俺のサマナーとしての活動範囲は相模線沿いの町がメイン。
依頼で呼ばれたら栄えている市にも行くが、基本的には電車やバスで移動できる場所に限っている。
車で移動してもいいんだけど、俺は運転が好きじゃないしピジョンちゃんを乗せてる時に明らかな危険運転で煽られたら殺してしまうかもしれん。
一応ヤタガラスからここら辺一帯を頑張って管理してねってお手紙を貰っているので、乗り込んで来た見知らぬ連中をぶち殺しても裏家業的な意味では罪に問われない。
管理に失敗すると追い出される。
異界放置しまくり行方不明者続出みたいなあまりにも酷い状況だと首を物理的に飛ばされるが、今のところ心配する必要は無さそうだ。
管理する範囲だが、実は明確に線引きされているわけではない。
ざっくりした例えなのだが川や山、建物等で線引きした場合、じゃあその線引きになった川や山の中、またはそのギリギリの場所はどうすんだって話になる。
悪魔なんて自然があるだけで発生するので、明確な線引きをしてしまうと逆に判断に窮することが多々あるらしい。
そんなわけで問題が発生して困った時はヤタガラスに聞けばいい感じに処理してくれる。
相模線が俺の縄張りっぽい空気になっているが、全てを管理しているわけではない。
駅のある相模原市や茅ヶ崎市にはそこを縄張りにしているサマナーが当然いるわけで。
そこの依頼を受けたい場合はヤタガラスに伺えば角が立たない。
間違って受けてしまった場合はヤタガラスに頼めば依頼を移譲するなり、後から話を通してくれたりする。
距離や期間を指定して仕事が欲しいと言えば見繕ってくれることもある。
俺の電霊にお願いすればDDS-Netのヤタガラスコミュで調べてくれるからめっちゃ便利。
電霊を高値で買い上げて調整し、初心者サマナーは売ったお金で準備して、準備ができたサマナーに電霊を貸し出しているのだとか。
ヤタガラスが電霊を使役する経緯としては官公庁がパソコン等を導入したことが発端らしい。
決して文通とか紙媒体を有り難がったヤタガラスに役人がキレたわけじゃないし、パソコンなんて使えないという情けなさを隠すために電霊を導入した事実もない。
偶然か必然か、家庭パソコンの一般化、スマホの普及等で予期せぬ電子化に成功してしまったようだ。
その結果なのかわからないが「あ、あれはアニメとインターネットの普及とヤタガラス内にDDS-Netを導入したことによってとんでもない信仰を得ることになってしかも何故かわからないが電霊になってしまった神様のオモイカネ!?」みたいな謎の影響もあったらしい。
お金に目がくらんでヤタガラスから足抜けしてダークサマナーになることもあるようだが、電霊のサポートを貰って骨の髄まで甘やかされたサマナーが糞雑魚ナメクジじゃないわけがない。
なお俺も電霊を使っているので他人事じゃない模様。
ヤタガラスから配布された物じゃなくてダークサマナーから奪った物だし、消えかけているところを俺が交渉して仲魔にしたんだからもうこれはサマナーとしての仕事を全うしていると言っても過言ではない(早口)
でもよお、事務処理や戦闘補助の便利さを知ってしまったらもう戻れないぜ。
「今日は河川敷の草刈りをしてもらいます」
「デビルサマナーに河川敷の草刈りを!?」
「もちろん神託です」
「ピジョンちゃん! 神託って言っとけば俺が何でもやると思ってない?」
「思ってます」
「少しは否定しようぜ?」
メシア教のシスターであるピジョンちゃんのご機嫌を窺いに行くと唐突に河川敷の草刈りを依頼された。
俺のレベルは16、戦力過多も良い所だ。
やったことは無いけど地方の過激派メシア教会に乗り込んでも余裕で壊滅させることができるらしい。
そもそも過激派メシア教がいないんだけども。
そんなわけで二人で河川敷の草刈りの現場に向かうために電車に乗る。
ちなみに単線だし、車両は少ないし、ホームも狭い田舎の路線だ。
「俺、東京まで行けば日給で数千万とか出るぜ?」
「じゃあ東京いけばいいじゃないですか」
「東京は怖い……」
「怖いですよね……」
一昨年東京で仕事したのだが、最悪だった。
サマナーになってからの一年目は生きるのに精いっぱいで常識も知らず、ピジョンちゃんの予知で死亡フラグをギリギリで回避するだけの生活だった。
メシア教からエグゼクターとかいう超怖い危険人物が襲ってきたのでピジョンちゃんをメシア教に送り返すこともできなかった。
このままジリ貧で真綿で首を締めるような生き方をするよりは資産を作って一発逆転を計ろうってことでピジョンちゃんの予知で自分たちを一番売れるタイミングを狙った。
確かにタイミングはばっちりだった。
ばっちり最悪だった。
忍び込んだ先がエコービルという雑居ビルで、魔界への扉が開かれた状況だったから最悪を通り越して地獄みたいだった。
でびでびでびるのような雑魚パンダが出てくるなら問題ないのだが、実際は魔王降臨まで一歩手前だった。
というか魔王の顔っぽいのが見えたし、なんなら魔界の扉を開いた人はB級映画の悪役よろしく最初に食われた。
ピジョンちゃんを抱えて逃げれば外で悪魔の群れと天使の群れが睨み合い、ビルを中心にごりごりの戦争が繰り広げ始めた。
なんなら俺らも文字通り食われそうになったし、ロケットランチャーで片腕吹っ飛ばされた。
必死に「さぞ名のある神とお見受けする! 鎮まり給え!」と制止の言葉を叫び、良識のある神とかガイア教徒とかメシア教徒に守ってもらいながらビルから離れられてその時は九死に一生を得た。
「マジで東京はやばいよ。ピジョンちゃん知ってる? メシア教とガイア教が争っててさ」
「私もいましたから」
「マジで東京やばいよね。あれくらいの事件は東京だと隔年のスパンらしいよ」
「宗教禁止したほうがよろしいのでは」
「ピジョンちゃんがそれを言うんだ」
「私だから言えるのです」
ドヤ顔のピジョンちゃんを見て、俺は確かにと頷いた。
後から聞いた話だが、件の事件で魔界への扉を開いたのがガイア教でも上位に位置する人物だったらしい。
頭ガイアーズたちを呼び寄せてるし、ガイア教が隠す気無かったのでそれに気づいた過激派メシアが魔界に討ち入ろうと頭メシアンたちも集めていたのだとか。
一発逆転を狙ったら宗教戦争に巻き込まれたのホントに酷い。
情報を得たライドウが駆け付けたので、俺とピジョンちゃんはぶるぶると震えながらも内部の道案内を買って出た。
命懸けで怖い思いをして得る物が無かったらと考えての半ばヤケクソの提案だった。
ライドウが真っすぐ元凶の場所まで行って魔王を切り捨てて扉を閉じたのだが、エコービルが魔界の一部として取り込まれてしまった。
徐々に魔界へと落ちていくビルを目前にしても争いに夢中で逃げないガイアーズとメシアン、退去する理性のある少数の面々。
最後には誰もいなくなってぽっかりと空いた穴と『ターミナル』だけが残されていた。
エコービルが魔界の一部となっていたので、周囲一帯が異界と化して一般人や表社会には起きた事件の割にはあまり影響が無かったことだけが幸運だった。
その後の詳細は知りたくなかったのだが、『ターミナル』はとんでもない演算装置で人間の転移すら可能だという話だ。
ガイア教がやっていたように条件さえ揃えば魔王の召喚も出来てしまうのだから恐ろしい。
ヤタガラスでは現在の所、北海道と新潟、東京、京都に設置してあった物を接収、転用している。
ちなみに横浜でもピジョンちゃんが発見して騒動になったのだが、無事ヤタガラスが確保して設置場所の議論が重ねられているとミサキ様が教えてくれた。
教えてくれなくていいです。
「横浜も派手でしたね」
「派手で済ませちゃうの? マジ? 装甲車とか持ち出した馬鹿がいたのに?」
「でも東京だと聖戦が始まりましたよね」
「やっぱり神奈川って最高だわ」
東京の頭メシアンどもは勝手に周辺の道路を封鎖したりとやりたい放題だったからな。
なお責任者と天使は魔界へと消えた模様。
東京の頭ガイアーズどもは銃火器だけじゃなくて悪魔を知らない半グレとかヤクザも兵隊として投入したりとやりたい放題だったからな。
なお責任者は魔王に食われた模様。
治安的な意味では直後が安全だったような、その隙に今まで日の目を見ることが無かった連中が跳梁跋扈したから余計に悪かったような、ごった煮みたいな状態だったらしい。
元締めが急に消失したから闇カジノとかの摘発が順調だったとか。
都会は怖いな。
物理的に戸締りしとこ。
「来週くらいにヤタガラスを抜けたサマナーが来ますね」
「もしかしてお客さん? お茶菓子いるかな。帰りに茅ヶ崎駅のチーズケーキとか買いに行く?」
「必要ないかと……。ああ、これは離反者ですね。依頼が来ると思います」
「なんでこっち来ちゃうの……? おバカさんなの……?」
「相模線を利用するみたいです」
「途中で問題起きたら電車止まっちゃうじゃん。勘弁してくんないかな」
来週の仕事が一件決まってしまった。
やる気がある時に舞い込んで来たら元気に対処するんだけどな。
草刈りに行く途中で決まるとなんかやる気がなぁ、出ないんだよなぁ。
でも外に出かけるから外食するのは楽しいから好き。
心が二つある。
「放置しても特に問題は無いようですが」
「でもヤタガラスから依頼されるんでしょ」
「そうなると思います」
「そしたらガチャできるじゃん」
「えぇ……」
「お彼岸ピックアップでおはぎが手に入るから」
「おはぎ」
「電霊用の飲食物はガチャでしか手に入らないからな」
「貢ぎたい気持ちと射幸心を煽られてるじゃないですか……」
ヤタガラスの電霊を所持しているサマナーは、DDS-Netのヤタガラスコミュニティでガチャが回せる。
ガチャを回すとどうなるのか。
アドオンやプラグインが手に入る。
それだけじゃなく、というかガチャの目玉なのだが電霊用に使える物品が色々手に入る。
電霊のいる空間を快適にできるワールドそのものだったり、家具、服飾、飲食物、エフェクト……。
ガチャで手に入る電霊用のアイテムは枚挙に暇がない。
現金や魔貨、現物で回したい所だが、そういうわけにはいかない。
これがどうして中々くせ者で、ヤタガラスからの依頼を達成した成果でしか回せない。
依頼の報酬の割合を自分で決めることが出来るのだが、報酬の9割をガチャの回転数にするサマナーもいるのだとか。
ガチャに嵌りすぎではないだろうか。
俺も最大までガチャに回したいが、逆に依頼で担保されている分の回転数だけのほうが愛というか自己顕示欲を満たせる気持ちもある。
心が二つある~。
「課金してませんでしたっけ」
「買える分は全部買った」
「うわぁ……」
ピジョンちゃんは引いてるが、君の装備の金額は電霊に課金している分の数百倍じゃ効かない自覚はあるだろうか。
内訳の一部を聞いたヨコスカさんは宇宙猫みたいな表情になったからな。
なおヤタガラスコミュでは電霊用のアイテムはガチャだけでなく、課金すれば手に入る物もある。
ガチャと比べたら品揃えは貧弱だが、動物のお面とか雀卓のようなちょっと方向性を間違えてないか怪しいアイテムがあって面白い。
ダークサマナーやメシアン、ガイアーズのコミュには電霊用のガチャとか無いらしい。
そもそも電霊用品そのものが無い。
正気か……?
俺の電霊が一番可愛いって自慢できないのに所属する意味はあるのか……?
そんなん知ったら俺もうヤタガラスから離れられねえよ。
「メシア教も電霊用の着せ替えアイテムで天使の羽根とか輪っか、シスター服を出したら所属する人が増えると思うんだけど」
「たぶん真面目なメシアンは激怒すると思います」
「マジ? ヤタガラスのショップで売ってたから俺買っちゃったよ」
「買えたんですか!? しかもヤタガラスで!?」
「俺が思っていた以上にヤタガラスは愉快な組織なんだよな。袈裟とか巫女服も買えたし」
「愉快というか全方位に強火ですよね」
ミサキ様とか頼むとお面くれたからな。
電霊用と実用の両方で十二支のお面をコンプリートしているが、目立ちたくないときはウカノミタマが仲魔にいるので狐のお面をよく使っている。
お稲荷様の使いは狐って決まっているよなぁ!?
なお天使セットやシスターセットは買って一度着せたきり使っていない。
仲間にピジョンちゃんがいて、仲魔にエンジェルがいるから二番煎じどころじゃない。
まあまあ人が降りる駅でピジョンちゃんと一緒に降りる。
混雑していたら人混みに流されそうなくらいに小柄だが、ピジョンちゃんはこれでもレベルはあるからな。
激流を物ともしない岩の如くって感じになる。
それはそれとして満員電車だと楽するために俺に体重を預けてくるけど。
弱者に体当たりおじさんが駅で稀に出現するが、ピジョンちゃんにぶつかって物理反射されて転倒して骨折したことがあった。
他の女性が被害に遭う前に仕留めに行ったらしい。
初犯だと骨折とかで済ますが、再犯だと複雑骨折させたりする。
これでおじさんがダークサマナーとかなら俺にやらせるから。
俺もそうだけどピジョンちゃんも弱者には強く出るタイプってワケよ。
「草刈りするかぁ」
「魔法でやらないんですか?」
「危ないじゃん。あとこの広さだと魔力足りなくなるよ。……草刈りしますねー!! 危ないので下がってくださーい!!」
背中に背負い籠、頭に麦わら帽子、首にタオルというあまりにも完璧なスタイルで、周囲に聞こえるよう大きく一声かけてから借りてきた電動の草刈り機をぶん回す。
ピジョンちゃんが言う通りマハザンで刈ったら確かに楽だが、そうなると射程範囲にあるもの全部真っ二つだからなぁ。
俺の感知力やピジョンちゃんの予知で寝てるホームレスとか動物を発見できるのは確かだが、無理やり魔法を使うほどでもない。
ハーモナイザーを起動すれば俺の強さという概念が草刈り機にも適応されるので抵抗を全く感じることなくどんどん刈れる。
仮に俺が銃を使うと、銃は人間よりも速い概念のせいで速度が加算されて通常の銃弾と比べてより速くなる。
「それなら私は周り見てくるついでに声かけしてきますね」
「頼んだー。何かあったら鏡とか使っちゃっていいから」
「お言葉に甘えて遠慮なく使います。でも草刈りで物反鏡と魔反鏡を使う状況とは一体」
「わからん。野生の魔王が現れるとか」
空き缶とか小石を巻き込んだら普通は凄まじい勢いで跳ねて危ないのだが、俺くらいのレベルになると軽々と真っ二つにしてしまう。
それはそれとしてゴミは拾わないといけないので魔法のガルを使って背負い籠に飛ばす。
鏡を使う状況だが、俺の感知範囲を超え、ピジョンちゃんの予知を乗り越えると考えると魔王が現れるくらいの事態だと思う。
ただ、ヤタガラスにも占星術師とか預言者とか、そういったピジョンちゃんとは方向性は違うが未来を占う異能者がいるので危ない時は何らかの連絡を事前に貰える手筈になっている。
それすら無視されたら俺らでは手の打ちようがない世界の崩壊とかが発生していると思う。
ライドウが駆け付ける事件だし、渦中に居たら多分あっさり死んでるから悩む必要すらない。
結局鏡を使う状況とは一体。
「サガミさーん! サガミハラさんがお見えですよー!」
「はいよー!」
しょうもないことを考えながら凄まじい速さで草刈りを進めていると、ピジョンちゃんの呼ぶ声。
草刈り機を左右に振りながら前進するだけで綺麗になっていくので結構面白かった。
掃除のシミュレーターゲームとかで掃除道具を使ったら一発で綺麗になると思うんだけど、ほとんどあれに近い。
達成率とかあったら今は何パーセントくらいなんだろうか。
もう日が傾いてきたし、サガミハラさんが用事っぽいので作業を終える。
エアロスの風で草刈り機の刃を回し続けたけど中々悪くなかったんじゃないか。
ピジョンちゃんは近所の人と井戸端会議をしていたようだ。
していたというか混ぜられたというか。
飛び火しても嫌なのでサガミハラさんのほうへさっさと向かう。
「サガミさん。お久しぶりです。いやあ、突然すみませんね」
「ハラさん、どうもどうも」
車両を乗り入れることが出来る限界まで来てくれたサガミハラさんと挨拶する。
地域性のためしょうがないが活動名が似ているので俺はハラさんと呼ぶことにしている。
四十代くらいの柔和な見た目通り物腰が低くて色々と丁寧な人だ。
これでシャッフラーとかいう魔法で敵を火炎属性に弱くするのが得意なので俺と相性がいい。
丁寧に対応しながらガイアーズを燃えるゴミにするからな。
本人が言うにはシャッフラーの修得が半端で、カード化させるか爆弾化させるのがちゃんとした魔法らしい。
引き継がせる予定の
「草刈りですか。まだ暑いでしょうにご苦労様です」
「地域貢献活動ってやつですよ」
「そうなると報酬は?」
「ここら辺でやる夏祭りの無料券ですね」
たぶん一万円分くらいの祭りで使える金券みたいなやつでアルコール類には使えないやつ。
金魚すくいとかヨーヨー釣りみたいなゲームもできる。
それに地域住民かつ祭りの手伝いとかしていないと貰えないビンゴ券も貰える。
去年は特用花火も貰ったから今年も貰えるかもしれない。
横浜が大変なことになっているのを尻目に女の子と家庭用花火をやるのは最高だぜ。
「今年はボクも出店を任されましたね」
「出店? ハラさん、何かやってましたっけ」
「半隠居なので喫茶店を始めました」
「喫茶店!」
裏家業のアンダーカバーとして喫茶店をやるというのが全国の中高生の憧れだと思う。
出席日数ギリギリで高校を卒業した俺も未だに憧れる。
かっこいいよね……。
俺もやりたかったけど、コーヒーの味も、料理を作る気も無かったので出来ない。
結局めんどくさくなってメシア教会に入り浸る何でも屋になっちゃったんだよなぁ。
ピジョンちゃんの予知と電霊の捜索範囲、俺の身体能力で迷い犬探しは一流と評判だけど、かっこよくないからな。
「かっこいいなぁ。俺もなぁ」
「かっこいいかな? ちょっとボクにはわからないけど。喫茶店を始めたのは妻がコーヒーを好きでね。ボクも菓子作りが好きだからそれならって」
「俺もそういうかっこいいのやりてー」
「何か得意なことを次の職にしてみては?」
「得意……? 殴られ屋とか……?」
「いや、それは……」
「殴られるのも避けるのも別に好きじゃないな……。殴り屋とか」
「それだと真っ先にミサキ様に怒られますよ」
ですよね、と諦める。
ダークサマナーが表に帰ったり、ヤタガラスに属するための禊として俺に全力で殴られるとか。
やっぱり全く現実的じゃないなぁ。
俺は別にゴリゴリのパワータイプってわけでもないから禊にもならないだろうし。
「それでご用件は? 近くを通っただけとかなら一緒にどっかでご飯食べますか?」
「ヤタガラスからサガミくんに届け物を頼まれましてね。せっかくだから送って行こうかと」
「いいんですか。お願いします。これから混むであろう電車でピジョンちゃんの暴虐が発揮しないとも限らない」
ピジョンちゃんはあれでメシア教としての教育を受けているので、社会的弱者を守るためにとんでないバトルタイプになったりするからな。
べろべろに酔ったまま車内で飲酒しているおじさんの手から酒の缶を取り上げて説教を始めたり。
長くなりそうならおじさんを俺が途中の駅に放り捨てるけど。
車内で化粧したり胡坐かいて大声で話したりする女子高生に説教を始めたり。
長くなりそうなら女子高生を俺が途中の駅に放り捨てるけど。
社会的弱者は全然関係なかったわ。
「そういえば荷物ってなんですか? ヤタガラスから届く物って何かあったかな」
「ガトリング砲ですね」
「この時期に届くって事は横浜で使えってことじゃん! うわ、マジで行きたくなくなってきた」
「ご苦労様です。次に御呼ばれしたら倅を送るんで面倒見て貰えると助かりますね」
「実戦経験ってどんなもんです?」
「除霊の真似事くらいですかね。異界もちょっと解決しましたけど」
「それで横浜に? 獅子は我が子を千尋の谷に落とすってコト!?」
せめて肉片を見てもゲロを吐かないくらいの心構えが無いときついと思う。
今年は大掛かりなあれそれって感じの話は聞かないからマシかもしれないし。
都会は戦闘が無かったらまた別の変なアプローチで俺たちを苦しめてくるからな。
行かなくてもいいけど、ヤタガラスからの覚えが悪くなるのと、結局後で事態が悪化するだけなので行かざるを得ない。
なんでそこら中に火種がばら撒かれたままなんですか(現場猫)
「そうだ。サガミくん、百足様がそろそろ体を動かしたいそうですよ」
「あー、それなら来週ムカデさんに来てもらおうかなぁ。息子さんも一緒にやります?」
「今の倅に百足様はあまりにもきつい……」
あんまり経験ない内にムカデさんはちょっと良くないか。
精神的な肉片耐性は付くと思うけど。
サガミくん
レベル16。かつてのターミナル争奪戦で東京⇒横浜と連チャンしたことがある。
横浜の時は20mm口径のガトリング砲を持たされた。
ピジョンちゃん
かつてのターミナル争奪戦で東京⇒横浜と連チャンしたことがある。
得意技は20本の線香花火を同時に着火する元気玉。
サガミハラさん
40代男性。喫茶店を始めた。
ダークサマナーが相模原市付近で活動しようとするなら、サガミハラのシャッフラー、サガミのアギ系というクソコンボを乗り越えないといけない。
アギダイン系の符や石を準備してある。
百足様
親しみを込めてムカデさんと呼ぶこともできる。
虫食いされたペルソナ使い。