真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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6-6 響く旋律

士郎たちの鍛錬は続く。

 

「はっ!」

「たあっ!」

 

前髪で左目を隠した少女と、

右目を隠した少女の二人を同時に相手している士郎。

 

周りでは、愛紗や星が思い思いに鍛錬を行っている。

 

左目を隠した少女――魏越が向かって左から。

右目を隠した少女――成廉が向かって右から。

 

ほぼ同じ感覚で斬りかかってくるが、

士郎は剣を受け流し、二人のタイミングをずらす。

 

「えっ、」

「きゃあっ!!」

 

互いの体がぶつかり、もつれ合いながら倒れる二人。

 

「うう~っ……すいません恋さま……」

「仇はとれませんでした……」

 

「なんでさ。」

 

ぶつぶつ言いながら倒れる二人に思わず突っ込む士郎。

 

「恋が勝てなかったのに、いくら二人でも無理だろう。」

 

愛紗の言葉に其処に居る全員が頷く。

 

「士郎は、強い。」

 

「せめて、」

「一太刀は当てたかったですぅ……」

 

「……キミ達は違うが、

この軍の将は長柄の武器を使う人が多いからな。

俺のように短剣二刀相手は、戦いにくいのもあるだろう。」

 

「……確かにそうですな。」

 

今現在、桃香の軍内で長柄の武器を使っているのは

愛紗、鈴々、星、恋の四人。

何れもこの軍の中心戦力である。

 

鍛錬時は自分と同等の力量の者と戦う為、

自然と、対長柄武器の動きが見についてしまっているのだ。

 

しかも元董卓軍のメンバーも、

霞や藍、弧白といった長柄武器を使用する仲間と鍛錬してきたので、

一緒に鍛錬していた恋や魏越、成廉も特にその影響が顕著に出ている。

 

「近付いて来られると苦手なのだ……」

 

「俺が居る間は極力相手になるから、

じっくりと感覚を掴んで行くといい。」

 

鍛錬場からは賑やかな声が何時までも聞こえてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ軍議を始めるねーー」

 

広い作戦室に劉備軍の武将達が集まり、

桃香の合図で軍議が始まる。

 

面子は桃香、愛紗、鈴々、朱里、雛里、星、恋、音々音、月、詠、魏越、成廉に白蓮。

そして士郎と張三姉妹。

……こうして見てみると凄い人数である。

 

「……これで全員なの?」

 

「なんか多いね~」

 

相変わらずの天和と地和。

軍議に慣れて居ない為、いつもと変わらない様子だ。

 

「こほんっ!!」

 

人和が軽くせきを吐くと、慌てて姿勢を直す二人。

 

「はわわっ……で、では、まず現在の状況の説明からしますっ……」

 

そう言って、机の上に広げてある地図にある駒を動かし始める。

 

「兗州を制圧した曹操さんの次の目標は、

間違いなく冀州です。

で、その為の足がかりとして、

桃香さまが統治する徐州に攻め込んできています。」

 

「冀州を統治した袁紹も確実に南下してきますからな。

曹操殿も急いで足場を固めたいのでしょう。」

 

「ううん……星の言う事は正論だけど、あいつ等は全く動きが分からなかったぞ。

落とした城に何ヶ月もいた後、いきなり翌日に全軍攻撃したりしてきたからなぁ……」

 

しみじみと話しているのは白蓮。

袁紹とまともに戦った時を思い出しているのか。

 

「…………」

 

「うん?どうしたんだよ士郎。」

 

じっと見つめて来る士郎の視線に気付く白蓮。

 

「な、なんだよ……

そんなに見られると恥ずかしいだろ……」

 

ただでさえ男性経験が無いのに、

士郎にガン見されるのは、

とても落ち着かない気分になる。

 

「……余りに自然にいたから気付かなかったけど、

なんで居るんだ?」

 

「うっ……」

 

急に落ち込む白蓮。

 

「れ、麗羽に負けたからしょうがないだろーー!!」

 

「袁紹に負けたのは密偵の報告で知ってたけど……

すまない、気がつかなかった……」

 

更に落ち込む。

 

「只でさえあの麗羽に負けたから落ち込んでるのに……

存在に気付いて無いって……

どーせ私はそんな立場か……」

 

……拗ねた。

 

「……士郎殿……」

 

「……すまん。これは俺のせいだな……」

 

星の突っ込みに思わず謝る士郎。

 

「と、とりあえず話を戻しますねっ!?

朱里ちゃん!」

 

「は、はいですっ!!

仮に袁紹さんが攻めて来ても、

直接都市同士が繋がってませんから大丈夫かと。」

 

袁紹が南下してきた場合、都市が隣接しているのは

小沛(ここ)』の北にある『濮陽』か、

『小沛』東にある『下邳』の北、『北海』の二つになる。

 

『濮陽』は以前、曹操から恋が強奪したが、

恋が桃香と合流した際に曹操に返還しており、

『北海』太守は以前説明したとおり、友好関係にあるので攻められる心配は無い。

 

「攻めてくる兵の予想はどれほどなのでしょうか?」

 

「まだ詳しくは分かりません……

ですが、曹操さんは大分戦を続けたり、軍備拡張してますし、

兗州は賊が多発してますから、あまり兵糧は無いと思います……」

 

兗州は冀州から黒山賊、

青州から黄巾の残党が攻め込んでおり、

華琳はその対処に大分苦労してきている。

 

「あの……密偵は出してるんですけど……

あまり、詳しい情報が入ってきません……」

 

しゅんと落ち込む雛里。

 

「あの曹操の事だから、そこ等の情報は漏れないようにしてるでしょうね。」

 

「そうなの詠ちゃん?」

 

「私も連合軍と戦ったときに密偵出したけど、

曹操軍の情報は中々入ってこなかったわ。

……音々音も覚えておきなさいよ。

戦は始まったときには、もう終わってるんだから。」

 

「了解なのです。」

 

「本当に、」

「分かってる~?」

 

「煩いのですっ!!

貴女たちより頭いいのですっ!!」

 

魏越、成廉にからかわれながら、

木簡に書き写していく。

 

「取り敢えずは守備を固めて、

向こうの兵糧切れを待った方が良さそうだな。」

 

「鈴々は守るより攻めたいのだ~」

 

「……こくこく。」

 

「……外に出て迎撃する部隊も必要になってくるから、

多分それをお願いすると思いますです。」

 

まだ藍みたいに暴走しないだけマシである。

 

「それで、士郎さんたちは如何するの?」

 

ざっとした方向を決めた後は、

士郎たちの方に話題が移る。

 

来る事は伝わっていたが、

詳しい内容を聞いてない人もいるので、

今一度、士郎から説明してもらう必要があったのだ。

 

「歌うよ~」

 

「…………」

 

一瞬、全員が沈黙する。

 

「兄ちゃんが歌うのだっ!?」

 

「あの服を……着るのですかっ!?」

 

「愛紗、流石にそれは無理があるだろう……」

 

また話が脱線して行く…………

 

「なんでさ……

歌うのは三姉妹だけで、

俺は貂蝉から連絡があった泰山に向かってみるよ。」

 

「そこに、あの白装束たちがいるんですか?」

 

「手紙にはそう書いてあったな。

もし奴らが動くとすれば、

間違いなく人の目が少なくなる戦の時だろう。」

 

「あのっ……白装束って洛陽にいた妖術師ですよねっ!!」

 

「ああ。あの眼鏡を掛けた長身の男と、

長刀を持った奴がそうだな。」

 

「ふむ……あの男もいるのですな……」

 

月と士郎の会話を聞いて、何か考える星。

 

「出来れば士郎さんは一緒に参加して欲しかったけど……

仕方ないよね……

じゃあ編成の方お願いできるかな雛里ちゃん。」

 

「はいっ……曹操さんの軍が近付いてきたら連絡しますので、

恋さんと鈴々さんは兵五千ずつ率いて、

城外で待機してください。

後の人は城内で迎撃する事になりますので、

追って連絡します……」

 

「私たちは、」

「どうするのっ?」

 

「魏越さん、成廉さんは城の守備について下さい。

恋さんの軍師は音々音さんにお願いします。

鈴々さんの方は……」

 

「ボクが行くわ。」

 

『詠っ!?』

 

急に名乗り出て驚く皆。

 

「鈴々だけじゃ何か火急の事態に対処できないでしょ。

朱里と雛里は城に留まって全体の動きを把握しないといけないし、

そうなると残ってる軍師はボクだけじゃない。」

 

「詠ちゃん……気をつけてね。」

 

「月を残して死ぬわけないじゃない。

大丈夫よ。」

 

「ありがとう御座います詠さん……

鈴々さん、あの、ちゃんと合図を待って行動してくださいね……」

 

「まかせるのだ。曹操軍なんて蹴散らしてやるのだ!!」

 

「……お、お願いしますね……」

 

鈴々の言葉を聞いても、

何処か心配そうな雛里だった。

 

「じゃあ各自準備の方お願いしますっ……」

 

雛里の声を合図にぞろぞろと部屋から各々が出て行く。

 

「桃香さま、ちょっとよろしいですかな?」

 

「うん?どうしたの星ちゃん。」

 

星は何か相談があるらしく、

桃香に話しかけている。

 

士郎も自室に戻ろうとすると、

張三姉妹が近寄ってくる。

 

「どうしたんだ?」

 

「うん。しろうに手伝って欲しい事があるんだ~」

 

「?」

 

そう言われ、天和に袖を引っ張られながら

部屋を出て行く士郎だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

長い階段を、一歩ずつ踏みしめながら上る。

 

「頑張れ~頑張れ~

しろう~」

 

既にこの階段を二往復もしており、

体、足の疲れは尋常ではないことになっている。

 

「士郎さん。

あと少しだから頑張って。

これが終わったら地和姉さんを自由にしていいので。」

 

「さ、最後のは遠慮するよ……」

 

「姉さんはお気に召さないのね……

でしたら私か天和姉さんになるけど。」

 

「ちょっと人和!!

なに変な事約束してるのよ!!

……全く、しっかりしてよ士郎!!

私も同じ量歩いてるんだから!!」

 

人和と士郎が話していると、地和が割り込んでくる。

 

「だ、だったら同じもの背負ってみろ……」

 

「か、可憐な乙女がそんなもの持てるわけ無いじゃない!」

 

「可憐?」

 

「乙女?」

 

天和と人和が顔を見合わせる。

 

「ま・だ・乙女よっ!!!!」

 

士郎の耳に地和の大きい声が響く。

 

「出来ればこれを運んでからにしてくれ……」

 

士郎が今背中に担いでいるのは人和が演奏の時に使用している太鼓である。

それを、小沛城の一番上まで運んでいるのだ。

 

……ちなみに先の二往復で天和の琵琶と、

地和の二胡をこの先まで運んでいる。

 

「すみません士郎さん。」

 

「こんな事頼めるのしろうしかいないから、ごめんね~」

 

「まぁ他の奴にちぃの楽器触られるのは嫌だからね。

頼めたとしても嫌に決まってるでしょ。」

 

なんだかんだで信用されているのだろう。

 

「……了解。

もうちょっと頑張るか……」

 

そう言う士郎の視線の先には、

光が漏れる扉が見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、疲れた……」

 

そう言って地面に座り込む士郎。

 

……お疲れさま。

 

「さてと、早速準備しましょうか。」

 

「そうだね~~」

 

「分かってるわよ。」

 

そんな士郎をよそに、

人和の合図と共にテキパキと演奏の準備をしていく三人。

 

「気になってたんだけど……

なんでここに楽器を運んだんだ?

此処じゃ街で演奏出来ないだろ。」

 

三姉妹は基本、街の広場で場所を取り、

演奏する事が多い。

 

それは彼女達が人との触れ合いを大事に考えている為であり、

屋上(ここ)で演奏するのではその方針にそぐわない。

 

「そうね。確かにここは気安く一般の人が来れないわ。

けど、今回の目的は違う所にあるから。」

 

「目的?」

 

「うん~

ここなら、とおくの人にまで歌が届くかな~って思って。」

 

朗らかに笑いながら答える天和。

 

「城内だけじゃなく、

城外の兵達にも。

遠く、河の向こうに眠っている恩人たちにも。」

 

さあっと、涼しい風が吹き渡る。

 

「……そうか。」

 

「……分かったらさっさと手伝う!!

いつ始まるか分からないんだから!!」

 

「ああ。任せろ。」

 

そう言って士郎も準備に交わる。

 

「……届くさ。キミ達なら。」

 

「……当ったり前でしょ。

私たちを誰だと思ってるのよ。」

 

心地よい風が吹く中、

各々の時間が過ぎていった……




魏越(ぎえつ)


勇将,猛将を意味する「健将」の一人

戦では右翼を担当。

顔の左半分を髪で隠しており、
左手に手甲、右手に剣を持つ。


成廉(せいれん)


「健将」の一人

戦では左翼を担当。

顔の右半分を髪で隠しており、
右手に手甲、左手に剣を持つ。


一応真名無しのサブキャラ。

一人一人では半人前ですが、
連携すると二人前以上の力を発揮します。

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