「なんですってっ!?」
朝、士郎達が食後のんびりしていると、伝令からの報告に詠が驚いていた。
「詠ちゃん・・・何があったの?」
月が心配そうに問いかける。
「ええ、恋が許昌に向かってるみたいなのよ。
音々音の奴、何やってるのよ・・・・」
「確か・・・・私達と・・・・合流する・・・予定でしたけど・・・」
「そうよ。確か、恋は一万五千位の兵を連れてるんだけど・・・」
「少し・・・厳しい・・・ですね・・・」
詠と援里が頭を悩ませる。
それとは対照的に、霞は平然としている。
「恋がおるなら大丈夫やろ。それに、弧白もついとるし。」
「でもね、軍師は音々音よ。
恋と一緒にいるんだから、まともな指揮するわけないじゃない!」
詠の発言に霞は飲み物を噴出す。
「げほ、げほっ・・・だ、だったらなんでいかせたんや・・・」
「反乱の規模が小さかったからよっ。
私達と合流した後だったら、手綱も握れたのにっ!」
「じゃあどうすんや?」
「・・・・・・」
詠が悩んでいると、聖が話し出す。
「水蓮ちゃん、今、騎馬兵ってどの位いるのかな?」
「確か両軍合わせて約一万って所ね・・・どうするの聖?」
「うん。じゃあとりあえず、それで先行したらどうかな?」
そのまま聖は月の方に目を向ける。
「それがいいですよね。詠ちゃん。」
「そうね・・・それだけいれば大丈夫だと思うし・・・・
こっちは霞に先行してもらうわ」
「じゃあ・・・こちらは・・・玖遠さんと・・士郎さんに・・・お願いします・・・」
詠と援里に頼まれ、士郎たちは頷く。
「ウチの本領発揮やん、いくでっ士郎!」
ズルズルと士郎を引きずっていく霞。
「ちょっ・・・これは(引きずられる)玖遠の役目だろうっ!」
「どういう意味ですかっ。」
それについて行く玖遠。
「私も編成に向かうかしら。手伝ってくれる藍・・・・って大丈夫?」
「そうだな・・・」
水蓮が声をかけると、なぜか元気が無い藍。
「と・・・とりあえず行きましょうか・・・・」
そのまま出て行く二人。
それを見送った後、詠と援里が作戦を話し合う。
「作戦・・・どうします・・・・?」
「恋なら下手に策使うより、勢いのまま突っ込むでしょうね・・・・」
それに急な出陣なので、こちらも策を仕込む時間も無い。
兵は神速を尊ぶである。
「なら・・・・私達も・・・一緒に・・・
鋒矢陣組んで・・・・突っ込んだ方が・・・・良いですね・・・」
「多分私達が着く頃には城門破ってそうね。それでいいかしら、月、聖様」
「うん。」
「私もいいよ~」
二人の賛成を得た詠は立ち上がり、
「じゃあ。先行部隊と本軍の兵糧の準備しましょう。」
そう言って残った四人も出て行く。
慌しく士郎たちは出陣していく。
「平穏って一瞬だよな・・・」
そう呟いて許昌に向かっていった。
「今、呂布の軍ってどういう編成になってるんだ?」
横を並走している霞に士郎が問いかける。
「兵の数はさっき話しに出たけど一万五千や。
武将は恋と音々音と弧白が率いとるで。」
「どんな人たちなんですかねっ?」
途中から玖遠も霞に問いかける。
「そやな・・・・恋は呂布って名前でむっちゃ強いで。
けど無口やけん、会話しづらいわ。
音々音は陳宮っていうんやけど、恋の事が大好きな奴やわ。
軍師見習いって所やな。
弧白は除晃って言うて、ウチと同じ位の強さやわ。
やけど流される性格しとるけん、恋達と一緒に許昌攻めにいっとるやろなあ・・・」
「なんか・・・個性的な人が多いですねっ。」
「そっちも一緒やろっ。」
会話を交わしながら走り続ける三人。
「・・・ちょっと気になっとったんやけど、士郎、その馬どこで入手したん?」
「ああ、襄陽で買ったんだけど・・・どうかしたのか?」
「額に白い模様があるし・・・もしかしたら的盧かもしれんなぁと思てな。」
「的盧って、あの凶馬ですかっ!」
霞の言葉に玖遠が驚く。
「そうなのか?まぁ、元々運はいいほうじゃないし、大丈夫だろ。」
(解析したときは、かなりの駿馬だったんだけどな・・・)
「まぁ気いつけぇや。」
そうしていると許昌の姿が見えてくる。
「もう始まってるみたいだな・・・」
視力を強化した士郎が呟く。
「見えるん?」
「目は良いんだ。急ごうっ!」
「そやねっ!」
士郎と霞が馬を加速させる。
「は・・・はやいですよーーっ!」
二人に置いていかれそうになった、玖遠が慌てて加速させ、
その後ろに続く一万の騎馬兵もスピードを上げていった。
「城門が破られてますっ・・・・」
玖遠が許昌の様子を見て呟く。
「さすが恋やな・・・」
許昌の外には生きている黄巾党の姿は少ない。
おそらく生きてる兵は殆ど許昌城内にいるのだろう。
「士郎さんっ、霞さんっ!私が周りの黄巾党の相手をしますからっ、
二人は中をお願いしていいですかっ?」
「そうやな・・・もし恋に勘違いされたら、士郎はともかく、玖遠は危ないで。」
玖遠の提案に賛成する霞。
「じゃあ、とりあえず三千の兵を預けるから任せる。
・・・無理はするなよ。」
心配そうに話しかける士郎に、
「はいっ!頑張りますっ!」
玖遠は元気な返事を返して、移動していった。
「じゃあウチらも行こか!」
「ああ。」
それを見届けた二人は、残った七千の騎馬兵を連れて城内に入っていった。
「これは・・・」
城内で霞と別れた士郎が見たのは、 竜巻が通った後のような光景だった。
道に沿って移動したようで、黄巾党らしき者達が、薙ぎ払われ、両側の民家に吹き飛ばされていた。
酷い者になると、家の上にまで飛んでいっている。
「呂布がやったんだろうな・・・
だったらこの道を辿れば着くな。」
士郎は自分の連れて来た兵達に片付けを命じ、自分はその道を進んでいった。
そのまま進んで行くと、何人かの兵が見えた。
ちっちゃい女の子が馬上で周りの兵に指揮をとっている。
「あれは・・・呂布・・・じゃないな・・・
としたら陳宮か?」
とりあえず話をしてみないと分からない為、近付いていってみる。
「むっ!怪しい奴がいるのです!」
陳宮の声に反応し、彼女の周りの兵が守備を固め、槍を士郎に向けて来る。
「待ってくれ、敵じゃない。」
士郎が両手を挙げて、武器を持ってない事をアピールするが、
「そんな怪しい服着てるから、黄巾党に決まってるのです!」
「劉表軍の者なんだよ。呂布を捜してるんだが・・・」
「恋殿に危害を加えるつもりなのですかっ!
全員こいつを倒すのですっ!」
どうやら人の話をちゃんと聞いてないらしい。
もしくは、呂布の事で頭が一杯になってるせいかもしれないが・・・
「なんでさっ!」
士郎は迫って来る陳宮達から逃げながら、呂布がいる方へ馬を走らせた。
ギィンッ、ぐうっ、ドコオッ!!
武器を振るう音。それにつづくは苦悶の声に破壊音。
間違いない。誰かが、いる。
士郎がそこに辿りついた時見たのは、数百の黄巾党の群れと、
その中心に方天画戟を持って立つ一人の少女だった。
剣や槍を持って殺気を放つ黄巾党とは対称的に、
少女は、まるで周りに誰もいないかのように自然体で立っている。
「ふっ!」
少女は浅く息を吐ながら一気に加速し、距離を詰め戟を振るう。
ギィンッ!!
黄巾党達が構えている武器や鎧に当たった戟が、激しい音をたてる。
「ぐうっ!!」
思わず苦悶の声をあげた黄巾党が吹き飛ばされ、
ドコオッ!!
激しい音をたてて、周りの建物に突っ込む。
「・・・何処からあれだけの膂力が出てるのさ・・・」
余りの光景に思わず呟く士郎。
後は同じシーンを見てるかのように、吹き飛ばされていく黄巾党。
自然現象に対して人間が無力であるように、
呂布と言う竜巻は、すべての敵兵を薙ぎ払っていった。
「・・・・・・」
息も切らさずそこに佇む呂布。
それを見た士郎は声を掛ける。
「呂布殿とお見受けするが?」
「・・・・・うん。」
士郎の問いに頷く呂布。
「私は劉「恋殿ーーーーーーー」っ、来たか・・・・」
士郎の話を途中で陳宮が遮る。
「どうしたの・・・・音々音?」
「恋殿っ!そんな怪しい奴の話を聞いては駄目なのです!」
それを聞いた恋は士郎の方を警戒しだす。
「だから違うと言ってるだろ・・・」
慌てて士郎が音々音の発言を否定するが、
「・・・・・・」
恋は無言で武器を構える。
これは仕方が無いことだった。
自分の軍師の意見と、初めてみる奴の話では、前者の方を信じるのは当然である。
「やっぱりこうなるのか・・・・」
士郎も干将・莫耶を構える。
「ふっ!」
丁度そのタイミングで切りかかってくる恋。
力任せに方天画戟を切り下ろす。
「ちっ!」
寸前避けるが、威力が桁違いだ。
(流石は呂布と言ったところか。)
まともに受ければ腕が使い物にならなくなるので、回避に徹する。
幸い呂布の攻撃は直線的なので、受け流すのはまだ容易であった。
(霞に誤解を解いてもらわないと不味いな・・・)
二人の周りは音々音が兵に命じて囲っているため、
士郎も簡単には逃げれないようになっている。
そのまま数合打ち合わせると、
「・・・・強い。」
呂布がポツリと漏らす。
「だけど・・・・避けてばかりじゃ勝てない・・・・・」
士郎もそんな事は当然分かっている。
「・・・・・ならば本気で戦らせてもらおう。」
(
全身の筋肉に魔力を行き巡らせ、強化する。
今までは極めた二流の剣技のみで勝つ事が出来ていたが、
この相手に勝つには其れではきつい。
そう判断した士郎は、全力で恋を迎え撃つことにした。
「ふっ!!」
再度上から襲ってくる刃。
先程は回避したが――――
ギイイィィィン!!
士郎がの頭の上で交差された干将・莫耶が其れを防ぐ。
「止められた・・・・・・・やる。」
並みの武器なら叩き折られるが、干将・莫耶ならその心配も無い。
そのまま恋が再度、攻撃しようと振りかぶるが――――――
ガキンッ!!
振りかぶった状態の方点画戟を、後ろから来た人が止める。
「恋さん、ちょっと待って下さいね~」
「・・・・弧白・・・どうしたの・・・・」
「そうですっ!弧白殿も一緒に戦うのです!」
弧白と呼ばれた女性は、そのまま恋の方点画戟を降ろさせながら話し出す。
「ですけど~どうやらその人、劉表軍の人みたいです~」
それを聞いた音々音は焦った顔を浮かべ、
「そ、そんなの嘘かもしれないのです!」
「途中で霞さんとも会いましたし~間違いないですよ~」
「な、なんでさっきそれを言わなかったのですか!」
音々音は士郎の方に視線を向け、士郎を非難してくる。
「俺が話す前にそっちが早とちりしたんだろ・・・」
すると、武器を下げた恋が士郎に近付いて来て謝る。
「ごめん・・・・」
「恋殿っ!そんな奴に謝る必要は無いのです!」
「・・・・音々音も謝る。」
恋が強引に音々音の頭を下げさせる。
「別に気にしてないから大丈夫だ。
紛らわしい服装してたこっちも悪いしな。」
「ん・・・・ありがと。」
そうしていると、左手に錨のような形をした、
長柄の斧を持った女性が近付いて来る。
「一件落着したようですねぇ~」
「ああ。おかげで助かったよ。」
「いえいえ~
私は徐晃 公明 真名は弧白と言います~
お兄さんの名前は?」
「衛宮 士郎だ。自由に呼んでくれ。」
「分かりました~よろしくお願いしますね、士郎さん~」
握手を交わす二人。
「ほら、二人も自己紹介してくださいよ~」
「真名・・・預けて大丈夫?・・・・」
「霞に聞いたら、月様達も真名を預けてるみたいですし~」
「そう・・・・・私は呂布・・・奉先・・・・真名は恋・・・」
恋は自己紹介した後、音々音を前に押し出す。
「わ、分かっているのです!!
私は陳宮 公台 真名は音々音です!」
そのままぷいと士郎から視線を逸らす。
「素直じゃないですねぇ~」
「違うのです!こんな奴どうでもいいのです!」
「音々音・・・・静かにする・・・・」
「れ、恋殿!やめるのです~」
なにか音々音がひどい目に遭っているが、気にしないでおこう。
「それにしても全員無事で良かったよ。」
「そうですね~
城門を破るまでは大変でしたけど、後は楽でしたよ~」
士郎は軽く回りを見回し、
「ここの黄巾党の大将はもう倒してるのか?」
「確か、恋さんが倒したはずですけど~」
話を振られた恋はこっちに目を向ける。
「なんか・・・・そんなのがいたような気がする・・・」
「大丈夫みたいですね~」
「そうなのか・・・・
とりあえず、今本陣の部隊もこっちに向かって来てるから、陣の構築始めるか。」
「そうですね~
あ!今霞さん達が着ましたよ~」
弧白が指差した方を見ると、霞と玖遠が此方に向かってきているのが分かる。
「士郎ーーー生きとるかーーーー」
「士郎さーーーんっ!!」
その後、士郎は霞と玖遠に揉みくちゃにされ、
聖達が合流した時、皆に白い目で見られていた・・・・
真名は
他人の意見に流されやすい性格をしているが、
武人としての誇りは高い。
緊急時でも落ち着いているので、部下からの信頼は厚い。
髪は琥珀色のセミロングで、
普段は白いウィンプルを頭に被っている。
服はゆったりとした白いローブを着ており、
まるでシスターさんのようにも見える。
武器は
錨のような形をした、長柄の戦斧。
恋の攻撃を止める際は、錨の内側に引っ掛けた。