魔法少女は今日も歩く   作:魔法使いK

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書くのがキツいゼェーー!


第2話

 

「ふむ、君は魔法を使えないのか」

 

 嫌味たらしく喜悦に顔を歪ませこちらを見る絶世の美少女こと、自称天才魔法少女であるクレア・ティアーヌに対するタカミチ少年の印象は最悪であった。

 一部の魔法使いにありがちなとも言える魔法を使えることを誇る。ある種の差別意識とも言えるそれを体現したかの様な言葉は彼の"魔法を使えない"と言うコンプレックスを多分に刺激したからである。

 

 この時点で少年の開きかけていた心の扉が一気に閉じたのは言うまでもないだろう。

 

 無論、タカミチがそれを表に出すことの無い心良い性格であっても、まだ二桁にも満たぬ年齢。それにも限界はある。周りは気にしなくてもそれを本人が気にするからこそ、コンプレックスと言えるのだから。

 

 そんな年頃の少年と自重しない誇り高い(笑)魔法少女が出会うとなればどうなるかと言うと、

 

「私はこの通り天才たがらな、もうバンバン使えるぞ。だから、だ」

 

「…………だからなんだよ」

 

「コーヒーを持ってきたまえ、ブラックだ」

 

「なんで僕がそんな事をしなくちゃいけないんだよ!」

 

「は?」

 

「いや、だからなんでだよ!」

 

「凡百の余人が、非凡の身である私に尽くすのは当然の事だろう?」

 

 こうなるのだ。

 少女の予想通りとも言える答えにタカミチは溜め息を吐く。

 

 なんで僕の周りの同年代はこんなのばっかなんだ……。

 

 もう一人の今は別行動している眼鏡の少年を思い返し、我が身の交遊関係を嘆く。

 その心労に肩が下がりそうなのを気合いで持ちこたえ。この、どうにも本気で言ってる節のある少女を見据える。

 

「そこに階級の差は発生しないだろう!」

 

「その方が合理的だろうに」

 

 何処までも冷静に、冷酷に、冷徹に少女はいい放った。あたかも、それが世界の真理であるかの如く。

 

「とにかくコーヒーだ。質の良いのを頼むぞ、味は期待せんがね」

 

「だから淹れないって!」

 

「馬鹿な、こんな、美少女だぞ……?」

 

「そもそも自分で淹れればいいじゃないかっ!」

 

 これでもか、と言うほど声を張り上げる。

 少女はそれに対し、少し眉をひそめ、目線を下げてから、

 

「……な…………を……か………………」

 

「? なんだって?」

 

 聞こえなかった言葉を聞き直すと、それが気に入らなかったのか、目をきっと開き、

 

「──っ! もういい!」

 

 だんっ、と机に手を叩きつけ、会ったときから持っている古びた大きな本を片手に部屋を出ていってしまった。

 

 しばしの静寂の後。

 

「え……、ちょっ」

 

 いきなりの事に、なにか気に障る事をしたのだろうかと反射的に考えてしまう頭を振り、考えを打ち消す。

 

「あーもう! どう考えてもあっちが悪いだろっ!」

 

 それでも追いかけるのがタカミチと言う少年なのだが。

 

 

 

 

 

 そのやり取りは、近くのテラスの方にも聞こえていた。

 

「ふふふ、微笑ましいですね」

 

「そうか? 俺にはどーにも、あの嬢ちゃんが性格歪んでるようにみえるんだが……」

 

 そんなことはない、と隣の煙草を吸う老け顔の男に言いながら、目の前の少年少女を見つめる糸目の魔法使いは、先程の光景を表す言葉を考え、

 

「──あぁ、青春ですね」

 

「そんなもん、なのか……」

 

 見上げた空は何処までも青かった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 ぷんぷんと肩を怒らせながら歩く。

 

 なんなんだあの生意気なガキは……!

ちょーっとこっちが優しく──これでもかなり譲歩したつもりである──したら調子に乗りやがって…………!

 

 普通だ、普通。めちゃくちゃ可愛い美少女がどこぞのピンク魔法使いや炎髪灼眼のフレイムヘイズの様に接してきたのだ、デレデレするのが男だろう……!

 それを、なんだ。意味がわからないって! お前は、どこの主人公だぁー!  そりゃ口調は安定しないけど、そこは素直にデレろよぉー!

 いや、まあ。男のデレなど見ても前世が男の身には、吐き気とまでは行かなくとも好印象は抱かないのだが。

 それでも、だ。この私……ではなくオレが小さな声で、

 

 だって何を話せばいいかわからないじゃないか。

 

 なんて言ったりしちゃっているのだ! どこのヒロインだ、オレは……!

 しかもメインじゃなくて、口調的にサブじゃないか……!

 って馬鹿かっ。なんだヒロインって! 

 頭を掻き、オレは、

 

「あー、もうっ。なんでこうなったんだぁー!!」

 

 今日一番の愚痴を大声で叫んだ。

 周りの目は、さして気にならなかった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 走る。ひたすらに走る。

 探すのは黒髪の少女。なんでこんなに人がいいのか、自分で自分に嫌気がさす。

 戦争といっても、その影響は前線近くにしか出てないのか、活気ある何時もの都市であった。

 馴れた街並み故に、辺りを埋め尽くす人混みに圧倒されることはもうない。

 辺りに目を走らせ、自分とは違う。目立つ黒曜石の様な黒い髪を探す。

 見つけた。

 広場の噴水近くに腰掛けているのが見える。

 

「いた……!」

 

 そのまま走りよろうとし、違和感に気付く。

 野次馬が少女を取り巻いている。

 

「あれは…………? ──不味い!」

 

 少女を取り巻く様に並び立つ屈強な男達。一目見ても鍛えられていることが伺える。

 前を塞ぐ野次馬を通り抜け、男達の間を抜け少女の下に向かう。

 

「何をしているんだ君は!」

 

「……あぁ、君か。なに、この男達がやけに私に突っかかってきてね」

 

 困っていたんだよ。

 そう少女は言った。何の気負いも無く、平然な顔で言いきった。

 もう不機嫌は収まったのか、穏やかな声で。

 

 瞬間。周りに立つ男達が殺気を放ちはじめる。

 

「おい、坊主。そのガキはてめぇの知り合いか?」

 

「──っ、なんですかアンタ達は!」

 

 殺気に臆しながらも、気丈に言い返す。

 その反応に目の前の、頬に傷のある男は笑う。

 

「口の聞き方がなってねぇな。知らない人をアンタって呼んじゃあイケねぇよ。それと、俺が尋ねているんだよ」

 

「だったらなんだって言うんですか!」

 

「いや、よぉ。何を思ったのかその嬢ちゃんがイキなり俺らに『余りに幼稚な魔術だね』なんて言ってくれちゃってよぉ……! おじさんたちぶちギレそうなのよ!」

 

 なぁ、と周りに聞く男を見て少女を睨む。

 

 何をしているんだ君は!

 

 そんなタカミチの視線にも少女はうっとおし気な視線を寄越すだけだ。

 そして、そんな自分達の様子に我慢を切らしたのか、男が手を伸ばす。

 

 それを見てタカミチは覚悟を決める。タカミチは子どもだが、ただの子どもでは無い。英雄達の集団『紅き翼(アラルブラ)』、そのメンバーの一人の弟子なのだ。ゴロツキ程度、一人ならばのしてみせる。

 

 しかし、今は二人だ。守るべき者がいる。

 逃げ道は無し、ここでやるしかない。二人、いや一人ならあるいは。その後に逃げれば……。

 

 と、考えて、ポケット(・・・・)に手を入れ。

 

「──やかましい」

 

 少女が、動いた。

 誰もが目を奪われた、その光景に。腕を上げ、銃を手で形作る。

 それを目の前の男に向けて、

 

「────がぁっ!」

 

 男が倒れた。

 誰もが不理解に体を停止させられる中、少女だけが、それが当たり前の様に行動し、次の対象を指差す。

 

「──いがぁ!」

 

「こいつ、何をぉぉ──」

 

「ヤゲルトッ!?」

 

「おい馬鹿っ! そのガキ……! がぁぁあ!」

 

「ぁぁぁああ──」

 

「────」

 

 次から次へと男達が倒れていく。まるで出来の悪い芝居でも見ているかの様な光景。

 しかし、それは現実で。

 男達が気が付いた時には、時既に遅く。

 

「──ほらね、この程度も防げない障壁。幼稚に過ぎる」

 

 少女だけが男達の中で立っていた。あまりにもふざけた光景、これを為すとすれば、それは──

 

 魔法。

 

 考えられるとすれば、それだろう。

 だが、違う。少なくともタカミチの知る魔法では無い。

 タカミチの知る魔法は、少なくとも視認できた筈だ、見えない攻撃なんてのは無い。

 それに詠唱(・・)がない。

 

 もしかして、だ。

 もしかして、彼女の使っている魔法は詠唱(・・)がいらないのか……?

 

 やけに心臓が痛い。もう、男達の事など頭には無かった。

 

 ソレは一体なんなのか。

 

 そんなタカミチの疑問に答える様に、少女はゆっくりとこちらに振り向き、

 

「言っただろう? これはただのガントさ、タカミチ。言っただろう、────特技は魔術って」

 

 小さな魔法少女が笑った。

 

 

 




次はもっと多くの文字数に……!

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