とある転生の幻想交差 Re:birth   作:僧侶

8 / 23
修正割合2割くらい。ほぼ同じ。


大地×大樹=対抗する五人一組

 

 

「おいおいこれ結構な騒ぎだぞ?」

 

 下から見つかる事がないように、かなり高い位置から近く強化の望遠魔法で街の様子を見渡す。

 至る所で小さいながらも岩の山ができあがり、なおかつ地面が揺れているのか人々は地に伏せている。影響がないのは木が生えている場所だけだ。

 

「こりゃ(アーシー)のカードか?四大元素の高位カードの御登場かよ……」

 

 なのはの世界についての知識はないが、クロウカードについての知識はある翔太。見覚えのある光景に身震いをする。

 樹木には影響が及ばないことから、カードキャプターさくらの知識と一致するので間違いはないと翔太は判断する。しかしこっちには(ウッド)のカードがない今、どうやってこいつを封じたらいいのだろうか。

 

「翔太くんっ」

 

 ユーノを肩に乗せたなのはが下から飛んできて翔太の隣に並ぶ。合流するために急いで来たせいで見ていなかったのか、ここで初めて下の状況に息をのむ。

 

「ど、どうしよう! このままじゃ町が!」

「ここまでの強い力を持ってるなんて……」

 

 なのはは焦り、ユーノは言葉をなくしてる。公園や神社の一角に比べて今回は町全体なのだから、被害規模はこれまでのものとは比べ物にならないくらい広い。

 

「ユーノ、あいつを(ウェイブ)の時みたいに結界の空間に閉じ込めることはできないのか?」

「最初に地面が揺れたときにやろうとしたんだけど、アイツの力が強すぎて包みこめなかったんだ」

「うわ、そりゃまずいな……」

 

 早く封印しないと町が危険だ。翔太はおもむろに携帯電話を取り出す。

 自体は一刻を争う。封じ方はまだ分からないが、とにかく太陽属性のカードを封じる力を持つアリサにかけてみる。

 

『翔太!?今私も連絡しようとしてたのよ!』

 

 ワンコール鳴る前にすぐにアリサはでたが、あちらも相当焦ってる。

 

『さっきからケロちゃんがクロウカードの気配を感じるって言ってるんだけど、そっちで何かあった!?』

『街中に岩が生えて、地震が起きてるんだ。それにその範囲も広がってるみたいだ』

 

 数秒前よりも岩が生えてる範囲が僅かに広がってる。逆にそのおかげで同心円状の中心に(アーシー)本体がいる事が予想できる。

 

『そりゃおそらく(アーシー)のカードや! でも手持ちのカードじゃ捕まえるのは……』

『そうは言ってもほっとくわけにゃいかんだろ! このままだと町が大変なことになるぞ!』

『そうなんだけどっ、町が大変だから今戻ることはできないってパパが!』

 

 アリサは父親との用事で海鳴から離れていたのだった。

 しかもアリサは飛行魔法が使えないから自力で来ることもできない。走っていたのでは到底間に合わない。

 

『なら俺がお前を迎えに行くから待ってろ!』

『……わかった、待ってる! パパに見つからないように撒いておくわ』

 

 なるべく早く来て、と言い残して電話が切れる。被害が取り返しがつかなくなる前に、とにかく急いで行動しないといけない。

 

「なのは、ユーノ、ここは任せていいか?俺はアリサを迎えに行ってくる」

「う、うん。今すずかちゃんもこっちに向かってるって」

 

 翔太がアリサと話している間になのははすずかと連絡を取っていた。すずかはミッドチルダ式飛行魔法と(ジャンプ)を併用して空中で跳躍することで、細かい制御はできないが直線の移動速度は結構早い。すぐになのはと合流できるはずだ。

 

「それじゃすずかと合流したら3人でアイツを押さえておいてくれ。意識を逸らすだけで良い。アイツが(アーシー)である以上、地面に降りさえしなければそれほど危険はないはずだ」

「そうか、地のカードなら空は飛べないんだね」

「本体の位置は把握してるな? ユーノ」

「うん、あの同心円状の中心だね」

「スピネルさんも私の魔力なら(アーシー)を驚かせることくらいはできるかもって言ってたから頑張る!」

 

 伝えるべき事は伝えた翔太は、浮遊と姿勢制御にまわしていた魔力を推進力に変える。

 

「フィアフルフィン、全開!」

 

 全身の羽に意識を集中。フィアフルを直訳すれば"恐ろしい"とか"身の毛もよだつ"とか"物凄い"といった意味になる。名前については特に深い意味はなく、なのはの飛行魔法であるフライヤーフィンに対抗して、それよりもすごいものという意味を込めて付けた名前だった。だが、本気を出せば、その名に恥じない通りの物凄い速度を出す事が可能になる。

 

「レディー……、ゴー!」

 

 音を置き去りに、とまではさすがにいかないが、それでも新幹線と張り合える速度で飛びだした。一路アリサのもとへ。

 

 

 

「もしもしアリサ? 遠見市上空に着いた。今どこだ」

『――――』

「うん、うんわかった。今から降りる」

 

 携帯電話を片手に眼前の街を見下ろして目的の公園を見つける。アリサから聞いた建物の位置関係から間違いないようだ。

 なるべく見つかる事がないようにすばやく公園の物陰に降り立った。

 

「たしかこの辺のはず……」

「翔太、こっちこっち」

 

 翔太が降り立った場所よりももっと奥まったところから顔と手だけ出して手招きするアリサ。

 

「随分奥に隠れて…ってなんだこれ!?」

「あ、あはは」

 

 中学生くらいの男が3人横たわっていた。しかも青い顔をしてうなされてる。うち一人はなんか異臭が漂っている。

 

「何したんだ?」

「なんかカツアゲしてるみたいだったから、(シャドウ)使って脅かしたら気絶しちゃって」

「……やってることの割にキモが小さい奴らだな」

 

 同情のしようもない。

 

「さ、こんなのほっといて早く行きましょ。大変なんでしょ?」

「そだな」

 

 なのは達に(アーシー)のことを頼んだとはいえ、なるべく早く戻りたい。強力な相手なので人数は多い方が良いし、仮になのは達がうまくやっていたとしても、封印できるのはアリサだけなのだから。

 現状では最速の翔太が迎えに来たのも時間のロスを少なくするためだ。

 

「そんじゃ、急ごう」

「そ、そうね」

 

 翔太が差し出した手にアリサはほんの一瞬だけ身構え、その手を取るのに躊躇する。

 

「? ほれ」

 

 その様子に、手を出したまま首を傾ける翔太。そこには何の気負いも緊張も遠慮もないように見えた。

 

「…………はぁ」

 

 顔と手を何度か交互に見て、アリサは諦めたようにため息をついてその手をとった。

 

「なんだ、どうした?」

「なんでもない」

 

 翔太がいつも通り平然としているのに、自分だけ意識しているのがなんだか自意識過剰に思えてバカらしくなったアリサは、そっぽを向いて口をとがらせた。

 翔太にとってプールの一件はもう過ぎたことでしかない、……ように見せてアリサを引きよせながら、翔太は片側の口角を僅かに上げた。そっぽを向いていたアリサは当然気付かない。

 

「よーし、そんじゃいこーか」

「えっ?」

 

 ニコニコと表情を変えずに素早く引き寄せながらトンっと足を払い、傾いた身体の背と膝の裏に腕を通してそのまま抱きあげた。

 普通に言うなら横抱き。

 俗に言えばお姫様だっこである。

 

「ちょ、こ、こんな抱き方しなくてもいいじゃないっ!?」

 

 おんぶで行くと思っていたアリサは、思わぬ体勢にさっき捨てた過剰だと思った分の自意識を取り戻して頬を赤く染める。設置面積で言えばおんぶの方が多いが、プールの一件でアリサが翔太に生まれたままの姿を晒したのもこの体勢だったので、余計な記憶も刺激されてしまっている。

 

「やー、背中の羽がメインの推進力を司ってるからな。背負うと羽がつぶれるからこの体勢だ」

「でもだからってこの体勢は……」

 

 ちょっぴり嗜虐的な、とても良い笑顔だった。

 実際には背中の羽がなくても飛べない事はない。伊達に身体の節々に羽を生やしているわけではない。では何故アリサをお姫様だっこをしたのか?

 

「さーて飛ばしていくぞー♪」

「え、ちょっと、待って、きゃーー!?」

 

 フィアフルフィンの精密操作により静かにかつ一気に上昇し、地上数百メートルに到達する。こんな高高度では抵抗して暴れるわけにもいかず、翔太のシャツを握りしめて借りてきた猫のように縮こまるしかない。

 

「お、おぼえてなさいよ」

「えー、なんのことー?」

 

 要するにアリサの反応を面白がっているだけの翔太であった。

 基本的に翔太とアリサの関係はアリサの方が優位に立っている事が多い。それはアリサの気質やカリスマ性と、女性が強い家系で育った翔太の処世術がかみ合っているからだ。 ただ、だからと言って常に女の子の下におさまっているのをよしとするほど、翔太の中の男心はくさってはいない。別に普段の友達関係に不満を抱えているわけではないが、それでも時には優位に立ってみたいと思うこともあるのだ。そんな悪戯心からの行動だった。

 

「行くなら急ぎなさいよ!」

 

 口調を強くして怒って見せているが、そのくせ恥ずかしさの割合が大目だった。

 

「了解了解。そんじゃ、しっかりつかまってろよ、っと!」

 

 そんなアリサに、怒った顔可愛いなーと内心にやにやしながらフィアフルフィンに流す魔力を高めていく。

 一回り大きくなったフィンを輝かせ、一路海鳴市の方角へ飛び出していく。

 

 

 

 

 

 

 最高速で海鳴まで戻ってきて、魔力の反応がある場所まで更に飛ばす。

 午前中にサッカーをしていた河川敷のグラウンドがあった場所の上空にすずかはいた。下は陥没していたり岩山が出来ていたりとグラウンドなど見る影もない。いつもなら昼間のここはいつも人でにぎわっていて、空をふわふわと浮いていることなどできないが、この騒ぎの所為で周囲には誰もいない。

 

「すずか!」

「あ、待ってたよ二人とも」

 

 減速しながら近づいてすずかの隣に並ぶ。その肩にユーノが乗っていて、何かの魔法を使っているのか、若草色の魔法陣がすずかの足元を囲んでいた。

 すずかは翔太の腕の中で顔を赤くして小さくなってるアリサを見て少しだけ目を細めたが、特に何かを言うことなく下に目を向けるように翔太達に促した。

 そこより高度が低い場所で、(アーシー)の本体と思しき岩の塊から撃たれる岩を、器用に回避しながら奮闘しているなのはの姿が見えた。傍目にはいい勝負をしているようにも見える。

 

 翔太が空を飛ぶ魔法に向いていたように、なのはもまた適性の高い魔法があった。それは放出系だ。

 自分の魔力を外に向けて放つ力に優れ、ユーノが教えた射撃魔法、シュートバレットも一発で覚えた。シュートバレットは射撃魔法としては基礎の基礎ではあるが、習得難易度としては中級に属する魔法なので簡単に習得できるものではないとユーノが驚いていた。

 それどころかなのははディバインシューターなるオリジナル魔法まで編み出していた。今(アーシー)に向けて撃っているのもそれだ。

 

「すずか、もしかして怪我したの?」

 

 翔太が作戦会議のために一旦上にに上がってくるようになのはに念話をしていると、その腕の中のアリサがすずかの足を見て呟く。よくよく見れば僅かに腫れているのがわかる。

 ユーノが行っているのはその治療魔法だった。

 

「う、うん。ちょっと…ね。(ウェイブ)も効果がなかったから、試しに(ジャンプ)の跳躍力を活かして蹴ってみたんだけど……」

「蹴ったって、あの岩の塊を!?」

『すずか嬢ちゃんて見かけによらずアグレッシブやなぁ』

「そりゃ捻挫の一つもするだろ」

『私は止めましたよ』

「無茶しすぎだよすずか」

「突然飛び出すからびっくりしたんだよ!」

「ご、ごめんなさい」

 

 下から合流したなのはも加わって、すずかの行動にそれぞれのリアクションを返す。

 どうやらそんな事情で、治療担当のユーノを伴って岩が届かない上空まで避難してたらしい。

 

「しかし、アリサ連れてきたはいいけど、(アーシー)相手に有効打持ってるのってなのはだけなんだよな」

 

 なのはが撃つディバインシューターに当たるのが嫌なのか、なるべく避けようと移動したり、岩で打ち落としたりしていたのでダメージはあると思われる。

 すずかとアリサ、もちろん翔太も攻撃魔法のシュートバレットはまだ習得してないし、唯一攻撃っぽい事が出来る(ウェイブ)は効果がない。

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)超電磁砲(レールガン)じゃダメなの?」

 

 腕の中から翔太を見上げるアリサ。

 その提案に、ふむ、と呟いてポケットの中の禁書の小説に意識を向ける。しかしそれを否定するように小さく首を振って、落ち着いた声ですずかが答える。

 

「"五行思想"って言う木火土金水の関係を表したもの考え方があるの。その中で相生の関係で"火は土を生じる"って言われているから(アーシー)を相手に火を使うのはよくないの」

「あー、確かに。むしろ逆にパワーアップさせるかもしれないな。(ウェイブ)の水が効かないのも相剋の関係上仕方ない。超電磁砲(レールガン)の方は……地面には電気効かないし」

『ほう、詳しいですね』

「まあな」

 

 スピネルの感心するような言葉に胸を張って答える翔太。幻想交差(クロスオーバー)用の小説を書いても怪しまれないようにするため、図書館での調べごとをする事が多く、本に触れている時間はそれなりに長い。多くの本に触れていればそういう知識に触れる機会は自然と増える。翔太とすずかが出会い、親しくなったのも図書館がきっかけだ。

 

「じゃあ、どうするの?なのはにまかせっきりって訳にもいかないでしょ」

「私なら一人で大丈夫だよ?」

「お前だけ矢面に立たせるわけにもいかんだろ。何より攻撃力が足りてない」

「……そうだね。もっと強い魔法を撃てないと」

『Master…』

 

 何か不穏な事を考えているコンビをよそに、すずかがちらっと翔太を見ながらダメ元で提案する。

 

竜王の殺息(ドラゴン・ブレス)は……」

『あかん。威力が強すぎて(アーシー)が死ぬ』

「カードなのに、死ぬ?」

 

 ケルベロスの言葉にユーノが首をかしげる。

 

『ん? ゆーとらんかったか? カードは生きとるんや。(シャドウ)(ジャンプ)もそれぞれの自意識がちゃんとあるのは見とってわかったやろ?』

 

 確かに、と頷くユーノ。

 

『カードとしてみると"物"の印象が大きいかもしれませんが、"人工精霊"と言うとどうでしょうか。クロウカードはある種の魔法生命体と言っても過言ではありません。ですからカードたちを道具のように扱うのはやめてあげてください』

 

 スピネルの言葉に、それぞれの持つカードを取り出して力強くうなずくアリサとすずか。

 

「そんじゃ竜王の殺息(ドラゴン・ブレス)はダメ、っと。うーん、それなら神裂火織の七閃(ななせん)は?」

『おお、それがあったな。近づいて一撃加えたら(アーシー)も大人しくなるかもしれんな』

 

 鋼糸による七つの斬撃。作中で風力発電用のプロペラをバターのように切ったと言う描写がある。そのプロペラが何製かはわからないが、岩より弱い素材と言うことはないだろう。つまりはすずかの蹴りのように弾かれることなく攻撃を加えることが可能な力なのだ。

それじゃその作戦で行こうと頷き合う。

 

「それじゃ、アリサちゃんは私がおんぶするね」

「そうだな。ほら、アリサ」

「う、うん」

 

 手が離れる時、本人も気付かぬうちに名残惜しげな表情を浮かべたアリサだったが、素直に背を向けるすずかにおぶさった。下は相変わらず岩山が乱立してたり揺れていたりしているので、下に降りるという選択肢はない。

 

「じゃ、行ってくる。なのははサポートよろしく」

「うん!」

「頑張って、翔太」

「気をつけてね」

「怪我しないようにしなさいよ」

 

 神裂火織の登場シーンが書かれたいくつかの頁を手にした翔太は、なのはと共に(アーシー)の攻撃が届く範囲まで高度を下げる。

 すかさず飛んできた岩をひらりと避けて、翔太は頁を胸に押し当てる。

 

「そんじゃ、行きますか!『能力召喚、"神裂火織"!』」

 

 1巻では本当の意味で抜かれることはなかった七天七刀と、七閃(ななせん)の正体である鋼糸が手に現れる。

 

「って、でかっ!?」

 

 標準的な小学三年生である翔太の身長以上にでかい七天七刀。

 持つのも一苦労だが、これがなければ"神裂火織のイメージ"からずれる所為で七閃(ななせん)の威力が落ちるので捨てるわけにはいかない。

 思わぬ荷物のせいで若干飛びにくいが、フィアフルフィンの姿勢制御は乱れることはなかった。

 そのまま全身の羽を活性化させて、(アーシー)の本体に迫る。

 近づけば近づくほどに打ち出される岩が多くなるが、翔太の背後から援護をしているなのはが撃ち落としているので、高速飛行で避けることもさほど難しくなかった。

 そして最接近して―

 

七閃(ななせん)っ!!」

 

 ズバッ、と一瞬のうちに(アーシー)に七つの亀裂が走る。

 

――コォォォォ!――

 

 大地に響くような音、(アーシー)の悲鳴が響き、先ほど以上の速度で岩をまき散らし始めたので、一旦距離を置く。

 

「でも、効いてる! このまま連続してやれば…」

「あ、待って!」

「ってこら!逃げるな!」

 

 もう一度接近してくらわせようと翔太が身構えたのに気付き、(アーシー)の核が地面に潜って逃走を始めた。

 

「まずい、繁華街の方へ向かってる!」

 

 今は周囲に建造物のない広いグラウンドだが、そんなところに行かれてしまえば被害が大きくなってしまう。

 

「行かせるか! フィアフルフィン全力全開…っておわああっ!?」

 

 追いかけようと加速した翔太俺の目の前に、突然岩の壁が出現する。(アーシー)の妨害だった。加速中だったせいで減速が間に合わず、そのままガンッ!と派手な音を立てて激突する翔太。

 

「翔太くん!」

「翔太!?」

 

 フィアフルフィンの制御に意識を集中していたので身体防御術式がおろそかになっていた翔太は、激突のダメージをもろに受ける。その衝撃の所為で手から離れた七天七刀が消滅し、神裂火織の能力も消えていく。

 

「う、ぐ……」

「翔太! 大丈夫なの!?」

 

 翔太が唸っている間に(アーシー)とは随分距離が離れている。アリサを背負ったすずかと、なのはも心配して近づいた。

 

「大丈夫?」

「いっつつ。くそ、たんこぶになりそうだ……。とにかく追うぞ」

「でもあっちは人がいっぱいで魔法が使えないよ」

「あー、ばれるのはマズイ。どうすっか……」

「みんなを認識阻害の結界で包むよ。範囲が少し狭いからなるべくひと固まりで飛んで」

 

 すずかの肩から翔太の肩に跳び移ってユーノが魔法を発動させる。若草色の光と共に翔太を中心に球体の結界が形成された。

 

「りょーかい。行こう」

「うん」

 

 頷き合った翔太達はそのままは(アーシー)を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 (アーシー)を追いかける道行きで、アスファルトが盛り合っていたり建物にヒビが入っていたりと空からは分からなかった町の被害が目に入ってくる。

 

「ひどい……」

「早く封印しないと。急ぐぞ」

「えっ?」

「きゃっ」

 

 翔太がなのはとアリサを背負うすずかの手を取って更に加速する。なのはやすずかが単独で飛ぶよりも牽引しながらでも翔太の方が速く飛べる。

 所々で、道路から張り出した岩に立ち往生して停車している車や、地面の揺れに耐えるように蹲っている人たちがいるものの、ユーノの結界のおかげで翔太たちの姿は見えていない。

 

「あ、いた!」

 

 道路を突き進む(アーシー)の姿をなのはが見つける。

 だが、その進行方向には翠屋JFCのキャプテンとマネージャーが一緒に蹲っていた。

 

「う、うわーーー!?」

「いやぁあああ!!!」

 

 恐怖に震えるマネージャーの手元から、強い光があふれだした。

 

「「「「ジュエルシード!?」」」」

「そんな…やっぱりあれがジュエルシードだったの?」

 

 驚く翔太たちの中で、なのはだけ何か気付いていたのか表情が陰っていた。

 そんななのはの様子に声をかける暇もなく、近くに生えていた街路樹が二人のことを包み守るかのように囲っていき、一気に育っていった。

 

「おいおいおいおいどんどん大きくなってるぞ!?」

「あ、でも見て! (アーシー)の動きが止まってるよ!」

 

 すずかの声に視線を移すと、キャプテン達に近づいてジュエルシードを発動させた元凶の(アーシー)は、木の根に絡まれて身動きが取れなくなっていた。

 五行思想で当てはめると、木は土に勝つ相剋の関係。つまり土は木に敵わないということになる。

 迫る岩に恐怖を覚えた彼女の願いを受けて、ジュエルシードが土を封じる物を選んだのかもしれない。

 

「アリサちゃん、今のうちに封印を!」

「わかったわ!」

 

 すずかがアリサを伴って木の根に絡め取られてまったく身動きが取れなくなっている(アーシー)に近づく。

 

「汝のあるべき姿に戻れ!クロウカード!」

 

 アリサの振り下ろした太陽の杖により岩の塊は姿を崩し、やがてカードとなってアリサの手元に収まった。

 

「偶然に助けられたわね」

『手持ちのカードだけじゃ太刀打ちできんかったやろうな』

「でさ、本来なら太刀打ちできない相手を封じてくれたジュエルシードの方は、どうやったら封印できると思う?」

 

 わずかなやり取りの間に大樹は際限なく大きくなっていった。

 

「…………と、とにかく核になってる女の子に近づいて封印を――」

「……近づく奴らを追い払うためか、木の根や枝がわさわさ動いてるんだけど」

「それ、こっち向いてる気がするのは気のせいかしら?」

「………………」

「………………」

「………………」

「っ!退避ぃ!」

「「「きゃああああ~~~!?」」」

 

 一斉に襲いかかる木の枝をかいくぐり、翔太は再度なのはとすずかの手を取って全力で離脱した。

 

 

 

「あっぶねぇ、もう少しで捕まるところだった」

 

 なんとかかんとか無事逃げることに成功し、あの大樹からだいぶ離れたところにあるビルの屋上に降り立った。

 

「にゃ、にゃはははは~」

「目が、目が回る~」

「私もちょっと、気持ち悪いかも……」

「……うぷ」

 

 訂正、ちょっと無事じゃない。そもそも飛行魔法を使えないアリサなどは青い顔をして口を押さえて今すぐにでも吐きそうだが、乙女の矜持なのか必死に抑え込んでいる。

 木の枝から避けるために翔太は無茶苦茶な機動をとってなのは達をぶんぶん振り回していたのだから当然かもしれない。

 

「しかし、あれどうやって封印すればいいんだ?」

 

 翔太は振り返って大樹を見上げる。

 僅かにジュエルシードの放つ光が漏れているのが見えるので、その場所に二人がいるのは間違いないが、近づくと木の枝が邪魔をするようだ。

 ここまで逃げてくる事が出来た実績を鑑みるに翔太単独なら高速飛行で掻い潜ることは可能かもしれない。しかし翔太はジュエルシードの封印術式を素早く扱うことはできない。

 一応教わって覚えてはいるが、発動までの時間で木の枝に捕らえられてしまうのがオチだろう

 デバイスを使って封印術式を短い時間で起動できるなのは、アリサ、すずかの誰かの手をとって接近するという手段もあるにはあるが、翔太と一緒に飛ぶとどうなるかはご覧の有様である。酔った状態で封印術式なんて使えないので結局だめだ。

 

「僕が砲撃魔法を使えればよかったんだけど……」

 

 ある程度空に慣れているからか、なのは達よりも早めに復帰したユーノが翔太の肩に乗って呟く。

 

「砲撃魔法?」

「それに封印の術式を乗せて打ち出すんだ。でも管理局員でもまともに使える人は少ないくらい凄く高度な魔法で……」

「ユーノは使えないと」

「ごめん……」

「あやまるなって。そうなると、どうしたものか」

 

 翔太はビルの端に立って、上から町を見下ろす。

 (アーシー)を封印したおかげで、地面を突き破って生えていた岩は消えたが、今度はその代わりに木の根がはっている。

 被害は(アーシー)の時以上に深刻だった。

 

「私にまかせてくれないかな」

「なのは?」

 

 俺の無茶な飛行による影響から立ち直ったなのはが、固い表情で言った。

 

『そういやなのは嬢ちゃん、ジュエルシードが発動した時"やっぱり"ってゆうなかったか?』

「そうなの? なのは」

 

 ケルベロスの言葉にアリサは青い顔のままなのはに視線を向ける。なんとか飲み込んだようだ。

 

「うん……。お店の外から見たとき、ポケットにジュエルシードみたいなものを持ってるのが見えたの。あの時ちゃんとしてればこんなことにはならなかったのに……」

「なのはちゃん……」

 

 バリアジャケットのスカート部分を握りしめて、強く自分を攻めるように言葉を絞り出すなのは。

 その様子に翔太は頭をかきながら近づき、手刀を作って勢いよく振り下ろす。

 

「「ちぇすとっ!」」

「ふにゃっにゃっ!?」

 

 奇しくもアリサも翔太と同じ行動をとっていたようで、なのはの脳天に二連撃が加えられた。

 

「にゃ、なにするの~?」

 

 頭を押さえて屈みこみ、涙目で二人のことを見上げるなのは。

 その姿を、二人はそろって腕組みして見下ろす。

 

「自分ひとりのせいとか思いあがるな!」

「私たちだって同じ光景を見てたのよ!」

「それで気付かなかったなら俺たちだって同罪だろ!」

「それにジュエルシードのおかげで(アーシー)を捕まえることが出来たんだから結果オーライよ!」

「つまり、何が言いたいかと言うと!」

「「「「なのは(ちゃん)は悪くない!!」」」」

 

 いつの間にかアリサの隣にすずかが並び、最後の一言はすずかもユーノも加わっていた。

 

「い、息ぴったり」

 

 圧倒されるなのは。

 

「何言ってんだ。本当なら俺たち五人で息ぴったりにならないといけないんだぞ?」

「そうよ。一人で責任を背負っちゃダメ。私達は5人でチームなんだからね?」

 

 そう言って手を差し伸べる。翔太は右手を、アリサは左手を取ってなのはを立たせる。

 

「失敗も悲しい事も悔しい事も、"みんな"で分かち合おう?」

 

 すずかの言葉に同意するように頷いて、俺たちはしばらく無言でなのはに微笑みかける。

 

「……うんっ!」

 

 目を潤ませながらも、今日一番の笑顔でうなずいた。

 

「もちろん嬉しい事もな」

 

 翔太の言葉に、うんうんと力強くうなずくアリサ。

 これにて一件落着………………じゃなくてジュエルシードを忘れてはいけない。。

 

「で、それはそれとして、なんか手はあるのか?」

 

 さきほど自分に任せてほしいと言ったからにはなのはには何か策があるようだった。

 

「うん。レイジングハートが教えてくれたの。私になら砲撃が撃てるって!」

 

 そう言って、ちゃき、と杖の尖端を大樹に向けるなのは。

 

『Shooting mode set up。stand by ready』

 

 シーリングモードじゃなくてシューティングモード。杖の形状から、先端部分が音叉状の形態に変形し、光の羽が広がった。

 

「おぉ!」

 

 なのはの足元に大きな魔法陣が浮かび上がり、一秒ごとに輝きを増していく。

 

「す、すごい!初めてのはずなのに!」

 

 ユーノの驚きの声と共に、杖の尖端に光球が生まれる。

 

「いくよー!」

 

 どんっと一歩強く踏み込み、強く大樹を睨みつけながら引き金(トリガーワード)を叫んだ。

 

 

 

「ディバイン、バスターーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 

 桜色のぶっとい光線が、遮ろうとする枝葉も蹴散らして凄まじい速度で大樹を貫いた。

 

「リリカルマジカル ジュエルシードシリアル10 封印!!」

 

 その閃光は、はるか先のジュエルシードを見事に封印して見せた。

 

「すごいわ!」

「やったねなのはちゃん!」

 

 見る間に大樹が小さくなっていき、ジュエルシードを発動させたマネージャーと一緒に捕われていたキャプテンが、ゆっくりと地上に降下していくのが見えた。

 

「これにて一件落着、だな」

 

 

 

 後に、この騒動によるけが人はほとんどいなかったらしく、町の被害の割には最小限で済んだらしいことがわかって、なのはたちはほんの少しだけほっとしたのだった。

 

 

 

 


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