最近どうにも忙しく、月一更新がやっとな現状でございます。
取り敢えず一言。
往復三時間の現場とか、泊りがけの出張とか、月に何回も行くもんじゃないと思うんだ。
……まぁ、『割に合わない』とは思いませんが。諸経費全部向こう持ちだし。
でもそういう問題じゃない。
さて、戸塚さんの秘書艦さん初登場。第一印象から決めてました。
あと、神林さん……『誰か』の事、忘れてません?
○舞鶴鎮守府:古賀大将執務室前 廊下
「……俺あの人苦手だわ」
「急にどうした?」
古賀の執務室を後にして早々、眉を顰めながらそう呟く戸塚に首を傾げる。
「いや、あの宮林って女提督さ、なんと言うか……あー、説明が難しいな」
「胡散臭い?」
「あぁ、それに近い。まぁ古賀さんも大概といえばそうなんだが、アレはちょっと度が過ぎるな」
先程のやり取りを思い出して、改めて背に寒い物を感じる戸塚。
あの『宮林冴香』と名乗った彼女の目……自分を見ているようで、もっと奥の何か―――
其れこそ、自身の『内面』を覗き込まれるような錯覚すら感じた。
間違いなく、彼女と戸塚は初対面だ。
しかし、彼女は自分の中にある『何か』に気付いていた。
『疚しい事』をしている心算は無い。
しかし、腹を探られるような不快感は拭えなかった。
古賀より一回り近い――恐らく戸塚とそう変わらない――若さで横須賀の中将に就いている事から見ても、彼女が相当な人物である事が伺える。
「……まぁ、そうかもな」
神林の返答に、違和感を覚えた戸塚は彼の顔を見る。
其処には何処か苦笑めいた、それでいて彼女に対するある種の『気安さ』を感じる表情を浮かべた神林がいた。
「確かに、難物では有る。だが、無遠慮には踏み込まない程度の『弁え』は持ってるぞ」
「まぁ……確かに『嫌だ』といったらあの『渾名』も採用されなかっただろうが……神林、随分肩を持つじゃないか」
神林の言い分に、『からかいのネタを見つけた』とばかりに詰め寄る。
「なーんか、随分親しそうだったし?もしかしてアレか?『モトカノ』とかそういうアレか?」
「…………」
「まぁ流石にそんな事は……って、おい?」
あからさまに黙る神林に、自身の『冗談』が正鵠を得ていた事に焦る戸塚。
「え、ちょ、……マジか?」
「……正確には婚約者だよ。破談になったから、『元』が付くが」
「OH……」
意外な関係に、頭を抱える戸塚。なんと言うか、世間は狭い。というか気まずい。
「えっと、其れは、その……ご愁傷様?」
「何故疑問形になる」
「いや、流石にアレと結婚ってのは……ちょっと」
「……?結婚生活を知っている様な口ぶりだな。既婚なのか?」
そう言って戸塚の左手を見る。しかし其処には何も無かった。
「二年前までは嫁も娘も居たんだけどな。色々あって愛想尽かされちまってね。今では寂しい鰥夫暮らしだ」
二年も経てば指輪の跡も残らんさ、と自身の左手を振る。
「ま、そんな俺が言っても、説得力が無いか」
「いや?『だからこそ』説得力がある、と思っておこう」
神林の言葉に、眉根を寄せる戸塚。
「……意図返しか?」
「さて、どうだろうな。それはそうと、これからどうする?」
「それはそう、で流していいのか?まぁ良いのか。しかし、急な呼び出しだったからな、予定も何も秘書艦……あ」
其処まで言って、戸塚の表情が固まる。
「どうした?」
「いや、急だったモンだから、ウチの秘書艦に碌な説明して『居たぁぁぁ!!』げ」
突如聞こえた声に、目を向ける。其処にいたのは一人の駆逐艦娘。綺麗な銀髪が、心なしか逆立って見える。
「見つけたわよ、こんの不良司令官!!」
「む、叢雲!?」
憤怒の形相で駆け寄って来たのは『吹雪型駆逐艦』の『叢雲』だ。
「こ、これには訳が『問答無用!(ドゴスッ!!)』げふぅし!?」
慌てて説明しようとした戸塚に対し、叢雲は其のまま跳び蹴りをかます。
鈍い音と共に、腰の辺りを蹴り飛ばされた戸塚がひっくり返った。
『……ほう、中々いい動きだ』
そんな叢雲の身のこなしに、暢気に感心する神林。
あの走りにあの蹴りで、喰らった戸塚が吹き飛ばなかった所を見ると、戸塚が咄嗟に体を引いたか、叢雲が手加減したか……恐らく後者だろう。
「執務放っぽらかして暢気に散歩とか良い度胸じゃないの?何?そんなに私の酸素魚雷喰らいたい訳?」
「い、いや、ぶっちゃけお前酸素魚雷もってn『何か言った?』ナンデモナイデス」
引っくり返った戸塚の胸倉を掴み、『ジャキッ!!』と艤装を構える叢雲。
因みに今彼女が構えているのは『61cm三連装魚雷』であって『酸素魚雷』では無いのだが、兎も角。
「彼女がお前の秘書艦か?」
「ん?……誰よ貴方?」
そう言いギロリと此方を睨む。中々の迫力だ。戦艦に迫る物があるだろう。
「神林貴仁だ。先程、彼と共に古賀大将に呼ばれてね」
「は?古賀大将に?」
「そう、そうなんだよ!呼び出されてたんだ!」
神林の言葉に便乗するように、慌てて説明する戸塚。
自身の早とちりを悟ったのか、叢雲は気まずげに頬を赤らめる。
尤も、連絡をしていなかった戸塚にも非はあるので、お互い様である。
「……もう、それならそうと書き置きの一つ位しときなさいよ。凄い探したんだから」
「あぁ、悪かった。これからはちゃんとするよ」
「そうしときなさい。あの秘書艦が怒ると、そりゃぁ恐いんだから」
「うっ……違いない」
叢雲の言葉に顔を顰める戸塚。そのやり取りに、神林が疑問を抱く。
「……彼女がお前の秘書艦じゃないのか?」
神林の疑問に、叢雲が肩を竦めて応える。
「最初は私だったんだけどね。今はもっと『適任』の子が居るからその子に任せてるの」
「適任?」
「そ、すぐにサボる様な不良指令にはちょっと『厳しめ』の子を当てないとね」
「……俺そんなにサボってたか?」
「どの口が言うの?ねぇ、どの口が言うの?その口なの?魚雷詰めて欲しいの?」
「ごめんなさい冗談です」
「こういう事よ」
「成程な」
「素直に納得しないでくれ神林。大体、叢雲はともかくアレはちょっと堅す『指令、こちらにおられましたか』……ぎ?」
瞬間、周囲の気温が下がったような錯覚を覚える。
そんな錯覚に、神林は感嘆の息を一つ。中々の気迫だ。戦場でも滅多にお目に掛かれないレベルである。
気配は神林の後方数メートルから。『彼女』は少々『お冠』のようだ。一々見なくても分かる程度には。
ふと戸塚達に目を向ける。戸塚の表情は引きつり、頬から冷汗が一つ。叢雲は隣で『あーあ』と小さく呟いた。
「探しましたよ指令。何処に御出でになられていたのですか?」
「あ、うん、はい、申し訳ありません、不知火さん」
そこに居たのは、陽炎型駆逐艦の『不知火』であった。
凛とした、と言えば聞こえが良いが、その眼はまさに絶対零度。『戦艦クラスの眼光』とはよく言ったものだ。
実際、戸塚が無意識に敬語になる程度の迫力があった。
戸塚と不知火には頭一つ以上の身長差は在るのだが、立場は全くの逆のようである。
しかしなんというか、神林艦隊所属の『不知火』より、迫力がある様に思えた。
これもある種の『個体差』なのだろうか?などと神林は呑気に考える。
※実際の所、神林艦隊所属の『不知火』は神林の気概に惚れ込んで『ちょっと丸くなった』だけなのだが、本人(又は姉妹艦の陽炎や黒潮あたり)が口にしない限り、神林が真実を知ることは無いだろう。
閑話休題。
「ところで、不知火について何か話しておられたようですが。……不知火に何か落ち度でも?」
先程の会話の事だろう。きろり、と戸塚を見上げる。
「そ、そんなことはないですよ?不知火は優秀。落ち度無い」
「なんでちょっと片言なのよ」
慌てて否定する戸塚を、白い目で見る叢雲。
「ソンナコトナイヨ?ワタシニホンダイスキ。フジヤマラビニュー」
「……『ガチャ』」
「冗談だって叢雲!艤装構えない!それで不知火、何かあったのか?」
改めて、不知火に声をかける。
「何があったもなにも、指令には執務室に居て頂かないと困るのですが……その前に」
相変わらずの無表情のまま、『失礼します』と一言零し、ひょいと戸塚に手を伸ばす。
「……ガシッ」
「え、えっと、俺のシャツがd『ギュ!』ぐえっ!?」
徐に戸塚のシャツを掴み、動揺する彼を無視して一気に絞める。
「……指令、風紀を乱さないでください、とお伝えした筈ですが?」
そう言いつつ、不知火は手を動かし続ける。
シャツを直した後は上着のボタンを閉じ、姿勢を正させる。さらに『じょり』と戸塚の顎を撫で、
「髭も剃って下さいとお伝えしましたよね?」
「こ、これはオシャ『この無精髭が、ですか?』おぅふ」
「しかも『剃刀だと肌が荒れる』からと、高性能電気シェーバーをプレゼントした筈ですよね?」
そのままじょりじょりと顎を摩りつつ、淡々と告げる不知火に対し、ふと叢雲が声を上げる。
「え?アレ不知火からのプレゼントだったの?」
「いんや、俺も今知ったわ。宛名は俺だったけど、送り主の名前書いてなかったし。まぁありがたく頂いて……え?」
そこまで言って、ふと不知火を見る。
「…………」
無表情のまま硬直していた。
戸塚と叢雲の脳裏に、一つの可能性が過る。
―――あれ、もしかしてこの子、墓穴掘った?
「しらぬ『ガツンッ!!』弁慶!?」
何かを言う前に不知火に脛を蹴飛ばされた戸塚はその場に蹲る。そして唖然とした顔の叢雲と、不知火の目が合った。
「……何でしょうか、叢雲さん。不知火に落ち度でも?」
―――いや、主に落ち度しかないでしょうに。
と言いたいのを叢雲は堪えた。堪えれた。そんな自分に心から拍手を贈りたい。
無表情な不知火の耳が良く見なくても真っ赤な気がしたが、これもそっとしておくことにした。
障らぬ不知火に何とやら、である。
「服装の乱れは心の乱れ。心の乱れは士気の乱れにも影響します。指令が率先して正してください」
「今の流れで普通に持ち直すとか凄いわねアンタ。ちょっと尊敬するわ」
「何か言いましたか叢雲さん」
「いいえ、何も」
「そうですか。ところで……」
そう言って、神林に意識を向ける不知火。
先程まで(叢雲登場の辺りから)のやり取りを一歩退いて見ていたため、多少彼らと距離が出来ていた。
「…………」
「……何かな?」
神林の目を見た途端、不知火の目付きが険しくなる。
そのまま静かに、未だに蹲っている戸塚を護る様に立つ。神林との距離は2m弱。『ある程度の事なら対応できる距離』だ。
「貴方は……一体『何者』ですか?」
「ちょ、ちょっと不知火……」
そう言って、剥き出しの警戒心を神林に向ける。慌てて叢雲が窘めるが、変わらず此方を睨んでいた。
神林としては、初対面でそこまで警戒される理由が思い当たらず、首を傾げるばかりだ。
尤も、全く身に覚えがない訳でもない(主に目付きや過去にやらかした諸々)ので、何かが彼女のセンサーに触れたのだろうと思う事にして、改めて自己紹介をする。
「神林貴仁だ。先程戸塚と共に、古賀大将に呼ばれてね」
「古賀大将に、ですか?」
「そう、そういう事」
神林の言葉に首を傾げる不知火に対し、脛の痛みから復帰した(未だに涙目ではあったが)戸塚が、改めて不知火に事情を説明する。
「……そういう事でしたか。でしたらせめて不知火に一言お伝え下さい。『報・連・相』は社会の基本ですよ」
「あぁ、次回からそうするよ」
淡々と話す不知火に、脛を擦りつつ応える戸塚。
「あ、そうそう。不知火」
「はい、何でしょうか」
「シェーバー、ありがとな。大事に使う」
「……秘書艦ですから」
戸塚の礼の言葉に、素っ気無い態度で応える不知火。
どう考えても『照れ隠し』だが、此処でそれを指摘する者はいなかった。
「さて不知火、俺を探してたってのは、何か用事があったからか?」
改めて問う戸塚に対し、不知火は手に持つファイルを手渡しながら報告する。
「はい、先程工廠から艦娘建造報告が届きました」
「おぉ、そういえばそろそろだったな。さて、誰が来たか……」
「報告によると、軽巡『夕張』と軽巡『阿武隈』だそうです」
不知火の言葉に、戸塚の顔が固まる。
「……本当?」
「本当も何も、事実です。そのように報告書にも書かれていると思うのですが」
そう言われて、改めて報告書に目を向ける。
「あー、確かに。……そっかー、そっち来ちゃったかー。うーん、そっかー……」
何とも言えない顔で呟く戸塚を、叢雲が呆れたように呟く。
「相変わらず、建造の引き運おかしいわよねアンタ。川内型揃う前に夕張と阿武隈引くとか何なの?」
「それは不知火も同意します。初めての建造軽空母が『瑞鳳』だと聞いた時は流石に驚きました」
「何なの、と言われてもなぁ……運、としか?」
秘書艦達の言い分に、首を傾げる戸塚。
正直、この職に就いてまだ日が浅いため、そこら辺の異常さについては今一つピンと来ないのだ。
と、そこまでのやり取りを聞いていた神林が問う。
「……因みに今は、川内型の誰がいるんだ?」
「ん?まだ一人も居ない」
「………………」
戸塚の答えに、絶句する神林。
「え、なんだよ、そんなに凄いことなのか?」
「凄いというか、純粋におかしいのよね」
「えぇ。不知火も、その認識で問題ないと思います」
叢雲達の言い様に、「えー」と呟く戸塚。
そんな戸塚の様子に若干の頭痛を覚えつつ、ともかく神林は戸塚に説明することにした。
「……例えて言うとだな」
「おう」
「賽子を一度に6つ投げて、出た目の合計を出したとするだろ」
「ふむ」
「……連続で『36』が出たと思え」
「なにそれ怖!?」
「あ、大体そんな感じね」
「そうですね。不知火も、その認識で問題ないと思います」
「おおう……まじでか……」
自身のしでかした事に戦慄する戸塚。
※因みに単純計算すると、6個の賽子ですべて『6』が出る確率は6の6乗で大体『4万6千分の1』位である。
更にそれが続けて、となると、更に2乗なので、大体『21億分の1』程度と言ったところか。
……少なくとも、狙って出せるものではない。
「何なの俺の豪運。え、俺明日辺りに死んだりしないよね?」
「……まぁ、流石に大丈夫じゃない?……多分」
「叢雲さん、せめて俺の目を見て言ってくんないかな?」
「……提督は、不知火が、必ず御守りします」
「ちょっと待って、何でそんな死地に向うみたいな悲痛な覚悟決めてるの不知火さん」
「……寧ろ俺としては、その豪運のとばっちりが、他所様に迷惑を掛けないか心配だ」
「ブレないな神林っていうかジリジリ俺から距離を取るな地味に傷つく!」
「落ち着け戸塚、逆に考えるんだ。その豪運の反動が『川内型の不在』なんだ、と考えるんだ」
「あ、成程ねって納得できるか!」
「……はぁ、まぁ兎も角新入りだ。歓迎しよう」
「やっと持ち直したわね」
「提督は不知火達の司令官なのですから、毅然として頂かないと困ります」
「ちょっと待って、誰のせいだと」
「貴方(アンタ)の豪運のせいでは(じゃない)?」
「うん、そうだね、ちょっと泣いていいかな?」
「……実際問題、多少の差異はあれど貴重な戦力だ。大事にすると良い」
「お前のその感情の起伏の無さを、少し羨ましく思うよ……それで、その新入りは?」
戸塚の問いに、不知火が応える。
「提督が不在でしたので、此方で手の空いていた方に、鎮守府の案内を頼みました。連絡を取りますか?」
「いや、問題ないよ。こちらが執務室に戻れば済む話だから。さて、もういい時間だし―――何だ?」
ふと、周りの違和感を感じ、辺りを見回す。
なんだか、周りが騒がしい。
「……何の騒ぎだ?」
「俺にも分からん。不知火?」
神林の問いに応え、隣の秘書艦に目を向ける戸塚。
「少々お待ち下さい」と言って身に着けていたインカムで何処かと通信する不知火。
「……駄目ですね、情報が錯綜しています。が、何らかのトラブルが起きているのは間違いないようです」
不知火の応えに、『どうする?』とお互いを見る二人の提督。
恐らく、自分達とはあまり関係ないトラブルなのだと思う。
しかし、彼等はこの鎮守府の『提督』であり『司令官』なのだ。
「……流石に見て見ぬふりは出来ないな」
「だよな、やっぱ」
そう言って頷き合った後、不知火に目を向ける。
「不知火、場所は分かるか?」
「はい、問題ありません。此処からそう遠くない様です。案内しますか?」
「あぁ、頼む。叢雲も良いな?」
「えぇ、問題ないわよ。行きましょう」
そう言って、神林達は騒ぎを収めるべく、その場を後にした。
一方、某提督の執務室では――――
「……はぁ……空はこんなに青いのに……提督……まだ帰ってこないのかしら……」
なんかもうズルズルになってますね、文が。
もっとこう、勢い良く書けると良いんですが……色々とまとまらない。
因みに確率云々の話は適当です。
何となく『スゴイ』って思っていただければ。
本文もアイドリングみたいになってますが、もう少し続きます。
正月中に更新できると良いなぁ。