真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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7-7 竜虎相打つ

――――――黄河近郊 官渡砦――――――

 

今、官渡にて二つの勢力の決戦が行われていた。

 

片方は兗州・豫州・司隸・徐州を統一した華琳、

もう片方は冀州・青州・并州・幽州を統一した麗羽。

 

共に四州を支配する物同士、

まさにこの戦いの勝者が、この先中心となっていくだろう。

 

そんな戦は、開始早々こそ華琳が麗羽の先発部隊を撃破し出鼻を挫いたが、

麗羽の兵は華琳の三倍以上あり、如何せん兵力の差が大きく、

また輜重隊の事もあり、じりじりと押されつつあった。

 

「一斉に射掛けるのですわ!!」

 

麗羽の合図と共に、

土山の上に築かれた物見櫓の上から、

官渡砦に雨霰と矢が射掛けられる。

 

この官渡砦は、前々から華琳が準備して建てておいたものだ。

 

「麗羽と戦うときは、ここしかないわね。」と言う華琳の予想通り、

今まさに麗羽の本隊と曹操軍がぶつかっていた。

 

「みんな頑張るのーー華琳さまが帰ってくるまで戦うの!!」

 

「東門が破られそう!?

さっさと工作部隊向かわせぇ!急いで修復するんや!」

 

「傷ついたものは後ろに下がれ。

ここを死守する。」

 

砦の防衛に当たっているのは魏の三羽烏。

沙和が兵の士気を鼓舞し、

真桜が防衛、修復を行い、

凪が敵兵を駆逐していく。

 

風、稟の軍師が、全体の指揮を執っていた。

 

「まだ、時間がかかりそうですかーー?」

 

「そうですね……砦の外で迎撃してくれている

曹仁、曹洪さんも大分消耗が激しくなってきていますから……

早くしないと拙いですね。」

 

ジッと砦の中で耐える曹操軍。

兵の消耗もそうだが、今の曹操軍にはより切実な問題がある。

 

兵糧である。

 

元々華琳が支配する兗州は、

周辺の地域と比べて戦が多発したこともあり、生産力が極端に低い。

故に、慢性的な兵糧不足にあるのだ。

 

その食糧問題も、

配下の韓浩・棗祗らの提案で行われている屯田制のお陰でなんとかしているが、

そもそも他の地域では行う必要が無い位なのだ。

 

しかも曹操軍には騎馬が多く、

大量に食事を行う奴もいる為非常に厳しい。

 

「兵糧も少ないですねぇ~

稟ちゃん、あと何日位持ちますか?」

 

「撤退の事考えたら、

後三日が限度ね……ここは華琳さまに賭けるしかないわ。」

 

「そうですか~では、もう少し頑張りましょーー」

 

何かを待つようにじっと耐える風たち。

 

しかし、ノリに乗っている麗羽は、

当然、そんな事は気にしない。

 

「張郃さんは左、高覧さんは右から攻めて下さいな。

そ・し・て・私の華麗な突撃で正面を破りますわ!

行きますわよ、猪々子さん、斗詩さん。」

 

「おーーっ!!突撃あるのみーー」

 

「ま、まってよ文ちゃん、危ないよぅ……」

 

ずんずん突っ込んで行く猪々子を慌てて追いかける斗詩。

 

「だ~いじょうぶだって。心配性だなぁ斗詩は。

敵兵の数も少ないし、もう少しで落ちるって」

 

「そうだけど……敵将が少なすぎない?

外に居るの曹仁さん、曹洪さんの二人だったし……

こんな混戦になったら、

確実に夏侯惇さんや華雄さんが出てくると思うんだけどなぁ……」

 

「だーいじょうぶだってーー

こっちの勢いにびびって逃げてるんだよ。」

 

「そうですわっ!

ふふふ……この戦い、貰いましたわっ!!」

 

「うーーん……そうなのかなぁ……」

 

心配する斗詩を余所に、一気呵成に攻め込んでいく。

 

当然、官渡砦も只では済まない。

 

「門が破られそうなのーー!!

真桜ちゃん、補修して欲しいのーー」

 

「ちょっ……こっちも手一杯や!!

……あーーもうっ!ここにも敵兵来とるやん!凪ーー!!」

 

「こっちも忙しい……

そっちで何とかしてくれ!!」

 

三人の連携が敵の勢いに押され、

だんだんと崩されていく……

 

そして、その光景を砦の上から見ている軍師二人。

 

「う~ん……拙いですね~~」

 

「なんでそんなに冷静なの風は……」

 

緊張感の無い風の様子を見て、思わず呟く稟。

 

「いえいえ~これでも十分焦ってますよ~」

 

「……全くそんな風に見えないんだけど……」

 

「そんな……稟ちゃんに分かって貰えないなんて……

落ち込みます……」

 

「……だから落ち込んでる風にも見えないわよ……」

 

訂正、緊張感が無いのは二人共だった。

 

「さて、冗談は其処までにしておいて……

このままだとほんとに拙いので、あの人に出てもらいます。」

 

「……いいの?華琳さまが、

出来れば出したくないって言ってたけど。」

 

「この砦が落ちたらお終いですからねぇ~

華琳さまも間に合わなかったら良いって言ってましたし。

と言う事で、出陣してもらいましょう~」

 

風の合図と共に、出陣の銅鑼が鳴り響いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

「麗羽さまっ!砦から敵部隊が出てきました。」

 

「この私の勢いを止めれる筈が有りませんわっ!

押しつぶしてしまいなさい。」

 

「了解ーー行っくぜーー」

 

新しく出てきた部隊に、突撃していく猪々子。

確かに、並の相手では彼女の突撃を止めることは難しいだろう。

 

しかし、相手が悪かった。

 

「はぁっっっ!!」

 

先頭にいた将の一撃にて、

猪々子が率いていた兵が薙ぎ倒される。

 

「あれは……関羽!!

なんで曹操の所にいるんだよーー」

 

「……我が主君の為に、倒させて貰うッ!

行くぞッ!!」

 

猪々子の問いに答えず、一気に攻め込む愛紗。

その勢いには、何か鬼気迫る物が見えた。

 

「文ちゃん!!」

 

「斗詩っ!気をつけろーー

何かすごい気合入ってるーー」

 

前線での混乱は、当然麗羽にも伝わる。

 

「何で関羽さんがいるんですわっ!!

……こうなったら私が門を……」

 

「麗羽さまッ!!伝令です!!」

 

「もうッ、次は何ですの!?」

 

「我が軍の兵糧庫である烏巣が、現在交戦中との事ッ!」

 

「淳于瓊さんと、呂威璜さんが守ってたんじゃないですの!?」

 

烏巣は袁紹軍全体の食料を保管している拠点。

当然守りも多数の兵を配置し、

名将たる淳于瓊が守りについており、

そう簡単には破られるはず筈が無いのだが……

 

「敵軍の旗に、曹と夏侯、華の文字が。

他にも許や典の文字も……」

 

「あ・の・小娘~~っ!!

姿が見えないと思ったら何してるんですのッ!!」

 

元々、華琳――曹操が得意としているのは奇襲・伏兵を用いた戦いだ。

 

更に彼女の場合、孫子を編纂し孟徳新書を作成するほど確かな戦術理論が加わり、

無類の強さを発揮する。

 

「くぅ……っ…………

ここは張郃さんと高覧さんに任せますわっ!

猪々子さんと斗詩さんに後退の合図を。」

 

銅鑼の音に反応して、慌てて後退してくる二人。

 

「ふ~~っ、危なかったぁ~~」

 

「二人掛かりでも全然歯が立たなかったよぅ……」

 

「話は聞きましたわねっ!急いで烏巣に行きますわよっ!」

 

「待ってよ姫~~」

 

烏巣に急ぐ麗羽たち。

戦は、決まりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーー華琳さまたちが間に合った用ですねぇ~」

 

「流石に華琳さまと春蘭さまと、秋蘭さま。

藍に季衣と流琉も連れて行ってますからね。

負けてもらっては困ります。」

 

「……ほんとに稟ちゃんは~~華琳さまが無事そうで安心してるくせに~~」

 

「なッ、何を言ってるんですか!!

……こほんっ、ほら外の敵を押し返しますよっ!!」

 

「と言っても、殆ど関羽さんが倒しちゃってますけどね~」

 

「まだ敵部隊が残っているでしょう。

……曹純に連絡を。虎豹騎を出します。」

 

最後まで、手は緩めない。

 

官渡決戦は、

甚大な被害を出しながらも曹操軍の勝利で終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――襄陽――――――

 

「うん……分かった。

報告ありがとう~」

 

謁見の間で、伝令から連絡を受ける聖。

 

「……何かあったです?」

 

「うん……曹操さんと麗羽ちゃんが戦ってるみたい。」

 

「とうとうぶつかりましたですか。

……どう見ます?鈴梅。」

 

「そうね……兵力なら確実に袁紹の方が上だけど……」

 

「あはは……麗羽ちゃんだからねぇ……」

 

「油断して負けてそうです。」

 

……酷い言われようである。

 

「とにかく、これで北の方は殆ど決着がついちゃうのよね。」

 

「そうだね~~

万里の長城超えたら異民族がいると思うけど、

そう言うのを除いたら、この戦いで勝った方が北の支配権を握るね。」

 

「……一応、新野の向朗に連絡しておくです。」

 

「あ。よかった~

やっぱり心配してたんだね。」

 

「そ、そんな訳ないです!」

 

ほっとした様子の聖を見て、

慌てて否定する蓬梅。

 

「全く……非常に不愉快です。

……後で士郎の脛蹴るです。」

 

「私も蹴るわ!」

 

「何で士郎くん!?」

 

今日も、聖たちは相変わらずであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――襄陽 街中――――――

 

ざわざわと活気に満ち溢れている街中。

その中に、数え役萬☆姉妹が拠点としている劇場に向かう士郎の姿があった。

 

「差し入れはこんなものでいいか……」

 

天和たちが長期休暇を取っていた為、

ここの所常に劇場は満員御礼状態。

 

故に、手が空いたら直ぐに、

士郎はマネージャーとして人和のサポートに入っているのだ。

 

「差し入れ持ってきたぞ……って、誰もいないな……」

 

今は昼の休憩時間中。

 

壁に掛けられた予定表を見ると……

 

『城にて休憩』と書いてある。

 

たぶん風呂にでも入りに行ってるのだろう。

 

「仕方ない。昼飯は楽屋の方に置いておくか。」

 

士郎は時間があれば、襄陽にある食事所でその腕を振るっている。

 

丁度聖から頼まれていた古錠刀の修理も大方目処がつき、

その副産物として幾つかの刀剣類も完成してたので、

多少の時間が余っていたのだ。

 

「さてと、とりあえず書置きでも残して置けば良いか。」

 

そう言いながら楽屋の扉を開ける士郎。

 

すると、

 

「はぇ!?」

 

そこには、なぜか服を脱いでる途中の美羽と七乃が居た。

 

『………………』

 

「なんでさ……」

 

そんな士郎の呟きが聞こえる筈も無く――

 

―沈黙―

 

―確認―

 

―赤面―

 

―痙攣―

 

―絶叫―

 

二人が落ち着くまで、

数刻の時間を要したのだった。

 

後で確認した所によれば、

天和たちの公演を見ていた美羽が踊りたくなり、

七乃が人和にお願いして練習服を貸してもらい、

天和たちが休憩中に舞台の上で踊ってみようとしていただけの事なのだが。

 

……ちなみに、美羽より七乃の方が恥ずかしがっていた。

意外だったとは、士郎の談。


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