真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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7-2 世は情け

「さて、如何されますかな士郎殿?」

 

並んで立っている士郎と星の前には、

美羽、七乃、弧白の三人が正座している。

 

……どうやら馬車の中に忍び込んでいたのはこの三人らしい。

 

「誰かと思ったら、まさか袁術たちだったか……

しかも弧白もいるとは……」

 

士郎は、弧白の方に目を向けながら話す。

 

「お久しぶりです士郎さん~」

 

相変わらずにこにことマイペースな弧白。

 

「なんで弧白が袁術と一緒にいるんだ?」

 

「洛陽が落ちた時、復興の為の食料を貰う為ですよ~

あの時連合軍の兵糧管理していたのは美羽さまでしたから~」

 

「成る程……」

 

士郎は洛陽を攻略した後、

袁術軍が物資を民に分け与えていたのを思い出す。

 

「月や霞が心配していたぞ。」

 

「月さまは無事だったんですね!……よかったです。」

 

ずっと気になっていたのだろう。

ホッとした様子を見せる。

 

「で、とりあえず袁術たちの処遇だけど……」

 

美羽と七乃に目を向ける。

 

「あ、あの~出来れば見逃してくれませんか~」

 

「そ、そうじゃ!妾は蜂蜜が欲しかっただけなのじゃ!」

 

必死に嘆願する。

しかし―――

 

「……流石にこのまま見逃す訳にはいきませぬな。」

 

星の言うとおり、皇帝を自称し、仲王朝を創設し、

民と国を錯乱させた罪は重い。

 

「そ、そんなぁ~」

 

「ま、まだ死にたくないのじゃ~」

 

互いにしがみ付いて震える二人。

 

すると、そんな二人と士郎の間に弧白が割り込んでくる。

 

「士郎さん。今の私は美羽さまに使えている身です。

寿春から逃げてくる時も、私のことを『家族』だと言ってくれました。

……私の命ならば幾らでも差し上げますので、

出来れば、美羽さまと七乃さんの命は奪わないでくれますか。」

 

深々と、頭を下げる。

 

「弧白ぅ……」

 

「弧白さん……」

 

涙目で、弧白を見ている二人。

 

謀略渦巻く政庁。信じられるのは二人だけ――

 

「でしたら美羽さまが、皇帝を名乗って皆支配しちゃえばいいんですよーー」

 

孤独の末に、民を、将兵を支配しようとした。

皇帝を名乗ったのは、たったそれだけの理由。

 

『仲』が滅んだ際も、

美羽たちを助けようとする将兵は殆ど居なかった。

 

そんな二人にとって、弧白の言葉は、どれほど嬉しかったのか。

 

「駄目なのじゃ!一緒にいるのじゃ!!」

 

ひしっと、弧白にしがみ付く美羽。

 

「……士郎殿。」

 

「……ああ。」

 

士郎は美羽に近付き、そのまま頭に手を乗せる。

 

「心配しなくても殺したりはしないさ。」

 

「……本当かぇ?」

 

士郎を見上げる美羽。

 

「ああ。けど、罪は償わなくちゃならない。

このまま流浪の旅を続けても何も変わらないから、

どこかで、皆の為になる事をしていったほうがいい。」

 

「けど、私たちを受け入れてくれる所なんてありませんよぉ……」

 

皇帝まで名乗った事もあり、名を知られすぎているのだ。

七乃の言う事も最もである。

 

しかし、

 

「大丈夫だよ~」

 

「天和!?

……寝てたんじゃなかったのか?」

 

「何か声が聞こえてきたから、

目が覚めたんだよう~」

 

ふらふらとした様子の天和が近付いて来る。

 

「だ、誰なのじゃ!?」

 

「始めまして~

旅芸人の天和だよ。よろしくね~」

 

そのまま美羽に話しかける。

 

「私も以前、沢山の人を巻き込んじゃって、

どうやって償いをすれば良いのか悩んでたんだよう。」

 

「天和もかえ?」

 

「うん。

でもね、その時にしろーくんたちが助けてくれたんだよー」

 

「聖さまの所は、来るものを拒みませんからな。」

 

星の言葉に、こくりと頷く天和。

 

「大丈夫だよー

何かあったら私たちもいるから。」

 

嘗て同じ様な境遇だった天和だからこそ、

その言葉は美羽たちに届く。

 

「天和達も頑張れているんだ。

君達も悪いようにはしないさ。」

 

美羽は、七乃と弧白の方に目を向ける。

 

「私は賛成です~

聖さまと一緒に戦った事がありますが、

凄くいい人でしたから~」

 

「元々劉表さんの所には向かってましたからねぇ……」

 

「それじゃあ……よろしくなのじゃ!!」

 

「ああ。よろしく。」

 

新たな仲間が加わり、

騒がしい夜は過ぎて行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんかちぃが寝てる間に人数増えてる!」

 

朝起きて寝ぼけ眼の地和が目にしたのは、

新しくメンバーに加わった美羽、七乃、弧白の三人の姿。

 

「姉さん、もうご飯出来てるから早く座って。」

 

「なんであんたはそんなに冷静なのよ……」

 

まぁ人和も状況は掴めていないのだが、

士郎と星が落ち着いてるのを見て、特に問題は無いと判断しているだけなのだが。

 

「美羽なのじゃ!よろしくなのじゃ!」

 

「七乃です~よろしくお願いしますねぇ。」

 

「弧白といます。よろしくです~」

 

「旅芸人の人和よ。よろしくね。」

 

まだ状況を理解していない地和を他所に、

各々が自己紹介をし始めている。

 

「……これってちぃが悪いの!?」

 

「……世の中には、こんな事が沢山あるのさ……」

 

士郎の言葉には、そこはかとない重さがあった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「士郎殿、少しよろしいですかな。」

 

「ああ。どうしたんだ星?」

 

食後の休憩をしていると、

星が士郎に話しかけてくる。

 

「この近辺の民に話を聞いて見た所、

大分近くまで桃香様の軍が来ているようです。

しかし……」

 

「追撃している曹操軍も来ている、か。」

 

士郎の言葉に頷く星。

 

「はい。

桃香様達は、どうやら民を連れて移動しているらしく、

どうしても足が遅くなってしまい、そこを狙われているようですな。」

 

「だとすれば俺達も移動したほうが良さそうだな……」

 

一応劉表軍の客将である士郎。

 

桃香たちを助けに行きたいのは山々だが、

曹操軍に見つかってしまうと聖達に迷惑が掛かる為、

それが出来ない。

 

まぁ今回の遠征で大分無茶を言っている負い目もあるのだが。

 

「はい。

それで、桃香様の助けに行きたいので、

士郎殿とここから別行動になってしまいますが……」

 

「それは仕方ないな。

俺は先に新野に行って、話をつけておくよ。」

 

「助かります。」

 

そう言って馬に乗るろうとする星。

 

「ちょっと待ってくれ。」

 

「?」

 

士郎に止められて、いったん下りる。

 

「この馬に乗っていくといい。

西涼産の駿馬だ。名は「白龍」、かなりの名馬だ。」

 

士郎が連れてきたのは強靭な体を持つ白馬。

元は、月との交易の際に入手した名馬だ。

これまでは馬車を率いる馬の一頭として使用していた。

 

「これは……素晴らしい馬ですな。」

 

どうやら互いに気に入ったらしく、

白龍は自分を撫でる星の手を静かに受け入れている。

 

「後、これを持って行くといい。

何かの役に立つとは思う。」

 

士郎が渡したのは、

馬車に乗せていた一本の無銘の長刀。

 

士郎が古錠刀修理の際、ウーツ鉱の特性を掴む際に打ち上げ作ったもので、

柄を合わせれば、およそ五尺にも及ぶ無反りの大太刀である。

 

これならば、馬上の相手を馬ごと薙ぎ払う事も可能。

 

「これはいいものですな……

しかし、私が持つには重過ぎますぞ。」

 

「大丈夫だ。馬の横腹に括り付けて置くから、

有事の際にだけ使うといい。

この馬ならば多少の荷物は関係ない。」

 

「何から何まで……ありがとうございます。」

 

一礼をし馬に飛び乗り、そのまま馬を翻す。

 

「あれーーどっか行くのーー?」

 

士郎たちの声を聞いた天和たちが集まる。

 

「はい。近くに桃香さまが来ているようですので、

少し出迎えに。」

 

「……気をつけて行きなさいよっ!」

 

「少しの間だったけど、一緒に行動できて楽しかったわ。

……気をつけて、ね。」

 

「ふふっ。ありがとう地和、人和。」

 

そう言って手綱を引いて去っていく星。

 

「行っちゃったね……」

 

「ああ。けど星の腕なら大丈夫。

直ぐに会えるさ。」

 

「……うん。」

 

ポンと、心配そうにしている天和の頭に手を乗せながら士郎が答える。

 

「さて、こっちも新野に向かうとするか。」

 

曹操が近付いてきているのなら、

モタモタしている暇はない。

 

士郎たちも、新野へと移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

移動する民の最後尾、

曹操軍がもう近くまで迫っている所に桃香の姿があった。

 

「みんな、早く逃げてーー」

 

後ろの方向を気にしながら、

民に声を掛ける桃香。

 

本来なら、こんな危険な場所に桃香の姿があるはずが無いのだが、

自分の為にここまで来ている民を見捨てる事など出来るはずも無く、

こっそり、ここまで来ていたのだった。

 

「見つけた……劉備はあそこだぞッ!!」

 

「うそ……もう来ちゃったの……」

 

迫り来る曹操軍の掲げている旗には夏の文字。

間違いなく、曹操軍最速の進軍速度を誇る秋蘭の部隊である。

 

「夏侯淵さまッ!劉備の姿を捉えました!!」

 

「そうか。

華琳さまからは出来るだけ生かして捕らえよと命令が出ている」

 

「はッ!!」

 

隊を組み、一斉に近づいてくる。

功をあせり、無闇に突出して来ないのは、流石といった所か。

 

「きゃあッ!!」

 

それに気圧されて慌てたのか、直ぐ傍を歩いていた少女が躓く。

 

「!!大丈夫っ!?」

 

直ぐに馬から下り、手を差し伸べる桃香。

 

「あ、ありがとうお姉ちゃん……」

 

「怪我はない!?

……良かった…………早く逃げてね。」

 

「うん!お姉ちゃんも早く来てね!!」

 

そう言って駆け出していく。

 

少女に怪我がないことにほっとする桃香。

しかし、この時点でのタイムロスは痛い。

 

「……随分余裕だな。

その身柄、確保するッ!!」

 

気付けば、周りに数人の曹操軍兵士たち。

彼らは一斉に手を伸ばして桃香を捕まえにかかる。

 

「ッ!!!!」

 

ギュッと硬く目を閉じる桃香。

 

まさに絶体絶命。

その時―――

 

「させぬよッ!!」

 

紅い閃光が奔ると同時に、倒れる兵士たち。

 

「えっ………」

 

桃香が思わず顔を上げると其処には、

 

「趙子龍―――遅くなりました。」

 

「星ちゃん!!」

 

白馬に跨り、「龍牙」を手に持った星の姿が其処にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だったんだね!怪我とか無いのかな?」

 

「はい。危ないところはありましたが、

士郎殿もおりましたし、何とかなりました。」

 

「そうだったんだ……そう言えば士郎さんは如何したの?」

 

「先に新野に向かっております。

……士郎殿は、曹操たちに見つかると拙いですからな。」

 

「そうだよね……たくさん迷惑かけちゃった……」

 

徐州での戦を思い出し、落ち込む桃香。

 

「ふふっ。大丈夫ですよ。

士郎殿は優しいですからな。

……今は、無事に逃げれるようにしましょう。」

 

そう言って星が見つめる先には、

弓に矢を番える秋蘭の姿があった。

 

「……話は済んだのか。」

 

「ふむ。すまないな。わざわざ待ってもらって。」

 

秋蘭の問いに対して、いつもの口調で答える星。

 

その姿を見た秋蘭は、星に対する警戒心を上げる。

 

「なに。其処にいる劉備を貰えればいい。」

 

「ふっ。私より弱いやつに桃香さまは任せられぬ。」

 

一瞬、時が止まる。

 

「疾ッ!!」

 

裂帛の気合とともに放たれる矢。

 

「はぁッ!!」

 

それを槍にて薙ぎ払う星。

 

瞬間、じぃんと弾いた衝撃が腕に残る。

流石は曹操軍随一の弓使いと言った所か。

 

「桃香さま!」

 

「うん!的盧ちゃんっ!」

 

桃香の声に答えるように、

四肢に力を入れて桃香の眼前に飛び込んで来る的盧。

 

「行こうっ、星ちゃん!」

 

桃香が時間を稼いだお陰で、周りには桃香たちしか残っていない。

 

「了解しました。」

 

「させるかッ!!」

 

再度放たれる矢。

 

しかし、的盧がそれを回避する。

 

「なッ!!」

 

「ありがとう的盧ちゃん。」

 

流石の秋蘭も、馬に避けられた事は初めてであり、

軽い衝撃が奔る。

 

「はッ!!」

 

そうしている間に駆け出していく二人。

 

「くッ……追うぞっ!!」

 

逃走劇は、まだ続きそうである。




白龍(はくりゅう)


趙雲の愛馬。

昼は千里、夜は五百里を走り、
意思疎通が出来るほど相性が良かった。

レッドクリフを見た時にいたので
登場させてみました。

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