鎮守府の日常   作:弥識

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お久しぶりです。筆者です。
仕事が忙しすぎて小説を書く時間が取れません。泣きそうです。
去年のGWは出張三昧でした。今年は……休めると良いなぁ(泣)

※注意
今回、次回と流血等のショッキングな描写が在ります。(R18Gタグを付けるほどではない、とは思いますが)
苦手な方はご注意ください。



では、どうぞ。


彼女が求めていたもの:前編

 

―――宮林冴香は『異常者』である。

彼女は、随分前から『ソレ』を『把握』していた。

 

『どんなに人を殺しても、全く平気な人種ってのが、この世界には存在する』

 

何時ぞやに、神林艦隊所属の艦娘達に話した事。

 

それは性別の区別なく存在し、全人口の2%近くはその素質を持っていると言われている。

原初の時代から脈々と受け継がれてきた、『殺人の遺伝子』を継ぐ者。

ヒトを殺すために生まれてきたヒト。

人類そのものの戦士階級。

 

彼女達の『司令官』は、間違いなくその2%に入っている。

 

 

 

 

だが、その調査報告書とは別に、ある統計結果が出されていた。

 

 

その統計では、こう記されていた。

 

 

―――また、全人口のおよそ1%は、殺人に快楽を覚える『キラーエリート』である。

 

 

先に示された人種よりも更に希少な、それでいて決して世界に歓迎されることのない、正真正銘の異常者。

 

宮林冴香は、まさにその1%に含まれる人種だった。

 

命の遣り取りの中に身を置いていると、自身の下腹部が酷く疼いた。

『それ』が表に出ることは滅多にないが、ふとした拍子に体の奥が熱くなる。

 

先日の神林との『決闘』は、まだ『我慢』がきいた。

恐らく、彼が『その気』ではなかったからだろう。

もし、彼と『本気の殺し合い』をしたら…………

そう考えると、後ろめたさを含んだ強い衝動が冴香の中を駆け巡る。

 

そんな自分を、冴香は随分前に受け入れていた。

恋人の様に愛す事もなければ、蛇蝎の如く嫌う訳でもなく、ただ受け入れる。

それがどれほど反社会的なモノであろうと。それにどれほどの言葉を弄しようと。

自分は、欺けない。

 

 

 

そんな彼女の『内面』を知っているのは、ほんのひと握り。

そしてそれを『受け入れた』のは、たったの三人だけだ。

 

苛烈に過ぎる冴香の『個性』を、両親ですら持て余した。

否、両親は其れを『認識』しようとすらしなかった。

 

そんな冴香の『個性』を最初に受け入れたのは、一人の軍人だった。

彼は、冴香にこう言った。

 

 

―――平和な世界は良い。だが退屈だ。

―――退屈は人を腐らせる。人生には刺激が必要だ。

―――だから、お前みたいなイカれた奴が居る位で、俺の世界は丁度良い。

 

 

今になって思えば、『彼』も『同類』だったのだと冴香は思う。

 

『彼』とは親子ほどの歳の差が在ったが、冴香は彼を慕っていた。

自分を受け入れてくれたから。

いざ『狂った』時、彼なら冴香を御する事が出来たから。

 

ある時、久々に彼と出会った時、彼はこう言った。

 

 

―――久々に、面白い『拾いモノ』をしたんだ。

―――歳は、お前と一緒位なんだがな、これがなかなか狂った餓鬼でよ。

―――機会が在れば逢ってみると良い。

―――きっと、お前も気に入る。

 

 

冴香は、面白くなかった。

彼が、自分以外の『何か』に目を向けていることに。

 

所詮、彼以外の『何か』など、どうでもよかった。

冴香は強い存在が好きだ。弱い者は嫌いだ。

彼は強かった。冴香が知る何よりも、誰よりも。

酷く、憧れた。まるで、初恋のように。

 

だから、そんな彼が自分以外の誰かを見ている事が気にくわなかった。

 

まぁ大好きな彼の手前、そう邪険にも出来ず『機会が在れば』と応えておいた。

 

 

 

 

 

暫くして、彼が戦死した、との知らせが届いた。

 

冴香は耳を疑った。

彼は誰よりも強かった。そんな彼が、呆気なく死ぬとは思えなかった。

色々と調べようとしたが、要領を得ない事柄しか出てこない。

 

そんな時、ある情報を冴香は耳にする。

 

『彼』の最後を看取った者が、生きている、と。

 

冴香は直感した。

そいつが、彼が生前話していた『拾いモノ』だと。

 

何となく、そいつに逢ってみようと思った。

大して期待はしていなかったが、『彼』の居なくなった世界で少しでも暇つぶしが出来れば、と思っていた。

 

 

 

 

 

―――まさかそいつが冴香の許婚で、自分より強い男で、二人目の『個性』を受け入れてくれた存在になるとは、思いもよらなかったけれど。

 

 

 

 

○舞鶴近郊・某倉庫

 

「……んぁ?」

 

物陰に潜んで息を殺していた冴香が、声を上げる。

 

いけない、考え事をしているうちに、少し意識が飛んでいたようだ。

 

摩耶に『伝言』を頼んで別れた後、冴香は近くの倉庫に潜んでいた。

もうすぐ、此処に『奴等』がやってくるだろう。

というか、見つけてもらわないと困る。

折角、『後腐れの無い相手』を見つけて、『それっぽく逃げて』目を引き、『人目の付かない場所』に『態々おびき寄せる』様な事をしたのだから。

 

『そろそろタカ君に伝言も届いているだろうし、早く来てくれないかなぁ♪』

 

自身の状況を顧みて、小さく嗤う。

 

―――あぁ、やはり私は救い様のないロクデナシだ。

 

倉庫内の窓を見上げる。そこには月。綺麗な満月だった。

 

自分の中で、何かの『スイッチ』が入る感覚。

悍ましい『ナニカ』が、鎌首をもたげる。

 

これから起こるであろう事を思い、下腹部で感じるドロリとした熱。

 

 

『ホント、貴方の言った通りだったよ、神城さん』

 

 

月を見上げつつ、冴香は自身の初恋の人に想いを馳せる。

 

 

 

この世界は平和だけど退屈で。

ちょっとばかし狂ってた方が面白くて。

貴方の言っていた『拾いモノ』は、私の『一番のお気に入り』になった。

 

 

 

偶にはこう言う『発散』をしないと、中身が腐る。

大丈夫、説教してくれる『ストッパー』は、もうすぐやって来るのだから。

それまで、ちょっとだけ、そう、ちょっとだけ『お楽しみ』をしたって、ばちは当たらない……よね?

 

此方に近付いてくる複数の気配を捉えつつ、冴香は物陰から立ち上がった。

 

 

 

 

『彼等』は、とある倉庫の前に立っていた。

 

「……此処に、間違いないんだな?」

「あぁ、奴は上手く撒いた心算かも知れんが、ちょっとお粗末だな。本当に軍人か?」

 

彼らは、とある女を追っていた。

何でも、横須賀から来た女将校らしい。

 

「今の『鎮守府』に居るのは『提督』って職業の素人さ。ま、こっちとしちゃ都合がいい」

 

前回『同業者』が仕掛けた時は、恐ろしく強い『護衛』が居たらしく、返り討ちにされたそうだ。

その時の『襲撃者』の遺体は、未だに見つかっていない。

 

今回も『護衛(前回と同じかどうかは分からないが)』が居たが、二手に分かれたようだ。

撹乱か、はたまた囮か……何れにせよ、素人らしいお粗末さだ。

情報通り、鎮守府の人材不足は深刻らしい。

 

「しかし、アレだろ。『艦娘』ってのは」

「あぁ、艦種は解らんが、間違いないだろう」

「良い女だったな。あっちはあっちで押さえるか?」

「いや、アレを相手にするには分が悪い。見張りもいるし、問題ない」

 

相手は鋼鉄の艤装を振り回すような化け物だ。

『陸の上』でどれだけ動けるかは判らないが、リスクは高い。

 

そもそも、今回の目的は『身柄』よりも『情報』だ。

艦娘は『代わりが利く』と聞いている。

『切り捨て』されたら無駄になるし、そもそも此方が知りたい情報を知らない可能性もある。

 

まぁ、『艦娘』は忠誠心も高いと聞いている。

『上司』を押さえて人質にしてしまえば、どうとでもなる筈だ。

そうして知りたい事を聞いた後、二人諸共『愉しんで』しまえばいい。

 

改めて、逃げていた女を思い出す。

怯える風に逃げる様が嗜虐心をそそられた。

 

「……良い女だったな」

 

ポツリと、手下の一人が口にする。

 

「あぁ、『旨そう』な顔してたぜ」

「裏町の売女に比べりゃ貧相なナリだったが、顔は良いんだ。『しゃぶらせれば』一緒さ」

「俺は、あの位が好みだけどなぁ」

「バーカ、手前の好みなんざ聞いてねぇよ」

「大体、どんなチキンスープだって、喰っちまえば『出すモンは一緒』だろうが」

「は、ちがいねぇ」

 

そう言って、下卑た笑いを浮かべる手下どもを、『静かにしろ』と窘める。

 

尤も、彼も『そういう考え』が無かった訳でもないし、事が済んだら女は用済みだ。

懐の痛まない褒美が手に入ったと思えば、彼等を止める心算もなかった。

 

「さぁ、仕事を済ませるぞ」

 

そう言って、倉庫の扉を開けた。

 

 

 

 

 

「……っ!?貴方達……!」

 

扉の奥、倉庫の中程で、一人の女性が立っていた。

 

「さて、鬼ごっこは終わりだ」

「そ、そんな……!」

 

女は絶望したように、一歩後ろに下がる。

端正な顔が恐怖に歪み、彼らの嗜虐心を煽る。

 

恐らく、このまま夜が明けるまでやり過ごす心算だったのだろうが、生憎こちらもプロだ。

出入り口が一つしかないのは確認済みだ。これで袋の鼠である。

 

「アンタ個人に恨みは無いんだが……此方も仕事なんでね。俺達に付いて来てもらう」

「い、いや……!こないで!」

「ワリィな、そうは問屋が卸さねぇんだわ。ま、悪いようにはしねぇからよ」

 

そう言う手下のだらしなく膨らませた股間と、下卑た笑いに身の危険を感じたのか、自らを抱くように腕を回し、更に後ずさる。

 

ここまで来れば、後は簡単だ。部下に顎で示して、確保に向かわせる。

その仕草に厭らしい笑みを浮かべつつ、二人の男が女に向かう。

 

『随分と楽な仕事だった』

 

そんな事を思いつつ、手下どもの影に女が隠れた瞬間―――

 

 

 

―――あはっ♪

 

 

 

女が、嗤った。

 

「――――っ!!お前ら、さが」

「おっそーい♪」

 

何か途轍もない事が起きている気がして、手下を制止させるが、時すでに遅く。

腕を組んだ女の袖口から、キラリと光が漏れ。

 

「か……!?」

 

くぐもった声を上げて、手下二人が崩れ落ちた。

 

「なっ……!!」

 

驚く男共を尻目に、女―――宮林冴香は自身の両手に持つモノに目を向け、感嘆の息を吐く。

 

「やっべ、やっぱりタカ君のアドバイス凄いわ。

 こんな袖に仕込めるようなちっちゃいナイフでも、頸動脈って斬れるんだねー」

 

改めて、彼女の持つ『得物』に目を向ける。

大きさは、掌より少々大きい程度。

内側に湾曲した刃と、取っ手に開いた穴が特徴的な、小ぶりのナイフ。

 

「……カランビット、だと!?」

「お、やっぱ知ってる?この『業界』じゃ有名な隠し武器だよね」

 

自身の持つ『得物』の名前をいい当てられた事に気を良くしたのか、朗らかに笑う。

先程までの雰囲気とは、何もかもが違っていた。

 

「んー、いいねぇいいねぇその顔!

 ドッキリ大成功!まんまと騙されたって訳だ。

 ってか、私の演技力凄くね?オスカーも真っ青。

 軍人辞めたら女優に転向しよっかなー。

 ……あ、だめだ、台本覚えらんね」

 

ケタケタと嗤いながら、冴香は続ける。

そして衝撃さめやらぬ男たちの背後で、倉庫の扉が閉められ、鍵の掛かる音。

 

「貴様……何をした!?」

「何って?閉じ込めただけだけど?」

 

リーダー格の男の叫びに、首を傾げる冴香。

 

「こっちも色々あってさ、逃げられると困るんだよね。

 やっぱさ、こういう商売してるとストレス溜まんのさ。

 たまにはガス抜きしないとね」

 

そう言って、改めて手に持つナイフ―――カランビットをクルクルと回しながらクスリと嗤う。

 

「さーて、君達もお待ちかねな『R指定』なお時間だよ♪

 さぁ、死ぬのと去勢されるの……どっちが良い?」

 

 

 

 

 

口を三日月の様に歪め、笑う。嗤う。

 

『衝動』に、その身を委ねる。

 

意識が、蕩ける様な感覚。

 

あぁ、最高だ。最低に最高だ。

 

只々、容赦なく。慈悲も無く。牙を剥こう。

 

『グラン・ギニョール(血なまぐさい恐怖劇)』の始まりだ。

 

『真面でいる贅沢』なんて、あの世で幾らでもすればいい。




はい、今回は、この辺で。
とにもかくにも、四月中に一作品は上げたかったのです。

此処に来て、冴香さんのぶっ飛び具合をさらにぶっ飛ばしてみました。
幾らかは伏線をしてたんですがね。


後編も、GW中に出せれたらな、と。
ではでは。お楽しみに。

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