真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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4-10 洛陽での終結

まどろむ意識。

今自分が立っているのか、横たわっているのかも分からない。

体の感覚も鈍く、すべての感覚がまともに機能していない中、

ただ、頭の下にある柔らかい感触だけは、感じることが出来た………

 

「っ……………」

 

ゆっくりと目を覚ます士郎。

 

「あ……っ。

士郎くんが気付いたよっ!!」

 

士郎の上から聞こえてきたのは聖の声。

そのまま体を起そうとするが………

 

「ぐ………っ………」

 

瞬間――体に奔る鋭い痛み。

 

「駄目っ!!まだ傷口がちゃんと塞がってないんだよう!!」

 

慌てる聖に窘められ、再度頭を下ろされる。

 

「っ……聖……いつ此処に………?」

 

「ほんの少し前だよう。

急いで軍を進めたんだけど、中々統制が取れなくて………

此処に着いた時、血だらけの士郎くん見て吃驚したんだからっ!!」

 

そう言いながら士郎の顔に暖かいものが降ってくる。

 

「ごめん…………」

 

「謝っても駄目だからね!!

次は絶対無茶しないでよう!私、本当に死ぬかと思ったんだから!!」

 

そのままポタポタと暖かい雫が顔に落ちつづける。

 

(ああ………これがイリヤとの約束か………)

 

自分自身に対する周りの人の思い。それは士郎に欠けている大事なピースの一つ。

自らの死を楔にし、嘗ての切嗣のようにイリヤが士郎にかけた呪縛。

だが―――

 

(少し、気付くのが遅かったか………

けどイリヤ、これで分かったよ。これからは決して間違えないから)

 

そう決意を新たにする士郎。

 

「そういえば………桃香たちと月はどうなったんだ!?」

 

「大丈夫だよう。

怪我も無いし、全員無事だったから。」

 

「そうか………良かったぁ………」

 

心の底から安堵する士郎。

そうこうしていると、先程の声を聞いた玖遠と援里が近付いて来る。

 

「士郎さんっ!!大丈夫なんですかっ!!」

 

士郎の顔の直ぐ傍に座る玖遠。

援里も一緒に寄ってくる。

 

「ああ。心配かけた。」

 

「ほんとですよっ!わたしが着いた時はもういなかったですしっ!

何とか見つけたら大怪我してますしっ!!」

 

涙を浮かべながら士郎に怒る玖遠。

 

「怪我してるから………あんまり騒ぐと………よくないかと………」

 

こっちも大分ヒートアップしているが、援里が止めてくれる。

 

「あっ………ごめんなさい士郎さん。

けど、心配したんですよっ…………」

 

「ああ……ごめんな。」

 

すると、援里が近付いて、士郎の手を握ってくる。

 

「どうした?」

 

「………ごめんなさい………私の策が上手くなかったから………

士郎さんが怪我してしまいました………次は………必ず成功させます………っ。」

 

ギュッと強く手を握る。

 

「い、いや今回は俺が勝手に行った事だから、

俺の自業自得だろ。」

 

「いえ………戦の責任は………すべて軍師にあります………」

 

「だがっ………」

 

そう言って互いに譲らない二人。

 

「おーーなんか楽しそうやなあ。」

 

「霞っ!?なんで此処にいるんだっ?」

 

「ああ。玖遠と戦って負けてしもてな。

この軍に降ったんや。」

 

「はい。今日から私たちの仲間になったんですよっ!!」

 

嬉しそうな玖遠。

 

「あそこで負けてしもたけんなぁ………

まぁええけどな。

此処なら玖遠も士郎もおるし、いつでも再戦できるし。

よろしくな。」

 

「ま、また戦うんですかっ………」

 

賑やかにしていると、他のメンバーも集まってきたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次、聖を悲しませたら吊るすわよ!!」

 

「むしろ切りますです。………アレを。」

 

後から合流した水蓮、蓬梅、鈴梅の三人―――

特に蓬梅と鈴梅にたっぷりと嫌味を言われる士郎。

まぁ、しょうがないのだが。

 

「ついでに士郎、何時までその体勢でいるのよ?」

 

水蓮に指摘される。

士郎は聖に膝枕されたままの体勢だからだ。

 

「い、いやっ、体が痛いから動けないんだよ!!」

 

「だったら聖さまが下がるです。」

 

蓬梅が聖に問いかける。

 

「なんか士郎くんが苦しそうだったんだよう!

今回も頑張ってくれたしっ。」

 

「く………士郎………っ………」

 

そんな様子を見て悔しがる鈴梅。

 

心底羨ましそうな三人。

………それでいいのか?この軍。

 

「あ。だったら私が代わりますっ!!」

 

「く、玖遠ちゃんはこの機会に勉強するといいよう。

戦後処理とかっ!!」

 

玖遠も加わってさらに騒がしくなる。

 

「これはウチも参加した方がええんかなぁ。」

 

そんな様子を見てニヤニヤと士郎に目を向ける霞。

 

「……………俺は何時になったら休めるんだ……………」

 

士郎の呟きに答える者はいなかった……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瓦礫の山の中、中央に出来た空間に幾人かの人が立っている。

 

「あっという間に洛陽まで制圧してしまいましたわ。

やはり総大将が立派だと早いですわね。」

 

「おーっほっほっほっ!」と高笑いしている麗羽。

 

「ここに来たのは貴女が一番最後だったじゃない。

しかもまともに戦ったのは虎牢関だけだったし………」

 

そんな麗羽に傍に居る華琳が突っ込む。

 

「そうですけど、連合軍が勝った以上は、

総大将である私の名前が天下に響き渡りますわっ!!」

 

「まぁそれは間違いないでしょうね。」

 

テンションが高い麗羽に対して、

どこか投げやりに答える華琳。

少し考え事をしているせいだった。

 

(結局董卓は確認出来なかったけど行方不明だから、生きてるとは考えにくいわね………

華雄を捕らえれたのはよかったけど………春蘭以上に猪なのよね………

それより収穫だったのは………)

 

「華琳さん。洛陽に入った時の損害はどれほどだったんですの?

私、戦が終わりかけてから到着しましたから、よく把握してませんの。」

 

「そうね……桂花。報告お願い。」

 

「はいっ。被害の方は火災や瓦礫が崩れたせいで、

いち早く到着した公孫瓚や馬騰の軍に多少の被害がありましたが、それ以外は特にはありません。

将の方の被害は………馬騰軍の馬超、公孫瓚軍客将の劉備配下の趙雲、劉表軍客将の衛宮が

手傷を負ったようです。」

 

「馬超と趙雲が!?一体誰にやられたんだっ!!」

 

桂花の報告を聞いて驚く春蘭。

二人の実力は目にした事があり、自分と引けをとらない程の実力者である事を知っている。

その二人が大怪我をしたのに驚いたのだ。

 

「長刀持った、鎧を着てない長髪の男相手に二人で挑んで負けたみたいよ。

けどその後、助けに来た衛宮が怪我しながら追い返したらしいけど……

白装束の別の男が合流して消えたって報告が来てるわ。」

 

「ふむ………恐らく白装束の男は道士の類だろう。

洛陽の火災を消した水もそいつの仕業かもしれないな。」

 

冷静に考察する秋蘭。

火を消したのは士郎だが、道士の類という点はあっている。

 

「という事はその衛宮と言う男はあの二人よりも強いのか………そんな奴いたか?」

 

「たしか………劉備殿の天幕から出る時、男とすれ違ったが………」

 

首を傾げる春蘭を見て、秋蘭も自信なさげに答える。

 

「ええ。確かにいたわ。」

(私の挑発を見破った男ね………)

 

「虎牢関の時も呂布倒したよなーーー」

 

「うん……綺麗な戦い方だったね………」

 

流石に窮地を助けて貰った猪々子と斗詩は鮮明に覚えていた。

 

「おやーー?なんかおかしいぞ斗詩ーー?」

 

「な、なんでも無いようっ………」

 

猪々子に突っ込まれて焦る斗詩。

士郎の剣技は完成された美しさがあるから、気持ちが分からない事も無い。

 

「あの給仕さんかしら………」

 

麗羽は麗羽で変な覚え方をしている。

 

だんだんと知名度が上がって行く士郎。

まぁ活躍している以上、仕方が無いのだが………

 

そのまま雑談していると、伝令兵が走って来て、

華琳の前に跪く。

 

何故総大将の麗羽では無く華琳にしている所を見ると、

伝令兵も麗羽に大分慣れてきているようである

 

「報告いたします。」

 

「何かあったの?」

 

「はっ。洛陽の復興に向けて各軍が瓦礫の整理に当たっているのですが………

連合軍の兵糧を管理している袁術さまが、独断で余った兵糧をすべて配布したようです。」

 

「な、な、なにしてるんですのっ!!美羽さんはっ!!」

 

報告を横で聞いていた麗羽が怒り出す。

 

麗羽の予定では、このまま洛陽にしばらく駐屯したのち一気に長安に攻め込み、

皇帝を確保して天下に名乗りを上げる予定だったのだが、

兵糧が無くなってしまってはそうも行かなくなってしまう為、

その予定が一気に崩れたのだった。

 

「わ、私の華麗な計画が台無しですわ………」

 

一気に落ち込む麗羽。

流石に一度民に配った兵糧を再度、回収する訳にもいかない。

 

「はぁ………しょうがないわよ麗羽。

こうなったらさっさと切り上げましょう。」

 

仕方が無いと言った感じの華琳だが、

華琳も内心では麗羽と同じように、隙があれば皇帝を確保するつもりだったのだが、

そんな態度は全く見せない。

 

弧白がした事が、この二人の野望を遠まわしに防いだのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「士郎さん…………って、何してるんですか?」

 

麗羽たちが騒いでいる間、

士郎がぐったりとしていると、桃香たちがやって来ていた。

 

「色々あったのさ……………」

 

どこか哀愁を感じる士郎。

まぁ無理も無い。

 

「だいじょうぶなのだーー?」

 

「鈴々か……そっちは大丈夫だったのか?」

 

「数が多かったけど、弱かったのだ。」

 

戦続きだったのに元気な鈴々である。

 

「確かに強くはなかったが、

空間から次々と兵を出していました………

あれは妖術師の類かもしれません。」

 

「あの眼鏡をかけた男の方か。」

 

「はい。」

 

こくりと頷く愛紗。

やはり召還に長けた者なのだろう。

 

「そう言えば月たちや星は大丈夫なのか?」

 

「うん。

月ちゃんは見つかるといけないから来れなくて、

星ちゃんと翠ちゃんも怪我が治ってないから~~」

 

「そうか………よかった…………」

 

何とか無事に助かったようだ。

それに恐らく翠と言うのは馬超の真名だろう。

桃香も三国志通りの交友関係を構築出来ているようだ。

 

「いつかお礼を言いに行くって言ってたよ~~~。」

 

「ああ。次会える時を楽しみにしとくと伝えてくれ。」

 

「うんっ!」

 

穏やかな空気が流れる。

士郎や聖たちも会話を聞いて落ち着いていると―――――

 

「あっ!そう言えば士郎さんっ、この首飾りありがとうっ。

お蔭で助かったよ~~」

 

首に飾られているネックレスを見せながら言ってくる。

 

「気に入ったのなら桃香が持ってるといい。

大事にしてくれよ。」

 

「ほんとうにっ!?

ありがとう~大事にするねっ!!」

 

にこにこと嬉しそうな桃香。

 

「いいのだ~~」

 

そんな桃香を羨ましそうに見ている鈴々。

 

「簡単な物だったら作れるけど………」

 

「欲しいのだっ!!」

 

「だったら次会った時までに用意しておくよ。」

 

「よかったね鈴々ちゃん~~

愛紗ちゃんは?」

 

「わ、私はその………」

 

桃香に言われて急にあたふたしだす愛紗。

 

「そ…その……私みたいな者が、

身に着けても似合っているのでしょうか……」

 

周りからすれば「何言ってんだこいつ?」という感じなのだが、

本人は大真面目である。

 

「美人なんだから着飾っても大丈夫だと思うぞ?

愛紗自身に負けない位の物を作っておくよ。」

 

「………はい………よろしくお願いします………」

 

顔を真っ赤にして答える愛紗。

 

「じゃあ士郎さん。

私たちは帰りますね~~

また会いましょう。」

 

「またなのだ~~」

 

そう言って去っていく。

士郎がこれで休めると思い気を抜くと………

 

「士郎くんっ♪私のは?」

 

にこやかな笑みを浮かべた聖がそこにいた………なんかちょっと黒い。

 

無論、他のメンバーもその話を聞き逃す訳も無く、

私もと言いながら寄ってくる。

 

「わ、私も欲しいですっ!!」

 

「あの………出来れば………私も………」

 

「やったらウチのもなんか作ってや♪」

 

戦が終わった洛陽の街に、士郎の叫びがこだました………




次は荊州に帰還します。
ちなみにネックレスに付いていた「干将・莫耶」の能力は
すでに消去しており、只の飾りになっています。

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