鎮守府の日常   作:弥識

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どうも皆さん、筆者です。

今回は閑話です。時系列は一緒ですけど。

赤城さんのぶっ飛び回を期待した皆様、すみません。難航してます。でも書きます。絶対。

シリアス多め。伏線も多め。

また、原作におけるとある『要素』に関しても一つの見解を出してます。

やらかしたかな、とは思う。でも後悔も反省もしない。

では、どうぞ。


潜む兆候

○舞鶴鎮守府:戸塚提督執務室

 

「提督、本日の建造報告です」

「ん、ありがとう」

 

秘書艦の不知火から受け取った書類を、別の書類を処理しながら横目で見る。

 

「相変わらず器用ですね提督……」

「真面目に仕事してれば割と有能なのよね、真面目にやってれば」

「はいそこー、聞こえてるよー」

「あら、聞こえるように言ってるのよ?」

「うん知ってた」

 

呆れたように呟く瑞鳳と叢雲に対し、無駄と思いつつも抗議する。

勿論、作業の手が止まる事は無い。

 

「コレでも此処に来る前は海運屋の事務畑に居たからね、こういうのは慣れてる。

 全部一人で、ってなったら流石にきついけど、有能な部下が居ると楽で良いね」

 

そういって、不知火を見ると、『……秘書艦として当然です』とそっけない返事。

何時もと変わらぬ秘書艦の様子に肩を竦めながら、仕事に戻る。

 

因みにそんな彼らの一部始終を後ろで見ていた瑞鳳と叢雲は知っている。

 

戸塚の机の前に立っている不知火が、後ろで手を組んでいる……と見せかけて、結構な強さで自分の手の甲を抓っていることを。

成る程、アレなら嬉しさで顔がにやける事も無い。

もしも今の彼女に犬の尻尾が生えていたら、それはもう凄い事になっている筈だ。

 

とても微笑ましい同僚の様子に、見ている此方もほっこりである。

 

尤も、それを指摘する……なんて野暮なことはしない。

そんな事をしても多少の愉悦はあろうとも、誰も幸せにならないのだ。

 

……まぁ要するに、不知火(煽り耐性の低い忠犬)を下手に弄ると後が大変なのだ。

主に、照れ隠しで戸塚(飼い主)が酷い目に遭う的な意味で。

 

「なんか途轍もない危機を避けれた気がする」

「何の話ですか?まさか、不知火に落ち度でも?」

「自分から地雷を踏みに逝くなんて大した度胸ね」

「叢雲さん、字が、字が違います」

「お二人とも、何か?」

「「いえ、何も」」

「……?まぁ、気のせいか。しかし……」

 

艦娘達のやり取りに首を傾げつつ、一度作業の手を止めて報告書を見る。

……まぁ、斜めに見ようと真っ直ぐ見ようと書いてある事が変わる訳では無いのだが。

 

「まーた『ダブった』かぁ……」

「今度は誰が来たの?」

「鬼怒に夕張……何度目かね」

「あ、相変わらず良く分からない引きですね……」

 

現在、戸塚艦隊では『第三艦隊開放』の為、川内型軽巡のお越しを心よりお待ちしていた。

その為、日々(無理の無い範囲で)軽巡狙いの建造を行っている。

 

此れまでの艦娘加入経緯を振り返ると、戸塚の『引きの運』は有り体に言って『微妙』だ。

悪くは無い。悪くは無いが……良くも無い。

 

長女(夜戦馬鹿)は割と早い段階で来た。三女(艦隊のアイドル)も先日加入している。

 

だがしかし、揃わない。

 

「後は神通(次女)だけなんだけどなぁ」

「此ればかりは運ですからね」

「まぁ仕方ない。来て早々申し訳ないけど、改修に回ってもらおう。あ、艤装は勿論」

「外して、ですね。了解しました」

 

書類を不知火に渡して眉間を解す。

 

「少しは慣れた?このやり取り」

 

叢雲の言葉に、天を仰いだ。

 

「流石にね。此ればっかりはどうしようもない」

 

現在、戸塚艦隊では所謂『ダブり』の艦娘を改修の素材にまわしている。

この扱いに戸塚としても思う所が無い訳ではないが、此ればかりはどうにもなら無い。

 

海域での『ドロップ』も、建造も、多少艦種の誘導はあれどほぼ『ランダム』だ。

艦隊に於ける『艦娘の最大保有数』は決まっており、原則的に同じ部隊に同じ艦娘は配属できない。

 

艦隊の運営事情を鑑みると、『建造をしない』という選択は取れない。『海域の攻略』も然り。

 

「君達はどうなんだ?」

 

不毛とは思いつつも、そう問わずにはいられない。しかし、帰ってきた返答はある意味予想外のものだった。

 

「別になんとも?」

「そうですね、特に思う事は無いです」

「ですね」

「え、そうなのか?」

「まー、提督には実感が湧かないのも無理は無いわね」

 

目を見開く戸塚に対し、代表して叢雲が応える。

 

艦娘は、そもそもが『量産』を前提とした存在なのだ。

個々の個性の差異はあれど、『自分以外の自分』に対しては、基本的に無関心なのである。

と言うか、『誰(自分含め)が何時来るか』ほぼわからない状態で、何を気にしろというのか。

 

「私達は提督である貴方と違って、『替えが利く』の」

「そういう考え方は」

「事実よ。貴方がどう思おうと、私が、瑞鳳が、そして不知火が沈んでも、この艦隊は周り続ける。

 ……そうでなければ、いけないんだから」

「……中々難しいな」

「割切りなさい。一人沈んで一喜一憂しているようじゃ……貴方もたないわよ」

 

突き放していた。しかし、其処には優しい彼に対する思いもあった。

だからこそ、叢雲は彼を突き放していた。それが自分の役目だと思っていた。

 

不知火は駄目だ。彼女は戸塚に『入れ込み』過ぎている。

彼女に任せても、恐らく『不知火は沈みません』位の事を言ってくるだろう。

 

だがそれでは駄目なのだ。世の中に『絶対』はない。

 

それを忘れて妄信して……誰かが沈めば。

 

最悪の場合、いつか見た『大馬鹿』の様になってしまうかもしれない。

 

それが嫌だった。

 

 

「……成る程ね」

「理解した?」

「あぁ、君達を沈ませないよう、これからも努力しないとな」

「っ……」

 

そうじゃない、と言おうとして、やめた。

勿論、沈まないに越した事は無いだろう。それはわかる。

自分達を大切にしてくれる、というのは純粋に嬉しいし、戸塚が有能な提督というのも理解していた。

 

周りを見る。不知火も、瑞鳳も、どこか嬉しそうだった。

まぁ良いか、これ以上は野暮か、と思い。

 

 

『そう、精々期待しているわ』と返そうとして―――詰まった。

なぜかわからないが、違和感を感じた。違和感を抱いている事に違和感を感じた。

どうも、不知火達は違和感を感じて居ないようだった。

 

彼の言葉に対して感じる『なにか』を考える前に、その思考は彼自身によって塗り替えられていた。

 

「要するに、自分以外の自分って奴を気にする艦娘は相当な変り者って訳か」

「あら、そんな変人に心当たりがあるの?」

「あぁ、ウチの艦隊じゃないけどね」

「……そんな方、早々居ないと思いますけど」

「俺も確信があるわけじゃない。

 でも『アイツ』んトコの艦娘なら、な」

「あぁ、あそこの……」

 

確かに、あのある意味『ぶっとんだ』艦隊の所属艦娘なら居るかも知れない。

というか、居てもおかしくない。

 

「つくづくアレな艦隊だよなぁ」

「ですね、流石に彼女達を見習おう……とは思えません」

「そ、そんなに凄い艦隊なんですか?」

「あら、そういえば瑞鳳は会った事無かったかしら」

「そういえばそうだなぁ」

「会わせて見るのも、吝かではないのでは?」

「いやしかし、ウチの子に変な事を吹き込まれるのも……」

「発言が完全に過保護な父親ですね」

「いや確かに傍から見れば親子の様に見えるかも知れないけどね?」

「……そうですね」

「不知火?え、ちょっとまって、何この空気」

「……提督のせいですよ、もう」

「瑞鳳?何でそんな可哀想な物を見る目で俺を見るの?」

「これだからウチの提督は駄目なのよね」

「……え、ちょっと待って?何の話!?とんだ冤罪だよ!」

 

そんな会話を続けるうち、叢雲の感じた違和感はどこかに消えていた。

 

叢雲は、結局違和感の正体に気付かなかった。

 

瑞鳳は、艦隊に所属している期間が短かった為、そもそも違和感に気付けなかった。

 

不知火は、本来なら彼に抱いた違和感に気付けていた。その正体にも。

しかし、その時の彼女は少しばかり動揺していた。

彼の言葉に、素直に喜んで、素直に落ち込んでしまっていた。

 

この時のやり取りを、彼女達は後悔する事になる。

 

特に不知火は、その場で泣いて取り乱してしまうほどに。それこそ、過去の自分を殺してしまいたくなるほどに。

 

 

 

 

 

戸塚柔宗はこう思っていた。

 

確かに、彼女達がいなくても、戸塚艦隊は回るだろう。

 

だがそもそも、此処(舞鶴)にいる時点で、彼の『未来(さき)』はもう無いのだと。

 

 

 

 

彼女達は、気付けなかったのだ。




今回は此処まででございます。

不知火は不器用可愛い。はいここテストに出ます。赤線引いときましょう。

要所要所で不穏な空気。でもこのフラグはキチンと回収しますんでご安心を。

因みに戸塚さん、描写は少ないですが、終始一貫して一つの『目的』の為に動いてます。
コレも近いうちにそれなりの描写をしますので。

次回こそ、次回こそ赤城さんぶっ飛び回ですので。

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