ガクリ、と膝をつく
自分が何をされたのかが分からない、ただ一つ言えることは……俺から何かが奪われた
直感も皇帝特権も働いている感触がない……意味が分からない、何が起こっているのかも……
薄れる意識の中で深く考える事も出来ず、デュランダルを地面に刺して何とか倒れたいように体を支える
目が霞む、魔力は底を尽きた……ネリアに目を向ける、怪我は何とか治り、気絶しているためにスヤスヤと眠っているようにも見える……最低限、彼女だけでも………
「自分が何をされたのか分かっていませんね?」
真上から鮫島の声が聞こえる
憎悪も何もない、もう抵抗する手段もない、後はただ、自分の体を奪われるのを待つだけ
「私が行ったのは『魂の変更』、ケント様、今の貴方の魂は特典が刻まれている『転生者の魂』ではなく『本来生まれてくる筈だった魂』に変更させてもらいました、まぁ変更と
いうよりは一種の『封印』と考えてもらった方がいいでしょうが……」
意味が分からない、一体……
「貴方のその体には元々いる筈の魂があった、そこにケント様、転生者の魂によって圧迫してしまっていたかたちですからね、今回はケント様の転生後の魂を封印させてもらいました
まぁ貴方という人格はもうこの世界に定着していて、尚且つ容姿についても世界に『設定』として認められていますからね、変わらないのは当然でしょう」
つまりは……対転生者用のスキル、特典が刻まれた魂をそのまま封印し、元々の魂と交換したというわけか……
だが……こいつが欲しがっていたのは転生者の体の筈だ………
「ちなみに私の移転についてはなんの問題もありません、私が欲しいのは『転生者』という規格外の物を入れる事が出来る体ですから……そうですね、このスキルの欠点を述べるとするならば『上位には出来ない』という事でしょうか、あくまでも転生者の魂を元々の物と変えるだけ、もっと言えば格を下げるだけ、他人の魂の格を上げて転生者と同等にする事は出来ませんね、それが出来たら最早神の領域だ」
て事は自分の魂の格も下げる事ができるのか……まぁそれをしてしまったら自分の特典を消してしまって一生元には戻れないが……
「まぁ一種の封印ですから、私を殺すか魔力を空にすれば解除されるのではないでしょうか?移転をした後にマナとなった魂はその時点では消滅してしまって無理ですが」
ハハハと、愉快そうに、楽しそうに笑う鮫島
燃える大地をバックに俺は膝をつき、鮫島は笑う
特典を奪われ、援軍は期待できない
せめて……せめて……
「ネリア……だけは……」
「………はい?」
「ネリアだけは……お願いだ」
大事な妹、俺が負けた今、彼女を守る存在はここにはいない
ガジェットの一体でも来れば終わりだろう、最後の願いに、せめてネリアだけでも無事でいてほしい
「コルテットの技術で作った幻術装置をたった一人、『想い』で打ち破る、本当はここで殺してしまいたいところなのですが……」
はぁ、と溜息をつく鮫島
「生きていける事は生きていけるのではないですか?生きていけると言っても『一生魔力を供給し続ける燃料』になるだけだと思いますが……」
「て……めぇ……」
服の袖を掴む
力が入らない、体が思う様に動かない
そんなのは許せない、自分はどうなってもいい……せめて、せめて………
だが、そんな想いとは裏腹に袖にを掴んでいた手は簡単に振り払われる
首元に刀型デバイスが添えられる……デュランダルを持ち上げる力さえ……残っていない
「さて、今の状態では移転しても動けませんからね、まずは意識を完全に奪ってから治療するとしますか」
デバイスに魔力が集まり始める
真っ赤な魔力は燃えているようで……俺から全てを奪う力
両手はとっくに地面についた、顔を出しロクに見る事も出来ない、ただ刀が振り下ろされる時を待つのみ……だった………
「っ!?くっ!!」
「……………」
ゴウッ、と風が吹いたかと思えばそこにあったのは大きな背中
懐かしいような……頼れるような……
鮫島さえも目を見開いて驚いている様子が分かる、そういう俺もなぜなのか分からない
沈黙の後、原因となった主が口を開く
「この程度で……縛りきれると思うなよ小僧」
その声にはどこかしら威厳があり、彼が怒っているという事を嫌でも思い知らされる
ぎこちない動きで構える彼……なんで……だよ……理性が……
「久しぶりじゃのうコルテット、色々と迷惑をかけた」
「…………」
口を開いて声を出そうとするが出た音は掠れ掠れで上手く言葉に出来ない
それに対し……担任は一度うん、と頷くと目の前にいる鮫島に目を落とす……
「ロストロギア『レリック』、上手くわしを縛っていたが甘かったのう……生徒のピンチ、ただ見ているだけなど教師失格じゃろう」
「ほう、それにしてはアグスタで色々としたそうではないですか?」
「あれは扱きじゃ、樽んどる……とな」
余裕そうに言い返す担当だがその顔からは汗がポタポタと落ちている
戦っているのだろう、自分自身と、俺ではどんなものなのかは想像もつかないが恐らく一瞬でも油断すると理性を全て持っていかれる程……
「間に合ってよかった、豪邸にただただ火を付ける作業など飽きたわい」
「間に合って良かった?貴方、一度私に殺された事、忘れたわけではないでしょう?それに………」
プルプルと震える腕、動き自体がぎこちない、あれでは満足に動く事も出来ないし剣を振るう事さえ難しい
「まぁ役割としてはもういりませんし……使い捨てですね、貴方がそこをどかないと言うのなら殺しますが」
「やれるもんならやってみぃ」
「では」
刹那、高速の早さで鮫島が駆ける
担当はモーションさえ取る事無く……その宝具によって腹部を貫かれる
凄まじい程の血が流れ落ち、口からは大量に吐血する
手から剣は落ちている、いや、意図的に落とした
鮫島がデバイスを引き抜こうとするが動けない、当然だ、今の彼は担当の太い腕で肩をガッチリホールドされてしまっている状態、いくら『一枚上手』となっても筋力までは不可能らしい
そして………
「転移魔法!?」
「どこに着くかも分からんよ、ただの時間稼ぎじゃ」
口から血を吐きながら小さく担当がつぶやく
鮫島が必死に離れようとするがここが正念場と、担当は絶対離さない
掠れる目の先で担当がこちらに振り向き、笑った
最後に、『悪かった』……と………
鮫島が断末魔の様な叫び声をあげ、二人が光となって消える
残されたのは意識が朦朧としている俺と気絶しているネリア、豪邸は未だにバチバチと勢いよく燃えており夜の闇を照らしている
体から力が抜ける、バサッと地面に倒れ伏す
意識が遠のく、闇へと引きずり込まれる、俺はなす術がないまま、自然と意識を失った
雨が降っている
大きな建物が燃えたからだろうか、炎は着実に小さくなり、闇が再び世界を覆う
ふと、柔らかな感触が伝わる
暖かい、誰かに抱きしめられている
意識など殆どない、次に起きる頃にはこな光景を覚えているかさえ怪しい
ぼやける視界の中で、雨に揺れる金髪の髪
……これは、雨なのだろうか?
額に、口に当たる雨がしょっぱい、彼女は俺の顔を抱き寄せ、小さく何かを呟く
手を握られる、暖かい
今にも崩れそうな顔で、悲しそうな顔で……もっと笑顔になれよ、お前にはそっちの方があってる
当然そんな事を言える筈もなく、口も動かない
おでことおでこが……当たる
意識が薄れる、全身の感覚が遠のく
だけど……最後に一言だけ……
「フェイト」
声は掠れて、小さくて
絶対に聞こえない声だけど、彼女は小さく頷いた
そして俺は今度こそ、本当に意識を失った
『にじファン』で行ったアンケートによってvividからのルートはヒロインがフェイト中心となります
『結婚』とかはしませんよ?ケントにそんなに早く幸せになってもらっては困ります
ただ単にケントも意識し始めるというか……睦まじい感じで
勿論、はやてやカリムも出しますよ(=´∀`)人(´∀`=)