「よう、マドカ。久し振りだな」
イケメンクソホモ野郎こと一夏がマドカに向かって笑みを浮かべながら言う。なんだこれ、もしかして知り合いなのか。いや、知り合いと殺し合うってのもなんなんだ。
「――一夏、多くは語らんさ。唯一つ、私を返して貰うぞ」
「――はっ、来てみろよ。俺の今は充実してるんだ。簡単には返さないぜ」
そう言うと一夏は自分が潜ってきた穴を通り、一瞬の間で空高く飛び上がる。火に煌めく眩しい白のIS。恐らくは一夏の専用機だろう。
そんな一夏に対してマドカは黒く煌めくISを展開すると、ブースターを展開する。
「逃がすか痛いッ!?」
そして天井に頭を打って床に落ちた。俺は今に確信したね。この娘は間違いなくアホの娘だ。疑いようもないくらいアホの娘だね。
「ダサッ!?」
「う、うぅ…………くっ、待て一夏ァァッ!?」
そして逆ギレに近い形で一夏が潜り抜けた穴を通ってマドカが空を飛んでいく。大丈夫かマドカ。不思議と心配になってくるんだ。第一にマドカは妹にクリソツ過ぎて笑えない。ちょっと俺の妹に比べるとクリクリパッチリな目とか柔らかい笑みとか天使に近い笑みとかミカエルとたまに勘違いする愛らしさとか足らないけど、あと雰囲気、妹の天使な雰囲気が足らない。あとは容姿、妹の天使な容姿が足らない。あれ? 俺の妹って天使だったわ。前から知ってたけどね。会いたいな。彼氏とか出来てたら殺そう。
いやいやいや。ちょっとトリップし過ぎてた。流石は天使(妹)。今は箒を安全な場所に連れていかないとならない。
「虚さん! 怪我はありませんか?」
「………」
「虚様、怪我はございませんか………」
「はい、ありませんよ」
そのにっこり笑み怖いです。ゆっくりと立ち上がる虚様を横目に、俺は箒を抱き上げる。気絶と言うか睡眠に近いのか、箒は割りと安らかな吐息をたてている。可愛いなコイツ。可愛いのにな。
「それで虚様、どうやって脱出するのでしょうか?」
「そうですね、まずは電車を停車させないことにはどうしようもありません。停めてきてください」
「ハハ、ワロス」
どうやって停めるんだよ。
「私は整備科なのでISは持っていないのです」
「え?」
「はい?」
「あ、いや……なんでもないです」
さっきの剣はなんだ。なんて口に出したくても出せませんよね。しかし、どうしたものかな。普通にブレーキみたいな物を引けば電車って停まるのだろうか。なんせ知識が無いのだ。
いや、待てよ。
「通信だ。俺のISの後付に長距離通信の武装が合った筈だ……まぁ、この際、国の体裁とかどうにでもなるだろ。虚様、端に寄ってください!」
抱えている箒を車両の一番後ろに寝かせ、虚様に箒を任せて、俺は逆に車両の戦闘に移動する。さて、ISをマトモに使ったことがない俺が何処まで上手くやれるのかは分からないが、三国共同開発の実力を見せてやるぜ。
「来い、'ラファール・リヴァイブルヴァルギガンテス重昆'」
「名前ダサ、名前長。ラファールなのか重昆なのかどっちなんですか」
虚様の辛い突っ込みをスルーして俺は重昆を起動させる。相変わらずのガチガチな機体に足とは呼べない重圧なブースター。
そして両腕に装着した改良型盾殺しが威圧感を強める、フルフェイスの多分ISっぽい何か。
「IS……?」
やめて虚様、自分でも自覚してるから。
俺は後付から背中部分に長距離通信パーツを展開させる。ブースターにドッキングする形になる通信パーツを横目に、俺は通信を開始する。
『――――やっと来たか。無事か結城』
やった! 僕らの千冬ちゃん。これで勝つる!
「電車を止めたいんですがどうすれば良いでしょうか」
『知恵袋にでも聞け、私が分かる訳無いだろう 』
「え、えぇ……」
『待っていろ、今ググってやる』
全然頼りになら無いんですがそれは。ググるってアンタ。そんな情報がググって出てくる訳無いじゃん、そんなん簡単に調べられたらセキュリティうんたらが意味ないよ。
『まずはアクセルを引いて、その次に一秒を数えながらブレーキを引く。最近じゃシステムでオートストップがあるからボタン一つで良いらしいぞ……む、遠隔操作でも止められるらしいな。私が連絡して電車を停めてやろう』
おっ、Googleニキー最強やん。
「じゃあ、俺達は此処でじっとしてたら良いんですかね?」
『いや、一夏の援護に向かってくれ。お前の機体なら後衛に向いているだろう。此方から後付武装をそちらにインストールする。遠距離から可能な限り撃ちまくれ。あぁ、国の許可ならさっき降りている。問題はないぞ』
千冬ニキ最強やん。
バイザーには次々と後付の武装が送られてきているのが確認出来る。と言うか後付ってこんなに入るもんなのか。とりあえず五個ほど武装を展開する。
八連型弾道弾、電磁力カノン砲四門。マシンガトリング九式三千弾。両手にはバースト式の七ミリ単発ライフル。
「こんなもんですかね」
『武器庫だなお前は』
ですよね。
俺は背中の大型ブースターを展開させると、フルフェイスのバイザーが固定される。
よっしゃ、初戦闘だが言ってみよう。
「虚さんはそのまま電車が停まりしだい逃げてください」
「はい、一人残らず殺してくださいね」
いや、ちょっと無理ですけど。
虚さんの楽しそうな笑みに苦笑いしながら俺はブースターに火をつける。ついに空に飛び立つのだ。
天井を軽々と突き破り、眩しい太陽が目に入った。雲一つない晴天に、四つの影が曇る。楯無さんと一夏だ。
楯無さんは一先ず援護に入らなくても平気だろうが、俺は一夏を視界に入れてブースターを唸らせる。
「一夏ァァッ!!」
「――――ッ!!」
一夏を呼ぶだけ。ただ名前を呼ぶだけなのに一夏は素早くその場から退避する。まるで俺が何をするか分かっているように。
瞬間、俺の武装が唸りをあげる。
「一斉射撃―――――――ッ!!」
『な、なにッ!?』
一瞬のやりとりにマドカが置いていかれる、僅かに静止したマドカに銃弾の嵐が襲い掛かった。
だが、流石はテロリストか。マドカは素早くブースターを展開するとその銃弾から軽々と逃れる。
「結城ッ!!」
「――――あいよ!!」
何処からか一夏に呼ばれる。
俺はマシンガトリングを止め、単発ライフルと八連型弾道弾だけを撃ち込み、マドカの高度を無理矢理上げさせた。
『そんな物に当たるか…』
「ウオオオオオオオオオオオオオオオラァァァッ!!」
『な、にッ!?』
マドカに息を与えず一夏が真上から斬りかかる、マドカはギリギリでそれを防ぐ。が。
「一夏ッ!!」
再び一夏の名前を呼ぶ。それと同時に全ての武装の引き金を引いた。
一夏は背中を向けたまま弾道から逃れると、静止していたマドカに再び銃弾の嵐が襲う。
『く、ぐぁッ!?』
何発か被弾したマドカは銃弾の嵐から逃れた。
俺はマドカを射程内に取り入れる為に、ブースターを展開して移動する。それと同時に一夏と視線が交差した。
「結城ッ!!」
「―――――了解したッ!!」
武装を外し、新たな武装を後付から展開する。全てがカノン砲であり、全部単発の九門。
まずは一発をマドカに向かって撃ち込む。
『ぐのッ!』
当たり前のように避けられた。続いて二発。
マドカはさらに避けて、高度を上げる。
「オオオオオオオオオッ!!」
そこに狙ったように一夏が突っ込む。だが、二回目だ。マドカは一夏が来るのが分かっていたのか、手に持っている刀を既に宙に構えていた。防がれる。
一夏が"刀"なら。
一夏の手には、俺が捨てたマシンガトリングが握られていた。
『――――――な、に!?』
「結城ィッ!!」
一夏が俺を呼ぶ。
マシンガトリングが火を吹き、マドカが被弾すると同時に俺は全力でブースターを展開させる。一瞬の間で音速へと達した俺はマシンガトリングを撃たれ、動けなくなっているマドカに突っ込む。
―――――左の釘がリロードされる。縮小されていた改良型が展開されている。それはまるで盾を殺す矛のようにではなく。盾を越えて、護りを殺す大槍のように。俺のワンオフアビリティが盾殺しを強化する。それは。
「―――――
全てを消し飛ばす。
マドカの腹に直撃すると、爆音を響かせる。余りの衝撃と音に空気が震え、地面が軽く揺れた。そしてマドカはそのまま凄まじいスピードで地面に叩き付けられ、地面を大きく抉りながら止まった。
多分、恐らく、死んでないと思う。
正直、自分でもこの威力にはドン引きです。
『私は正直、名前を呼び合うだけで彼処までコンビネーション出来るお前らにドン引きだがな』
「……だって、分かっちゃうんです。名前呼ばれただけでアイツがなにやるか……」
『……その、なんだ。良い友情だな。ゴホンッ! ……マドカとやらなメディカルチェックは無事だ。捕獲してゆっくりと話を聞くとしよう』
「結城ッ!?」
千冬さんとの会話に一夏が突然に割り込んでくる。俺は一夏に呼ばれたその瞬間にブースターを展開させ、その場を避けると、俺の居た場所に銃弾が飛び交った。
そして、スコールさんが一瞬で過ぎ去り、地面に倒れているマドカを抱き上げた。
それを見ながら、楯無さんが俺の横に並んだ。
『さてと、そろそろ頃合いだし、私は逃げさせてもらうわよ』
「あらあら、オバサン。私は簡単には逃がさないわよ。結城!!」
「はい?」
「なんで私の時だけ聞き返すの!?」
いやだって。名前呼ばれただけじゃなんなのか分からないですし。
「結城ッ!!」
「よっしゃッ!!」
「ズルいもん!! なんでホモだけ分かるの!! お姉ちゃんも結城の名前呼んだだけで色々と分かって欲しいもん!!」
俺と一夏、そして楯無さんが一気にスコールさんに飛び掛かる。
『今からあの電車は線路を変えて、行き止まりに行くわよ。私達よりあっちを優先した方が良いんじゃないかしら?』
「な、なに!? 」
『頑張って停めることね。あの電車にセガールは居ないわよ』
「解りにくいネタを!! 千冬さん!?」
離れていくスコールさんから視線を外して、長距離通信のパーツを展開させる。
一夏と楯無さんにも通信が聞こえるように設定すると、バイザーに千冬さんの顔が映った。
『聞いての通りだ。遠隔操作での停止は不可能だった。中に居る虚にブレーキを試さしたが、電車は止まらん』
「じ、じゃあどうすれば!?」
「ち、ちょっと待てよ千冬姉!? あの電車には何百人乗ってると思ってんだ!?」
『落ち着け馬鹿共。楯無、何か案はあるか?』
「……そうですね、スピードは大体八十前後、まだまだ上がってるわね。車両数は八両。乗っている人数は約百数十人。まぁ電車なら問題を解決してゆっくりと停めたいところですが、行き止まりにぶつかるまであと数十分ではそれも無理ですね」
『真面目なところだが、お前が真面目にやっていると笑えてくるな』
「……あの、一応は生徒会長ですけど」
淡々と話している二人に反して、俺と一夏は焦るばかり。彼処には箒が居るんだぞ。
『それで、案は?』
「……先頭の二両に人を詰め込み、後ろの六両をホモ君が切断。残った二両ですが、二人のISで天井を押さえ付け、車両を跳ねないようにします。残りの一人が電車を無理矢理停める」
『電車は停めても走り続けようとするぞ』
「車両に居る人が全員、降りるまで三人で停める。なんて馬鹿はやりませんよ。それまでに問題解決を任せますね?」
『……―――――よし、穴だらけなやり方だが、やってみるしかないか。此方は任せろ。全体の指揮は楯無が取れ。電車を停めるISは一番パワーがある結城だ。良いな?』
良いなって。んな無茶な。
下手な映画でもあるまいに。
「まぁ、
可笑しい、今日はデートだった筈なのに。
◆ ◆ ◆
「そのまま落ち着いて先頭の車両に移動してください!!」
一夏の声に、車両に居た市民がキツキツだが二両に押し込められる形になった。
お次は俺だ。後付にある、固定器具。車両のドアに取り付ける。IS捕獲用の器具だ、これならちょっとの衝撃じゃドアが勝手に開くって事はない。
「楯無さん!」
「…………」
「……姉さん!」
「任せなさいッ!!」
楯無さん、いやもう姉さんで良いや。姉さんが車両を押さえ付けてくれるのを確認して、俺はブースターを展開して先頭の車両を押さえる。
「よし、良いぞ一夏!」
一夏に声をかけると、一夏はゆっくりと二両と三両を繋いでいる連結部分に移動すると、刀を展開させた。
「二人共、行くぞ!!」
一夏の掛け声と共に重い衝撃が走る。後ろを見れば、六両が少しづつスピードを落としながら、下がっていくのが見えた。
とりあえずは無事に切り離せたようだ。
「さてと、二人共。作戦の再確認よ。先ずは予定通りホモ君と私が二両を押さえるわ。それを確認しだい、結城か先頭の車両を真っ正面から抑える。ラファール……いや、重昆のスペックなら可能な筈よ」
「言いにくい名前ですいません」
「そ、そしたら!! 次、無事に車両が停まりしだい、二両目を押さえ付けているホモ君が一両と二両の連結部分を切断。ここで二両目を切り離すわ。残りの走り続けようとする一両を私達三人で停める。良いわね?」
百キロ近いスピードで走ろうとする電車を壊さずに停めるのは並大抵では無いだろう。
『悲報と朗報だ。車両の現時点のスピードは約二百八十キロ。行き止まり衝突まで残り十分だ、それぞれのバイザーに残り時間を表示させる。そして朗報だ。国のIS部隊が動き出した。結果、約七分で車両を停めれることが出来ると判明した』
「で、その国のISは助けに来ないんですか?」
『先程の亡国機業とやらが別の場所でやらかしている。此方に手が回らんのだ。其処はお前らでやるしかない』
「……あれ千冬姉、電車が七分で停まるなら俺達が止めなくても衝突しないんじゃないか?」
『お前は三百近いスピードが簡単に停まると思っているのか。計算した結果では衝突までに車両のスピードを下げなくてはどちらにしろ行き止まりにぶつかる。朗報は車両を完璧に停めなくても七分堪えれば良いと言うことだ』
それは朗報なんだろうか。
可笑しいなぁ、俺は普通に箒とデートしてた筈なのになんでこんなシリアスな展開になってるんだろうか。こんなん何時もの流れじゃないよ。
「じゃ、さくっとやっちゃいましょう! 結城、無事に終わったらキスしてあげるわ」
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!! 電車の一つや二つぶっ壊してるッ!!」
「俺もキスしてやるよ」
「死ねッ!!」
一夏に中指を立てて、ブースターを最大加速させる。
一瞬で電車を追い越し真っ正面に車両を目に捉えると、全てのブースターを展開させ、両手を突き出す。
そして、姉さんと一夏がそれぞれの車両の天井を押さえ着ける形になった。これなら俺が車両に激突しても車両が"跳ねる"ことは無いだろう。
「……ん? ―――――ッ!?」
段々と近付いてくる車両を目に、俺は有り得ない物を見た。
箒だ。
一番先頭。つまりは運転席に箒が居るのだ。何故か棒立ちで。何故かにやついている。 瞬きもせずに、ただ俺を見つめている。
「――――――うおおおおおおおおおおおおおおおおおお怖ええええええええええええええええええェッ!?」
――そして、俺は車両と激突した。
最新の技術で作られた電車は凄まじい激突だと言うのに僅かにしか凹まず、衝撃を綺麗に受け流している。
跳ねそうになる車両を一夏と姉さんが無理矢理止めた。俺は全てのブースターを最大加速する。
「―――――」
そして車両の窓から箒が微動だにせずに此方を見つめている。
「いやあああああああああああああああッ!?」
「頑張って結城!! 怖がるのもあと少しよ!!」
「ち、違う!! この恐怖は終わらないよ姉さんッ!? なんでにやついてんの!? 怒ってるの!?」
「べ、別に姉さんと呼ばれて嬉しい訳じゃないわよ?」
何かを言う姉さんを置いて、箒ちゃん、怖いよ。デートとか放棄した形にはなってるけど、この際仕方無いでしょう。な、なんで瞬きしないの? なんで見つめ続けてるの?
「助けて千冬さんッ!?」
『あと四分だ』
「出来れば電車は停まって欲しくない方向でッ!?」
『あと三分だ。なんだ、この前Amazonで注文したメンヘラの対処法って言う本があるからな、やるぞ』
「信用度は!?」
『レビュー星三つだ』
「微妙!!」
千冬さん、なんでそんなミーハーなの。
しかし、今はとりあえず箒から目を離して電車に集中しよう。確かにパワー型なISだけはあるラファール重昆(略)。レーザー兵器にめちゃんこ弱いと言う欠点は有るものの、物理に対してはまさに敵無しか。
電車のスピードが百キロを切った。
「一夏!! 今のうちだ!」
「よっしゃ!!」
一夏に合図すると、一夏が一両と二両を斬り離す。そのまま一夏が二両を押さえ付けていると、無事に二両目が停止したのを確認する。あとは一両だけだ。俺は視線を再び前に戻す。
「ッ!?」
虚様が此方をにっこりと見つめている。
「――――――うわああああああああ増えてるよおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」
「車両は斬り離したから減ってるぞッ!?」
「この二人を俺から切り離してぇぇぇッ!!」
やめてそのにっこりスマイル。恐いです。
『あと二分だ。結城、車両のスピードは』
「な、七十です」
『……ふむ、結城、少々危険だが一気に加速して停めてしまえ。行けるか?』
「……ワンオフアビリティを使えば無理ではないですけど」
『ならやれ。今は二人で車両を押さえ付けている。多少は乱暴にしても平気だ』
いや、なんか車両停めたくないなぁ。
なんて我が儘が言える状況でもない。俺はギカンテス昆(略)のワンオフアビリティ"鎧袖一触"を起動させる。途端にラギ重昆(略)の基本ステータスが一気にかけ上がる。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「輝いてる結城を一枚に納めるハァハァ!!」
「ちょ、姉さん!! 車両押さえて!?」
「任せなさいッ!!」
一気に加速するブースターで車両のスピードは無くなる。ほぼ停止した車両に対して、カウントしていた数字がついに零になった。
理由は分からないが、完璧に停止した形になった車両から俺はゆっくりと離れる。
「よっしゃ!! やったな結城!」
「あぁ、やったぜ。じゃあ俺帰るからッ!!」
「ッ!? ちょ、結城!?」
そのまま俺は車両から見つめてくる箒から逃れるように飛び去った。
無理だもん。死ぬもん。殺されるもん。
「助けてちふえもんッ!!」
『なんだ……今日から大浴場が使えるからゆっくりと休め』
やっぱり俺の天使はちふえもんしか居ないのか。
◆ ◆ ◆
場所は変わって大浴場。
時間は大体夜の八時、今日は一夏と活躍したから一夏と入って良いってのほほんが女子代表で言ってきた。それでどうしたかって?
「良い湯だな、結城」
一夏と入ってるよ。別に男同士だし何も問題無いじゃん(遠目) 第一さ、のほほんを代表して腐った奴等は一夏が紳士だって分かってない。一夏が獣になる訳無いじゃん。一夏は紳士オブ紳士だぜ。同意がないとなにもしてこないさ(疲目)
「はぁ…………」
「しかし、今日は色んな事があったよなぁ……」
「うん………」
一夏って以外と筋肉あるんだよな、腹筋割れてるし。コイツって女顔だから実は女でしたみたいな落ちだと思ったことだって少なくない。でもさ、着いてるんだよ(M1911コルト・ガバメント)
マドカちゃんが居たからさ、人間って期待するよね。一夏が女だったらなって。現実って何時も非情だよね。
「そう言えば箒が結城を探してたぞ」
「ふぅん…………」
「場所が分かんないから何も伝えてなかったんだけど、なんか様だったのかな?」
「うん…………」
良い湯だよね。疲れが癒されるって言うか。色々と溶けてしまいたいよね。
「熱い……俺もうあがるな。のぼせちまうよ」
「あぁ………」
湯から出てく一夏(M1911コルト・ガバメント)
やっぱ男だよなぁ。
疲れたなぁ。色々とさ。癒しが欲しいな。純粋なピュアって言うの。同じ意味だけど重ねたら最強じゃん(疲労)
もういいや、湯から出よう。
◆ ◆ ◆
夜風に当たるって気持ちいいな。疲れが取れるよね。星空が綺麗だ。
癒されるよね。なんかさ、ほら。疲れが取れる。
「結城」
千冬さんが此方にゆっくりと歩いてくる。俺はゆっくりと芝生に寝転がると、空を見上げた。
「千冬さん、どうしました」
「……もういい、休め。休むんだ結城。さっき精神医から通達が来た。お前は二週間、静かな地での休養が必要なんだ」
「はは、大丈夫ですよちーちゃん」
ゆっくりと千冬さんに頭を撫でられた。
良い気持ちだね。
「お前はドイツに行け。そこに案内がいる。その案内とゆっくり心を癒せ。あとは全て私に任せろ。なぁ、結城……今日はこのまま寝ると良い。私の膝で寝れるんだぞ」
そのまま、俺は無性に眠くて、千冬さんの膝が気持ち良く。本当に瞼が自然と落ちてしまった。