鎮守府の日常   作:弥識

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どうも皆さん、筆者です。

今回も引き続き、空母組のお話です。

例のごとく、独自設定・独自解釈が入りますのでご注意を。

では、どうぞ。


至るに足らぬ、理由が足りぬ。

○神林艦隊提督執務室

 

「他所の艦隊の艦娘と勝負する?」

「はい。弓道場の使用の許可を頂きに」

 

執務の手を止めてこちらに問いかけてくる神林に、静かに頷く赤城。

 

「す、すみません、私が不甲斐無いばっかりに……」

「翔鶴さんのせいじゃないですから、気にしないで下さい」

「そうそう、悪いのはそんな戦略考えた提督なんやから」

「まぁ、否定はしない」

 

原因の一端(だと思っている)翔鶴はひたすら謝っているが、それを笑いながら赤城と龍驤がとりなしている。

神林も、その辺りは自覚していた。

 

 

 

艦娘の層が厚くなってきた事を受けて、神林の艦隊運用は練度の底上げを主としたものに移行していた。。

現在、正規空母の中で一番練度が高いのは赤城。さらに飛龍、蒼龍と続いて、その下に加賀と翔鶴となっている。

しかし飛龍・蒼龍は最近近代化改装を終えたばかりで『一線級』とは言えず、加賀・翔鶴は練度で見れば新人に近い。

最低限、近代化改装を済ませる程度の練度にしておかないと、高難度の海域への投入は難しかった。

 

練度の低い艦娘が練度を上げるにあたって、一番ローリスクハイリターン…要するに一番効率が良いのは『演習で旗艦になり、勝ってMVPを取る』である。

 

そんなわけで、演習艦隊の旗艦に翔鶴を据えた。

ところが、相手に問題があった。そう、相手艦隊の瑞鶴である。

 

彼女の練度は高く、翔鶴だけでは航空戦で競り負ける可能性が高かった。

なので、練度上げがひと段落してたまたま手が空いていた赤城を随伴艦に充てることにした。

 

しかし、其の儘だと赤城が高確率でMVPを取ってしまう。

育成艦を差し置いて護衛艦がMVPを掻っ攫っていては、本末転倒だ。

 

其処で赤城には艦戦を満載して制空権を獲る事に専念し、その後は翔鶴の援護に回ってもらうことにした。

 

結果、演習で勝利し、翔鶴は無事MVPを取ることが出来た。

 

赤城が早々に大破したのはやや想定外だったが、まぁ誤差の範囲である。

 

 

「そもそも、MVPを取ったのは翔鶴が頑張ったからや。もっと胸張り?」

「そうそう、別に赤城と翔鶴の二人で戦ったわけじゃないんだしさ」

「龍驤さん、飛龍さん……」

 

龍驤達の言う通り、MVPを取れたのは翔鶴の実力である。

確かに『取りやすい編成』に組んだが、他の面子にも可能性はあったし、少なくとも棒立ちしていただけの者にMVPは取れない。

 

「ていうか、赤城が普通に戦っても翔鶴がMVP取ったんちゃうか?」

「え゛?」

 

龍驤の言葉に、赤城が反応する。

 

「確かに……開幕大破してたもんねぇ赤城」

「と、取りましたよMVP!最初の航空戦で私が全員蹴散らしてましたよ!」

「それじゃ駄目でしょうに……」

「あ、あはははははは……」

 

飛龍の悪い笑みに、慌てて答える赤城。

それでは本末転倒だ、と頭を抱える扶桑。

それを見て、苦笑いしか返せない翔鶴。

 

此処までなら、何となくめでたしめでたしで終わるところなのだが。

 

「で、相手方の瑞鶴が突っかかって来たわけか」

 

そして話は冒頭に戻る。

 

食事中の赤城たちの所に突っかかってきたのは、先程演習で戦った艦隊所属の正規空母の『瑞鶴』だった。

 

曰く、演習で手を抜いた(様に見えた)赤城に、一言言いに来たのだという。

 

「成程……少し、あからさまにし過ぎたか」

「提督の分かり易過ぎる編成が、裏目に出ましたね」

「こっちとしては、提督の意向が透けて見えるからやり易いんやけどなぁ」

 

そう呟く神林に対し、扶桑と龍驤が苦笑する。

要するに、露骨にやり過ぎたのだ。

 

「別にそこまで遠慮するものでもないと思うけど」

「私は……あの子の気持ちも分からなくは……」

 

肩を竦める飛龍に対し、翔鶴の顔は複雑そうだ。

 

自分の相手はある意味因縁のある一航戦の片割れ(と姉)。

それに自身の自慢の航空部隊を散々引っ掻き回されて、さぁ一矢報いようと奮い立ってみれば早々に大破、となっては思うところもあるだろう。

 

「要するに、白黒つけたいんやろ。あからさまに格下扱いされたんやしな」

「……今更つける必要あるのかしら?」

 

龍驤の言葉に、首を傾げる扶桑。

 

先程の演習、秘書艦として彼女も神林と共に立ち会っている。

 

控えめに見ても、あちらの瑞鶴より赤城の方が格上だった。それは事実だと思っている。改めて競う必要があるのだろうか。

 

「下手にあしらっても、納得はしないでしょうから。妙な遺恨を遺したくないですし」

「……確かにあの手の子はキチっと分からした方がよさそうやな」

「成程……分かった。好きにすると良い」

「ありがとうございます、提督」

 

本人がやる気なのであれば、神林に止める理由はない。

 

「……やるからには、勝ちなさいよ?」

「扶桑?」

 

小さく呟いた言葉に、神林が首を傾げる。扶桑がこういったことで私見を出すのは珍しく感じた。

 

「大丈夫ですよ扶桑さん。貴女に勝っておいてあの子に負けていては、恰好が付かないわ」

「……くれぐれも慢心などしないようにね」

「貴女が『まだ上』に居るのに慢心?それこそ在りえないです」

「……だと良いのだけれど」

 

そう言って穏やかに笑う赤城に対し、特に表情を変えることなく返す扶桑。

何と言うか、二人の間に、火花が散った気がした。

 

『重い!空気が重いよ!』

『この二人……艦種が違えど、ライバルやからなぁ』

 

軽く軋む執務室の空気に、飛龍が慄き龍驤が呆れる。

 

神林艦隊に於いて、色々な意味で扶桑が『筆頭』なのは有名な話。

では、『二番目』は誰か?

 

『神林新聞(※本人非公認)』を手掛けている『青葉』だろうか。

『絶対魚雷当てるウーマン』と称される『北上』だろうか。

『司令官の敵絶対斃すっ娘』と恐れられる『響』だろうか。

それとも、『最近出番少なくね?』と愚痴っている誰かか。

 

少なくとも、空母組の艦娘たちはこう思っている。

 

 

―――筆頭(扶桑)に一番近いのは、間違いなく『赤城』だ。

 

 

これまで彼女は神林に対して、然程『あからさまな』態度を取っていなかった。

だからこそ、空母組以外の艦娘たちは赤城の事を気にもとめなかった。

 

しかし、先日の『見合い護衛艦争奪戦』の一幕を見て。

辛勝ながら、扶桑を下した赤城を見て、気づいたのだ。

 

 

扶桑の次に練度が高い赤城が。

扶桑よりも艦隊所属歴の長い赤城が。

 

 

神林に対して、『何とも想っていない』訳がないのである。

 

 

「競争心と向上心を持っている子は嫌いじゃないですし。それに、私って結構負けず嫌いですから」

 

そう言って、赤城は笑った。

 

 

 

 

『……どうしたら、貴女の隣に立つに相応しい存在になれるのでしょうか』

 

加賀は、目の前を歩く彼女の背中を見つめながら、そんなことを考えていた。

 

彼女―――赤城の背中は、何よりも大きく、どこまでも遠く感じる。

 

実際、赤城と加賀の体格は然程違いはない。

まぁ、駆逐艦よりは背が高いが、決して大柄という訳ではない。寧ろ女性らしく、華奢なくらいだ。

 

しかし、加賀は知っている。

 

例えば今、赤城と勝負したとして。

自分では絶対に彼女には勝てない。

 

例えば今、赤城と共闘したとして。

自分は足手まといにしかならない。

 

そう確言できる程度には、彼我の差は歴然としていた。

 

練度一つにしても、赤城は50を優に超え。対する自分は20足らず。近代化改造すら終えていない。

 

艦娘としての実戦経験の差など、言わずもがな、だ。

 

因みに、それに対する嫉妬は、ない。

 

嘗ての相棒が、艦隊において『最強の一角』として(飽く迄加賀目線であるが)君臨している。

『元一航戦』の片割れとして、ある種の誇らしさすら加賀は感じていた。

 

しかし、だからこそ、今の自分に不甲斐無さすら感じてしまう。

 

誰かがこう言った。『焦らず励めば、何れ時間が解決してくれる』と。

 

確かにそうだろう。戦っていれば、練度は上がる。実践経験も然り。

練度上げのペースは提督……神林次第だが、何時かは加賀の練度が赤城に追いつく日が来るのだろう。それは分かっている。

 

だが、加賀は気づいていた。

 

 

―――何かが、足りない。

 

 

そうなるであろう自分は、赤城と比べて、圧倒的に『何か』が足りないのだ。

 

加賀は自身の実力をある程度把握している。その『伸びしろ』もだ。

同じように、赤城の実力も把握しているつもりだ。

 

例えば、赤城と同じ練度になったとして。

例えば、赤城と同程度の実戦経験を積んだとして。

 

自分は、赤城のように戦えるのか?

赤城のように、扶桑と戦えるのだろうか?

 

その問いに、加賀は首を傾げざるを得ない。

 

先日行われた『演習』で、赤城は扶桑と戦い、勝利していた。

詳しい事情は知らないが、何だか色々とあったらしい。

 

あの時の扶桑は、なんというか色々凄かった。

砲撃の一撃一撃に、鬼気迫るものがあった。

 

あの攻撃は、多分加賀には躱せない。

例え現在の赤城に迫る練度を加賀が持っていたとしても、ちょっと勝てる気がしなかった。

 

そんなのに、赤城は勝った。危なげなく、ではなかったが、それでも勝っていた。

 

『何が、足らないんだろう』

 

今の赤城にあって、加賀に無いもの。

 

正直に言って、さっぱりわからない。

 

装備や戦略、と言ったものではないとは思う。そんなものだったら、加賀でも至れるはずなのだ。

 

 

『今回の件で、何かわかるかもしれません』

 

 

赤城の背を追いつつ、加賀はそんな事を考えていると、不意に前から声が掛かる。

 

「加賀さん、どうかした?」

「え、」

 

ふと顔を上げると、赤城がきょとんとした顔を向けている。

どうやら、一人で深く考え込んでしまって居た様だ。

 

「随分真剣な顔をしていたけど……もしかして、私が負けるかも知れないのが心配?」

「そんな事は……」

 

慌てて応える加賀に対し、微笑みながら「大丈夫よ」と返す赤城。

 

「提督にあそこまで言ったんです。必ず勝ちますよ」

「……どうしてですか?」

「え?」

 

真剣そうな声に、赤城が足を止めて振り返る。

 

「どうしてそんなに、『強く有れる』んですか?

 赤城さん、一体何が……貴女をそこまでの領域に『至らせた』んですか?」

 

どこかすがる様に聞こえる声に、赤城は「ふむ」と顎に手を当てる。

 

「……恐らくですが……今の加賀さんには理解できないかもしれません」

「え……」

 

ある意味突き放すような言い方に、加賀の顔色が変わる。

 

そんな加賀の様子に、ではヒントを、と指を立て、加賀を指す。

 

「貴女は、誰ですか?」

「え」

「加賀さん、貴女は、自分をどのように思っていますか?」

「私が、私を?」

 

そうです、と赤城は頷く。

 

「其処に、私の『強さ』が有ります。それが、私の『強さの理由』です。

 ただ、私と同じ『きっかけ』で加賀さんが強さの理由を見つけられるとは思えません。

 ……いい機会ですから、今回の件で探してみてください。

 そして、『追いついて来て下さい』」

 

最期の言葉に、加賀の顔色が変わる。

 

 

 

 

―――どんな理由であれ、私は貴女以外に背中を預ける心算は有りません。

―――だから、お願いします。見つけてください。

 

 

 

―――『あの時』抱いた【一航戦の誇り】の様な、そんな『理由』を。




超難産。泣きたい。

加賀さんは『そっちじゃない』ので、『見合い護衛艦争奪戦』詳しい経緯は知りません。

赤城さん、意外とアレです。ヤバいです。神林さん大好きです。

そんな訳で、次回はちょっとした戦闘(?)回。お楽しみに。

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