魔法少女なのは・イリヤ   作:rain-c

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ほぼスマホによる執筆。誤字脱字がやばいかもしれません。あと、ちょっとやらかしている感が強い。閲覧注意。


集う役者。

 時計の針は少しだけ巻き戻る。すっかりと日が暮れ、小学生の外出時間としては不適切な遅い時間に高町なのはは家族の目を盗み、家を後にした。

 夜に小学三年生の女子が一人で外出する。これだけ聞けば彼女が夜遊びに興じると判断する者もいるかも知れない。しかし、別に彼女は夜遊びが好きな悪い子供と言うわけではない。少しばかり頑固であるかもしれないが、彼女はどちらかと言えばいい子の部類に入る少女である。そんな彼女が家族の目を盗み外出したのにはもちろんちゃんとした訳があった。

 

「急がなくちゃ」

 

 自分以外に誰にも聞こえる様子の無い助けを呼ぶ声に気づいたからである。他人が聞けば鼻で笑ってしまうような理由ではあるが、切羽詰まった助けを求める声を聞いたなのは本人は必死に走り、声のする方へと向かっていく。悲しいことに彼女の運動能力はお世辞にも優れているとは言えず、そのスピードはとても遅い。だが、彼女の体は確実に助けを求める声の元へと彼女に出せる全速力で向かっていた。

 激しい息切れを起こしつつ、なのはは目的地周辺へと到達することが出来た。周辺と曖昧な表現であったのは、本来の目的地であったであろう動物病院の外壁が破壊されていたからだ。声は途切れずに聞こえているものの、頭に直接聞こえる声の発信者の位置を特定できるほど、なのはは人の理を外れた存在ではない。

 

「……誰かいるの?」

 

 建物が破壊されているという異常事態に少しばかりの恐怖心が沸くととに、夕方拾いここに預けたフェレットの状態が気になったものの、助けを求めるものを優先し、なのはの声をかける。異常事態に遭遇したことによる動揺からか、なのはから発せられた声はか細いものであった。普通なら一目散に逃げ出してもおかしくはない状況だが、彼女の脳内の選択肢の中には助けを求めるものを無視するというものはない。

 

「来て、くれたんですね」

 

 頭の中に直接聞こえてきた声と同じソプラノボイスが耳に届く。助けを求めていた者にたいし、少しばかり失礼ではあるったが、とりあえず幻聴ではなかったことになのは安堵した。しかし、声の主を探し辺りを見回してみるも、肝心の声を出している者の姿を視界に捉えることができず、なのはの背を冷たい汗が流れる。

 

「どこにいるの?怪我、してるの?」

 

 怪我をして動けない可能性を考え、逃げ出したいのを我慢しつつ、勇気を出したなのはは再度声を出す。

 

「なんとか大丈夫です」

 

 答えと共に、茂みが動く。なのはは身構え、何が出てくるのかと茂みを凝視した。そして茂みを掻き分け出てきた存在を見て、無意識のうちにとめていた呼吸を再開し、大きくい息を吐いた。なのはの視界に映ったのは一匹のフェレット。なのはにはそのフェレットに見覚えがあった。今日の下校中、林の中でぐったりとしているのを友人と発見し、この動物病院へと運んだのは記憶に新しい。

 

「よかった。君も無事だったんだね」

 

 優しい手つきでフェレットを抱きかかえ、なのははそっと頭を撫でた。愛らしい瞳でなのはを見つめるフェレットに、いつまでも撫でていたいという欲求がなのはの中で産まれる。しかし、今は助けを求めた者を探すほうが重要度が高い。なのははフェレットを撫でていた手を止め、辺りの探索を開始しようと視線をフェレットより離す。

 

「あの……来て下さってありがとうございます」

 

 移動を開始しようと足を動かそうとしたところで、自身の胸の前、正確に述べるなら胸の前に抱えたフェレットの居る位置よりなのはの耳に声が届いた気がして、なのは恐る恐る胸元にいるフェレットへと視線を落とす。

 

「あれ?聞こえなかったかな。あの、僕の声に答えてくれてありがとうございます」

 

 目の前には言葉を話す小動物。なのはは迷わず、フェレットを鷲掴みにした。

 

「しゃ、しゃべったの!?」

 

「ちょっ、苦しい!苦しいって!やめてー!」

 

 小学三年生の女子とはいえ、力いっぱい握られたフェレットは悲鳴を上げる。こうして高町なのはは日常から異常へと足を踏み入れたのだった。

 なのはがフェレットが喋るという衝撃の瞬間に立ち会った時より、時計の針は再び巻き戻る。彼女、高町なのはは知る由もないが、フェレットが助けを求める為に発していたものは念話といい、魔導師であるならば誰でも修得している技術でる。さらにいうと彼女が受け取った念話は個人を対象としたものではなく、リンカーコアから魔力を得るものであるなら誰でも受信できる仕様であったために、念話の発生源である魔導師と同じミッドチルダ式の魔導師であるフェイト・テスタロッサにもしっかりと届いていた。

 

「アルフ、どう思う?」

 

 海鳴市にあるマンションの一室。フェイトにジュエルシードを集めるように指示を出した人物の用意した仮の住居でフェイトは自身の頼れる使い魔であるアルフに意見を求めた。

 

「んー。あたしにゃ難しいことはわからないからねー。考えるのはフェイトに任せるよ。あたしゃフェイトの決定に従うだけさ」

 

 意見を求められた狼の使い魔であるアルフは一瞬でさえも考える仕草を見せずに、フェイトに答える。戦闘では優れた近接格闘術に補助魔法を扱う優秀な使い魔であるアルフだったが、彼女は頭で考えるタイプではなく、野生の感を信じて戦うことを得意としているためか考えるのは苦手である。そのため、この念話にたいしどうリアクションをとるのかは主であるフェイトに丸投げした。

 

「……念話の発信者はミッド式の魔導師。管理外世界であるここにミッド式の魔導師が態々くるなんて考えずらい。普通に考えれば、ジュエルシード絡みだと思う。けど、ここにはミッド式とは異なる魔導師が居た。罠であることも否定出来ない」

 

「ふーん。んで、結局どうするんだいフェイト?罠かも知れないならやめておくかい?」

 

 行くとも行かないとも取れる微妙な言葉にアルフはフェイトに真意を問う。フェイトがジュエルシードを集めるために頑張っているのは知っている。指示に従うとは言ったが、アルフ個人としては主人であるフェイトに危険な目にはあって欲しくなかった。不確定要素があるなら出来ればやめて欲しいという気持ちを無駄だとは思いつつもアルフは遠回しにフェイトへと伝える。

 

「罠の可能性は否定出来ない。けれど、ジュエルシードがある可能性が一パーセントでもあるなら行かないと。バルディッシュ」

 

 魔導師には必須である魔法の発動媒体であるデバイス。AI搭載型であるインテリジェントデバイスである相棒に声をかけ、死神を思わせるバリアジャケットを展開するフェイト。黒ベースの服に赤黒のマント。その手にはバルディッシュの核が存在する鎌が収められるのを目にし、アルフは真面目だねーと呟いた後、数回頭を左右に振り、自分の気持ちを切り替えた。確実に戦闘が起きる。相手は未知の魔導師であるかも知れないのだ。自身の主に危険が及ばないように気を引き締めるのは当然だ。

 

「面倒なことはパパっと片付けて何か美味しい物でも食べようじゃないか」

 

「そうだね。帰りにメロンパンでも買おうか」

 

「あたしとしては肉がいいところだけどね」

 

 フェイトの不安を吹き飛ばそうとあえて終わった後のことを明るく話すアルフ。そんなアルフの気遣いを感じ嬉しく思うフェイトは少しばかり微笑みながら答える。さりげなく最後に自分の希望を伝えてきたアルフに苦笑いを浮かべながらではあるが。

 

「じゃあ、アルフはお肉で。わたしはメロンパンね」

 

 大事な友であり、パートナーである使い魔の意見を尊重することにしたフェイト。それを聞いたアルフの闘志は天井知らずで燃え上がる。こうしてフェイト、アルフペアの参戦が決まった。

 

「介入するならやっぱここだろう。まさか小学校が公立になるなんて夢にも思わなかったぜ。面倒だからって記憶を封じるんじゃなかったな」

 

 リンカーコアを持つものに無差別に飛ばされた念話になのは、フェイト以外にも反応した者がいた。念話が飛ばされるのをキーとし、今日まで記憶を封じていた少年は、何か嬉しいことが合ったのか、口角を釣り上げ、ニヤニヤとした笑みを浮かべていた。

 

「欲しいものは全て力によって手に入れる。なのは、フェイト、はやて。ついでに世界征服も捨てがたいな」

 

 愚かなことを一人で話す少年だが、たちの悪いことに、彼には言ったことを実行できる力が神より授けられていた。少年の名は樹咲紅(きざきくれない)。その正体は圭と同じ転生者ではある。しかし、圭とは性質の異なる転生者である。彼を転生させたのは、圭を転生させた神を快く思わない神であった。その神により、樹咲の倫理観には手が加えられていた。少しばかり欲望に忠実になるように、そして、ハメが外れやすいように。

 

「さあ、開幕だ!」

 

 樹咲が厨二病を全開にし、指揮者のように両手を上げる。すると彼の体は光に包まれていく。光が収まり、姿を変えた樹咲は、マンションの屋上より飛び降りた。

 高町なのは、フェイト・テスタロッサ、衛宮圭、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、衛宮美遊。そして樹咲紅。舞台の役者が揃う時は、刻一刻と近づいている。

 

◇◇◇

 

 淡い光を放つ月を背にし、俺はイリヤと美遊を伴って三つの魔力が集まると予想される合流地点へと向かって飛行していた。意外なことに一緒に生活していて原作と価値観が異なったのだろう。美遊もすんなりと飛行できたので、三人仲良く横一列で、現実世界の空を飛んでいる。これから戦闘をするかもしれないのに、俺のテンションは底無しにだだ下がり中だが。

 

「圭、あまり気にしても仕方ない。何も言われなかったんだから、良しとしないと」

 

「そうだよ。お兄ちゃん」

 

「いや、確かに自分の不注意のせいでこうなったんだもんな」

 

 自分の不注意。それ以外に理由はない。転身してさっさと鏡面界へと転移しておけば、こんなことは起きなかった。起きてしまったことは消すことは出来ない。けれど、仕方ないと簡単に割り切る訳にもいかない問題でもある。

 

「それに、リズ姉さんは何も言わなかったじゃない?きっと寝ぼけてたんだよ」

 

 イリヤは俺を慰めるために、希望的観測を述べてくれる。イリヤの気遣ってくれる気持ちは素直に嬉しいと思う。しかし、幾ら普段から眠そうな表情をしているリズさんであっても大人に片足突っ込んでいる年齢だ。こんな早い時間に寝ぼけている訳がない。というか、イリヤと美遊には話していないが、リズさんが居たのは風呂場である。常識的に考えて、風呂に入ってる途中で眠るなんてありえないだろう。

 つうか、自分で窓開けてたし。逆ギレだという自覚はあるが、少しだけ文句を言わせてもらいたい。

 いい年齢の女性が、風呂の途中で窓を全開にするんじゃねえよ!それと俺と目があって時にやっちまったみたいな表情をした後に、わたしは何も見てませんよ的な空気をだしながら、泳いだ目をして、ゆっくり窓を閉めるんじゃねえ!

 まあ、窓を閉めるまでの間、母性の象徴が丸見えだった件には心の中でお礼を言わせてもらったけどさ。

 

「んー。ああ、そうだといいな」

 

 風呂にいるリズさんと目があった。リズさんの上半身裸を見たなんて言ったら、イリヤがどう暴走するかわからない。真実を話すわけにもいかず、曖昧な返答をする。

 

「圭、気持ちを切り替えて。どうしても切り替えられないなら出直す?」

 

「それは出来ない。クラスカードが発動したら迅速に対処しないと、どれだけ被害があるかわからないからな」

 

 気遣い言ってくれた美遊には悪いが、出直すなんて悠長なことはしてられない。なんせジュエルシードの集合地点はこちらの世界だ。現界したクラスカードを少しでも放っておいたらどんな被害がでるか判ったもんじゃない。

 

「そう。これだけは覚えておいて。圭がわたしたちが傷つくのを許容出来ないのと同じ様に、わたし達も圭が傷つくのは嫌。うまく気持ちの切り替えが出来ないならわたしが手伝うから」

 

 その言葉と共に、俺の右手は伸びてきた美遊の手にとられ、急制動をかけられた。それなりにスピードを出していたために、俺の体に走った衝撃は結構なものだ。急になにをするんだよと、文句を口にしようと美遊に顔を向けると、ありえないぐらい近い美遊の顔がそこにあった。キス顔。そうとしか良い表すことが出来ない表情を浮かべる美遊。掴まれた腕を振りほどき、俺は急いで美遊から距離をとる。

 

「ちょっとー!美遊!お兄ちゃんに何しようとしてるの!キスはわたしがするよ!というかしたいんだけど!って、痛いよっ!美遊、それは間違いなく鈍器の部類に入るんだからね!」

 

「バカ。本当にするはずない。圭、気持ちは切り替わったでしょ?」

 

 前半は俺の言いたいことをそのまま言ってくれていた。しかし、後半部分で暴走してしまい、ほんのりと頬を赤く染めた美遊にマジカルステッキで叩かれている。

 美遊の突然の奇行に、イリヤの壊れっぷりといい。この世には読めない事象が多すぎるな。

 

「無駄にドキドキさせられて無理やり吹き飛ばされたって感じだな。ありがとな。美遊」

 

 しかし、確かに先程より気持ちは落ちついた。リズさんの浮かべた表情的に、事態を把握してはいるが、干渉する気はないようだ。家に帰ってから質問責めに合うことはないだろう。普段と変わらずに接してくれると予想できる。

 

「クール系美少女がそんなにいいの!?」

 

「イリヤさん落ちつきましょーよー」

 

 ルビーに落ち着けと言われてしまう割と末期のブラコンっぽいイリヤについては家族会議が必要だな。

 

「俺のせいで時間を食っちまったな。速度を上げるぞ」

 

「うん」

 

「放置が一番キツイんだからね!」

 

 アホなことを口走るイリヤをよそに、俺と美遊は飛行速度を上げ、夜空を駆けた。

 

◇◇◇

 

 ユーノと名乗ったフェレットに導かれ、なのはは友人の家がある方向へと夜空を背にし、飛行していた。ユーノに渡されたデバイスと呼ばれる魔法発動体であるレイジングハートの補佐を受けているとはいえ、初めての魔法による初飛行。

 ユーノにジュエルシードがどういう物であるか簡単に説明をうけ、その危険性を認識してはいた。だが、幼い頃に思い描いた魔法少女になれたことにより、目的地であった月村すずかの家に到着する頃には、すっかりなのはの頭の中からジュエルシードの危険性は抜け落ちていた。

 

「どうやらアレが暴走体の様です」

 

 肩の上にいるユーノが何か言っているのには気づいた。しかし、なのはの体はそれを理解する前に動く。

 

「お兄ちゃんに、何してるの!!」

 

 空から急降下し、降下したスピードを利用して振り下ろしたレイジングハート。なのはの兄、高町恭弥を血塗れにした紅き槍を持つ黒き者は、突然の乱入者の登場に焦ることなく手にした槍でレイジングハートを弾くと戦う相手が増えたことが嬉しいのか口角を上げた。

 

「危険だ。下がって!」

 

「お兄ちゃん!」

 

 ユーノの声を無視し、なのはは膝をつき肩で息をする恭也へと近寄った。

 なのはの肩に掴まっているユーノはジュエルシードの危険性を見誤っていた自分に強い怒りを覚えていた。

 なのはの潜在魔力は高い。レイジングハートのサポートがあれば、並大抵のことは解決できると予想していた。だが、目の前にいる存在は格が違う。なりたての魔導師にどうにか出来る存在ではない。無論、ユーノにも紅き槍を持つ者をどうにかする術はない。せめて自分を助けてくれると言ってくれたこの優しい少女を逃そうと心に決め、ランサーから目を離さずに、自身の残りの魔力を集めていく。

 

「なのは、か。ついに幻覚まで見え始めたか」

 

 見えているなのはを幻覚だと思い、こういう時は恋人が見えるものだろうと、恭也は苦笑いを浮かべる。

 まだ、ヤレる。悲鳴を上げる自分の体に鞭打ち、恭也は立ち上がり小太刀を構えた。

 ここには忍がいる。そして、幻覚とは言えなのはまでいる。護るべき者がいる今の恭也に決して負けは許されない。

 

「なのは。俺の後ろへ」

 

「うん」

 

 よくできた幻覚だ。不安気な表情を隠そうともしない。本物のなのはがここにいたら、きっと同じ様な表情を浮かべるだろう。

 

「お前が誰だか俺は知らない。そしてお前の目的もわからない。だが、ここから先は一方通行だ。何かを為すのなら、まず俺を倒せ!」

 

 なのはの視界から恭也が消える。次に恭也が現れたのはランサーの背後。そして繰り出されるは小太刀二刀御神流奥技之六薙旋。恭也の見る世界が神速により、モノクロへと変化する。本来なら薙から始まる四連撃を繰り出すところだが、こちらから仕掛けたために、恭也は右手に持った小太刀による居合からの四連撃を繰り出した。満身創痍の状態から出したにも関わらず、まさに必殺と呼ぶに相応しい至高の連撃であった。しかし、必殺とは人相手の話。英霊の力には届かない。恭也の攻撃は、その全てがランサーの持つ紅き魔槍により弾かれ逸らされた。

 

「くそッ!」

 

 モノクロの世界が色を取り戻し、自然と悪態が恭也の口から溢れた。満身創痍の身体で使った奥義により、恭也の身体は限界を迎え、前のめりに倒れ始めた。ランサーの足を見つめ倒れた恭也。

 ランサーがその隙を見逃す訳がないと、僅かながら、槍に貫かれることを想像し、恭也の身体は強張った。

 

「ごめん。恭也さん。遅れた」

 

 ここ数年で聞き慣れた声を聞き、恭也は意識を失った。




もう本当にごめんなさい。

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