真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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6-7 徐州動乱(1)

「全軍っ!止まれっ!!」

 

その一声に、

数万に及ぶ大軍が一斉に進軍を停止する。

 

完璧に統率された軍勢。

 

それは、

この軍の強さを何よりも如実に表していた。

 

「華琳さま。どうぞ。」

 

停止の合図を出した将――春蘭は一歩後ろに下がり、

この軍の総大将である華琳が前に出てくる。

 

「…………」

 

ざっと軍を一瞥する。

 

数万の兵と対してるにも関わらず、

まったくぶれない視線。

 

むしろ――兵の方が、その眼光に押されているのか。

 

「我が兵達よっ!!」

 

凛とした声が響く。

 

春蘭より音は小さい筈なのに、

より全軍に響きわたる声。

 

「我らの前に見えるのが、

宿敵、劉備の城っ。

あそこには、卑怯な手で城を奪った呂布もいる。」

 

――呂布がいる――

それの言葉を聴いた瞬間、

軍がにわかにざわつき始める。

 

「うろたえるなっ!!」

 

傍にいた春蘭の声に反応して、

再度姿勢を正す兵士達。

 

「確かに虎牢関の呂布は凄まじい強さを誇ったわ。

けど、私たちはあの時とは違うわ。」

 

そう言って華琳は自分の横に居る将たちに目を向ける。

 

「厳しい訓練を耐え、強い将も仲間になった。

………あの時はただ逃げるしかなかった相手でも、

今の私たちなら勝てる!

そう確信出来るだけの事をしてきた筈よ!!」

 

『オオオオオオオッ!!』

 

咆哮が響く

 

「虎豹騎、青州兵、そして将兵たちよ、

その武威を示しなさい!」

 

『オオオオオオオッ!!』

 

曹操軍の徐州侵攻が始まった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オオオオオオオ…………』

 

小沛城城壁の上に立つ桃香と朱里は、

曹操軍の咆哮を耳にしていた。

 

「……来るね。朱里ちゃん。」

 

「はい……此方も準備は大丈夫です。」

 

恋と鈴々は場外にて部隊を率いており、

他の将も各城門の守備についている。

 

「桃香さま、物見によると敵の数は凡そ五万だそうです……」

 

「そっか……ありがと雛里ちゃん。」

 

階段を上ってきた雛里から報告を受ける。

 

現在の此方の兵力は約三万。

内訳は場外に居る恋と鈴々がそれぞれ五千を率いて待機、

城内は愛紗、桃香、そして遊軍が五千ずつで、

そして魏越、成廉は二人で五千を率いている。

 

城攻め時、攻撃側は守備側の倍の兵力が必要。

 

今の兵力差ならギリギリ二倍に達していないが、

兵の錬度を考えると、正直厳しい。

 

しかも相手はあの曹操である、

下手な策は首を絞めかねない。

 

「……さて、私たちも行こうか~

がんばろ~」

 

「そうですねっ!

士郎さんと星さんが安心出来るように、

私も頑張りますっ!!」

 

「あわわっ……わ、わたしも……」

 

曹操軍は、

もう城壁の上から見える位置まで近付いて来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泰山を登る、二つの人影が見える。

 

「そろそろ始まる頃ですかな。」

 

槍を担いだまま士郎に話しかけるのは星。

……泰山に向かう士郎に、何故か着いて来ていた。

 

「そうだな。

……しかしいいのか?俺に着いて来て。」

 

「……出来れば優しくして頂けると嬉しいのだが……」

 

話が変な方向に向かって行く。

 

「なんでさっ!?

そんな事するわけ無いだろっ!?」

 

「という事は私には魅力が無いと……」

 

うなだれて落ち込むふりをする星。

 

「なんでさ。星は綺麗だと思うぞ。

戦ってる姿はまるで演舞みたいで凛とした美しさがあるし、

とても話しやすいしな。」

 

「……こ、これは照れますな……」

 

士郎が嘘を言えない性格なのは皆周知事項だ。

 

ゆえに、変な空気が流れる。

 

「あらぁん♪なんかいい雰囲気なのね~」

 

「!!!ち、貂蝉か……」

 

急に上降って来る。

 

「士郎殿、その人は?」

 

「ああ。洛陽の時は怪我してたから会ってないよな。」

 

「始めましてん。

絶世の美女、貂蝉よん♪」

 

なぜか体をクネクネさせている……

 

「中々濃い人物のようですな……

私は趙子龍と申します。

確か、洛陽で士郎殿と共に私を助けてくれたと聞きましたが……」

 

「そうなのねん♪怪我は大丈夫かしら?」

 

「はい。あの時は助かりました。

……あと私のことは星とお呼び下さい。

恩人であれば、真名を預けます。」

 

「ありがとう。よろしくなのねん♪」

 

星は外見で人を判断しないタイプのなので、

直ぐに打ち解ける。

 

「それで、なんで星が此処にいるのかしらん?」

 

「……泰山(ここ)に洛陽の時に居た剣士がいるのであれば、

是非再戦したいのです。」

 

洛陽で馬超と二人で挑んでも勝てなかった相手――佐々木小次郎へのリベンジ。

武人として、負けたままでは納得出来ない。

 

「……アイツの力量は俺以上。

恐らく今の星じゃ……」

 

「勝てない相手である事は分かっていますよ。

けど、私も鍛錬を積み、今回は士郎殿もいる……

前回のように無理な攻撃はしないつもりです。

それに……」

 

「それに?」

 

「実戦に勝る鍛錬はありません。

なれば、この絶好の機会は逃せませぬ。」

 

「なるほどねん♪」

 

うんうんと頷く貂蝉。

 

「はぁ……どうせ止めても駄目なんだろ……

無理はするなよ。」

 

「ふふっ。有難う御座います。

このご恩は必ず。」

 

三人はどんどん泰山の上に向かって進んで行く。

 

ふと、

貂蝉が士郎に聞こえない用にし、星に話しかける。

 

「少し気になってたんだけど……

貴女はご主人さまの事はどう思ってるのかしらん♪」

 

「そうですな……

まだ恋愛感情があるかないかは分かりませぬ。

しかし、人として士郎殿以上の人は見た事はありませぬし、

武人として尊敬しております。」

 

「……良い答えなのねん。」

 

「二人とも、敵の姿が見えたぞ。

……そろそろ準備してくれ。」

 

士郎に話し掛けられ、武器を構える。

 

三人の目の前には、

亡者の如く蠢いている白装束を着た者達が幾人も存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵兵、駆逐。」

 

馬上にいる少女の号令と共に、

騎馬兵が疾駆する。

 

この軍は曹操軍騎兵、最強の虎豹騎。

率いる将は、

先程命令を下した少女――曹純。

 

幼い顔立ちをしているが、感情に乏しい表情をしており

頭にはつばのある少し大きめの兜、首には長いマフラーを着け、

体は大きめの服と鎧にすっぽりと覆われている。

 

手には円錐型の形をした(ランス)を持ち、

どうやらそれを指揮棒のように使い、

指揮しているようだ。

 

彼女は名前に曹の字がつくように華琳の同族にあたる。

ちなみに血縁関係はない。

 

彼女自身の武は中の上程度であり、

なぜそんな彼女が曹操軍最強部隊である虎豹騎を率いているかというと、

純粋に騎兵の育成、指揮能力に長けていた為である。

 

その虎豹騎の目前にいるのは、

最強の将、恋。

 

そこに突撃して行く。

 

鋼が交錯する音が響き、

火花が散る。

 

「!!……少し、強い。」

 

恋が思わず感想をもらす。

 

最初の一合で何人かの虎豹騎を打ち倒したが、

恋の軍も同人数ほど殺られている。

 

恋が率いている騎兵もまた、

共に洛陽からずっと着いて来ている猛者たちだ。

錬度では決して虎豹騎にも劣らない。

 

ゆえに、虎豹騎は味方に任せ、

恋は曹純に向かって突き進んで行く。

 

「……遅い。」

 

武力なら圧倒的に恋の方が上。

一気に近付き、方点戟を振り下ろす。

 

「守備。」

 

ポツリともらした曹純の言葉に、

直ぐ傍にいた兵が反応する。

 

ギィンッ!!

 

恋の一撃は、

横合いから飛び出して、

交差している槍に塞がれる。

 

「……はぁッ!」

 

それでも、恋は止まらない。

 

力任せに押し込むが、

次は盾を持った兵も割り込んでくる。

 

恋の戟が止まった瞬間――

交差した槍と盾の隙間を縫う様にして突き出された騎兵槍が恋に迫る。

 

「ふッ!」

 

咄嗟に飛びのく恋。

 

「惜しい。」

 

騎兵槍を突き出した曹純は、

そう呟きながら槍を引き、

上に高く掲げたまま軽く回す。

 

「包囲、攻撃。」

 

いつの間にか、恋は敵兵に囲まれており、

一斉に槍を向けられている。

 

おそらく最初から、恋が突撃してくるのを予想していたのだろう。

 

しかし、

それを分かった上で完璧に対処出来たのは、

間違いなく虎豹騎(このぐん)の力だ。

 

当然この程度の包囲、

恋からすれば対して慌てるような状態ではない。

 

だが確実に、体力は消耗する。

 

兵の質は同等。

将の武力は恋、結束力は曹純の方が上。

 

華琳の予想通りに、

この戦いは長引きそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恋がたいへんなのだ!!」

 

恋と同じく城外で待機していた鈴々は、

虎豹騎と交戦中の恋を見て、慌てて援軍に行こうとする。

 

「ちょっと!何勝手に行こうとしてるのよ!!」

 

その様子を見ていた詠が慌てて止めに入る。

 

「このままじゃ恋が危ないのだ!!」

 

「恋があれ位で負けるわけないわよ!

……もう、少しはボクの言うとおりに動いてよね。」

 

そうこうしている内に、

敵と思われる部隊が近付いて来る。

 

「ほらっ!敵が来てるから早く準備しなさい!!」

 

「む~っ……分かったのだ……」

 

しぶしぶ鈴々は軍を移動させ、

矛先を敵軍に向ける。

 

「敵は騎兵と歩兵の混合部隊みたいね。

じゃあボクたちは……」

 

考えながら詠が策を練っていると、

騎兵の先頭にいる敵将の旗が、

ふと目に入った。

 

「華?…………まさかね…………」

 

そんな詠の心配もよそに、

だんだん敵将は近付いてくる。

 

「……いや、アイツは洛陽の時行方不明になってるじゃない……」

 

まるで自分に言い聞かせるようにブツブツと喋っている。

 

そうしていると――

 

「……ォォォォオオオオッッッ!!」

 

敵軍の咆哮が聞こえてくる。

 

「敵将ッ!!この華雄と打ち合えぇッッ!!」

 

「……な・に・してるのよ!アイツはぁっ!!」

 

「ど、どうしたのだっ!!」

 

急に詠が怒り始めて驚く鈴々。

まぁ無理も無い。

 

そのまま詠は藍に近付いて行く。

 

「ん?……なんでお前が此処に居るッ!」

 

「それはこっちが言いたいわよっ!!」

 

二人の口論が始まる。

 

「さては裏切ったなッ!

ここで討ち取ってくれる!!」

 

「だ・れ・が!な・に・を裏切ったのよっ!!

アンタが今曹操軍に居るんでしょうが!

相変わらず訳分からない思考回路してるわね。」

 

「ふっ。洛陽の際に華琳様に出会ってな。」

 

正しくは出会ったのではなく、負けたのが正しいのだが……

 

「全く……あんなに心配してたのに……」

 

『詠が!?』

 

全く同じ言葉を話す鈴々と藍。

 

「なんでアンタまで驚いてるのよ……

心配してたのは月に決まってるでしょうが!」

 

「月さまがそっちに居るのか……

しかし、私は今華琳さまに仕える身。

寝返る訳にはいかない!!」

 

「こっちだってアンタなんかいらないわよっ!!

丁度良いわ。

許昌攻めた時、私の部隊に攻撃した時の借りを返してあげるわ!!

いきなさい鈴々!!」

 

「何だか良く分からないけど……

鈴々は戦えたらいいのだ!!」

 

そう言って蛇矛を振りかざす鈴々。

 

「あの後の屈辱……アイツに返すまで私は死ねん!!

行くぞッ!!」

 

合戦が始まっていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦況はどうかしら?」

 

軍の後方で戦況を伺っている華琳は、

許緒(季衣)と共に自軍の軍師達に近付き話しかける。

 

「まぁ概ね順調なのですよ~」

 

「曹純は何とか呂布を押さえていますが……

藍はこのままだと拙いですね。」

 

「全く……出来るだけ時間稼ぎをしろって言ってたのに、

あの猪は。」

 

程昱(風)、郭嘉(稟)、荀彧(桂花)の三軍師は、

思い思いの言葉を口にする。

 

「まぁ藍は仕方ないわ。

呂布も張飛も武人としては最強に近いし、

曹純は虎豹騎があるから何とかなってるけど、

藍は普通の部隊を率いさせているから。」

 

「そうですね~~

やっぱり青州兵を預けた方が良かったですか~~」

 

「でも、そうしたら攻城の際の戦力が激減しますからね……

藍殿には頑張って貰いましょう。」

 

仕方ないといった感じの風と稟。

 

「ボクがあのちびっ子と戦いたかったのに……」

 

と、どこか悔しそうな季衣。

 

「もう少し我慢しなさい。

必ずその機会は与えてあげるから。

それで、他の部隊はどうなってるのかしら。」

 

「春蘭は西門、三羽烏は北門を攻略中です。

数はこっちの四万に対してあっちは二万ですから、

後は策の勝負になります。」

 

「策ね……

相手はあの伏竜と鳳雛よ。

大丈夫かしら。」

 

桂花の言葉にポツリと漏らす華琳。

 

「大丈夫ですっ!!

相手が誰であろうと、私が必ず華琳さまに勝利を導いてみせます!!」

 

「そうですね。相手が誰であろうと、負ける訳にはいきません。」

 

「はい~~まだ伏したり雛だったら何とかなります~」

 

「ふふっ。期待してるわよ。」

 

戦場はだんだんと混戦模様を現していく。




虎豹騎(こひょうき)


曹操軍の中でも精鋭中の精鋭で構成された
親衛騎兵隊。

おもに曹純、曹操が率いた。

曹操の中原、冀州、荊州、西涼制圧で活躍し、
曹純が早くに亡くなった後は、
だれもこの部隊を率いる事が出来なかったので、
曹操自らが運用した。

ちなみに歩兵で構成された親衛隊は
許褚が率いる虎士と言う部隊です。

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