これで、『青葉の突撃取材』シリーズは終了です。
今回はほぼシリアス一辺倒です。
天龍さんの情報を元に、最初に配属された艦娘さんを探す事にしたものの…
「正直、それが駆逐艦って事以外ほとんど情報がないんですよねぇ…」
先程確認した所、この艦隊に配属されている艦娘さんは総勢90人以上。駆逐艦だけでも軽く30は超えてるはずです。
さらに皆さん出撃やら遠征やら休息やらとバラバラなため、配属一日目の私には誰が何処にいるのか全く把握できません。
先程資料室でお会いした駆逐艦の響ちゃんも何処かへ行ってしまった後でした。
では資料室で改めて調べよう…と思ったのですが、膨大な資料の前に心が折れました。事務仕事苦手なんですよ、私。
いっそ手当たり次第に聞いていくか、と少々非効率な事を考えていたその時、声を掛けられました。
「あれ、貴方は先程の…」
振り返った先にいたのは五月雨ちゃんでした。思えば私が最初に会った艦娘ってこの子なんですよね。
「青葉さん…でしたっけ。あれから提督とお話できましたか?」
はい、おかげさまで。助かりました。
「いえいえ、お気になさらず」
そう言って手をぱたぱたと振る五月雨ちゃんマジ可愛い。やっぱり妹にしたい。
あ、そういえばこの子も駆逐艦でしたよね。折角なんで聞いてみましょうか。
五月雨ちゃん、実は斯く斯く然然でして、最初に配属された艦娘さんって…知りません?
「えぇ、知ってますよ」
ですよねぇ、そんなに簡単に見つかるとは…って、マジですか!?
「はい、だってそれ、私の事ですから」
その時私、青葉は心の中で叫びました。
――――私の運を重巡随一の高さに設定して下さった開発の皆さん、本当にありがとうーーーー!!!
「さて、提督のお話…でしたよね」
此処は五月雨ちゃんの私室です。『立ち話もなんですから』という事で、此処に案内されました。
五月雨ちゃんが出してくれたお茶を受け取り、頷きます。
「私としては、青葉さんはもうこの艦隊の一員ですから、お話しすること自体は構わないのですが…」
…まぁ提督のプライベートの話ですからね。お気持ちは分かります。
誤解のないように此処で言っておきますが、今回の件でどこかにリークしたり、それこそ記事にして発表…なんてするつもりはありません。
「では何故提督の過去を?」
純粋に、提督の事を知りたくなったんです。
私は今日、この艦隊に配属されました。そして司令官さんに会いました。
「…どう思いました?」
正直、『目つき悪いなぁ』が第一印象でしたよ。それに、『ちょっと気難しそうだなぁ』と。
「ふふ、確かにそうですよね」
でも、その割には皆さん司令官さんを慕っている気がしたんですよね。
で、気になったんです。それで、何人かの艦娘さんにお話を伺いました。
「…どうでした?」
みーんな同じなんですよ。提督を信じてる。
艦娘といっても十人十色です。気の強い方もいればおっとりした方もいる。相性が悪い方だっているでしょう。
でも、提督に対して悪い感情を持ってる方はいなかった。これって凄い事ですよね?
だから、知りたくなったんです。司令官さんのことを。
『君もそうなるよ。これは予感じゃない。確信だ』
そう断言した響さんの顔が浮かびます。
私が司令官さんを慕う未来が来る事を、何の疑いもなく信じていたあの顔。
だから知りたくなった。私達『艦娘』が信じるに値すると確信されていた、その人のことを。
…それが、私の理由です。
私の話を黙って聞いていた五月雨さんが、小さく頷きました。
「わかりました。お話します」
…本当ですか?ありがとうございます。
「まず始めに断っておきますが、私も全てを知っている訳ではありません。良いですか?」
構いません。お願いします。
「…提督は、此処に来る前は陸軍のとある部隊に所属していた、と聞いています」
…件の『勲章』を授与された頃ですね。
「はい、そうだと思います。そしてその部隊を除隊…所謂『後備役』に該当する扱いになった後に、鎮守府に配属された…と聞いています」
因みに除隊の理由は…
「それは私にもわかりません。ですが、今の提督の状態を鑑みると…」
負傷による戦線離脱…というわけではなさそうですね。
しかし陸軍からいきなり海軍鎮守府ですか…どういう経緯だったんでしょう?
「…なんでも、知人の紹介、というか、推薦だったようですよ。横須賀の鎮守府に所属されている方だとか」
成程…
「私が知っているのはこんな所です。後は…」
えぇ、私がいつか、直接、私の口で、司令官にお聞きしたいと思います。
あ、最後に、一つ良いですか?
「何でしょう?」
これは他の艦娘の方にもお聞きしてるんですが…貴方は司令官の事をどう思いますか?
「…信頼している…だけじゃ足りないですよね?」
そうですね、出来れば。
「…これは私の個人的な感想なんですが…あの方は、『大切なものを失う痛み』を知っている方だと」
…え?
「私たちは万能ではありません。負けた事、護れなかった事もあります。…貴方も覚えがありますよね?」
…まぁこれでも元、日本帝国海軍の重巡洋艦ですから。
「提督も同じです。あの人は此処に来るまでに『大切な何か』を失った…そんな気がします。それがいつ、何を…は判りません。ただ」
ただ?
「提督と初めてお会いした時、私を通して、此処にはいない『誰か』を見ていた…気がしました」
…そうですか、貴重なお話、ありがとうございました。それでは、私はこれで失礼します。
「あ、青葉さん!」
はい、何でしょう?
「…これから、宜しくお願いしますね」
…はい、此方こそ。
五月雨さんの部屋を後にした私は、自室のベッドに寝転んでいました。
頭に浮かぶのは、皆さんのお話と、司令官さんの顔。
「やっぱり、そうだったんだなぁ…」
五月雨さんの『何故提督の過去を知りたいのか』という問いの答え、実は言っていなかった理由があるんです。
過去に従軍作家さんが乗り込んで取材されていたせいか、私は人の表情・感情を読むのが上手くなりました。
これまでに出会った艦娘の方々の表情を改めて思い出します。
皆さん、やはり笑顔の奥に、何処か『憂い』の様なものがありました。
まぁ、私たち『艦娘』のルーツを辿れば当然ですよね。それは仕方ありません。
ですが、司令官の顔を見たとき、ちょっと心が震えました。
あの人の過去を、あの時の私は全く知りません。
それでも気付きました。気付いちゃいました。
司令官の、冷静だけど、何処か優しさを感じる瞳。だけど―――
だけど、その瞳の奥底に…とても深い『憂い』を感じたんです。
だから知りたくなりました。この人は、一体何を見てきたんだろうって。
『それ』の一端でも知っている艦娘の皆さんが、ちょっと羨ましく思っちゃうくらいに。
「私にも…いつか話してくれる時が来るといいなぁ」
司令官の瞳を思い出しながら、私は一人呟いた。
普段ギャグキャラのようで、意外と周りを見ている子。それが私の中の青葉さんのイメージです。
尚ネタバレと言うほどではないですが、提督について。
彼には特別な能力等を持たせるつもりはありません。同時に、神様転生といった設定も然り。
彼はあくまで、『他人より戦士として優秀』で『他人より悪運が良く』て『他人より運が悪かった』だけの普通の人間です。
次回以降は外伝か、新しいシリーズか…迷い中です。