実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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原作:デスノート ショーギノート(完)

 

 

 --1

 

 最近、進藤の付き合いが悪くなった。

 遊びに誘っても、今日は都合が悪いのだと帰るようになった。

 粘って誘っても駄目だった。

 ライバルの俺が誘っても駄目とかどうなっとんねん。

 

 俺と進藤はライバルだ。

 運動では互いがせっさたくまし合う好敵手なのだ。

 それなのに無視されるとは、ぐぬぬ。

 どうでもいいけどライバルを好敵手って書くとかっこいい。

 

 

 

 付き合いが日に日に悪くなっていく進藤が気になって、進藤の幼馴染である藤崎に話を聞いた。

 どうやら趣味が出来たらしい。

 俺と遊ぶのよりも面白いとかどうとか。

 

 なん……だと……。

 

 詳しく聞くと、じいさん連中が縁側でやってるようなゲームに嵌まったようだ。

 なんか木で出来た網のある机に駒を並べる遊びだとか。

 

 あーわかるわかる。

 うちのじいちゃんもやってるし。

 あれだろ、しょーぎってやつだろ?

 

 なるほどなー。

 しょーぎかー、げんりはわかるんだけどなー。

 げんりならわかるんだけどなー。

 

 ……げんりだけだとダメだよな。

 

 よし。

 

 

 

 

 

 --2

 

 じいちゃんのしょーぎをやりたいと頼んだら色々と教えてくれることになった。

 じょーせき、てすじ、つめ、かんせんと放課後や休みの日もぎっちりだ。

 遊ぶのもやめてしょーぎばっかり。

 

 本は読めば一発で覚えるけど、捲るのが面倒なんだよね。

 かんせんはテレビを見て、その先をじいちゃんやその友達連中と指し手を予想しながら眺める。

 時間がかかるけどなかなか面白い。

 

 まだ、進藤には秘密だ。

 俺が無茶苦茶強くなったらボコす。

 頭の出来は俺のほうが良かったけど、運動はちょっと負けてた。

 つまり将棋で倒して好敵手との争いに終止符を打つのだ。

 将棋だから打つって言ってみた。

 

 

 

 

 

 --3

 

 進藤と対戦する前に引っ越すことになった。

 そ、そんなー……。

 

 

 

 

 

 --4

 

 進藤が飽きたらどうしようかと困惑しながら、転校した中学に馴染もうとする日々。

 むしろ馴染まなくてもいいんじゃないかと思ってきた。

 将棋優先したいし。

 

 メールで藤崎に、近況報告などで誤魔化しながら進藤の近況を尋ねると、ネットで対戦するのに嵌まっているらしい。

 な、なるほど。

 いつだって俺の一歩先を行くやつだ。

 やはり侮れない……。

 

 俺もネット将棋で戦ったり、じいちゃんに教えて貰った練習で自分を磨く日々だ。

 ネット将棋では進藤っぽい人と対戦することは叶わないばかりだ。

 ちょっと残念な気持ちになりつつも土日は将棋会館道場などで、対人戦も頻繁に行う。

 ふふふ、強くなっていくのがわかる。自分が怖い。

 

 

 

 

 

 --5

 

 藤崎に、近況報告しながら進藤の現状を尋ねる。

 去年くらいに専門学校に入ったらしい。

 な、なるほど……。

 いつもいつも先に進むやつだ。

 だがそれでこそライバルに相応しい。

 

 8月の奨励会試験にむけて、更なる研鑽が必要だ。

 大会とかもガンガン出る。

 で、優勝もする。

 アマチュアの大会だが、優勝するほどの力があれば進藤を倒せるだろう。

 対局する日が楽しみだ。

 

 ああ、でも奨励会に入ったらしいし、そこで対局する日が来るかもしれない。

 

 

 

 奨励会への試験だが、一次試験は免除などで楽しつつ合格した。

 なんか色々と補正が載って1級である。

 強そう。

 

 

 

 

 

 --6

 

 【悲報】進藤、いない。

 推薦で高校に進学し、勉強を片手間に聞き流して奨励会で頑張ってたのだが、気付いた。

 そう、昇段試験で進藤がいないのだ。

 地方は一緒のはずなのに。

 どうなっとんねん。

 もしや飽きて辞めたのか。

 それとも実力が追い付かずに絶望して辞めたのか。

 

 不安になったが、困ったときの藤崎である。

 連絡すると、プロになってたらしい。

 

 え……?

 

 

 

 え……?

 

 

 

 俺がぬるぬると過ごしている間に進藤はプロ、だと……。

 や、やるじゃん(震え声)

 辞めたとか俺ってホント馬鹿。

 ライバルは伊達じゃないようだ。

 

 こんな高校なんて言ってる場合じゃねえ!

 授業を抜け出してダッシュで帰宅、と思いきや校門付近でノートに脚を取られて転んだ。

 追いかけてくる先生を無視して帰宅した。

 

 原因のノートを何故か持って帰ってきてしまった。

 英語で使い方とか色々と書いてある。

 うっわ……。

 いやいや、うっわ……。

 なにこれ恥かしい……。

 

 

 

 

 

 --7

 

 進路指導室でめっちゃ怒られた。

 でも俺は大人からの圧力に屈しない。

 将棋のプロ棋士になるのだと熱唱。

 「プロなんて無理やで」派の先生と「おう、頑張れよ^^」派の先生が熱い論争を繰り広げていた。

 なるほどなー。

 よくあるよくある。

 めんどくさくなったので帰宅。

 

 俺が転んだ原因のデスノートだが、名前を書いたらそいつが死ぬらしい。

 悪趣味だ。

 言霊とか、そういうのが言い伝えられているのに死ぬとか不謹慎だ。

 不謹慎厨の俺はこういうのが好きじゃないのだ。

 破棄したい。

 

 でも、もしかしたら書いた中二まっさかりの人が困っているかもしれない。

 もう一度同じ場所に放置するのは罰としてはいいかもしれないが、やはり可哀そうである。

 俺が預かっておこう。

 それっぽい人が学校に行ったときにいたらこっそり渡せばいいし。

 

 

 

 学校から呼び出された。

 勝手に帰ってどうとかこうとか。

 あー、もううるさないなぁ。

 今は冬だから炬燵から出たくないに決まってるじゃん。

 

 だから学校にいきませーん。

 ファイナルアンサーでせいかいでーす。

 トゥーンだから学校に行かなくて平気デース!

 ショーギは完全なる生命体の誕生を意味するのデース!

 

 

 

 

 

 --8

 

 家庭訪問された^q^

 

 3年の先輩である「やがみらいと」という先輩は全国模試1位で模範生徒なのにどうとかこうとか。

 え、らいとって名前?

 ロックマンを生み出した博士なの?

 波動拳とか撃っちゃうの?

 ワイリーとかいるの?

 みたいな。

 

 じいちゃんは将棋で頑張れ派である。

 両親は難色を示しているが、それは囲碁ファンだからだ。

 プロ自体は、囲碁でも俺の同世代がプロになってるし、いけるんじゃねって感じだ。

 

 囲碁(笑)

 白黒の石を置きあう、リバーシのメガシンカ形態だ。

 将棋と比べれば如何に軟弱かわかる。

 将棋でプロとなり、好敵手の進藤と矛を交えるのだ。

 至高である。

 父はあきら、母はひかるという、近年プロ入りした二人を応援している。

 あきら(笑)

 ひかる(笑)

 やっぱ将棋が一番だな。

 

 

 

 あと、りゅーくってのが来た。

 羽根とか生やして飛んでくるとか絶賛中二病である。

 デスノートの元所持者らしい。

 で、所持者は俺とか。

 いや、名前書かないから。

 でも本物っぽいなぁ。

 返すと他の人が使うかもしれないようだ。

 

 ……預かっておこう。

 

 

 

 

 

 

 --9

 

 高校2年秋、将棋でプロとなった。

 強くてすまんな。

 狭き門も、俺のライバルと戦うための主人公パワーの前には開かざるを得なかったようだ。

 進藤はプロの世界で待っているのだろう。

 強くなったライバルをこの目で見るために、俺は将棋のプロの情報などはシャットアウトしているのだ。

 進藤はきっと俺と将棋盤を挟んで「トゥーンだから平気デース!」「トゥーンは完全なる生命体を意味するのデース」と言うに……おっと間違えた。

 

 ……。

 んんっ。

 進藤はきっと「……………………分かった!教えてあげる!この私が!世界で一番!強いってことなんだよ! 」と俺に言うだろう。

 わくわくする。

 これはあれだな。

 名人戦のシチュエーションに違いない。

 いや、そこまで行く前に対局するだろうけど。

 ただまあ、夢は大きく持つべきだろう。

 

 あーわくわくする。

 どきどきするわー。

 さすが進藤。

 俺の心を掴んで離さない。

 

 りゅーくが、俺に進藤を殺したら勝ちじゃねとか言い出した。

 うわーコイツ馬鹿だ。

 殺したら勝ちも何もないじゃん。

 というか殺したい相手がいるほど殺意の波動に塗れてないんですけど。

 ノートが真っ白ですまんな。

 というかもうノート燃やした、ごめん。

 

 

 

 あ、今はプロ入りした新入り棋士のインタビューだった。

 えーと、どうしようかな。

 そうだ。

 

 

 進藤プロと戦うのを楽しみにしています、と。

 

 

 

 

 完璧だ……。

 

 

 

 

 

 --10

 

 進藤、将棋やってなかった……。

 すごい凹んだ。

 進藤もなんかサイという友達がいなくなったのを思い出したのか凄い凹んでた。

 なんかサイというのは亡霊だったらしい。まあ俺にもりゅーくとかいうのがいたからわか……りゅーくはどうでもいいからわからん。

 

 あー……。

 あー。

 あ……。

 あー……、ダブル凹みとかやめれ。

 

 先に俺を慰めてくれよ。

 進藤が将棋やってると思ってここまでやってきたのに。

 いや、三年か四年くらいだけど。

 楽しかったから悪くないけど、囲碁なら囲碁って言えよ……。

 なんで俺将棋やってんだ……。

 

 進藤はサイという亡霊師匠で名人が教えてくれたから囲碁をやったらしい。

 で、ちょっと前にいなくなった的な。

 久しぶりに思い返すとなぜ囲碁をやってるんだろうってなったっぽい。

 

 あー。

 わかるわかる。

 あるあるネタだな、気持ちは落ち込んでるけど。

 

 

 

 で、なぜ進藤が将棋をやってないかというのがわかったかというと、イベントに突撃したからである。

 近くでやってるって聞いたし、行きたくなった。

 目と目が合ったら勝負の合図!と乗り込んだが、進藤が囲碁ってた。

 めっちゃ囲碁だった。

 二度見したけど、リバーシのメガシンカだった。

 持ってた扇子ごと崩れ落ちた。

 あまりにも見事なorzだったのか、進藤が気付いてなんやかんやあって合流した。

 

 俺と進藤の、時を超えた出会いは悲劇しか生まないやでぇ……。

 

 

 

 

 

 そういえばインタビューで俺、進藤プロを倒すとか言っちゃったんだよなあ。

 ググったけど、将棋の棋士に進藤プロはいなかった。

 嗚呼……。

 

 ……そうだ、囲碁やろう。

 

 

 

 

 

 --11

 

 ファッションモデルのミサミ(?)とかいうのがキラ容疑で逮捕とか、ニュースを聞き流す。

 俺が本気になれば囲碁なんてちょちょいのジョイやで。

 と、軽んじてたけど進藤にボコされるんだよなぁ。

 将棋なら余裕で勝てる。

 が、互いの得意分野で勝てても意味ないし。

 

 ……天竺大将棋とか。

 

 ナチュラルに得意分野に寄せようとした目論見がバレて、頭を軽く叩かれた。

 

 

 

 結局飯を食べに行き、バッティングセンターで遊び、帰り際にメルアドと携帯の番号を交換した。

 

 

 

 

 

 --12

 

 囲碁でボコられ、将棋でボコりつつも俺は順調な戦績を修め続けていった。

 進藤はまあまあっぽい。

 ライバルのあきらがどうとか、韓国の人がどうとか。

 

 ライバル……羨ましいなぁ。

 俺の場所だったのに。

 ぐぬぬ。

 しかも進藤が意識する亡霊は男だという。

 ぐぬぬ……。

 

 進藤と五目並べをしていたのだが、話を聞いて俺が何とも言えない表情をしていたらしい。

 俺とお前はライバルだったのに悔しいと真面目に伝えてみた。

 進藤は無言で五目並べを進めていく。

 俺もしょうがないので、こつこつとやっていく。

 こいつボードゲーム強ぇー。

 女性は大局を見据えるのが苦手、なんて話も聞くんだけど。

 追い詰められ、結局負けた。

 

 敗者が片づける、それが我々のルールである。

 あそこでああしてればなぁ、と負け惜しみを呟き、進藤がそれに皮肉で答える感じで片づけを進める。

 ご飯は何処へ行こうかと考えていると、小さなソファに進藤が改まって正座していた。

 なので、俺も空気を読んで床で姿勢を正し、対面する。

 

 ライバル枠は順番待ちだけど、隣は空いてるらしい。

 隣……?

 ずっと一緒にいてもいいならどうぞと進藤がソファの横のスペースを叩いていた。

 あ、はい。

 隣でいいかな。

 というか隣がいいです。

 

 き、金のメッシュが昔からとても可愛いと思ってました!

 あと、その、性格とか顔とか全部好きです!

 た、タイトルとれたら結婚しましょう!

 

 

 

 

 

 「私達、結婚します」と藤崎に連絡したら、泣かれた。

 幼馴染が幸せを掴んだことへの感動の涙か。

 「なんでヒカルなのー!?」って叫んでた。

 


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