真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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2-5 許昌攻略戦

「なんですってっ!?」

 

朝、士郎達が食後のんびりしていると、伝令からの報告に詠が驚いていた。

 

「詠ちゃん・・・何があったの?」

 

月が心配そうに問いかける。

 

「ええ、恋が許昌に向かってるみたいなのよ。

音々音の奴、何やってるのよ・・・・」

 

「確か・・・・私達と・・・・合流する・・・予定でしたけど・・・」

 

「そうよ。確か、恋は一万五千位の兵を連れてるんだけど・・・」

 

「少し・・・厳しい・・・ですね・・・」

 

詠と援里が頭を悩ませる。

 

それとは対照的に、霞は平然としている。

 

「恋がおるなら大丈夫やろ。それに、弧白もついとるし。」

 

「でもね、軍師は音々音よ。

恋と一緒にいるんだから、まともな指揮するわけないじゃない!」

 

詠の発言に霞は飲み物を噴出す。

 

「げほ、げほっ・・・だ、だったらなんでいかせたんや・・・」

 

「反乱の規模が小さかったからよっ。

私達と合流した後だったら、手綱も握れたのにっ!」

 

「じゃあどうすんや?」

 

「・・・・・・」

 

詠が悩んでいると、聖が話し出す。

 

「水蓮ちゃん、今、騎馬兵ってどの位いるのかな?」

 

「確か両軍合わせて約一万って所ね・・・どうするの聖?」

 

「うん。じゃあとりあえず、それで先行したらどうかな?」

 

そのまま聖は月の方に目を向ける。

 

「それがいいですよね。詠ちゃん。」

 

「そうね・・・それだけいれば大丈夫だと思うし・・・・

こっちは霞に先行してもらうわ」

 

「じゃあ・・・こちらは・・・玖遠さんと・・士郎さんに・・・お願いします・・・」

 

詠と援里に頼まれ、士郎たちは頷く。

 

「ウチの本領発揮やん、いくでっ士郎!」

 

ズルズルと士郎を引きずっていく霞。

 

「ちょっ・・・これは(引きずられる)玖遠の役目だろうっ!」

 

「どういう意味ですかっ。」

 

それについて行く玖遠。

 

「私も編成に向かうかしら。手伝ってくれる藍・・・・って大丈夫?」

 

「そうだな・・・」

 

水蓮が声をかけると、なぜか元気が無い藍。

 

「と・・・とりあえず行きましょうか・・・・」

 

そのまま出て行く二人。

 

それを見送った後、詠と援里が作戦を話し合う。

 

「作戦・・・どうします・・・・?」

 

「恋なら下手に策使うより、勢いのまま突っ込むでしょうね・・・・」

 

それに急な出陣なので、こちらも策を仕込む時間も無い。

兵は神速を尊ぶである。

 

「なら・・・・私達も・・・一緒に・・・

鋒矢陣組んで・・・・突っ込んだ方が・・・・良いですね・・・」

 

「多分私達が着く頃には城門破ってそうね。それでいいかしら、月、聖様」

 

「うん。」

 

「私もいいよ~」

 

二人の賛成を得た詠は立ち上がり、

 

「じゃあ。先行部隊と本軍の兵糧の準備しましょう。」

 

そう言って残った四人も出て行く。

 

慌しく士郎たちは出陣していく。

 

「平穏って一瞬だよな・・・」

 

そう呟いて許昌に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、呂布の軍ってどういう編成になってるんだ?」

 

横を並走している霞に士郎が問いかける。

 

「兵の数はさっき話しに出たけど一万五千や。

武将は恋と音々音と弧白が率いとるで。」

 

「どんな人たちなんですかねっ?」

 

途中から玖遠も霞に問いかける。

 

「そやな・・・・恋は呂布って名前でむっちゃ強いで。

けど無口やけん、会話しづらいわ。

音々音は陳宮っていうんやけど、恋の事が大好きな奴やわ。

軍師見習いって所やな。

弧白は除晃って言うて、ウチと同じ位の強さやわ。

やけど流される性格しとるけん、恋達と一緒に許昌攻めにいっとるやろなあ・・・」

 

「なんか・・・個性的な人が多いですねっ。」

 

「そっちも一緒やろっ。」

 

会話を交わしながら走り続ける三人。

 

「・・・ちょっと気になっとったんやけど、士郎、その馬どこで入手したん?」

 

「ああ、襄陽で買ったんだけど・・・どうかしたのか?」

 

「額に白い模様があるし・・・もしかしたら的盧かもしれんなぁと思てな。」

 

「的盧って、あの凶馬ですかっ!」

 

霞の言葉に玖遠が驚く。

 

「そうなのか?まぁ、元々運はいいほうじゃないし、大丈夫だろ。」

 

(解析したときは、かなりの駿馬だったんだけどな・・・)

 

「まぁ気いつけぇや。」

 

そうしていると許昌の姿が見えてくる。

 

「もう始まってるみたいだな・・・」

 

視力を強化した士郎が呟く。

 

「見えるん?」

 

「目は良いんだ。急ごうっ!」

 

「そやねっ!」

 

士郎と霞が馬を加速させる。

 

「は・・・はやいですよーーっ!」

 

二人に置いていかれそうになった、玖遠が慌てて加速させ、

その後ろに続く一万の騎馬兵もスピードを上げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「城門が破られてますっ・・・・」

 

玖遠が許昌の様子を見て呟く。

 

「さすが恋やな・・・」

 

許昌の外には生きている黄巾党の姿は少ない。

おそらく生きてる兵は殆ど許昌城内にいるのだろう。

 

「士郎さんっ、霞さんっ!私が周りの黄巾党の相手をしますからっ、

二人は中をお願いしていいですかっ?」

 

「そうやな・・・もし恋に勘違いされたら、士郎はともかく、玖遠は危ないで。」

 

玖遠の提案に賛成する霞。

 

「じゃあ、とりあえず三千の兵を預けるから任せる。

・・・無理はするなよ。」

 

心配そうに話しかける士郎に、

 

「はいっ!頑張りますっ!」

 

玖遠は元気な返事を返して、移動していった。

 

「じゃあウチらも行こか!」

 

「ああ。」

 

それを見届けた二人は、残った七千の騎馬兵を連れて城内に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは・・・」

 

城内で霞と別れた士郎が見たのは、 竜巻が通った後のような光景だった。

 

道に沿って移動したようで、黄巾党らしき者達が、薙ぎ払われ、両側の民家に吹き飛ばされていた。

 

酷い者になると、家の上にまで飛んでいっている。

 

「呂布がやったんだろうな・・・

だったらこの道を辿れば着くな。」

 

士郎は自分の連れて来た兵達に片付けを命じ、自分はその道を進んでいった。

 

 

 

 

 

そのまま進んで行くと、何人かの兵が見えた。

 

ちっちゃい女の子が馬上で周りの兵に指揮をとっている。

 

「あれは・・・呂布・・・じゃないな・・・

としたら陳宮か?」

 

とりあえず話をしてみないと分からない為、近付いていってみる。

 

「むっ!怪しい奴がいるのです!」

 

陳宮の声に反応し、彼女の周りの兵が守備を固め、槍を士郎に向けて来る。

 

「待ってくれ、敵じゃない。」

 

士郎が両手を挙げて、武器を持ってない事をアピールするが、

 

「そんな怪しい服着てるから、黄巾党に決まってるのです!」

 

「劉表軍の者なんだよ。呂布を捜してるんだが・・・」

 

「恋殿に危害を加えるつもりなのですかっ!

全員こいつを倒すのですっ!」

 

どうやら人の話をちゃんと聞いてないらしい。

もしくは、呂布の事で頭が一杯になってるせいかもしれないが・・・

 

「なんでさっ!」

 

士郎は迫って来る陳宮達から逃げながら、呂布がいる方へ馬を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィンッ、ぐうっ、ドコオッ!!

 

武器を振るう音。それにつづくは苦悶の声に破壊音。

 

間違いない。誰かが、いる。

 

士郎がそこに辿りついた時見たのは、数百の黄巾党の群れと、

その中心に方天画戟を持って立つ一人の少女だった。

 

剣や槍を持って殺気を放つ黄巾党とは対称的に、

少女は、まるで周りに誰もいないかのように自然体で立っている。

 

「ふっ!」

 

少女は浅く息を吐ながら一気に加速し、距離を詰め戟を振るう。

 

ギィンッ!!

 

黄巾党達が構えている武器や鎧に当たった戟が、激しい音をたてる。

 

「ぐうっ!!」

 

思わず苦悶の声をあげた黄巾党が吹き飛ばされ、

 

ドコオッ!!

 

激しい音をたてて、周りの建物に突っ込む。

 

「・・・何処からあれだけの膂力が出てるのさ・・・」

 

余りの光景に思わず呟く士郎。

 

後は同じシーンを見てるかのように、吹き飛ばされていく黄巾党。

 

自然現象に対して人間が無力であるように、

呂布と言う竜巻は、すべての敵兵を薙ぎ払っていった。

 

「・・・・・・」

 

息も切らさずそこに佇む呂布。

 

それを見た士郎は声を掛ける。

 

「呂布殿とお見受けするが?」

 

「・・・・・うん。」

 

士郎の問いに頷く呂布。

 

「私は劉「恋殿ーーーーーーー」っ、来たか・・・・」

 

士郎の話を途中で陳宮が遮る。

 

「どうしたの・・・・音々音?」

 

「恋殿っ!そんな怪しい奴の話を聞いては駄目なのです!」

 

それを聞いた恋は士郎の方を警戒しだす。

 

「だから違うと言ってるだろ・・・」

 

慌てて士郎が音々音の発言を否定するが、

 

「・・・・・・」

 

恋は無言で武器を構える。

 

これは仕方が無いことだった。

自分の軍師の意見と、初めてみる奴の話では、前者の方を信じるのは当然である。

 

「やっぱりこうなるのか・・・・」

 

士郎も干将・莫耶を構える。

 

「ふっ!」

 

丁度そのタイミングで切りかかってくる恋。

力任せに方天画戟を切り下ろす。

 

「ちっ!」

 

寸前避けるが、威力が桁違いだ。

 

(流石は呂布と言ったところか。)

 

まともに受ければ腕が使い物にならなくなるので、回避に徹する。

幸い呂布の攻撃は直線的なので、受け流すのはまだ容易であった。

 

(霞に誤解を解いてもらわないと不味いな・・・)

 

二人の周りは音々音が兵に命じて囲っているため、

士郎も簡単には逃げれないようになっている。

 

そのまま数合打ち合わせると、

 

「・・・・強い。」

 

呂布がポツリと漏らす。

 

「だけど・・・・避けてばかりじゃ勝てない・・・・・」

 

士郎もそんな事は当然分かっている。

 

「・・・・・ならば本気で戦らせてもらおう。」

 

強化(トレース)・・・・開始(オンっ)

 

全身の筋肉に魔力を行き巡らせ、強化する。

 

今までは極めた二流の剣技のみで勝つ事が出来ていたが、

この相手に勝つには其れではきつい。

そう判断した士郎は、全力で恋を迎え撃つことにした。

 

「ふっ!!」

 

再度上から襲ってくる刃。

先程は回避したが――――

 

ギイイィィィン!!

 

士郎がの頭の上で交差された干将・莫耶が其れを防ぐ。

 

「止められた・・・・・・・やる。」

 

並みの武器なら叩き折られるが、干将・莫耶ならその心配も無い。

 

そのまま恋が再度、攻撃しようと振りかぶるが――――――

 

ガキンッ!!

 

振りかぶった状態の方点画戟を、後ろから来た人が止める。

 

「恋さん、ちょっと待って下さいね~」

 

「・・・・弧白・・・どうしたの・・・・」

 

「そうですっ!弧白殿も一緒に戦うのです!」

 

弧白と呼ばれた女性は、そのまま恋の方点画戟を降ろさせながら話し出す。

 

「ですけど~どうやらその人、劉表軍の人みたいです~」

 

それを聞いた音々音は焦った顔を浮かべ、

 

「そ、そんなの嘘かもしれないのです!」

 

「途中で霞さんとも会いましたし~間違いないですよ~」

 

「な、なんでさっきそれを言わなかったのですか!」

 

音々音は士郎の方に視線を向け、士郎を非難してくる。

 

「俺が話す前にそっちが早とちりしたんだろ・・・」

 

すると、武器を下げた恋が士郎に近付いて来て謝る。

 

「ごめん・・・・」

 

「恋殿っ!そんな奴に謝る必要は無いのです!」

 

「・・・・音々音も謝る。」

 

恋が強引に音々音の頭を下げさせる。

 

「別に気にしてないから大丈夫だ。

紛らわしい服装してたこっちも悪いしな。」

 

「ん・・・・ありがと。」

 

そうしていると、左手に錨のような形をした、

長柄の斧を持った女性が近付いて来る。

 

「一件落着したようですねぇ~」

 

「ああ。おかげで助かったよ。」

 

「いえいえ~

私は徐晃 公明 真名は弧白と言います~

お兄さんの名前は?」

 

「衛宮 士郎だ。自由に呼んでくれ。」

 

「分かりました~よろしくお願いしますね、士郎さん~」

 

握手を交わす二人。

 

「ほら、二人も自己紹介してくださいよ~」

 

「真名・・・預けて大丈夫?・・・・」

 

「霞に聞いたら、月様達も真名を預けてるみたいですし~」

 

「そう・・・・・私は呂布・・・奉先・・・・真名は恋・・・」

 

恋は自己紹介した後、音々音を前に押し出す。

 

「わ、分かっているのです!!

私は陳宮 公台 真名は音々音です!」

 

そのままぷいと士郎から視線を逸らす。

 

「素直じゃないですねぇ~」

 

「違うのです!こんな奴どうでもいいのです!」

 

「音々音・・・・静かにする・・・・」

 

「れ、恋殿!やめるのです~」

 

なにか音々音がひどい目に遭っているが、気にしないでおこう。

 

「それにしても全員無事で良かったよ。」

 

「そうですね~

城門を破るまでは大変でしたけど、後は楽でしたよ~」

 

士郎は軽く回りを見回し、

 

「ここの黄巾党の大将はもう倒してるのか?」

 

「確か、恋さんが倒したはずですけど~」

 

話を振られた恋はこっちに目を向ける。

 

「なんか・・・・そんなのがいたような気がする・・・」

 

「大丈夫みたいですね~」

 

「そうなのか・・・・

とりあえず、今本陣の部隊もこっちに向かって来てるから、陣の構築始めるか。」

 

「そうですね~

あ!今霞さん達が着ましたよ~」

 

弧白が指差した方を見ると、霞と玖遠が此方に向かってきているのが分かる。

 

「士郎ーーー生きとるかーーーー」

 

「士郎さーーーんっ!!」

 

その後、士郎は霞と玖遠に揉みくちゃにされ、

聖達が合流した時、皆に白い目で見られていた・・・・




徐晃(じょこう) 公明(こうめい)


真名は弧白(こはく)


他人の意見に流されやすい性格をしているが、
武人としての誇りは高い。
緊急時でも落ち着いているので、部下からの信頼は厚い。

髪は琥珀色のセミロングで、
普段は白いウィンプルを頭に被っている。

服はゆったりとした白いローブを着ており、
まるでシスターさんのようにも見える。

武器は湖氷牙断(こひょうがだん)

錨のような形をした、長柄の戦斧。

恋の攻撃を止める際は、錨の内側に引っ掛けた。

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