鎮守府の日常   作:弥識

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さて、後編でございます。短期間で此処まで書ききれたのは初めてかもしれないです。

今回は若干説明多いです。
内容は筆者が考えている価値観ですので、合わない方もいるとは思いますが、ご了承ください。


率いる者の資質:後編

―――緊急秘匿回線―――

 

神林艦隊所属の皆さん、聞こえますか?

皆さんにお伝えします。

全員直ちに、提督を捜索。私まで連絡を。これは主席秘書艦命令です。

尚、艦載機を装備可能な方は運用を許可します。

彩雲、瑞雲、偵察機、あらゆる手段を用いて、速やかに提督を見つけて私に御連絡下さい。

 

―――オネガイシマスネ?

 

 

「つまり、自殺未遂って事か?」

「有り体に言えば、な」

 

騒ぎのあった現場を後にした神林たちは、談話室で戸塚達に事の説明をしていた。

 

「でも、何で自殺なんか……?」

 

分からない、と言った表情の叢雲に対し、青葉が説明する。

 

「懇意にしていた艦娘さんが轟沈したんでしょう。

 先ほどの『名取』さんのお話では、『その方』が遺した手紙を読んでああなった、との事だったので」

「成る程、……そう言う事か」

「あの方の取り乱し様を見る限り、それなりに親密な関係だったんでしょうね。……まぁ、良くある話です」

 

青葉の言葉に、戸塚が反応する。

 

「そんなに良くある事なのか?」

「結構有りますよ?流石に頻繁には無いですが……年間で見れば、それなりに」

 

手元の手帳を捲りつつ、青葉は淡々と答える。

 

「そうなのか……」

「鎮守府の提督と言えど、特に『そういう訓練』がある訳では無いですからね。

 メンタルは一般人レベルの方が殆どです。……まぁ、ウチの司令官みたいな『規格外な例外』も居ますけど」

 

青葉が隣に座る神林を見つつため息をつく。

 

役職こそ『提督』となっているが、その実態は一般人と然程大差が無いのが現状だ。

何しろ人手不足な為、軍属経験の無い者達すらかき集めているのだ。

多少の事前訓練は在る物の、ほぼ『講習会』に等しい内容に、元から軍属の者達には『チュートリアル』と言われている程である。

 

「……余り私を規格外扱いするな」

「そうは言ってもですね?あの場であそこまでボロクソに言って相手ベッコベコにする方を『普通』とは」

「奴の首にはカッターがあった。アレくらいしなければカッターと敵意がコチラに向かんだろ」

「しかも腹パンで昏倒とか……幾つか内臓逝ってますよ、アレ」

「横隔膜を打って呼吸を止めただけだ。他の内蔵は傷付けて無い」

「いやいや可能なんですかそんな事」

「打ち込む位置と角度の問題だな……と言うか、他に方法が無いだろう。あの場で絞め落せとでも?」

「『首トン』とか『壁ドン』とかあるでしょうに」

「何だそれは?」

「ほら、よくフィクションであるじゃないですか、首に手刀でこう……」

「あれは意外と難しいんだぞ。後ろに回る必要もある」

「あ、出来ない事はないんですねわかります」

「ていうか『壁ドン』て何よ『壁ドン』って」

「アレ、知らないんですか叢雲さん。こう、頭を鷲掴んでですね、壁にこう……」

「……詳しくは知らないけど、多分違うと思うわよ」

「まぁまぁ何でも良いじゃないですか。ところで……」

 

掌をパタパタと振りつつ談笑していた青葉だが、不意に目を細めて目線を移す。

 

「……先程から随分と青葉と司令官を睨んでますけど、どうかしましたか、不知火さん」

「……」

「おぉ、怖いですねぇ。まさに戦艦レベルの眼光です」

「悪戯に茶化すな青葉」

「冗談ですよ、司令官。……それで、どうしました?」

 

改めて、不知火と向き合う神林と青葉。

それまで険しい目で見つめていた(と言うより睨んでいた)不知火が、口を開く。

 

「……お二人は、あの提督の事をどう思われているのですか?」

 

実の所、不知火には返答が分かっていた。

少なくとも不知火の目には、件の提督を見る二人の目に『同情』の色は感じられなかった。

それでも、直に彼らの口から確認する必要があると思ったのだ。

 

「あの男の事か?……少なくとも、『救い様の無い馬鹿だ』とは思っているよ」

「そうですね、青葉もそんな感じです」

「っ……!」

 

事も無げに言う彼等に、不知火は改めて絶句する。やはり、自分の目は間違っていなかったのだと。

 

「随分と辛辣ですね……経緯はどうであれ、彼は大切な仲間を喪ったのですよ?」

「と、言われてもですね……」

 

そう言って、青葉は困ったように笑う。

 

「何ですか?」

「いや、あの状態で同情とか言われても、ぶっちゃけ自業自得じゃないですか」

「……どういうことよ」

「あらら、その様子だと不知火さんも叢雲さんも分からないって感じですね」

「……えぇ、理解できかねるわ。仲間を想う事は当然じゃない?」

「……まぁお二人は此処に着て日が浅いですし、仕方ないですかね」

「……どういう意味ですか?」

「つまりですね、k『艦娘が沈むのは全部提督のせいって事さ』……げ」

 

説明に被せて聞こえてきた声に、青葉が顔を顰める。そこに居たのは―――

 

「……冴香か」

「おっひさー、タカ君。あ、ジューソー君も」

「……どうも」

「「……じゅーそー?」」

「気にするな、二人とも」

「おや、そっちの二人はジューソー君の所属艦隊の子達かな?」

「「じゅーそー……」」

「だから気にするなと。後で説明するから。……まぁそんな所ですよ、宮林提督」

「どうもどうも、横須賀で中将やってる、宮林冴香だよ、よっろしくぅ!……っていうか青葉ー?」

「何ですか?」

「いや何ですか、じゃないでしょ。『げ』ってなによ『げ』って。私君に何かしたっけ?」

「そのうっすい胸に手を当てて考えて頂ければ宜しいかと」

「うっすい言うな!ちゃんと触れば分かるくらいにはあるんだから!」

「そうですね、触れ『ば』わかりますね(笑)」

「くそう、最近発表された公式イラストが美乳だったからって調子乗りおってからに……!」

「何の話だ」

「此処じゃない世界の話。詳しくは『艦これ・青葉・カレンダー』で検索してみよう!クソが!」

 

 

※それはそれは素敵な画像が見られます。主にπ/とか。

閑話休題。

 

 

「それで、何の用だ?」

「さっきの騒ぎの件でね。古賀さんは今『後片付け』してるから、私はその代理。お疲れ様、タカ君」

「私は大した事はしていないよ」

「それでも、さ。ごめんね、嫌な役させて」

「憎まれるのは慣れてる。……それで、彼は?」

「あのまま『然るべき施設』に移送。後は心の治療を含めた諸々が済んでから、だね」

 

今ひとつ会話が読めない叢雲が、説明を求める。

 

「あの、どういう事ですか?」

「言葉の通りさ。タカ君が憎まれ役を買ってくれたから、艦隊も艦娘も守れたんだ」

「……というと?」

「ありゃ、気付いてなかったの?んじゃ説明するとだね、

 タカ君が介入しなかったら、もっと騒ぎが大きくなってた。医療班にも、更に怪我人が出てたかもね。

 そうなると、あの提督も其れなりの処分が下るだろうし、クビにでもなったら、艦隊の子達も只じゃ済まなかったと思う。

 でも、タカ君が彼を煽ったから、事情が変わった。経緯はどうあれ、彼が『錯乱』したのは皆見てたワケだし。

 ただ暴れただけなら規則の下で処罰するしかないけど、『精神に著しい異常がみられる』んなら、待ってるのは『処分』じゃなくて『治療』だからね。

 これなら、彼が『復帰』するまでは艦隊は現状維持が適当だろう。処分も有耶無耶になるかも。

 尤も、『復帰』出来るかは彼次第だけどね。……何か質問は?」

 

冴香の説明に、不知火達は返す言葉を持たなかった。

つまり、神林が彼を必要以上に刺激したのはそういう事だったのだ。

全ては、彼と彼の艦娘を護る為。

 

改めて、神林を見る。彼は居心地が悪そうに目を逸らした。

 

「沈んだ艦娘の想いを酌んだだけだ。名取にも頼まれたしな」

「素直じゃないですねぇ。ま、其処が良いんですけど♪」

 

神林の言葉に、青葉が楽しそうに笑う。

 

「……青葉さんは気付いてたんですか?」

「勿論。……まぁ、ある程度は本音も混じってたでしょうけど」

「そう、其処だよ」

 

それまで黙って考え事をしていた戸塚が、声を上げる。

 

「さっきからずっと考えてたんだ。『提督の無能で艦娘が沈む』とか、『艦娘が沈むのは全部提督のせい』ってのはどういうことだ?」

「それも、言葉の通りだよ?」

 

戸塚の問いに、冴香が応える。

 

「艦娘が世に出てきて、其れなりに時間が経ってる。それに比例して、色々な情報が集まってきたのさ。

 今では、艦娘の『轟沈条件』はかなり解明されてきてるんだよ」

「……私達が沈む条件、ですか?」

「まぁ普通に考えて、『兵器の耐久性能調査』は大事だよね。艦娘も、色々『実験』したのさ」

 

冴香の言葉に、不知火が眉を顰める。

 

「ん?どしたのーぬいぬい」

「ぬいぬい……いえ、今は脇に置きましょう、それで、どんな『実験』をしたんですか?」

「堅実な『対照実験』さ。色んな条件で出撃させて、『沈む条件』を漉し取ったんだ」

「……その実験で、一体何人の艦娘を沈めたのですか?」

 

不知火の目が険しくなる。しかし冴香はその視線に動じる事無く肩を竦めた。

 

「私が把握してる実験結果じゃ、ゼロだよ?」

「……轟沈条件を調べたのに、轟沈した艦娘は居ない?有り得ませんね」

「それがねー、有り得るのさ。すんごい『非効率な』やり方だけど」

「非効率……まさか、『ダメコン』ですか?」

「大正解。その実験の検体として選ばれた艦娘全てに、『ダメコン』が装備された。

 全部で……幾つだったかな、三桁は余裕で行ってたと思うけど」

「それこそ有り得ません。その数のダメコンなど、莫大な費用が掛かります。可能なんですか?」

「可能にしたんだよ。一人の『英雄』がね」

「英雄?」

「その昔ね、『英雄』扱いされてた退役軍人さんが居たのさ。その人が、多額の資金を寄付したんだよ」

「……随分奇特な方も居られたんですね」

「ま、多額の『俸給』や『慰労金』も本人にその気が無けりゃ『泡銭』だからねぇ。精々『有効活用した』位にしか思ってないんじゃない?」

「宮林提督はその方をご存知なんですか?」

「うんにゃ、そういう変わりもんが居たって話だけ。寄付も匿名だったみたいだしね。まぁ誰でも良いじゃない。

 兎も角、艦娘の轟沈条件はある程度判明した。彼女達の『加護』についてもね」

「加護、ですか?」

「あくまでこっちでそう言ってるだけだから、名前は気にしなくていいよ。

 ちなみにその加護には差異があって、旗艦はそれが強い。だから何が有っても旗艦は沈まない。

 随伴艦も、旗艦に比べて弱いだけで、加護が無いわけじゃない。

 だから例え『新人駆逐艦』が『戦艦ル級の主砲に直撃』しても、大破で済むってのが分かった。

 そして此処からが重要。その加護が『明確に適用』されるのは、『大破未満で出撃した時の一戦目』までって事」

 

冴香の説明に、不知火が小さく頷く。

 

「成る程、だから『全ては提督のせい』と」

「そういう事。『出撃時の進退』も、『艦娘の修復』も、提督の采配一つだからね」

「艦娘による『独断行動』は無いのか?」

 

突然の戸塚の言葉に、冴香は首を振る。

 

「いや、そんなのは有り得ないよ。それを肯定したら、何のために提督が居るのさ?」

「艦娘には意思があるんだろ?」

「確かにそうだけどさ、例えそうだとしてもその辺りは皆提督に従うよ。後で文句は出るかもだけどね」

「……過去に艦娘が独断で動いたことは無い、と?」

「じゃないの?ま、流石に全部を把握してるわけじゃないけど、私は『聞いた事ない』かな」

「……そうか」

「……?まぁいいや。件の提督に話を戻そう」

 

戸塚の様子に首を傾げつつ、冴香は続ける。

 

「彼は少し前に此処に配属された新人君だった。最近中佐になったんだって。

 所属艦娘も増えて、攻略できる海域も増えて……まぁ、有り体に言えば『勢い付いてた』んだね。

 沈んじゃった艦娘とも、確かに信頼関係が出来てたんだと思う。

 でもそれが、いつの間にか『盲信』と『慢心』になっちゃってたんだ。この傾向は、艦娘と一定以上の信頼関係を築けた提督に特に多い。

 何処かで思っちゃうんだろうね、『彼女達なら、絶対大丈夫だ』って。……世の中に、『絶対』なんて存在しないのに。

 でも、彼はその事実から目を背けた。だから、ああなった」

「……自分の過ちを、認めたくなかったんでしょね」

「青葉の言うとおりだと思う。『勢い付いている』時だったから、自分の選択が正しいって思っちゃったんだよ」

「件の提督が轟沈の条件を把握していなかった可能性は?」

「ぬいぬいの言う可能性もゼロじゃないけど、それは『免罪符』にはならないよ。

 別に極秘の情報って訳でもないし、寧ろ提督なら率先して把握しておくべきだと思うけどね。

 何しろ、自分の部下の『死活問題』な訳だし。文字通りね」

 

 

「……だから救いようの無い馬鹿だと言ったんだ」

 

低い声で呟いた神林に、冴香、青葉ともに苦笑する。

 

「手厳しいね」

「それが『率いる者』の資格だからだ。部下の『全て』を預かる以上、常に何処かに『冷静な思考』を残さなければならない」

「君なら、どうする?」

「自分の選択を常に疑う。『最悪の事態』を常に想定して、それを避けるべく全力を尽くす

 そうすれば、自分の失敗も他人の成功も同じ目線で見れる。万が一『最悪』が訪れても、対処できる」

「随分ネガティブな事で」

「戦争に楽観を求めろと?」

「そうは言わないけどさ、時には自分を信じる事も大事だと思うよ?」

「俺は臆病だからね。自分の選択が最適解だと思ったことは無いよ」

「それは只のひねくれじゃね?」

「何とでも言え……不知火、何かな?」

 

神林の顔をじっと見つめていた不知火に、声をかける。

 

「神林提督は、部下を……大切なものを喪った事があるんですか?」

「数え切れないほどにね。人間は脆い。君達の様な『加護』も無い」

 

戦争とは、突き詰めれば『数の減らし合い』だ。

基本的に数が多い方が有利だし、最後に多かった方が勝つ。

だからこそ、普段は傷付けただけで罪に問われるモノが、驚くほど安い価値で扱われる。

そんな『地獄』に、自分は、自分達は居たのだ。

 

「その方達を、今も想っているんですか?」

「指揮官に死した部下を想う資格は無い。必要と有れば、彼等に『作戦の為に死ね』というのが指揮官なのだから」

 

そう、我々提督は自身の持つ『権限(ちから)』を恐れ、責任を持たなければならない。

彼らの采配一つで、部下である彼女達は海の底に沈むのだ。彼女達が望む望まないに関わらず。

 

「……死した彼らに許しを請うと?」

「許しも請わない。その全てを背負うのが、『率いる者』だ」

「……そうですか」

 

其処まで言って、不知火は神林に頭を下げる。

 

「不知火は貴方の事を誤解していました。これまでの非礼、お詫びします」

「し、不知火が、落ち度を認めている……!?」

「何か言いましたか、提督」

「いえ、何も?」

 

戸塚達のやり取りに苦笑しつつ、青葉は目を伏せる。

ほんの一瞬、冴香が悲痛を湛えた目を神林に向けていた事に青葉は気付いていたが、それを告げる無粋を起こす気にはなれなかった。

そして改めて、神林の言葉を反芻する。

 

『そう、だからこそ、だからこそなんですよ、司令官』

 

胸の奥に宿る激情を、慈しむように抱え上げる。

そう、この人は、全てを受け止めてくれる。

自分達の様に、『意思を持つ兵器』という、酷く歪で異形な存在ですら。

 

 

 

 

でも、そんな貴方だからこそ、私達の『全て』を捧げるに相応しい―――!!

 

 

 

 

 

 

 

と、青葉が決意を新たにしていた時、インカムに通信が入る。

 

『何ですか、この盛り上がってる時に……おや、緊急秘匿通信?珍し……!?』

 

通信の内容を聞いた青葉の顔が、一気に青褪める。

先程まで胸にあった『激情』など、彼方に吹き飛ぶほどに。

そして理解する。自身の居る状況が、『酷く拙い』事に。

 

一先ず『御連絡』をした所で、神林が声を掛けてきた。

 

「どうした青葉、何かあったのか?」

「……い、いや、あったと言うか、これから起きると言うか……」

「どしたの青葉?」

「え、えっと、一つお聞きしますよ司令官さんに冴香司令」

「なんだ?」

「どしたの?」

「えっとですね、此処までの状況、『ウチの秘書艦』って、どこまで把握してます?」

 

青葉の言葉に、全ての音が停止する。青葉にとって、その『沈黙』が何より拙い。

 

「……えっと、タカ君?」

「そういえば、何だかんだで今日は執務室に行って無いな……一応、書置きはしておいたが」

「ちょっと待って!?もう直ぐお昼だよ!?朝から今まで放置プレイ!?流石に冴香さんもびっくりだよ!

 ……あのさ、一応聞くけど、正直聞きたくないけど、聞くよ?……今日の秘書艦って、誰?」

「扶桑だが」

「……………うわぁ」

 

冴香が事の『拙さ』を理解した時。

 

 

―――カラン

 

「……っ!?」

 

廊下に、軽やかな『高下駄』の様な音が響く。

 

「……嘘、マジで?」

「そんな……速過ぎる……!」

「ちょっと青葉、隠れて連絡したでしょ!?」

「そりゃしますよ!隠蔽しようものなら『えらいこと』になるじゃないですか!青葉だって、我が身が一番大事です!」

「あ、開き直ったなこんちくしょう!まぁ気持ちは分かるけどね!」

 

 

―――カラン、コロン、カラン、コロン

 

 

下駄の音はどんどん近付いている。それに比例するように、どんどん下がる辺りの気温。

そして、辺りに充満していくプレッシャー。

 

「何……!?何が起きてるの……?」

「提督、此方へ!不知火達がお守りします!」

 

叢雲は迫る脅威に混乱し、不知火は素早く戸塚を護るべく動く。

尚、此処は鎮守府の談話室である。戦場ではない。

 

因みに、青葉と冴香の脳内では『サイバー○イン社謹製の超高性能アンドロイドが出てくる時のアレ』がBGMとして流れている。

異なる所は、近付いているのが『グラサンで筋肉モリモリのマッチョマン』では無いことくらいか。

 

―――カラン、コロン……カラン

 

ついに、談話室の前で下駄の音が止まる。

そして戸口に、白魚のような綺麗な指が掛けられた。

 

 

「……此処に、居られたんですね、提督。随分と御捜ししましたよ?えぇ、御捜ししましたとも」

「……あ、あぁ、済まなかったな、扶桑」

「あら、何故謝るのですか?うふふ、可笑しな提督ですね」

 

ころころ、愉快そうに笑う扶桑。しかし、その目は全く笑っていない。

 

『……冴香さん、扶桑さんって今艤装下ろしてますよね?不思議な事に、青葉には全主砲が此方に向けられている錯覚があるのですが』

『あー、ソレ多分錯覚だようんそうに決まってるさ。っていうか扶桑の目から青い炎が出てるって言うかそれ改flagshipじゃないですかやだー!』

 

小さい声でやり取りしていた青葉達を、扶桑がきろりと目を向ける。

 

「ど、どうも……」

「ふ、扶桑じゃん、やっほー、奇遇だね!」

 

苦し紛れに返す二人。

 

「……成る程、また宮林提督のせい、と言う訳ですか」

「うん、君の思考回路は分からないけど、酷い冤罪の場面に居合わせているって事は分かったよ!」

「扶桑、今回に限っては冴香は無関係だぞ」

「……そうですか、提督は宮林提督の味方、と」

「あっれおっかしいな、事態が何一つ好転していない!!ていうかタカ君ちょっといっぺん黙ろうか!」

「……本当に、お二人は仲がよろしいんですね、流石は【元】婚約者、と」

「やっべぇ何言っても地雷にしかなりゃしねぇ!」

「まぁ、宮林提督は摩耶さんに任せる(メキィする)として、其方の方々は?」

 

そう言って、戸塚達に目を向ける。

 

「ど、どうも、舞鶴に配属された、戸塚柔宗です」

「と、戸塚艦隊所属、叢雲よ」

「同じく戸塚艦隊所属、不知火です」

「どうもご丁寧に。神林艦隊主席秘書艦、扶桑です。以後お見知りおきを」

 

そう言って、艶やかに笑う。

しかし、隠し切れない威圧感に叢雲は小さく「ぴぃっ!?」と悲鳴を上げる。

不知火も悲鳴こそ上げなかったが、冷や汗ダラダラである。

 

「……兎も角、行こうか。色々と説明する必要がありそうだ」

「この空気でブレないとか君スゴイな!?」

 

驚愕する冴香を無視し、扶桑に向き直る神林。

そもそも、神林にとっては実際『大した事』では無いのだ。

扶桑を放置していたのは彼の非であると理解しているし、きちんと埋め合わせをするつもりだ。

また、扶桑にしたって只『放置されて拗ねているだけ』である。

 

―――まぁ、彼ら以外にはそう見えない訳だが。

 

「もう、本当に、困ったお方です。提督にしか処理できない事案もあるのですよ?」

「済まなかったな。具体的には?」

「一番大きなものは『観艦式』についてでしょうか。色々と打ち合わせが」

「……政(まつりごと)は苦手だ」

「そう仰らずに。扶桑もご一緒します」

「ありがとう。……他には?」

「細かいものが幾つかと。簡単なものは天龍達に『手伝って』貰いましたから」

 

淡々と仕事のやり取りをする二人。

扶桑の発する威圧感も、幾分か和らいでいた。

 

「では提督、執務室に参りましょう。そうそう、今日は仕事が終わるまで帰しませんからね」

「お手柔らかに頼むよ」

「後で『お茶』もご用意しますね」

「……お手柔らかに頼むよ」

 

そう言って、二人が談話室を後にする。

残された者たちは、去った脅威に安堵した。

 

「あ、そうそう、青葉?」

「ひゃ、ひゃい!?」

 

顔だけ出した扶桑に、青葉が飛び上がる。

 

「さっきは報告ありがとう。出来れば、貴方も手伝ってくれないかしら。人手が足らないのよ」

「え、えっと、青葉は今日ひば『オネガイデキル?』アッハイ」

 

そう言って、青葉も談話室を後にして、漸く『嵐』は去ったのだった。

 

 

 

 

 

こうして、『彼ら』は『誰を怒らてはいけない』のかを改めて理解した。

 

尚、偶然その場に居合わせた艦娘の一人(名前は伏せる)は、後にこう語る。

 

 

『ル級flagship×1とル級elite×2の艦隊と戦った時の方が、まだ生きた心地がしました』と。

 

 

 

 

戦艦レベルの眼光を持つ駆逐艦など、何するものぞ。

『本物の』戦艦の眼光の方が、怖いに決まっているのである。




仕事が暇な時に、一気に書くに限ります。
と言うか、年末が忙しすぎたんです。

実際、轟沈に関しての説明はかなり前から練っていたので、書くのはあっという間でした。

そして拗ねた扶桑さん可愛い。放置ボイスに直撃食らったのは私だけではないはず。時報実装はよ。

次回、今作のオマケをちょっと書きます。
いくつか新たな複線も出そうかな、と。主に戸塚さんに関して。
ではでは。

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