また、前作にも増して深夜テンションで書いております。ご了承ください。
では、どうぞ。
舞鶴鎮守府:工廠
「さて、私達は晴れて最上型重巡を複数手に入れたわけだ」
工廠の中で腕を組みつつ神林が呟く。
「うん、そうだね」
「はい、そうですね」
「えぇ、そうですわね」
それに応える艦娘は三人。上から『最上』『三隈』『熊野』の順である。
「……では、何故私達は工廠に居るんだ?」
「「「鈴谷を建造するために決まって(るじゃないか)(るじゃないですか)(ますわ)」」」
「……まぁ、だろうなとは思っていたがな?」
最上たちの言葉に頭を掻きながら応える神林。
「だって、後一人で最上型が揃うんだよ?」
「逆に言えば、鈴谷さんだけが居ないんです」
「鈴谷さんだけ仲間外れじゃ可哀相ですわ」
「まぁ、お前たちの言い分は分からない事もないが……」
最上たちの主張に、苦笑いを浮かべる神林。
ハッキリ言って、彼はこれ以上の大型建造に対して積極的ではなかった。
元々、神林の目的は『航空巡洋艦二隻の確保』だったのだ。
そして最上・三隈の時点でそれは達成されていて、実際神林はそれ以上の建造をするつもりは無かったのだ。
(そうやって考えると、先日最上が言っていた『もうちょっと空気読もうよ、熊野』もある意味では神林の本音でもある。)
正直な話、『最上型を揃える』事に神林は拘っていなかった。
まぁ、『居るに越したことはないだろうが』程度のものである。
少なくとも、今揃える程ではないと思っている。彼は『蒐集家(コレクター)』気質の人間ではない。
「資源にだって限りがあるぞ」
「資源は貯め込むもんじゃないでしょ?」
「無闇に使う物でもない。……只でさえ『大型』は資材を馬鹿食いする。無闇には出来ん」
大型建造の最低コストでも、通常なら戦艦・空母どちらも狙える。駆逐艦なら……一体何隻建造できるのやら。
そんな事を神林が考えていた時、一人の艦娘が小さく呟いた。
「……じゃぁ、『無闇に』じゃなかったら良いんだね?」
「……最上?」
訝しがる神林に対し、不敵に笑う最上。
そう、最上とて無闇矢鱈に大型建造をしようとは思っていない。
神林の『無駄を嫌う』性格は理解しているし、現在が『資材を浪費してはいけないタイミング』である事は重々承知だ。だが―――
「大丈夫、ボクに任せて」
そう、最上は知っている。『血は水よりも濃い』という事を。
あの時はあまり実感できなかったが、今なら確信できる。
『ボク達最上型は、見えない力で繋がってるんだ!今回だって、引き寄せてみせる!』
しかも今回は三隈や熊野も居る。自身の絆の力だって倍率ドン、さらに倍な筈。
と、此処まで考えて、ふと『あの時』の風景がフラッシュバックする。
『そ、そういえばあの時は提督の腕に抱きついちゃったんだよなぁ……ボク』
今思えば、結構大胆な事をしていたような気がする。
『でもでも、あの時より、引き当てる難易度は高いんだよね』
そう、あの時は自分以外の『最上型』でよかった。しかし今回狙うは『鈴谷』一人のみ。難易度は遥かに高い。
『って事は、もっと大胆に!?え、どうしよう、今度は普通に抱き着いちゃう!?マズイよ、難易度半端ないよ!?』
もういっそ『お姫さま抱っこ』とかアリなんじゃないだろうか、と最上が結論付けようとした時、凛とした声が響く。
「……最上さんの想い、確かに受け取りました」
「……えっと、三隈?」
いきなりの三隈の発言に、一気に桃色思考から引き戻される最上。
「貴女の最上型への想い、そして誇り、しかと聞きうけました。……私も最上型重巡の一人として、一肌脱がせていただきます!」
「ちょ、ちょっと、三隈?」
「い、いきなりどうしたんですの?」
姉妹艦の豹変に、最上は勿論、熊野すら戸惑っている。
そんな姉妹達の動揺をよそに、三隈は建造を行う端末の前に立つ。
「えっと、三隈さん?」
「最上さん、危ないですから、離れて下さい」
「え、危ないの!?何するの!?何が始まるの!?」
三隈の言動に、いよいよ混乱する最上。
―――アレ?何でだろう、ボクが思ってたのと大分違う流れになってない?
三隈は胸の前に手を翳し、目を瞑って深呼吸を一つ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!」
そして何かを溜める様に、腹から出した気合の入った声を一つ。
次の瞬間、三隈が『カッ!』と効果音が出そうな勢いで目を見開いた。
「艦これ建造流奥義!!えす!えぬ!びぃぃぃ!!くまりんこ!」
そう叫び両掌を突き出すと………
ぽわわわん――――
と、三隈の掌からなんか出た。
「な」
「え」
「うえぇぇぇぇ!?」
因みに今の声は上から神林、熊野、最上である。
「いやいやいやいやいや!?何アレ!?なんか出た?なんか出たよ今!」
「あれは一体……」
若干パニックになる最上と、呆然とする神林。
そんな中、口元を抑えながら、もう一人の最上型が呟く。
「アレはまさか……建造流奥義!?」
「熊野、知っているのか?」
「えぇ、あくまで知識として……ですが」
「ちょっと待って、何この流れ?」
神林の問いに、熊野が答える。
「建造流とは、文字通り建造の結果を左右させる秘術です」
「建造の結果を?」
「はい、事象の因果すら操り、未来を捩じ曲げるある種の『禁忌』とすら言われていますわ」
「そんな業が……」
「ねぇ、ボクの戸惑いはスルーなの?」
「数ある技の中でも、『NCD(ナカチャンダヨー)』、『MNB(陸奥になるビーム)』等は比較的習得が容易と言われていますが、先ほど三隈さんが使ったのは『SNB(鈴谷になるビーム)』……秘術中の秘術と云われている最終奥義の一つですわ」
「三隈の奴、そんな物を……」
「はい、私も驚きましたわ。まさか、三隈さんが最終奥義を習得しているだなんて……!」
「ねぇ提督、気づこうよ、ここまでのやり取り『突っ込み所しかない』って気づこうよ」
そんな中、『一仕事』終えた三隈が近づいてくる。
「ふぅ……疲れました」
「やはり、アレはかなりの体力を使うようですわね」
「……えぇ、最終奥義となると、『オリョクル連続5周』相当の体力を使います。流石に……きついですね」
「……よくやった、三隈。今はゆっくり休め」
「アレおかしいな、ひょっとして置いてきぼりなのってボクだけ?」
「さっきからどうしたんだ最上」
「あ、気づいてくれたんだ提督、嬉しいよ。えっと、ボクがどうかしたって言うか、三人のやり取りが成立してるのに対して『どうしたの』って感じかな」
「どうしたのモガミン、おこなの?」
「三隈のその呼び方を聴いて逆に安心するってはじめてかもね!」
一先ず状況を整理しよう、と最上が手を叩く。
「で、結局、建造はどんな感じなのかな?」
「それは勿論、成功ですよ」
ほら……と指差す建造の所要時間は『1:30』となっている。
「……もうさぁ、なんていうかさぁ、色々指摘する気すら起きないよ、ボク」
そういって近くの椅子に座り込み、頭を抱える最上。
とりあえず、さっきまで『姉妹艦の絆で引き当てる』とか思ってた自分のやる気を返して欲しい。
実際のところ、建造されているのが『鈴谷』である確証はないが、恐らくできるのは彼女だ。
むしろ『あそこまで』見せられて違うのが来たら逆に凹む。
「なんなんだよもう……意味わかんないよもう……」
「な、なんだか随分と気落ちしてますわね」
「熊野……お姫様抱っこが無くなったからね」
「お姫様……?一体何の話ですの?」
「ボクの悪乗りって話。気にしないで。全く、ボクの意気込み返せよぉ……」
「は、はぁ……」
天を仰ぎながらそう呟く最上。自分の中では結構な一大決心だったのだが。
兎も角。コレで四姉妹が揃うのだ。終わりよければ全てよし、である。
―――此処で『終わり』だったらの話だが。
「……わかりました。つまり、モガミンも建造流を修めたい、という事ですね!」
「ごめん三隈、何一つわからないんだけど?」
ドヤ顔で頷く三隈に、顔だけ向けて問う最上。
「つまりモガミンは建造流を極めて、提督にお姫様抱っこして欲しい、と三隈は受け取りました!」
「ちょ、ちょっと三隈!?いきなり何言ってるの!?」
ある意味『核心』をついて来た三隈に真っ赤な顔で抗議する最上。
「あら、違うの?」
「いや、違うって言うか、違わないって言うか、目的と手段が逆って言うか!?」
「要するに、『大丈夫だ、問題ない』ってことですね!」
「お願いボクの話を聞いて!」
妹艦と意思の疎通が全くできていない現状に、最上は焦る。
「というわけで、問題ないですね、提督!」
三隈の問いにハッとなり、目線を向ける。色々とあって忘れていたが、此処には神林も居たのだ。
「まぁ、別に問題は無いが」
「ちょっとぉ!?」
特に逡巡する様子も無く頷く神林。
「大切なのは、建造の流れを読むこと。資材の流れに身を任せ、同化する……それが建造流の真髄なんです」
「ちょっと待って!いきなりレクチャーが始まった事には目を瞑るとして、何でボクは縛られてるのさ!?」
「という訳で、モガミンには今からこの燃料のプールに入ってもらいます!」
「何がという訳なの!?そのプールどっから出てきた!?」
「さぁさぁモガミン!逝きますよ!」
「字がおかしい気がするのはボクの気のせいかなぁ!?」
そう言って、最上を担ぎ上げる三隈。
「ボクは縛られてるんだよ!?この状態で燃料のプールに投げ込まれたら流石に死ぬよ!?」
「大丈夫、そういう修行です!とりあえず沈んでください!まずは其処からです!」
「大変だ、妹艦に殺される!」
「この次は『弾薬の山』に埋めますから、こんな所で逝かないで下さいね!」
「最早殺す気満々じゃないかぁ!!」
「さぁさぁさぁ!モガミン、逝ってらっしゃーい!!」ブンッ!
「だから字が違う……って、う、うわぁぁぁぁぁ!?」
そのまま、最上は燃料の濁流に飲み込まれたのであった。
「最上さん、最上さん」
「う、うーーーーん、押し潰されるぅ……ハッ!?」
ふと目が覚めて、最上は辺りを見回す。
ここは……艦娘たちの休憩室だ。
「大丈夫ですか?随分、魘されていたようですけれど」
「く、熊野……」
横になっていたソファから身を起こす。汗で髪や服が貼り付くのが気持ち悪い。
「なんだぁ、夢かぁ……よかったぁ……」
「あ、あの……本当に大丈夫ですの?」
本気で心配している熊野に、大丈夫だと伝えようとして、ふと思いついた事を聞いてみる。
「ねぇ熊野」
「はい、何でしょう?」
「『SNB』って知ってる?『艦これ建造流』の奥義なんだけど」
「……最上さん」
「うん、ごめん。なんでもない。疲れてるみたいだ。変な夢見たし」
だからその『貴女、疲れてるのよ』って目は止めて欲しい。地味に傷付く。
「それで、何かあったの?」
「え、あぁ、先ほど、三隈さん主導で大型建造を行ったら、『1:30』が出たそうです。一緒に工廠に行きませんか?」
「へーふーんそっかー…………ゑ?」
「鈴谷だよ!賑やかな艦隊だね!よろしくね!」
「くまりんこはやればできる子なんです!!」
夢落ちの無限ループって、怖くないですか?僕は夢落ちで4~5周した記憶があります。怖いですね。
結構真面目に『夢落ち』を書きました。初めてかもしれませんね。夢落ち書くの。
途中からあえて支離滅裂になるよう書きましたが……難しいモンです。
しかし改めて何かいてるんだろう自分……経緯としては、
・三隈秘書艦で鈴谷がサラッと出る。
↓
・そのときのテンションでざぁっとプロット書く。
↓
・数日後、『足が逆間接になるのは貧血の典型的な症状だ、と嫁に診断される』夢を見る。
↓
・夢落ちの最上とか、アリじゃね?と思いつく。
↓
・執筆。
って感じです。どうしてこうなった。疲れてるのかも知れません。
因みにウチの三隈さんは『SNB(鈴谷になるビーム)』だけでなく『KNB(熊野になるビーム)』も修得してました……くまりんこまじパナイ。
さて、次回こそ提督サイドに戻りますので。