士郎達が襄陽に帰って数日。
出払っていたメンバーも続々帰って来る。
「おっ!士郎やん。
帰って来たんかーー!!」
聖に報告しに来た霞は、
直ぐ傍で別の作業をしていた士郎を発見し、
いきなり飛びつく。
「うわっ!!……霞か。
驚かすなよ……」
「結構大変やったんやろ。」
「そうだな……
けど、何とか無事に帰って来れたから良かったよ。」
「みたいやな。
よし!早速ウチの鍛錬の成果見てもらうで!!」
「お、おい、ちょっ……」
士郎をずるずると引っ張りながら部屋を出て行く霞。
「…………あのぅ~~……報告は?」
ポツンと残された聖の問いに、
誰も答えることは出来なかった……
「つ、疲れた………」
「また勝てへんかった……」
地面に倒れ付す二人。
結果は終始士郎が圧倒していたが、
所々では危うい所もあった。
つまり、それだけ霞も強くなったと言う事だろう。
そのまま草の上で座り込んでいると……
「お兄ちゃん!!」
「うわっ!!」
いきなり誰かが、士郎の背中に抱きついて来る。
「おかえりなさい~」
「璃々か。ただいま。」
久しぶりだったので、いきなり抱きついてくる璃々。
当然、璃々が居るという事は勿論……
「あらあら。
士郎さんは疲れてるんだから、
無理しちゃ駄目よ。」
そう言いながら、ナチュラルに士郎の横に座る紫苑。
余りにも自然な動きである。
「は~い。
璃々も一緒に寝るー」
璃々が士郎とじゃれていると、
他にも近づいて来る人がいた。
「士郎さ~んっ!!」
「ん?月か。」
ぱたぱたと走ってくる月。
それと詠の姿も見える。
「月!気をつけなさいよ。」
何かを持っているようで、転ばないよう、
しかし急ぎ足で近づいてくる。
「お~~っ!月やん!
お互いに無事やったみたいやなぁ。」
「はいっ!霞さんも。
……士郎さんから、聖さんの所にいるって聞いてましたから、
会えるのを楽しみにしてました。」
「詠もご苦労さんやな。」
「……なんか、とってつけたみたいな言い方しないでよっ。」
霞も月も詠も、皆良い表情を浮かべている。
たとえ離れていても、互いの絆はそう簡単には無くならない。
「恋達や弧白もきとるんやろ?
後で会いにいかないかんなぁ。」
「藍は曹操の所にいたけどね……
全く……あの馬鹿は……」
「まぁ、それが藍の選んだ道なんやろ。
生きとっただけでも十分や。」
話の種は尽きないのか、
終わりが見えそうに無かったので、
士郎が会話に参加する。
「それで、何かあったのか?」
「あっ……そうでした。」
士郎に言われ、当初の目的を思い出す月。
「鍛錬してるって聞いたので……差し入れを作って来ました。」
「璃々も一緒に作ったんだよ!」
「と言う事はもう自己紹介はしたのか。」
確か、紫苑達と月達は初対面だった筈。
「はいっ。
……色々学ぶことが多いので、勉強になってます。」
今は女給の様な事をしている月と詠。
未亡人である紫苑からは、色々学べることがあるのだろう。
「はい……どうぞ士郎さん。」
「ありがとう。」
月から茶が入った湯のみを手渡され、
一息つく。
「簡単に食べれるものも作ってますから……好きなものを召し上がって下さい。」
「中々上手そうやんか~」
「月と紫苑と璃々が頑張って作ったんだから、
残さず食べなさいよ。」
「これは詠ちゃんが作ったんだよ~」
「ちょっ……璃々!何でばらすのよ!!」
女三人よれば姦しいと言うが、
それ所の騒ぎではない。
「士郎さん。
眠たいのならおっしゃってくださいな。
膝、貸しますね。」
「何やったらウチも添い寝してあげるで。」
「璃々もするーー」
「璃々はもうちょっと大きくなったら、
お母さんが変わってあげるからね。」
「なんでさ……」
賑やかな昼の時間が、
ゆっくりと過ぎていった。
襄陽に到着した桃香たちは、
早速、感謝の意を述べる為に聖の所へ向かう。
「わざわざ受け入れてくださって、有難うございます。」
そう言って頭を下げる桃香。
「気にしないでいいよ~。
困ったときはお互い様だし、
私と桃香ちゃんは元々同族だからね~」
来るものは拒まず、去るものは追わない――
それが此処の基本方針である為、
例え相手が大人数でもそれを覆すような事はしない。
「で、桃香ちゃん達の事なんだけど……蓬梅ちゃん。」
「はいです。
とりあえず、民は新野と襄陽に分かれて行ってもらうです。
桃香さま達は、一応襄陽に住居を作りますので、
なにか要望があれば言って貰いたいです。」
「はい。ありがとうございます。
お世話になりますー」
「お世話になるのだー」
頭を下げながら答える桃香たち。
ともあれ、やっと堅苦しい挨拶も終了した。
「うん!じゃあ今晩にでもみんな集まって、
食事しようよ~」
いきなり、話が飛ぶ。
「はわわっっ……
あの、其処までして頂く訳には……」
只でさえ迷惑かけているのに、其処までしてもらっては流石に気が引ける。
慌てて朱里が止めに入るが、
「いいんだよ~
初めて会う人もいるし、仲良くなるにはまず丁度いいから~
大丈夫かな、鈴梅ちゃん?」
期待するような目で鈴梅に目を向ける聖。
一応、聖たちの中で政務を取り仕切っているのは鈴梅なので、
必然的にお金がかかる事は、彼女の了承がないといけない。
だが、鈴梅は聖に甘いので……
「大丈夫です!早速準備させます!」
結局はオッケーしてしまう。
「……蒋琬っ、士郎を呼んできてっ!大至急!」
「ええ……なんで士郎さんなんですか?」
鈴梅から急に呼ばれる蒋琬。
「あいつが一番料理が上手いからに決まってるでしょうが!」
「いや……そんな威張られても……
……まさか今から準備してもらうんですか?」
「当たり前でしょうが。」
士郎の事などお構いなしである。
まぁ、士郎なら当然引き受けるだろうが。
「じゃあ……早速呼んできます……
何かボク、こんな事ばかりしてる気がする……」
そう言いながら部屋を出て行く蒋琬。
「……だんだん本性を発揮して来たわね。」
「元々向朗が見つけた奴です。仕方ないです。」
「……思わず納得しちゃったじゃない!」
ひどい言われ様だ。
そんなこんなで、
夕食の時間へと進んでいった。
「なんでさ……」
料理を一通り作り終え、
自分も食事をしようと戻った士郎が見たのは
半分以上のメンバーが酔っ払っている地獄絵図だった。
「お姉ちゃん~~私、絶対愛紗ちゃん助けたいの~」
「うん~
私達も、密偵だしてるから~大丈夫だよ~」
最初に士郎が目にしたのは、
酔っ払った桃香が泣きながら聖に抱きつき、
それを宥めている酔った聖の姿。
桃香も、いろいろ抱え込んでたものが爆発したんだろう。
他を見たら援里と朱里と雛里の三人が話し込んでいる。
連合軍の時の宴会でも話していたようだし、
いろいろ積もる話もあるだろう。
張三姉妹は相変わらず元気に歌っており、
美羽や七乃、紫苑や璃々がそれを聞いて盛り上げている。
おそらく七乃や紫苑は美羽と璃々の付き添いだと思うが。
大分カオスになりつつある中を進んでいくと、
星が近寄って来る。
……手に酒と、なぜか壺を持っているが。
「士郎殿。飲んでますかな?」
「いや、俺は来たばかりだからな。
……で、何持ってるのさ。」
「?酒に決まってますが。」
きょとんとする星。
「いや、その、そっちの壺……」
「ああ、これですか。
メンマですよ。」
「……つまみにメンマ……中々渋い物選んでるな。」
「やはり酒にはこれが一番ですな。」
まぁ、星自身が美味しそうにしてるから大丈夫だろう。
とりあえず何かを口にしようと進んでいく。
するとーー
「うわっ!!」
何かに躓く。
「どうしました?」
「いや、足元に何かが……」
足元に目を向けると、何か丸い物体が蹲っている。
「誰だこれ……」
「誰でしょうな……」
「ううっ……どうせ私は地味だよ……」
「あ、白蓮どのですな。」
これはひどい。
「訳分からん内に麗羽に負けてるし……
一緒にいたのに気づいて貰えないし……
使ってる武器の名前が普通の剣だし……」
「これは拙いですな……」
「泣き上戸が一番厄介だ……」
思わず距離を置きそうになる。
「だいだいっ!影が薄いのが個性って何なんだよぅ……」
大分テンションもおかしい。
だれだ、飲ませた奴。
「あ~~ここは私が引き受けましょう。
士郎殿は他の人に挨拶して来て下され。」
「いいのか?」
「これだけ美味しい料理を作って貰ってますからな。
頼りっきりでは駄目でしょう。」
「……分かった。じゃあ頼んだぞ。
……後で、水かなんか持ってくるよ。」
「お願いします。
……さあ白蓮どの、先ずは椅子に座って……」
白蓮も気になるが、
他のメンバーも気になる士郎。
一旦星に任せて、他のメンバーの様子を見に行った。
「あーー兄ちゃんなのだっ!」
「鈴々か。味のほうは大丈夫か?」
「うん。とっても美味しいのだ!」
士郎が向かったのは料理が置いてある一角。
何か食べたかったのもあるが、
実は自分が作った料理の評価が聞いてみたかったのが一番の理由だったりする。
「もぐもぐもぐ……」
当然、大飯食らいのメンバーがここに集まっている。
「美味しいか恋?」
「もぐもぐもぐ……」
口いっぱいに頬張りながら、こくりと頷く恋。
まるでハムスターのようだ。
「他には来てないのか?」
「もぐ……音々音ならあそこにいるのだ!」
鈴々が指差した方を見ると、
其処には地べたに仰向けで寝転がっている音々音がいた。
「もう……食べれないです……」
「何してるんだあいつは……」
「ちっちゃいのに無理して食べてたのだ。」
「……いや、鈴々も大して体格変わらないだろ……」
「?」
……まぁいいか。
……どの世界にも、説明できない事ってあるんだな……
思わずそう考えてしまう士郎。
「……士郎、おかわり。」
「えっ……もう食べたのか!?」
士郎が机の上を見ると、
もう殆ど料理が残っていない。
「……もう食材もあんまり残ってないしなぁ……
とりあえず甘味の準備してくるか……」
「……うん。
……待つ。」
慌てて厨房に戻る士郎。
……殆ど食事出来ていない。
「あのっ!私も手伝いましゅ!!」
「あわわっ……朱里ちゃん、落ちついて……」
「朱里と雛里……援里もいるのか。」
「はい……士郎さんばかりに……仕事させる訳には……いきません……」
話しかけてきたのは、
先ほどまで話していた仲良し軍師三人。
共に、お菓子作りが趣味なので、
士郎の手伝いを申し出たのだ。
「助かるよ。
仕込みまでは終わってるから、
出来上がった物を盛り付けたりしてくれると助かる。」
先導する士郎に、ちょこちょことついていく三人。
賑やかな食事会が過ぎていった。