真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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4-8 雛落とす刃

光届かぬ牢獄。

 

地上の騒音すら聞こえないここに響くのは、

滴り落ちる水滴の音だけである。

 

「・・・・・・・・・・」

 

その牢獄の一番奥、静かに祈っているのは月。

 

左右上下と後ろは石畳に囲まれ、前は頑丈な鉄格子が塞ぐ。

 

「詠ちゃん・・・・・・恋さん、霞さん、藍さん、弧白さんっ・・・・・・」

 

仲間の無事を祈る月。

 

そのままギュッと、手に持つネックレスに付いた剣を強く握り、

 

「・・・・・士郎さん・・・・・・・」

 

最後にもう一度、強く祈りを捧げた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎が燻る洛陽の街。

瓦礫の合間を縫うように疾駆して行く士郎。

目指しているのは政庁。

 

「こっちの方か・・・・」

 

手に持っている、小さい「陽剣・干将」がついているネックレスを見ながら呟く。

 

そのまま進んで行くと、

 

「桃香っ!!」

 

「あっ!士郎くんっーー」

 

たたたっと小走りに近付いて来る。

 

「月を探してるのか?」

 

「はい。けど、一体何処にいるのか全く分からなくて・・・」

 

「瓦礫が一杯で進みにくいのだー」

 

困った顔を浮かべている愛紗と鈴々。

 

「そうか・・・・・

そういえば星は一緒じゃないのか?」

 

星の姿が見えないので疑問に思った士郎が聞いてくる。

 

「うん・・・・

実はさっき、馬超さんとも合流したんだけど、」

 

「そうか・・・馬超も無事なんだな・・・・」

 

洛陽に入ってから分かれたため心配していたのだが、

桃香の話を聞いてホッと胸を撫で下ろす。

 

「でもっ、変な人たちが出てきてっ、二人が足止めしてくれてるのっ!!」

 

「二人組?・・・・一人は背が低い白装束を来た男だったか?」

 

士郎が聞いている男は左慈のことだろう。

 

「ううん。二人とも背が高かったよ。」

 

「その内の片方の男が、尋常じゃない殺気を放っていました・・・・」

 

話しながら思わず身震いする愛紗。

 

「・・・・・どんな奴だったんだ?」

 

「・・・服は群青のゆったりとした服、紙は長髪を頭の後ろで纏めてました。

細い片刃の、身の丈ほどの長刀を持っていて、どこか飄々とした感じです・・・・」

 

「・・・・・まさか・・・いや、此処には来れないはずだ・・・・」

 

該当する人物が一人いる。

普通ならあり得ない筈だが、自分と言うイレギュラーもあるし、

あの仙人も存在する。

 

それに、もし「アイツ」だった場合、どうやった来たのか情報を集める必要が出てくる。

最悪、他の連中も来る可能性が出てくる。

 

少し考えた後、士郎は手に持っているネックレスを桃香に差し出す。

 

「これは・・・・・・?」

 

「この首飾りに付いている剣が、月の方向を指してるんだ。

これに従って進んでいけば、多分月にたどり着くと思う。」

 

士郎が使用する魔術には「変化」が存在する。

アーチャーはこれで、カラドボルクを矢に改造して使用したりしていた。

 

今回も、互いに引き寄せあう「干将・莫耶」の性質だけを残した、

小さい「干将・莫耶」を作成し、片割れを月に渡していたのだ。

 

ミニチュアし、互いに引き寄せあう性質しか残っていないとはいえ、

仮にも「宝具」である以上、敵の仙人に気付かれてしまう可能性もあったが、

この時代、月ほどの身分であれば、何かしら魔術的な力を持つ装飾品を持つのは、

それほど不自然では無い。

 

月自身が、これを持っていない可能性もあったが、

渡したとき非常に気に入っていたようなので、それは心配はしていなかった。

 

「きれいなのだ~~~」

 

宝石の研磨技術が未熟なこの時代、

光を受け、黒光する「干将」はとても美しかった。

 

「け、けどっ、

こんな綺麗な物貰ってもいいんですかっ!?」

 

「あ、ああ。

月を探すのに必要だし、やっぱり装飾類は女性がつけた方が似合うしな。」

 

「えへへへへっ。大事にしますねっ。」

 

イソイソと首につける桃香。

 

「俺は星と馬超の援護に行ってくるから、月は任せるっ。」

 

「ハイっ。頑張って下さい~~っ!!」

 

駆けて行く士郎を、桃香たちは手を振りながら見送る。

 

「さて、星たちの所へ行くか。」

 

とは言っても、詳しい場所が分からない。

 

とりあえず桃香たちが来た方向へ進もうとすると、

 

「うっふ~~~ん。久しぶりねご主人様♪」

 

瓦礫が吹っ飛んで、筋肉だるまが近寄ってくる。

 

「・・・・・・そう言えば洛陽に行ってるって言ってたな・・・・・・」

 

其れを見て急に疲れた顔を見せる士郎。

 

「あらん?ご主人様元気がないようね。

だったら私のこの熱い口付けで元気を分けて・・・・・」

 

「なんでさっ!!

逆に元気が吸い取られそうだろっ!!」

 

「それは残念ねん・・・・・」

 

一向に話が進まない。

 

「・・・・・貂蝉は星達の居場所が分かるのか?」

 

「さっきまで于吉が居たみたいだから、

多分大丈夫なのねん♪」

 

クネクネしながら答える。

 

「・・・・・案内、頼めるか・・・・・・」

 

「分かったのねん。じゃあ、ついて来るのよ!!」

 

そう言って駆けて行く二人だった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「む・・・?誰か近付いて来てるのかぇ?」

 

桃香たちからは遅れたが、聖たちよりも少し早く洛陽に着いた美羽たち。

 

のんびりと残敵を掃討している途中、誰かが近付いてくるのが見えた。

 

「誰でしょうね~~~

敵兵じゃなかったらいいんですけど~~」

 

危機感を感じさせない口調で答える七乃。

相変わらずの二人である。

 

そうこうしていると、だんだん姿が分かってくる。

 

「あら・・・・・・

確かその旗は袁術さんですねぇ~~~

でしたら・・・・一勝負と行きましょうかっ!!」

 

近付いてきていたのは、先程春蘭と激闘を繰り広げていた弧白だった。

 

ブオンッ!!と風切音をたてながら斧を振りかぶる。

 

春蘭と戦ったときの傷なのか、体に纏うローブは彼方此方に切れ込みが入っている。

 

自身の血と浴びた返り血、燻る炎の色が白いローブを赤く染め、

頭に被るウィンプルからは琥珀色の髪の毛が零れ出ており、光を受けて輝く。

 

弧白自身の武力も相俟ったせいか、言葉に言い表せない雰囲気を発しており、

対峙する二人からすれば、恐怖以外の何者でもない。

 

「な、ななのっ・・・・・

なんとかするのじゃっ!!!」

 

「む、無理ですよう美羽さま~~

あの斧持ってるって事は徐晃さんですよ~~・・・・

私が敵うわけないじゃないですかぁ~~~」

 

「孫策はどこに行ったのじゃ!!」

 

「美羽さまが、「洛陽は妾が一番乗りするのじゃ~」って言って、

置いてきたんじゃないですか~~~」

 

二人が慌てている間も、ドンドン近付いて来る弧白。

 

「な、なんで私たちが狙われてるんですか~~っ」

 

「え?だって、連合軍の兵糧は貴女の軍が管理してるじゃない~~

だから貴女たちの軍を破って、食料を入手しようと思って~~」

 

きちんと斥候を放ち、兵糧の所在を掴んでいる弧白。

のんびりしているが、きちんと仕事をこなしている。

・・・・藍とは大違いである。

 

「貴女たちの兵糧をすべて入手出来れば、

連合軍の進行は止まるし、奪った兵糧はこれからの復興に使えますしね~~~」

 

正に一石二鳥。

 

「ま、待ってくださいっ!!

私たちを殺したら、兵糧が何処にあるかが分からなくなりますよっ!!」

 

苦し紛れだが説得する七乃。

 

「それもそうだけど~~

けど、少なくても貴女たちの進軍は止まるわね~~」

 

弧白のその言葉に閃く七乃。

 

「だ、だったら私たちの軍に投降しませんかっ?

もし投降してくれれば、もう進軍は止めて街の人を救助しますし、

兵糧も余っている分なら上げますから~・・・・・・」

 

「そ、そうなのじゃ!!

もう何人か妾たちに降伏してる者もおるのじゃ!!」

 

「?誰なんですか~~」

 

「確か楊奉って名前でしたねぇ~~」

 

考え込む弧白。

 

「では、先程の条件に追加して貰ってもいいですか。

もし董卓さまを見つけた場合は、殺さないっていうのをです~~」

 

「ど、どうなのじゃ七乃っ!?」

 

「そうですねぇ・・・・・・

今回の大本の人物ですから、他の諸侯に見つかると無理かもしれませんが、

私たちが見つけて、こっそり逃がすのなら問題ないと思います~~」

 

「うん。

でしたら、投降しますね~~」

 

自身と引き換えに、洛陽の民と月を救う選択肢を選んだ弧白。

 

(月さま・・・・・どうかご無事で・・・・・・・)

 

月の安否を祈りながら、救助作業を行い始めた袁術軍に合流したのだった・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煌きながら振るわれる刀。

風を切り裂いて、星に襲い掛かる。

 

「くっ!!」

 

刃は眼前を掠め、前髪が数本持っていかれる。

 

「たあああああっ!!」

 

攻撃後の隙を付いて、小次郎の後ろに回った馬超が刺突を放つが、

小次郎は振るった刀の勢いを利用して回転し、それを避ける。

 

そして、そのまま後ろにいる馬超を薙ぐ。

 

「うわっ!!」

 

武器を弾かれ、切っ先が腕を掠め血が滲んでくる。

 

よく見てみれば、星も馬超も全身彼方此方に小さい切り傷をつけており、

所々、服が血で滲んでいた。

 

「ほう・・・・女子かと思い油断していたが、

中々楽しめる。」

 

刀を霞の構えに持つ小次郎。

切っ先を相手に向けて構える其れは、

対峙している相手を威圧する。

 

「これは少し拙いな・・・・・・」

 

「ああ・・・・・まるで葉っぱに斬りつけてるみたいだな・・・・・・」

 

ゆらりゆらりと、最小限の動きで避ける小次郎を捉えきれない二人。

 

「・・・・ならば、同時に行きませぬか?」

 

「奇遇だな。あたしも其れしか無いと思っていたんだ。」

 

互いに武器を構えなおし、小次郎と対峙する。

 

「・・・・・・・・・」

 

直後、疾駆する二人。

小次郎まで、一直線に駆けて行く。

 

「疾っ!!」

 

霞構えから放たれる突き。

其れを二人は寸前で左右に別れ、回避する。

 

既に、小次郎の攻撃範囲は見切っていた。

 

突いたままの小次郎の左右から、同時に切り込む。

 

右から馬超の袈裟切り、左から星の突き上げ。

 

打ち合わせした訳でもないのに完璧なタイミング。

 

だが、二人がその刹那に見た小次郎の顔は、薄く笑ったままだった。

 

「・・・・悪くない。」

 

二人が避け、再度攻撃に移っている瞬間に構えなおしている小次郎。

背を向け、刀を顔の横一文字に構える。

 

『はあああああっ!!』

 

一瞬頭によぎった不安を掻き消すように突っ込んで行く二人。

 

だが、それでも小次郎には届かなかった。

 

「受けてみよ。

秘剣―――燕返し―――――」

 

同時に奔る三つの軌跡

 

一の太刀で上から振り下ろす馬超の槍を弾き飛ばし、

二の太刀で下から突き上げる星の槍を叩き伏せさせ、

三の太刀で体勢を崩した星と馬超を同時に払い斬る。

 

「くぅっっっっ!!」

「きゃあああっ!!」

 

同時に弾き飛ばされる二人、

体からは夥しい血が出てきており、正に死んでいるかと錯覚しそうだが、

 

「ふむ・・・少し浅かったか・・・・・・」

 

二人の攻撃が想像よりも重かった為小次郎の体制が崩れ、

三の太刀が完全には入らなかったのである。

 

「だがまぁ、決着はついたな。」

 

刀を振るい血糊を払う。

 

「一体・・・・・何が・・・・・・・」

 

力を振り絞って体を起す二人。

だが、もはや立てるだけの体力は残っていない。

 

「説明しても納得はせぬよ。

なに、私自身もよく分かってないからな。」

 

笑いながら話す小次郎。

 

「このまま止めを刺してもいいのだが、

次の相手が来たようだ。」

 

小次郎が目を向けると、そこには干将・莫耶を持って立つ士郎がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貂蝉、二人の治療を頼む。」

 

このまま放っておけば、取り返しがつかなくなってしまう。

しかし、こいつを相手に、そんな余裕は無い。

 

「分かったわん。気をつけてねご主人様。」

 

二人を担いで離れて行く貂蝉。

それを見届けた後、互いに視線を交わす。

 

「やっぱりお前だったのか・・・・」

 

「ほう。誰かと思えばセイバーのマスターではないか。

・・・・・成る程。異物とはそなたの事か。」

 

「どうして、お前が此処に居るんだっ!?」

 

士郎が此処に来る際も、宝石剣と銅鏡を使用してなんとか来れている。

もし、その他の方法で此処に来れるのなら、

世界や協会、教会に追われる士郎としては、非常に拙い自体になってしまうのだ。

 

「それが私も詳しくは分からん。

何、まじゅつには疎いものだからな。

セイバーに敗れた後、座に行けるわけでもなく漂っていると、

急に道が出来て来れただけよ。」

 

恐らく士郎が来た際に、一緒に来てしまったのだろう。

だが、小次郎の答えに疑問が一つ浮かび上がる。

 

「セイバー?お前を倒したのはギルカメッシュじゃないのか?」

 

士郎が柳洞寺に向かった際、

既に小次郎はギルガメッシュの『王の財宝』で敗北した後らしきものしか確認していない。

確かに一度セイバーと戦ったが、その時は引き分けで終わった筈だ。

もし、ありえるとするのなら、

 

「宝石剣を使った時、別の平行世界の道が出来てたのか?」

 

平行世界というのは酷く曖昧である。

何がきっかけで分岐するのか分からないため為、

近いのか遠いのかがよく分からないのだ。

 

「ふっ。大事なのは私が今ここにいることだろう。」

 

その通りである。

此処に存在し、敵対している以上戦わなければならない。

 

「ただ、私はサーヴァントとして此処に召還されているようだがな。」

 

「あの仙人がマスターなのか?」

 

「いや。今のマスターはあの男たちが持っている『本』だ。

全く、今までのマスターは山門にメガネに本。

まともなマスターに出会いたいものだ。

・・・・・まぁ正規の英霊では無いからしかたないよのう。」

 

何処か楽しそうに笑っている小次郎。

 

「セイバーに折られた刀も、于吉が別のものを用意してくれたしのう。」

 

軽く刀を振るう。

士郎はそれを聞いて、咄嗟に解析を行う。

 

(あれは・・・・備中青江(びっちゅうあおえ)じゃない。大包平(おおかねひら)かっ!!)

 

日本刀の中でも童子切安綱と並んで最強の刀とされている一品。

宝具としてならAランク相当の武器である。

 

現存する物は刃渡り約90㎝だが、

小次郎が持っている物は以前使用していたものと同じ位の長さがある。

 

元々長大な為、『大』という名前がついたと言う話もあり、

おそらく『太平要術の書』を悪用したのだろう。

 

小次郎の『燕返し』は宝具ではなく自身の技である為、

武器は選ばない。

 

「さて・・・これよりは互いに剣で話そうではないか」

 

構える小次郎。

剣の技量だけならセイバーをも凌駕した小次郎の剣。

あまりにも、相手が悪すぎる。

 

「ふっ!!」

 

風に揺れる柳のような動きから繰り出される刃。

すべてが必殺の一撃。

 

「くぅっっ!!」

 

それを干将・莫耶で捌くが、正に防戦一方。

 

士郎の剣が届かない位置から、士郎を上回る剣技が繰り出されてくる。

 

唯一戦いの経験だけが小次郎を上回るが、

それだけではその差を埋める事が出来ない。

 

たが、それでも紙一重で捌き続ける。

幾つか体を掠めるが、致命傷には至らない。

 

「ほう・・・・・あの少年が此処までになるとは。

・・・・・やはりあの時のアーチャーはそなただったか。」

 

「気付いたのか・・・・・・」

 

「武器と太刀筋を見ればわかるものよ。

・・・・・さて、余り時間をかけるのも無粋。

これにて終わらせよう。」

 

星と馬超の時と同じように、「燕返し」の構えをとる。

あのセイバーでさえ、万全の状態のこれは回避できない。

 

同じ技を士郎が使用しようにも、

士郎が使用する場合、投影するのは「備中青江」

たしかに名刀だが、大包平には遠く及ばない。

 

簡易宝具では、大包平に切り払われるし、

何より、発動までの間に切り殺される。

 

(だったら・・・っ!!)

 

投影(トレース)開始(オン)

 

士郎が投影したのは一本の刀、銘は「加州清光(かしゅうきよみつ)

 

「いくぞ・・・・っ!!」

 

平正眼の構えをとる士郎。

互いの技と技がぶつかり合った・・・・・・




小次郎召還はかなり強引なこじつけです。

どうか大目に見てもらえれば……

細かい設定まで詰めだしたらちょっと手に負えないので……

ちなみに小次郎が違うルートから来ているのは、
理由があるのでーー

刀を変更したのも、折れ曲がったら困るし、
そもそもセイバーに折れ曲げられていたせいです。

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