ストパンのVRゲームでウィッチになる話   作:通天閣スパイス

14 / 21
※ご指摘を受け誤字修正。赤い何かが乗り移ってましたさーせん。でもドイツでもウラーって掛け声は確かある、はず。
※間隔調整しました


ミッション 2(B)

 ――運が、良かった。エーリカが一命を取り止めた理由は、極論すればそれに尽きる。

 運良く、後方に半ば遊撃と化していた戦力があった。運良く、それを救援に回せる余裕があった。運良く、彼女達は敵の強い抵抗も受けずにエーリカ達の下まで辿り着くことが出来た。運良く、エーリカが落下しきる前に抱き止めることが出来た。

 運も実力のうちという言葉があるが、エースという人種は天に愛されでもしているのだろうかと、後にこの話を聞いた将官が溢したほどである。エーリカの生存は、それほどまでに奇跡の積み重ねの上に立っていた。

 

 その時彼女の側にいた、彼女が落下していく様子をつぶさに見ていたバルクホルンも、彼女が生き延びたことに驚きを隠せなかった。

 援軍にやって来たウィッチ達がエーリカを救助し、バルクホルン達を敵の包囲から助け出してゆくその姿を、彼女はどこか現実離れしているような心地で見つめていた。

 

「――トゥルーデ! おい、ぼさっとするな、トゥルーデ!」

 

 いつの間にか側に寄ってきていたウィッチの喝を聞いて、バルクホルンはようやく我に帰る。

 見ると、彼女の隣にいるのは見知った友人の、ダールという名のウィッチであった。ミーナの下で中隊長を務めている彼女がどうしてここに、と一瞬考えて。すぐに彼女の隊が援軍に来てくれたのだと結びつけて、バルクホルンは安堵の息を吐いた。

 

「お前か……。いや、すまん。助かった」

「礼なら後にしろ、今はさっさとここから離れるぞ。無事な奴等は後方で再編成、怪我人は地上までエスコートしてやる。……行けるな?」

 

 彼女の問いかけに、コクリ、とバルクホルンは力強く頷いた。

 エーリカの一件で少し気が抜けてしまったとはいえ、彼女もエースである。すぐに戦意を再びたぎらせて、抱えたMG42を構え直した。

 

「バルクホルン隊、点呼! 無事知らせぇーッ!!」

 

 周囲をさっと見渡して、バルクホルンは点呼を呼び掛ける。怪我でもしたのか、エーリカのように他の人間に抱えられていた隊員もいたが、声は欠けることなく全員のものが返ってきた。

 数分ほどの短い時間ではあったが、死中にいたと言っていい彼女達である。憔悴していてもおかしくないだろうに、その目から感じ取れる覇気は非常に高い。

 その反応を見て、バルクホルンは部隊が未だに生きている(・・・・・)との判断を下して。隣の少女と顔を見合わせると、示し合わせたかのように頷いた。

 

「いいか貴様らッ! これより我々は、ダール隊と共に後方へと下がる! 全員遅れるな、私とダール中尉に続けぇーーーッ!!」

『Hurrraaaaaaaaaaaaa!!』

 

 バルクホルンの短い言葉の最後、掛けられた号令に従ってその場のウィッチ達は動き出した。

 バルクホルン隊、そしてそれを護るダール中尉に率いられたウィッチ達は、お決まりの掛け声を叫びながら前に進んでゆく。それは撤退と呼ぶよりは、正しく後方への突撃と呼ぶに相応しい――扶桑に詳しいものがこの光景を見れば、丸に十字のとある家紋を思い浮かべるような、そんな鬼気迫る雰囲気を醸し出すものだった。

 

 彼女達が進む方向、つまりダール達がやって来た方向にも、ネウロイ達は存在している。ダール達が行き掛けに少しは排除しているとはいえ、まだまだその数は少なくない。

 もし彼女達が通常戦力であるなら、それらは高い壁となって立ちはだかったであろう。……が、ウィッチの集団の本気の突撃を止めるには、些か戦力不足と言わざるを得なかった。

 

「――緩いッ!」

 

 バッサリと。航空型ネウロイに照準を合わせるバルクホルンは、その敵の機動を切って捨てた。

 彼女が放った弾丸は、敵から少し離れた所を目指して飛んでゆく。そのままなら外れてしまうだろうそれは、しかしネウロイの移動した先と見事に重なっていて。偏差射撃と呼ばれる、敵の動く先を予測しての攻撃を受けて、そのネウロイは姿を塵に変えた。

 敵からの攻撃を螺旋を描くように飛んで回避しながら、新たな敵を定めた彼女は、それに狙いをつける。パパパ、と幾つもの乾いた音がした直後に、その幾何学模様のようなネウロイは四散していた。

 

 奮迅。彼女の働きは、そう言い表すにも言葉に余る。

 集団の先頭に立って道を切り開き、後に続く面々の撤退のための障害を取り除いていく彼女は、既にこの戦いだけで二桁を数える撃墜数を記録していた。ダール、ヴェラ、そういったその他の面々の中にも活躍している者はいるものの、撃墜数だけで見ればとても彼女には及ばない。

 彼女と肩を並べるエースであるエーリカが戦闘の継続はほぼ不可能であるために、ある意味ではその皺寄せが彼女に行っているとも言える。が、親友が戦えないというその事実が、現在のバルクホルンの力をさらに引き出していた。

 

(……クソッ! 守れなかった、ハルトマンが、もう少しで死ぬところだった!)

 

 敵を倒しながら、バルクホルンは内心で自身を叱咤する。悔しさ、怒り、後悔、様々な感情が彼女の中に渦巻いて、彼女自身の心を責め立てていた。

 

 彼女は隊長である。部下を預かる責任、部下を護る義務があり、万が一の場合には自分を投げ出してでも部下の生還を優先する、それが軍人の上官というものだと彼女は教えられてきた。

 無論、それがあくまで理想だということは彼女も知っている。部下を守れず一晩中泣き腫らしていた同僚や、部下を見捨てて一人だけ後方に下がってきた士官の姿など、彼女も腐るほど見てきている。

 だが、良くも悪くも、彼女は真面目な人間だった。その理想を本気で守ろうとして、死力を尽くして――結果として親友を死なせかけてしまった。

 

(何がエースだ、スーパーエースだ! 肝心な時に、所詮、人間一人では……!)

 

 ギリ、と。歯を食い縛るバルクホルンは、エースだウィッチだとおだてられても、あくまでも一人の人間でしかないのだと、自分の無力感を思い知らされたように感じる。

 油断は大敵であり、慢心は罪である。気を引き締めるようにはしていても、自分はどこか驕ってしまっていたのではないか――。彼女は今にも自分を殴りつけたくなる衝動を、必死に我慢した。

 

 ふと、彼女の脳裏に一人の少女の姿が過る。それは彼女の最愛の妹であり、避難民として今はダンケルクにいるはずの彼女を心の底から愛してるバルクホルンは、自分が妹を守りきれないのではと、そんな最悪の想像をした。

 想像する。ネウロイに襲撃され、蹂躙される民衆達。人間だったものがあちこちに散乱し、血肉にまみれたものが周囲を埋め尽くして。その中に、彼女の見知った少女の、苦悶に歪んだ顔が――

 

「――ッ!!」

 

 瞬間的に沸き出た怒りを、バルクホルンは眼前のネウロイにぶつけることで発散する。MG42の弾のシャワーを敵に浴びせかけながら、今しがた浮かべた想像を必死に振り払った。

 

(大丈夫だ……。クリスは大丈夫だ、ダンケルクはまだ安定している。落ち着けゲルトルート、今は目の前の敵に集中するんだ)

 

 すぅ、はぁと何度か深呼吸を繰り返して、彼女は冷静さを取り戻す。

 落ち着いて彼女が周囲を見渡すと、そろそろ味方に近づいてきたのか、周囲の空に見える航空型ネウロイの数もすっかり少なくなっている。地上からの攻撃もなくなって、ここ暫くは空の敵のみに集中出来る余裕があった。

 

 それからは特に何事もなく、途中ですれ違ったウィッチ達に囮の礼と戦果の賞賛をバルクホルン達は受けながら、彼女達は後方に下がっていった。

 エーリカ達を地上に下ろすために何人かのウィッチが一時的に離れたが、それ以外の彼女達は皆一塊に集まって、再編成のための指令を待つ。JG52、JG3と所属は違う彼女達だが、現場においては臨時で編成が組まれることも少なくない。

 隊に負傷者や脱落者が出たバルクホルンは、ダール隊との一時的な合併を無線で上に具申。無線の相手である指揮官は少々悩んだものの、結果としてそれを許可したのだった。

 

「……よし。ではこれより、我々ダール隊の何人かをバルクホルン隊に回す。異存のある者は手を挙げろ」

 

 無線を終えた直後、ダールは隊員達を見渡しながらそう言った。当然のように手は一つも挙がらず、彼女も当然のように頷いた。

 実際、これは形式のようなものである。上官への意見が絶対に悪いというわけではないが、この場合のこの決定において反論が出る可能性は彼女もバルクホルンも考えていない。反論したとして、何か意味があることでもないためだ。

 

 視線をバルクホルンに向けた彼女は、誰がいい、と短い言葉で尋ねた。バルクホルンはふむ、と暫し思考を巡らせて、自分の要求を口にする。

 

「見たところ動きが良かった、あそこの茶髪……あとヴェラ軍曹をくれ。ハルトマンを助けてくれた礼だ、撃墜数をアシストしてやりたい」

「ヴェラ軍曹か? ああ、うん、あいつがいると色々楽なんだけどな……。まあいい、持ってけ」

「助かる。世話になりっぱなしだな、後でブルストでも奢ってやろうか?」

「……ビールは?」

「一杯ならな」

 

 ついでに二人が軽口を交わしていると、下から先程別れたウィッチ達が上がってくる。

 補給物資も貰ってきたのか、弾薬を抱えて戻ってきた彼女達は、他の隊員達にそれを配っていって。ダールもそれを受け取りつつ、彼女達に先の決定を伝えた。

 

「臨時編成として、ダール隊から一部人員をバルクホルン隊に回すことになった。ヴェラ軍曹、お前はクリスタと一緒にバルクホルン隊だ」

「……え? あ、はいっ、了解しました!」

 

 エーリカを助けた、今その彼女を地上に届けてきたウィッチ――ヴェラという少女は一瞬呆けた顔をして、すぐに敬礼で返す。

 ちらり、と視線を向けてきた彼女に、バルクホルンは軽く手を挙げて。近くにいた茶髪の少女と一緒に近づいてきた彼女に、薄い笑みを浮かべた。

 

「さて……。知っているかもしれないが、ゲルトルート・バルクホルン中尉だ。二人とも、短い間だがよろしく頼むぞ」

「は、はい! フランツィスカ・ヴェラ軍曹です、よろしくお願いします!」

「クリスタ・ブラウン准尉であります! 同じく、よろしくお願い致します!」

 

 合流してきた二人は敬礼をして、自分の名を名乗る。バルクホルン隊の面々も二人に対して自己紹介をし、それぞれ軽い挨拶を交わした。

 特に疎むような様子もなく、二人との共闘を彼女達が受け入れたのを見て、バルクホルンは満足そうに一つ頷く。それからこれからの行動目標、先に決めた通りに右翼の援護に回ることを伝えると、声の揃った了解の言葉が返ってきた。

 そして再び前線へと向かおうとする、その前に。ふと、彼女の隊の一人が、何かに気づいたように呟いた。

 

「……何、あれ。どこの隊?」

「む? どうした、何かあるのか」

「いえ、その。あれを……」

 

 バルクホルンの問いに、少女は彼女達の後方、基地がある方面を指差した。

 そちらに視線を向けてみると、多数の黒い点がこちらへと飛来してきているのが見てとれて。スコープでその姿を確認したバルクホルンは、それらがネウロイではなく陸上攻撃ウィッチ達であることに気がつくと、その眉根を寄せる。

 作戦では、陸上攻撃ウィッチの出番はもっと後のはずだった。敵航空戦力を排除、もしくはほぼ無力化と言える状態まで追い込んでから彼女達を投入し、敵陸上戦力に大打撃を与えることになっていた。

 

 現時点では、まだ敵航空兵力はそこそこの数が残っている。味方の尽力により随分とその数は減っているが、無力化したと言うにはまだまだ敵の数が多すぎる。

 にも関わらず、この時点での投入が行われた。……その理由を考えて、バルクホルンは何だか嫌な予感を覚えた。

 

『――戦場にいる、全ての航空ウィッチに告げます。これより我々陸上攻撃ウィッチ達が敵に当たります、貴官らは速やかに後方に退避、我々の援護に回りなさい。繰り返す――』

 

 彼女の予想通り、次の瞬間にはそんな言葉が無線で流れ出していた。どこか高慢ちきな雰囲気の女性の声で告げられるそれは、無線を持っているウィッチは全員聞こえているようで、彼女が周囲を見渡せば困惑した様子のウィッチが彼方此方にいる。

 その通告はあまりにも一方的で、投入が早められたことの説明もなく、とても納得の出来る命令ではなかった。いや、そもそも命令(・・)なのかも怪しい、酷く乱暴な言い様である。もしや現場の暴走ではないのかと、彼女は繰り返されるその言葉を遮った。

 

「こちらJG52、バルクホルン中尉だ! 陸上攻撃ウィッチの投入はまだ後だったはずだろう、どうなっている!」

『……こちら、JG3のヴィルケ中佐です。バルクホルン中尉が言うように、作戦では貴女方の出番はまだ先だったはずですが』

『こちら指揮を執らせてもらっているカーン中佐だ、我々は既定の作戦に則って戦闘を行っている。貴官の姓名と階級、及びにその命令を下した人間を答えよ』

 

 彼女に続いて、疑問を浮かべたウィッチ達が次々に問いを投げ掛けてゆく。その中には彼女達の指揮を執る人間も含まれていて、その彼女の言葉には若干の怒りが混ざっていた。

 が、そんな感情の発露に気づいてかそうではないか、命令の発信者は馬鹿にしたような笑いを一つ溢して。誰とも知らぬ少女の嘲った顔を、バルクホルンは正確に幻視した。

 

『私はハインリーケ・フォン・シュタイン……。階級は大尉ですが、この命令は正式な司令部からの命令ですわ。貴女達航空ウィッチが予想よりも不甲斐ないものですから、我々が尻拭いを任せられましたの』

『――なんだと?』

 

 指揮官の声に、さらなる怒気が混ざってゆく。

 現在の戦況は良いというわけでもないが、悪くはない。全体としては順調に遂行されていると言ってよく、不甲斐ないと言われるのは指揮官の少女も、そして今まで命を張って戦ってきたウィッチ達にとっても心外である。

 何より、シュタインと名乗った少女は、明らかに彼女達航空ウィッチを見下していた。もし本当に不甲斐なかったとしても、彼女の態度は目に余るものであり、とても戦場で戦う兵士に掛ける言葉ではなかった。

 

 なんと、破廉恥な――。バルクホルンはそう怒鳴り付けたくなる衝動を、必死に我慢した。

 

『命令書も携えてきておりますので、よければお見せ致しましょうか? 実は出発前に、中将閣下から戴いて参りましたの』

『……よかろう。シュタイン大尉、後方中央の私の所に今すぐ来い』

 

 最早苛立ちを隠そうともせずに、指揮官のウィッチはそう言って通信を終了する。これ以上声を聞きたくないとばかりのその行動に、バルクホルン以下他のウィッチ達も続いて無線を切った。

 

 バルクホルンが再び彼方を見やると、遠くの点だった陸上攻撃ウィッチ達はかなり近づいてきているようで、既に細かな服装や装備が判別出来るほどの距離だった。

 彼女達の先頭にいる、如何にもな貴族面をした少女が、今のシュタインという大尉だろう。フォン、というミドルネームがあるのだから本物の貴族の出身なのだろうか、自然に他人を見下すような雰囲気が実に似合っている。

 

 ふと、バルクホルンは彼女と目が合った。バルクホルンが敵意や警戒心を露にして睨んだその視線を受けてなお、大物なのか余程の馬鹿なのか、彼女は鼻で笑って受け流していた。

 

 

 

 

 




忙しい。真面目に。

Q.すいませんゲシュタポの者ですが

A.主人公はゲームの中じゃ女だから問題はない。などと犯人は供述しており

Q.主人公の元ネタ

A.まあ名前はフランツ•フォン•ヴェラですね。戦績よりもエピソードが有名な方です

Q.男×TS女はよ

A.主人公はホモじゃないから(震え声)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。