鎮守府の日常   作:弥識

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漸く神林さんの本気を書けました……ある意味、此処が一区切り。まぁ、まだ終わりませんけど。
今回お披露目した(というか説明した)神林さんの技術には『元ネタ』があるんですが、分かる方居ますかね?

ヒント:作者は『皇国の守護者』が好きですが『深見真』さんの作品も大好きです。


死神と踊る日

「Shall we dance……Darling?」

 

冴香の『誘い』に乗った神林は、一瞬で彼女に肉薄し、木刀を振るう。

一瞬『驚いた』表情をした冴香が攻撃を受け止め、弾かれた様に距離をとった。

 

「フム……今のに対処するか。弱い相手だと大体アレで決まるんだがな」

「どっかで聞いた台詞だなぁ……私を舐めんな、って言いたいトコだけど、ちょーっとやばかったかな」

「謙遜するな。初見で『今の』を避けれる奴はそういない」

「だよねぇ。……喰らったのは初めてだけど、やっぱえげつないわぁ『ソレ』」

 

若干引き攣った笑顔で答える冴香。端から見れば、ただ普通に距離を詰めた様に見えるだろう。

だが、実際にソレを体感した彼女には違って見えた。

 

何より、本人が『何時の間に近づかれたのか』分からなかったのだから。

ソレこそ、神林が『瞬間移動してきた』と言われても納得できるほどに。

 

「噂には聞いていたけど、実際に目の前でやられるとホントにビビるわー。最早魔法だよ?」

「魔法使いに就職した覚えは無いが」

「いや、手品の類に近いかな……ホント厄介だよねぇ、『間合いを盗む』とかさ」

「あぁ、よく言われる。さぁ……ギアを上げるから、しっかり付いて来いよ?」

「私へのあてつけなのさっきからさぁ……ってあぶなっ!」

「ホラホラどうした。集中しろー」

「いつに無くタカ君が楽しそう!?くっそぅ、何かムカつく。でもドキドキしちゃう!」

「随分余裕だな……もう一つ上げるか」

「まだ上があるのかよ!?てか余裕じゃなくて只の強がりだよ察せよこの野郎!」

 

神林の怒涛の攻めに、引き攣った顔でひぃひぃ言いながらも何とか捌く冴香。

 

死神とのダンスは、まだまだ加速する。

 

 

 

 

 

一方、艦娘達は―――

 

 

「おいおいマジか、マジでか!ははっ、半端ねぇな提督!」

「て、提督早っや……!私でも追いつけないかも」

 

天龍が嬉々とした表情で叫び、島風が圧倒されたように呟く。

他の神林艦隊の面々も似たようなものだ。

彼女達は嬉しかった。自身が慕う人の知られ然る一面を見れた事が。

其れと同時に、鳥肌が立つほど心が震える。『彼』の圧倒的な強さをこの目で見れた事に。

 

形勢は逆転し(尤も今まで神林は本気を出していなかったのだが)、神林が終始押している。

 

そうして神林艦隊の面々が歓喜する一方で、摩耶や大和達は言葉にならない、と言った様子だ。

 

「……しれぇ、どうしたんでしょうか?」

「あぁ、明らかにさっきより反応が遅れてやがる。どうなってんだ?」

 

先程と比べて幾分か顔色が良くなった雪風が、冴香の様子に首を傾げる。

対する摩耶も、『腑に落ちない』と言った顔だ。

 

仕切り直し直後の攻防で、冴香は神林の動きに『反応できていなかった』ように見えた。

と言うか、『神林が肉薄するのに気付かず驚いていた』ようにすら感じる。……そんな事が、可能なのか?

 

此処から見る限り、神林の動きに不自然なものは無いように思える。

確かにその速さは驚異的だが、冴香レベルの実力者が反応できないようなものでは無い筈だが……?

 

「……一体、どうなってんだ?」

「無駄だよ、摩耶。此処からでは、『アレ』の恐ろしさは分からない」

 

摩耶の疑問に答えるように、古賀が呟く。

 

「恐ろしさ?」

 

古賀の言葉に、雪風が首を傾げる。

 

「端から見る分には、あいつの動きに疑問は感じない。だが、冴香には全く違った世界が見えているだろうな」

「違う世界?」

「そうだ。今の冴香には、神林が『急に目の前に現れた』ように見えている事だろう。……奴に『間合いを盗まれた』事でな」

「そうそう、ソレだよソレ。さっきも冴香の奴が言ってたが、ありゃ一体どういう意味だ?」

 

摩耶が古賀に問いただす。確かに、冴香はこう言っていた。

 

 

―――ホント厄介だよねぇ、『間合いを盗む』とかさ

 

 

 

「言葉の通りの意味だよ。神林は相手に気取られずに肉薄する事が出来る。まさに、『間合いを盗む』のさ」

 

 

 

神林が『間合いを盗む』カラクリは、大きく分けて二つ。

 

『観察眼』そして『視線誘導術』だ。

 

例えば、『瞬き』や『唾を飲み込んだ瞬間』、『息を吐いた瞬間』など、通常なら『隙』とは言えないであろう一瞬の空白。

それでも、対象から意識が外れる瞬間。神林の『観察眼』は、其れを感知し利用する。

 

『視線誘導術』とは、文字通り『相手の視線を操作する』と言う技術で、主に手品師がタネを仕込む際に使うものだ。

冴香が言っていた『手品の類』と言うのも、間違ってはいない。

 

人の眼球は比較的自由に動かせるように見えるが、実はとても限定的だ。

特殊な訓練でもしない限り左右で別々に動かす事は不可能だし、眼球を動かす筋肉の構造上、『動かしにくい方向』も存在する。

神林はその技術を戦闘に応用する事で、『相手が認識できない空間』を作り出す。

 

 

結果、神林は相手に悟られる事なく肉薄する。

 

―――すなわち、『間合いを盗む』のだ。

 

 

 

また、神林の『神城式斬術』は『初動』が極端に小さい。

日本の古武術を応用して作られたその体術は、『力み』や『ため』がなく、相手に行動を読まれにくい。

従って、『仕掛ける瞬間』を捉えるのが困難なのだ。

 

 

生半可な相手では、神林に近付かれた事すら気づかない。

そしてその身を切り裂かれて初めて理解する。自分たちが『死神』の鎌に捕えられた事に。

 

 

 

「えげつない技術だな……格闘戦で相手の接近に気付けないとは悪夢に等しい」

「だろうな。だからこそ、奴は先の戦闘において『伝説の死神』と恐れられていたのさ」

 

武蔵の唸る様な呟きに、古賀が笑いながら応える。

 

「提督だったら、彼にどう対応します?」

 

大和の言葉に、ふと思案する。

正直な話、接近戦で奴に対応できるとは思えない。

 

「私を囮に遠距離から狙撃させるか……いっそ付近を更地にする心算で爆撃させた方が被害を減らせるかもしれん」

「……最早『戦略兵器』扱いだな」

「アレは『個』で対応しきれない存在だ。今更只の『一兵士』としては扱えんよ」

 

呆れた様な武蔵の言葉に、苦笑いで応える。

『伝説の死神』が我々に牙を剥く……その様な状況にならない事を祈るばかりである。

 

そんな事を考えていたら、いつの間にか周りの空気が変わっている事に気付いた。

何事か、と神林達に目を向けて、理解する。

 

捉えられない筈の神林の動きに、なんと冴香が対応し始めていた。

 

 

 

「……驚いたな、この短時間で此処まで対応してくる奴は滅多に居ないぞ?」

「……そ、ありがと」

「随分大人しくなったじゃないか」

「かなり神経使うからね。雑談する余裕は殆どないや」

 

神林の攻撃を、ほぼ反射のレベルで防ぐ冴香。

 

『……うん、大丈夫。見えてはいないけど、ちゃんと対応できる』

 

神林の剣戟を捌きつつ、冴香は確信していた。此れなら、勝てると。

 

 

まことに遺憾な話ではあるが、此処までの事をやってのけてはいるものの、神林は『普通の人間』だ。

別に光速で動いている訳ではないし、目の前から本当に消えているわけでもない。

つまり、カラクリさえ分かれば対応は可能……まぁ、『カラクリを理解する』のと『戦況が好転する』のとは別問題なのだが、気分的な話だ。

 

要するに、彼の『間合いを盗む動き』は『目の錯覚』及び『無意識の隙』を利用した物。

 

ならば如何する?答えは簡単。目『だけ』に頼らなければ良い。

耳で彼の音を、皮膚で空気の流れを。そして彼の放つ気配を五感を総動員して捉えるのだ。

 

『無意識の隙』はどうにもならない。極めれば、ソレすらも誘導が可能になるかも知れないが、今はムリだ。

 

だがこれまでの攻防で、彼の動きをある程度覚えることが出来た。

そして自分には、古賀でさえ一目置く『読みの思考』がある。

 

『ポテンシャルで勝てないなら、頭使ってナンボ、ってね!』

 

後は、彼の動きを読んで『後の先』を狙えば良い。

 

『さぁ、君ならどう動く……?』

 

神林に意識を向けつつ、集中する。

時間が引き延ばされるような感覚の中で、神林が視界から消える。

其れと同時に、左後方辺りに膨らむ気配。

 

『きっちり掴めてるよ……そこ!』

 

体を翻すと同時に、木刀を振るう。其処にいた神林と目が合った。

小さく嗤い、口だけを動かして、神林に問う。

 

『その程度の動きで、私に読まれないと思った?』

 

 

 

 

―――しかし、冴香の木刀は何も捉えることなく空を切った。

 

 

『……え?』

 

 

一瞬目を見開く。なんと、神林が『再び』消えた。

そして唖然とする冴香の耳に、声が届く。

 

 

 

「……その程度の読みで、俺を捉えられると思ったか?」

『釣り(フェイク)!?やられた!』

 

直後に感じる悪寒。気配は背後から。

 

「こっの……!!」

 

無理やり反転して、木刀を振るう。無茶な体捌きに体が軋むが、今は無視。

 

「悪いが……それも読みだ」

 

またしても木刀が空を切る感覚。数瞬後、トンッという音と共に木刀に掛かる重み。

何事か、と冴香が目を向ける。其処には―――

 

 

 

冴香の振りぬいた木刀の『上に乗った』神林がいた。

 

 

 

「……は?」

「気を抜くな、と言った筈だぞ?」

 

目の前の光景に呆けた声を出した冴香に構わず、神林は木刀を思い切り踏みつける。

 

「うわっ!?」

 

木刀の切っ先が床に叩きつけられ、それでも木刀を手放さなかった冴香は前につんのめる。

そのまま木刀を左足で押え付けつつ、神林が右の後ろ回し蹴りを放った。狙うは、つんのめって差し出された冴香の側頭部。

 

「舐めんな!」

 

軽く頭を下げて、蹴りをやり過ごす。そのままカウンターの当身をかまそうと前に出る。

が、視界の端に何かが映り、咄嗟に引いた。

 

直後、眼前を通過するのは神林の左膝。横一文字に振りぬくような膝蹴りだ。

 

つまり、先程の後ろ回し蹴りはブラフ。大技で懐におびき寄せての、本命は膝。

もう一歩踏み込んでいたらモロに喰らっていた。

 

『ったく、私よりよっぽど足癖悪いじゃないか!』

 

内心で毒づく。しかし、神林の追撃は終わらない。

 

「疾っ!」

「くぁっ……!」

 

一歩踏み込んで、繰り出されるは右の片手突き。

冴香は自由になった木刀で何とか受け止めるが、とんでもない衝撃に腕が軋む。そのまま後ろに吹き飛ばされた。

 

受身を取りつつ、立ち上がる。

幸い、後ろに飛ばされつつ衝撃を吸収したので、木刀は折れずに済んだ。しかし、腕は未だに痺れたままだ。

 

『隙を生じない二段構え、とはよく言うけど、君のは一体何段構えなのさ!?』

 

神林の波状攻撃に、本日何度目かの毒を吐く冴香。

と言うか、先程の曲芸じみた回避はなんだ。

勿論、跳躍で回避した神林の真下に木刀が在っただけに過ぎないのは理解している。しかし、そういう問題じゃない。

 

『でも参ったなぁ……勝てる気がしない』

 

これまでのやり取りを思い返し、冴香は若干途方に暮れる。

 

神林の『間合いを盗む』動きに、冴香は未だに対応しきれていない。先手は基本向こう。

頼みの綱の『先読みしてのカウンター』も、フェイントを交えられては分が悪い。

何より彼の動きに対応するには多大な集中力を使う。……どう考えてもジリ貧だ。

 

『しかも未だ腕痺れてるし。コレじゃ碌に力入んな……ん?』

 

そこで冴香の脳裏に浮かぶ、一つの『作戦』。はっきり言って分は悪いが、元から劣勢なのだ。気にしない。

そう、『力(スペック)で劣るなら頭使ってナンボ』である。

 

 

「ねぇねぇ、タカ君や」

「……なんだ?」

「盛り上がってきたトコで悪いんだけどさ、時間も圧してるし、そろそろ終わりにしない?」

「それはお前の『降参』と言う事か?」

「んー私としてはそれでも良いんだけどね?でもやられっ放しじゃ面白くないし……次で決着付けよ?」

 

そう言って、冴香は右足を引いて木刀を右脇に取り、剣先を後ろに下げる。所謂、『脇構え』だ。

 

「次で終わり。どっちが勝っても恨みっこなしで。……どう?」

「……良いだろう」

 

小さく頷いて、両手の木刀を逆手に構え、体を低く構える神林。

神林が挑発に乗ってくれた事に内心で舌を出しつつ、冴香は今日一番の集中力を込める。

 

互いに構えたまま数秒―――本人達には数分にすら感じるような静寂。

仕掛けたのは同時だった。

互いの距離が、一気にゼロになる。

 

「はぁっ!」

「ふっ!」

 

冴香は渾身の切り上げ。それに対し、神林は右の木刀で迎撃する。

 

彼女の腕は、未だに痺れていた。脇構えもそれを誤魔化す為の策だが、神林は気付いていた。

まともにぶつかれば、木刀を弾き飛ばされるのは冴香。そこで決着。―――のはずだった。

 

互いの木刀が触れる瞬間、冴香は木刀を持つ腕の『力を抜き』、神林の一撃を受け流す。

 

「っ!?」

 

此処で初めて、神林が驚愕の表情を浮かべる。

その様子を見て、してやったりと笑う冴香。

 

『確かに【次で終わり】とは言ったけどさ……』

「次の『一撃で』とは言ってないんだなぁコレが!!」

 

引いた木刀を、背中を沿う形で左肩に担ぎなおす。

そして密着した状況で、腕を引き下ろした。この時、木刀の峰を左肩に沿わせる事で速度を更に上げる。狙うは、神林の首。

 

「はぁぁっ!!」

「……っ!!」

 

裂帛の気合と共に交錯する冴香と神林。

そのまま音も無く、互いに暫く静止する。

 

 

「此処にきてこんな策を……大した奴だよ。お前」

 

 

神林の首筋には、寸止めされた冴香の木刀。

 

 

「此処まで狡い事やって、漸く『引き分け』とか……やっぱ化けモンだわ、君」

 

 

そして冴香の脇腹には、同じく寸止めされた神林の『左の』木刀。

 

先の一瞬で、咄嗟に順手に持ち替え、背中を回す形で突き出したのだ。驚くべき反応速度である。

 

 

 

 

 

「其処まで!この勝負、引き分けとする!!」

 

 

 

古賀のこの一声で、『死神』と『嵐』の踊りは終わりを告げた。

 




ひぃひぃ言いながら戦闘描写を書いていたら、こんな中途半端な内容に。
難しいモンです。

しかし『艦これ』の二次創作だっつってんのに、艦娘が空気という事実。

だ、だって、解説シーンで語り手を無闇に増やすと、収拾つかなくなるんだもん!て言うか、なったんだもん!

……いやはや、ちょっとでも気に入った艦娘の出番を作ろうと思うあまり、全体的に薄くなってしまうとは本末転倒ですね。
自身の文章構成力に泣きたくなります。て言うか若干泣いてます。日々精進日々精進。

……メインで出す艦娘を絞ったほうがいいのかなぁ……いっそ2~3人くらいに。


さて、もうちょっと冴香さんとの絡みが続きます。
以前から散々言われている、彼女が持ち込んだ『艦娘の絡んだ厄ネタ』が遂に公開。
ちょっと独自設定入りますので、ご了承ください。

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