真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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1-6 仲間

「ふうっ・・・まぁこんなものかな・・・」

 

水蓮は戦の事後処理を終わらせ、後の事を部下に任せて、休憩を取りに移動していた。

 

「お帰り水蓮ちゃん。」

「お帰りなさい蔡瑁さまっ。」

 

「ただいま聖、玖遠。」

 

休憩場所に行くと椅子に座っていた聖と玖遠、湲里が出迎えてくれた。

 

「玖遠、水蓮でいいわよ。」

 

「はいっ、わかりましたっ。」

 

水蓮が椅子に座ると湲理がいるのに気付く。

 

「この子は?」

 

「水鏡先生の所で軍師の勉強してた湲理ちゃんですっ。

この戦で軍師をやってもらってたんですよっ。」

 

玖遠から紹介されて、湲里が椅子から立ち上がる。

 

「はじめまして・・・軍師をさせてもらった・・徐庶・・元直・・真名は湲里です・・・」

 

「そうなんだ・・・うん、よろしくね。私は水軍都督の蔡瑁 徳珪 真名は水蓮よ。

今回はありがとうね。」

 

「いえ・・私でも・・力になりたかったですから・・」

 

「そう・・・私達は軍師が少ないの、ぜひこれからも力を貸して欲しいんだけど・・・」

 

「はい・・・よろしくお願いします・・・水蓮さま・・・」

 

「よろしくね、湲里。」

 

二人の話がちょうど終わった所に、士郎がやって来て、水蓮にお茶を差し出す。

 

「どうぞ。」

 

「・・・お前はあの時のっ、

どうしてここにっ!」

 

「士郎さんは客将として、私に手を貸してくれたんですよっ。」

 

水蓮は驚き、士郎を警戒するが、直ぐに玖遠がフォローを入れる。

 

「そうなの?」

 

「はいっ。私よりも強いですし、戦の経験もあるみたいですっ。」

 

「それに・・・軍略の方も・・・知識があります・・・」

 

「そうなのか・・・」

 

「はじめまして蔡瑁さま。今回客将として参加した衛宮 士郎です。」

 

「よろしく・・・

ああ、客将なら敬語は要らないぞ。

こっちがお願いして手を貸して貰っている事になるからね。

それにお前の敬語はなんか違和感があるから。」

 

「なんでさ・・・」

 

水蓮に言われ少し落ち込む士郎。

 

「よろしくねー。

私は聖でいいよっ。その代わりに私も士郎くんって呼ぶねっ。」

 

「ああ。よろしく聖。」

 

「うん。

あのねっ、出来ればこれからも私達に手を貸して欲しいんだけど・・・」

 

聖にお願いされ、士郎は考える。

 

「明日まで待ってもらってもいいか?」

 

「うん。だったら部屋を用意するね。

水蓮ちゃん、空いてる部屋に案内してあげてくれる?」

 

「分かったわ聖。

士郎、着いて来て。」

 

そう言って水蓮は立ち上がり、士郎と一緒に出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

士郎と水蓮が並んで歩いていると、水蓮が喋り出した。

 

「私は余りお前を信用していない。」

 

「・・・・・」

 

水蓮がこの国を聖達と一緒に引き継いだ際に、いろいろな苦労があった。

 

特に善意があるふりをしながら近づいて来て、

自分の事しか考えてないような奴らが非常に多く、

人を極力信用しようとする聖を守る為に頑張ってきたのだ。

 

「だけど私達にはまだまだ力が必要だ。

お前は私が勝てなかった玖遠に勝ち、軍師としても知識があるようだ。

他国の武将とまともに戦えるのが玖遠と私だけの今、

お前のような人材が欲しいのも事実。」

 

水蓮は足を止め、士郎の方を向く。

 

「だが、もし聖達を裏切ったりしてみろ。

その時は絶対に許さんからなっ!」

 

そのまま水蓮は、士郎に指を突き付けながら言いきった。

 

「って、まだ協力するとは言ってないだろ・・・」

 

士郎が慌てて反論するが、

 

「なにっ!まさか聖のお願いを断るつもりなのかっ!」

 

と、水蓮が士郎に近寄ってくる。

 

「ち、近いって!」

 

「いいかっ。私は嫌だか聖が手を貸して欲しいと言ってるんだ!

それを断って聖を裏切るんなら・・・」

 

と、水蓮がどんどん士郎に近づいていき、お互いの目と鼻の先にまで近づいて・・・

 

「あ、水蓮ちゃん。

後の事なんだけど・・・・」

 

水蓮に言い忘れた事があった聖が追いかけてきた。

 

だが今の二人は知らない人が見たら、

どう見ても水蓮が士郎にキスを迫っているようにしか見えない状態だった・・・

 

「す、水蓮ちゃんに先越されたーっ!」

 

そう叫んで聖が逃げていく。

 

「ああっ、聖っ!違うわよっ!」

 

慌てて士郎から離れ、言い訳をするが、既に聖はいなくなっており、

怒りの矛先が士郎に向かうのは仕方がない事だった。

 

「・・・・・しーろーうーっ」

 

「なんで何もしてないのに、一気にややこしくなるのさ・・・」

 

そう言いながら水蓮との距離を開け、

(そう言えば始めて名前で呼んでくれたな)と考えながら逃走を開始した。

 

「逃げるなーっ!」

「俺が何をしたーっ!」

 

逃げるのはいいが、

士郎が知っている所で周りに迷惑がかからない所と言えば玖遠と戦った訓練場しかなく、 そこに逃げ込んだ士郎はなし崩し的に水蓮と一戦交えることになった・・・

 

もちろん士郎が勝利したが。

 

その後、落ち着いた水蓮に空いてる部屋に案内してもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜−−

 

水蓮 side

 

「疲れた・・・」

 

寝具の上に転がり、そう呟く。

 

ここ数日は戦の準備と移動等で、ろくに睡眠がとれなかった為、

ゆっくり眠れるのは久しぶりだったのだ。

 

「衛宮 士郎か・・・」

 

昼間に一戦交えた、あの士郎の事を思い出す。

 

「流石に玖遠に勝ったらしいから私は勝てないと思ってたけど、あれは強すぎね・・・」

 

ちょっと冷静じゃなかったとはいえ、そこらの武将より強い自信はあった。

 

だが私の刃は士郎にはとどかなかった。

 

突く時と引く時に攻撃できる十字槍の特性を生かし、

距離をとり、圧倒しようとしたが全て避けられた。

 

平突きの後、士郎の後ろにある穂先を90度回し縦にし、

見えない所で攻撃の位置も変えたりしたが、するりと半身ずらして回避された。

 

結局、攻撃が届かず焦った私の隙をつかれて接近され、

慌てて槍の石突きの部分で迎撃しようとしたが、それすらも読まれ、

 

動き始めをあいつが持っていた短剣に止められ、

もう片手にある短剣を突き付けられて敗北した。

 

「でも、あれだけの武ならばあの孫策とも十分過ぎる位に戦える。」

 

前に孫堅と戦った際、水軍の指揮ではほぼ互角だった。

 

だが敵軍の中にいた孫策を見た時、

個人の武では敵わないと言う事が嫌と言う程分かってしまった。

 

とてつもない才能の差・・・

 

「あれは反則よね・・・

努力して追い付こうとも思わない位・・・」

 

だが、士郎は違った。

 

カンや才能じゃない、磨きあげた技術と、鍛え上げた力の結晶。

 

「士郎に鍛えて貰えば、私も孫策や甘寧達と互角以上に戦えるようになる。」

 

だったらやっぱり仲間になって貰った方がいいのよね・・・

 

ちょっと嫌だけど・・・

 

いろいろ葛藤しながら水蓮は、そのまま眠っていった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵舎の上に、士郎の姿があった。

 

そこには物見用の高台があり、そこからは月に照らされる新野の街が一望できた。

 

川沿いからの風を浴びながら、昼間、聖に仲間に誘われた事を考えていた。

 

(宝石翁が言っていた協力者を見つけないといけないけど、

この広大な中国を捜し回るよりは、人の出入りが多いこの軍にいた方が情報を集めやすい。

それに張曼成が言っていた書も気になる・・・)

 

書を調べるのなら、戦のドサクサに紛れて入手するのが1番犯人がばれにくく、

士郎の実力なら簡単で確実。

 

その事を考えても、既に繋がりがある、この軍に参加して黄巾党と戦うのが一番ベストなのだが・・・・

 

(ここは参加した方が良さそうだよなぁ)

 

軍に参加して戦うとなれば、少なくない数の人を殺してしまう事になるが、

もう既に黄巾の乱は始まってしまっている。

 

このまま何もしないよりかは、自分も参加し、戦の終結に手を貸した方が良いだろう。

 

そうやって考えていると、背後から声をかけられた。

 

「こんばんわ。あんまり風を浴びると体に悪いですよ?」

 

「聖・・・」

 

そのまま聖は士郎の横に歩いて来た。

 

「眠れないんですか?」

 

心配そうに、聖が士郎の方に目を向ける。

 

それをみた士郎は、苦笑いを浮かべながら答えた。

 

「昼間の事をちょっとね・・・」

 

すると聖は顔を赤くして話し出した。

 

「あっ!あれですか・・・

士郎くん何時の間に、水蓮ちゃんとあんなに仲良くなったんですか・・・」

 

「?追いかけ回されたりはしてたけど・・・」

 

仲良く見えたのか?と、士郎が考えていると、

 

「お、追いかられたっ!

確かに水蓮ちゃんの方から、士郎くんにせまってましたけど・・・」

 

「せまる?何をさ?」

 

「えっ・・・そ、その・・・接吻を・・・」

 

士郎がフリーズする。

 

聖は何かモジモジしている。

 

「な、なんでさっ!」

 

慌てて士郎は否定して、事情を話した・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「士郎くん水蓮ちゃんに勝ったんですか−」

 

「まあ、なんとかね。」

 

何とか誤解が解けた士郎は、そのまま聖と話し続けていた。

 

「じゃあ昼間の事っていうのは・・・仲間になる話ですか?」

 

「ああ。その事で聞きたい事があったから、ちょうど良かったよ。」

 

「聞きたい事?」

 

少し間を開けてから、士郎は聞いた。

 

「聖、キミが大守をしている理由。」

 

「理由・・・」

 

しばらく考えた後、聖は話しだした。

 

「恩返しですね。」

 

「恩返し?」

 

聖は軽く頷き、

 

「名前で分かるとは思うけど、私は漢王朝の血を引いているんですよぅっ。

それで私がちっちゃい頃に、此処の太守に任命されたお母さんと一緒に来たんです。

その前は確か西涼の方にいましたねー」

 

西涼は中国大陸の一番左上の位置にあるが、それに対して襄陽は真ん中より少し下にある。

 

「かなり遠いよな・・・」

 

「そうなんですっ!もう大変だったんですよぅっ!」

 

当時を思い出し、聖は目に見えて落ち込んでいった・・・

 

「でもですね、この国の人達がとても良くしてくれたんですよ!」

 

(ほぼ中国の中心にあるし、旅人やよそ者がおおいから、

そういう風な人が多いんだろうな。)

 

急に元気になった聖にびっくりしながらも、士郎はそう結論づけた。

 

「来たばかりの時に水蓮ちゃんとも仲良くなれましたし、とっても楽しかったんですよ。」

 

すると聖は少し悲しそうな顔をして、

 

「でも、お母さんが病気で亡くなったんです・・・」

 

「・・・・・」

 

士郎も親が亡くなるという似たような経験がある為、聖の悲しみは痛いほど理解できた。

 

「それで急遽、私が大守に選ばれたんです。」

 

「そうだったのか・・・」

 

聖はそのまま月に照らされる新野の町並みに目を向ける。

 

「最初は分からない事ばかりでした・・・

それでも水蓮ちゃんや、蓬梅ちゃんや鈴梅ちゃん、

この国の人たちに支えて貰って何とかやってきました。」

 

「・・・でもここ最近はずっと戦ばかり起こっています・・・

この国も土地柄、よく狙われます・・・」

 

「交通の便の良さと豊富な食料・・・」

 

聖は士郎の指摘にうなづき、

 

「最初は流されるまま太守になっちゃいました。

でも、そんな私を優しく支えてくれたこの国の人たちを戦火から守りたいんです。

戦なんて無い方がいいに決まってます。でも私には力が無くて・・・

けれど私一人じゃ無理でも、

水連ちゃんや士郎くんがいればもっと沢山の人が救えるんです!

士郎くん、私に力を貸してくださいっ!」

 

聖は目に涙を浮かべながら士郎に頭を下げる。

 

「聖・・・俺はなりたいものがあるんだ。」

 

「なりたいもの・・・?」

 

「すべてを救う 正義の味方。

親父と約束したんだ。」

 

「お父さんとですか・・・」

 

士郎は軽く頷く。

 

「ああ、そのために力や知識をつけて戦い続けてきた・・・

けれど一人では無理だったんだ。

どうしても犠牲がなくならなかった・・・」

 

「士郎くん・・・・」

 

悲しそうな目で士郎を見つめる

 

「だけど聖達と力を合わせれば一人では無理だった事もきっとできるようになる。

だから・・・これからよろしく聖。」

 

聖は花が咲いたような笑みを浮かべ、

 

「うんっ、ふつつかものですが、よろしくお願いします。」

 

と危険な台詞を口にして、青い髪を士郎の胸元におしつけながら抱きつく。

 

「それはいろいろと違うっっっ!」

 

「なんかお母さんが男の人にはこれが一番利くっていってたんだけど・・・」

 

(確かに破壊力は中々だった・・・)

 

新野の夜は過ぎていく・・・

 

(いいよな・・・親父、イリヤ・・・)




次からは本格的な黄巾党との戦いになっていきます。

ここまでがおおきな流れではプロローグになりますね。

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