真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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6-5 再会~そして……

 〜 月 side 〜

 

通りなれた城内を、てくてくと歩いて行く。

 

来ている服は、遥か西方で使われている給仕さんの服。

 

大きなスカートを揺らしながら厨房に食材を持って行く。

 

「よいしょ……よいしょ……」

 

手に持っている籠には一杯にじゃがいもが入っており、

月が持って運ぶには少々重い。

 

「これを運んだあとは……」

 

移動しながら次の作業に移り、

ふと……今の自分の境遇を考える。

 

(白装束たちの罠に嵌り、『死』しか残されてなかった自分……

だけど、そこを桃香さんたちに助けてくれた……)

 

それを考えると、元は一国の太守だが、

この仕事をするのは苦で無い。

 

(時々、詠ちゃんと一緒に軍議にも参加してるから、

街の皆の為に働けるし)

 

元太守だった月と軍師の詠。

二人の知恵をそのままにしておく朱里と雛里ではない。

 

(それに……いつか、あの人にもお礼を言わなくちゃ……)

 

胸に光る、剣の飾りがついた首飾りに目を向ける。

 

後悔や、懺悔の念に押しつぶされそうになっても、

これを見ていれば元気が出てくる。

 

そうして微笑を浮かべている時、

急にバランスを崩す。

 

「あっ……!!」

 

転倒する事はなかったが、籠に載せたじゃがいもが幾つか転がって行く。

 

「ま…まってぇ……」

 

追いかけようとするが、

手に籠を持っている為、咄嗟に動けない。

 

一旦屈んで地面に籠を置き、

追いかけようと頭を上げた瞬間、

目の前にじゃがいもが差し出される。

 

「あ、ありがとうございま……す…………」

 

お礼を言おうと、

拾ってくれた人の顔を見ると――

 

そこには、先程まで頭の中で考えていた人がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「士郎さんっ!!」

 

目の前に居る士郎に、思わず抱きつく月。

 

色々な感情が溢れ、目から零れる。

 

「お……っと、

久しぶり。月。」

 

「士郎さんっ……ごめんなさいっ……」

 

士郎の体に顔を埋めたままの月。

 

「ごめんって……なにがさ?」

 

「だってっ……私たちのせいで、大怪我したって聞いたのにっ……

お見舞いも、助けてくれたお礼も言ってません……」

 

「あの時は仕方ないさ。

月が他の諸侯に見つかったら拙かったから。」

 

「……それじゃ納得できません!」

 

「困ったな……俺はもう気にして無いんだが……」

 

困ったような、恥ずかしそうな顔を浮かべる士郎。

 

もしこの光景を他の人が見たら、確実に誤解される。

 

「月~~じゃがいもまだ~~………」

 

丁度いいタイミング?で現れる詠。

 

「あ。」

 

無意識に士郎の口から言葉が漏れる。

 

「あ、アンタ……月泣かしてるのよっ!!」

 

「まったっ!!……誤解っ……」

 

士郎は、弁解する間も無く詠からの一撃を貰うのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く……最初からそう言いなさいよ。」

 

「説明させてくれる暇さえ無かっただろ……」

 

月からの説明のお蔭もあり、

誤解はスムーズに解けてばつが悪そうにしている詠。

 

「もう、詠ちゃん……」

 

少し怒った顔をしている月。

……まぁ全然怒ったようには見えず、むしろ可愛いのだが。

 

「私もあの時の礼がまだだったからね。

……ありがとう士郎。

あと……御免なさい……私たちの騒動に巻き込んじゃって。」

 

ペコリと頭を下げる詠。

 

「俺は気にして無いんだけどな……

皆無事だったからまぁいいだろ。」

 

「そうはいかないのよ。

恩を受けっぱなしって言うのは、

人によっちゃあ見えない荷物背負ってるようなものよ。」

 

借りを作りっぱなしというのは、

詠の性に合わない。

 

「まぁいいわ……その内何とかするから。

で、話は変わるけど、何で此処にいるのよ。」

 

「桃香から話は聞いてないのか?」

 

「いえ……来客者の話は特には。」

 

「……劉表軍の一員が此処に居るのがばれたら厄介な事になるから、

月や詠には話して無いんだろうな。

詳しい話は全員揃ったときにするさ。」

 

そう言いながら、先程まで月が持っていた籠を手に取る。

 

「これは厨房に運んだらいいんだろ。

案内してくれないか?」

 

「お、お客さんに、

それをさせる訳にはいきませんっ。」

 

「流石に見て見ぬ振りは出来ないだろ。

……さっきも転びそうだったし。」

 

「う……はい……」

 

顔を赤くし、うつむく月。

 

「じゃあ、私についてきて下さい。」

 

二人に連れられ、厨房に歩いて行く士郎。

 

「そう言えば二人とも、可愛い服着てるんだな。

似合ってるよ。」

 

後ろから二人の服装を見て、思わず感想を漏らす士郎。

 

「っ~~~」

 

「う、うっさい!私は嫌って言ったけど、

月が如何してもって言うから……」

 

互いに顔を真っ赤にしている。

 

三人が厨房に着くのは、少し遅くなりそうだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「士郎さん、お久しぶりです~」

 

桃香からの歓迎を受け、

謁見の間に入っていく士郎。

 

桃香の横には、朱里と雛里の両軍師も居る。

 

「久しぶりだな桃香。」

 

「はい。怪我のほうも大丈夫なの?」

 

「何とかな。

ここに来る途中に月と詠にもあったよ。」

 

「そうなんですか……

二人とも、士郎さんに早く会いたがってたから。」

 

「凄い勢いで謝られたよ。」

 

苦笑しながら答える士郎。

 

「二人とも、ずっと気にしてましたからね~

お姉……聖さんは元気ですか?」

 

「相変わらずさ。

色々頭悩ませながら、皆問題を解決してるよ。」

 

「こっちは大変なんだよう……

袁術さんを何とか凌いだら、今度は曹操さんが攻めてくるし……」

 

ため息を吐く。

まぁこの時代の徐州はまさに激戦区だから仕方が無いが……

 

「あ、あのっ、士郎さんっ。

援里ちゃんは元気にしてますか?」

 

「相変わらず知恵を借りたり、お菓子作ったりしてるな。

……前、援里と一緒に作ったお菓子があるから、

また後でご馳走するよ。」

 

「楽しみにしてます……」

 

二人とも援里と同じ私塾だから気になるのだろう。

 

「もう直ぐ他の皆も集まって来ますから、

それまでゆっくりしてね~」

 

「ああ。そうさせてもらうよ。」

 

そう言って士郎は謁見の間を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「士郎……終わった?」

 

「恋か。」

 

部屋を出ると、いきなり恋に話しかけられる。

どうやら、ずっと待っていたようだ。

 

「恋どの~~ほんとに戦うのですか~」

 

音々音も一緒について来ている。

……相変わらず恋にべったりである。

 

「戦うって、なにがさ。」

 

「私と……士郎が。」

 

「え……っと……

俺、此処に着いたばかりだから、出来れば休みたいんだけど……」

 

只でさえ疲れているのに、

相手が恋となると全力で戦わなければいけない。

 

今の士郎からすれば、もはやイジメである。

 

「大丈夫。士郎なら。」

 

いや、そんなとこ信頼されても……と思わず士郎が口に出そうとするが、

有無を言わせず腕を掴まれる。

 

「……行く。」

 

「何で俺の周りにはまともに話を聞く奴が少ないんだ……」

 

士郎の叫びもむなしく、

ズルズルと鍛錬場に連れて行かれるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰か先客が居るな。」

 

「?確かに、剣戟の音が聞こえますな。」

 

警邏から帰ってきた愛紗と星が鍛錬場に向かっていると、

激しい剣戟の音が聞こえてくる。

 

「お帰りなのだーー」

 

途中で鈴々も合流する。

 

「鈴々、また厨房に忍び込んだな。」

 

「ちがうのだっ、月がくれたのだ。」

 

鈴々が口に加えているのは肉まん。

お腹が空いて厨房で貰ったのだろう。

 

「月は優しいからな。

大方詠が居ない隙を狙われたのだろう。」

 

仕方ないといった様子の星。

 

「全く……もう直ぐ夕食だっていうのに……」

 

「だから、体動かしに来たの。

鈴々も一緒に鍛錬するのだ。」

 

そうこうしている内に鍛錬場に到着する。

 

「さて、多分恋殿と魏越,成廉の二人が鍛錬してるのだろう。

私たちも混ぜてもらうとしようか。」

 

そう言って中に入った三人が見たのは、

 

風が渦巻くように戟を振るう恋と、

それを捌き避ける士郎の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弧白と同等の一撃を、霞の速度で振るう恋。

 

その純粋な力が、人中に呂布ありと言われる所以――

何とか捌いてはいるが、

下手に攻撃しようものなら直後の隙を狙われる。

 

只でさえ疲労が蓄積している士郎からすれば、

無理な体力の消耗は避けたいのだ。

 

(最も、これまでの戦って来た中で、

まともな状態で戦えた事の方が少ないけどな)

 

いつだって、ギリギリの状態で勝ちを拾ってきた士郎。

むしろ、こういう戦いの方がやりやすい。

 

じっと、恋の攻撃を避け受け流し、

恋の隙を伺う。

 

「っ…………」

 

嫌な予感を感じたのか、

ジリジリを距離を広げていく恋。

 

士郎が持っているのはいつも通り「干将・莫耶」なので、

恋の攻撃が丁度届く位置までこれば、士郎の攻撃は届かない。

 

(このまま……押し切る……)

 

一瞬気が緩む恋。

だが、其処は決して『安全』な位置ではなかった。

 

「ふっ!!」

 

士郎の体が不自然に沈む。

 

瞬間――

 

恋の眼前に士郎が一瞬で現れる。

 

「!!」

 

瞬時に相手との間合いを詰める縮地。

前後の動きに限り、長い距離を少ない歩数で接近する体捌き。

 

以前にやられたように、投剣されても大丈夫なように警戒していたが、

いきなり士郎が動く事は予想していない。

 

そのまま、決着がついたと思った時、

 

いきなり、士郎が倒れる。

 

「…………士郎、だいじょうぶ……?」

 

「さ、流石に今の体調で縮地は厳しい……」

 

どうやら疲労がピークに達したようだ。

 

「……私のせい?」

 

「自覚はあるんだな……」

 

ぐったりとしている士郎を困った目で見ている恋。

すると、入り口の方からパチパチと手を叩く音が聞こえてくる。

 

「お見事。流石は士郎殿ですな。」

 

「凄いのだ。恋相手に互角に戦ってたのだ。」

 

鈴々と手を叩いていた星が士郎たちに近寄ってくる。

 

「士郎さん、到着されてたのですね。

いいものを見せてもらいました。」

 

「そんなにいいものじゃないと思うんだけどな。

結局最後は倒れて負けたしな。」

 

すると、恋がふるふると首を左右に振る。

 

「士郎は……疲れてた……

私の負け。」

 

「体調が良い時もあれば悪い時もある。

俺が負けたのは事実だろ。」

 

「ふむ……引き分け。

と、言った所ですかな。」

 

二人の様子を見て、星は苦笑しながら答える。

 

「兄ちゃんはまだここにいるの?」

 

「ああ。桃香から皆が集まるまで時間を潰してくれって言われてる。」

 

「でしたら、私たちの鍛錬を見てくれませんか?」

 

「あまり教えるのは得意じゃないんだけどな……」

 

「士郎殿が私たちより強いのは事実。

なにか気付く点があればでいいのです。」

 

「……分かった。休憩がてら見させて貰うよ。」

 

愛紗に押され、渋々訓練を見る事になった士郎。

 

徐州について早々、

いろんな人に巻き込まれながら時間は過ぎていった。




縮地(しゅくち)


縮地法とも言う日本武術における技術。
相手の瞬きの瞬間の隙や、死角に入り込む体捌き。

すり足で動く事で体がぶれない為、視覚的に近寄られたことに気が付かない。
停止から一気に最高速へ加速する歩法。
重心を崩す事を動きの起点にしている為、通常の動きより速い。
様々な媒体で使用されていますが、
ようするにこう言った動作の総称の事です。

植芝盛平と言う人物は、この縮地で数十メートルの距離を一瞬にして移動したらしく、
士郎でも数メートルなら可能(と言う設定)です。

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