているのでわからないのだが、多分すごいことなのだろう。

 この里ではレベル1で上級魔法を操って一人前みたいな話を教えて貰ったし。

 

 そんな魔法職が跋扈する里でのブロントさんさんはかなり可笑しいらしい。

 まあ魔法適性が無茶苦茶高い生まれなのに、前衛職に努力を極振りだという話だから、里の常識とはズレているのかもしれない。

 俺としてはかっこよかったし、変だとも思わない。

 言葉がもう少しわかりやすいと有り難いのだけど。

 

 地球という遠い場所の日本という国からなんかよくわからないけど飛ばされて来たと説明すると、紅魔族の方々は転移魔法の失敗によるものではないかと推測を立ててくれた。

 ブロントさんさんは聞いたことのある懐かしい響きだ、と遠い目をしながら呟くのみだった。

 まあ、ブロントさんさんの呟きを解読するのに紅魔族の同期とやら五人と一緒にあーだこーだ相談して五分で導き出せたのだが。

 同期に聞くと、ブロントさんさんは生まれも育ちも紅魔族だが、幼少から言葉がおかしい以外は聡明だったらしい。

 転生者だろうかと伺うと、ブロントさんさんはなんだか懐かしいと返答するのみだった。

 ちなみにこの返答も解読に(以下略

 

 

 

 

 

 --2

 

 「わ、我が名はゆんゆん。や、やがて紅魔族の長に……なる者……です」

 

 ゆったりとした黒いローブを纏い、黒髪をリボンで結んだ少女が挨拶してくれた。

 紅魔族の人たちに挨拶したら五回くらいでこの仕様にも慣れたので、俺もきちんと返す。

 

「ご丁寧にどうも。我が名はナズナ、文字を操る者にして彼方からの来訪者です」

 

 族長宅前でゆんゆんと挨拶していたら、最初に挨拶してくれたが俺が上手く対応できなかったために変な空気になってしまったぶっころりーやねりまきが、悔しそうにこっちを見てた。

 やっぱこの挨拶、重要なのか。

 むしろこの世界の常識の可能性がある……?

 

「その、外の人なのに笑わないんですか?」

 

「え、笑うとこだった?」

 

「いえ、そんなことない……と思います……」

 

 伏し目がちなゆんゆんがたどたどしく返事する。

 あんまり歳が変わらないから大丈夫かと思ったが、高校生くらいの男を相手に、高学年の小学生から低学年の中学生くらいの娘が話すのは難しいか。

 なぜゆんゆんと挨拶しているのかという話だが、ブロントさんさんに「外から来て行く宛が無いなら族長に世話になっとけ」的なことを言われ、放り込まれたためだ。

 挨拶した族長夫妻も独特の口上を持っており、格好も包帯とか巻いて、オリジナル性の高いファッションをしていた。

 族長夫妻は折角だからゆんゆんと里を周ってくるようにと無茶振りしてくれたので、この状態と相成った。

 

 「えっと、い、行きましょう」

 

 「そうだね。案内を頼むよ」

 

 

 

 

 

 俺はこの世界への覚悟が足りなかったらしい。

 紅魔族の里を周り、己の見通しの甘さに戦慄すらした。

 

 以下、音声でお楽しみください。

 

 

 

 

 

 「あの、あれが里の御神体です……」

 

 「猫耳スク水萌えフィギュアだと……!?」

 

 

 ――

 

 

 「あっちに魔神の丘が」

 

 「魔神!?」

 

 「そっちに邪神の墓が」

 

 「墓!?」

 

 「実は里の外から持ってきたらしいんです! ごめんなさい!」

 

 「外から? わざわざ此処に? えぇー……」

 

 

 ――

 

 

 「観光スポットの、伝説の剣、です」

 

 「挑戦料はあちらって看板があるんですがそれは」

 

 「一万人目に抜けるとか……」

 

 「抜ける人数が決まっている伝説とは一体……」

 

 

 

 ――

 

 

 「あの、謎施設です」

 

 「謎施設?」

 

 「謎施設。謎だけどそれがいいから残しておこう、ってことであるとか」

 

 「もうわけわかんないつらい」

 

 「ごめんなさい! わけわからないものばかりでごめんなさい!」

 

 

 ――

 

 

 その後はゆんゆんが通っている学校に寄ってゆんゆんの同級生に「ゆんゆんがめぐみん以外と喋ってる!」「マジで!?」とか言われたり、ぶっころりーマジニートを見たり、大衆浴場の場所を教えて貰い、里の商業区へ。

 ひょいざぶろーという職人が作っている『魔力を外に出せない装備シリーズ』に興味が湧いた。

 なぜ魔法使いばかりの里でこんなニッチなものを作ったのかとか。

 

 喫茶店に向かうとブロントさんさんが遅い昼ごはんを食べていた。

 そこから紅魔族の名物を奢ってくれることになった。

 『暗黒魔界のサラダ』とか『魔神に捧げられし子羊のサンドイッチ』とか『我々は闇』とか『蒼海の輪舞曲』とかいろいろ食べた。

 もう何も気にせずに味わうことにする。

 普通に美味いから悔しい。

 なんだかよくわからない料理名を店員が告げる度、ゆんゆんとブロントさんさんが辟易としていた。

 この二人は紅魔族の感覚からズレてるらしい。

 それが常識なのか異常なのかわからんけど。

 

 ブロントさんさんはぶっころりーと違ってニートじゃないようだ。

 冒険者として採取したり討伐したり、活動しているとか。

 ぶっころりーたちニートは魔王軍に手を出して遊んだりするが、ブロントさんさんは里に有益な活動をしているらしい。

 魔王軍で遊ぶとか紅魔族って物騒すぎやしないか……。

 

 

 

 ブロントさんさんと別れ、里の中央にある族長宅へゆんゆんと戻る。

 道すがら「ぼっちのゆんゆんがひょいざぶろーさんとこのめぐみん以外と歩いているだと……!?」と驚かれた。

 ゆんゆんの扱い……。

 ゆんゆんに精一杯優しくしようと思った。

 

 族長宅で夕飯を頂きながら談笑。

 今日の散策でゆんゆんとも仲が良くなった……と思いたい。

 ゆんゆんは引っ込み思案なところがあって、両親も心配しているようだ。

 

 お世話になっていて図々しいのだが、何か仕事を紹介してほしいと頼んでみる。

 特技とか聞かれたので、雑紙を貰って羽ペンで『氷』と書き、湯飲みに貼ってみる。

 うおっ、マジで凍った。

 俺すげー。

 族長一家も驚いていた。

 こんなすぐに結果が出るとは思わなかったので俺も驚いた。

 ただ、魔力を使ったために僅かに何かが抜けたのを感じる。

 

 驚きも収まった頃、族長が真剣な顔で口を開いた。

 

 「ナズナくん、君は今日から金色の文字使いと名乗「それ以上はいけない」

 

 世界が違うんです。

 

 

 

 

 

 --3

 

 俺の能力は日本語を書けば何らかの結果が出るが、どの程度の影響が出るのか把握できていない。

 流石にそんなガバガバ能力をメインに仕事させられないということで、俺を拾った義務があるので面倒を見てくれるというブロントさんさんと仕事することになった。

 採取や狩猟、収穫などの仕事を予定しているらしいが、まずは俺がどのくらい出来るのかという問題が出た。

 そもそもレベルや職業が不明である。

 

 冒険者カードを作る許可を族長に貰い、学校まで向かう。

 学校の校庭では体術系の授業を行っているのか、ゆんゆんがロリ娘に泣かされていた。

 ゆんゆん……。

 ブロントさんさんが紅魔族の里の日常茶飯事だと教えてくれた。

 あれがゆんゆんの日常なのか、彼女の将来が不安になってきたんですけど。

 

 冒険者カードを発行し、準備完了。

 ステータスを確認するが、よくわからん。

 全体的に高いらしいが、特徴的なのは幸運が低いくらいだろうか。

 器用度だけ上級職並みらしいが、職人とかが重要な数値らしい。

 うーん……まあ、微妙。

 

 あとは職業が選べるらしい。

 職業によって能力に補助がかかるので、自分の目的に沿った職業になるのが望ましいとか。

 文字を刻める系がいいのだが、そもそも魔法を使う必要がないことに気付いた。

 書道家とかないだろうか……いや、あっても文字が綺麗になるだけだから無意味か。

 もう面倒だから付加効果を与えるエンチャンターでいいや。

 補助特化型の職業らしいが、意外と良さそうだし。

 

 

 

 さて、スキルポイントも振り終わったので、文字を紙に書いてどんな効果が得られるかを検証していくことにする。

 スキルは魔力操作や付加、制御などに振っておいた。

 紙に色々と書き、発動を繰り返す。

 試行錯誤の能力検証は困難をそれほど極めなかったが、ぶっころりーにダメージが降りかかった。

 

 文字は俺のイメージによって効果が強化されるようで、知らない魔法などの名前を書いても全く意味が無い。

 代わりによく知っていればかなりの効果を得られるようだ、もしかするとイメージが固定されているほどボーナスがあるのかもしれない。

 台風をイメージして『回転』と紙に書いて魔力をほどほどに込め、ぶっころりーの進路に設置。

 ぶっころりーは強風で巻き上げられたが、魔法で帰ってきた。

 紅魔族じゃなかったら死んでいたかもしれないらしい、紅魔族ってすげー。

 

 紙に『ファイア』などを書いて魔法として使う場合、どれだけ理解できるかで威力や魔力消費が変わるようだ。

 一回だけチラッと見た魔法をなんとか再現しようとするとごっそりと無駄に魔力を無くすが、魔法をよく知っていて、イメージしやすい現象などとすり合わせることができれば低燃費で高いクオリティを実現できるようだ。

 『筋力増加』や『怪力』などもやはりイメージ次第だ。

 寝る前とか瞑想したり、想像力を豊かにするトレーニングを行ったらいいのかもしれない。

 絵本を読むとか、絵を描くとかしたらいいのかも。

 あとは慣れも必要だろう。

 やはり魔力を使うのは違和感があるし、文字が現象となったり、意味を与えるのには実感が湧かない。

 

 魔力で文字を描いても効果はあるのだが、ペンなどできちんと文字にした物よりは大きく劣化する。

 文字が薄いからだとか形が悪いからとか考えられる。

 練習したら変わるかもしれない。

 

 

 

 思った以上に俺も働けそうだとブロントさんさんにお墨付きをもらったので、午後からは仕事を始める。

 今日の仕事は荒ぶるカボチャの収穫らしい。

 活きがいいカボチャは収穫時期になると全力で暴れて逃走するので、捕らえて収獲する必要があると言う話だ。

 カボチャが逃げるってなんだよ(真顔)

 

 困惑しながら畑に行くと、マジでカボチャにボコられた。

 野菜の逃亡は紅魔族の里だけでなく世界中で当たり前のように起きるらしい。

 逃げた野菜は人に見つからない場所でひっそりと枯れ果てるので、頑張って収獲しようという話だ。

 なんだこの世界……。

 

 ブロントさんさんが盾となって収獲を手伝ってくれるが、それでも作業は遅々として進まない。

 ボコボコとぶつかってくるし、青あざだらけだ。

 しかもこのカボチャどもは集団で同じ場所を狙う小賢しさも持っているようだった。

 執拗にボディを狙われ、さすがの俺も激おこである。

 言葉を駆使して石を加工し、スタンプ化させる。

 そしてインクを貰ってきて、片っ端からカボチャにスタンプし、プルプルと震えるだけで動けないカボチャを収穫していく。

 ほとんどを収穫し終え、溜飲がちょっとだけ下がった。

 

 ちなみにスタンプにした文字は『俎上之鯉』である。

 カボチャなのにコイとは一体……。

 まあ、熟語だからセフセフ。

 ぶっころりーで試したが、インク程度では効果が相手の対魔力を上回らずにレジストされるようだった。

 スタンプを使うならもっと魔力が豊富に溶けたインクを作る必要があるだろう。

 

 

 

 野菜を傷つけず非常に綺麗に収獲が上手くいったというお礼にカボチャを幾つも貰い、夕飯に食べたが上手かった。

 ぴちぴちだった、カボチャが。

 食卓から切り身が逃げそうだった、カボチャの。

 しかもレベルアップした、カボチャで。

 

 ……活きのいいカボチャとかカボチャの活け作りとか逃げるカボチャとか、いみわからなすぎるんですがそれは。

 

 

 

――

 

オリ主

職業はエンチャンター。

紅魔族の里に現れた転移漂流者。

数日で里に馴染みつつあり、紅魔族の変わり者であるブロントさんやゆんゆんと交流を深め、ぶっころりーで能力を試している。

初仕事の後から「紅魔族一の野菜取り名人のなずーりん」と呼ばれ、頭を抱えている。

そもそも紅魔族ではない。

 

――

 

 

 

 

 

 

1-3

 

 

「我が名はこめっこ! 家の留守を預かる者にして紅魔族随一の魔性の妹!」

 

 ブロントさんさんと狩りに行った帰り、喫茶店で駄弁ってたら黒猫を抱いている幼女に絡まれた。

 俺の運の低さのせいなのか、モンスターによる「!!ああっと!!」奇襲が多かったので疲れ切っているところにこれである。

 里周辺では珍しいモンスターや強いモンスターが大挙して押し寄せるので、稼ぎは良いが気力と体力がかなり削られた。

 

「もうみっかもたべものをくちにしてないんです」

 

「うーん、肌艶を見た感じだと定期的に食べられているようだ。今日も朝食べてるようだね。顎周りはちょっと弱いから固い物を食べる機会が少ないのかな」

 

「……食べました。ごめんなさい」

 

 ただ、絶食時間は六時間前後くらいだろう。

 幼いこめっこにそれはキツいはずだ。

 貧乏ってつらい、俺もしんどかった。

 異世界来てからご飯事情が安定するってなんでなんだ。

 

 「謝らなくてもいいんだけどね。そうだ、俺と友達になってくれるかな?」

 

 「友だち?」

 

 首を傾げるこめっこに頷く。

 

 「そう、友達。まだこの里に来たばっかりで知り合いがいなくて寂しいんだ。一緒にご飯を食べてくれる友達がいてくれると嬉しいなあって」

 

 「友だち! いいの!? あ、でも……」

 

 ほわぁぁぁと表情が明るくなったこめっこだが、何かを思い出したのか、一転して曇った。

 

 「知らない男の人が優しくしてくれたらロリコンだから逃げなさいって」

 

 「身内ばかりが集まってる狭い里で誰が言ったんだよそれ……」

 

 「随一の靴屋のせがれのぶっころりー」

 

 あのクソニート……!

 

 

 

 

 

 ―― こ の す ば ! ――

 

 

 

 

 

 

 ―― あらすじ いせかい で こめっこ が ボンビー フレンズ に なったぞ !

 

 『神魔界大戦』を嬉しそうに頬張っているこめっこを眺めながら、果実水である『燦々日光午睡宮酒池肉林』を飲む。

 シャワシャワしたネロイドという飲み物もあるが、あんまり好きじゃなかった。

 なんというか、炭酸ではなくシャワシャワしているし、ネロイドとかいう謎物質が怖かった。

 ネロイド、それは路地裏にいたり、ペットとして買われてたり、飲み物のシャワシャワになっていたりするのだ。

 いみわかんないこわい。

 

「……食べる?」

 

 『神魔界大戦』を頬張っていたこめっこが、ジッと見つめたあと、こちらに食べるか問いかけてきた。

 いや、もう食べたから大丈夫だと告げると嬉しそうにまた頬張り出した。

 

「こめっこ、ぶっころりーって他に何か言ってたかな?」

 

 もぐもぐと『神魔界大戦』を咀嚼し、『断罪サレシ滅びの丘』で流し込んだこめっこが思案する。

 ブロントさんさんは複雑な顔で『メジェド神』を食べていた。

 

「昼から喫茶店にいる二人はニートだからご飯貰えるって言われた」

 

「おれRAがneetだとあいつらはイケる死かばねで一生DEATHにちがいにいんですけお」

 

 流石のブロントさんさんもぶっころりーと一緒は嫌だったようだ。

 あんな非生産的な奴らと比べるな、と主張している。

 

「???」

 

 こめっこが首を傾げていた。

 ああ、そうか。

 ブロントさんさんの言葉は少し難しいので、幼いこめっこには厳しいのか。

 

「俺らがニートだすると、ぶっころりーたちは何もしてないってことになってしまうんだ。そうなると、ぶっころりーたちは生きてるのに死んでるような、そんな意味のないアンデッドなんですよってブロントさんさんは言ってるんだよ」

 

「んー? よくわかるね?」

 

「紅魔族の喋りよりは遥かに理解できるんだ」

 

 そのときの俺は真顔だったに違いない。

 

「常識があたりまえnなるのは当然のともしび」

 

 ほら、したり顔でブロントさんさんもこう言ってるし。

 

 

 

 

 

 ボンビーフレンドのこめっこに、またご飯をご馳走する約束を結んだ。

 

 だからその黒猫を食べようとするのはやめてあげて!

 御神体が猫耳スク水の里なのに猫を食べるのはマジやめて!

 俺は兎と猫が好きなんだ!

 

 

 

 

 

 --1

 

 んじゃいくよ

 

 俺、夏芽薺(`ェ´)ピャー

 

「ブロントさんさんマジ助けて。あいつ魔法耐性高いし、紙も飲み込むから文字効かないんですけど。ちょ、マジむーりぃ。なんかでかくなったぁ……」

 

 現在、ミスリルスライムに追いかけられています。

 

「なzeなずーと狩りったらkoんなレアもんとであうってばあいだよ! 流石のオレオ鬼んなるオレオレオ!」

 

 俺へと触手を伸ばしてきていたミスリルスライムを、ブロントさんさんがグラットンソードで切り裂く。

 擦過音と金属音が混ざった不快な音が鳴り響き、ミスリルスライムの破片が飛び散る。

 が、散らばった破片がぐねぐねと動き、本体と混ざり合った。

 え、再生持ちとかずるくない?

 

「いまのところがまんしてるけどオレオグラットンじゃたおしきれにい!」

 

 ブロントさんさんがミスリルスライムへと力強く踏込み、高速で斬撃を浴びせる。

 切り取った破片が飛び散るが、物理の効き目が薄いのか、再生を繰り返している。

 魔法に強く、物理も再生して耐えるとか無敵生物か何かか。

 

「弱点とかない?」

 

「ぶちゅり:つおい まほー:つおい さi生:たかい もうこの冒険はしゅーりょうですne!」

 

 異世界のスライム強すぎて(`ェ´)ピャー

 

「凍結させるから片っ端から砕くとか、どう?」

 

「おmえ、あの巨体オールやれんの? そしたら完全無欠うぃザードniなるが」

 

 無理です☆

 

 

 

 もうどっか谷底とかに誘導して捨てるしか……あ!

 

「攻略法がわかったよブロントさんさん!」

 

「mjd? デカシタ!」

 

「まず俺の上着に『転移』って書きます」

 

「hai!」

 

 鮮烈な攻めを繰り広げながらブロントさんさんが律儀に返事してくれる。

 その横を通って身を任せる。

 

「捕食されます」

 

「ファッ!?」

 

 触手に捕まるので、ついでに「くっ、殺せ!」も言っておく。

 あ、予想より締め付け強……いててててて。

 折れた。

 これ絶対折れた。

 オレオレオだよ。

 痛すぎて「くっ、あばらが三本イっちまった……」とか言ってる余裕もない。

 

「で、『転移』を発動」

 

 イメージは周りだけを転移する感じで。

 残ったのは水音を響かせながら倒れた俺と乱れた息を整えるブロントさんさん、ミスリルスライムの破片のみである。

 ちなみに魔力がからっけつなので俺は倒れた。

 

「なずー、おmえ……」

 

「俺の凄さがわかってしまった感じ? わかったなら何故か上半身が物凄く痛いので優しく運んでくださいお願いします!」

 

「革ぜんぶトれてる」

 

「(`ェ´)ピャー」

 

 なんか温くてびちゃびちゃで痛いと思ったわ。

 服と上半身の表皮、いくらかの血肉ごとミスリルスライムを転移させたらしい。

 うわグロ。

 

 

 

 

 

 --2

 

 表皮消失事件によって精神が疲れたので、数日はぶっころりーになることにした。

 表皮が消失した原因は上着から沁みたインクが、表皮にも届いて、文字を成していたからだと思う。

 

 血だらけでブロントさんさんに背負われている俺を見たゆんゆんが気絶したのもいい思い出である。

 俺のせいなのか知らないが、今の紅魔族では血を流しながら里に帰還することがブームになったらしい。

 遊びに行ったぶっころりーも血糊をかぶって帰ってきた。

 

 怪我の功名とでも言えるのか、里で治療してもらった時に回復魔法を見たので、文字や言葉で回復魔法を再現できるようになった。

 もちろん効果は劣化しているので過信は禁物。

 もっと凄まじい回復魔法を見たら、イメージがそれに引っ張られて効果が高まるかもしれない。

 

 ミスリルスライムの破片で纏まったお金ができたので、装備を整える。

 というか、こめっこによってピーキーな職人ひょいざぶろーの作品を買わされてしまったというのが真実である。

 紅魔族随一の魔性の妹は伊達じゃない……!

 ちなみに買ったのは真っ黒なフルフェイス型の兜だ。

 甲冑もなく、兜だけというのがポイントだろうか。

 西洋甲冑の兜に酷似したデザインであり、スリット部分は横一文字で細く開いていて、米神部分で稲妻のようにぎざぎざになっている。

 かっこいいのかもしれないが、手元にあるのは兜だけである。

 俺の現在の格好は紅魔族が着ている黒いローブとファンタジーな軽装のみなので、兜をかぶると……紅魔族からちょっとだけ受けがいいというお察しの状態になる。

 

 この兜だが、声や魔力を外界と遮断して外に伝達出来ないので、かぶると魔法が使えないし会話もできない。

 とんだポンコツである。

 スリット部分が怪しく赤く発光するのと、喋った言葉が「……Ar……!!!」や「■■■ー!!!」と獣の鳴き声のような音に変換される謎仕様。

 

 なぜ俺はこんなものを買ってしまったんだ……^q^

 

 

 

 

 

 ゆんゆんを学校に送る。

 

「紅魔族一の野菜取り名人のなずーりんじゃないか!」

 

「ナズナです」

 

「紅魔族の傷の男、なずーりんじゃないか!」

 

「ナズナだよ」

 

「鎧の男のなずーりん!」

 

「ナズナだってば」

 

 

 

「あの、ナズナさん。ここで大丈夫です。行ってきますね」

 

「ゆんゆんマジ女神」

 

「ふわっ!?」

 

 道中で紅魔族の人々に変なあだ名を連呼されたダメージをゆんゆんに癒されてから、相棒のブロントさんとボンビーフレンドのこめっこと合流。

 喫茶店へと流れる。

 ミスリルスライムとの決戦(小声)で友情に芽生えた俺とブロントさんは名前で呼び合うようになった(目逸らし)

 今日は能力の干渉範囲を調べる実験だ。

 

 まず単語や熟語などは隣接していれば効果を発揮するが、文字同士がどれくらい離れると効果が薄れるのかを調べる。

 入念な検証の結果、文字と文字の距離は最初の一文字分まで離すことができるようだ。

 次いで頭文字が基準となることがわかった。

 

 「そう、すべては頭文字に支配「族長は帰ってください」

 

 見廻っていた族長は去っていった。

 文字の大小や清濁などは効果に依存していないようだが、やはりイメージが強まりやすいので、大きく濃く綺麗に書いた方が気持ち効果が発揮されやすい。

 また込めた魔力の分だけ威力が上昇することもわかった。

 さらに、頭文字は次に書き足した二文字目以降に引っ張られるらしく、『焼肉定食』と縦に書き、『焼』の横に続けて『きそば』と書いても、『断末魔の晩餐』が『焼肉定食』の味になるだけで『焼きそば』の味にはならなかった。

 

 ※実験した食べ物は、後でスタッフ(こめっこ)が完食しております。

 

 

 

 実験が終わったら喫茶店の一角を占領して、文字を利用してぬいぐるみ劇を行う。

 雑布で繕った布で作ったクロ(仮)や悪のぶっころりー、魔性のこめっこ、ナイトブロントさんなどのぬいぐるみを、日本語の言葉とともに動かすのだ。

 ぬいぐるみたちには動作ひとつひとつの細かい動きをその都度、魔力で刻んだ文字でエンチャントする。

 さらに効果音や演出を日本語で生み出すことで、まるでCGを使った映画のように贅沢な劇に仕上がるのだ。

 俺の能力によって喫茶店の一角は黄金劇場と化した……!

 

 能力の練習とはいったい……。

 

 

 

 そんな感じで劇やTRPGをやって遊んでいると、ゆんゆんとロリっ娘であるめぐみんが喫茶店に入ってきた。

 今日でちょうどTRPGのセッションが終わったのだが、結果はラスボスの上級悪魔がこめっこに恐怖し、側近が弱体化して排除されていくという謎エンドだった。

 ゆんゆんとめぐみんが俺らと同じ席に着き、注文を始めた。

 どうやら昼を食べられなかったので、間食して帰る予定の様だ。

 めぐみんが喫茶店で寄り道だと……!?と驚愕したが、ゆんゆんの奢りらしい。

 焦って損した。

 

 

 

 夕方まで駄弁った後、帰宅。

 ブロントさんが途中までめぐみんとこめっこを送るので、変質者ぶっころりーが出ても安心。

 「ブロントさんさんが居れば、例え魔王軍の幹部が現れたとしても全然問題ないですね!」とめぐみんが無駄なフラグを立てていたが、どうせ何も無いんだろう知ってるしってる。

 

 夕食を族長一家とともに和気あいあいと食べ、寝る前にゆんゆんの一日の話を「うんうん」と聞く。

 魔境である紅魔族の里では、ゆんゆんの普通の話は数少ない癒しなので、聞くだけで穏やかな気分になる。

 そして、借りている自室で、また財布おとした^q^と地味なミスにショックを受けながら就寝。

 

 

 

 あれ、俺ってリアル充実しすぎじゃね?

 もう毎日こんな感じの生活がいいです。

 穏やかで楽しくおかしく過ごしたいです。

 ちなみにおかしくって部分は紅魔族全体ですが、それは我慢します。

 なのでお願いしますエリスさま!

 

 

 

――

 

なずーりん

『紅魔族一の野菜取り名人』にして『紅魔族の傷の男』、『鎧の男』などの名を持つ紅魔族期待のホープ。

Tシャツとジーンズでフルフェイスの西洋兜をかぶったファンキーなスタイルで里を歩いたため、里随一のオサレと評されている。

幸運が低いので結構な頻度で財布を落とす。

最近では族長宅に生活費などを入れたら、残りを預かってもらうことにしているらしい。

 

――

 

 

 

 

 

 

1-4

 

 

「ブロントさん見てよ、この籠手。鈍い黒に輝いてて立派っしょ。いやぁ、高かったけど買ってよかったわ。後衛職だけどやっぱ文字を書いたりするし、手って大事だもんね」

 

「おう」

 

「見てよ、籠手を装備したら文字書けねぇの。ははは、ウケる。マジウケる。いやぁ、買ってよかったわ。ちょっと動くだけで手がムレムレ、しかも重い。ははは、幼女の友達に誘導されて買わされるって情けなくね……?」

 

「浅はかさは愚かしい」

 

 友だちってなんだよ(哲学)

 

 

 

 

 

 ―― こ の す ば ! ――

 

 

 

 

 

 

 以前買ったフルフェイスの西洋兜と同じデザインの籠手を買った。

 仕様も同じ。

 魔力が遮断されてるやつ。

 なぜ買ってしまったのか、それは永遠に謎である。

 そもそも魅惑の職人ひょいざぶろーは魔法道具専門らしい。

 つまり態々鎧のパーツにこんな意味不明な効果を付属しているのだ。

 ハイセンスすぎて付いて行けない、里で彼のセンスに付いて行ける者はいないので問題ないけど。

 

 フルフェイスの兜は内部に『索敵』や『気配察知』、『気配遮断』、『軽量化』などを刻むことで、擬似的な盗賊や暗殺者になれることが判明。

 ただし、仲間と意思疎通が取れないのでソロ専用の呪われた装備に近い。

 斥候として被って下見し、仲間と情報を共有する二度手間が一番有用だろうか。

 

 

 

「こっkoにないと」

 

「じゃあこっちにウィザード置くよ」

 

 籠手に刻む文字を考えながら、ブロントさんとボードゲームを進める。

 こっちの世界に適応したチェスの様な物だ。

 駒が特定のスキルや魔法が使えるので、戦略幅は広く、そして……。

 

「お前頭悪ぃなAUO手。おまえナイトさんなめてるとギガトンパンチ食らったら即死で瞬殺される」

 

「テレポート」

 

 テレポートでいきなり王手を引っくり返せるマジ糞ゲー。

 絶妙な位置に湧いて出てきたウィザードによってぐぬぬ顔のブロントさんの駒を、さらにカースメイカーで蹂躙した。

 

「……滓めーかは卑怯ずるい」

 

 勝利の味を噛みしめながら、冒険者カードのスキルチェック。

 この世界に来てふた月も経っていないのに、レベルは15となっていた。

 低レベルだとしても、普通は1年ほどかけてレベルが10になるらしい。

 凄まじい速さで強くなっている、と俺の冒険者カードをブロントさんに見せたが、彼の表情はげんなりとしたものだった。

 

「なずー、もっとおもえの敵をかえりみて」

 

 ブロントさんに、戦ってきたモンスターを思い返してみろよと諭された。

 うーむ。

 

「サンドドラゴンとかドッペルゲンガーにアークデビル、ミスリルスライム、あとグリフォン?」

 

「めったにエンカしなくてマジレアではくぶつかnど真ん中れべばっかじゃねえか。ほtoんど鬼の破壊活動でマジでふざけンなよ。タイマンでっぉぃおreたちも一巻の終わりがおわおわり」

 

 ブロントさんですらほとんど見たことない敵ばかりだったらしい。

 なんとかやってこれているが、そろそろ死ぬ可能性があるとも。

 

「マジごめんなさい。運が無くてすまない……」

 

 話は戻るが、レベル15でとうとう上級職へとジョブチェンジできるステータスを満たした。

 レベル1から上級魔法職の紅魔族を基準に考えなければかなり早いらしい。

 もう紅魔族のせいで常識がガバガバなので意識するのは止めた。

 『エンチャンター』から『カースメイカー』となった冒険者カードで、スキルポイントを割り振っていく。

 『二重詠唱』のツリーから分岐した『多重詠唱』、『高速思考』から分岐した『分割思考』を修得する。

 『高速詠唱』はいらないだろう、普通の魔法使わないし。

 

 『二重詠唱』および『多重詠唱』のスキルは、同時にいくつかの詠唱を発動できるスキルだ。

 その分、思考や時間を割くのであまり使っている人はいないが、俺には重要だ。

 例えば『燃えろ』と『凍れ』を同時に詠唱できるので、発動したら……たぶん特に意味は無い。

 まあ、ぬいぐるみ劇で動かせる数や喋る数が限られてきたので、色々と増やそうとしたらこうなっただけだし。

 

 あとブロントさんの言葉についてわかったことがある。

 どうやらブロントさんの言葉は日本語と異世界語が混ざっているようなのだ。

 文字を書かせると流暢な異世界語で会話できるのだ。

 ただ、直し方はわからない。

 うーん……。

 まあ、不便しないからいいんじゃないだろうか。

 

 

 

 

 --2

 

「DE、なずーなニやってんよ」

 

「いや、籠手にも文字を入れてなんとか使える様にしようかと」

 

「黄金じゃにい鉄の塊は手に負えないほどの力秘めてniiただの鉄ってsr言われてるカラ」

 

 そんな多用しないので、独特な付加効果を持った鉄の塊な籠手になってくれればいいんだけど。

 内部で魔力遮断ということは、無駄に魔力を外に洩らすことが無いということだ。

 循環効率は実を言うと頗る良い。

 籠手は指先が鋭く、五指が別れているガントレットと呼ばれる形状をしており、肘よりも短い位置で手袋のように独立している。

 

 兜も籠手も同様で、内部は魔法金属の布で手を保護し、外部は高硬度の金属で覆われている贅沢仕様。

 この内部の布が魔力伝達を遮断しており、外部は魔法の影響を受ける。

 これはネタ装備ですわ……。

 

 なので籠手の中にある布の内側に『筋力上昇』とか『軽量化』、『芸達者』とでも書いておけば十分なのだ。

 重要なのは外側だ。

 布と金属を分離させ、金属の内側に文字を刻むことで、活躍できるようになる(願望)

 なんか特に文字とか思いつかないので、『搾取』とか『奪取』、『支配』、『武術向上』、『練度最大』など頭の悪そうな言葉を片っ端から刻んでみた。

 

 するとどうだろうか。

 俺が満足するころには、異物と化していた。

 陽光によって単に黒光るだけの籠手だった物が、周囲の魔力を吸い取って黒い靄を纏い、怪しく輝いているではないか。

 さらに時折、脈動のように赤い光が奔る。

 ……なにこれこっわ。

 

 やっちまったZE☆

 

「カン成したか? え、なにそれ。そんなつかっテ訴えられたら色々調べられて人生がゲームオーバーになる」

 

「いや、言い過ぎでしょ」

 

「そのダークパワーっぽいの逆に頭がおかしくなって死にそうだんダガ?」

 

「ないない」

 

 多分。

 

 

 

 

 

 試しに使ってみることにした。

 ヤバかったら紅魔族が取り押さえてくれるだろうと思い、里の近くブロントさんと模擬戦を行った。

 その結果だが、

 

「自分の心に広さが怖いdakaraオレオ神器返してくだしい;;」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 籠手で受け止めたら、神器らしかったグラットンソードを略奪、そして支配してしまった。

 白く清廉だった剣は、今では真っ黒に染まり、時折赤く脈動するように光を発しているのだ。

 流石のブロントさんも物凄く悲しそうな顔をしていた。

 

「これが寝取り……」

 

「ふざきんな、オmエかなぐり捨てnぞ」

 

 ブロントさんに返すと、元の美しく輝く白い剣となった。

 これで戻らなかったらヤバかった。

 マジでブロントさんの目がヤバかった。

 

 

 

 

 木の枝すらもつえーと籠手で遊んでいると、クチバシの付いた爬虫類型のモンスターと出会った。

 まあ、Tueee状態の俺の敵では無いんだけど(ボキボキッみたいな。

 ちなみにボキボキッという音は敵を倒した音でも、木が折れた音でもない。

 俺の腕が折れた音だ。

 おっかしいなぁ。

 やっと異世界で俺Tueeeeeタイムだと思ったんだけど。

 

 そういうことで、能力で無理やり上昇させていた反動か、腕が耐えきれずにぼっきり折れた。

 しかも、同時に二本も。

 なんだこれつっら……。

 

 結局、モンスターはブロントさんの剣で葬られた。

 死骸は残らず黒い煙となって消えたが。

 奇妙なこともあるものだ。

 これも籠手の呪いだろうか、いっそのこと封印しようかな。

 

 ブロントさんに添え木してもらい、常備している雑紙に魔力で『治癒促進』『鎮痛』と文字を焦がし、患部に貼ってもらう。

 あーおちついたー^^

 

 

 

 変なモンスターも出るし、腕折れたし、マジつらい、もう帰る!と帰宅の準備をしていると、モンスターの群れが見えた。

 方角としては魔神の墓があったはずだ。

 嫌な予感がする。

 が、確かめないといけないだろうとブロントさんに兜を装備させてもらうも、索敵範囲外だ。

 もっと効果が上昇していれば……あ、あるじゃん。

 

 E 索敵の兜

 E 呪いの籠手

 みたいな。

 

 籠手の謎強化で兜をバージョンアップ!

 墓の場所にモンスターがうようよと彷徨っていて、その中心には三人ほど反応があった。

 

「ブロントさん! 墓のところに人がまだいる! 早く行こう!」

 

 兜を投げ捨て走り出す俺の隣に、ブロントさんも続く。

 

「なず、omえ知ってるか。気づけば守っていsまうのがナイト」

 

 流石ナイト!

 かっこいい!

 でも両腕が折れた俺も並走してるから、イマイチしまらない!

 

 

 

 

 

 墓が見える位置に辿り着くと、そこには魔法を使うゆんゆんがいた。

 ゆんゆんはめぐみんとこめっこを庇っているようだった。

 空には変なモンスター、地上にはミスリルスライム……ミスリルスライム!?

 

 なんでそうなったん……^q^

 

 

 

 

 

 --3

 

 焦って『疾風』と服に書いてしまった。

 めっちゃ足が速くなった。

 もう勿体ないのでこのまま突撃する。

 

 ブロントさんを置き去りにして、ゆんゆんの元へ辿り着く。

 

「ゆんゆん! 今きたよ!」

 

 ボキボキッと到着。

 

「あ、ナズナさん! ありがとうござ……えぇー! あ、足が! ナズナさん、足が!」

 

 ボキボキッは両足が折れた音だ。

 道中じゃなくて良かった。

 運5も実は捨てたモノじゃない可能性。

 

 

 

「ゆんゆんたすけてー」

 

 空にいたモンスターに襲われながらゆんゆんに助けを求める。

 近距離まで近づいたら魔力で『自爆』と刻んでふっ飛ばしているが、数が多くてやーんなっちゃう。

 

「私が助けてほしいのに! 私が助けてほしいのに! 『ライトニング』!」

 

 ゆんゆんが魔法を撃ち、数を減らす。

 さすが紅魔族、すげーつえーと戦闘をふわふわ浮かびながら眺める。

 

「さあ、逃げましょ……なんで浮いてるんですか!?」

 

「飛んで逃げようとしたらさ、マジで浮いてるだけになっちゃった」

 

 『浮遊』って服に書いたら、浮かんで終わりである。

 世は無常。

 ちなみに『疾風』状態なので、浮かぶ瞬間は内臓がひっくり返ったかと思う程だった。

 

「なんでそうなるの!? なんで!?」

 

「ゆんゆん、世界はこんなはずじゃなかったことばかりなんだ」

 

「違うの! 私が聞きたいのはそんな言葉じゃないの!」

 

「こんなときに我が儘とは、なかなか小悪魔だね」

 

「もおおおおお!」

 

 

 

 

 

「ああ、そうだ、たすけにきたんだ」

 

 両足の痛みで若干頭のネジが飛んでる感ある。

 が、能力行使には問題ない。

 むしろストッパーが外れ、最高にハイっやつだ。

 楽しくなってきた。

 

 「『落ちろ』」

 

 日本語で告げる。

 空を飛んでいたモンスターがばたばた落ちてくる。

 楽しくなってきた。

 

 「『落ちろ』」

 

 ミスリルスライムが、落ちてきたモンスターに触手を伸ばす。

 捕食するも、黒い煙となって消えてゆく。

 

 「『落ちろ』」

 

 落下したモンスターが爆ぜた。

 全部落とせばいいのだ。

 肉、身、血潮、命。

 落とせ落とせ、全部落とせ。

 持ってても意味なんてないものだ。

 

 「『落ちろ』」

 

 おちろおちろおちろぜんぶおちろ!

 ぜんぶだぜんぶ!

 おれをすてたすべてを

 

 「『落ちろ』」「『落ちろ』」「『落ちろ』」「『落ちろ』」「『落ちろ』」「『落ちろ』」「『落ちろ』」「『落ちろ』」「『落ちろ』」「『おちろ』」「『おちろ』」「『おちろ』」「『おちろ』」「『おちろ』」

 

 おちろおちろおちおちおちおろろろろろろろろ……

 

 

 

 ゲロ吐いたきもちわる^q^

 

 

 

 

「カカッと参上! 颯爽登場してsむうのがなiとに決まって……」

 

「きもちわる……」

 

「も、もうちょっと頑張って! あとちょっとだけ! 残りはあのスライムだけだから!」

 

「うえぇ……」

 

「naにこれぇ」

 

 昼に食べた『エクゾズトーム』を吐き出していたら、ブロントさんが駆けつけてくれた。

 今のブロントさんはボードゲームで負けた時よりもしょぼくれた顔である。

 残ってるのは相性最悪のミスリルスライムだけなので、どうしたらいいかわからん。

 

 くっ……殺せ!

 

 

 

 

 くっ殺してたら籠手を外された。

 なんか馴染んでて、装備しているのが実家のような安心感だった。

 露わになった両手は呪われたアシタカみたいになってた。

 なんだこれまじやべー。

 外した直後、ハイになっていたテンションがローに切り替わる。

 気持ち悪さも相まって極ローだ。

 今なら聖人として世界を真の姿に導くことができるかもしれん。

 

「攻略法があるんだ……!」

 

 ドヤッと決め顔で二人に告げる。

 これは完璧な作戦だ。

 この作戦なら流石のミスリルスライムも「あぁぁあぁあきやまぁぁあぁっぁあ!」と発狂すること間違いなし。

 

「まず『永久凍結』と俺の服に書く。で、ミスリルスライムに俺を投げ込み、発動。相手は死ぬ」

 

 そもそも俺が『転移』させたせいでこんなわけのわからんことになったのだ。

 エターナルフォースブリザードで決着をつけようじゃないか。

 

「だmaってろなずーマジでかなぐり捨てンぞ?」

 

「な゛ん゛でだよ゛ぉ゛!!」

 

 テンションがローすぎて藤原ってしまった。

 

「お前頭悪ぃ。バカが移るもういいからバカは黙ってろ。これまんまだとぱーティがぶっころりinなる」

 

 そんな俺の決意なんて無視して、白銀に輝く剣と盾を構えたブロントさんが、ゆっくりとした歩みでミスリルスライムへと進む。

 その姿は、俺をオークから助けてくれた力強さと憧れを思い出させてくれた。

 

「Imaは俺の見せ場に決まっててる。みてろよAIBOU、オレオ神器KAIHOUで試合しゅう……「『エクスプロージョン』―――ッッッ!」

 

 ブロントさんの言葉が終わる前に、ミスリルスライムが爆散した。

 

「我が名はめぐみん! 紅魔族一の天才にして、爆裂魔法を操りし者! 長きに亘る努力で得たこの魔法……! 私は、今日、この日を忘れない……!」

 

 誰が予想できるんだよこんなオチ。

 盾と矛の神器を輝かせて気合入れてたブロントさんどうするんだよ。

 めぐみんもなんか感動しちゃってるし。

 彼も紅魔族だからカッコつけるの意外と好きなのに、変な空気でしょぼくれてしまってるじゃん。

 なんてえげつないんだ、この世界……。

 

「ゆんゆん、助けにきたよ」

 

「え、あ、はい。ごめんなさい」

 

 無理やりいい空気でしめよう。

 光(めぐみん)と闇(ブロントさん)が合わさって頭がおかしくなりそうだ。

 まじきっつい。

 

「謝ってほしいから来たんじゃないよ」

 

「……その、来てくれてありがとう。でも、無理しないでくださいね」

 

「次はもっと頑張るよ」

 

「えっと、その、次も来てくれるんですか?」

 

「当然だよ」

 

「あの、その、待ってます」

 

 俺に微笑むゆんゆん、それに微笑み返しながら四肢が折れてるのに浮遊する俺、煤けたブロントさん、感動に打ち震えるめぐみん、「ばんごはんの鶏肉がー……」と嘆くこめっこ。

 みんな頑張ったから良しとしよう。

  ( ;∀;)イイハナシダナー(ごり押し)

 

 

 

 

 

――

 

なずーりん

四肢を負傷したままモンスターの集団と戦った紅魔族きっての凄腕の魔導師。

里では不死のなずーりんとして尊敬の念を集めつつある。

 

ミスリルスライム

何者かに『転移』されたらしく、ガバッてた封印に突っ込まれてた。

封印が解かれると同時に里近くに出現した。

一体誰がこんなことを……。

 

――

 

 

 

 

 

1-5

 

なずーりんのSAN値があぶない!

 

 

「もぅマヂ無理。自爆しょ・・・」

 

 人(自分)を殺す覚悟(キリッ

 なんか転生オリ主っぽくなってきたじゃん。

 ブルってきたぜ(震え声)

 

 

 

 くぅ~疲れましたw これにて完結です!

 

 

 

 

 

「お前がただにバカだと思うぞ? バカか? そのままだとぶっころrいnなる」

 

 自爆しようとしたらブロントさんから説教を受けた。

 しかも喫茶店の一角で。

 なにこれ恥ずかしい。

 

「恥ずかしいんで椅子に座っていいですか」

 

「sれgaパトるカク悟()とか言ってたやーつのセリフないんですかねぇ?」

 

 恥かしい。

 死にたい^q^

 

「もぅマヂ無理。。。浅漬けにしょ。。。。」

 

「マジmrはオレだKARA。今のところ我慢してるけどいつ怒るが爆発するかわからない(リアル話)」

 

 死にたいと思った理由だが、じわじわと足元から中二が競り上がって来る現状は、まあ、その、ほどほどに関係ない。

 たぶん。

 で、理由だが、ゆんゆんが先日の「ドキドキ☆モンスター大集合! ボキリもあるよ!」によって中級魔法を修得したためである。

 修得したのも俺が『転移』でミスリルスライムをわけわからんことしてしまったからだと思う。

 これが紅魔族ではなかったら、命が助かってよっしゃああああ!HAPPYEND!と締めることができるが……

 

「アークウィザード、つまり魔法エリートのすくつ(なぜかへんかんできない)のこーま族の里で中級はマジヤバくてストレスで命がマッハだわ」

 

「なずーやばいばずー。オレオり言葉が乱れに乱れteおかしくなってる」

 

 紅魔族の学校では魔法を覚えると卒業となる。

 上級魔法を覚えるまで学校で切磋琢磨し続け、覚えた段階で上級魔法使いとなり、卒業するのが一般的というか常識なのだ。

 初級中級で卒業では、落ちこぼれ扱いされてしまうらしい。

 

「オレオ初級しかシラン。つまり低レベうぃざだが問題にi」

 

「ブロントさんはナイトつまりたすけてーたすけてーと呼ぶ声に応えて強いカッコいいから問題ないんよ」

 

「お、AOU……」

 

「ゆんゆんは普通の魔法に上級魔法使い目指してたし。うわあああ、どぉせぁたしゎ湧きあがり、否定し、痺れ、瞬き、眠りを妨げる、爬行する鉄の王女。絶えず自壊する泥の人形 。結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ ――――破道の九十 黒棺」

 

 床に正座していたのを、気取りながら立ち上がり、なんかよくわからんかっこいいポーズを決める。

 

「こーまのフレが憧れのhitomiでなずーを見ツめてるツて寸法なの理解できてわかってるんかって話だよ」

 

「言葉なんてもう儚い雪の様だぜ……。闇に飲まれよ!」

 

「めもトラれてrKARA!」

 

「紅魔の同胞たちよ。その深紅の瞳は美しい。それこそ、時よ止まれと祈るほどに……」

 

 おら、サービスだ。

 喜べ。

 客と店員ども、湧いて喝采するが良い。

 

「ガンバルンバなずー! そんマまdatぶっころりんなる!」

 

「俺は正気に戻った」

 

 が、時すでに時間切れ(ブロントさん並みの感想)

 紅魔族随一の破道を扱う者なずーりんと呼ばれるようになった。

 あとポーズも真似された。

 なにこれはずかしいしにたい^q^

 

 

 

 

 

「なずー気にスルなとナイトは言わないがそうでもない事態でほどhdだ」

 

「でもね、ブロントさん。はっちゃけてかっこいいポーズを決めたら店員や他のお客さんが真似し出したとか憤死もの……」

 

「そのOHANASHIじゃにいKARA」

 

「冗談だってば。わかってるよー。ゆんゆんが中級魔法覚えたのだって、俺のせいだけじゃないってことでしょ」

 

 謎モンスターも跋扈していた状況だ。

 ミスリルスライムがいなくとも非常事態のために中級魔法を修得していた可能性がある。

 そうだとしても、それはIFの話だ。

 現在はゆんゆんが中級魔法を覚え、週末にはひっそりと卒業する手筈になっている。

 

「ynynがーynynがーとレンコするが、なずーはただ心のダークパワーを果たしたいだけ。ダイレクトにすみまえn;;とアピればkaiketsuするのは確定的に明らか。ないとにはwakaってしまう」

 

「いや、そうなんだけどね。ただ、申し訳なさもあって、なんというか」

 

「ナセバなるってそれ言われてRUカラ」

 

「あー、じゃあ、今日ゆんゆんと話すことにする」

 

「意シキせずTOも導いてしまうのがないと」

 

 

 

 

 

 ―― こ の す ば ! ――

 

 

 

 

 

 日課であるゆんゆんの話を聞く。

 里ではめぐみんのせいで謎モンスター襲来の話がおかしな方向に転がっているらしい。

 端折るが「封印を解かれた邪神が名も知れぬ女神を呼び起こし、邪神と女神が戦った。激戦の末、女神が勝利を抑め、邪神の配下を爆発で一掃した。女神は里を守るために勇敢に戦った紅魔族の為に希少金属の雨を降らせた」という感じだと教えてくれた。

 なんでそうなったんですかね……。

 

「しかもめぐみんは今日も爆裂魔法を使うって言い出したんです。噂になってる里の近くで、ですよ。しかもクロちゃんはメスなのにちょむすけって名前まで付けて……」

 

「まあ、めぐみんらしいんじゃないかな。ゆんゆんほどめぐみんと仲良くないから言いきれないけど」

 

「仲良いって……そ、そんなことないです! と、友達じゃないです! めぐみんとは……ライバル。そう、ライバルです!」

 

 仲の良さを否定してライバル発言。

 そもそも友達とは言ってないので、意識しまくりなのは明らか。

 昨今のツンデレ系ってやつだろうか。

 ゆんゆんの場合は人見知り系だけど。

 そもそも別にライバルと仲良くても良いでしょ 良くない?

 俺とブロントさんなんて仲間だし友達だけど、能力を競い合うライバル感ある。

 

「そうかー、らいばるかー。いいねー」

 

「生ぬるい視線はやめて! めぐみんとはライバルだから! ライバルなんだから!」

 

 ゆんゆんとめぐみんはライバル。

 疑いようのない事実だ。

 事実なんだ、いいね?

 

 

 

「そんなめぐみんのライバルのゆんゆんにお話があります」

 

「いや、わざわざめぐみんのって付けなくても……」

 

「お話があります」

 

「は、はい」

 

 俺が正座すると、ゆんゆんもつられる様に正座した。

 

「ゆんゆん、卒業おめでとう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「こちら、お祝いの粗品です」

 

 小さな小箱を取り出す。

 紅魔族に任せたらやたらと荒々しい装飾になったので、自分で作り直した物だ。

 

「え、そんな戴けないです……」

 

「お祝いです」

 

「えっと」

 

「お祝いです」

 

 ゆんゆんが釈然としない様子で小箱を手に取る。

 そして、箱に入れられていた青色のリボンを取り出した。

 

「……ありがとうございます」

 

 

 

 

 

「じゃあ話に入ります」

 

「えっ。じゃあ今のは……」

 

 鮮やかな藍色をしたリボンを、控えめながら色々な角度で眺めていたゆんゆんが俺の言葉に反応する。

 リボンは薄くて柔らかい素材だが、実は多重構造となっており、中央の生地には『幸運』や『健康』といった文字が書かれている。

 職人のちぇけらに頼み、製作途中に手を加えさせてもらった特注品である。

 まあ、幸運という状態がどんなものか俺には全くわからないので、効果があるかは不明だ。

 『ブレッシング』という運を上げるおまじないのような魔法もあるらしいが、かけてもらったことも無いし。

 

「お祝いです」

 

「あ、はい」

 

 お祝いとお話は違うのだ。

 

「ああ、それと。そのリボンはちょっとだけ運がよくなるおまじないをしてあるから、気が向いたら付けてみてね」

 

「はい、頑張って大事にしますね」

 

 いや、ほどほどでいいです。

 むしろ、使い潰してもらってホントに効果があったか教えて貰いたいくらいだ。

 

「話というのは、ミスリルスライムがいたじゃないですか」

 

「はい」

 

「あれが居たのは俺のせいなんです」

 

「あ、そうなんですか」

 

「なので、思う存分なじってもらっても、月給二十万で三百日間休みがない社畜として扱ってもらっても大丈夫です」

 

「なんで!? 今の話からなんでそんな流れになったの!?」

 

「いや、ゆんゆんが中級魔法を覚えた原因になったので」

 

「えっと、その、ミスリルスライムは全然関係ないです」

 

「えっ」

 

 ゆんゆん曰く、幼いめぐみんが邪神の封印を解きかけのまま放置してガバってたところをなんやかんやあって封印が解除されて先日の「ドキドキ☆モンスター大集合! ボキリもあるよ!」が開催されたらしい。

 めぐみんとこめっこを逃がすため、魔法を修得したとか。

 

「あの、ミスリルスライムですけど、ナズナさんが落としたモンスターを集めるゴミ箱って感じしかしなかったというか……。その、私と接点がなくてごめんなさい!」

 

 まだ幼い少女に、転移させたモンスターと接点なくてごめんなさいって謝らせた俺って鬼畜すぎない?

 もぅマヂ無理。自爆しょ・・・^q^

 

 

 

 

 

「確かに接点がなくても、もしかしたらゆんゆんが中級魔法を修得した遠因があるかもしれない」

 

「えっ」

 

「なので、ゆんゆんが上級魔法を覚えるまではサポートしようと思うんだ」

 

「いえ、そんな、私には、その……」

 

「それだけでは足りないと? ゆんゆんも小悪魔だな。わかった、なんでもします」

 

「えっ」

 

「なんでもします。さあ、どんな願いでも言うが良い」

 

「……ナズナさん、私で遊んでませんか」

 

 そんなことないよー。

 

 

 

 

 

「まあ、無いんだったら話は終わりで……」

 

「えっと、なんでもするって言いましたよね?」

 

「言ったけど。え、まさかゆんゆんに願い事が?」

 

「私にだってお願いくらいありますよ! なんだと思ってるんですか!」

 

「間違った。まさかゆんゆんに願い事を言う勇気があるなんて!? と言いたかったんだ。ごめん」

 

「ひ、ひどい!? 私だって言うときは言います!」

 

 顔を少し赤らめながら、ゆんゆんがぷんすかぷんすか怒る。

 プークスクス、そんなんで怒ってるとか。

 ブロントさんだったらハイスラでボコるわぁって言うね、絶対。

 

「うんうん、ごめんごめん」

 

「心が籠ってません! 雑すぎます!」

 

「ははは、ごめんごめん」

 

「もおおお! もおおおおお!」

 

「はは、どすこいどすこい」

 

 ぽかぽかと叩いて来るゆんゆんを、どすこいどすこいと凌ぐ。

 今、この瞬間、ゆんゆんの魅力は最大になっている可能性が高い……!

 マジ限界美。

 

 

 

 

「じゃあ俺が何をしたらいいか教えてくれる?」

 

「何をお願いしても笑わないでしょうか」

 

「笑わないよ。もう十分笑ったから」

 

「もおおおお!」

 

 やっべ話し進まない。

 

「冗談、冗談だから。さあ、なんでも言ってみなさい」

 

「はい……その……凄いこと言いますけど……」

 

 視線を泳がせながら、ゆんゆんがそんなことを言い出す。

 もしかして最近考えている必殺の『核熱』が見たいとか言い出すんじゃないだろうか。

 あれは駄目だ。

 マジ危険が危なくてデンジャラス。

 

「う、うん」

 

「その、わ、私と友達にですね、な、なって、なり、ませんか?」

 

 内心で身構えていたが、予想以上に簡単なお願いで肩すかしをくらった。

 はあ、とため息を吐く。

 びくりとゆんゆんの肩が揺れた。

 

「ゆんゆん、もう友達だよ」

 

 ゆんゆんの赤い瞳が大きく見開かれた。

 

「は、はい!」

 

 

 

 

「ナズナさん、ナズナさん! このリボンすごいです! 幸運のリボンですよ!」

 

 それマジ?

 俺も幸運のリボンつけようかな。

 

 

 

 

 

 --2

 

 ミスリルスライムを撃破したお蔭で、俺の懐も潤っている。

 そんなわけで、魔道具を買った。

 普通は数百万から数千万エリスはする紅魔族の魔道具がなんと十五万エリスと大特価。

 お得すぎて、こめっこに勧められるがまま買ってしまった。

 

「浅はかさは愚かしい」

 

「言わないで……」

 

 こめっこには勝てなかったよ……。

 

 

 

 

 

 職人ひょいざぶろーが製作した、魔道具をどのように活用するか考える。

 実は三つセットなのだ。

 あの際物な魔道具が三つセットで十五万!? たっか!と占い師のそけっとも驚きの値段である。

 折角の魔道具なのに……! 超凄いはずの魔道具なのに……!

 

 一つ目は一辺が三センチほどの立方体だ。

 効果は魔力を込めると赤熱する、以上。

 

 二つ目は二メートルはあろうかという六本の筒状の砲身が付いている魔道具だ。

 どう見てもガトリング砲です。

 効果は中に物を詰め、魔力を通すと飛ばせるとか。

 騒音が鳴り響く粗大ごみとして紹介された。

 

 三つ目はミスリルスライムの破片である。

 見た目は径が十センチほどのぷるぷるとしたミスリルスライムの破片だ。

 大胆かつ繊細に加工することで、特性を再現したらしい。

 とはいえ、特性はかなり劣化しているようだ。

 触ってると俺を捕食しようとしているのか、徐々に手に纏わりついて来る。

 本物と違って触手を伸ばすことも無いし、骨を折られることもない。

 ははは、全然取れねぇ。

 

 

 

 もういみわかんないしぬ。

 

 

 

 

 

 赤熱するキューブを破片に取り込ませ、さらに鉄材を突き刺す。

 鉄材を取り込もうと、突き刺された部分を包み始めた破片に『円錐』と書いた紙を貼る。

 ミスリルスライムの破片が紙を取り込むよりも早く形状が変化した。

 ミスリルで出来た鎚になったのだ。

 ……なったと思う(希望)

 紙だけだと剥がれるので、『槌』と文字を直接書けば完成。

 

 魔力を通すとミスリル部分がかなりの高温に変化するので、まあ、成功じゃないかな。

 うん。

 成功だ、成功。

 

 赤熱する槌とかなんに使うんだこれ……。

 俺、後衛なんだけど……。

 

 

 

 

 苦肉の策として、文字を掘った鉄板を槌に付けることで、焼印が刻めるようにする。

 試しに『核熱』の鉄板を作成し、装備。

 準備を終えた俺はムチムチして角を生やした女悪魔の爆裂魔とやらが作った大穴へと向かう。

 

 なぜか付いてきたニートどものお蔭か、リボンによって上昇した幸運のお蔭か、特に何もなく大穴へと到着した。

 まるでめぐみんが爆裂魔法で吹っ飛ばしたかのようなこの大穴は、今では紅魔族の焼却炉として役立っている。

 遠いし魔物もいるが、捨てるのに困った魔道具や生ごみなどが集まっている。

 ときどき暇なニートが魔法を放って中身を焼却したりしているのだ。

 

 槌に魔力を通し、加熱する。

 十分に熱が乗ったことを確認し、大穴の淵に焼印を刻む。

 『核熱』と黒く刻まれれば終わりである。

 魔力はそれほど乗せていないので被害はそれほど出ない筈……大穴から溢れ出た炎が上空まで火柱を成していた。

 

 なんでそうなるん……^q^

 

 

 

 

 

――

 

『焼却炉の魔術師』なずーりん

上級の魔法使いでない身にも関わらず、上級魔法を行使する紅魔族の少年。

長い髪を青いリボンで束ねているのが特徴。

挨拶である「闇に飲まれよ」、相手を褒める最上級の言葉である「時よ止まれ、君の瞳は美しい」を生み出すなど、紅魔族随一のセンスを持つ。

故郷ではスパゲッティモンスターを信仰していたが、近年ではエリス教の首飾りを発注している。

 

焼却炉

火柱は収まったが、地獄の窯のように今もなお底が燃え続けている。

捨てられた紅魔族の物品やひょいざぶろー作品といった多くの魔力を含んだ物と『核熱』が合わさり、一時期は上級魔法並みの火力を放ち続けていた。

 

――

 

 

 

 

 

1-6

 

 

 

「ブロントさん、ゆんゆん。俺、かなり運よくなってると思わない?」

 

「Ah、火を煮るより明らかダナ」

 

「えっ!?」

 

 マジかよ!?みたいな顔をしているゆんゆんに頷く。

 マジだ。

 かつてない幸運が俺に訪れている。

 風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺たちのほうに。

 

「エリス教徒が着けてる首飾りを付けたのとリボンのおかげだわ」

 

「kou運を司ルのは伊達じゃにいってHANASHIだよ」

 

「えっ?」

 

 滅んだ国が開発したとかいう短機関銃を装備したデッドエンドとやらを撃破しての会話である。

 全長五メートルほどのサソリ型の機械で、抗魔シールドによる魔法耐性、魔力チャージによる継戦能力を持った困ったやつだった。

 だが、もうジャンクだ。

 なかなかの強敵だったが、エリス様による幸運ブーストが掛かり、三人パーティとなっている状態の俺たちの敵では無かった。

 機械なので経験値が低く、素材として使える部品が少ないのが欠点だろうか。

 普段だったらここで空から下級のドラゴンが襲来し、大型の虫モンスターが地を割り、あとついでになんか凄いモンスターが空気を震わせるところだった。

 エリス様ってやっぱすごい。

 それとも経験値を溜めつつ、お金も溜めておきたいという理由でパーティに参加したゆんゆんのお蔭か。

 つまり……

 

「ゆんゆんは女神だった……?」

 

「mjかよ。シッテタ」

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 ―― こ の す ば ! ――

 

 

 

 

 

 今日の仕事は終わりにしよう、と俺たちの拠点にしている何時もの喫茶店に帰還。

 あのまま幸運に浸っていたら手痛い襲撃を受けそうだ。

 「まだ行ける」は「もう危ない」という名言もあるくらいだし、慎重なくらいがちょうどいいのだろう。

 

「ただいまー」

 

「おっ! お帰り! 紅魔族随一の、我が喫茶店で疲れを癒していってくれ! 何か食べるか?」

 

「じゃあ、俺は『いつもの』」

 

「オレオ『いstuもの』」

 

「私は、えっと、あの……」

 

「わかった! 三人とも『いつもの』だな! 今日は『焼却炉の魔術師ステーキ』だ!」

 

 今日の『いつもの』はステーキらしい。

 激しく動いたから肉を食べたいと思っていたので当たりだ。

 これもエリス様効果だろうか。

 この世界の人々が信仰するのも納得である。

 

「今日の『いつもの』はステーキだってさ。いやぁ、何が出るか事前にわかるメニューっていいよね。いつもこうだったらいいのに」

 

「え、「いつもこうだったら」って変じゃないですか? いつものって言ってるのに」

 

 上手く注文できなかったゆんゆんが首を傾げながら聞いてくる。

 なるほど、当然の疑問かもしれない。

 だが、耳を澄ませて欲しい。

 店内の声が聞こえるだろう、そして其処彼処で頼まれる『いつもの』。

 

「『iつもの』は何がDEるかわかnにい。店syuの気ブンで決マる。ちゅーもnは一同無言の沈黙」

 

「えぇっと……つまり、その日に店長さんが決める日替わり定食ってことですか?」

 

「うん、そういうこと。なんか『いつもの』って冗談で注文したらかっこいいとか喜んでたから注文するようにしたんだよね」

 

 日替わり定食などの別名というか亜種である。

 『いつもの』と慣れた感じで注文すると、興が乗るのか料理が二倍くらい美味くなる。

 

 「えぇー……」

 

 そもそも俺らはいつも同じメニューを頼んでいない。

 だって内容がよくわからんし。

 サンドイッチとかパスタって付いてるなら大体わかるが、『ディアボロ風ボス』なんて意味不明すぎて、頼みたくなるじゃん。

 なので新メニューが出る度に頼んでいるのだ。

 

 

 

 

 

 --1

 

「お二人はもっと、その、自警団の人たちと似たような活動をしてるのかと……」

 

「ああ、うん。そう思われるかもしれないね」

 

「こt葉だけだと同じにおむわれるのmo明白に明瞭」

 

 里の外にモンスター狩りしに行ったら、そのまま魔道具や魔法薬などの店に素材を卸して喫茶店で駄弁っているので、見かけは一緒かもしれない。

 実はちゃんと必要なモンスターを狩っているし、薬草などを採取しているので、貢献度は段違いである。

 まあ、ニートかフリーターかの違いかもしれないけど。

 収入はファンタジーに夢見る冒険者くらい手に入っているが、命を賭けている代価としてはどうなのだろうか。

 

 

 

 

「他にも野菜の収穫もやるし。あれはかなり収入がいいけど、常にできるわけじゃないのがなぁ」

 

「こー魔ずいーちのyさい名人は伊達じゃにい」

 

「そ、そういえばナズナさんって、野菜を収穫するのが、その、上手だって聞きました」

 

「たぶん、上手い……のか?」

 

「PRO級ダナ」

 

 自分だとよくわからないが、プロ級らしい。

 やはり『俎上乃鯉』スタンプは野菜相手に無敵……!

 野菜の帝王感が漂ってきた。

 

「最近また買ったミスリルスライムの破片をスタンプ型にしてみたんだけど」

 

 ことっ、とテーブルの上に置く。

 光に照らされ、銀色に輝く重厚感と高級感あふれるスタンプ。

 握りやすく洗練されたフォルムは、まさに職人御用達……!

 

 これは自発的に買った物だ。

 決してこめっこの魔性に負けたわけではない(震え声)

 

「おmえ何処メザしてんの? なずーrいnからのーかりnデビューkaよ」

 

 のうかりんは目指してないです。

 効率を求めた結果、こうなってしまっただけだから。

 

「カード型の鉄板を付けて、魔力を込めれば……ほら、この通り」

 

 前に買った赤熱するアレを搭載しているので、簡単に焼印となる。

 完璧すぎて農家もびっくりだろう。

 鉄板も『新鮮』『瑞々しい』『美味い』などバリエーションが豊富なので、色々と使えそう。

 収獲用にインクタイプも作った。

 

「……冒険者の方ってみんなこんな感じなんですか?」

 

 え、どうなんだろう。

 そもそも冒険者ってなんだよ。

 何すれば冒険者なんだ。

 俺って一体なんなんだ(哲学)

 

「いや、それはにいkara。なずーは馬鹿だって証拠ダよ」

 

 違うらしい。

 でもバカはやめてください、傷つきます!

 

 

 

 

 

 --2

 

 ゆんゆんが頭痛を抑える様にロリっ娘を連れて来た。

 めぐみんだ。

 めぐみん!? めぐみんが何故ここに!? 他のバイトから逃げたのか? 自力で脱出を?

 というわけで、ゆんゆんのライバルのめぐみんが現れた。

 

「私を働かせてください」

 

「ニートのめぐみんじゃないか」

 

「ち、ちがわい!」

 

 ニートじゃなかったらしい。

 後でブロントさんと認識を擦り合わせないと、里の話題に乗り遅れてしまう。

 乗り遅れると、紅魔族からズレた認識となり……特に問題なかったわ。

 

「niitoのめぐinじゃにいか。テー食YAでのばぃとはDOしたってHANASHIだよ」

 

「にっとのめぐいんじゃないです。そもそもブロントさんさんは何言ってるのかわからないので今は静かにしてください。大事な話なのです」

 

「hai……」

 

 特に理由もない暴言がブロントさんを襲う……!

 と、冗談のようにモノローグを入れたが、ブロントさんはしょぼくれてしまった。

 紅魔族の人が聞き取るのはキツいらしいが、もうちょっと優しくしてあげて欲しい。

 ぶっころりーなんて流すだけだし。

 ゆんゆんはブロントさんさんと会話しようとずっと頑張ってるんだ、みんなもそれくらい頑張ってみてはいかがだろうか。

 

 「それで、だっめなめぐいんがなんだっけ」

 

 「おう、誰がだっめなめぐいんか教えて貰おうじゃないか。紅魔族は売られた喧嘩を買うのが常識だって、紅魔族のなずーりんなら知ってて当然だと思いますが。それとも里の期待をその背に受けたホープは知らなかったとでも白を切るつもりですか?」

 

 「ずっと思ってたけど紅魔族のなずーりんってマジ誰だよ。俺は集団妄想によって生み出された個別の十一人説を推すよ」

 

 紅魔族は見えない英雄を生み出そうとしているに違いない……!

 

 

 

 

 

 「さて、魔法具店では満足に魔力を込められず、定食屋では喧嘩騒ぎを起こしてクビになっためぐいんがなんだって?」

 

 「知ってておちょくっているのですね。いや、そもそもそんな詳しく誰から聞いたのですか。はっ、まさか我が魔法を恐れた組織の一員であり、影で見ていたとか……!」

 

 「ynynがそーdaNしたって話だkaら」

 

 「よんよん、貴女って人は……! ライバルを売ったのですね!」

 

 ぐぐぐ、とめぐみんが小柄な体格をいっぱいに使ってよんよんの首を絞める。

 

「マジかよよんよん。裏切りは良くない」

 

「srはオレオ鬼なるzoよnよん」

 

「ち、違うの! 誤解なの! ただ、私はめぐみんが心配で……ちょっと待ってよんよんって誰!?」

 

 紅魔族に友好の証として贈られてきて、毎年数億円を払わなければいけないという金食いな新しいパンダかな?

 

 

 

 

 

 結局、「働きたいのです!」というめぐみんループによって一時的に参加させることになった。

 早朝、爆裂魔法によって森が吹っ飛ばされたという事件が起きたので、それに狩り出されたため、俺は寝不足で不機嫌なのだ。

 ホントはもっといじめて溜飲を下げたかったが、喫茶店の店長に追い出されそうになったので諦めた。

 千と千尋でもやってたけど、連呼は強い。

 契約があるとはいえ湯婆婆すらげんなりしながら根負けするからね、俺も参考にしよう。

 

「しょうがないので今日の仕事に行きます」

 

「しょうがないというのは今は流してあげます。ふふふ、私の爆裂魔法の餌食になるのは何処のモンスターでしょうか?」

 

「いや、野菜の収穫だけど」

 

「モンスターを狩りに行くんじゃないのですか」

 

「めぐみん、死にたいの?」

 

「えっ」

 

「死ぬね」

 

「えっ」

 

「4ぬzo」

 

「ちょっと言葉がわかりません」

 

「(´・ω・`)」

 

 一発限りの爆裂魔法を抱えた低レベルのアークウィザードがモンスターを倒すために外に出たいとか、正気じゃないんですがそれは。

 

 

 

 

 

 --3

 

 里の農業区に向かうと、魔法で豪快に畑が開墾されたり、種を撒かれたり、水をかけたり、とダイナミックに農業がおこなわれていた。

 紅魔族全体を維持している農業区かと思うと、かなり尊いように思えてきた。

 嘘です。

 さっさと終わらせてお金が貰いたいです。

 

「じゃあ作業しますかー」

 

「hai!」

 

 『気配遮断』『消音』など紙に書いて準備していると、やる気があるのかめぐみんとゆんゆんが収獲するネギに突撃していった。

 そして、反撃を喰らっていた。

 あるある。

 足を中心に狙われ、イライラしているようだ。

 あるある

 それに怒ってネギとバトルし始めた。

 ねーよ。

 商品だからやめるんだ!

 

 

 

 

 

「じゃ、じゃあ作業を始めます」

 

「hai!」

 

 異世界ファンタジーで初めてやるSEKKYOUが、子供二人にネギを大切にしなさいという内容だとは思わなかった……。

 二人には、そこで見ていなさいと後ろに控えさせ、準備を進める。

 ブロントさんが無駄にいい返事をしてくれたので、空気が一新される……といいなぁ。

 

 ま、まあ気を取り直してやっていこう。

 身体に貼った紙に書かれた文字の効果で、ネギは俺とブロントさんの気配を察知できていない。

 さらに音もなるべく小さくできる設定にしてあるし、空気の流れも乱さないようにした。

 試しに近くのネギに接近するが、特に反応はない。

 

 よし、とブロントさんに向けて頷く。

 ブロントさんも頷き返してくれたので、早速スタンプを取り出し、作業開始である。

 難しい作業ではないので、手早く進めていく。

 インクにスタンプを浸し、ブロントさんが抑えた瞬間、ネギにぺったん。

 そして動かなくなったネギを籠へと放り投げる。

 

 ブロントさんが抑え、俺がぺったん。

 抑えて、ぺったん。

 これをなるべく早く、かつ丁寧に行っていく。

 

「こ、これが紅魔族一の野菜取り名人の腕……!」

 

「凄い速さだよめぐみん……!」

 

「私達も仕事にしているけど、やっぱなずーりんには届かないね……!」

 

 俺Tueeeして黄色い声援があがってるのに、全然うれしくないんです。

 

 

 

 

 

――

 

個別の十一人(インディヴィジュアルイレブン)』のなずーりん

あまりの才覚に、なずーりん多人数説が浮上した。

しかし、紅魔族随一のセンスを持つ彼が複数人いるわけがないと、その説はやがて鎮火した。

彼の才覚を示す二つ名となる、そのはずだった。

王都で起きた事件により、狂のなずーりんの存在が示唆されるようになるまでは……!

 

今回のオリ主の業績

・(ネギ用の)新アイテムを装備

・(ネギ相手に)俺Tueeeee

・(ネギの収穫で)声援を貰った

 

 

幸運の青いリボン

LUCK +2(なずーりん)

LUCK +10(ゆんゆん)

 

エリス様のお守り

LUCK +3

※ただしアクシズ教が出現するとマイナス判定

 

――

 

 

 

 

 

1-7

 

 

 紙飛行機職人、夏芽 薺の朝は早い。

 日が登り、紅魔族の人々がぽつぽつと活動を始めた頃に目が覚める。

 身体を伸ばし、時間をかけて入念にストレッチを施すと、徐に机に腰かける。

 色とりどりの画用紙を整形しているのだ。

 

―― いつもこの時間から作業を?

 

「ええ、いつもです。もうクセになってますよw」

 

 笑みを浮かべて答えるその顔は晴れ晴れとしていた。

 静かな室内に、しゃっしゃっと刃物によって画用紙が裁断される音だけが木霊する。

 その姿は、年若い背中からは想像もできないほどの老練な空気を漂わせていた。

 まるで修行僧のそれだ。

 無言の時間が続くが、我慢できなくなり、ついスタッフは声をかけた。

 

―― 態々自分で切らずとも買えばいいのではないですか?

 

「そうですねw 僕もそう思いますw」

 

 苦笑いとともに、夏芽氏が答えた。

 そうしてまた作業に没頭する。

 我々にはわからない拘りや思いが、この作業に込められているのを感じた。

 

 

 

 

 

 ―― こ の す ば ! ――

 

 

 

 

 

 なんか変な夢を見たんですけどぉ!

 紙飛行機職人って一体なんだよ。

 あ、でも紙飛行機はいいかもしれない。

 操作し易そうだし、ああいった遠隔で操るタイプの物を能力で扱ってみるのも面白いのかもしれない。

 

 今日のパーティ活動は休止のため、喫茶店に来てもブロントさんやゆんゆんはいなかった。

 まあ、ゆんゆんはめぐみんにデートに誘われていたのだけど。

 百合な展開には確実にならないと断定できる、だってゆんゆんだし、利用されて終わるのだろう。

 御労しや、ゆんゆん。

 

 いつもの座席に座り、『魔界闘士どろりんこ』を注文。

 収納と書きこまれているので無駄に容量がある皮袋から、画用紙と羽根ペンを取り出す。

 この羽ペンはエリス様にもらった物ではなく、新しく作ってもらった予めインクを貯蔵しておける魔道具だ。

 ちょっと高かったが、戦闘中にインク壺を装備しなくて済む画期的なアイテムである。

 

 

 

 画用紙に『飛行機』と書きこんで、魔力を通す。

 勝手に折りたたむ作業が始まり、そこには自動で紙飛行機と化した画用紙が……ちょ、長い長い。

 どんだけ折り目付けてるんだこれ。

 

 『どろーりん』の喉越しを楽しんで待つこと五分。

 そこには紙で出来たジャンボジェットの姿が……。

 違う、違う違う!

 どうしてそうなったのか。

 心の奥底で飛行機はジャンボジェットに限りますなぁ!とか思っていたのだろうか。

 いや、そんなはずはない。

 俺が期待したのはもっとシンプルなやつだ。

 つまり『飛行機』という文字はジャンボジェット的な飛行機になるのであって材質如何に関わらず紙飛行機はならない……?

 もう意味わからん。

 一体どうすれば……。

 

 

 水平思考……!

 逆転の発想……!

 発想の転換……!

 パラダイムシフト……!

 地球はそれでも回っているのです!

 

 普通に『紙飛行機』って紙に書いたらシンプルな紙飛行機になった。

 

 

 

 言葉で生み出した風に乗せ、紙飛行機を飛ばす。

 告げる言葉が三文字という縛りは案外厳しいものがある。

 風を生み出す単語だけでやたらと時間がかかってしまったし。

 結局「『微風』」か「『風』」しか使えそうにない。

 「『微風』」はホントにしょっぼい空気の流れを生み出すだけであり、魔力を込めても風速は上がらず、効果時間が伸びるだけだ。

 俺の微風の認識がそうなっているのかもしれない。

 「『風』」はイメージと魔力次第で強くできるが、「『風よ』」もしくは「『風』よ」と「よ」をくっつけたほうが強弱が付けやすい。

 ちょっとしたニュアンスが左右しているのだろう。

 

 喫茶店内を、生み出された気流に乗ってゆるゆると飛んでいた紙飛行機が、店長の頭に刺さって着陸を成功させた。

 めぐみんがクビになった定食屋だったら昼時近くになると込み合うのでこんなことは出来ない。

 しかし、この喫茶店は閑古鳥が良く鳴いているので、紙飛行機を飛ばすことだって可能。

 突き刺さった紙飛行機をマジマジと眺めていた店長が、「俺もこれを持っている」と言って店の裏に。

 数分ほどで、ガラスケースのような物に入った紙飛行機を持ってきた。

 昔にでも俺と同じように転生者が来て作ったのだろうかと思いながら見せてもらう。

 翼には『自由自在』と達筆をふるわれていた。

 俺と同じように文字を使っている人がいた……?

 

 紙飛行機を開かせてもらうと、中心に『自由自在』と書かれ、円を描くよう放射状に色々な単語が並んでいた。

 文字数は全て五文字以内、ちょっとした傘連判状のようだ。

 面白いこと考えるものだと感心しながら、魔力を込める。

 一秒と経たず、元通りの紙飛行機を成した。

 

 『微風』と唱え、空気の流れを生み出し、そこに乗せる様に紙飛行機を飛ばす。

 さらに『自由自在』のおかげで魔力伝達も調整できるらしく、書かれた文字を意識すれば魔力が伝わり、その効果を発揮させるようだ。

 ある程度は思ったように操作できる。

 減速させたり、加速させたり、回転させたり。

 慣れると面白くなってくる。

 文字で制御しやすくなっているとはいえ、風に上手く乗れないと自由落下するのは紙飛行機と同じ仕様のようだ。

 さあ、フィニッシュだ!と魔力を文字すべてに行き亘らせると、店の中央できりもみ大回転。

 

 そして、爆ぜた。

 

 燃え滓となった焦げた紙がちらちらと店内を舞う。

 

 

 

 ……な、なんでそうなったんだ。

 

 

 

 

 

 店長に「ごめんなさい!」と謝ったら、掃除だけで許してくれた。

 「なずーりんにしか読めない古代文字で書かれていた紙だ。こうなったのも運命だったのだろう」と逆に慰められてしまった。

 情けないデース……。

 代わりに『自由自在』『加速』『減速』『修復』『落下軽減』と中に書かれた試作品の紙飛行機を贈呈した。

 

 

 

 

 

 --1

 

 翌日、『紙飛行機』『自由自在』『加速』『自爆』と書いた紙をせっせと作る。

 使い方を知った店長は紙飛行機で遊んでいた。

 どうやら、かなり昔にこの紙飛行機を店長に渡した「なずーりん」という魔法使いが操っているのを見て、自分もやってみたかったらしい。

 まさかマジでなずーりん個別の十一人説が浮上かと驚いている俺を、店長は華麗に無視して語り出した。

 紅魔族ってこういうところあるよね。

 

 なんでも十五年くらい前に流浪の冒険者パーティが、様々な知識と『邪神の墓』を里に齎したらしい。

 邪神の墓を齎す冒険者パーティとかこの世界はマジでトチ狂ってる。

 

 ちなみにこの喫茶店にも『我々は闇』などの人気メニューを先代は貰ったとか。

 そんなわけで、ゆんゆんやめぐみんの親世代はその『なずーりん』という魔法使いを特別視したこともあって、似た魔法を使う俺を肖った名で呼んで融和しているとかどうとかどうでもいいことを教えて貰った。

 あとはなずーりんは『金色の文字使い』やら『逆巻き時』などの名で呼ばれていたらしい。

 

 どうでもいいので紙飛行機つくります^q^

 

 

 

 一生懸命生産した文字の書かれた紙に魔力を込める。

 そして重なった状態の紙飛行機を皮袋に詰めていると、息を乱したブロントさんが飛び込んできた。

 ゆんゆんとめぐみん、ちょむすけが上級悪魔に襲われ、その上級悪魔はぶっころりーたちに追いかけられているらしい。

 あ、そうなんだ。

 

 あとめぐみんが明日テレポート便を使ってアルカンレティアに行くらしい。

 な、なんだってー!!?

 

 バイトミスって野菜の収穫でやっと金銭を得ためぐみんが三十万エリスをどうやって稼いだって言うんだ!

 金庫でも爆裂したのか!

 いつかやると思ってました!

 

 ブロントさんに鬼気迫る表情で詰め寄ると、やるせない顔で「ぶっころrいnが追いかけてるAKUMAかrめぐinがパクった」と俺に告げた。

 悪魔からカツアゲとかいつかやると思ってました!

 ゆんゆんや俺たちから食いものを巻き上げる手口を考えると、ヒモというか餌付けされるペットが天職なのではないかと。

 

 『どろーりん』で一服していると、遅れてゆんゆんも喫茶店に入ってきた。

 めぐみんのお別れ会をやろうと思い、クラスメイトを誘いに行こうとしたけど、自分一人だと話しかけられないので助けて、という話だ。

 

「ynyn……;;」

 

 それやめてブロントさん。

 俺も切なくなるからやめて。

 

 

 

 

 

 --2

 

「『風よ』」

 

 目の前を逃げているむちむちぷりりんな赤い髪をした悪魔を追いながら、風を吹かせる。

 俺たちの背を押してくれる追い風を作ってみた。

 次いで皮袋から紙飛行機をごっそりと掴んで取り出し、魔力を込めて飛ばす。

 

「よし、捉えた」

 

 十重二十重と空中から紙飛行機が悪魔に特攻。

 そして『自爆』の文字へと魔力を伝え、爆発を起す。

 

「4んだんじゃにiかアレ」

 

 どうだろうか、と皮袋から西洋兜を取り出し装備。

 探知をかければ、里の外に向かって逃げる様を捉えた。

 作った追い風が悪魔にも伝わっていて、間一髪で逃れられた説。

 もっと調整できるように練習しよう。

 追跡開始。

 

 なぜ悪魔を追いかけて攻撃していたのか。

 その理由は、里を歩いていたら見つけたからだ。

 他に理由はない。

 ぶっころりーたちから逃げ果せた様子だったので、追撃してあげたのだ。

 

 

 

 

 

 

「ダメか。索敵外だ」

 

 兜を仕舞い込み、ブロントさんとゆんゆんに告げる。

 俺が先頭を走り、森まで悪魔を追いかけてきたが撒かれてしまった。

 

「ゆんゆん、残念だけどあの悪魔でお別れ会を豪勢に爆裂するのは無理だな。めぐみんへのプレゼントを捕まえられなくてすまん」

 

「ええっ! 私はそんなつもりじゃ……」

 

「だよね」

 

「あの、ナズナさん?」

 

 まあ、そうだろう。

 別に俺もそんな意味で追いかけてたわけじゃないし。

 卑猥なフォルムをした悪魔が泣きながら逃げる様子が楽しかったわけでは決してない。

 おちょくられたとわかったゆんゆんがポカポカパンチを見舞ってくる。

 ははは、どすこいどすこい。

 

「ムだにうごいただけdakedあった。里からすでに二歩mo三歩も出てる状態。手遅れになるのではままるな」

 

 ちょっと遠くに来過ぎたようだ。

 狩場ほど深くは無いが、焼却炉近くなので危険だ。

 熱量のせいで体感温度だが二度ほど上がった気がするし。

 

「ゆんゆんのライバルのめぐみんの送別会のために帰ろうか。俺とブロントさんはあんまり関係無さそうだけど、ゆんゆんが行きたそうだからな。絶対に行くと言うどろーりんな意志すら感じる」

 

 おちょくったので次はゆんゆんどすこいだな、と準備をしていると、ブロントさんが剣を構えた。

 モンスターが近いのだろうか。

 ゆんゆんに目配せする。

 

「何故そんな必死なのかバレてる証拠に笑顔GA出てしまう」

 

 刹那、ブロントさんの剣に鞭が絡まっていた。

 

「なんでバレてしまったのかしら、教えてくれる? 改造したから隠密に長けてると思ったんだけど」

 

 剣に絡めた鞭の先には、大柄で褐色肌の女が立っていた。

 

 

 

 

 

「お前頭悪ぃな」

 

 ブロントさんが手首を返し、剣を振るう。

 その動作だけで絡めていた鞭から解放された。

 

「自慢じゃnいがPT組んでる時にフレni「里のイチローですne」と言わレた事もaる」

 

 なるほど。

 常に警戒しているのが前衛だが、常在戦場になってしまうのがナイトなので知性ある敵意に気付かない方が可笑しいということか。

 やはりブロントさんの前衛としての腕には全幅の信頼を置かざるを得ない。

 俺とゆんゆんだったら気付かずにゲームセットで人生エンドでしたね。

 

「……何言ってるかぜんっぜんわかんない。アタシ、やっぱり紅魔族って嫌いだわ」

 

 その人はトップクラスにいい人です。

 むしろここには紅魔族に存在するか怪しい、まともな常識を持った人間しかいない。

 俺ら程度を嫌ってたら心臓麻痺でひっそりと死ぬことになる。

 

 

 

 

 

 --3

 

 ブロントさんが、強かに打ち据えてくる鞭を潜り抜け、褐色の女に傷を刻んでゆく。

 滞空させている紙飛行機を定期的に自爆させようと女に飛ばすが、鞭で容易に迎撃される。

 動作に無駄な遊びが入った鞭を振るっていた腕に、白い剣が何度も振り下された。

 

 ブロントさんと女の間で、数十戟を超える打ち合いが繰り返された。

 飛行機を飛ばす。

 十の内、三つが止まらずに女へとぶつかり、爆ぜた。

 手首を重点的に負傷させたせいか、鞭の狙いが甘くなったようだった。

 不用意に近づけば叩き落とされるために周囲を囲んでいるだけだった紙飛行機が、更なる追撃をかけ、爆ぜてゆく。

 滞空のために魔力を浪費したそれは、視界を塞ぐ程度の爆発しか起きなかったが、何よりも希少な隙を生み出した。

 生じた戦闘の切れ目を縫うように、ゆんゆんの魔法が直撃した。

 

 女の体勢がぐらりと崩れた。

 更に生じた隙を逃すつもりはないとばかりにブロントさんが強く踏み込み、神器『グラットンソード』を万全の姿勢で振る。

 体重の乗ったその斬撃は、あまりの速さに白い光が奔り抜けた軌跡のみを残していた。

 神器の能力ではないという話だ、あれが彼の技量なのだろう。

 

 

 

「こイつかっテぇna。msrルよりやわいがかっテぇ」

 

 重厚な音を響かせ、女を数メートル先に吹っ飛ばした後にブロントさんが呟いた。

 地面が褐色肌の女の血に濡れた様子はなく、着ていた服の一部だけが女の立っていた場所に落ちている。

 

「実験中の皮を叩き斬るとはやってくれるじゃない。確かに柔軟性は再検証が必要でしょうけど、硬度は下級悪魔並みなのよ?」

 

「俺ハ別に強さwおアッピルなどしてhaいない。知らREるのがナいト」

 

 薄暗い森の中で、ブロントさんは白く輝く剣を再び構えた。

 神器の一撃を耐える丈夫さを持つ褐色肌の女。

 その正体とは一体……。

 

「アタシは強化モンスター開発局局長のシルビア、魔王軍の幹部よ!」

 

 なんか名乗ってくれたし、正体も教えてくれた。

 悪魔を追いかけて魔王軍の幹部とエンカウントとか、もうちょっと難易度調整をしてほしい。

 

「ソUか。オレオnいトnぶろんdさnda。後ロにはAIBOうnoカd-すmいkaーのnずriん、arcうiいざっとのynynダ」

 

「……そう、ニートのブロンドサンタ、ダークメサイアののずりん、歩けるペットのよんよんね。名前は覚えたわ」

 

 えっ。

 

「悪いけど逃げさせてもらうわ! また会いましょう!」

 

 そう叫ぶと、シルビアはバク宙しながらダイナミックに飛びあがり、焼却炉の火柱に飲まれて消えた。

 後ろを確認しないでそんな大ジャンプしたら、そりゃあそうなるよ。

 現世からの逃亡ってことなのだろうか。

 

 いや、今重要なのは……

 

「ダークメサイアのなずーりんって誰だよ」

 

「私ペット……。頑張ったのに歩けるペットのよんよん……」

 

「オ、オレオ悪くにi!;;」

 

 ニートのブロンドサンタが叫ぶが、擁護できる気がしない。

 なんだよブロンドサンタって。

 ブロンドヘアのサンタのつもりかよ。

 なんか神器振るうと言葉が悪くなってる気がするんだけど。

 精神汚染とか付加効果ないよね?

 

 

 

 

 

――

 

なずーりん

紅魔族の里にはかつて『金色の文字使い』や『逆巻き時』の名を持った魔法使いが、様々な知恵と魔神の墓を齎した。

その魔法使いの名はなずーりん。

 

『個別の十一人《インディヴィジュアルイレブン》』のなずーりん

現代に甦ったなずーりんの活躍を讃えて与えられた称号のこと。

「野菜取り名人ののーかりん」「焼却炉の魔術師なずーりん」「ダークメサイアののずりん」「狂える鎧のげきーりん」「どろーりん飲みのさっかりん」「色無きぶっころりー」が確認できている。

 

 

魔王軍幹部シルビア

「ニートのブロンドサンタ、ダークメサイアののずりん、歩けるペットのよんよん」と再戦を望むも、そんな者はいないと否定され、紅魔族の玩具にされた。

 

――

 

 

 

 

 

1-8

 

 

「めぐみんが紅魔族の里を出るて聞いて、俺とブロントさんで用意した「『ニートなめぐいん看板』だ。これを背負って街を歩けば、みんなが哀れんでお金をくれるに違いない」

 

「5フンでつくtta」

 

「ごみを餞別と呼んで渡すのはやめていただけませんか」

 

「いや、これは餞別じゃないから。決して勘違いしないでいただきたい。『願いの泉』近くに落ちてた鉄くずだ」

 

 餞別はゆんゆん宅でのお別れ会の料理である。

 俺とブロントさん、ゆんゆんでお金を出し合った。

 まあ、言わないけど。

 ゆんゆんはライバルなので言えないらしい。

 

「おう、結局粗大ごみじゃないか。よんよんが持ってる幸運アイテムを私にもくれるとか、そんな展開でしょう? 自慢してきてウザかったので、これで論破します。はやく強化版ください」

 

「よんよんは特別ってそれ族長宅で常日頃から言われてるから。絶対に渡さないし、めぐみんは鉄くず渡しておけば喜んで食べるっしょ。食べない?」

 

「私はよんよんじゃないの……。ペットなんかじゃ……」

 

「食べるわけないじゃないですか。こんなもの私の魔法でワンパン消し炭ですよ。怯えろ竦め、命乞いをしろ」

 

「msrるスラいむ……;;」

 

 歩けるペットよんよんとミスリルスライム戦で見せ場を奪われたブロンドサンタが流れ弾で目が死んだ。

 この二人は名前間違いと爆裂魔法がトラウマなんだ。

 やめたげてよぉ!

 

 

 

 

 

 ―― こ の す ば ! ――

 

 

 

 

 

 めぐみんが冒険者デビュで里を出るー→ゆんゆんも追いかけて里を出る→俺もゆんゆんを追いかけて里を出る→ブロントさんも里を出る。

 完璧な構図でしたね。

 予てから里を出て見聞を広める予定だったので、ゆんゆんをストーカーしても全然問題ない。

 というか族長に「あの娘は友達がいなくて可哀そうで変なのに引っかかりそうだから安全な場所まで見守って欲しい」と頼まれたのだ。

 ブロントさんはパーティは一緒にいるものだと着いてきてくれた。

 そんな訳で、水と温泉の都アルカンレティアに到着した。

 

「あ、そこのなんとなく幸薄そうなあなた! アクシズ教はどうでしょう!」

 

「さ、幸薄そうって……」

 

 可哀そうなゆんゆんはさっそく宗教の勧誘を受けていた。

 大丈夫か、そんな調子で世界に羽ばたいてホントに大丈夫なのかゆんゆん。

 

 

 

「そこの不運そうな魔法使いのお兄さん! どうですか、今ならアクシズ教に入れば女神様のおかげで幸運がアップしますよ!」

 

 ゆんゆんを見守ってたら、にこにこと人の良さそうなお姉さんにアクシズ教とやらの勧誘を受けた。

 が、俺にはエリス様がいるのだ。

 首飾りを取り出す。

 

「あ、いえ。俺はエリス様を……」

 

「ぺっ」

 

 えっ。

 

「ぺっ」

 

 二度見された後また唾を吐かれた。

 

 

 

 

 

 もう早くこの街から出たい。

 次から次にアクシズ教徒から勧誘を受け、断る度に唾を吐かれる。

 街に着いて数日はエリス教だと思われたのか、石とか投げつけられる。

 

 そして最近ではアクシズ教のアークプリーストだとかいうおっさんに『セイクリッド』系の魔法を不意打ちでかけられる始末だ。

 アクシズ教のプリーストはマジ頭おかしい。

 プリーストって頭が悪い魔法使いしかなれないんじゃないだろうか。

 適性は知力10以下のみとか。

 

 ちなみに『セイクリッド』なんちゃらの効果はアンデッドにダメージを与える魔法らしい。

 異世界に来てアンデッド扱いとは想像しなかったぜ……。

 『ディスペル』系の解除魔法も食らったので、ローブに書かれていた防御用の文字やリボンも吹っ飛んだ。

 

 紅魔族の里とは別のベクトルでしんどい。

 なにここマジつっら^q^

 

 

 

 

 

 --1

 

 んじゃいくよ

 

 俺、夏芽薺(`ェ´)ピャー

 

 留置所にぶち込まれて過ごした。

 

「もうするんじゃないぞ」

 

「はい……」

 

「馬鹿な真似をしてためぐみんに会ったら、ナズナさんが捕まってるって聞いて駆けつけて来たんですけど……」

 

 まさか警察に「もうするんじゃないぞ」なんてドラマのようなことを言われて留置所から出されることになるとは、思いも寄らなかった。

 なんていうか、床が冷たくて、ご飯も冷めてて、日本を思い出すって言うか。

 まあ、こっちのほうがご飯は贅沢でしたね。

 HAHAHA、はぁ……。

 見守るはずのゆんゆんが身元引受人になってくれたのですぐに出られたが、そうじゃなかったらどうなったか。

 

 

 

 警察にしょっ引かれた原因を思い返す。

 アクシズ教が跋扈して生きるのもツラいので、エリス教の教会にお世話になることにしたことが始まりだった。

 エリス教の信徒の皆さんはとても親切で過ごし易かったのだが、毎日アクシズ教が悪戯をしかけてくるのだ。

 

 炊き出しをすれば混ざって腹いっぱい食べ、唾を吐いて去ってゆく。

 怒ったブロントさんが犯人を追いかけて川に落ちた。

 掃除をすればゴミを撒き散らして去ってゆく。

 怒ったブロントさんが追いかけて池に落ちた。

 紫色のクリスの花を摘んで像の前に備えておくと、持っていってしまう。

 怒ったブロントさんは穴に落とされた。

 パンを配ろうとしたら全部強奪して逃げて行った。

 怒ったブロントさんは追いかけている途中で幼いアクシズ教徒に石を投げつけられた。

 

 そんなわけでとうとうブロントさんは外に出なくなってしまった。

 

 そして、その翌日。

 教会に飾られているエリス様の肖像画に落書きしたアクシズ教を追いかけたのがいけなかった。

 エリス教の人たちが路地裏まで追いかけ、らくがき犯であるアクシズ教に説教しようとして、めぐみんに止められていた。

 

「いやちょっと勘違いしないで欲しいのは……」

 

 流石に変な手違いがあると困るので止めようとして俺も合流。

 

「おまわりさーん! あそこです!」

 

「アクシズ教の話を半分に聞いて駆けつければエリス教が子供を取り囲むとは! しかも一人は魔法使いじゃないか!」

 

「こ、これは違うんです。我が名はナズナ、紅魔族の里の……」

 

「聞きました!? あの問題を起こす紅魔族ですって! これはもうあのいたいけな少女に何かしようって魂胆なんですよ」

 

 自己紹介をして誤解を解こうとしたら、なぜかアクシズ教のプリーストに、変質者扱いされた。

 この女、俺に『セイクリッド』してきた奴らの一人じゃん……。

 

「えっ、ちょっ」

 

「おいそこの紅魔族! 話を聞こうか!」

 

「いや、俺は紅魔族じゃなくて。めぐみん! めぐみーん!」

 

 不味い方に話が転がっている。

 その場にいためぐみんに声をかける。

 

「助けて! めぐみん助けて!」

 

 なんとかめぐみんの助け舟でここはやり過ごさなければいけないと、めぐみんに助けを乞う。

 が……。

 

「御嬢さん? あの紅魔族と知り合いかなのか?」

 

「まあ、知り合いというか」

 

 期待の瞳をめぐみんに向ける。

 

「あの変質者! こっちの娘にまでいかがわしい目を向けてる!」

 

 めぐみんを庇うようにプリーストが俺に立ち向かう。

 

 「な、紅魔族! 是が非でも話を聞かせて貰おうじゃないか!」

 

 警察の人も警戒心マックス!

 おま、プリーストぉぉぉぉおぉ!

 

「貴女も如何わしい真似されたわよね! ね!?」

 

「確かに。(『ニートなめぐいん看板』を持た)されそうになりましたね」

 

「き、きさまああああ!」

 

「か、勘違いなんです!」

 

 身分証として冒険者カードを出そうとすると……

 

「あ、魔法を使おうとしているわ! 紅魔族の魔法は……」

 

「紅魔族! 手を後ろに組んで何もしゃべらずその場で伏せなさい! 動けば魔法を行使したと判断する!」

 

 (`ェ´)ピャー

 

 

 

 

 ということがあって、やっとゆんゆんのお蔭でお日様の下に出てこられた。

 

「このまちきらい」

 

「ああっ、ナズナさんの目が濁ってる! が、頑張って! ブロントさんさんはやくきてぇー!」

 

 

 

 

 

 --2

 

「老婆がリンゴを落していたので拾う手伝いをしたら、お礼と称して喫茶店に連れ込み、複数人で勧誘してくる」

「男に囲まれた女性が助けを求めていたので助けたら、お礼と称して喫茶店に連れ込み、複数人で勧誘してくる」

「トイレの紙を盗み出し、代わりにアクシズ教の入信書を置いている」

 などといった相談がエリス教で待機している俺に寄せられてきた。

 アクシズ教に直接文句に行ったら頭がおかしい連中に絡まれるので、エリス教で愚痴をこぼし、ついでになんとかしてもらおうという話らしい。

 教会で子供たちのために人形劇をやりつつ、相談ごとに応えていたら、アクシズ教への相談窓口になっていたので、俺に集まってくるのだ。

 関わりたくねぇ。

 

 連中に『宗教禁止』とか『勧誘禁止』って書いた紙を貼ったら解決しないだろうか。

 しないよなぁ……。

 

 

 

 教会にあるエリス様の肖像画に落書きしようとするアクシズ教徒や燭台を盗もうとするアクシズ教のアークプリーストがいるので、『入室禁止』と聖堂に貼り、掃除を進める。

 荘厳な空気の流れる聖堂には、つい姿勢を正したくなる雰囲気で満たされていた。

 エリス様の教会っていいよな。

 誰にも邪魔されず、独りで静かで豊かで、自由でなんというか救われる。

 ステンドグラスを磨こうかと梯子を用意していると。

 

 ばりーん、とステンドグラスが舞い散った。

 俺の足元にころころと転がる石。

 ……。

 ステンドグラスを一か所に集め、聖堂に貼られていた『入室禁止』を引き剥がし、扉を開く。

 通りかかった神官の人にステンドグラスを割られたのと折檻してくるという旨を伝える。

 

 さすがの俺もキレちまったよ。

 

 

 

 石に『追跡』『核熱』と掘り、貯蔵できる限界まで魔力を込め、投擲。

 

 「よし、行け。俺を邪教の元に導け」

 

 

 

 

 

 ごっ、と鈍い音を鳴らしながら、アクシズ教のアークプリーストのおっさんに石が突き刺さった。

 

「な、何が……」

 

「天罰に決まってんだろうがアクシズ教ぉおおお!」

 

 『核熱』が発動し、石が小さくない爆発を起こして破片を撒き散らす。

 

「ちょ、なずーりん! 何やってくれているんですか! 今は悪魔が……」

 

「はあ? 悪魔……?」

 

 里で追いかけたむちむちぷりりんな赤髪悪魔が、アクシズ教徒に囲まれて涙目になっていた。

 アークプリーストのおっさんは倒れたまま。

 それを見守るゆんゆんとめぐみん。

 ブロントさんはお休みです。

 

「よし、加勢するぞ女悪魔。協力して此の地からアクシズ教を根絶やしにしようじゃないか」

 

「えっ」

 

 呆けた悪魔を無視しながら皮袋からミスリルスライムや赤熱するキューブを取り出し、槌を生成。

 邪教との聖戦だわ。

 

「いやいや、ナズナさん! 悪魔ですよ!? エリス教も悪魔は……」

 

「まず悪魔と協力して悪の根源であるアクシズ教を滅ぼす。そして、疲れた悪魔を俺が滅ぼす。これは平和への第一歩である」

 

 ゆんゆんの言葉を華麗に論破し、ブン……ブン……と赤熱した槌を振る。

 槌に貼り付けた鉄板には片面に『魔法を禁ず』、もう一方に『動作を禁ず』というシンプルかつ最強の文字。

 対魔力を純粋な熱量で焼き切る槌、傷口に強引に植え付ける魔力、能力によって基本行動を無効とする三本柱だ。

 人間に使うならばおそらくこれ以上に効果のある攻撃もないだろう。

 

「何したんですか! なずーりんが今までにないほど怒ってますよ!」

 

「子供と遊んでて楽しそうで悔しかったからエリス教会に石を投げ込みました」

 

 がくがくとめぐみんに揺すられていたおっさんがそう答えた。

 

「なぜそんなことを!」

 

「この街の子供に近づくことが禁止されている私には、彼が憎かったのです……!」

 

「あとエリス様の肖像画に落書きをしたし、飾って置いたクリスの花を盗んだ。さらに配給用のパンを強奪して、神官の方の下着を盗んだ」

 

俺の言葉におっさんを含んだアクシズ教が目を逸らした。

 

「馬鹿ですか! アクシズ教徒は本当に馬鹿なんですか!?」

 

 

 

 

 

 --3

 

 んじゃいくよ

 

 俺、夏芽薺(`ェ´)ピャー

 

 留置所にぶち込まれて一晩を過ごした。

 

 アクシズ教と女悪魔、カースメイカーが街中で暴れるんだから、そりゃあしょっ引かれるよね。

 

「このまちきらい」

 

「いやいや、そんなこと言わずに我々にも子供に近づける方法を伝授してくださいよ」

 

 一緒にぶち込まれたアクシズ教のアークプリーストであるゼスタとかいうおっさんにすり寄られ、夜を過ごすとか地獄だった。

 子供に近づく方法って生々しくてきっも。

 異世界ってほんとツラい。

 

「あくしずきらい」

 

「ナズナさーん、迎えに来ましたよ。大丈夫でしたか……。ああっ! ナズナさんの目がまた濁ってる! ブロントさんさん早く来てー!」

 

 

 

 

 

――

 

ナズナ

エリス教会で世話になっている熱心な魔法使い。

子供のために人形劇や本の読み聞かせを行い、アクシズ教の被害にあった大人たちの相談に乗る姿から一定の信頼を獲得した。

教徒にならない理由はエリス様を理解するためであるとか。

 

・エリス様の祝福

彼はよみがえる際にエリス様の影響を強く受けている。

彼は敬虔なアクシズ教徒から標的にされやすい。

彼はアクシズ教の本拠地であるアルカンレティアではLUCKが強制的に0判定になる。

彼はアクシズ教徒が近くにいる場合、全ての行動が失敗判定となる。

彼が場にいるときアクシズ教徒の運も0に落ちる。

 

――

 

 

 

 

 

1-9(爆焔編完)

 

 

「や、やっと見つけた……」

 

「うん? どこかで会いましたっけ?」

 

「あ、いや、えっと。そ、そう。こっちの勘違い! あたしの勘違いだった!」

 

「はあ、そうですか」

 

「まあ、ここで会ったのも何かの縁だよ! キミ、アクセルははじめて?」

 

「さっき着いたばかりなんで冒険者ギルドに行こうかな、と」

 

「ならあたしが案内してあげよう! 間違って声をかけて呼び止めちゃった謝罪の代わりってことでどうかな?」

 

「いいんですか? 仲間がアクシズ教のプリーストを見かけたらしく気絶したので困ってたんです。案内をお願いしますね」

 

「えっ」

 

「あ、自己紹介しておきます。我が名はナズナ! 無数の文字を操る者にして紅魔からの来訪者!」

 

「どう゛し゛て゛ぞう゛な゛っ゛だん゛だよ゛お゛お゛ぉ゛お゛!゛!゛!゛」

 

 藤原ったクリスが崩れ落ちた。

 え、なんか不作法でもあったのかな。

 

 

 

 

 

 ―― こ の す ば ! ――

 

 

 

 

 

 気絶しているブロントさんを背負い、クリスの先導でギルドへ向かう。

 俺の挨拶だが、紅魔族式だったらしい。俺に間違って声をかけたクリスという盗賊の女性が教えてくれた。

 紅魔族式はまず一般人ではやらないし、受けない、理解されないの三拍子。

 やたらとアルカンレティアで生ぬるい反応をされると思ったよ。

 ローブ来てるし、もう完全に紅魔族だと思われるとも。

 うわぁ恥ずかしい死にたい……^q^

 

 紅魔族認定を避けるため、アルカンレティアのエリス教会で貰ったプリースト用のローブに袖を通す。

 よし、これで頭のおかしい奴認定は避けられるだろう。

 しかし、まさか紅魔族の常識がおかしいとは。

 薄々わかってた。

 常識はどこにいっても常識、最初のナプキンを取る者はいつだって共通の常識を持つ人なのだ。

 

 ギルドに到着。

 ふう、と空いている座席にブロントさんを座らせ、周囲を見渡す。

 なんというか、ファンタジーの冒険者ギルドって感じで落ち着く。

 戦士風の荒くれ者が楽しそうに酒を呑み、ローブを来た魔法使いが本を読み、ギルドの綺麗なお姉さんが書類を書いている。

 ここには中二患者も唾を吐きかけてくるラマみたいな宗教狂いもいないんだ、あれは全部夢だったんだ。

 いや、紅魔族に関しては感謝しているので良い夢だったんだけど。

 そういうわけで、やっと俺のファンタジー人生が幕を……

 

 

「そこのプリースト! あなたの宗派を言いなさい! 私はアクア! そう、アクシズ教が崇める御神体の女神、アクアよ!」

 

 

 キェェェェェェアァァァァァァアクシズキョウガシャァベリカケテキタァァァァァァァ!!!

 

 

 

 お金がないので貸して欲しい、という理由で話しかけて来たらしい。

 くっそ、プリースト装備にしなけば良かった……!

 

「あの……エリス様を信じているのですが……後ろの二人もエリス教です」

 

「あ、すいません……」

 

 気まずい。

 エリス様が好み過ぎてあんまり覚えていないが、なんだかポテチの女神にフォルムが似ている気がする。

 こっちの気まずさも半端ない。

 これで本人だったらテキトーに送られてオークど真ん中だった経験もあって文句を言いたいが、憐れ過ぎて何も言えない。

 ポテチ食ってないし、傲慢でもないから違うのだろうけど。

 馬鹿っぽい空気は一緒だから、なんとも言えない感情になる。

 

「エリス様を信じてて、その、申し訳ないです……」

 

「いえ……」

 

 もうさっさと話を終わりにして、他の街へ行く商隊の護衛する仕事を探そう。

 アクシズが嫌すぎて、用事があるというエリス教の人にテレポートしてもらった。

 ゆんゆんやめぐみんよりも早く出て来てしまったので、二人に挨拶してからアクセルを出る予定だ。

 そう思ってたら、クリスに袖を引っ張られた。

 

「あー、あの、アクシズ教の方。俺が教えて貰った話によるとアクア様とエリス様は先輩後輩の間柄らしくてですね」

 

 アクシズ教のアクア様()を呼び止めた俺を、クリスが上目づかいで期待を込めた瞳で見つめてくる。

 なんだこの娘マジ可愛い。

 2ゆんゆんくらい可愛い。

 

「エリス様は慈悲深く、優しい方なので、肖りたくなりました。お金なら持って行って下さい」

 

「あ……ありがとうございます」

 

 テキトーに一万エリスくらい渡す。

 見知らぬプリーストに借りようとしたのだからそれほど高額ではないはずだ。

 

「あの、あまり女神様を騙るのは良くないと思うので止めたほうが良いかと。俺もエリス様を騙られたら怒ると思うので、他のアクシズ教の方が黙ってないかもしれません」

 

「はい、すいません。気を付けます……」

 

「あと、勧誘とかそういうのは絶対に止めてください。死にます」

 

 ブロントさんが。

 

「えっ!? それほどまでなのっ!?」

 

「はい」

 

 神妙に頷くと、女神アクア様()は死んだ魚の目をして、後ろに立っていた黒髪の少年と合流していた。

 死にます、の下りで「マジで!?」ってギョッとしていた。

 アクシズ教を知ればマジだったとわかると思う。

 

 なんかとても疲れた、と席に座る。

 合わせて、クリスも無言で座った。

 出鼻が挫かれてしまった……。

 

 対面に座ったクリスはひどく切ない表情だった。

 目覚めたらしいブロントさんも切ない顔をしている。

 俺もひどく切ない顔をしているのだろう。

 

 

 

 

 

 自分が信仰する女神様が、嫌がらせしているライバル宗教にお金を借りてるのを見たら絶対に嫌だなぁとか、そういうもにょもにょする思いをなんとか払拭する。

 しかし、アルカンレティアであんなに元気だったアクシズ教があそこまで弱体化するなんて、切なさが倍増である。

 駄目だ、全然払拭できない。

 未だにクリスは切ない表情のままだし、ブロントさんも気絶させられた相手の情けなさにひどくしょんぼりとしている。

 心に傷を作りまくりだ。

 もうアクシズ教には近づきたくないです……。

 

 関係者だと思われたくないのでさっきの二人組が手続きしていた胸元ゆるゆるの受付さんを避け、商隊の護衛依頼を見繕ってもらう。

 さっきの人はステータスが高いとか、知力がめっちゃ低いとか、運が無いとか盛り上がっていたので待っていたのだ。

 結局、討伐などの出来る仕事がないので、揉めていたが日雇いのバイトに向かって行った。

 ああいうのを見てると、軌道に乗れるまでは地盤が無いから異世界って甘くないよなぁと内心でげんなりする。

 

 受付の方に話を聞くと初心者の集まる「アクセル」での護衛は、俺とブロントさんなら引く手数多で何でも受けられるそうだ。

 ゆんゆんが到着し、様子見できるくらいの期間は欲しい所。

 数日後にいくつかの街を経て王都へ向かう商隊の護衛があったので、それを受けることにした。

 

 

 

 しょんぼりしているクリスとブロントさんの気分がなんとか回復するように、親交を深めるという名目で飲み会に移行。

 お酒の力も借りて、なんとか士気を回復……。

 即日でバイトをクビになったと騒ぐアクアさまが現れて、テンションが駄々落ちとなった。

 

 対面に座っていたクリスは、またもひどく切ない表情だった。

 お酒で気分が乗っていたブロントさんも切ない顔をしている。

 俺もひどく切ない顔をしているだろう。

 

 アクシズ教最後の一撃は、切ない……。

 

 

 

 

 

 --1

 

 街で評判の貧乏店主の店に来た。

 魔道具に興味があったから、というのが建前で、店主であるウィズが美人らしい。

 確かに胸が大きく、儚げで美人だった。

 ただ、レジでパンの耳に砂糖を塗してもそもそと食べていた。

 今はお金が無いので三食パン耳らしい。

 

 なんでこの街は切ないことする人ばかりなんだよ……;;

 

 

 

 気を取り直して、商品を見て回る。

 有用な物があったら、ちょっと高くても買うことで彼女の食生活改善に協力してあげたいと思う。

 

 商品その1

 「カエル殺し」

 定価:二十万エリス

 アクセル近郊にはジャイアントトードと呼ばれる巨大なカエル型のモンスターがおり、討伐するクエストを受けることができる。

 このアイテムはジャイアントトードにとって極上の餌に見えるらしく、集ってきたやつらを、中に仕込まれた炸裂魔法で消し飛ばすことが可能だという。

 

「これはなかなか良さそうですね」

 

「あっ、それは私もおすすめしてますよ! ジャイアントトードを一掃で来るし、とても便利です!」

 

「それはすごい。ところでジャイアントトードって一匹いくらぐらいで取引されているので?」

 

「お肉も合わせて一匹二万五千エリスだそうです!」

 

「なるほど、わかりました。とてもいい商品ですね」

 

「ああっ! そんないい笑顔で褒めながら棚に戻さないでくださいぃ!」

 

 

 

 商品その2

 「野外トイレ一式」

 定価:三十万エリス

 野外で活動する冒険者たちの安息を約束してくれる洋風トイレ。

 水洗、消臭、消音機能付き。

 

「……これはなかなか良さそうですね」

 

「あっ、それは私もおすすめしてますよ! 持ち歩けるし、落ちついて用を足せるらしいので!」

 

「それはすごい。ところで、排泄物とかはどうやって処理したらよいのでしょうか。予め土を掘っておいて、そこに流すとかですかね」

 

「いえ違います。立ち上がった五秒後に、炸裂魔法で吹っ飛ばすらしいです! 飛び散る水でお尻も綺麗になるのでとても便利らしいです!」

 

「……なるほど、わかりました。これもとてもいい商品ですね」

 

「ああっ! そんないい笑顔で褒めながらまた棚に戻さないでくださいぃ!」

 

 

 

 商品その3

 「モンスター誘引剤」

 五十万エリス

 これをほんの少し垂らせばあら不思議、大量のモンスターが寄ってきます。

 

「…………これは?」

 

「あっ、それは私もおすすめしてますよ!」

 

 全部おすすめだし、ガバガバじゃないですか。

 

「モンスターのみならず、他人親兄弟も一緒になって襲い掛かってきます!」

 

「……なるほど、わかりました」

 

「ああっ! とうとう笑顔で棚に戻すようになってしまいました!」

 

 

 

 商品その4

 「爆裂ポーション」

 百万エリス

 飲むと胃から爆ぜる。

 

「その、無表情は怖いので、何か言ってもらえると……」

 

「……」

 

「いえ、なんでもないです……」

 

 

 

 ゴミしかなかった。

 無理して買う?

 うん、それ無理。

 一回使い切りのゴミが数十万エリスって、そこら辺に売ってるジョークグッズだってもっと安くて有用なんだが。

 

 他に見て回ると、魔力遮断シリーズがあった。

 ここにも浸食していたのか、職人ひょいざぶろー!

 里から出たと言うのに、這い寄るように付いて来る魔道具に戦慄を隠せない。

 

 ひょいざぶろー作品を持ったまま、視線を感じて振り向く。

 ウィズがパン耳を齧りながら、期待に潤んだ視線を向けてくる。

 や、やめろ。

 そんな目で見るんじゃない。

 ジーッと見つめられる。

 見つめすぎて、砂糖が零れて、その豊満な胸の上に降りかかり、白く染める。

 あざとい……。

 

 

 

 

 

 結局買ってしまった……。

 しかも十メートルほどの長さの鎖まで……。

 あざとさと切なさには勝てなかったよ……。

 

 店を出るとき、冷やかしの冒険者に睨まれた。

 彼らは買う振りをしてウィズをおちょくり、いじめるためだけの常連らしい。

 可哀そうな姿を見るため、何も買わないらしい。

 

 いや、そんなん俺には無理だから。

 ゆんゆんと過ごした俺が出来るわけないじゃん……。

 

 

 

 

 

 --2

 

 もうなんか疲れることばっかでツラい。

 里に戻りたいと思うのはホームシックに掛かっているのだろうか。

 いや、そもも紅魔族の里は俺のホームではないんだが。

 

 

 

「あ、ナズナさん」

 

 なんかよくわからない気疲れを抱えながら、ギルドでぼっち飯をしていたゆんゆんに向かう合う形で席に座る。

 俺が座ると、ぱぁっと花が咲くように笑顔を浮かべた。

 やっぱ俺にはゆんゆんをスルーすることなんて出来ない。

 ゆんゆんが到着した日に、ブロントさんが席をスルーする素振りをして半泣きにしたのを思い出すと、俺にはあんな上級者プレイは一生出来ないだろう。

 

「パーティはどう? 誰か来た?」

 

「……まだです」

 

「まあ、そう簡単にはいかないよね」

 

 料理を注文し、ゆんゆんが貼ったであろうパーティ募集の張り紙を確認。

 『パーティ募集しています。優しい人、話を聞いてくれる人、名前を笑わない人……』

 つらつらと彼氏や友だちの要望を連ねていた。

 いや、これパーティ募集なのだろうかという疑問が湧いた。

 普通にアークウィザードで中級魔法が使えるとでも書いたら、ざっと見た感じだがこの街ならかなり人気が出ると思うのだけど。

 

「あー、その、ゆんゆん。この募集なんだけど」

 

「君、十三歳なんだって? おじさん……じゃなくて僕も十三歳なんだよ! どうかな、一緒にパーティを……」

 

「いえ、あの……」

 

 目を離した隙に、ゆんゆんがおっさんに絡まれてた。

 ホントにゆんゆんをこの世界に羽ばたかせていいのだろうか。

 いや、マジで。

 

 

 

 

 

「変な人だったら危ないから。ゆんゆんもちゃんと断んないと」

 

「それはその、ごめんなさい。ギリギリ、ほんとにギリギリいけるか悩んでて……」

 

「全然ギリギリじゃなかったから。もっとハードル上げなさい」

 

「はい、次から頑張ります……」

 

 ゆんゆんがそう言って俯いた。

 相変わらず幸薄そうだ。

 

「うん、頑張ってね。今回は勝手にどっか行ってくれたけど」

 

 ウェイトレスのお姉さんに呼ばれたので、席に戻って料理を食べながら事の推移を見守っていたのだが。

 ゆんゆんがちゃんと断る前に、おっさんはギルドから出て行ってしまった。

 

「ナズナさんが無表情で怖かったんだと思います……」

 

 怖くないです。

 表情筋殺してる系異世界転生者なだけです。

 クセだった卑屈な笑みとか浮かべてもしょうがないし。

 今となっては無表情の方がクセになりつつある。

 悲しい。

 俺だって感情表現が豊かな顔になってみたい。

 

「ホントに一人でやっていける? 俺は心配で死にそうなんだけど」

 

「だ、だいじょぶです」

 

 この娘、声が震えてるんだけど。

 ここまで大丈夫じゃない大丈夫です発言は、きっと別の世界で提督にならないと聞けないだろう。

 俺が心配で死ぬ前に、ゆんゆんが孤独で死にそうだ。

 

「ここで頑張ってめぐみんを追い抜きます」

 

 ゆんゆんは胸の前で両手をグッと握り、気合を入れた。

 目標があるっていいことだと思う。

 心配だけど、頑張ると自分で言っているし、自立するのもいいのかな。

 まだ十三歳なのと人見知りすぎて他人を疑えないのが非常に心配な部分だ。

 

「それなら応援しているよ。俺とブロントさんは明日の朝に出発だから」

 

 いくつかの冒険者パーティとともに、複数の商隊グループを護衛しながら街を移動する。

 俺とブロントさんがメインに護衛する商隊は、王都に向かうので、次の目的地である街で一度商隊グループを抜け、異なるグループに混ざる。

 それを行く街の先々で繰り返し、最後に王都に到着するという寸法だ。

 護衛する代わりに道程での衣食住を受け持ってくれる。

 相手は上級職による護衛を得られるし、俺たちは面倒な準備や荷物を省ける。

 

「そうですか……。あ、そうだ」

 

 俺の話を聞き、物憂げな様子だったゆんゆんが髪を束ねていたリボンを解いた。

 

「私が使ってたので良ければ、その、どうぞ」

 

 そういえばアクシズ教に吹っ飛ばされてそのままだった。

 アクア様とアクシズ教をこの世界から省いてゆんゆん様という女神とよんよん教を作った方がいいんじゃないかな。

 まあ、よんよん教は友達が少なそうだけど。

 友だちが欲しい連中が集まって友だちになる互助組織にすれば、あとはアクシズ教よりも完璧でしょ。

 

「ゆんゆんは女神だね。やっぱ一緒に来ない?」

 

「ええっ!?」

 

 癒されるし。

 

 

 

 

 

 アクセルの街に着くまでの話をゆんゆんから聞く。

 めぐみんがアクシズ教から祝福の魔法をかけられたのに、自分は無かったとか。

 里やアルカンレティアに現れたあの上級悪魔と出会ったが、最終的にめぐみんに葬られたとか。

 魔法の修得数が増えたとか。

 

「ゆんゆんも頑張ってるからね。そろそろめぐみんも焦ってくるかな」

 

 そんなことをゆんゆんに言う。

 そもそも別ベクトルの相手とどうやって競うつもりなのだろうか。

 ゆんゆんがこの星で徒競走の練習をしているとしたら、めぐみんはポップスターでグルメレースしているようなものだし。

 

「ふふふ、この私が焦る? まさか、ありえませんね」

 

 どさっ、と机に勢いよく身を預ける音とともに、めぐみんの声。

 そちらに声を向けると、脱力した姿のめぐみんが居た。

 身体を机に凭れかけ、顔だけはまっすぐとこちらに向けている。

 この姿を見ていると、もう勝負は決まった感しかないのですがそれは。

 

「まあ、すでに地平の彼方まで追い抜かれたら焦る必要もないよね」

 

「何勝手に悟っているのですか。私は一芸特化でブッチ切りですから」

 

 はぁ、と大げさにため息付き、呆れた表情を作って見せつける。

 

「一芸特化っていうのは、その分野に対して修めていることだと思うんだ。局所的に伸ばしているめぐみんはあれだ。オタクだ」

 

 爆裂オタクめぐみん。

 地下アイドルにいそう。

 

「だからマニアック向けに頑張ったらいいんじゃないかな」

 

 ニッチな層にしか受けないだろう。

 しかもその層は同族のみだ。

 マニアックなオタクが同族で群れるのは何故か、自分を優先するために求められないからだ。

 だから欲求を満たせる互いで埋めるのだ。

 類は友を呼ぶとも言うし、悪い結果にはならないのかもしれない。

 わからんけど。

 

「腑に落ちませんが、わかりました。頑張って私に相応しい上級職の仲間たちと魔王を討伐しようと思います」

 

「めぐみん、その、望みが高すぎるよ……」

 

 ゆんゆんすらもつっ込む要求である。

 これは駄目かもわからんね。

 

 

 

――新入り! いいから早くギルドの裏からサンマを持ってこい!

 

――舐めんな! 訳わかんない指示出してオロオロする俺を見て楽しもうってのか!

 

――ち、違うの! 体質なの! 実は私、女神なの!

 

 楽しく二人と話していると、ギルドの裏から言い争いが聞こえてきた。

 嫌な予感がする。

 

「なずーりん、どうかしましたか?」

 

「いや、なんでもない」

 

 なんでもない。

 なんでもないでいてください。

 なにもなければしあわせでぼくはただしあわせにいきたかっただけなんだなぁ。

 

――おい、聞いてるのかおっさん! ガキだからって馬鹿にしてるんじゃねーぞ!

 

――私はアクア、あのアクシズ教が信仰する女神。だからネロイドに触ったら水になっちゃうの!

 

――うるせー! わけわからんこと言いやがって! おまえらはクビだ!

 

「ナズナさん? なんだか目から光が失われているような……」

 

「わああああ! カズマさん! 私がんばったのよ!? 一生懸命がんばったのよ! なのにクビって……! クビって……!」

 

「上等だよ! こんな意味わからないところこっちから止めてやるよ!」

 

 !!ああっと!!

 めがみアクアさま と そのつきびとA が あらわれた!

 

「あくしずきらい」

 

「ああっ! ナズナさんの目がまた濁ってる! ブロントさんさん早く来てー!」

 

 ブロントさんはすでに不運なアンブッシュによって気絶してるから来れないんだよなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 




めぐin「なんてこった! なずーりんが殺されちゃった!」
ynyn「この人でなしー!」
Buront/s<なずーなんかいつも死んでんじゃにいか」

エリス様
信じて送り出した(途中で出て行ってしまった)転生者をやっと見つけたと思ったら、この世界でもキワモノな紅魔族に染まってしまっていた。
その様子に驚愕した際、藤原った。

ブロントさん
神器の影響で言語がっばがば。

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