真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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6-4 小沛入城

「♪~~♪~♪~~~」

 

ガタガタと揺れ動く荷台の中から、

気分よさそうな歌声と楽器の音色が聞こえてくる。

 

しかも、歌っているのは……

 

「小蓮ちゃん上手~」

 

「ほんとっ!

えへへっ、ありがと天和~。」

 

「次ちぃも一緒に歌うー」

 

「順番は守ってよ姉さん。」

 

いつの間にか、三姉妹になぜか小蓮が混じっていた。

 

「しかも知らない間に歌うわ、演奏するわ……」

 

そんな様子を見て、手綱を引いている士郎は思わずため息を吐く。

 

「ごめんね士郎。妹が迷惑かけて。」

 

「いや、孫権のせいじゃないだろ。

……まぁ、戦の後の息抜きになってるからいいさ。」

 

なぜか士郎の横には蓮華が座っており、

仲良さそうに話している。

 

「士郎は以前、何処にいたのかしら?」

 

士郎は今、行商人を装っているので、

士郎から他の国の話が聞きたいようである。

 

「前は荊州にいたな。

あそこは物流の拠点になっているから、大体の物が手に入る。」

 

「やっぱり栄えているのね……」

 

なにか複雑そうな顔を浮かべている蓮華。

 

いずれ戦うのが決まっている相手。

しかし戦を起せば、今平和に暮らしている民は傷つく。

姉ほど割り切った性格をしていないので、

母の仇という恨みはあるが、

蓮華の性格上、少し躊躇してしまうのである。

 

「……………」

 

何も答えられない士郎。

自分の立場上、どちらの擁護も出来ないし、下手に話すと素性がばれかねない。

だが、その葛藤は痛いほど伝わった。

 

不意に、大きな段差でも通ったのか、

がたんと大きく馬車が揺らぐ。

 

「きゃっ……」

 

「あぶな……っ」

 

体勢を崩した蓮華が馬車から落ちそうになったので、

士郎が咄嗟に引っ張る。

 

「あっ……ご、ごめんなさい……」

 

引っ張られた勢いで士郎の膝の上に横たわる蓮華。

 

「すまない。怪我は無いか?」

 

「ええ……大丈夫だけど……」

 

二人の視線が交差する。

 

「……何をしている。」

 

横で並走している思春がギロリと睨んでくる。

 

「わ、わざとじゃない。事故だ事故っ。」

 

「そ、そうよっ。私が体勢を崩したせいで。」

 

「蓮華さまっ、早く離れて下さいっ!」

 

慌てて離れる二人。

 

「全く、だから反対したのに……」

 

「あ、あの~

そろそろ国境に着きますよっ。」

 

そうこうしている内に、徐州との国境に到着する。

蓮華たちは軍を率いている為、

これ以上進むと侵攻されているとみなされる。

 

「小蓮っ。ここでお別れよ。」

 

幕を開けて、中にいる小蓮を呼ぶ。

 

「え~っ。もう着いたの?

もうちょっとお話したかったのに……」

 

むすっとしている小蓮。

 

「仕方ないじゃない。これ以上私たちは進めないんだから。」

 

「……はぁ~い。」

 

ぴょんと荷台から飛び降りる。

 

「ありがとー楽しかったー」

 

「うん。私たちもだよっ。」

 

「またちぃと一緒に歌おうね。」

 

「……合格ね。いつでも来てくれていいわよ。」

 

約一名おかしな台詞があったが、

気にせず三姉妹と別れを告げる。

 

 

「……妹を助けてくれてありがとうね。」

 

「礼はもう受け取ってるぞ。」

 

「大事な妹を助けてくれたんだから、何回言っても足りないくらいよ。」

 

「……困って居る人を助けるのは当然だろ。」

 

「ふふっ。そうね。」

 

恥ずかしそうにそっぽを向く士郎に、

にこりと笑みを返す蓮華。

 

 

「……私の失態を補ってくれた事は感謝している。」

 

「一人で出来る事は限られてるからな。

あまり抱え込まないようにするといい。」

 

「……正直貴様の事はまだ疑ってはいるが、

実力は評価している。

もし武人として名を上げたいのなら、私達の所に来るといい。

貴様ならすぐに将になれる。」

 

「……そうだな。もしそうなったときは宜しく頼むよ。」

 

思春と士郎は、互いに拳を合わせる。

 

 

「今回の戦はいい勉強になりましたっ。

……机の上だけじゃ、分からない事が沢山あるんですね。」

 

「人の感情というのは、時に限界以上の力を発揮させる。

窮鼠猫を噛むって言うからな。」

 

「まだまだ精進あるのみです。

もっと経験を積んで、早く戦乱を終わらせるようになります。」

 

軍師見習いの亞莎。

師と仰ぐ冥琳や穏に追いつけるよう、

決意を新たにした。

 

 

「シャオを助けてくれてありがとね。お兄ちゃん。」

 

「なに。こっちも困ってたからお互い様だよ。」

 

「えへへっ。絶対お礼するから、また会おうね。」

 

「ここまで護衛してもらったから十分だぞ?」

 

「それはお姉さまがしたんでしょー

次は私がするのー」

 

「ああ。楽しみにしておくよ。」

 

そう言って小蓮は士郎たちから離れて行く。

 

「さて、徐州に入るか。」

 

『は~いっ』

 

蓮華たちに見送られながら、

士郎たちは無事に徐州に到着したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「士郎さん、これから如何するんですか?」

 

「そうだな……桃香たちは、曹操との戦を控えてるだろうから、

前線に一番近い「小沛」に居るだろう。

それに小沛はここから一番近い街になるしな。」

 

徐州にある街は二つ。

「小沛」と「下邳」である。

 

「小沛」は「寿春」の北に位置し、街の規模はそれほど大きくは無いが、

北に呂布が曹操から奪った「濮陽」があり、西には曹操の本拠地である「陳留」がある。

今現在、徐州で最も戦火に晒される可能性が高い街なのだ。

 

「下邳」は「小沛」の東に位置し、

沂水と泗水という2つの川を挟む天然の要害であり、

街の規模も徐州一を誇り、桃香もこの街を現在本拠地にしている。

 

この街を取り仕切っているのは名門「陳家」の陳珪・陳登の親子で、

桃香が来る以前、徐州が袁術に狙われた際も、

この陳親子が撃退している。

 

「下邳」の北には州は違うが「北海」という街があり、

そこは孔融と言う人物が統治している。

 

当然、その孔融が北から攻めてくる事も無くは無いのだが、

以前孔融が黄巾党の残党に困っていた際、桃香達に助けられており、

孔融も義を重んじる人物なので、まず攻めてくることは無いだろう。

 

それらの事を考えると、

恐らく「小沛」に桃香たちが居ると考えたのだった。

 

「じゃあ、出発しんこーー」

 

「……その元気さだけは尊敬できるな……」

 

歌って元気が出たのか、街に行けるのが嬉しいのか、

元気な天和を見て疲れが増す士郎だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桃香たちが統治しているとはいえ、

最前線の街だけに、ものものしい雰囲気が漂っていた。

 

「なんか色々調べられてるね……」

 

「密偵がいないか確認してるんだろう。」

 

城門を前で、街に入る許可を貰う為並んでいる士郎たち。

 

その目の前には、荷物検査されている人たちが大勢いた。

 

「……なんで戦なのに、こんなに人が出入りしてるんだろ?」

 

「……多分、畑が外にあるからじゃないかしら。

籠に野菜を入れた人が沢山見えるわ。」

 

人和の視線の先には、農民と思われる人たちが大量に歩いていた。

 

「後は武器商人や傭兵も集まって来るだろうな。

彼らからすれば、絶好の稼ぎ時になる。」

 

そうこうしている内に、士郎たちの順番が近付いて来る。

 

「そろそろか……

三人とも一旦中に入ってくれ。」

 

士郎に促され、

三姉妹は幕をくぐり、荷台の中に入って行く。

 

「さて……無事に通過できればいいんだが。」

 

近付いてきたのは、

兵士二人に、少女が一人……

 

「……なんで女の子がいるのさ?」

 

困惑する士郎を他所に、顔を上げた少女と目が合う。

 

「荷物検査するので、検めさせてもらうです。

って…………あれ?」

 

顔を合わせて膠着する二人。

 

「……音々音じゃないか。

成る程。荷物検査の担当してたのか。」

 

「……確かっ、恋どのに近付いてた変態男じゃないですかっ!!

ま、まさか、ここまで追っかけてくるとは……っ。」

 

「おい、なんか勘違いしてる……」

 

暴走し始める音々音。

厄介な奴に遭遇してしまったものだ。

 

「恋どのーー変態ですぞーー

退治してくだされーー」

 

音々音が叫ぶと同時に、城門の上から恋が降ってくる。

 

「……不審者、どこ?」

 

城門の上で日向ぼっこでもしていたのか、

寝ぼけ眼の恋はキョロキョロしている。

 

「こいつですぞー

ここまでねね達を追っかけて来たのですーー」

 

「……あれ、士郎?」

 

士郎の顔を見ると同時に?マークを浮かべる恋。

 

「……虎牢関の続き、する?」

 

そう言って、いきなり武器を構える恋。

 

「こっちは全然よくないっ!」

 

ジリジリと近寄る恋から離れる士郎。

 

「恋どのーー

早く倒すのですぞーー」

 

「……お願いだからまともに話が出来る人を呼んでくれ……」

 

その後、騒ぎに反応した星のお蔭で、

何とか無事に入城することが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

「城門で恋が暴れてると聞いて向かったら、

ふふっ。まさか士郎殿がいるとは思いませんでしたよ。」

 

クスリと笑いながら話す星。

 

「ああ。まさかいきなりあんな事になるとは……助かったよ。」

 

「ご謙遜を。

士郎殿なら、恋どの相手でも十分務まるでしょう。」

 

士郎の横に座っている星は、機嫌良さそうにしている。

 

「そう言えば、洛陽で助けられたお礼がまだでしたな。

……危うい所を助けていただき、感謝しております。」

 

そう言いながら頭を下げてくる星。

 

「いや、俺もその後怪我を負ったし、結局追い返しただけだからな……

あまり誇れるような戦果ではないさ。」

 

「ふふっ。それでも、助けられた事には変わりませぬよ。」

 

星に感謝され、思わず目をそらす士郎。

 

「それで、話は変わりますが、曹操との決戦を控えた今の時期に、

何故来られたのですか?」

 

幾ら関係が良好でも、別の国の将が街に来るのはそれなりの理由が存在する。

その大半は内部崩壊や情報漏洩に関する事である為、

この街の将である星は、それを聞く必要があるのだ。

 

……本当なら、

それは城門にいた音々音が聞いておかなければいけないのだが……」

 

「……星と俺に手傷を負わせたあの男の仲間が、

ここらで姿を見せたらしいんだ。」

 

「なんと……そうでしたか……」

 

士郎の言葉に、眉を顰める星。

 

「とりあえずそのあたりの話も含めて、

俺が来たのさ。」

 

士郎が前を見ると、其処には城内の入り口が見える。

 

「詳しい内容は桃香たち全員と集まって行おう。」

 

「それがよろしいですな。」

 

二人(+三人)は馬車に乗ったまま、城内に進んでいった。


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