今年ものんびり更新していきますので、この作品をどうぞよろしくお願いします。
さぁ、新年一作目でございます。でもちょっと短め。
作中で、主人公達がちょっと過激な発言をします。
ある意味『独自設定』な気もしますが、ゲーム内設定準拠で。
『そういう考え方』に賛同できない方もいるとは思いますが、ご了承ください。
では、どうぞ。
「医療班が出てる?」
「はい、通信によると、『とある提督が負傷、医療班が派遣されている』との事です」
不知火からの説明に、戸塚が眉根を寄せる。
「そいつの怪我の原因、程度は?」
「申し訳ありません、そこまでは……」
不知火はあくまで他所の通信を拾っているだけなので、詳しい事は分からないという。
その様子に、神林が淡々と答える。
「それだけ判れば十分だ、後は行けば分かる。しかし……」
「あぁ、鎮守府のど真ん中で提督が負傷?一体何があった?」
神林の言葉を引き継ぐように、戸塚が首を捻る。
「事故かしら。それとも事件?」
「まぁ普通に考えれば順当なのは事故だわな、しかし事件となると何がある?」
叢雲も首を傾げ、それに倣うように戸塚も続く。
この鎮守府にはクレーン等の重機がある。それに弾薬、燃料などの危険物もまた然り。
仕事柄、そういった『事故になりかねない危険』の近くにいる事も多い。
しかし『事件』となれば話は別だ。
すると、暫く口元に手を当てて考え込んでいた不知火がポツリと呟いた。
「……お抱えの艦娘にやられたとか」
「物騒な鎮守府だなぁオイ」
「実際、不知火達の艤装で提督に本気で打撃を与えれば、痛いでは済みませんからね」
「艤装……大砲に魚雷だもんなぁ」
「えぇ、恐らく『ミンチよりも酷い事』になるかと」
「淡々と答えないでくれないかな不知火さん」
「そういえば、夕餉はハンバーグだそうです」
「このタイミングでそういう事言うのやめて!」
「その辺にしときなさい不知火。……でも、そんな事在り得るのかしら」
不知火を窘めつつ、叢雲が首を傾げる。
「ミンチになるかどうかですか?試してみます?」
「ねぇ何で俺の方見るの?」
「そうじゃなくて。『艦娘が提督に危害を加える』って事よ」
「……在り得るも何も、それは君達が一番良く分かっているんじゃないか?」
叢雲の言葉に、神林がそう応える。
その言葉に、小さく目を逸らし、一度戸塚を見て、そして目線を下げつつ、呟く。
「『システム的』には可能……だと思うわ。多分どっちも只じゃ済まないし、試そうとも思わないけど」
「そうですね。実際、程度はどうであれ、提督に『手を上げる』事は可能なのですから」
艦娘達は『基本的に従順』だが、『提督に絶対服従』ではない。
彼女達には感情が在る。小さな諍い等はしょっちゅう起こっているのだ。
実際、誰とは言わないが先程艦娘に蹴り飛ばされた提督もいるし、以前には艦娘に殴り掛かられた提督もいた。誰とは言わないが。
「尤も、今回に限ってはそれはない」
「……どういう事ですか」
そう呟いた神林に、不知火が問う。
「騒ぎが小さすぎるからだ。艦娘が本気で暴れたら、それを止めれるのは艦娘だけ……鎮圧等の動きは無いだろ?」
「……そうですね、確認できません」
「騒ぎの原因は事故か、それ以外なら……」
「心当たりがあるのか?」
戸塚の問いに、神林は少し気分を害したように顔を顰めながら応える。
「まぁな。恐らく、お前が『此処に呼ばれた理由』の一つだよ」
「俺の?『減った人員の補充』……って、まさか」
「提督、もう直ぐで現場です」
「お、おぅ。ともかく行くか」
○
騒ぎの現場に着くと、其処には神林の知った顔が居た。
「あ、司令官!」
「青葉か。どうして此処に?」
遠巻きに騒ぎを見ていた重巡『青葉』が、神林達の下に駆け寄ってくる。
「有り体に言えばただの『通りすがり』です。今日は非番だったんで……其方は?」
「ついさっき知り合った同僚だよ。戸塚、彼女は重巡『青葉』だ。ウチに所属している」
「あ、どうも、神林艦隊所属、重巡『青葉』です」
「戸塚少佐だ。よろしく」
「戸塚艦隊所属、駆逐艦『不知火』です」
「同じく戸塚艦隊所属、駆逐艦『叢雲』よ」
軽く自己紹介を済ませた後、神林達よりも先に現場に居たであろう青葉に事情を聴く。
「それで、現状は?お前の事だ、艦載機も飛ばしてるんだろ?」
「あらら、わかっちゃいますか?まぁ実際その通りなんですけど」
「規則には反していないから問題ない。この騒ぎだと、やはり事故じゃないんだろう?」
「えぇ、大体司令官が思ってる通りだと思いますよ」
「またか……これで何人目だ?」
頭を掻いてそう呟く神林に、苦笑しながら応える青葉。
「……誰も彼も司令官の様にはいかないんですよ。まぁ、先程医療班が入ってたんで……あらら」
装備しているインカムを押さえて(恐らく艦載機からの連絡を受けているのだろう)いた青葉が渋い顔をする。
「……あー、ちょっとマズイですねぇ」
「如何した?」
「件の負傷した提督が、随分と錯乱してるみたいですね。
……医療班にも負傷者が。所属の艦娘さんもオロオロしてますよ」
「……馬鹿が。何処までも面倒を掛けて」
青葉の報告に、舌打ちしつつそう吐き捨てる神林。
そのまま、騒ぎの中心に向かって歩き出す。その後ろに、青葉が続いた。
「おい神林、何処に行くんだよ」
「そ、そうよ、それに『提督が錯乱』ってどういう事!?」
追い縋る戸塚と叢雲に、二人は事もなげに応える。
「無論、止める。これ以上騒ぎを大きく出来ん」
「青葉は司令官の護衛です」
「……本音は?」
「事の顛末を記録しようかと。いい記事に成りそうなんで。さっすが司令官、判ってますねぇ」
そう言って、メモ帳を見せる青葉。
「そ、そんな他人事みたいに……」
「実際他人事ですし。それに―――」
叢雲の言葉に、青葉の表情から感情が抜ける。
「それに、『指揮官である事』を捨てた方に、思う所なんてありませんから」
「そ、それってどういう」
「先に行くぞ、青葉」
「あ、待って下さい!一応青葉の名目は提督の護衛なんですからー!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?」
○
「き、君、落ち着きなさい!」
「うるさい、私の邪魔をするな!」
「て、提督……」
そこに居たのは白衣を着た男達……医療班だ。一人は血の付いた袖を抑えている。
向かい合う位置で喚いているのは、一人の提督。衣服は乱れ、目は血走り、口角からは泡が見えている。かなり興奮しているようだ。
提督の手には、血の付いたカッターナイフ。恐らく、白衣の男を傷付けたのもコレであろう。
そして、医療班の後ろの壁では一人の艦娘が真っ青な顔でへたり込んでいた。
「ど、どうしよう、私のせいで『君のせいじゃない』……え?」
青くなった顔を覆いながら嘆く彼女の下に、一人の男が片膝をつく。
「あ、貴方は……?」
「彼の同僚だよ。まぁ初対面ではあるが……君は長良型軽巡の『名取』かな?」
「は、はいそうです」
「やはりな。ウチにも君が居てね、世話になってる。……青葉、彼女を頼む」
「了解です司令官。さ、大丈夫?怪我はない?」
「え、あ、はい、大丈夫です」
神林の言葉に応じ、青葉が名取の側に寄る。
そのまま名取を介抱するが、彼女の言葉の通り、特に大きな怪我はないようだ。
「司令官、特に大きな怪我はないですね。ちょっと顔色が悪いですが……」
「あ、あの、お二人は……」
相変わらず真っ青な顔をした名取が、二人に声をかける。
「大丈夫ですよ、大体の事情は分かってます。後は青葉の司令官が何とかしてくれますから」
そう言って、青葉が神林の方を見た。釣られる様に名取も神林に目を向ける。
彼は『名取』の司令官の方へ歩き出した。
「あ、あの、提督さん!」
「……何かな?」
名取から声を掛けられ、神林が目線だけを後ろに向ける。
「私の……私のせいなんです!私が、『あの子の手紙』なんて渡したから、提督が……!」
そう言って、ぼろぼろと涙をこぼす名取。
『手紙』という単語に、神林と青葉は理解する。その差出人が誰であり、どんな内容が書かれていたのかを。
そして何故、あの提督は錯乱しているのかを。
そしてそれを理解して尚、神林は否定する。
「先程も言ったが、君に非はない。君は『彼女』の『想い』を届けただけだ」
『彼女』は遺しておきたかったのだろう。自身が『此処に居た』という証を。
彼女は愛していたのだろう。『遺してしまった』者たちを。
そうやって遺した『手紙』が、こんな形になってしまうとは、皮肉としか言いようがない。
いや、一番の非があるのは―――
『それを【受け止める】事が出来なかったあの馬鹿か』
神林は目の前の提督に目を向けた。
彼は今も喚きながらカッターを首に当てている。
見た所、既に少々出血しているようだ。……『後追い』とでも言うのだろうか。
しかし、そんな小さなカッターナイフで首を撫でた所で、どれ程の事が出来るというのか。
それがさらに、神林の心を逆撫でた。
神林は、改めて名取に目を向ける。その顔は未だに自分を責めているようだった。
「で、でも、私が……」
「『彼女』に頼まれていたのだろう?『その時』は、と」
「は、はい……」
「ならば君は前を向かなければならない。『彼女』の『想い』を、君が否定してはいけない」
「あの子の……想い……」
そこまで言って、神林は名取から視線を外す。すると、俯いて何かを呟いていた名取が顔を上げた。
「あ、あの!」
「……まだ何か?」
足を止め、声を返すだけに留める。
「あの……貴方のお名前は」
「……神林。神林貴仁だ」
「……あの、神林提督!」
「何だね?」
「あの人を……止めてください。お願いします」
「元よりそのつもりだよ。だがまぁ、任された」
そう言って、神林は医療班をかき分けて、男の前に立つ。
「そ、其処の君、下がりなさい!危険だ!」
「問題ありません、お構いなく」
「な……なんだよお前!」
「見ての通り、同僚だよ。……もう、その辺にしておけ」
「う、うるさい!邪魔をするな」
「邪魔を、と言われてもな……」
そこまで言って、男が持っている刃物を示す。
「そんな小さいカッターナイフじゃ、余程気合を入れないと頸動脈には届かないぞ?」
「う、うるさい!!」
「大体の事情はそこの名取から聞いた。もうやめろ。『彼女』は戻らない。お前がやるべき事は『そんな事』じゃないだろう」
「黙れ黙れ黙れ!お前に俺の気持ちが分かるものか!」
目を血走らせ、唾を飛ばしながら男は叫ぶ。
「あいつは……『必ず戻る』と約束した!信頼してたんだ!ずっと一緒だった!これからも一緒に居たいと思ってたのに!
でもあいつはもういない!居ないんだ!約束もなくなった!俺が此処にいる理由なんてもうないんだよ!」
其処まで聞いて、神林は改めて彼に失望する。―――あぁ、お前もそうなのか、と。
もういい。これ以上は無意味だ。終わらせよう。
「……それで、どんな気分だ?」
「な、なに!?」
「自身の『無能』を棚に上げ、悲劇の主人公を気取る気分はどうだと言ったんだ」
「なっ!?」
「今まで気づいてなかったのか?……恥ずべき無知だな」
「あ、あいつが」
「彼女が約束を破った?何を言う。その選択を『選んだ』のはお前だろうが。
信頼していた?それこそ勘違いだ。お前がしていたのは『盲信』という名の『慢心』だよ」
「黙れ……!」
「もう一度聞くぞ?……自分の『無能』で、大切な『艦娘(ひと)』を沈めた気分はどうだ?」
「だまれぇぇぇぇぇ!」
そう言って男が手に持つカッターを神林に向けた瞬間。
「遅い」
神林が『間合いを盗んで』男の手首を握った。
「なっ!?」
目を見開く男を無視して、神林は空いた方の拳で、男の鳩尾に一撃。『ドスン』と鈍い音が響く。
「がっ……!」
体を一瞬『く』の字に曲げた男はそのまま呆気なく失神。ズルズルと崩れ落ちた。
それを横目に見つつ、「あぁそういえば」と神林は呟く。
「お前に分かるか、と言っていたな。……残念だが、俺には理解も共感もできないよ」
男が取り落としたカッターを足で蹴り飛ばし、後ろに控えていた医療班に目を向ける。
「……確保を」
「りょ、了解しました!確保、確保ー!」
それまで呆けた様に見ていた医療班が、無事に男を拘束した。そしてそのまま何処かへ連れて行く。
最後に、医療班のリーダーと思わしき人物が、「ご協力感謝致します」と告げて現場を後にし、神林の下に青葉が駆け寄った。
「お疲れ様です、司令官」
「大したことはしていないよ」
「それでも、です。それにしても……随分派手にやりましたよね。……あの人ちゃんと生きてます?」
「……自殺を止めるのに殺してどうする」
「でもさっき、酷くえげつない音してましたよ。内臓大丈夫ですかね」
「手加減はした。一応な。致命傷ではないから、あとは知らん」
「一度『手加減』って言葉を辞書で引いて、赤線引いた方が宜しいかと」
「重傷にならなければ手加減だろう」
「あ、ハイ、もうそれでいいです」
「……さて、場所を移そう。ここに居ても意味はない」
「ですね。あ、今回の事、記事にしても?」
「好きにしろ」
「ハイ、好きにします♪」
そう言って、神林と青葉は離れた所で一部始終を見ていた戸塚達と合流し、その場を後にした。
その頃、某提督執務室では―――
「うふふ……もう直ぐお昼……空はこんなに青いのに……提督はまだ御戻りになられないのでしょうか……そうだわ、此方からお迎えして差し上げましょう……
フフフ……お待ちくださいね提督……えぇ、直に見つけて差し上げますとも……さぁて……テートクハドコニオラレルノカシラ……」
正月休みで一気に此処まで書けたので、一先ず。
因みに神林さんが本気で鳩尾ぶん殴ったら、口から色んなモノが出ます。それはもう色々と。
あとアレですね、最後の某航空戦艦さんは、アレです。深海棲艦化した訳じゃないです。色々な感情が天元突破しちゃっただけです。
朝からずっと執務室にいるのに、ぼっちで放置されたらそりゃ怒るよね。仕方ないね。
後編も今月中に更新します。お楽しみに。