魔法少女なのは・イリヤ   作:rain-c

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目標七千字だから書き上げるのが遅くなってすみません。


密かな決意

 恭也さんのピンチに格好つける形で登場をかました俺であったが、実は無策だったりする。今この時点でランサーに攻撃なんてされたら、ぶっちゃけ防ぎようがない。一応トパーズには物理保護を全開にするよう頼んでおいたが、キャスターとは違い、純粋に戦闘能力の高いランサーのクラスカードがジュエルシードという未知の物質により覚醒したのだ。どこまで通用するかはわからない。

 

「……強者の余裕ってやつか」

 

 俺を倒すチャンスであるにもかかわらず、ランサーは大きく距離をとり、刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルグ)を無造作に構えると動きを止める。心なしか俺という敵と相対する状況を楽しむかの様に、ランサーの表情は笑みを浮かべているように見える。多分、この隙に戦闘準備を整えろということだろう。

 

「イリヤ、美遊。恭也さんとなのはちゃんを頼む。巻き込まれないように充分距離をとってくれ。やつはは俺が仕留める」

 

「うん」

 

「わかった」

 

 ランサーから視線は外さず、イリヤと美遊へと指示を飛ばす。

 二人に頼んでこの場から離脱させることも考えたのだが、恭也さんが結構な深手を負っている。俺に医学の知識はないので、詳しく状態を把握することが出来ない。下手に恭也さんの身体を動かし状態を悪化などさせてしまったら大変だと思い、その考えは却下した。それに、イリヤと美遊には、ルビーとサファイアがある。そして、キャスターのクラスカードもだ。二人と共にいれば、戦闘の余波で恭也さんとなのはちゃんが傷つく可能性は相当低くなるだろう。

 まあ、恭也さんとなのはちゃんには後で説明が必要になるだろう。今から少しばかり気が重かったりするが、今は目の前にいるランサーに意識を集中しておこう。

 俺が幾ら訓練を積み、この世界にはない戦闘技術を習得していても、相手はキャスターとは違い、近接戦闘に特化した存在である。限定展開(インクルード)無しでは話にならないだろう。トパーズの報告によると、金髪少女と金髪少女の連れが、こちらを見ている者が居るらしい。敵対する可能性が無いと言い切れないため、あまり手の内を晒したくない。しかし、最悪の場合は夢幻召還(インストール)を使用することになるだろう。

 

「トパーズ。アーチャー限定展開(インクルード)

 

「はい」

 

 相対するは接近戦のスペシャリストである槍兵。それに対し、俺が選んだのは本来なら遠距離戦でその真価を発揮する弓兵である。しかし、俺の手に現れるのは、弓ではなく二振りの剣だ。その名は干将・莫耶。黒と白の刀身をした夫婦剣。しっかりと柄を握りしめる。俺が剣を出したところから、接近戦を挑むつもりであると理解したのだろう。ランサーの浮かべる笑みが深まった気がする。笑みを深めたランサーは、地を這っていると錯覚してしまいそうになるほど体を低くし、前に構えた手で俺に手招きをした。

 その動作の意味は、かかって来いという意思表示。そして挑発だろう。

 

「上等だ!この戦闘狂が!」

 

 普通に接近したのでは簡単に迎撃される。踵に魔力を集め、爆発させる。世界が縮んだように見え、瞬動の抜きを行うと、目の前にはランサーの姿。右手に握った白い刀身の剣、莫耶を振り下ろし、左手に握った黒い刀身の剣、干将で切り上げる。

 傍目には瞬間移動したように見える移動から、肉食獣の顎門を思わせる必殺の気概を込めた一撃が繰り出された。並の相手であったなら、この一撃で勝負はついていただろう。しかし、相手は歴戦の戦士である英霊。圭の攻撃はいとも容易く紅き魔槍により防がれた。莫耶は穂先により軌道を反らされ、干将は石突により弾かれる。

 

「なろっ!」

 

 干将・莫耶により再び攻撃を加えようと腕に力を込めた圭であったが、ランサーがその隙を見逃す筈が無かった。相手を嘲笑うかのような笑みを浮かべ、手に持った自慢の槍は振るうことなく腰を支点にその場にて素早く回転。風を切る音と共に蹴りが放たれた。なんとか軌道を逸らされた莫耶を引き寄せ、自身の体とランサーの足との間に挟み、莫耶の腹の部分を用い直接鳩尾へと蹴りを放たれるのを防ぐことはできはしたが、威力までは殺しきれずに吹き飛ばされ、土煙を上げながら木にその身を強打した。

 

「圭くんっ!」

 

 その光景を見ていたなのはから悲痛な声があがる。なのはの持つレイジングハートは攻撃を防ぐ際にはシールド魔法を用いなければならない為、圭が無防備に攻撃を受けた様に見えた。なのはの瞳にじんわりと涙が滲み始める。

 

「大丈夫だよ。なのはちゃん」

 

「イリヤちゃん。でも、でも、あんなに勢いよくぶつかったら無事じゃすまないよ!手伝わないと!」

 

 イリヤに話しかけられ、なのはは滲む涙を拭おうともせずにイリヤに必死に訴える。一人では敵わないかもしれない。けれどみんなで力を合わせたらきっとなんとか出来る筈と。普段から兄思いの二人だ。きっとわたしの提案に賛同してくれるはず。圭からイリヤへと視線を移す。イリヤを見たなのはは息をのんだ。普段の様子からは想像できない程に真剣な表情を浮かべ、圭居る方を見つめるイリヤ。ステッキに添えられた両手が小刻みに震え、今すぐにでも飛び出したいのを我慢しているのがなのはにも伝わった。考えてみれば当然だ。なのはよりもイリヤと美遊は長い時を圭と一緒に過ごしてきたのだ。大事に思う気持ちがなのはより少ないわけがない。視線をイリヤから美遊へと向けると心なしか普段よりも美遊の表情は硬い。

 

「大丈夫だよ。……だって、お兄ちゃんは一度口にしたことは守る人だから」

 

「圭の持つトパーズには物理保護がついてる。だから心配はいらない」

 

 イリヤの根拠のない自信に、美遊が補足説明を入れる。正直なのはには、物理保護がどういったものかは正しく理解することは出来なかったが、美遊が態々説明するぐらいに凄いものなんだと理解はできた。

 

鶴翼二連(かくよくにれん)!」

 

 イリヤと美遊。二人の妹の気持ちに応えるかのように、圭の声がその場に響く。二刀一対の刃がランサーへと投げられた。闇に紛れてしまいそうな漆黒の刀身と、闇を切り裂き進んでいると錯覚してしまいそうになる鮮やかな白い刀身を持つ刃が宙を舞うがランサーはあっさりとその二刀を回避した。

 

「まだだ!」

 

 土煙の中より現れた圭の手には新たな干将・莫耶の姿があり、圭の声に反応し、干将・莫耶はその機能を発揮する。夫婦剣として作られた干将・莫耶は引き合う性質を持つ。投げられた干将・莫耶は圭の手に持たれた干将・莫耶に引き寄せられブーメランのようにその進行方向を変える。それと同時に圭はランサーへと斬りかかる。前後からの同時攻撃。その場にいる誰もが決まりだと思った。思ってしまった。そう、ランサーと対峙している圭でさえも。もし、恭也の意識があったなら、油断するなと圭を怒鳴りつけていただろう。勝負がつく前に油断したツケを圭はその身を持って払うこととなる。

 圭の一連の動作に沈黙を保っていた紅き魔槍がヒュッと音を立て動く。その穂先は干将を弾き、圭の体制を崩すと勢いを殺すことなく圭の左肩へと吸い込まれるように進む。

 

「つっ」

 

 辺りに響いた甲高い音に続き、圭の口より苦し気な声が漏れる。ランサーの持つ紅き魔槍につたう赤黒い液体が何が起きたのかを如実に語っていた。

 物理保護の突破。想定していなかった痛みにより、圭の集中力が途切れる。ランサーの背中を強襲しようとしていた干将・莫耶は空気に溶け込むように霧散する。

 

「さすが三騎士の一角。バゼットの扱う斬り抉る戦神の剣(フラガラック)がいかにチートかよくわかる。こいつは傷を負わせてくれた礼だ。壊れた幻想(ブロークンファンタズム)!」

 

 痛みに顔をしかめつつも圭は反撃にでた。圭の掛け声に応じ、干将・莫耶。二刀一対の刃がその場にて閃光を伴い爆発する。至近距離で生じた爆発の熱に衝撃。不意をつかれランサーはダメージを負い膝をつく。

 

「はあ、はあ」

 

 戦闘が始まってから始めての有効打は決定打に足りうる一撃であった。元々、ランサーのクラスは俊敏性に重きをおいている。それ程防御力が優れているというわけではない。よって、圭の反撃によりランサーは多大なダメージを受けることとになりその場に膝をついた。すぐにでも追撃するべき状況であったが、圭も無傷ではなく直ぐには動くことが出来なかった。通常であればトパーズの物理保護により問題なく防げだろう。しかし、圭の左肩には浅くではあるが、刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルグ)が刺さっていた。それによりトパーズの物理保護は左肩周辺では機能しておらず、爆炎により火傷を負った圭は痛みにより荒い呼吸を繰り返すが、気力で右腕を上げる。

 

「……これで、終いだ!」

 

 莫耶を顕現させ、最後の力を振り絞り圭は思い切りその白き刃を振り下ろす。利き腕とは違う左手による斬撃ではあったが、全体重を乗せたその一撃はランサーを切り裂くことに成功した。

 ランサーの体が霧散した後に残ったのは、ランサーのクラスカードと三つのジュエルシード。

 

「あー。クソ。めっちゃ疲れた。ランサーでこれだけ苦労するとか。セイヴァーとかバーサーカーとか出てきたら限定展開(インクルード)」じゃ積むな。わりい。あと頼むわ」

 

 ランサーが霧散するのを見届けた圭は物理保護を頼りに受身を取ろうとする動作を見せずに後ろ向きに寝転び意識を失った。

 

「なのは、封印を!」

 

 怪我をした圭の容体と、ジュエルシードと共に宙に浮かぶカードが気になりつつも、再び活性化したら堪ったものではないと、ユーノはなのはへとジュエルシードの封印を指示する。

 

「圭くんの手当てが先だよ!」

 

 ユーノの判断は実に理にかなってはいたが、魔法に関わっていなければただの子供に過ぎないなのはは、ユーノの意図を正確に察することができずに抗議の声をあげ、圭に駆け寄ろうと体の向きを変える。しかし、そんな、なのはの肩を抑え、動きを阻害した者が居た。

 

「待って。なのははフェレットの言うとおりにした方がいい。イリヤ、圭を見て」

 

「わっ、わかった!」

 

 圭が怪我を負ったにも関わらず、普段と同じ平坦な声で支持を飛ばす美遊。

 

「離して!美遊ちゃんは何も感じないの!?圭くんが怪我したんだよっ」

 

 自分が何もできずに大切な友達が怪我をした。駆け寄るイリヤの姿を見て、なのはの中で消化できなかった感情がつい噴出してしまい、なのはは珍しく声を荒げ美遊を見る。そしてハッとした。

 

「……ごめん。美遊ちゃん」

 

「いいの。気にしてないわ」

 

 数秒の沈黙ののちに美遊に謝るなのは。美遊の声は普段と変わらず平坦に聞こえた。けれどなのはが見た美遊はどこか辛そうで何かを堪えているようだった。

 少し考えればすぐに答えは出る。日頃から圭と一緒にいる美遊が何も感じない訳が無かった。美遊もなのはと一緒で圭が心配なのだ。圭に後を頼まれていなければ美遊も圭に駆け寄っていただろうと容易に想像できる。

 

「……やるよ。レイジングハート。リリカルマジカル。ジュエルシードNO.Ⅴ、ⅩⅡ、ⅩⅩⅠ封印!」

 

 封印が済んだ三つのジュエルシードがレイジングハートの中へと収納されるやいなや、なのはは圭の元へと駆け出すと、その場にはなのはにユーノと呼ばれていたフェレットと、ランサーのクラスカードをジッと見つめる美遊の姿が残る。

 

「美遊様。お辛いのはわかりますが……」

 

 その状態になり五分程経過した頃、サファイヤは控えめではあったが、美遊に回収を促した。

 

「今回のことで、圭がわたしとイリヤを関わらせたくない理由がよく理解できた。圭は優しい。けど、間違ってる。サファイヤ、やりたいことが出来た。協力してくれる?」

 

 サファイヤは悟る。大切な存在を傷つけた物として、クラスカードを憎み見ていた訳ではなく、クラスカードが利用できる物であるか見極めようと考え込んで居たのだと。

 

「美遊様は契約者です。わたしは美遊様が望むとおりに協力いたします」

 

「わたしの考えが圭の意志に反していても?」

 

「当然です。わたしの契約者はあくまで美遊様ですので」

 

 一切間を置かずにサファイアは答える。その答えを聞いた美遊はその瞳に決意の光を宿した。

 

「そう、ありがとう。サファイア。イリヤにはキャスターがあるし、これはわたしが持っていても問題ないね?」

 

「はい。魔力放出があるとはいえ、黒化した英霊は強力です。美遊様にも自衛手段は必要だと思います」

 

 副音声にて悪代官の笑い声が聞こえてきそうな表情をし、白々しく述べた美遊はランサーのクラスカードを懐へと仕舞う。そんな美遊の様子にツッコミを入れることなく、むしろ当然のことだとサファイアは美遊の提案を肯定する。

 そんな一人と一つの黒いやり取りを間近で見ることになったユーノは場の空気に呑まれてしまい、自身の疑問を口に出来ず、一人と一つのやり取りにを見守るだけに止まった。

 

◇◇◇

 

 目を覚ますとそこは不思議な街でした。なんてことは当然ないが、俺の目に映ったのは知らない天井だ。それに、俺の家にあるベッドとは比べるのが馬鹿らしい程のふかふかのベッドの上に寝かされている。どうやら俺はランサーとの激闘の後、月村邸の中に運ばれたらしい。俺が意識を失ったからか、着心地から判断するに服装も元に戻っているようだ。

 

「あら、目が覚めたようね」

 

「っく」

 

 足元より聞いたことの無い声が耳に届く。それと共に感じる月村さんより濃密な闇の気配。声の主を見ようと体を起こそうとした俺の左肩に不意にピリッとした痛みが走った。我慢出来ないほどではないが、怪我をしたことが一瞬頭から抜け落ちていたので中々に痛い。

 

「わたしがそっちに行くから無理に起きなくても良いわよ?」

 

「そういうことは体を起こそうとする前に言ってくれませんか」

 

 備えていれば、それ程支障はない。気持ち右肩に多めに力を入れて体を起こす。そこには月村さんと同じ髪の色をした女性が足を組み座っていた。見た目的には月村さんを成長させて多少やんちゃにした感じである。たぶん母親か姉といったところだろう。

 

「いやーごめんごめん。まあ、わざとなんだけどね」

 

「察するに俺が傷つくことで悲しむ者がいるのを忘れるなっていうメッセージですか?」

 

「話が早くて助かるな」

 

「そりゃあ、これを見たら嫌でもわかりますって」

 

 体を起こして気づいたのだが、俺が眠っていたベッドの左右に椅子が四脚あり、右手側にはイリヤと美遊、左手側にはなのはちゃんと月村さんという豪華なメンバーがその椅子に腰掛けあどけない眠り姿を晒していた。なのはちゃんの手に握られている喋るフェレットが握りつぶされないか少し心配である。

 

「自己紹介がまだだったね。わたしは月村家の当主。月村忍。すずかの姉よ」

 

「俺は、衛宮圭です」

 

「自己紹介はそれだけ?なにか忘れているんじゃない?」

 

 にやにやと意地の悪い笑みを浮かべる忍さん。ランサーとの戦闘を確実に見ていたと簡単に想像がつく。それに聞きたくて仕方が無いといった様子を隠す気がないようで尚更わかりやすかった。

 

「……それは闇の気配の濃い忍さんも同じですよね?」

 

 言われてばかりは面白くない。そのために、俺は思ったことを素直に口にした。俺の言葉を聞いた忍さんは一瞬だが驚いた様子を見せるもすぐに意地の悪そうな笑みに表情を戻す。

 

「侮れない存在だね君は。けど、一族の秘密に係わることだし、すずかも気にしてるからね。簡単に答えることは出来ないよ」

 

 一族の秘密。その言葉を聞いて一番に思いつくのは月村さんが魔術師の一族であるという仮定。しかし、月村さんは魔術について一切知らないようだったし、おそらくこれは外れだと踏んでいる。

 

「なら、そちらのことは無理には聞きません。俺、イリヤ、美遊に関しては一応魔術師です。なのはちゃんと喋るフェレットについては俺もよくわかりません。確認なんですが、月村さん、すずかちゃんは何があったか把握していたりします?」

 

「魔術師ね。世の中には不思議なことが溢れてるってのはわかったわ。すずかに関しては答えはイエスよ。恭也を見送った後、監視カメラで一緒に見守っていたからね」

 

 同級生二人と家族に魔法少年であることがバレるとか将来、黒歴史になること間違いない。今はそんなことを考えてる場合じゃないか。

 

「恭也さんの容体は?」

 

「圭くんよりは重傷だけど、命に別状はないわ。最後に槍で突かれた傷より、血を流しすぎたのが倒れた原因みたいなのよね。まあ、ようは心配なしよ」

 

「よかった」

 

 恭也さんの無事を聞き、俺の頬は自然と緩んだ。しかし、黒化した英霊と対峙し軽傷ですむとは。恭也さんは運がいい。

 

「あら、そんな歳相応の顔もできたのね」

 

「……少なからず交流のある人ですからね。無事を喜んで悪いですか?」

 

 茶化すように声をかけてきた忍さんに俺はつい、攻撃的に返してしまった。言ってしまった後、恭也さんと忍さんの関係性がわからないのに軽率な言動だったかもしれないと後悔が押し寄せるが一度言ってしまった言葉は取り消せない。

 

「あははは、ごめんごめん。わたしとしても彼氏の無事を喜んでくれる人がいるのは嬉しいわ」

 

「はっ?」

 

 間抜けな声が俺の口より漏れる。恭也さんがここに居たことから、忍さんと親しい関係であるとは予想していたが、俺の予想では精々が友人か護衛だ。まさか恋人だったとは。

 忍さんみたいな美人と付き合っているなんて恭也さんは朴念仁かと思っていたが中々のやり手だったらしい。

 

「さて、打ち解けられたところで本題に入らせてもらうわ。うちで何が起きたか話してくれるわよね?」

 

「一応、魔術は秘匿するものなんですが、庭も荒らしてしまいましたし説明しないわけにもいかないですね。わかりました。話します。けれど、それは明日でもいいですか?」

 

「そうね。恭也も聞いた方がいいだろうし、それでいいわ」

 

 二人に別々に同じ説明をするのは別に手間ではないのだが、俺はとあることに気付いてしまい、結局は説明を待ってもらうことにした。

 

「ベッドはそのまま使っていいから。泊まっていって」

 

「いえ。申し出はありがたいんですが、そういうわけにもいかないんです。俺の代わりになのはちゃんと月村さんを寝かせてあげてください」

 

 これ以上ゆっくりしている暇はない。

 そっとベッドより体を出し、俺はイリヤと美遊の側による。

 

「トパーズ。展開。忍さん、今日はこれで失礼します。家族に居ないのがバレると拙いので」

 

「反射路形成。境界回廊一部反転」

 

 忍さんに一方的に言い放ち、俺は逃げるように境面界へと移動した。

 

◇◇◇

 

「正直、ありゃああたし達だけじゃ荷が重いよ」

 

 それが圭とランサーの戦いを見ていたアルフは素直な感想を口にした。

 アルフの見立てでは、フェイトと同じ歳くらいの男なら腕だけで見ればフェイトとアルフの二人で戦いを挑めば少しは戦えだろうといったところだ。槍を持っていた男に至っては前に立つ気すら起こらない。

 

「……それでも」

 

「ああ。わかってるよ」

 

 敵わないとわかっていても、フェイトとアルフは引く訳にはいかない。それに運よく発動前に発見できる可能性もゼロではない。

 

「しばらくは探索中心でいこう」

 

「あいよ」

 

 一人と一匹は些か重い気持ちでその場を後にした。




もうちょいいろいろ書きたかったけど、区切りがいいような気配がしたから、ここまで。

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