ストパンのVRゲームでウィッチになる話   作:通天閣スパイス

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今更ですが、この小説はオリジナル設定ガン積みです。あまり世界観から剥離したものにしないようには心がけていますが。

※色々と誤字修正。ご指摘ありがとうございます。
※間隔を調整しました




ミッション 3(W)

 すぅ、と一息。吸い込んだ状態で息を止め、視界に映る敵の一体に狙いを定めた。

 戦闘開始当初からは随分と数が減ってはいるが、まだまだ敵の数は多い。空に映る黒い点、航空型ネウロイの数は目に見えて少なくなっているものの、地上を我が物顔で闊歩している陸上型ネウロイは未だ健在だった。

 視界のあちこちで、先程前線に出た地上攻撃ウィッチ達が何度も敵に攻撃を加えている姿が見受けられる。言うだけのことはあるというべきだろうか、装備や戦術を地上攻撃特化にしているお蔭というべきか、彼女達は確かに目覚ましい戦果を上げている。手榴弾や重機関砲等の高火力、急上昇急降下からのトップアタックは堅牢な装甲を持つ陸上型ネウロイに対して十分な効果を見せており、後方に下がって支援を行っている俺達航空ウィッチと比べれば、陸上型ネウロイに対するキルレシオは優に三倍を超えていた。

 その戦果に対しては、隣で険しい表情をしたままのバルクホルンも認めざるを得ないらしい。彼女達が強引に前線行きを早めたことについては未だ納得していないようだが、彼女達の腕と手際については賞賛すらしている。

 

「……凄いものだな。あの堅さの装甲を、ああも簡単に抜いてゆくとは」

 

 ぼそり、と。表情は依然として不機嫌なまま、バルクホルンは呟くように言った。

 航空ウィッチにとって何よりも重要なのは機動力であり、そのためには装備等の重量を削る方が望ましい。さらにウィッチが生身の人間であるが故の体力、筋力的な問題も加わり、航空ウィッチは一部を除いて然程の重装備はなされていなかった。

 そのため、一部の人間を除いて彼女達は火力不足に陥ることも少なくはなかった。魔法による攻撃、魔眼によるコアの発見からの集中攻撃、数の暴力による集中砲火、そういった方法で重装甲の敵を撃破することは決して不可能ではないとはいえ、大抵の場合は中型以上の陸上型ネウロイ等の重装甲を持つ敵との単独戦闘は避けるべし、というのが航空ウィッチの基本であるらしい。

 所謂原作(・・)で示された情報ではなく、このゲームの中でNPCである隊長が教えてくれたゲーム内情報ではあるものの、実際問題として航空ウィッチが陸上型ネウロイを倒すことは結構難しい。少なくともこのゲームの中では、という言葉が前に付くものの、例えば戦車の車体を利用したネウロイにアサルトライフルで勝利するのはエースですら簡単とはいかない。ウィッチがネウロイに対して持つ優位性は再生力を阻害するということであり、決して攻撃の威力を簡単に増幅させることではないのだ。

 

 俺がしようとしていることも、別にネウロイの撃破を狙ってのことではない。今狙いをつけている、おそらく自走砲の車体を素としたネウロイの装甲をKar98kの火力で抜くのは不可能だろうし、数百メートル先から露出もしていないコアの部分を連続してピンホールショットする、という神業も今の俺には不可能である。

 だが、俺が出来ることはないのかといえば、そんなことはないわけで。パン、という音を残して俺が抱える銃から放たれた銃弾は、目標のネウロイへと正確に着弾。足元近くを揺さぶられたそのネウロイは、地面が踏み荒らされて凸凹していたということもあり、バランスを崩して転倒。空中のウィッチに向かって今にも放たれようとしていたそれの砲撃は、倒れた先の射線上にいたネウロイへと誤射された。

 

「――ヒューッ」

 

 近くで俺と同じように狙撃をしていたウィッチの一人が、その光景を見て口笛を吹いていた。運悪く攻撃を食らったネウロイが露出させたコアにすぐさま銃弾を叩き込みつつ、視線を感じてその彼女の方に顔を向けると、親指を立てた握り拳をこちらに向けている。グッジョブ、ということだろうか、俺と一緒にバルクホルン隊と一時的に合流したその少女は皮肉っ気一切なしの笑顔を浮かべている。

 確か、名前はブラウンとかいう航空ウィッチで、階級は准尉の少女だったろうか。原作キャラではない彼女とはそこまで話したこともない関係だというのに、随分と気のいい人間のようである。新人の撃墜スコアの増加と活躍を目にした彼女は素直に俺へのエールを送り、すぐに自分の狙撃へと再び集中した。

 

 ……何と言うか。ウィッチというのは美少女が集まるだけではなく、その上で性格美少女ばかりが集まるのかとついつい思う。原作に登場するウィッチ達は性格のいい人間ばかり――勿論、美少女系萌えアニメであるが故、という理由が大きいだろうが――だし、このゲームのNPC達も殆どは善人ばかりだ。この世界の人間の殆どがそうなのか、それとも今の俺の周りだけがそうなのかは分からないが、幸いなことに人間関係等で面倒な事態になったことはまだない。

 勿論、全員が全員只の善人であるわけもない。今回の任務の前に御大層な演説を垂れていた女性将校や、先日知り合ったマンシュタイン、そういった上の人間は善人であるだけではやっていられないという側面もあるだろう。その本性は別として、清濁は併せ呑む必要がある。それはストライクウィッチーズの世界でも同じはずだ。

 ストライクウィッチーズは、パンツじゃないから恥ずかしくない系の美少女萌えアニメである。表面だけを見れば美少女がきゃっきゃうふふしていて、戦って活躍して、結果的に世界が救われるという非常にライトな物語ではある。

 が、舞台が戦争というものを描く以上、その背後はどうなっているのか。先程の地上攻撃ウィッチによる強引な横槍を見れば、その大体の雰囲気は察することが出来る。

 

「ふむ……。これで陸上型ネウロイも二体目か、中々やるじゃないか」

「あはは、ラッキーですよ、ラッキー。少なくとも今のはそうですし」

「何を言う、ネウロイの重心を崩したのはわざとだろうに。ミーナが気にしていた理由も分かる気がするよ、軍曹」

 

 そんなことは、とりあえず置いといて。隣で上空からの支援射撃を行っているバルクホルンから、そんなお褒めの言葉を頂いた。はは、と軽く笑っている彼女からは、先程までの不機嫌さは感じられない。その切り替えの早さはエースの証だろうか、苛立ちで部下に八つ当たりしないその態度は感心すら覚える。

 原作におけるバルクホルンは、妹好きのシスコン気味、という側面が強調されてそれはそれで魅力的なキャラクターになっているのだが、やはり彼女はカールスラントを代表するエースの一人である。その根本は実直で真面目な軍人で、部下に信頼感を与える立派な上司でもあるようだ。

 今俺の隣にいる彼女は、カールスラントのエースだった。精神的な存在感があると同時に、彼女が放った弾幕は地上の陸上ウィッチ達を着実に支援してゆき、彼女達陸上戦力が敵を倒す確かな助けとなっている。例え前線でなくとも仕事を十二分に果たしている彼女は、とてもAI操作のNPCとは思えない不思議な迫力を持っていた。

 

「凄いっていうなら、バルクホルン中尉の方が凄いじゃないですか。私は狙撃特化みたいなものですし、これだけしか取り柄ないですし……」

「そう言うな。自分の武器があるのはいいことだ、私だって自分の長所を活かしてるに過ぎん。……ヴェラ軍曹、エースになりたいか?」

「え? まぁ、それは」

「なら、まずは自分の長所を伸ばせ。そしてそれを応用しろ。軍人はチームワークなんだ、お前の欠点は他の誰かが補うし、誰かの欠点はお前がカバーしてやれるようになればいい。それで誰かを守れるようになれば――そいつが正に、立派なエースというものだ」

 

 そう言って、バルクホルンは一瞬顔を伏せる。その表情はあまりよくは見えなかったが、何かあったのだろうか、どこか今の言葉を自分に言い聞かせているようにも思えた。彼女の妹が負傷するのはガリア撤退戦でのことではあるが、もしや既に負傷してしまっているのか、それとも別の要因か。いったい何だろうと考えて、すぐに先程の出来事を思い出した。

 エーリカ・ハルトマン。彼女の親友であり、部下であり、大事な僚機である。彼女が珍しく墜落したという事実は、推測の話でしかないが、バルクホルンに大きなショックを与えたのかもしれない。いや、よく考えればショックを受けるのが当たり前というような話なのだが、それでも表面上は普段通りの様子を保っているのは彼女の精神的な強さがなせる技であろうか。

 イベントか何かだろう、と今の今まであまり気にしてもいなかったけれど、真面目な推測をすれば確かにエーリカが死にかけるという事件は青天の霹靂のようなものかもしれない。バルクホルンに限らずとも、彼女と共に過ごしていた人間なら動揺の一つでもしそうなものだが、見たところではバルクホルン隊の面々も特に狼狽した様子はなかった。不測の事態でも任務に支障を及ぼさない彼女達は、正しく精鋭部隊と言える、やも。

 

「……む。待て、通信が入った」

 

 ふと、バルクホルンはそう言って一度会話を切り上げた。肩から掛けた昔らしい通信機に耳を傾け、そこから聞こえているであろう何事かを聞いている。

 従来の小規模な任務なら隊員全員に行き渡る通信機も、このような大規模作戦ではどうも数が足らないらしく、部隊の隊長といった指揮官クラスのみが携行している。だからだろうか、今回は俺は無線の内容は聞くことも出来ないし、その辺りはゲームであっても妥協されてはいない。サーニャやハイデマリーのようなナイトウィッチなら違うのだろうが、俺は残念ながらそうしたスキルの習得は行っていなかった。

 はい、はいと、無線の向こう側の相手に彼女は何度か返事をして、最後に了解の返答をしてから無線を切る。そして顔を上げた彼女は周囲の隊員達をぐるりと見渡して、今し方告げられたものであろう、新たな任務を俺達に伝えた。

 

「諸君、救援だ! 陸上ウィッチと戦車・歩兵部隊の混成旅団が一つ、敵中に孤立しつつある。我々は前線を迂回し敵右翼を奇襲、敵の隙を生み出して地上部隊が脱出するための切っ掛けを作る!」

 

 じゃこん、と一斉にリロードの音が響く。俺を含めた隊員達が同時に弾薬の補充を行ったがためのそれは、ある種の奇妙なシンフォニーを奏でた。

 バルクホルンの言葉には、人々を奮い立たせる力のようなものがある。現実的に考えればエースの魅力で、ゲーム的に考えれば隊長と同じような鼓舞スキルか何かを持っているということなのだろう、隊長に鼓舞された時と同じように俺の心も沸き立っている。

 

「目標、敵右翼! 進路十時方向! ――進めぇッ!!」

 

 そう叫ぶと同時に、バルクホルンが右手を振り下ろす。その合図を見るが早いか、俺達は目的の方向へと飛び出していた。

 ブルル、というマシンの雄叫びを聞きながら、バルクホルン隊の人々と共に飛んでゆく。先程の脱出の時の気迫と然程の違いも感じられない、未だに士気を高く保ち続けている彼女達は、まるで獰猛な狼の群れのような雰囲気を醸し出している。

 

 途中、先頭を行くバルクホルンの後姿をじっと見つめる。引き締まりつつもぷっくりと膨らんだ、ハイレグのような下半身の衣服のせいで半分以上が露わになっている彼女の尻を眺めているわけではなく、ただ彼女の普段の姿――あくまでもアニメ等で見た知識であり、そもそも時間軸が異なるために知識としては役に立たない可能性もあるが――と今の姿をふと比較して、何故こんな絵に描いたような優秀な軍人があんなはっちゃけキャラになるのだろうかと、そんな疑問をつい抱いた。

 展開の都合上と言ってしまえばそれまでだが、何とも言い難い気持ちを覚える。良く言えば彼女はストライクウィッチーズの面々に気を許したということだろうし、別にそれが悪いことだとも言わないが、やはりこうした彼女のカッコいい(・・・・・)面を実際目にすると何ともこう、残念な気分になった。

 

「……ね、ね。ちょっと、ヴェラちゃん」

 

 ふと、編隊で左隣にいる少女、先程のブラウン准尉が声をかけてきた。何ですか、と軽く応答しながら視線を向けると、何故か彼女は少し面白がるような表情を浮かべていて。銃を抱えていない方の手で口元を多いながら、彼女はクスリと笑いを漏らしていた。

 

「さっきからさー、ずっとバルクホルン中尉のこと見てるけど……。何々、もしかしてそういうこと? ん?」

「は……?」

「もー、ごまかしちゃって。……中尉のこと、憧れちゃったりしたんじゃないの?」

 

 そう言って、彼女はいやんいやんと体をくねらせる。

 はて、憧れるとは、と一瞬思考を巡らせて。それが言葉通り以外(・・)の意味を持っているのだと気が付いて、思わず一つ溜息を吐いた。

 

「……あのですね。言っておきますけど、そういうのじゃありませんから。一人のウィッチとして、誰からも認められるエースというものが気になっただけです」

「えー? またまた、恥ずかしがらなくたっていいじゃない」

「でーすーかーらー。あの、そもそも、准尉は戦闘中に――」

 

 何を話しているんですか、と。そう続けようとした言葉は、バルクホルンの言葉によって遮られた。どうやら、いつの間にか目的地への経由地、味方右翼の前線より少し離れた個所まで行き着いていたらしい。武器弾薬の再確認の命令と、今から行う突撃による奇襲についての短い話を耳にして、ブラウンはさっさと俺との話を切り上げた。

 俺もまた、注意を彼女からバルクホルンへと向け直す。二人一組のロッテに分かれて散開、敵の対空防御を分散させつつ囮として敵戦力の注意を惹き、その隙に地上戦力が反撃を行いつつ後退する。そんな簡単な段取りを俺達に説明した後、バルクホルンは隊員達をそれぞれ二人組に分けていった。

 分ける、とは言ってもそこまで大層なものではない。所詮は中隊規模、両手で足りるほどの数であるために、数十も数えないうちに全員を振り分け終わっていた。そして当然、俺は一緒に派遣されてきたブラウン准尉とロッテに――と、推測していたのだ、が。

 

「よし……。ではよろしく頼むぞ、軍曹」

 

 何故だろうか、今の俺の隣にはバルクホルンがいて。ゲーム的なイベントか、それとも他に何か理由があるのか、ロッテの相手は彼女に決まっていた。

 ……少し離れた場所から感じる、生暖かい視線はブラウン准尉のものだろうか。どうやら彼女との間には、根本的な誤解が一つ生じてしまっているようである。

 

「お前とロッテを組むのは初めてだが……。なに、心配するな。シールドを張っていればそうそう死にはしないし、私もカバーする。お前は私の背中を守ってくれ、信頼しているぞ」

「……Jawohl.」

 

 確かに、バルクホルンは凛々しい。宝塚のような中性的なものではない、その在り方からくる騎士のような雰囲気と魅力には心惹かれるものがあるし、雑誌のモデルでも十分に務まるほどの美少女でもある。恋愛感情の有無は別として、特別な事情がない限りは基本的に好意を抱かれるべき人物だろう。

 とは言っても、俺がそういう意味(・・・・・)で彼女のことを好いているかといえば、そんなことはないわけで。そもそもここはゲームの中であり、住んでいる世界も次元も違う人間を本気で好きになれるはずもない。それはエーリカや隊長、それこそエイラに対してだって同じことである。いくらこのゲームがリアルだとはいえ、現実とゲームの分別ぐらいはつけている。それくらいの理性は俺だって持っていた。ブラウン准尉のそれは、正真正銘只の邪推でしかないのだ。

 なのに、だというのに、どうしてこうなった。バルクホルンルートのフラグでも踏んだのか、もしくは今まさに踏んでいる最中なのか、細かいことは分からないがとにかくこの勘違いは早めに解いておきたい。……そのためにも、まあ、まずは。

 

「さて、諸君、武器を構えろ。――突撃ィ!!」

 

 この戦いを一刻も早く切り抜けねばならぬ、と。バルクホルンが号令をかけて敵に突っ込んだのを目にして、やる気を新たにしながら俺も続いていった。

 

 

 

 

 




久しぶりに主人公目線。これでもう空気なんて言わせない。


Q.展開遅くないですか?

A.じっくり目に書こうと意識しているので、ある程度は意図的なものではありますが……。バランスは調整していきますです、はい。

Q.ユニットって片方でも飛べね?

A.後程修正か設定の後付をさせていただきますが、とりあえず続きを書く方に重きを置かせていただきます。すまんそ。

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