リリカルな世界で苦労します   作:アカルト

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久々の投稿です。

試験がある為に今年の投稿が難しくなっています。本当に申し訳ありません。


見つけた答え

 

「はぁ、はぁ……くっ」

 

バルディッシュを握り直す、体からはじんわりと汗が滲む

目眩がする、熱っぽい、感覚がおかしい……だがその程度で済んでいる

 

ソニックにしてからのフルドライブモード、それをもう十分近く、体にはガタがきているし、肉は悲鳴をあげている。

それでも、死ぬよりはマシだ、死んだらそこで終わり、やり直しなど効かない

 

世界が黒に覆われて十分、今は何とか生き延びているという状況、それでも何度か接触して、体は体調不良を訴えている

少年の姿なんてもうとっくに確認出来なくなっている。分かるのはこの黒の何処かにいるという事くらい

 

「絶体絶命って、ヤツなのかな?」

 

ここまでのピンチに陥ったのはいつ以来だろうか、少なくともスカルエッティのアジトに乗り込んで捉えられた時、それくらいか?

 

さてどうするか、こんな時、私達はどう突破してきたか……思い出すのは昔の光景、ボロボロの状態の私を容赦なく叩き潰してきた元気m……もといピンクの魔弾、いや、魔砲

違う、もっと他のイメージ……あの古代の遺産である、聖王のゆりかごを壁抜きした……デスビーm……いや、ピンクの破壊光線、かのドラゴン使いもビックリな破壊光線、お土産屋さんで撃ったら間違いなく町ごと吹っ飛びそうな破壊光線

 

自分の記憶が怖い、あんな物、人生で一度見ればトラウマ物なのに二度も見て、それも一度食らっているのだ、思い出したら鳥肌が立ってきた

多分こんな、世界が黒く覆われているならこう言うだろう。

「全部まとめて吹っ飛ばせばいいの」

……そうだよね、うん

 

結局はこれでいいんだ、話が通じない相手なら、無理にでも話を聞いてもらう、それが実際にお話じゃなくて物理だろうと、殴ってでもお話するのが彼女の男前な考え方

やる、やってやる、魔力全部使い切ろうと、あの男、ケントの喉元に噛み付いて、絶対に取り戻す

 

「ブラスター3、いくよ、バルディッシュ」

 

もう一度バルディッシュを握り直す、これに全てをかける、余分な魔法は使えない

自分の周りに展開しておいたシールドを消す、準備が整うまで……逃げ切る!!

 

「ーーフッ」

 

跳躍、旋回、回避

 

襲い来るのは世界、黒、波

 

その間を高速で駆け抜ける、ひたすらに回避し続ける。

 

黒が体に掠れる、関係ない

 

息が上手く出来ない、関係ない

 

体が上手く動かない、関係ない!!

 

死んでしまえばそこで終わり、だから逃げる、逃げ回る

 

変化を悟らせないように、気づかせないように、私に注意が行くように

 

バリアジャケットが所々破ける、ただでさえ露出している肌が、どんどん晒されていく

 

手の感覚が無くなって来た、両手でバルディッシュを握る、襲いかかる世界を否定し続ける。

 

「クッ、あっ」

 

もう本能に近い、危機回避能力、準備が整う時を待つ、体を限界にまで使いながら、ただ、愛する人を取り戻す、その本能の元に

 

「……終わり、だよ」

 

体が止まる、自分が今どんな姿なのかなんて分からない、そんな物は関係ないのだ

襲いかかる黒、だがそれも……光速には及ばない

 

 

「Thunder Rage Occurs of DimensionJumped」

 

 

世界が弾け飛ぶ、ひっくり返る

 

多くの世界で発生している雷、それをまとめて次元跳躍させた大魔法

 

茶色の地面が、そこに立つ少年が露わになる

 

見えた、見つけた、雷鳴轟く中、バルディッシュを構え

 

 

 

 

サクリと、胸を貫かれた

 

 

 

 

……黒は、物理としても使えたらしい

槍状となった黒が、深々と私を貫いている

 

……終わったのだ、何もかも

 

あっけなさすぎる終わり、唐突な終わり

 

恥ずかしながらほぼ全裸になった私、これで終わりだ

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

少年が不思議そうに自分の胸を見つめる、そこには金色の刃があった

 

何故、どうして、そんな思いが彼の中には存在しているだろう

 

彼の弱点は未熟だった事、大きなロストロギアに、振り回されていただけ

 

だから……ティアナに習ってまだ五秒くらいしか作り出せない幻術、私の偽物に引っかかった

 

上空で胸を貫かれていた私が消える、五秒、たったそれだけの時間が勝敗を分けた、高速で動き回る事が出来る私なら、五秒というのは途轍もなく長い時間

 

体内に潜んでいたロストロギアが、まるで断末魔の様な悲鳴をあげながら壊れていく

世界を覆っていた黒も、少年を束縛していた力も

 

「クッ…………は」

 

膝をつく、体を犯していた気だるさ、病気が一気に消えていく、それと同時に襲って来るのは疲労感、S+ランクの魔法を湯水のように使った後遺症

バリアジャケットを展開し直す魔力も、体力も残っていない、ほぼ全裸の状態で、少年を見つめる

 

非殺傷での、ロストロギアの破壊のみを目的をした攻撃、少年が死ぬ事はない、この子だって何か事情があった筈、苦しい思いをしてきたなら、絶対に助け出したい、ヨレヨレの手を伸ばす……だけど

 

「………え?」

 

少年の手が、落ちた

 

例えではない、簡単にいえば『急速に腐って落ちた』

 

そうしているうちにみるみる腐っていくその体、ボロボロと、骨の欠片が地に落ちる

 

病気のロストロギア、目に生気を宿していない少年

痩せ細った体、不可解な言動

なによりも、あの目

 

理解する、理解してしまう、それと同時に、涙が溢れ出す。

 

世界は、なんて残酷なんだろう

 

少年は死んでいた、死してなお病気だった、病気によって生かされていた

だからこそ、ロストロギアを破壊すれば、病気の源を破壊すれば、彼は治療され、死ぬ、いや、死に直す

 

体に力が入らない、前のめりに倒れる

 

最後に少年が口にしたのは、母の名前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界では二度の大戦があった……らしい

 

らしいというのは俺がまだ生まれていなかったからで、現物を見た事が無いからだ。

本や漫画、体験者達の話からそれを予想する事はできるがあくまでもそれは予想、どんな苦しさがあり、どんな悲しみがあり、どのような地獄が広がっていたのかなんて自分には理解出来ない、知識と経験は真逆に位置するものだから

 

だが、こんな事を言っては不謹慎だと言われるかもしれないが、あの頃の人類は幼かった、いや、あの頃の地球人は……か

 

戦いは陸地で行われ、一次で多く使われていたのは機関銃、二次では大砲や爆弾、そりゃあもっと色々あったかもしれないがあの頃はまだ『引き返せた』

 

日本に落とされた原子爆弾、多くの人が犠牲になった、しかしまだ『引き返せた』

 

無知は罪、弱さは罪、などと言われるがそれは捉え方を変えればやり直しが効くという事、あの頃の地球人は……やり直す事が出来たのだ。

 

未熟な事が、知識が出来上がっていない事が、彼らの未来に繋がった。

 

多くの人が死んだ、憎しみあった、殺しあった

 

その中で何度引き返し、やり直しただろうか、革命によって、言論によって

 

だが、その引き返しが出来る期限は、永遠じゃない

 

人は成長しすぎた、赤子が子供になるように、子供が大人になるように、失敗すれば叱られて、嫌な思い、痛い思いをするだけでやり直せた事が、大人になれば通らない

 

失敗すれば戻れない、それは自己責任、自分の失敗は自分で被る、自業自得

 

人はその次元に足を踏み入れた、猿の時代から何万年もの時を超えて、様々な失敗を経験しながら、大人になった。

 

だが……それは図体だけだった。

 

子供のままの大人が社会で失敗するように、甘い考えを持った大人が見放されるように

 

人はそのまま大人になった、子供の心を持ちながら、失敗なんて考えもしないまま

 

人は結局、地球上どんな生物よりも馬鹿だったのかもしれない

 

人は結局、どんな生物よりも進化していなかったのかもしれない

 

争いは生物の本能だと誰かが言った

争いを無くす事は人を捨てる事だと誰かが言った

 

祖国を守るために戦った人がいた

自分の利益のために戦った人がいた

大切なものを守るために戦った人がいた

 

助けを求める人を救うために、戦い続けた正義の味方もいた

 

 

それはアニメの事なのかもしれない、本当にそんな人がいるのかもしれない

 

だけど何も守れなかった、結局、人は自分さえも守る事は出来ない

 

人としての逃走本能が人を殺し、防衛本能が自分を殺す

 

なんて無様な物なのだろう。私達は

いや、もう『私達』もない、自分という生物、学問的に『人間』と名付けられた生き物は

 

たった一つの失敗が人の人生を狂わせるように、たった一つの失敗が人間を狂わせた

 

やり直しなんて効く筈がない、だって大人なのだから、人間は知りすぎた、考えすぎた、貪欲過ぎた

大人へとなった私達は、いつもと同じ失敗をやらかした

 

果てがこれだ、人間がもっと成長していたら……本当の大人になっていたら、こんな事態にはならなかったかもしれない

 

ifなんていくらでも考えられる、もしかするとifの世界があるのかもしれない、この世の何処かに

 

だけど最終地点は同じだ、人は何度だって失敗を繰り返す、同じ間違いを繰り返す、どれだけ成長しようとも、失敗しない事はない、どんな人も失敗はする、だが人間は出来ない

 

だれもいなくなった世界で考える、じゃあどうすれば良かったのだろう……と

 

悪を滅し、正義を執行する

より多くを救う為に、少数を犠牲にする……そんな物は正義でも何でもない、ただの偽善だ

助けを求める人を救う、そんな物も偽善だ、個人で、この両手で救える物には限りがある。救われた者と救われなかった者、それは不平等であり、自分自身が、助けを求める者に入っていない。

 

だれもいなくなった世界、手遅れとなった世界で、出しても意味がない答えを、ただ呆然と考える。

 

意味がない答えを、それを出す事が俺の義務だから、『この世の全ての死』を受け止めた。俺自身の義務だから

 

答えは、案外簡単に見つかった……と思う。

 

思うというのは正確な時間が分からなかったから、時間という物が大勢の人を回す為に作られた定義で、自分には必要なかったから

 

体が重い、頭がクラクラする、それでも自分は答えを得た

 

人は失敗し、やり直すことで成長する。

いつしか大人になり、今までの失敗を活かし生きていく。

 

なら、簡単な事だ……同じ失敗を同じ時期に無限に行い、やり直してやり直して……成長しなければいい、学習しなければいい

前に進まなければいい、変わらなければいい

狂人だ、バーサーカーだ、だけどそれでよかったんだと

 

成長しなければ、学習しなければ、人はいつまでも子供でいられる。

 

いや、違う、そもそも失敗や成功よ概念そのものを変えてしまえばいい、失敗をいつしか失敗とも思えないように、それが普通だと思わせればいい

 

狂っていた、それでも辿り着いた。

 

成長しない、学習しない、それで本当に生きているのかなんて関係ない、それこそが人が人を保つ為の答えだった。

 

死を受け止める、音が聞こえない世界で、この世に存在した、この地球に存在した、全ての人間の死を、全て受け止める

 

心が、体が、隅々まで変わっていくのが感じる、人間という生物がこの星から消えた今、自分は何という存在なのだろうか?

 

人の形をした何かだろう、だがこれ程までに人を愛し、人を救いたいと思う存在はいないだろう。

 

俺は人が好きだ、愚かで、馬鹿な人が好きだ、だから救いたいと思った。

この本当に破滅する運命を迎える前の、全ての世界で、人を救いたいと思った。

 

呪いだ、アニメの中で、正義の味方を志した少年と同じ、だが正反対のベクトルを向いた、これを呪いと言わないでなんという

 

好きだ、好きだ、愛している。

 

この星で滅んでしまった人間、彼らの事も、他の世界で生きとし生きる全ての人間も愛している

 

「あはっ」

 

口元が緩む、もうこれ以上笑えない、そんな力はどこにも残されていない

だけど、言わなくてはいけない、この星で生きていた、全ての人間に対して

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

ifの世界の地球、無限に存在する、並行世界の一つ

 

小さな国が発端となって起きた、第三次世界大戦、別名第一次核戦争は、この瞬間をもって終結

 

 

死傷者 測定不能

 

生存者 0

 

 

 

 


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