前日の追い込みで、政務にも大分余裕が出来た聖たちは
次の仕事に取り掛かっていた。
「とりあえずは天和達の扱いと、人材の発掘、新野の拡張工事。
あとは、月たちとの貿易か。」
士郎がこれからしていく事を読み上げていく。
「とりあえず一個づついきましょうか。」
水蓮の発言に全員が頷く。
「一応聞くけど、天和たちは何がしたいのよ?」
鈴梅が天和たちに質問する。
「歌って、皆を幸せに出来ればいいよ~」
「ちぃも歌えればいいわ。」
「それしか無いわね。」
天和たちは当たり前と言った感じに答える。
「えっと・・・・どうしようか?」
聖の言葉に全員が頭を悩ませる。
まぁ政治や戦はしたことがあるが、アイドルのプロデュースなんかした事が無い為、
こうなるのは当たり前であった。
「とりあえず、歌う場所さえ提供してもらえればあとはなんとかできます。」
この状態では、
今までマネージャー的な事をして来た人和に任せるのが妥当だろう。
「場所か・・・どこか広場みたいな所でいいのか?」
「そうですね。人が集まる所なら大丈夫です。」
そんな人和の言葉に、聖がある事を提案してくる。
「ねぇねぇ。だったら劇場を作らない?」
『劇場?』
その提案に皆が首を傾げる。
「うん。
ほら、今たくさん人が街にきてるよね?
それで環境の違いとかで、色々苦労してると思うから
天和ちゃんたちには、その人たちに為に歌って欲しいんだ。」
聖は頷きながら理由を話し出す。
「成る程。ストレス解消の場所を提供するって言うことか。」
「すとれす?」
聞きなれない言葉に首を傾げる聖。
「あ、ああ。俺の国の言葉さ。
・・・・苛々したりすると、体調を崩したり、他人にきつく当たったりするだろ。」
「ああ・・・確かにそうね・・・・」
どうやら心当たりがあるのか、
水蓮は思いっきり頷いている。
「それで、私たちの歌で元気にしていけばいいの?」
「そうだね~
・・・・如何かな?」
聖に言われ、人和が考えていると、
「私はそれでいいよー」
天和がそれに賛成する。
「だってその人たちがここに流れてきたのは、元々私たちのせいでしょ?
だから、私たちがその人たちを元気にすれば、少しは罪滅ぼしになるかなーって。」
「「姉さん・・・・」」
天和の言葉に皆が静かになる。
天然な性格だが、心の中では気にしていたのだろう。
「で、どうかな。鈴梅ちゃん?」
聖は、この国の政治を取り仕切ってる鈴梅に話しかける。
基本的に大金を動かす際は、鈴梅の承認が必要になっているのだが・・・・・・
「聖さまがいいなら良いに決まってるじゃない。
直ぐに準備するね~」
鈴梅は聖に甘いので、スムーズに話が進んでいく。
まぁ幸い資金は沢山あるし、
一時的だが雇用も増えるので、長い目で見ればお得である。
そう言う事で、襄陽に大きな劇場を作る事が決定したのだった。
「とりあえず・・・・・この件はこれで・・・・終わりです?」
「そうです。担当はまた後で決めるです。」
援里の言葉に蓬梅が頷き、鈴梅が次の話題を話し出す。
「次は人材の発掘と、新野の拡張工事ね。
・・・誰か意見ある?」
「武官と文官どちらも欲しいわよ。それは。」
「あはは・・・・そうだよねぇ・・・・」
水蓮の意見に、聖が苦笑いを浮かべながら頷く。
「新野に沢山人が来てますからっ、
そこから見つけるんじゃないんですかっ?」
玖遠が以前話していたことを質問してくる。
「そうよ。まぁ武官は一人心当たりが居るから、
文官を中心に探した方がいいわね。」
「そうです。で、だれが行きますです?」
蓬梅の質問に全員が静かになる。
それもそうだ。いきなり新野に行かされた挙句、
街の拡張工事と人材発掘を同時に行えというのは、最早いじめである。
それにそれだけの事をするとなると、蓬梅や鈴梅クラスの人間が行く必要が出てくる。
「先に言っとくけど私は嫌よ!
せっかく聖さまと一緒に居られるのにっ!」
「私もです。」
当然の如く聖が大好きな二人は全力で嫌がる。
「水蓮っ、アンタが行きなさいよっ!」
「わ、私だって軍の再編があるのよっ!」
「ずっと一緒に居たくせに、大根はずるいです。」
「しょうがないじゃないっ!」
三人の口げんかが始まる。
「なんだか賑やかだね~」
天和はそれを楽しそうに見ている。
「ち、ちょっと、大丈夫なの?これ。」
「なんで俺に聞くのさ・・・・・・」
「緊張感が無い人たちなんですね・・・・」
地和は慌てて士郎に聞き、人和は呆れている。
そうこうしていると・・・・・
「士郎っ!じゃあアンタが行きなさいよっ!」
鈴梅に急に呼ばれる士郎。
「そういう重大な仕事を俺にさせるのか・・・・・・」
「ええい煩いわね。つべこべ言わずに・・・・・」
「やりなさい!」と言おうとした瞬間、
「士郎君はダメだよ~鈴梅ちゃん。」
聖がそれを止める。
「どうしてですか?聖様?」
蓬梅がその理由を聞くと、
「だって一緒に仕事がしたいんだよう。」
すごく私的な理由である。
「あっ。それなら私も一緒に訓練したいですっ!」
「私も・・・・です・・・」
聖の発言に玖遠や援里も乗ってくる。
「・・・・・・・し~ろ~う~~~~」
「・・・・・・・・・」
聖の発言を聞いた鈴梅が凄い目で睨んで来ており、
蓬梅も無言のプレッシャーをかけてくる。
その迫力に思わず後ずさる士郎。
慌てて水蓮の方に目を向けるが、
「・・・やっぱり・・・・・・男は悪影響ね・・・・・」
なんだかぶつぶつと呟いている。
「なんでさ・・・・・・・」
またややこしい事になっている士郎だった。
このままでは埒が明かないと判断した蓬梅は、
「しょうがないです。こうなったらアイツを行かせるです。」
そう言って入り口の扉を開ける。
其処には・・・・・・
「あ、あれ?」
右手にコップを持って、きょとんとしている向朗が立っていた。
「え~~~と・・・・・・
さようなら~~~」
慌てて逃げ出すが、蓬梅に服を掴まれ止められる。
「盗み聞きしてたです。」
「そ、そんなわけないですよぉ~~~」
余りにも白々しい嘘である。
「まぁ聞いてたのなら話は早いです。
新野にさっさと行くです。」
蓬梅に言われ、ガーンと言う効果音が聞こえて来そうなくらい落ち込む向朗。
「そ、そんなあ・・・・・
私だって沢山用事があるんですよお!
・・・ほらこの書類も今まとめてますしー。」
そう言って、木簡の束を蓬梅の目の前に差し出してくる。
すると、その内の一つが転がり落ち、それを蓬梅が拾う。
「?蓬梅・鈴梅成長日記・・・・・・・」
『・・・・・・・・・・・』
全員が沈黙する。
「左遷決定だな。」
「うえええええぇっ!日記が書けなくなるじゃないですかぁっ!?」
士郎の一言に慌てだす向朗。
「うっさい!そんなもの処分よ処分!」
「そんなああああああ・・・・
子鬼!小悪魔!ちっちゃい人でなし!」
「全部に小さいつけるなっ!!」
鈴梅は思いっきり向朗の脛を蹴りつける。
「ぎにゃーーーー」
「まったく・・・・・この変態は・・・・・」
(いやキミも大して変わらんだろ・・・・・)
「何っ!今失礼なこと考えなかったっ!?」
慌てて首を振る士郎。
「と、とりあえずこれで決定だね。」
「そ、そうですねっ。次の議題にいきますかっ!」
場の空気を入れ替えるように、聖と玖遠は次の議題を促していった。
「次は董卓さま達との貿易ね。」
鈴梅が次の議題を話す。
「うん。
まぁお互いに出す物は決まってるんだけどね。」
聖たちは長江がある為水軍が発展しているが、良い馬が居なく、騎馬軍の扱いは苦手。
月たちは広い平原を駆け抜けるため騎馬軍は得意だが、造船等の技術は皆無。
この為、聖たちは造船技術を。
月は良馬を輸出するのは既に決まっている。
「で、他に何か欲しいものあるかな?」
聖の質問に皆考え込む。
「涼州って確か大秦とも交易してたよね?
そこらの情報も欲しいわ。」
「そうですね。確かに情報が少ないです。」
鈴梅の意見に蓬梅が賛同する。
「ふむふむ。情報と・・・・」
聖は手に持っている木簡に何かを書き込んでいる。
「欲しいものって言っても、特には無いわね。」
「他のもの買うより・・・・・その分・・・
馬を買った方がいいです・・・・・・」
この時代の馬は大変高価である。
基本的に馬は北の方で飼育されている為、
一騎でも多く入手しておきたい。
「それにあんまり要求すると、
霞さんあたりに「士郎さんを持って来い!」って言われそうですねっ。」
「ああ・・・確かに言われそうね・・・・・」
玖遠の発言に水蓮も頷く。
「だったらこの男を出荷して・・・・・・
冗談!冗談です聖さまっ!?」
鈴梅が危ない発言をしだしたが、
聖がむすっとした顔をしたので、慌てて否定する。
「・・・・・・・・・」
ガツッ!!
その様子を見て、無言で士郎の脛を蹴る蓬梅。
「痛っ!なんで蹴られるのさっ!?」
「うっさいです。士郎がわるいです。」
また脱線し始める。
「と、取り敢えず、基本は馬の入手で話を進めておくわよ。」
その様子を見ていた水蓮は強引に場を閉める。
「もう決めておく事は無いのか?」
「そうだね~~
また何かあったら集まるようにするから、大丈夫だよう。」
士郎の質問にのんびりした感じで答える聖。
「じゃあ仕事に戻るか。」
簡単な方針を決定し、各人はそれぞれの仕事に戻っていった・・・・・