とある転生の幻想交差 Re:birth   作:僧侶

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妨害×望外=イレギュラー

『それで何があったのよ? 二人揃って学校に来ないなんて』

「まー、なんというか、色々あってさ」

『その色々が聞きたいんだけど。すずかと一緒にいるみたいだし魔法関係と家族関係でなにかあったの?』

「わりぃ、明日(●●)になったら説明するから今は見逃してくれ」

 

 時刻的にはお昼休み。電話の向こうから教室内の喧騒が漏れ聞こえてくる。心配八割、不機嫌二割の成分で問いかけてくるアリサに、傍らのすずかと共に苦笑しながら誤魔化す翔太。微妙に的を射ている辺りアリサのカンは鋭い。

 

 深夜の話し合いを終えて一休みし、次に目が覚めたのはお昼前。目覚めてすぐに翔太とすずかは忍に対して夜の一族の契約を交わした事を話した。(タイム)の関係で詳細は話せなかったが、その辺りは白鳥が事前に言いくるめていたのか深く追求されることはなかった。ちなみに白鳥は夜明け前に翔太を残して帰宅した。

 それから学校はどうするのかという話になったが、翔太もすずかもこの日に受ける授業内容は覚えているので、結局学校をサボタージュすることにして(タイム)の捜索を優先させることになった。朝食を兼ねた昼食を食べて、(タイム)捜索の作戦会議を始めようとしたところでアリサから電話がかかってきて今に至る。ちなみにその時に履歴を見たら午前中にもかかって来ていた。寝ていたので気付かなかったようだが。

 

『今日話せない理由でもあるのかしら?』

「それも含めて明日説明するって。納得はできないかもしれんけど」

『はぁー、わかった、今話す気はないことは理解したわ。で、放課後はどうする気? 昨日ユーノ達と開発した魔法を披露しようって話になってたと思うけど』

「そっちもすまん。ちょいとやらないといけない事がある」

『……すずかと一緒に?』

「まあ、うん」

『むぅ……』

 

 不機嫌の割合が二割ほど増したのが電話越しでもわかった。まあまあアリサちゃん、というなのはのなだめる声が聞こえてきた。

 

『……明日ちゃんと説明するのよ?』

「約束する」

『じゃあもう聞かないわ。それじゃ、すずかによろしくね』

「りょうか~い」

 

 電話を終えてポケットにしまう。

 

「アリサちゃん、納得してくれた?」

「不承不承ながら、ね」

 

 すずかと向き合いながら、机の上に広げていた地図に視線を向ける。

 

(タイム)に時間を戻されると、今日の記憶が全てリセットされてしまう。俺が昨日体験したことや、夜にすずかと話した事、忌々しいものもあるけど、それでも大事な記憶だ。この記憶を連続できないってことはその時間を生きた俺が死ぬ事と同義。俺にはそれを防ぐ手段があるけど、アリサやなのはにはない。だったら最初から教えるべきじゃない」

「うん、だから(タイム)の封印は私たちだけで、ね」

 

 そう言いながらすずかは地図上にサインペンで丸を入れていく。そこは学校や百貨店、遊園地が建っている場所だった。

 

「こんな所かな。屋外に大きな時計がある場所は」

「そうだな。ん~、そういや小二の社会科見学で行った植物園にも花に彩られたでっかい時計があっただろ。あれどこだっけ」

「あ、それはここだと思う」

 

 そう言いながらすずかはもう一つ地図上に丸を書いた乗せた。

 

 何故こんな事をしているのか。それは(タイム)の潜伏先の候補を絞るためだ。スピネルから(タイム)は時間を操作する魔法を行う際、屋外に存在する比較的大きな時計に宿って力を行使すると教えられた。学校にはグラウンド、ひいては学校外からも見える位置に時計があり、百貨店では入口付近、もしくは屋上に大きな仕掛け時計がある。遊園地では観覧車の中央部分にデジタル時計が表示されているし、そうでなくても時計塔が建っている。どれもこれも時計がある場所だった。

 魔法を使う必須条件は"時計に宿る"ことと、多くの人の目に触れる"屋外にある"という二点だけなので、大きさは実際関係ないのだが、大きい物を(タイム)が好む傾向があるということで、海鳴市にある屋外の大きな時計をピックアップをしていたというわけだ。

 

「これを全部回るのは骨が折れそうだな」

 

 遊園地や植物園は一か所だが、学校は小、中、高、大と何校もある。場所もあちこちに点在しているため、探すためには海鳴市内を丸ごと一周しなければならなそうだ。

 

『その上(タイム)の魔力が表に出るほど高まるのは深夜零時直前。それより以前だと遠距離からの魔力探知では見つけにくいです。直接触れるなどすればさすがにわかると思いますが』

「でもさ、外にある時計って大抵高い所にあるから、空飛ばない限りなかなかさわれないよな」

「どこも人目が多い場所だから魔法で飛ぶわけにもいかないよね」

 

 うーん、と二人で首をひねるも、結論は一つしかなかった。

 

「やっぱり人が少なくなった夜から深夜の間に街中飛び回って一つ一つ確認していくしかないか」

「そうだね、二手に分けて効率の良い進行順序を決めないと」

 

 その後十数分かけて進行ルートを決めたが、まだ日が高く探しに行くことはできなかったため、しばらく雑談でもして時間をつぶすことになった。

 

 

 

「――てことはつまり、最低でも2,3カ月に一回は吸血しないといけないのか」

 

 その中で話題に上がったのが夜の一族についてだった。

 

「うん、大人になるともう少し頻度が上がるってお姉ちゃんがいってたけど」

「理由は……って、ああ、あれか」

「……わかるの?」

「まあ、その、うちは姉さん多いし」

 

 苦笑で誤魔化してあえて原因が何かは言及しない。しいていうなら女性的なアレで失血するのが理由だろう。

 

「あとさ血って普通は鉄分的な若干の甘みを感じるけど、味の感じ方って違ったりするのか?」

「輸血用のだと、無味乾燥な感じだけど……」

 

 そこでほんのり頬を染める。

 

「翔太くんのは、その、甘く感じた、かな」

「そ、そうか……」

 

 つられて翔太が照れる。そのまま二人とも会話を続ける事ができずに悶々としていると、柱時計がボーンという低い音を七度ならした。

 

『小学校などはそろそろ人気も少なくなってきたでしょうし、(タイム)の捜索を始めませんか?』

「そ、そうだね!」

「よ、よーし、そんじゃ手分けして行こう!」

 

 部屋に充満していた妙な雰囲気を払しょくするように、二人とも急いで支度を整えていった。

 

「見つけたら念話で知らせて、見つけられなかったら11時に一旦合流して俺に一撃加えてもらって魔力光をすずかと同じにする。そこからは一緒に捜索を続ける、ってことでOK?」

「うん。慌てず急いで正確に探していこう」

 

 そう言って二人は別々の方向に飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………昨日、見つからなかったな」

「……うん」

 

 翌日(●●)、二人は月村邸の客間で疲れた顔を向き合わせていた。

 二人にとっての昨日、あれから街中を翔けずり回って探したものの、(タイム)が宿る時計を見つける事ができずに、タイムリミットを迎えていたのだ。

 二人とも時が戻ってすぐに目を覚ましたが、その時は記憶のリセットが起きていない事をメールで確認しあっただけで、詳しい相談はまた学校を休んで話をしようということになったので、翔太は朝になって月村邸を訪問したというわけである。その際事情を知らない忍達とひと悶着あったわけだが、「明日(●●)説明する」で押し通して今に至る。

 

「でも最後に大きな魔力は感じたから、大まかな方向は定まったよね」

「……悪い、その辺俺は鈍感だから気付かなかった」

「そ、そう?」

 

 以前(フライ)を捕獲する時に、すずかはユーノがはった結界の綻びをなんとなく感知していたことがある。魔力の質や量を、術式を介さず素の感覚で読みとる才を持っているようだ。

 

「まあだいたいの方角がわかったならそれで絞れるか。探すだけで何回もループするのも面倒だし。それで方向どっち」

「えっと、最後に私達がいたのがこの辺で、魔力を感じた方向がこっちだから……」

「海側だな」

 

 そう言ってる間に翔太の携帯電話にアリサからの着信が鳴り響いた。昨日(●●)履歴にあった時間と同じ時間だった。

 

「はい、翔太」

『「はい、翔太」っじゃないわよっ! 何急に休んでるのよ!?』

「おぉう」

 

 耳にキーンと響く声量だった。

 

「昨日の第一声と同じだね」

 

 離れたところですずかがくすくすと笑っている。昨日(●●)も翔太は同じ口撃(誤字にあらず)を喰らったのに、地図に気をとられていたせいで忘れてしまっていたようだ。

 そのままアリサは二言三言翔太に対して不満を並べ立て、そうしてある程度落ち着いたのか声量をいつも通りに戻して昨日(●●)と同じ言葉を口にした

 

『それで何があったのよ? 二人揃って学校に来ないなんて』

「んー、色々あってさ」

『その色々が聞きたいんだけど。すずかと一緒にいるみたいだし魔法関係と家族関係でなにかあったの?』

明日(●●)になったら説明するから今は見逃せって」

『何よその命令口調……』

 

 時刻的には二時間目と三時間目の間の大休憩。電話の向こうから教室内の喧騒が漏れ聞こえてくる。以前と違うのは、二回目のやり取りということで少々おざなりな翔太の態度に、アリサの心配と不機嫌の割合が5:5になったことだろうか。

 

『今日話せない理由でもあるのかしら?』

「それも含めて明日説明するって。放課後の件もなしな。別にやる事が出来たから」

『……すずかと一緒に?』

「うん」

『むぅぅ……』

 

 声の調子から不機嫌度合いが更に上昇してるのが伝わる。まあまあアリサちゃん、というなのはのなだめる声が以前の通り聞こえてきた。

 

『……明日ちゃんと説明するのよ?』

「ああ」

『絶対よ?』

「わーってるって」

『……じゃあもう聞かないわ。それじゃ、すずかによろしくね』

「りょうか~い」

 

 電話を終えてポケットにしまった。

 

「翔太くんにとっては二回目のやり取りかもしれないけど、アリサちゃんにはそれがわからないんだからちゃんと対応しないと怒っちゃうよ?」

 

 最初の時よりも誠意が薄く感じられる翔太の対応にすずかが少し苦言を呈した。

 

「あー、ごめん。次が無いように気をつける」

「次があったら、じゃないんだ」

「もうさすがに次があったら面倒だろ。今回封印するつもりで頑張ろうぜ」

 

 そう言って再び地図に視線を落した翔太に、しかたないな~と小さく呟きながらすずかも地図に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日(●●)

 

「……………………疲れた」

「………………体力はリセットされてるよ?」

「…………精神的に」

「……そうだね」

 

 月村邸の客間。二人して机の上に突っ伏していた。ここに至る流れは昨日と同じ。

 

「見つけた。(タイム)は見つけた。うん」

「海鳴臨海公園だったよね。海風の腐食対策で少し大きめに設置されている時計」

 

 愚痴っぽい感じで再確認をする二人。

 

(タイム)自体は特に抵抗の意思はなかったのに……」

「そうだよね。むしろ出迎えるように姿を現してくれたよね……」

「でも……」

「まさか……」

 

 そこで大きく溜息を吐く。

 

「「(ウォーティ)が妨害するなんてっ」」

 

 もうただの愚痴だった。

 

 

 

 

 

 

 昨日と同じく、日が暮れてから捜索を開始した二人は、海鳴公園でほどなく(タイム)を見つけた。ただそこから先は二人の予想から大きく異なった展開になった。

 先ほど言ったように特に抵抗の意思を見せなかったのでそのまま封印しようとしたが、その時急に海水が大きく盛り上がって水柱が立ちのぼり、翔太とすずかに襲いかかってきたのだ。

 

(ウォーティ)はいわゆるツンデレな性格で、マスター候補には最初厳しい態度で当たって、封印が完了したら従順になるという困ったカードです』

「どっからそんな性格がでてきた!?」

『水は気体・液体・固体と状況によって形態が変化するのでその部分を性格に反映したのでは?』

「うわー、なんか納得してしまいそうな理由……」

 

 でも大抵水の精霊って大らかだったりしない?とも思う翔太であった。

 

「まあそんなことはどうでもよくて」

『そうですね。要するに、マスターの力量を試すために(タイム)の近くで待ち伏せをしていた、と言うことでしょう』

「それに俺たちはあっさりやられちゃったわけね……」

 

 そう言って再びずーんと落ち込む翔太。実は不意打ちに動揺して(ウォーティ)が纏った海水を飲んでしまったせいでまともに戦力ならなかったのだ。

 

「……でも、不意打ちじゃなかったとしても、勝てるのかな?」

 

 そう言ってすずかの手持ちのカードを取り出した。

 (ジャンプ)(ウェイブ)(ロック)。それがすずかの手持ちの月属性カードだ。(シャドウ)(アーシー)(フライ)(スイート)(パワー)の太陽属性のカードは普段アリサが持っているので、すずかの手持ちはこれだけだ。

 無論アリサに言えば借りることはできるが、事情を説明しないといけなくなる。

 

(ウェイブ)で対抗しようとしてみたけど……」

(ウォーティ)は高位カードに属します。よくて中位レベルの(ウェイブ)では相手取るのは少々難しいでしょう。マスターの能力が高ければ野良状態のカードに勝つこともできますが、未だその域には達していません』

「ごめんね力不足で」

『……いえ、マスターは十分驚くべき速度で成長していますよ。ただ今回は相手が悪すぎただけです』

 

 (ウォーティ)は四大元素の一角。最上位カードである(ライト)(ダーク)の次に強力なカードだ。

 以前、同じく四大元素である(アーシー)を封印できたのは偶然が重なった結果であり、自力では封印は不可能であったと言わざるを得ない。そのせいなのか、実は(アーシー)はあまりアリサの言う事を聞かない。封印された以上は逃げ出すことなく大人しくしているが、使おうとした時は必要以上に魔力を消費するのだとアリサが愚痴を漏らしていた。

 

「そうは言っても邪魔してくる(ウォーティ)をなんとかしないと(タイム)を封印できないわけだろ?」

「そうだよね。どうにか今の手札で何とかする必要が――」

 

 その時翔太の携帯電話にアリサからの着信が鳴り響いた。時計を確認してみると前回と同じ時間。翔太は小さく溜息をついて、通話ボタンを押して素早く受話器に言った。

 

「明日説明する。以上」

『ちょっ――』

 

 アリサが何か叫ぶ前に、翔太は電話を切ってポケットにしまった。

 

「翔太くん、それはちょっと酷いと思うよ?」

「…………すまん、つい」

 

 すずかの非難の視線を受けて、さすがにやり過ぎたと思った翔太は、再び携帯電話を取り出した。

 そこで数瞬考え、電話だと怒声が飛びそうな気がしたのでメールに切り替える事にした。チキンである。

 

「これでよし」

 

 当たり障りのない謝罪の言葉を書いて送信。そして『勝手にすればっ!!』という返信が間髪をいれず届いた。

 

「……これでよし」

「よくないよー」

 

 聞けばすずかの方に、なのはから『ア、アリサちゃんが物凄く怒ってるんだけど翔太くん一体何したのー!?』というメールが届いたらしい。そんなやり取りをしている間に学校では休憩が終わる時間になってしまったので、すずかはアリサに『翔太くんがごめんね? 詳しい事情は必ず明日説明するから』といった感じのメールを出してその場はなんとか収めることとなった。

 

 

 

「えっと、ちょっと時間食ったけど、本題に戻ろうか」

「うん、翔太くんが全面的に悪いけど、本題に戻ろう」

「だ、だから悪かったって」

「それはアリサちゃんに言ってね」

「ぐぅ……」

 

 ぐぅの音は出るようである。

 

『いいかげん(ウォーティ)対策を練りましょうか……』

 

 どこか翔太の反応を楽しんでいる節があるすずかを窘めるように、議題を元の軌道に戻すスピネルだった。何気に一番の苦労人(?)なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は夜の十一時。亥の刻が終わり、あと一時間ほどで日付が変わるという時間帯。しかし、今のままでは日付は変わらず巻き戻るだけ。

 そんな頃、主候補を待ち構える(ウォーティ)は海の中でゆらゆらとたゆたっていた。

 

――今夜も主候補は来るのかしら? 絶対来るわ。だってそうしなければ明日は訪れないのだから。ああ、主候補は私を封印するのにどんな方法をとるのかしら。今から楽しみでしかたないわ――

 

 多分そんなようなことを思いながらゆらゆらと。

 

 カツン

 そんな時、足音が水面から響いてきた。

 

 (ウォーティ)は主候補の登場かしら?といった感じで海中から足音の方向を確認する。

 その先にいたのはスカートの下に短パンを履いた中学生くらいの茶髪の少女。昨日邂逅した主候補や一緒にいた少年とも違うため、(ウォーティ)は彼女から興味をはずした。

 前回ちょっとやり過ぎたせいで怯えてるのかしら?と再び海中に潜って待つことにした(ウォーティ)。背後でバチバチと紫電を纏う彼女の様子に気付かぬままに。

 

 瞬間、少女の前髪から雷撃の槍が生み出され、海面を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

――アアアァアァアアァーーー!!??――

 

 仮に音声として聞きとれるなら、悲鳴としかとれない何かが公園中に響き渡った。

 

「よっしゃ!!」

「第一手はまず成功だねっ」

 

 海から離れた物陰から様子を伺いながら、翔太とすずかは小さく喜びの声を上げた。

 

 

 

 水に効くのは電気、というとあるゲーム的な考えで御坂美琴の能力を使うことはすぐに思いついた。ただ、(ウォーティ)自身は純水の化身。純水の状態では電気は通り難くなる。無論、純水でも通電はするので全くダメージが無いわけではないが、電気の通りやすい海中に溶けている間の方が効果はある事は明白だ。

 昨日の出現で、(ウォーティ)が海中に潜んでいるのはわかっていたが、姿を見せて近づけば当然海から出てきてしまう。そこで翔太は御坂美琴を"召喚"することにした。

 

 大抵の場合は、翔太自身が能力を使いたいがために"能力召喚"を行って自分自身が術者となる。だが、この場合は(ウォーティ)に警戒されない"召喚"が効果的だった。

 

 

 

「御坂美琴が登場する頁を丸々使ったんだ。上手く動いてくれよ……っ」

 

『はあぁーーーーっ!』

――っっ!?――

 

 召喚時に与えた指令通りに(ウォーティ)の気を引いて海から引き離していく美琴。その間も何度か雷撃を加えて(ウォーティ)にダメージを与えていく。(ウォーティ)もやられっぱなしではなく美琴に対して水流を放って反撃をしているが、巧みに避けてどんどん海との距離を広げていった。

 

「そろそろ回り込もう」

「おっけ」

 

 そうして十分に距離が開いた頃に、(ウォーティ)が再び海中に逃げ込む事が無いように回り込んで退路を断つすずかと翔太。

 

『お、りゃーー!』

――ググ――

 

 美琴は最後の一撃を加えて消滅する。召喚開始から消滅まで約十分。海から見えない位置に召喚し、歩いての移動。そして(ウォーティ)との戦闘と十分な役割を果たした。さすがに召喚時間を稼ぐためにこの時間まで何度も何度も読んだだけはあった。

 

――フーー、フーー――

 

 すずか達に背後をとられた事に気付き、一瞬だけ動揺した様子を見せた(ウォーティ)。美琴により水素と酸素に電気分解されたせいか、最初に見たときより僅かに小さくなっている。

 

――……フっ――

 

 だがそれでも、(ウォーティ)はすずかを見て、すぐに余裕の表情を浮かべた。(ウォーティ)は自由に流体化したりできる不定形の存在であるので、自分を捕らえることはできないと踏んだからである。

 

「確かにそのままじゃ無理だけど、これなら! 彼の物の在り方に強固な鍵を! (ロック)!」

 

――…………――

 

 表情を変えることなくそのまますずかの魔法をうける(ウォーティ)(ロック)の力で(ウォーティ)は流体化して逃げる事ができなくなった。だが……

 

「う……、く……」

 

 (ウォーティ)が力を込めると、(ロック)のカードの輝きが僅かずつだが影っていく。

 

(ウォーティ)(ロック)共に月属性のカード。特殊カードとはいえ、中位の域を出ないカードでは(ウォーティ)の力にマスター一人ではまだ敵いませんね』

 

 強力な(ウォーティ)の力に圧されて、すずかの施した(ロック)の縛りがゆっくりと解除されていっているのだ。

 

「そう、一人なら敵わない」

――ニヤリ――

 

 翔太の言葉に同意するように、口角(といっていいのかよくわからないが)を上げる(ウォーティ)

 

「なら二人ならどうだ?」

――!?――

 

 そう言って翔太はすずかと一緒に杖を握る。月の杖に、ひいては発動中の(ロック)の魔法に、二人分の出力が重なった。

 

『一人で足りないのなら二人で。少々裏技じみた方法ですが、理には適っているでしょう?』

 

 二人握る月の杖の、先端部分にある満月を模した銀の月がピコピコと光って、スピネルが自慢げに語った。

 翔太は事前にすずかから一発もらって、自分の魔力光を銀色に変えていた。その状態で月の杖が使えるのは検証済み。なら、すずかと共にクロウカードを使用して、足りない力を重ねることも不可能ではないということだ。

 

――ア、アアア――

 

「今さら焦ったって遅い! (ロック)で抑えるのは俺が制御するっ! だからすずかは!」

 

 翔太の言葉に視線で応えるすずか。

 一つの杖で、二人が別の事をする。スピネルにとってかなりの負担になるが、文句も一つ言わず従っている。

 

「汝のあるべき姿に戻れ! クロウカーード!」

 

――アアアアアッ、アハァ――

 

 太陽と月の丸い魔法陣の下に、(ウォーティ)はカードとして封印されていった。

 

「………………こいつ、最後になんか恍惚とした表情浮かべてなかったか?」

『……まあ、()ずですし』

「ど、どういういみなのかわからないよ?」

 

 とか言いながら耳が赤いし動揺してるのでわかっているのが丸わかりのすずかだった。本好きには耳年増が結構多い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでようやく明日ってわけだな」

 

 すずかの手に握られた(ウォーティ)(タイム)のカードを見ながら、翔太は肩の荷が下りたと言うように息をはいた。あのあとすぐに(タイム)を封印して、12時を回っても一日がリセットされないことが確認できた。(タイム)だけでなく(ウォーティ)という高位カードまで封印できたのは当初から考えると望外の結果と言える。

 

「本当に、色々あったね……」

 

 ふわりとした優しい微笑みで翔太の事を見つめるすずか。

 その視線に気付いた翔太は、ほんの少しばつの悪そうな表情を浮かべる。

 

「本当に、ごめんな。すずかにあんな事して……」

「ううん。元々私が早く告白してればよかったんだよ……。受け入れてもらえることはわかってたのに」

 

 いや、俺が。ううん、私が、というやり取りを数回繰り返し、そして二人とも同時に噴出した。

 

「どっちも加害者、どっちも被害者。だから対等で、ずっと一緒。ね?」

「ま、すずかがそれでいいならいいけど、釣り合いが取れてないような……」

「それじゃ二回目の加害行為を行使します」

 

 くすくすと小悪魔的な微笑を浮かべながら、流れるような動作で翔太の首筋に唇を寄せるすずか。

 

「近い近いっ! せめて腕にっ、し…てく……れ……」

「?」

 

 すずかから慌てて離れようとした翔太の動きが、たまたま見上げた上空の一点を見つめたまま硬直していった。

 

「どうし――っ!?」

 

 その視線の先を追いかけて、すずかも同じ表情を浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア、アリサちゃん!?」

「っ! ~~~~っ」

 

 翔太と視線が合ったことで硬直していたアリサが、すずかの声ではっとした表情を浮かべ、そのまま一目散に飛び去っていった。

 

 二人の制止の声も届かぬままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……"あんな事"、"告白"、"ずっと一緒"…… ~~~~っ」

 

 空を翔る赤い少女の瞳は、涙に濡れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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