鎮守府の日常   作:弥識

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さて、前作の予告通り今回は閑話です。
オリキャラ多め。まぁこの作品の場合『艦娘』以外のキャラは皆オリキャラ扱いになるんですけどね。
今回は『神林貴仁提督』の過去を知る人物の登場です。あと秘書艦のターン!


閑話:死神と呼ばれた人間

 

 

―――舞鶴鎮守府

 

「というわけで、武道場を使わせて頂きたいのですが」

「……珍しいな、お前がそんな進言をしてくるとは」

 

神林中佐の進言に、目の前の机に座る男が応える。

彼の名は古賀聡史(こが さとし)。階級は大将であり、舞鶴鎮守府幹部の一人であり―――

 

「止むを得ない事情がありましたので」

「『屍を踏み越えて進む意思』を偉そうに語られては……か?」

「……まぁそんな所ですね」

 

神林提督の過去を知る数少ない人物である。

 

「全く、だからあれ程『勲章』を着けておけと言ったのだ。お前は少々『特殊』なのだぞ」

「あんな重いもの、常にぶら下げていたら真っ直ぐ歩けませんので」

 

苦笑しながらこぼす古賀に対し、神林は涼しい顔だ。

 

本来階級が遥か上の相手に対しての発言とはとても思えないが、これは他ならぬ古賀からの願いでもある。

彼が『階級章』を外しているときは、『上司と部下』としてではなく『友人』として接する―――以前から続く決まりである。

 

「ならせめて略章を着けろ。それだけで五月蝿い奴は減る」

「……あんな物にそんな価値が在るのですか?」

「あんな物でも、だ。お前が…いや、お前『達』が『戦った』証だ。語られる事は無くとも、無かった事にはさせん」

「…語る気などありませんよ。俺達の戦争は終わったんです」

「神林……」

「俺『だけ』が残されました。アレは『語られる事のない戦い』です。最後には誰も居なくならなければならない」

「……お前はそれで良いのか?」

「戦う相手ならまだしも、共に戦う仲間も居なくなったんです…俺の中に残っているのは、『虚しさ』と『渇き』だけですよ」

「その『渇き』は……海に来ても癒せないか?」

「どうでしょう?海は塩水ですからね」

 

古賀の問いに、神林は肩を竦めて応えた。

 

「まぁ良い。武道場は手配してやる。だが略章も手配する。今後はそれを着けろ。それが条件だ」

「…少々ずるいのでは?大将殿」

 

何を言う、これが年季だ。これでも、彼とは一回り以上の歳の差がある。まぁ親子程ではないが。

机の上に置いた階級章をひらひらと見せ付けながら問う。

 

「何なら『命令』にしても良いが?」

「…了解しました。では、これで失礼します」

 

流石に分が悪いと感じたのか、そそくさと退室しようとする神林に、古賀が「そういえば」と声を掛ける。

 

「冴香が会いたがっていたぞ。近いうちに舞鶴に来るかもな」

 

『冴香』の言葉を聞いた神林が、露骨に嫌そうな顔をしながら応える。

 

「アイツが…ですか?それは良い事を聞きました。日程が決まり次第、御連絡下さい。長期出張の予定を入れなければならないので」

「そんなに邪険にするなよ。器量は良いぞ?アレは」

「外見が良くても中身が残念なんですよあの女は…それに、決まっていつも厄介事を持ってくる」

「今回もその可能性があると?」

「古賀さん経由で俺に話が来ているので、可能性は高いかと。それに……」

「それに?」

「こういう時に限って、俺の『嫌な予感』は良く当たるんですよ」

 

 

 

―――横須賀鎮守府

 

「宮林司令官。舞鶴鎮守府から親書が届いています」

 

宮林司令官、と呼ばれた女性が顔を上げる。

その顔はとても整っており、百人に聞いたらが百人が声を揃えて『美人』と賞賛するだろう。

艶のある髪は後で纏められており、歩く度にたなびくその様は、見るものを魅了する。

 

「ん、ありがと。でもさー、雪風?」

 

そう言って机から立ち上がり、親書を持ってきた陽炎型駆逐艦『雪風』に近寄る。

 

「はい、なんでしょ…って、司令?」

「下の名前で呼んでっていつもゆってんじゃーん!もー、言う事を聞けないなんてけしからん!悪い子にはお仕置きじゃこのこのー!」

 

そういって、「がばっ」という擬音が聞こえてきそうな体勢で雪風に飛びかかり、そのまま『色々な』所をまさぐり始める。

 

「や、ちょっと、冴香しれい…ひゃん!」

「ふっふっふ、ここか?ココがええのんか?」

「ひゃ…ちょ、そこは…あうっ!」

「わ、脚スベスベじゃん!それに童顔にしてこのモデル体系…雪風、恐ろしい子!」

「や、ソコは…ダメです、ひゃう!」

「愛いのう愛いのう…あぁもう我慢できね。このまま仮眠室に…『ドゴス!!』でゅん!?」

 

そのまま昼からイケナイ事をおっぱじめようとした残念な美人の頭に、報告書のファイル(縦)が炸裂する。

 

「昼間っから何やってんだこの変態女」

「ちょっ!?酷いよ摩耶っち!今のは物凄くストレートに貶してる…って、痛だだだだ!!」

「誰が摩耶っちだ誰が」

 

口の減らないおっさん美人に対し、アイアンクローをかます高雄型重巡『摩耶』。

 

「待って、摩耶さん!メキメキいってる、メキメキいってるから!」

「当たり前だ。メキメキやってる」

「まさかの肯定!?ちょ、中身が!らめぇ、でちゃう!中身でちゃうう!!」

「本当に中身出してやろうか?」

「へい冗談っす!すんませんした!」

 

彼女の名前は宮林冴香(みやばやし さえか)。階級はこれでも少将である。

周囲の評価は『残念な美人』に『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花(※但し無言の時に限る)』、挙句の果てには『変態淑女筆頭』などと言われる始末。

因みに最近の迷言は『え、夜戦に性的な意味以外の解釈があるんですか?まさかぁwww』である。

こんなのでも、古豪が集う横須賀鎮守府の中でも上位に食い込む文武両道の猛者であり、少将の役職に就いているというから世の中良く分からない。

 

「ぐおぉ、やっべ、本当に中身とか出てない?」

「昼間からアホな事やってるからだ」

「ぶ~、可愛い娘とちょっとスキンシップしてただけじゃんか~」

「おっと、そうだったのか。悪い悪い、今から憲兵連れてくっから」

「ごめんなさい憲兵はマジで勘弁してください」

 

そう言って流れるような動作で土下座する残念な美人。

 

「まったく…雪風、大丈夫か?」

「あ、ありがとうございます、摩耶さん」

「お前も嫌なら嫌って言えよ?こんなアホ提督なんてシカトしときゃいいんだ」

「は、はい…」

「二人ともー、提督おこだよ?」

「…あぁ?」

「なんでもないですごめんなさい」

 

これが日常風景ってどうなんだろうか?という疑問は、百回考えた辺りで面倒になったのでその内摩耶は考えるのをやめた。

 

「…で?提督に親書なんだろ?」

「は、はい。舞鶴の古賀大将からみたいですね」

「古賀のおっさんから?」

「お前がおっさんいうな」

「えーこれでも華も恥らう二十代だよ?」

「四捨五入すれば三十だろうが」

「おいやめろ」

「あぁ、やめよう。話が進まねぇ」

 

ともかく雪風から親書を受け取り、目を通す。

 

「へぇ……成程、最近大人しいと思ってたけど、そう言う事か」

「悪い顔してんな。何か面白い事でもあったのか?」

「いや、ココにさ、偉そうな少将いんじゃん。デブの」

「あぁ、そいやぁ居たな、名前はしらねぇけど」

「そいつがさ、舞鶴の新人中佐君に喧嘩売って返り討ちにされたんだって」

「うわ、だっせぇな、他所まで行って恥をばら撒いてちゃ世話ねぇ」

「まぁ今回は相手が相手だからねぇ」

「なんだ、そっちも知り合いか?」

「まーねー。……ねぇ、二人とも、『死神』って信じる?」

「は?」

「死神……ですか?」

 

いきなり何を、という顔をしてるのは摩耶だ。

対する雪風は複雑な顔をしている。そういえば、彼女も『死神』と言われたことが在ったんだっけと思い出す。

 

「えっと、雪風もそう呼ばれてましたから…」

「あぁゴメンゴメン、ちょっち違う。雪風は『その幸運っぷりに対する皮肉』でしょ?」

 

雪風は数多くの海戦に参加するも、ほぼ無傷で帰還していた事から、『奇跡の幸運艦』と呼ばれていた。

しかし一方で多くの僚艦か沈んだ為、『周りの幸運を吸い取る死神』と嫌っていた者もいたという。

だが、此処での『死神』は意味が違う。

 

「私が言ってるのは言葉通りの『死神』。命を刈り取る、死の象徴、恐怖の化身」

 

嘗てそう呼ばれた『人間』が居た―――って言ったら、信じる?

 

「え、只の人間が…ですか?」

「はぁ?只の人間だろ?大げさじゃねぇか?」

「いやいや、人間ってのは侮れないよ?底に眠る物は未知数だ。何より、君達『艦娘』だって、その人間が作ったんだぜぃ?」

「まぁ、確かにそうだけどよ…で?そいつは大量殺人鬼か何かか?」

「嫌、真っ当…って言うのは語弊があるな。普通の軍人だよ」

「何だ、同業者か」

「正確には陸軍なんだけどね。居たんだよ。そう言う人が」

「ふーん…で、何したんだそいつ」

「私も詳しいことは知らないんだけどね。ちょっと前…6年くらい前かな。非公式の戦闘があったんだ」

 

 

何でも、海軍の研究施設を陸軍の非公式部隊がちょっかい出してきてね。

どうもそいつ等は軍の中でも物騒な事考えてる奴等だったみたいなんだ。

で、『身内の恥は~』って、同じく非公式の陸軍部隊がそいつ等殲滅したんだよ。でもそれじゃぁ話は終わらなかった。

 

某国がね、その事を知って、たかりに来たんだ。

『内紛が起きてることバラされたくなけりゃ研究内容をよこせ』って。めちゃくちゃじゃん。

でもそいつ等はそこそこの規模の部隊を送り込んできやがってさ。

でもコッチもあっちも内容が内容だから大っぴらにドンパチできない。事態は膠着してた。

 

ソコをぶち破ったのがさっきの非公式陸軍部隊でさ。

彼等は敵軍の懐まで忍び込んで奇襲をかけた。少数精鋭の部隊だったからね。潜入・奇襲は常套手段さ。

ウチの軍ですら一部の奴等以外、それを把握してなくてさ。奇襲は完璧。

 

で、彼等は敵兵を殺しまくり、奴等は内側から崩壊。

元々後ろめたい事をしてたんだ。そのまま撤退…といっても、結構な人数を彼等に喰われたみたいだけどね。

 

でも流石にその部隊も只じゃすまなくて。確か単純な数での戦力差は…15:1だったかな?おかしいよね。数字が。

作戦は成功したけど、部隊は壊滅。重傷者を含めると、ほぼ全滅だったらしいね。

で、私が話してる『死神』は……その部隊の唯一と言ってもいい生き残り。

 

以前逢った時にね、彼に聞いてみたことがあるんだ。『あの戦いで、貴方は何人斃したの?』って。

彼はこう応えた。

 

『30人越えた辺りから、面倒になって数えるのをやめた』

 

ぶっ飛んでるよね。さっき言ったじゃん、『戦力差15:1』って。普通の人の倍以上戦ってんの。

なのに、飄々としてる。別に錯乱してるわけでもない。彼にとってそれが『普通』なんだ。

アレは本物の怪物だね。どう転んでも敵にはしたくない。心の底からそう思った。

 

そう言うのがさ、実在するんだよ。この世には。

 

 

 

 

「…信じられません」

「あぁ、にわかには信じられねぇな」

「だよね~。私も実物見るまで信じてなかったもん。…見てみたい?」

「会えるんですか!?」

「うん、だってそいつ、舞鶴にいるもん」

「は?陸軍の奴じゃねぇのかよ?」

「私も何で彼が海軍に居るのかを詳しく知ってるわけじゃないよ。でも、確かに居るよ。逢えば分かる。彼が『本物』だってね」

 

そう言って、親書をひらひらと振りながら笑う。

 

「コッチの件で、近いうち舞鶴に顔出そうと思ってたんだよね。良かったらついて来る?」

 

そう言われて、摩耶と雪風は顔を見合わせる。

 

「まぁ、問題がないなら…」

「雪風も大丈夫ですけど…良いんですか?」

 

二人の問いに、もーまんたいもーまんたいと応える。

 

「元々護衛も兼ねて何人か連れてく予定だったし。あ、でも経費の関係で一緒のベッドで寝ることになっちゃうけどね!」

 

『バチコーン☆』と擬音が聞こえてきそうな横チェキをかます残念美人。

なまじ見た目が良いだけに、発言が残念でならない。

 

「何だ、そんなにコンクリの檻に入りたかったのか。待ってろ、今憲兵を……」

「ごめんなさいほんの出来心なんです憲兵はまじで勘弁してください」

 

横チェキのポーズから流れるような動きで土下座に移る残念美人。

土下座も絵になる…という事実が残念でならない。

 

「ったく…ついてくよ。向こうで冴香が馬鹿やんねぇようにみとかねぇと」

「私もその人に興味があるんで…ご一緒します」

「うんうん、良いねぇ良いねぇ、お出かけだねぇ!てか摩耶?今『冴香』って…」

「さて、もう用は済んだから、アタシは戻るな」

「ちょ、ちょっと待って!何、デレなの?ついにデレが来たの!?我が世の春なの!?」

「し、司令官、落ち着いて……」

「これが落ち着いていられるか?いーや、無理だね!しまった、録音し忘れた、摩耶、も一回お願い」

「うるせぇ!(ゴスッ!)」

「ありがとうございます!」

 

 

 

 

―――舞鶴鎮守府

 

「と言うわけで、そう言うことになったから」

「何がと言うわけですか……」

 

どうも、私、扶桑型戦艦、姉の方、扶桑です。

此処は神林提督の執務室。

会議が終わる予定の時間を過ぎても一向に帰ってこないと思ってたら、提督が一悶着起こしてました。

いや、どうしてこういう事になったんでしょうか?

 

帰ってきて早々『他所の提督と勝負する事になった』と聞かされた扶桑は呆れるばかりだ。

 

「全く…いい歳して感情的にはならないじゃなかったんですか?」

 

返す言葉もございません。

売り言葉に買い言葉で決闘とか、傍から見れば完全に子供の喧嘩である。

 

「まぁ提督が負けるとは思っていませんけど……」

 

その辺は全く心配していないと言うのが、彼女の贔屓目が現れている。

尤も、軽巡を軽々投げれる様な男なので、そこらの人間に遅れをとるわけがないのだが。

 

「ともかく、今度からそう言う事は秘書艦の目の届くところでして下さい」

「善処する」

「善処じゃありません、徹底してください」

「ハイ」

 

何というか、子供を怒る母親の気分だ。

扶桑個人としては、もうちょっと精神年齢差の近い…極端な話、パートナー?みたいなやり取りをしたいのだが、ともかく。

 

「兎に角、その場には私も同席しますので」

「いや、子供の喧嘩じみたものに君を巻き込むのは…」

「秘書艦として、提督が艦隊運用とは全く関係ない事案を行なっている時点で既に巻き込まれています」

 

ですよね。

 

…何というか、最近、扶桑との距離感が以前より近い気がする。

具体的には、天龍の一件の後からか?

まぁ、不快な物ではないので問題はないのだが。

 

 

諸々の思惑が交錯しつつも、世は事も無し、鎮守府は今日も概ね平和であった。

 




ちょっと神林提督の過去が出ましたね。
もっと掘り下げた内容は、今後『過去編』見たいな感じで出していくと思います。

オリキャラについても、その内設定みたいなのを纏める予定です。

しかし、今回出した女性提督…
この作品の中でも、一番書いてて楽しかったですね!

彼女の出番は今後増えます。増やします。

そして神林提督と扶桑の間もちょっと変化が。でもソコまで明確な恋愛描写はしないと思いますので。

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