「結城さんは一夏君と同じ部屋ですよ!」
「許してください!なんでもしますから!!」
「え、えぇ!?」
山田先生に斬りかかろうとする箒を止めながら俺は頭を下げる。ちょっと箒ちゃん。その気に入らないと直ぐに斬りかかるメンへラ体質どうにかしないと俺も付き合っていけないよ。君がまともなら俺はすぐに君に抱き着くよ。一夏よりマシだもん。
「安心してくれ結城。俺は前から結城の寝顔を見続けてきたけど何時も我慢出来たからさ」
「我慢てなに!? 何を我慢するの!? ねぇ!?」
「私だって写真で我慢してきた。私なら安心だぞ? 」
どっちも安心出来ねぇんだよ。写真とはなんですか? 言っとくけど、箒と会ったのはつい一時間前な筈なんだけど、何時の間に写真取ったの? 正直に話して、侵入したんでしょう?
「で、でも。流石に女の子と同部屋は学園的に問題がありまして……」
「な、なら千冬さんの部屋に!?」
「すまない、結城。教員と言えど男女だ。それも不味い。本人の希望があれば、箒ならなんとか許可出来るかも知れないが」
「ゆうちゃんと同部屋」
救いはない(確信)
千冬さん、貴女はこの部屋に上がり込んだら十割中十割は監禁される娘の元に行けと言うのか。無理です。なんの望みも残ってないわ。
「じゃあ、一夏君と同部屋で良いですよね!」
その笑顔に拳を叩き込んでやろうか。
「結城、一日だけ耐えてくれるなら私が部屋を用意しよう。だから、すまない。一日だけ、一夏と同部屋で耐えてくれないか?」
「ち、千冬の姉貴……ッ!? あんた女神だ……分かりました、俺、一日だけ一夏と同じ部屋で過ごします」
「しゃァッ!!」
「一日だけ一夏と?」
「一夏と一日だけ?」
「大人な関係ですねぇ……(暗黒微笑)」
「擦れ合う純愛か……スイーツだなぁ……」
そうやって不安を煽るの辞めて貰えます? あとなんでガッツポーズしたの一夏? ちょっと意味わかんない。
「ゆうちゃん?」
「箒、真実の愛は遠く離れてこそ分かるんだよ」
「ッ!?」
まぁ俺と箒にそんなものは今のところ無いんだけど。此処でごめんやら許してやら諦めてなんか言えば殺されそうだから言っておく。ちょっと驚愕している箒は不本意ながら可愛いと思ったのはここだけの話。この娘、可愛いくらいチョロい娘だなぁ……
「じゃあ鍵は一夏君に渡しておきますね!」
「合鍵とか無いんですか?」
「あぁ、すいません。ちょっと用意が間に合わなくて……」
「そうですか……箒持ってる?」
「うん」
「ちょうだいね」
「ッ!?」
なんで持ってるのかなんか聞かない。ただ持ってるんだろうなと思ったがやっぱり持ってたよ。
俺は箒が握っていた鍵を受け取ると、一夏の手にある鍵と見比べる。若干、俺の手にある鍵は創作感があり、形は歪だが大体は同じだ。本当になんで持ってるんだろう。
「結城と俺の部屋だな!」
「あぁ、そうなんだけどさ……なにその言い方。一日だけだからな」
「一日だけでも嬉しいんだよ!」
「一日だけの関係を嬉しがる一夏は純愛の鏡。そろそろ結城君は諦めるべき」
「さっきから五月蝿いなお前!! のほほんとしてる癖に突っ込みが鋭いんだよ!」
「一夏は一日だが、私とゆうちゃんは永遠だぞ!」
「箒も張り合わなくて良いから!」
段々とカオスになる空気に俺の不穏は募っていく。俺は、頑張ってるよな。
「――――武川結城様でしたわね」
そんな空気を切り裂くように、一人の女性が俺に話し掛けてくる。
長く透き通るような綺麗な金髪に端整な顔付き。そう、確か、セシリア・オルコットとか言ったか。
「あぁと、なんか用ですか?」
「いえ、少し聞きたいことがありまして」
「俺に……?」
「はい、些細なことなんですが……空手の試合で相手の骨を折ることは良くあるのですか?」
「はぁ? ま、まぁ……俺は見た通りの細長い奴ですから、良く相手の肋骨とかを」
「……肋骨、そう言うのもあるんですの……」
「はい?」
何かを思慮深く考えている。さっきは文庫とか読んでたし、何かと物事を深く考える知的なタイプなんだろうか。
「いえ、お邪魔しましたわ。また明日、お会いしましょう」
そのままセシリアさんは此方の返事を待たずに歩き去ってしまう。一体なんなんだったのだろうか。文学少女は良く掴めないと言う話は割りと本当の事だったんだなと内心で納得しながら、俺はその去っていく背中を視線で追いながら首をかしげた。
「そうだ、結城。風呂一緒に入らないか?」
「寝言は寝てからいえホモ野郎」
「なんだよ、一年前までは普通に…」
「あああああッ!? 辞めろ馬鹿ッ!? 今まで思い出さないようにしてたんだぞッ!?」
「一緒に風呂に入る?(意味深)」
「お前の耳は難聴か!?」
のほほんとしてるのに動きが機敏なんだよ。なんなんだこの学園。変人しかいないのか。
そんな場を崩すように、突然、千冬さんが何かを思い出したように顔を変える。
「あぁ、そうだ。結城、お前の専用機が訓練場に届いているんだ。今、何も用がないなら少し着いてきてくれないか?」
「専用機……俺にですか?」
「かりにもロシア代表候補生だろう。与えられて当然だ……まぁ、間に合わせの物だがな」
「間に合わせ?」
俺の言葉に千冬さんはただ苦笑を浮かべるだけだった。しかし、俺がロシア代表候補生ね。噂にはこの肩書きがどんなものかは理解しているが、まさか俺がその肩書きを背負うことになるとは思いもしなかった。しかも、楯無さんの後がまになるのだ。
「大丈夫だぜ。俺も結城と同じ候補生だしな! 二人で、二人で頑張ろうぜ!」
「そんな二人でを強調すんなタコ……分かりました、千冬さん。行きましょう」
「あぁ、最適化前のISは関係者以外は見るのを禁止だ。すまないが、私と結城以外は此処で待機していてくれ」
俺以外にそう伝える千冬さん。そんなまともに言うことを聞く二人じゃ…
「……ふむ、なら一夏。久し振りに剣道でもどうだ?」
「……あぁ、悪くないな」
あれ?
「―――――殺してやる」
「―――――俺と結城の邪魔はさせねぇ」
殺伐とした言葉を吐きながら二人はそのまま去っていく。
うん! 俺知ーらない! あの二人なら大丈夫だろ(小並感)
「や、ぼ、暴力は駄目ですよ!? 二人ともちょっと待ってください!!」
その二人をすかさず追いかけていく山田先生。これで安心だ(震え声 )
俺と千冬さんはその三人から逃げるように反対の方向を歩いていく。
◆ ◆ ◆
「ラファール・
「は、はぁ……滅茶苦茶一点特化ですね」
「盾殺しが基本装備だからな。扱いにくい機体ではあるが、加速や最高速。そして何よりシールドが凄まじい量を誇っている。見た目がゴテゴテは見かけ倒しではない。硬いんだ、こいつは」
「堅い?」
「ガチガチだ。盾殺しでも十発は耐える」
こんなぶっとい盾殺しに十発は耐えるのか。見た目がもう厳つく、見るからに防御特化の癖に速いと言うのならば、必ずや何か重大な欠陥がある筈だ。
「ただ弱点はレーザー兵器などに極端に弱い。実弾などは平気で何千発と耐えるが、レーザーは三発と耐えられないだろう」
「うわぁ……」
「それに方向転換。つまりは旋回力が皆無に等しい。こいつは曲がる事を考えていないのだ。それを保護するために、百四十ミリのカノン砲四門に、六十ミリのガトリングが六門搭載されているが、旋回能力が無いから、弾幕程度にしかならん。まぁ……なんだ。砲台ISと称されるのも分からなくはない。コンセプトは"じっと耐えて、耐えて、耐えて、相手が油断したら自慢の釘を撃つ"」
もうコンセプトがなんか俺を苛めに来てないですか? あれ? 俺ってロシアになんか重大な勘違いでもされてるの?
「制作者のコボルトアベ・ヤラナイカーさんはこれを作ったことに喜びを感じていた。上手く使ってやれ、結城。最適化を済ませてしまおう。装着してみろ」
「は、はぁ……どうやって装着するんです?」
「私が手伝ってやろう。まず此処に手を置け」
千冬さんに言われるがまま、ISに手を置き、身体を預けるように乗り込む。そのまま顔を覆うようにバイザーが顔に被さり、腕やら足やらが可変しながら身体に装着されていく。
凄いな。男の子の色んな部分を擽られる。ISには前々から興味があったが、まさか自分が動かすことになるとは思いもしなかった。
「装着が終わりましたよ、これ、最適化ってどうすれば良いんです?」
「動いてみろ、後はISが勝手にやってくれるさ」
動くね。取り合えず、鎧のような頑固で威圧を与えるような腕を動かしてみる。両腕に装着されたパイルバンカーがかなり凶悪なフォルムを象っている以外は中々に格好いい。
だけど……欠片も足が動かないんですけど。
「千冬さん、あの……」
「……確か、足は備え付けられた対衝撃用バックタブを地面に打ち付けられる筈だ」
対衝撃用バックタブ。何となく感覚で分かるが、これか。
俺は脚に意識を集中してみると、足である筈の部分の機体が可変し、もはや脚とは呼べない形になり、一種の釘が地面に複数、打ち付けられる。完璧に地面に固定されると背中に収納されていたカノン砲とガトリング砲が前方を向くように固定された。
「……」
「I……S……?」
千冬さんに首を傾げられたらもう、僕分からない。
瞬間、突然にISが息を吹き返したように機能が次々と動き出す。普通だった筈の視界が機械的に変わり、様々な物を分析し始め、その結果が視界の右側に表示され始める。
さらに様々な部分が可変し、頭の部分には角が現れ、口元を覆うようにカバーが顔を覆う。その形はまるでカブトムシのようなフォルムを象った。
「……移動能力を捨てたISか。もはやISとは別の物だな」
「違う。なんか思ってたISとちゃう!」
「"
「……」
言い方。なんか言い方が可笑しいですよ。
しかし、ラファールってフランス語なのに、ロシアの専用機であり、日本語の名前なのには何か意味でもあるのだろうか。ごちゃ混ぜにした感じがカオスであり、何れが本当のISの名前なのか分からないんだが。まぁ良いか。
俺はISを粒子化すると、地面に降り立つ。さて、ISの最適化が終わった事だし、どうしようかな。
「結城。この後、もし暇なら私に付き合ってくれないか?」
「はい? 暇っちゃ、暇ですけど……まだ何かあります?」
「いや、これと言って事務的な用はない。私用だ、少し飲みたい気分でな。私の部屋で付き合ってくれないか?」
「あぁ、話し相手ですか?」
確かに、素直に部屋に戻っても嫌な事しか残ってないしなぁ。それなら千冬さんの愚痴に付き合った方がまだ楽しそうだ。この人の話は以外と面白い話ばかりだし、前に話して貰った七歳のドイツの女の子にガンダムを実話だと教えた話なんか一番笑えた。
「あぁ、話し相手でも。お前も飲んでみるか?」
「うぇ!? 良いんですか!?」
「まぁ、バレなきゃ良いだろう。私も飲みすぎないように見てやるさ」
そう言いながら苦笑する千冬さんは、俺の返事を待たずに外に向かって歩き出す。俺はその背中を追い掛けるように小走りで追い付くと、その隣を歩く。
ふと、俺は千冬さんを見下ろして、その顔を見てみる。一夏を美少女にしたような千冬さんは俺よりも身長が低いながらも世界最強の肩書きを持っている。その人とこうして歩いていると言うことを事態、俺は結構な幸運野郎なのだろうか。
「どうだ結城、この学園ではやっていけそうか?」
「あぁ……どうですかね。これ以上、俺の頭を悩ます奴が居なければなんとかやっていけそうですけど」
「ふっ……私もこれ以上、悩みの種は増えて欲しくないな。死にたくなる」
疲れてますね千冬さん。
「せめて一夏がなんとかなればなぁ……」
「誰が一定の人物でも作れば良いのではないか? 箒……は無いか。うむ……鈴は一夏にしか目がない奴だったしな。蘭の奴も一夏に夢中だし、お前の周りは女が居ないな」
「一応、箒は女の子だけど。あの娘と付き合ったら死にそうです……」
「中学には居なかったのか? お前が空手の大会で優勝した時は女子の黄色の悲鳴が上がってただろう?」
「あれは俺と喜び合ってた一夏に向いてる悲鳴ですよ」
「……そうか」
しかし、意中の相手を作るね。楯無さんとかは高嶺の華過ぎて恐れ多いし、それ以外に女子の知り合いなんかいないしな。あれ? 思い返せば思い返すほど、一夏との思い出しかないんだけど。
箒が、箒がもう少しまともなら。
そんな事を話し合っている内に、俺達は目的地である千冬さんの部屋にたどり着く。
「よし、遠慮せずに入れ」
そう言いながら部屋の鍵を開けて部屋に上がり込む千冬さん。
「あれ? 部屋が綺麗なんですけど、ダスキンでも呼びました?」
「業者を呼ぶほど汚くはないぞ!?」
お茶目な冗談である。
しかし、千冬さんにしては部屋が綺麗過ぎる。書く言う俺も部屋を片付けられない男だから、良く一夏に部屋を掃除して貰った記憶がある。俺の部屋なのに一夏の方が詳しいんだから……あれ? 俺、一夏に侵入されてるじゃん。
「昨日、一夏に掃除されたんだ」
「あぁ、なるほど……」
「適当に座れ」
千冬さんは短くそう言うとキッチンに消えていく。俺は千冬さんに小さく頷き、用意されている小さな丸テーブルに座るとテレビのリモコンを手に取り電源をつけた。
流れるバラエティーをBGMにしながら部屋を見渡すが、千冬さんらしく質素な部屋である。
趣味がないと言っていたが。
「開けていないウイスキーがある。飲んでみるか?」
「う、うえ? 良いんですか?」
「お前は十八だろう。多少なら構いはしないさ……あぁ、私が飲ましたと言うのは、内緒にしろよ?」
此方をからかうように言う千冬さんに頭を掻いて、俺は頷く。不意打ちながら今の首を傾げる千冬さんは可愛かったのは心の内に秘めておこう。
三年も留年した俺をこうも辺鄙を感じさせずに対処するのは、千冬さんくらいだろう。
氷の入ったグラスに並々注がれるウイスキーを見ながら俺は苦笑する。やはり、千冬さんには頭が上がらないな。
「では、お前の入学を祝って乾杯だ」
「あ、はい! 乾杯!!」
千冬さんとグラスを合わせて、甲高い音をグラスに響かせると、俺はウイスキーを一気に煽る。
物凄く喉にくる上に一杯だけで頭が僅かにふらついた。
「うお……美味い」
「ふっ、顔はそう見えんがな」
苦笑する千冬さんに苦笑を返す。
IS学園に来て一番楽しい時間だ。
◆ ◆ ◆
頭が痛い。
視界がボヤけるし、喉もヒリヒリする。
なんだこれ、吐きそう。ふらふらするし。なんだ、これ。
痛む頭を抑えながら顔を上げると、其処は見知らぬ部屋に居た。
「痛ぇ……何処だよ此処……」
昨日は、確か、千冬さんと一緒に酒を飲んで。それからどうしたんだっけ。何にも覚えてないぞ。
俺は取り合えず、ベットから降りようとすると脚が誰かに当たる。ふと横を見れば布団が息をするように上下していた。
「………」
おいおい。ははっ。まさか。そんな。
あるわけないって。さけをのんでいちやのあやまちとかあるわけないやん。今時ベタすぎるわー。
ほら、こうやって布団を捲ったら。
「………」
「」
上半身裸の一夏が寝ていた。
え。
おれは、とりあえず、布団を一夏にかけて、反対側からベットを降りようとすると身を反転させると。
「ん……すぅ………」
下着姿の千冬さんが居た。
「」
あ。