魔法少女は今日も歩く   作:魔法使いK

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近い内、オリジナルをなろうに投稿しようと思っているので行間とかいろいろ試してみました。


第4話

 

 見えざる巨人(シレンティウム・ラピス)

 

 錬金術師マリナ・エルクエルにとって最高の盾であり、鎧であり、同時に最強の矛である最高傑作のゴーレムだ。

 人類の創成と言う、錬金術にもっともポピュラーな神話を模倣するソレは、神の造成を目的とする錬金術においては入門技法そのものだが、その性能は正しく最強だ。

 そう胸をはって言える。

 一切の慢心無く、そう言い切れる。

 それだけの力がこのゴーレムにはある。

 なにしろ、これはマリナ・エルクエルがその生においての大半を、それこそ湯水の様に注ぎ込んだ物なのである。

 たった一冊の入門書を初めとして、数々の口伝、複雑怪奇な魔導書、遺跡。千差万別とも言えるそれらを一つの術式として纏め上げたのは、一重にマリナの探究心こそが成し遂げた物だ。

 そもそも錬金術とは、神の奇跡を望む魔術師とは違い──万物の造成を望むものなのである。

 必然的に魔術師よりもその戦闘力は低くなり、軽んじられる事もあるが。文字通り、万物を造り出すのである。その有用性は魔術師などを優に越えている。

 そんな他人、他力本願がモットーとも言える錬金術師において、マリナは自身が異端であると認識している。

 一人の錬金術師として得た知識の中から、自動人形(オートマタ)フラスコの中の小人(ホムンクルス)人工精霊(エレメンタル)混成獣(キメラ)、等々、数あるそれらからゴーレムを選択し、あまつさえゴーレムを魔術師の如く使役するなど異端で無くて何だと言うのだ。

 その仕組み、性能について簡単に述べるのならば、その名の通り『見えない』ことにある。

 魔術的にも、物理的にも、出来たとしても見ることが出来る者などこれに触れる事の出来た者だけと限られている。

 そんな者に出会った事はないし、そもそも見たとしてもこれから生き延びた者などいなかった。

 もはや軽い山とも言える巨体が見えないまま、高速で動くのだ、避けられる筈が無い。

 故にマリナ・エルクエルは不敗であった。

 故にマリナ・エルクエルは常勝であった。

 精々負けることがあるとすれば、それは同じ魔術結社(マジックキャスバル)に所属する、自身の友とも言える魔術師しかいないだろう。

 そう思っていた。

 そうであった。

 そうだった筈だった。

 しかし────

 

「なに、が、起…………き、て……!? がぁ──っ!」

 

 吹き飛び、宙を舞いながら考える。

 何が、何が起きている──!

 

「あぐぁッ……! ──────!!」

 

 宙から落ち、地面に叩き付けられる様に着地し、身をよじる。

 仰向けのままに、血塗れのままに、倒れる自分のそれはとてもではな無いが勝者のそれではなく、

 

 

 

 ──敗者のそれだ。

 

「良かったよ、ちゃんと効いてくれて」

 

 どこか安堵した様なそれは、まるで見下すかの様にマリナの上方から声が投げ掛けられる。

 しかし屈辱的とも言えるそれに、マリナは反応を返す事すら出来なかった。

 一体何が起きている!?

 先程と同じ疑問。しかし、意味が違う。

 起きた結果を問うのでは無く、過程を問う。

 ──魔法?

 違う。

 ──魔術?

 違う。

 そもそも魔法にしろ魔術にしろ、使用するにはそれを実行する対象が必要だ。

 で、あるならば魔術師寄りの錬金術師である自分が気付かない筈が無い。ましてや高速戦闘中だった筈、直の事そんな事は出来ない筈なのだ。

 では、同類──?

 そんな筈は無い……!

 強い否定が胸の内から溢れ出る。

 錬金術師であるからこそ知っている。見えない事はあっても、認識出来ない事は無いのだと。

 降り積もる綺麗な白の雪が、血の赤に染まるのを無視して無理に立ち上がる。

 ゆっくりと、しかし確かに。

 圧倒的とも言えるその隙に攻撃がこないのは、一重にその必要が無いと思っているのか、あるいは矜持か、それとも余裕か。

 どちらにしろ気分の良い物ではない。

 こんな筈では無かった。

 もっと楽な仕事とばかり思っていた。

 三日前に魔術結社(マジックキャスバル)、『久遠の風』に依頼されたのは一人の男の排除であった。

 目の前の、目元まで伸びた銀髪の少年。年嵩は15かそこらだろうか。あるいはもっと若いかも知れない。

 だからこそマリナは油断していた。いや、舐めていたと言うべきか。

 最初こそ魔術を使うことに驚きこそしたものの、その出来は一般の魔術師の平均そのものと言った所か。

 だから少年が部分展開とは言え見えざる巨人(シレンティウム・ラピス)相手に耐えきった、──避けきったと言うべきか、どちらにしろ生き延びた時に、マリナは確かに称賛した。

 やるじゃないか。その腕にしては中々。

 そんな風に考えていた筈だ。

 立ち上がった。力無く震える足に叱責を入れ堪える。

 

「──まだ立つのかい?」

 

 目の前から投げ掛けられる声は先程の自分と同じもとだ。

 しかし、今はそれを認める。そうする他に、無い。

 そのままの体勢で、当たり前だ、と口に出そうし、

 

「あ、だり────っげほっげほっ……!!」

 

 血を吐いて、それをやめた。

 肋骨でも内臓に刺さったのか、錆び臭い鉄の臭いが口内に溢れる。

 それを一度吐き、呼気を楽にする。

 

「あたりまえだ少年──!」

 

 言った。

 同時に右腕を振るう。外側からの弧を描いた薙ぎ払いの動きだ。

 連動するように自らの身を覆う見えざる巨人(シレンティウム・ラピス)が風音一つ立てず、その動きを追従する。

 あらゆる魔術、魔法に物質を通さない不可視の巨体だ。

 殴っても意味などないし、科学におけるどんな威力の爆弾でも耐えきって見せる程のスペックだ。

 それに対してタカミチは、上空に逃げる動きで跳んだ。

 地面を蹴りつけ上空を舞い、同時に、ごうっ! と巨人の右腕が森の木々を薙ぎ倒していく。

 そのままタカミチが中空を蹴る。

 虚空瞬動だ。いくらマリナがそういった事に疎いといってもその程度は知っている。

 ────それは読めていた!!

 同時に左手で抜き出した試験管に、右手で新たに取り出したフラスコの口をつける。二つの口と口をつけ、蓋となっているキャップ同士が嵌まるのを確認。

 それを捻り固定すると同時に、中で開けられた中身同士が混ざる。

 放った。

 

「な…………!?」

 

 巨人を警戒してか、目の前では無く前方数十メートル先に降り立ったタカミチの目の前に、それが投擲された。

 避けようとするタカミチの目の前でそれは光を放ち、鉄が溢れる。

 

「なんで、鉄なんかが──!?」

 

 驚愕するタカミチをよそにフラスコの中に閉じ込められていた、土の人工精霊(エレメンタル)が試験管から来たエーテルを喰らい、増殖する。

 わざと空腹状態にしたそれは、エーテルと言う極上の食事を口にし、その飢えを見たそうと辺り一面を食い散らかす。

 ようは爆弾だった。

 目の前で増殖するそれを、殴るかどうかをタカミチが悩んでいるのを見て、懐から転移符と呼ばれるソレをだす。

 もしもの時の為に持ってきた物であったが、この機を逃せばどうしようもない。

 決着はまた今度、だ。

 屈辱からか強く握り締めた符から、光が漏れ転移術式が発動される。

 逃げる。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「ああ、くそ! 逃げられたー!」

 

 次は仕留めてやる、と罵声が漏れる。

 今だなお増殖を続ける鉄の塊を見ずに、その奥の方を見ながらそう言った。

 そもそも最初から手加減しないで、本気でいけばこんなに時間がかかる筈が無かったのだ。

 ──見栄を張ろうとし過ぎたな…………。

 左手をポケットから取り出し、時計を見てそう思う。

 かかった時間は15分。予定よりも10分も遅い、この様子では料理も既に出来ているだろう。

 

「冷めてないと、いいんだけどなぁ…………」

 

 なにせ久々の旧友の料理なのだ。

 しかも十年前の時点で上手とも言えたのに、あれから十年がたっているのだ。期待しても損はしないだろう。

 まぁ、ここ最近の食事が余り満足の出来る品物で無かったと言うのも理由の一つなのだが。

 

「やっぱり。少しでも料理を覚えた方がいいのかなぁ…………?」

 

 流石に店売りのばかりはなぁ。

 そう言いながら、早々と追い掛ける事を諦め踵を返し歩くタカミチの背に、鉄の腕が伸びる。

 まるで、獲物に食らいつく獣の様に歪な鉄の腕が伸びる。

 ゆっくりと、ギチギチ、と鉄の擦れる音を立てながら腕が伸ばされ、

 

 

 

 

 

 ぱぁん。

 

 と言う軽い音と同時に止まった。

 そのまま、微動だにせず腕は去っていくタカミチを見つめ。

 タカミチがその視界から消えた瞬間に再起動した。

 短い間とは言え、自身の体の不調に疑問を呈したのか、しばらくの間その歪な手を、開いて、閉じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────粉々に砕け散った。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「────そろそろ宜しいでしょうかー?」

 

 ぷにりぷにり、とクレアが目の前の幼い姫の頬を楽しんでいる時であった。

 人間味の感じさせない、抑揚の無い声がその耳をうった。

 それに対しクレアは不機嫌そうに振り向いた。

特に飾りも何も無いドアの前、中折れ帽子を片手に人形が立っていた。

 間接部位を相当する球体間接が剥き出しになった体をそのままに、半袖半ズボンのスーツを着こなす、へんてこな人形だった。

 自動人形(オートマタ)。そう呼ばれるものだった。

 驚くことは無い。よく、見慣れている人形だからだ。驚くとすれば、

 いつもの事ながら、いつから居たのか。否、最初から居たのか。

 そう考え、手をそのままに体を人形の方に向ける。

 

「それで、────用件はなんだ?」

 

「次回のーワルプルギスについてですー」

 

 やけに語尾を伸ばす人形に、だろうな、と声がでる。

 目の前の人形が出てくるとすれば、必然、協会関係しかあるまい。

 

 英国魔術協会。

 

 日本の京都に位置する陰陽師の組織、関西呪術協会。

 それと対立するように存在する魔法使いの組織、関東魔法協会。

 そのいずれとも違う、魔術師の為の組織。

 別名、魔会。

 まぁ、協会等と銘打ってはいるが他所のとは違い、魔術師同士のパイプラインを繋ぐ程度でしか動いていないが。

 元々他人と関わる事を極端に嫌うのが、魔術師だ。それが出来るだけ十分だ。

 

「変更か?」

 

「はいー、諸事情によーり。開催は三日後となーりましたー。よろしいでしょうかー?」

 

 三日後。

 元々が一週間後だとすればかなりの短縮だ。

 ────そんなに欲しいのがある奴でもいるのか?

 そう考え、返事を返す。

 

「構わん、とっとと出てけ」

 

 でなければアスナのほっぺたを楽しめないだろ。

 そんなクレアの心境を察したのか、人形はぺこり、と礼をした後に、まるでノックでもするかの様に自身の影を足の先で叩き。

 影が水面の様にたわみ、

 

「ではー、まーた機会があればー」

 

 影に沈んだ。

 沈みゆくまま、手を振るそれを半眼で見詰める。

 毎度の事ながら抑揚の無い声で語尾を伸ばされるのは、中々にくるものがあるな。

 と思いながら、テーブルの塩をばら蒔く。別に意味は無いが、気分の問題だ。

 

「いつか、壊してやりたいものだな。アレは腹が立つ」

 

 既に居たという痕跡の無いドアの前を見据え、口に出す。

 まあ、今はそんな事などどうでもいいのだが。

 

「よーうし、それよりも、だ。────今度は……揉んでみても………大丈夫だよな?」

 

 何を、と聞かれたら頬っぺたをである。

 手を広げ、わきわきと指を動かす。

 今の私を止められるとすれば、それは神ぐらいだろう。

 そんな頭の沸いてるとしか思えない思いながら、

 

 

「さぁ、いざ────!」

 

 行った。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 ワルプルギスの夜。

 

 年に一度、魔術師達が集まりその秘術から媒体をやりとりする世界最大の魔術市場。

 聖遺物から、御神体、得体の知れない霊装、秘薬、魔法生物、曰く付きまで、様々な品を取り扱うそれは正しく、混沌だ。

 そんな魔術師達の祭りが今、

 

 

 

 

 

 ────始まろうとしている。

 

 

 

 そして少年は運命と出会い、少女は焦土を歩むだろう。

 そのどれもが厳しいものだ。

 それでも。

 今はまだ。その時ではない。

 今は、まだ。

 

 




ちょっち改定

追記・次話から本章に入るやも

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