実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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 独りでは死ねない。
 群れては生きられない。
 


まわるーぷ体験版(呪術廻戦)

 

 

 

 生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く

 死に死に死に死んで死の終わりに冥し

 輪転絶ゆること能わず迷方を悟る

 

 

 

 

 

 1周目

 

 朝、父さんが眉間に皺を寄せていたので嫌いな食べ物が出続けたのかもしれない。

 母さんはにこにこしているだけだった。

 疲れ切って死んだ目をしている父さんが、そのまま死んでしまうのではないかと幼い頃には心配した物だ。

 父さんは大丈夫だと主張するが、今もまだ心配は尽きない。

 母さんに相談すると、大丈夫よと言われ続けるので、今ではそういうものだと割り切ることにした。

 朝食を終えると、そのまま父さんは仕事に出かける。

 外回りが多い仕事らしいが、詳しい話は聞いたことがない。

 母さんはそれを見送って、家の者たちに指示を出し始めたので俺も自室に戻る。

 いつもと変わらない日々のはずだった。

 

 

 

 昼、悲鳴が聞こえた。

 少しずつ悲鳴が近づいてきていた。

 ばたばたと足音が遠くで鳴り響き、やがて悲鳴とともに消える。

 不気味さに、誰かしら家の者に状況を尋ねようと声を張る。

 しん、と音が消えた。

 そうして突然俺の腹が熱くなったと思ったら落ちるように視界が滑っていた。

 

 パニックになりながら必死に藻掻くが、凄まじい痛みは我慢できないので悲鳴が口から勝手に出るし、だんだん寒くなっていって意識もぼんやりしていった。

 そうして藻掻けなくなって動くのをやめると、なんとなく現状を受け入れられるようになった。

 巡らせた視界に、腹が無くなってぶつ切りになった臓物が零れていて、俺の足が離れた場所にあった様子が見えた。

 血は流れていないが、何故かそういう物だと理解した。

 気怠さと不快感、そして僅かな懐かしさ。

 意識が白んでいくからか、血が流れていないからか、心のどこかで夢だと思っている。

 げらげらと嗤い声が聞こえた。

 悪意が込められた、醜悪な声だった。

 初めて、部屋に何かがいることに気づいた。

 そうして『これ』が家の者や、俺を、今このような状況に陥れたのだと思った。

 

 見えないけれど居ることはわかる何かが、俺が苦しんでいるのを嗤っている。

 こんな腐敗臭を垂れ流す笑い声しか出ない何かの近くで死ぬ俺が可哀そうだし、家の者が憐れだった。

 苛立つ。

 死ぬことに、強すぎる理不尽に、無駄なことに嫌悪する。

 遠い昔に感じたような、懐かしい感情だった。

 沸々と怒りが沸いて、力が漏れ出した。

 同時に、堰き止まっていた血が溢れ出て、体から熱と力が抜けていった。

 漏れ出したはずの力が消えていく。

 俺は知っている、明確に死が迫っている。

 遠い昔から感じている、忌まわしい記憶だ。

 ひどく苛立つ。

 

 見えなかった何かが、ぼんやりと見えてきた。

 それは影だった。

 影が嗤っている。

 まだ足りない。

 これでは見えない。

 まだだ、まだ俺は……。

 

 途切れていた視界が、父さんの顔を映し出した。

 青褪めていて、土気色に近い顔色だった。

 今の姿を見れば、いつもの顔色が十分に健康だと受け入れただろう。

 怒りか悲しみかわからないが、興奮して呼吸が荒くなっている父さんがなんだかおかしかった。

 無くなったはずの腹は傷など全くない状態で治っていた、だからこれは夢かもしれない。

 冷たい血だけが現実を囁く。

 そこで俺はぼんやりとした影しか捉えられなかった何かの姿を見ることができた。

 人型を蛙のように歪めた白い何か、それが巨大な口を歪めて笑っていた。

 それでも俺は立ち上がれずに横になったままだった。

 父さんと蛙もどきが凄まじい速さで争った余波で部屋がボロボロになった。

 振るっていた真っ黒の番傘を蛙もどきに突き刺した。

 蛙もどきは両腕でガードしていたが、それでも致命傷だったのか微動だにしない。

 父さんもそのまま動かなくなった。

 黒い番傘が落ちて、音が響く。

 そこからは呆気なかった。

 蛙もどきから溢れ出た黒い泥のような物に覆われた父さんが、蛙もどきに変異した。

 

 夢を見ている。

 

 俺は死んだ。

 

 

 

 

 

 2周目

 

 俺は死んだ。

 これは確実だ。

 そして、生き返った。

 何故かはわからない。

 

 混乱していたら死んだ。

 

 

 

 

 3周目

 

 死んだ。

 

 俺は夢を見ているに違いない。

 

 終わらない夢を。

 

 

 

 

 4周目

 

 俺は死んだ。

 そして、生き返った。

 そういうものらしい。

 そう受け入れないとどうにもならない。

 

 前と同じく、父さんが蛙もどきと戦っていた。

 俺が手を出すには無謀だった。

 見るのに慣れていないからか、目が追い付かない。

 結局同じように父さんが蛙もどきに番傘を突き刺して仕留めた。

 

 ここからだ。

 父さんがまた変異していた。

 さっきまでは訳も分からずに殺された。

 今の俺は違う。

 俺は生まれてから夢を見たことがない。

 これもきっと夢じゃない。

 だから醒めることもない。

 

 

 

 

 

 5周目

 

 さっきは調べようとしたら立ち上がれなくて死んだ。

 今度は意識が戻ったらすぐに立ち上がる準備をしておく。

 激しい戦闘の横で、ぬるい血の海で滑りながらもなんとか立ち上がる。

 足に力が入らず震える。

 俺に何が出来るのかわからない。

 そもそも立ち上がることすら満足にできない。

 這うように部屋から出て……。

 

 

 

 

 

 6周目

 

 蛙もどきもそうだったが、変異した父さんも俺を殺しに来るようだ。

 父さんが実は化け物だった可能性も考えられる。

 だが、ケガを治してくれた今この瞬間は俺を守ろうとしている可能性も考えられる。

 情報が少ないので考慮できることは少ないが、逃げる俺を追うのは当然の行動原理らしい。

 万が一に縋って何度も逃げて死ぬことで、異なるパターンを導き出すべきか。

 運が悪くて狙われただけならば、逃げられる可能性も出てくる。

 欠点は逃げる俺を確定で追いかける場合、無駄死を続けることになる。

 どうすればいい。

 時間はない。

 

 

 

 見たことが無い夢を見ているようだった。

 意識がぼんやりとしている。

 今だけだ。

 意識がはっきりしたときに、これが現実だとわかったらどうなるだろうか。

 どうしようもなく取り乱すかもしれない。

 冷血な人間のようにあっさりと受け入れるかもしれない。

 今だけはこの麻痺した思考がありがたかった。

 

 

 

 繰り返される動きは、俺の介入を許していた。

 争いの途中に手を出すのは無理なことで、おそらく何度見ても割り込めず、確実に俺は死ぬ。

 だが、最後だけは違う。

 蛙もどきがガードをするために動きが止まる。

 蛙もどきに守る身があるのかどうかわからないが、大事だから守るのだろう。

 その瞬間に、父さんの背中に俺が体当たりする。

 半ば倒れるように、俺が押して僅かでも深く刺す。

 

 これまでは蛙のガードが堅いのか、父さんが限界なのか、番傘の刺さりが浅かった。

 力が入らないから、深く刺せないかもしれないが変化があれば構わない。

 これしかできないが、今はこれだけでいい。

 ダメだったらまた試せばいい。

 『過去』よりも変化した『今』があればいい。

 

 闇色の火花が爆ぜ、黒い泥が飛び散った。

 

 本当に爆発したのか、反動で俺は転がっていた。

 それでも状況を理解しようとして、立ち上がろうと藻掻く。

 蛙はいなくなっていて、代わりに父さんだけが立っている。

 喘鳴音の混じった呼吸を繰り返している父さんは、立っていることすら限界なのだろう。

 それでも番傘を握っている。

 死んでしまうのではないか、化け物に変異してしまうのではないか。

 俺は怖くて静止したが聞かず、父さんは番傘を振り上げた。

 

光陰(こういん)、私を軽蔑しなさい。苦しいとき、怨みなさい」

 

 父さんが俺の名前を呼んで、はっきりとそう言った。

 どうしてか、父さんが喋り、動いていることが奇跡のように感じた。

 遅れて、番傘が振り下ろされた。

 もう力が残っていないのか、ほとんど落下していた。

 かろうじて、乾いた指に似たミイラのような物とぶつかるのが見えた。

 一瞬で夜になったかと錯覚するほど、視界が闇に塗り潰された。

 目が潰れたとしか思えなかった。

 

 

 

 どれほど経ったのか。

 最初は恐怖で這い蹲っていたが、何も起きないので恐る恐る這って動いた。

 結局何もわからず、動くのをやめてしまった。

 無限にも思える夜が終わりを迎えた。

 自室には光が射していた。

 ホッとしていた。

 

 穴だらけになった壁や天井から外が見えたが、何処からも音がしなかった。

 空は変わらずに青いし、雲が流れていた。

 違和感があった。

 どこにも人の気配を感じない。

 そうして、父さんをすぐにでも病院へと連れていかなければならないことを思い出した。

 実は元気になっていて、自室で休んでいてくれないだろうか。

 希望を抱きながらも、すぐ傍に倒れているかもしれないからと振り向けば、部屋の真ん中に腰から下だけがあった。

 思考が止まる。

 俺にはそれが人間だった物で、父親だったこともわかった。

 

 無意識に足に触れていた。

 俺がさっき目覚めたとき、父さんが手で触れていたから真似しただけ。

 俺を治したように、奇跡が起きて治せるんじゃないかと有りもしない現実に縋った。

 そんな物は有りはしないと教えるように、足だった物が倒れる。

 置いて(・・・)あるだけで限界だったのか、さらさらと崩れ去って小さな砂の山を作った。

 「ああ……」と声にもならない音だけが、俺の口から漏れ出ていた。

 

 部屋には俺以外に、襤褸のように朽ちた白い番傘と、乾いた指だけが残されていた。

 

 

 

 父さんの同僚だった人が駆け付け、保護してくれた。

 生き残ったのは俺一人だった。

 紹介されたアパートの一室で泣くか窓の外を眺めるだけで過ごしていると、蛙もどきが窓に張り付いていた。

 それでも呆けて見ていると、部屋に侵入されて、駆け付けた同僚の人が始末した。

 呪力、という物がとんでもなく多い俺は狙われやすいらしい。

 こいつは糞雑魚だが、家に現れた蛙もどきくらい強いのも引き寄せられるかもしれないと教えてくれた。

 そういう特殊な力を鍛える場所があるとのことで、父さんはそこを卒業して活躍していたようだ。

 

 こんな蛙もどきに今後も狙われると思うと腹が立つ。

 俺は力を手に入れる。

 二度と死なない力を。

 

 

 

 は????

 学長と面談と聞いてぬいぐるみに殺さたんだが????

 二人は驚いた顔をしていたが、一番驚いたのは俺なんだが?????

 

 

 

 

 




オリ主
先祖から子々孫々続く縛り(術式を伝えない等)を課されているクソゲープレイヤー。
ループする術式が起動した。
膨大な呪力を持つが、ループ術式の維持に使われるので本人が使える分はほんとに無い。
がんばったらちょっと使えるから呪具とか簡易の式紙、しょぼい結界で頑張れ。
呪霊からしたら妖怪にとっての三蔵法師みたいな状態。


絶望の中で死んだ。


死んだ。



体験版だからまだ幸せでしたね。
ほのぼのをもっと削らないといけないね。
飽きずに続けたらちょっとずつでも不幸にしたい。

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