転生オリ主チートハーレムでGO(仮)~アイテムアビリティこれだけあれば大丈夫~ 作:バンダースナッチ
時間と空間をあやつる『時魔法』を使う戦士。
神の決め給う法則をもてあそぶ魔道士。
若干の勢いと幾分かの打算による考えによって、モンスター討伐に参加……もとい指揮を執ることになった。
指揮とは言っても現段階ではほぼお飾り状態なのかもしれないが。
さて、現在の自分の戦力を分析してみよう。
魔法職はほぼマスター状態、接近戦も技術は高いのだろう。
しかし、現在まだ10歳のこの体で剣を振るったところで何れ程の効果があるかは疑問に残るところだろう。
つまり、私自身の行動は魔法に偏ることになる。
魔法関係のアビリティは魔法攻撃力・防御力UP、消費MP半減、ショートチャージと既にやりすぎな感が出ている気がする。
さらに、一応の準備としてエリクサー、ハイエーテル、エクスポーション、フェニックスの尾を習得しておく。
移動方法も多岐にわたっているが、今回は普通の状態で問題ないだろう。
あとの問題は魔法を主体とするならば装備をどうするかという点か。
現在は金の髪飾りを装備しているだけであるが、流石に戦闘に行くのにこれ以外を装備しない等というのは有り得ない事だ。
魔法を主体として装備を選択するならば武器はウィザードロッド、頭装備はこのままでいいとして体装備をどうするか……。
出来れば強力な装備をしたいが流石に胴体では目立ってしまう……マントに縫い付けるとかか?
いずれにせよ、あまり目立たないようなローブが好ましい事は確かだ。とりあえずいくつかのローブを取り出して見る。
ローブオブロード・光のローブ・黒のローブ・白のローブ・カメレオンローブ・魔術師のローブ……
理想としては一番目のローブオブロードなのだが……いかんせん目立つ。結構豪華な感じの装飾がついてしまっているので流石にどうかと思うのだ。
光りのローブはなんかキラキラ光ってるしこれも却下か……?
となるとその下あたりになるのだが……黒のローブなどはいい感じではないだろうか?
漆黒と表現できる足首まで覆えるような長さのローブである。これなら上からマントを着ればあまり目立たないのではないかと思う。
……こうして鏡の前に立って服を取っ替え引っ変えしてると女性の服選びに思えてしまったあたり、まだ緊張感が足りていないのだろうか。
そんな考えが頭に浮かんでいた時に、それを打ち消すようにノックの音が部屋に響いた。
「トリス、入るわよ」
ノックが聞こえた時点で慌てて装備を隠し、返事を返そうとするがその前に扉が明けられた。どうやら我が母のようだ。
「どうかしたかな、母さん」
「どうかしたじゃないわよ、なぜトリスが討伐隊を出すなんて話になってるのかしら?」
そういう話か。まぁ確かに考えても見れば寝耳に水な話であろうことは予想が付くが……、こちらとしてもいい経験にはなると判断もしているのだ。
「何故と言われても……誰かがどうにかしなければならない問題だよね」
「だから、それがあなたである必要はないでしょ。グレアムや兵にでも任せておきなさい」
それで解決しないのが問題になっている事には気づいていないのだろうか?
今回の問題の一つに領主側が主導しなければならないのだ。その為にはただ兵を出すだけではなく、それを指揮する立場の人間がいなければならない。
ただの討伐や間引きだけならば現在居る兵だけでも問題ないのだが、町側からの強い要請が出てしまっている段階まで事が大きくなってしまったのが痛い。
とは言え、それをここで論じても意味が無いのだろう。それが分かっていれば今の発言は出ないはずなのだから。
「んー、だけどボルミア先生からは貴族にはそういう義務があるって教わったし。
今回がその場面なんじゃないのかな」
「そうね、建前としてはあるわね……だけどまだ子供のトリスには誰もそれを要求してないわ」
「だけど父もダレンさんも居ないんだから今居る僕がどうにかするべきでしょ、さすがにエストに任せる訳にもいかないしね」
「そういう話じゃなくて!」
これはもう話が平行線のまま進みそうな感じがする。
埓があかないので母を回れ右の状態にさせ、ぐいぐいと背中を押して部屋から出してしまう。勿論心配してくれることは嬉しいのだが、私としてもやはりいつかは戦闘を経験しなければならないのだ。
「大丈夫だよ、兵の皆もついて来てくれるし。それに直接戦わないで補助に徹するだけだからさ!」
「ちょっと! トリス押さないで! こらっ!」
母を部屋から押し出し、今度は廊下で問答が始まりそうになったところで助け舟がやって来た。
「お二人共、どうなされましたか」
やって来たのはグレアムさん、その後ろには使用人の一人が装備の入った籠を持っている。
見たところローブや杖などの魔術師系装備だ。まぁ魔法で援護役に入るという条件をつけたのだから当然といえば当然なのだが。
「グレアム……」
「ブランシュ婦人、トリスタン様については先ほども説明した通りです。
今現在ではブランシュ家という旗印が必要なのです」
そう言いながらグレアムさんは頭を深く下げ、後ろに控えている使用人にこちらと一緒に部屋に入るように促してきた。
母の方はそれでも不満そうな顔をしているが、こちらを止めようとせずにグレアムさんの方へと矛先を向けたようだ。
ここからは大人同士の会話なようなので大人しくグレアムさんに任せる事にしておくのが良いのだろう。というか私自身も若干面倒になってきているのが本音なのだが。
二人が場所を移すのを見届け、改めて準備に取り掛かることにする。
グレアムさんたちが持ってきてくれた装備はシルクのローブとホワイトスタッフだった。若干装備のレベルが低いように感じるのだが、そもそも我が家には魔法系のジョブの人間がいないのだから仕方ないのだろうか。
しかし、ある意味困った装備である。今の今までどれ位強い装備を誤魔化せるかと悩んでいたところなのだ。私としてもこの装備で向かうのは若干不安……なのでこの際大きめのマントだけを活用して残りはアイテムボックスの中に入れてしまった。
杖だけは出るときだけ取り出せばいいだろう。
結局装備はウィザードロッド、金の髪飾り、黒のローブ(マントの下)、そしてアクセサリーに魔力の小手を装備する。
完全に魔法強化装備になっている気がする、ジョブも黒魔道士に変更してしまおう。
トリスタン Lv.02 Exp.10
Brave 67 Faith 69
HP 38/38(+98) MP 12/12(+56)
黒魔道士
魔法AT+4 炎雷冷強化 沈黙無効
これで私自身の準備は問題ないだろう、後は先ほどの籠の中に入っていた道具袋の中に入ってるポーションのいくつかをエーテルに変えておけば問題ないだろう。
ローランドとステラについては……後方に配置しておきたいのが本音であるし、前衛に出すつもりはないがそれでも何か必要になるだろう。
ローランドには弓を持たせてやりたいが、流石に今の体格で戦闘用の大きな弓はキツイと判断しボウガンを選択、サイズも手頃なクロスボウを。
ステラには回復役を担ってもらいたいが、MPの問題もあるし回復アイテムの数も限りがあるであろう事を考えていやしの杖を選んだ。
この杖は殴ると回復するという効果なのだが、実際にはどうなのだろうか……。流石に自分で自分を殴るというのも変な気分がしたので後は現地で試せばいいだろう。
もしダメならその時は魔法とアイテムで頑張ってもらうしかないか。
結局その後グレアムさんと母は部屋にくる事は無かった。
とりあえずの説得はできたのであろうと判断し、今日は早めに休む事にした。
翌日になり、幾つかの装備を道具袋に押し込み屋敷の前へと行くと既に兵の人たちが集まっていた。そしてその中にローランド、ステラ、それにエニル先生が居る。
「……って、エニル先生何やってるんですか?」
「奥方様に頼まれてね、私もついて行くことになったんですよ
ご安心ください、まだ白魔法ではトリス君にも負けていませんから」
そう言いながら優しい笑顔をこちらに向けてきてくれた。
確かに考えてみれば白魔法などの授業はエニル先生からも学んでいるのだ。それに神職についているし回復役は専門にあたるのだろう……多分。
特に問題無いと考え、改めて出発の準備へと取り掛かかろうとしたら次は母に再び捕まってしまった。
「いいわねトリス、あなたは怪我しないように後ろの方で指揮していなさい
それと、エニル先生たちの言う事をしっかり聞くのよ」
「兄さん、気をつけてね」
「大丈夫だよ母さん、流石に僕も初戦闘で無理はしないよ。
エストもそんなに心配しないでいいからさ」
と、言いつつ全力で魔法を使うつもり満々なのは内緒である。
母の後ろに隠れていたエストも前出て声をかけてくれた。
準備自体はほぼ終わっているようで、私たちを含む合計34名がフィーナスの町へと出発することになった。
「ではトリスタン様、こちらにお乗り下さい」
「こちらって……チョコボかぁ」
警備隊長が連れてきたのは一回り程大きいチョコボだった。
というか大きい、こちらの身長が低い事もあるが倍以上だ。
「こちらのチョコボは大人しいので乗りやすいですよ。人にも慣れてますからトリスタン様は乗っているだけで後は任せてしまって構いせんので」
「そっか、それなら安心だけど……戦争には連れていかなったの?」
「はい、このチョコボは足が遅いので戦場向きではないんですよ。
遠乗りなどだったら最適なんですがね」
そういう理由もあるのか、しかしチョコボか……こうして見るとフサフサなダチョウのようにも見える。というか柔らかい、すっごいフサフサだ。モフモフだ。
ゆっくりと背中に乗ろうとすると、乗りやすい用にかがんでくれるあたり頭もいいのだろう。というかモフモフしすぎてるので背中に抱きつく状態が非常に気持ちいい。
「……いいなぁ、私も乗りたい」
「トリスずりー」
二人が羨ましそうにこちらを見ている、エニル先生にやんわりと窘められているが、その様子を見たチョコボが再びかがみ……。
「クエ」
「これって俺たちも乗っていいのかな!?」「トリス様、乗っていいですか?」
警備隊長が苦笑いしているが、子供3人位なら問題ないでしょうと認めてくれた。そしてチョコボの方も特に問題なく二人を背中へと乗せてくれた。
ステラ、私、ローランドの順に乗り、改めて町へと出発する事が出来た。
フィーナスの町を経由し、フィナス河を上りゼアラ山脈麓に広がる草原へと辿りついた。
ゼアラ山脈方面は深い森に覆われているが、麓のほうは比較的なだらかな草原となっている。その道に近い所で小規模ながら拠点を作る事になった。
「それでは、拠点作成の人員以外は周囲を探索しましょう」
「よーし! やるぞー!」
「ああ、ローランドとステラはここだからね」
地面を指差しながら張り切るローランドを止めておく、というか後方でという条件で来たのに何故既に全力参加するつもりなのだろうかと突っ込みたくなったが、とりあえず抑えておく。
「えー、だってトリスは行くんだろ? だったら俺も行くぜ」
「ダメだよローランド、私たちはこっちで皆のお手伝いしなきゃ」
それでも尚もごねるローランドだったりするが、流石にここは連れては行けない。
兵とは言え警備主体のメンバーに残りは普通の町の人間なのだ、皆誰かを気遣いながら戦える余裕等ないだろう。私自身も人のことは言えない状態ではあるが。
「はぁ……エニル先生、ローランド達を見ててください」
「そうですね、これで勝手な行動されたらそれこそ危険ですからね
トリス君、君もくれぐれも気をつけて」
「はい。それとローランドとステラ、はいこれ」
若干ふてくされた顔をしてるローランドと緊張気味のステラに持ってきた武器を渡しておく。後方とは言え、いざという時がないとも限らない。
「これって……自動弓? 俺普通の弓しか使ったことないぜ?」
「わー、これって杖ですよね! 有難うございます!」
「ローランドの体格じゃ普通の弓じゃ心もとないでしょ、万が一のためね。
それとステラに渡した杖は叩いた相手を治療出来るっていう杖らしいよ」
ローランドは新しい武器を渡した事でそっちに集中しだしてくれている、ステラは魔法使いらしい杖を持てて興奮した様子だ。
ステラに渡した杖を見てエニル先生がそれの説明をしてくれた。
曰くケアルの魔力を封じ込めた杖で、その魔力を相手に振り掛けるように使うらしい。もちろん叩いても問題ないし、そちらのほうが効果はあるらしいのだが。
「怪我人の方がさらに叩かれるなんて嫌うでしょう?」
との事だ。それでもそこまで珍しいものでは無いらしいのだが、使える回数は封じ込められてる魔力に依存するので、無制限ではないらしい。
ともかくローランドが新しい武器に夢中になってるあいだに出発することにした。
現在の人員は正規兵25名、町人30名である。回復用のアイテムなどはブランさんが用立ててくれたようで、ある程度の数は揃っているらしい。
正規兵から5名と猟師等弓を扱ったことのある人を含め、弓隊を25名編成。
残りの正規兵20名と残りの町の人10名の30人が剣や斧等を持つ歩兵役になった。
魔法を使えるのは私とエニル先生、そしてステラを除けば町の人からは1人しか出てこなかったが、その人は女性でかつ戦闘した経験が無い為このまま拠点のほうで治療に当たってもらったほうがいいと考え、そちらで待機してもらっている。
しかし、こうして回りの人たちの装備を見てみると非常に心許無い。
正規兵とは言え、警備をしている人たちの装備は出兵した人達に比べてランクが落ちているらしく、皆ブロードソードに革の鎧だ。
隊長のみもう1ランク上の装備だが、街の人たちは名も無き剣や木こり用の斧に服といった所だろうか。
なんとも言えない気持ちになってしまった。
「トリスタン様、あっちにモンスターの群れが!」
ほのかに寂しい気持ちになっていると、偵察に出ていた兵が戻ってきたようだ。
その慌てようから察するに結構な数がいるのだろうか?
「落ち着け、種族と数は?」
こちらが反応する前に警備隊長がそう返した。
「は、はい。レッドパンサーの群れです。数は30以上!」
「30だと……他の種族はいないのか?」
何やら二人が深刻そうに離しているが、若干蚊帳の外に置かれている感が否めない。それに回りの人たちも随分と驚いているようだ。
レッドパンサーは確か初期から出てくる虎と猫を足して2で割ったような敵だったはずだ。しかし30は若干多い、作中では多くても10程度だったはずだ。
まぁ、流石にこうした現実とゲームとでは色々と違うだろう。
「ともかく、ここで話し合ってても仕方ないし行こうか」
「……そうですね、行きましょう」
偵察してきた兵に案内を任せ、小高い丘の上へと辿りついた。
そこから少し離れた場所にわらわらと群れをなしているレッドパンサー達。幸いまだこちらには気づいていないようだが、こうして見ると中々に威圧感のある存在だ。
とは言え、私たちは討伐に来たのだ。見物にきたわけでは無い。
アビリティに白魔法をセットし、戦闘直前の準備をする。
こういった時はどちらかというとMMOの様なゲームのイメージのほうが強い気がしてならない。
「それじゃあ皆なるべく集まってくれるかな」
「集まるって……何かするつもりですか?」
「そりゃあ今日は援護っていう名目だからね、魔法の範囲が分からないからなるべく寄ってくれるかな」
まず集めるのは前衛役の人たち、選択する魔法はプロテジャだ。
元々の装備に不安が残るが、何も無いよりはマシだろう。消費MPもMP半減をつけているため、それほど大きくもない。
「大気に散る光よ、その力解き放ち 堅牢なる鎧となれ! 『プロテジャ』」
魔力の光が広がり、周囲に集まった人たちを包んでいく。その光はそれぞれの体を包、あたかも鎧のように変化していった。
「これは……ここまで魔法を扱えるようになっていたのですか?!」
周囲から驚きの声が漏れ、警備隊長も随分と驚いている。
が、これだけではまだ不安が残るというものだ。時魔法に変更し、今度はなるべく全員を集め次の詠唱を始める。
「時の流れよ、我が身を包み込み 巨大な渦をなせ… 『ヘイスジャ』」
これでとりあえずの形になるだろう、攻撃力を上げる魔法がないのが残念なところだが。
周囲の驚きの声を抑え、次の行動を促すために指示を出す。魔法に効果時間が存在する以上、なるべく早めに行動するべきだ。
「と、言うわけで弓隊攻撃用意」
「は、はい!」
こちらで魔法を使ったことにより、存在に気がついたレッドパンサーの群れがこちらへと向かって走り出してきている。
だが、こちらの位置は丘の上。ポジションで言えば非常に有利と言えるだろう。
「斉射!」
25本の矢が風切り音をたてながら敵へと刺さっていく。だが、その殆どが威力不足であり、足止め程度の役割しか果たしていない。
だが、それでもあたっている矢はしっかりとダメージになっているのだから、それほどの脅威では無いのだろう。
しかしこのままぶつかっては無駄に被害が出てしまう、という訳でそろそろ遠慮なく魔法を使う場面が来たという事だろう。勿論攻撃魔法だ。
「地の砂に眠りし火の力目覚め 緑なめる赤き舌となれ! 『ファイラ』」
ショートチャージに加え、魔法攻撃力UP、さらに魔法AT追加された状態での黒魔法である。
こちらへと突進してくる集団の足元から幾筋もの炎が立ち上り、敵の集団を飲み込んでいく。
所々で爆発を起こしながら敵の中央を燃やし尽くしていく。
「……ふぅ、それじゃあ歩兵隊」
「え? あ、はい! よし、歩兵隊突撃するぞ! 警備隊は無傷の敵を、志願兵は止めを刺していけ!」
残った歩兵隊は大声を上げながら完全に勢いをくじかれた敵へと突っ込んでいった。
形勢は最早決まっているような状況であり、無傷のモンスターも歩兵が着く頃には数発の矢を受けている状況だ。
それでもまだ動ける敵に対しては2名以上であたり、ほぼ一方的に倒していけている。
今まで使った魔法に比べてランクの高い魔法を連続で使った事もあるが、例えモンスターと言えどこうして矢で撃たれ、剣で切られ、魔法で焼かれる場面を見るとこみ上げてくるものがある。
肉のこげた臭いが風に乗ってこちらまで届いた所で思わず嘔吐をしてしまったのは無理ないことだと思いたい。
「トリスタン様、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫……ちょっと気分が悪くなっただけだから
とりあえず、あの群れは問題無く倒せそうかな?」
「はい、あの魔法のおかげで体が非常に軽く感じましたよ。
突撃した者たちもプロテスに守られているので大きな怪我をした者もいないようです」
気分の悪さを誤魔化すために戦況の確認に意識を振り向けた。
状況は非常によく、ほぼあの群れの討伐は終了したようだ。
「また、町の猟師達からモンスターから取れる素材を貰いたいと言ってきていますが」
「素材かぁ、いいんじゃないかな」
「こういった形での討伐でしたら、本来ですとトリスタン様に渡されるのですが」
そういうものなのか? しかし別に合成や加工技術がある訳でもないので遠慮しておく。
それに資金自体大量にあるので問題ない。
「元はこちらが報奨金を出せないのが問題だしね、町の人たちにももっと恩恵がないとね」
「分かりました、そう伝えておきます」
その後素材が取れそうなモンスターを回収し、本拠へと一度戻ることになった。
戻ってみるとローランドは弓の練習を、ステラはエニル先生に白魔法の授業を受けており結構平和な空気が流れているようだった。
他の人たちは誰も大怪我を負ったり死者も出ていないことに驚いた様子であった。仮に今回私がいなければ確かに被害はもっと出ていたのだろうが、普段は一体どんな無理をしていのだろうか。
いや、実際にはこんな形では討伐は行わず、兵だけで編成するらしいので納得といえば納得だが。
その後3日間程拠点を中心に討伐を続けることになった。
戦闘回数は小規模を含めれば8回程だ。
最初の戦闘こそ数が多かったが、それ以降は多くて10体程。だが不思議に思ったのはどれも同じ種族しかいないという点か。
確かに他種族同士が仲良くこっちを襲ってくるのも変な感じではあるが、ここまでまとまっているものなのか。
最終日になり、その疑問を改めて警備隊長へと聞くことにしてみた。
「やはりトリスタン様も気になっていましたか……いえ、確かに群れをなして居ることはあるのですが……今回のようにほぼ全てのモンスターが群れでいるというのはあまり無い事です」
「あまり無いっていうのは……希にだけどあるって事だよね?」
その状況次第なのだが、既に嫌な予感がしているのも確かだ。
ただ、今回の討伐で大分経験値を得ることが出来た。レベルは現在7になっている。
ここに来た3日前よりは多少は強くなっているので対応出来る幅は広がっているはずだ。あまり実感は湧いていないが。
戦闘の空気にも慣れてきているのは警備隊長にも分かっているはずだ。それでも非常に渋い顔をして言いづらそうにしているのはそれ程の事なのか。
「稀……というよりは、モンスターが群れるのは強大な敵が現れた時です
特に同族同士が固まっている場合は……」
「強大な敵って……」
ここに来て討伐した敵の種類はレッドパンサー系以外にはゴブリンやウッドマン系の敵である。
しかし、そのどれもが強大と表現するには弱いと思うのだ。
そしてその会話が引き金になったかのように、初日に偵察をして来た兵がこちらへと走り込んできた。
それもあの時よりも一層の焦りを見せて。
「トリスタン様! 隊長! 大変です……今回のモンスターの活動の原因が……!」
「どうした――っ!」
警備隊長の声を遮るように、森の方から木が倒れる音とくぐもった大きな鳴き声が聞こえてきた。いや、鳴き声というよりは雄叫びか。
「トリス! なんかヤバイのが来るぞ!」
「ローランド! 下がらないと!」
「……あれは」
森の方から姿を見せたのは
10メートルはあろう紫色の巨大な体に鋭い牙
その巨体に見合う角に猛々しいたてがみ
そしてひと振りで木をなぎ倒す尻尾
「あれは……ベヒーモス」
そんな誰かの絶望に染まった声が聞こえた。