とある転生の幻想交差 Re:birth   作:僧侶

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激昂×独断専行=それが招く結末は――

 

 

 

 ジュエルシードの反応を感じて、月村家の森(敷地内に森があるとかどういうことだと問い詰めたい)に足を踏み入れた翔太たち。

 忍達にばれないようにユーノが結界を張り、アリサ達は杖を片手にバリアジャケットを身に纏って臨戦態勢を整える。さて今回の相手は何だろうと気合を入れた彼らが目にしたものは――

 

「……子猫、だよね」

「……子猫、だと思うわ」

「……うちの子だと思うけど」

「巨大な子猫…… 言葉にすると意味わからんな」

「あ、あはは。大きくなりたいって思いが正しくかなえられたんじゃないかな……」

 

『に~~~』

 

 鬱蒼と茂る木々よりも、更に大きな子猫が楽しそうに鳴き声を上げていた。

 大はしゃぎで遊んでるのが見ててわかる。風で揺れる木に猫パンチをしたり、咥えてみたり。

 仕草は子猫の愛らしさがあって可愛いんだが、いかんせん質量の問題か、猫パンチで木が折れるわ、咥えた木はボロボロになるわで結構大変なことになってる。

 

「リリム! やめなさ~い!」

『に?』

「わ、バカ!?」

「え?」

 

 無邪気な暴走による庭(森?)の破壊を止めるため、飼い主であるすずかが声を張り上げる。飼い主の責任として叱りたかったのかもしれないが、好奇心の塊である子猫(巨大)から、翔太達はちょうど猫相手の玩具サイズに見えない。名前が小悪魔的な名前であることも考えて、子猫の反応は――

 

『にぃ……』

 

 きらりと光る無邪気で好奇心に溢れたつぶらな瞳が翔太たちを捉える。猫も一応肉食獣。

 

「に、逃げろぉぉぉぉ!!!」

「「「きゃああああ!!??」」」

 

 翔太の声に皆バラバラの方向に脱兎のごとく逃げ出す。兎狩り的な意味で。

 

『に~~~~♪』

「って、俺の方にきたー!?」

 

 翔太がターゲットに定められた。

 

『にゃっ』

「とあっ!」

『ににゃっ』

「へいや!」

『にゃ~っ』

「こなくそっ!」

 

 フィアフルフィンを発動させて、猫パンチを紙一重でなんとか避けている。ぷにぷにする分には気持ち良い肉球も、それも巨大となっては脅威でしかない。

 

『結構余裕そうね?』

『案外必死だよっ!?』

 

 子猫の注意が翔太に集中したということは、それはつまりアリサ達は無事ということ。子猫を挟んだ向こうの方で翔太の様子を伺っていながら念話を飛ばす。

 

『翔太は皆と違ってバリアジャケットを纏ってるわけじゃないから早く助けてあげて!』

 

 翔太を気遣っているのはユーノだけだった。

 通常バリアジャケットはデバイスに登録し、起動と同時に魔力で生成して身に纏う。一応デバイスがなくても作ることは不可能ではないが、バリアジャケット生成は何気に結構高度な魔法なので、翔太はうまく生成することが出来なかった。

 高速飛行時に身体にかかる負担を軽減するための身体強化魔法はある程度使えるが、それもアリサ達のバリアジャケットの強度には遠く及ばない。実は防御面では翔太が皆の中で一番下なのだ。

 

『わかってるわ。それじゃ行くわよ!』

 

 (シャドウ)のカードを取り出して杖を振りかぶる。

 別にアリサも翔太の事を心配していないわけではない。ただ、フィアフルフィンの飛行能力なら回避も容易いと信頼しているからこそだ。

 ところが、(シャドウ)を使うその直前、アリサとは別方向から声が響いた。

 

「フォトンランサー、ファイア!」

『に゛ゃに゛ゃあ゛ぁぁぁぁ……』

「なっ!?」

「リリム!?」

 

 声が聞こえてくると同時、翔太の後方の上空から数本の光の槍が子猫に向かって降りそそいだ。子猫はよろけて苦しそうに呻き、心配したすずかが隠れていた木の影から飛び出す。後を追うようにアリサとなのはもそちらへ向かう。

 一瞬硬直して、その様子を見ていた翔太だが、すぐにはっとなって声がした方へ振り返る。

 

 

 

「金の……、女の子?」

 

 見上げた青い空に、翔太たちと同じくらいの少女が浮いていた。

 

 身体に張り付くような黒いボディスーツと、赤いベルトに申し訳程度のスカート。それを黒いマントで覆うバリアジャケット。そして金色の宝石がついたデバイスと思しき黒い斧。割合としては黒が多いからこそ、風になびく金の髪が翔太の印象に強く焼き付いた。

 状況も忘れ、一瞬見とれてしまうが、彼女がデバイスを振りかぶった事で翔太は我に変える。

 

「フォトン――」

「っ!?させるか!」

「待ってっ!翔太!」

 

 ユーノが制止する声を無視して、翔太はフィアフルフィンを羽ばたかせ、もう一度魔力スフィアを生成して追撃の構えを見せた彼女と猫の射線上に身体を割り込ませる。

 金の少女は一瞬驚いたような表情を浮かべるも、発動中の魔法を止めることができないのか、翔太に向かって撃ち放つ。

 

「――ランサー!」

「がっ!?」

 

 両腕を交差させて防御の姿勢をとってみたがそんなものは気休め程度にもならず、打ち放たれた光の槍は翔太に直撃し、放物線を描くように吹き飛ばされていく。その光景にアリサ達は驚きから硬直してしまう。

 空を仰ぎながら、翔太の視界は白く染まった。このままではなんの防御もできず頭から墜落してしまう。

 

 

 

「ッ(フロート)!!」

「っは」

「翔太!」

 

 アリサがギリギリ正気に戻り、地面スレスレの位置で翔太を受け止めた。

 

「そ、そうか、意識失うってことは飛行魔法も、解けるってこと、か」

「だから止めたんだよ! 翔太は魔法攻撃に対する防御力が無いに等しいんだから無茶しないでよ!」

 

 翔太を貫いた魔法にはスタン効果がかけられていたらしく、口も身体も痺れてまともに動かせていない。

 ユーノが走り寄って翔太を叱りつけながらも治療魔法をかける。それと同時にアリサが(フロート)の効果を切って地面に下ろした。

 翔太が意識を失っていたのは、彼女の攻撃を受けて落ちるまでの数瞬だったが、その間に状況が少し動いていた。

 

 翔太が撃ち落とされた位置にはなのはとアリサが浮かんでいつでも防御魔法を展開できるように身構えている。子猫の方は翔太が受け切れなかった分が直撃したのか、倒れこんでしまっていてすずかの呼びかけにも返事を返していない。

 そんな中で金の少女は変わらずに空に佇んでいる。

 

「どうしてこんなことするの!?」

 

 翔太は大人しくユーノの治療魔法を受けながら、なんとか首を動かしてアリサ達の様子を見る。翔太からは二人の後ろ姿しか見えないので表情は伺えないが、なのはの方は彼女に向かって声を張り上げる。

 金の少女は質問には答えず、再びデバイスを振りかぶる。

 

「ロストロギア、ジュエルシードを回収する。邪魔をしないで」

「ジュエルシードはユーノくんの―!」

「待ってなのは」

 

 アリサがなのはを制して一歩分前に出る。少し震えたいつもより低いその声は、怒りの成分を色濃く乗せていた。

 彼女もその様子に気付いたのか、猫しか見ていなかった視線をアリサに向ける。

 

「アンタ今、何したかわかってんの?」

「…………」

 

 アリサの静かな、けれど重い響きを伴った問いに、金の少女は答えないまでも少しだけ怯んだように下がる。

 それでも答えない彼女に、アリサの怒りが爆発する。

 

「アンタに撃たれて、意識なくして空から落ちて! 私が止めなきゃ頭から地面にたたきつけられてたのよ!! 下手したら死んでたのよっ!? 私たちみたいにバリアジャケットもデバイスも持ってないただ速く飛べるだけの翔太を、アンタはあと少しで殺すところだったってわかってんの!?」

「ア、アリサちゃん?」

「そ、れは」

 

 となりにいたなのはも驚くくらいの剣幕に押されてさらに下がる金の少女。

 ケンカをして怒ることは結構多いが、ここまで本気で怒っているアリサをなのは達もは初めて見る。

 

「答えなさい!!」

「あ、う……」

 

 そんなアリサの一喝に答えられず視線を逸らす金の少女。

 実際にはフォトンランサーという攻撃魔法がもう既に発動していた状況で、翔太が無謀にも射線上に割り込んだから起きた事故なので、一番の原因は翔太の無茶だが、今のアリサにはそれが通じるとも思えない。

 

 そのまま数瞬、無言の時が流れる。

 

「あ、リリムが……」

 

 そんな中で最初に言葉を発したのはすずかだった。

 完全に意識を失ったせいか、子猫の身体が元の大きさに戻り、そして体内からジュエルシードが浮かび上がってくるのが見えた。

 

「っ! それでも私は!」

『Scythe Form』

「「っ!?」」

 

 

 

 翔太がアリサ達の方へ視線を戻した時、光の鎌がなのはとアリサを切り裂いていた。

 

 

 

「なっ!?」

「なのは!!」

「アリサちゃん!!」

 

 翔太と同じようになのは達も、すずかの声を聞いてジュエルシードの方に視線を向けていたのだろう。その隙を一瞬で詰めて、また翔太の時と同じように意識を刈りとった。すごく辛そうな顔をして、そして"ごめんなさい"と口を動かしながら。

 

『Master!』

『アリサ!』

 

 翔太と違うのはバリアジャケットがあるおかげでダメージが少ないのと、デバイス達がいるから最低限の飛行制御で地面に激突する心配がないということ。

 それは理解している。頭でわかっている。だが、視界に映ったアリサとなのがは傷つけられたその衝撃的な光景に、翔太の頭に血が一気に昇っていった。

 

「て、めぇ……!」

 

 デバイスの制御でゆっくりと落下していく二人のもとへユーノとすずかが駆け出すのを横目に、ジュエルシードを手にしてそのまま飛び去っていく金の少女。

 

「フィアフル、フィン! 全開っ!!!」

「えっ、ちょっとしょ―」

 

 制止の声も聞こえず、翔太はある程度回復していた身体に鞭打ってフィアフルフィンを発動させる。まだ痺れは残っているが、それ以上に怒りで思考が染まっていた。

 全身の金色(・・)の羽を震わせ、バチバチ紫電をまき散らし(・・・・・・・・・・・・)ながら、翔太は彼女を追いかける。それが無謀と知りながら――

 

 

 

 

 

 

「待てぇっ!はぁ、はぁ、ぐぅ……!!」

「くっ」

 

 月村家の敷地からはとうに離れ、今は町の上空を飛んでいるが一向に追いつかない。ただ飛行経路は、アジトをばれないようにするためか、さっきから同じところをぐるぐる回っている。

 翔太は空を飛ぶ速度には自信がある。なのはもフラッシュムーブで翔太と並べるが、それも一瞬の事。翔太は飛ぼうと思えばその速度を常に維持できる。ユーノからも速度においてはそんじょそこらの航空魔導師であっても敵わないだろうと太鼓判を押されている。

 そんな翔太であっても彼女には追いつけていなかった。速度だけなら負けていない。けれど、巧みに翔太を翻弄する彼女の飛行と、そもそも速度に翔太の身体が追いついていないのが原因だ。

 

 繰り返しとなるが、俺はデバイスを持っていない。飛行魔法も毎回毎回自前で組んでいる。当然飛行中は全身に生やした羽を制御して飛んでいるわけだが、それだけで飛べるのは低速で飛行するときだけだ。

 高速で飛ぼうと思うなら、進行方向にプロテクションのような壁をはって風圧を受けないように制御しなければならないし、Gが少しでも軽くなるように重力のかかる方向を制御したり、それでも発生するGに耐えられるように身体強化魔法をかけたりと、並行していろんな魔法を使っている。デバイスがあればいくつかの魔法を肩代わりすることで負担が軽減するが、翔太にはその手段がない。

 それぞれの魔法だってデバイスなしで使うには簡単ではないので、同時に酷使することで色々な魔法の構成が荒くなって翔太の身体にかかる負担がかなり高くなる。

 最初に彼女に攻撃された痺れはほとんど抜けているが、それ以上に高速飛行でのダメージが翔太の体を蝕んでいた。

 

「フォトン――」

「っ!」

「……っく!」

「…はぁ、はぁ」

 

 何度か翔太を撃ち落とすために魔力スフィアを作ろうとする気配を見せるが、翔太が身構えるとその度に躊躇して魔法を取り消すことを繰り返している。アリサに言われたことがかなり尾を引いていると見える。

 事実ここで意識を刈りとられるような攻撃を受けたら、カバーしてくれる仲間がいないこの状況では翔太は確実に墜落し、死んでしまう可能性が高い。

 それで攻撃しないということは最初のアレはやはり翔太が急に割り込んだことによる不慮の事故だったようで、彼女に人を害してまでジュエルシードを手に入れたいわけではないと言うのがわかる。

 それでもいつまでも追いかけっこを続けるわけにもいかない。追いつく追いつかない以前にそろそろ翔太の身体が限界が近い。一瞬、歩く教会を自分に召喚して風圧とかGとかから身を守ろうかとも思ったが、あれは着た者を守ると同時に、二巻で姫神秋沙が吸血殺し(ディープブラット)を封じたしたように自分の能力を封じ込めると言う意味合いももつ。

 要するに使った瞬間に飛行魔法が解けて地面に真っ逆さまというわけだ。

 

 きっ視線を鋭くして、負担を無視して一か八かに賭ける決心をした。

 

「フィアフルフィン!アクセル!」

「っ!?」

 

 いつもの透明ではなく、何故か金色になっていた全身の羽に、更に魔力を流し込んで一瞬だけ"羽"サイズから"翼"と呼べるくらいのサイズまで巨大化させる。

 それにより速度が増して、驚愕の表情を浮かべる彼女との距離を一気に詰める。その分全身に激痛が走るが、それも数秒のことと悲鳴を噛み殺す。

 

 あと少し、後もう少しでマントに手が届―

 

「フェイトから、離れろーーー!!!!」

「ぐぼっ!!?」

「アルフっ!?」

 

 全く意識していなかった真横から、オレンジの長い髪を振り乱し怒りの形相をした女の人が飛び込んできて、腕を伸ばして無防備になった翔太の横っ腹に重い拳を叩き込まれた。

 身体強化が効いていたのでダメージはある程度抑えられたが、視界が一瞬だけブラックアウトする。ただ、それだけじゃ終わらなかった。

 

「待ってアル――!」

「せいっ!」

「がはっ」

 

 翔太に突っ込んできた勢いを殺さず、身体を縦に回転させた踵を翔太の右肩に振り下ろしてくる。

 

「あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 その威力は翔太の肩の骨を砕き、地面に向かってたたき落とされる。蹴りの勢いがあったせいで、翔太の身体はぐるんぐるんと回転して、上と下がわからなくなる。回転しながらも見えた下の様子は、廃墟になった工場と思しき建物。人通りが少ない場所だったはずだから人の上に落ちると言うことはないなと、関係ない事が頭に浮かぶ。

 幸いというべきか、肩を砕かれた痛みの所為で意識を失っていない。それでも痛みが激しすぎるため飛行魔法の制御がまともに行えず墜落していくしかなかった。

 

「っ負けるかぁっ!!」

 

 近づいてくる地面への恐怖と痛みを無理やり抑え込んで、全身の羽の制御に意識を向ける。

 なんとか勢いを殺して落下速度を落す。でなければ死ぬ。

 

 

 

―――ガシャン!!!―――

 

「ぐっ!」

 

 脆くなっていたらしい工場のトタン屋根を突き破る。それでも身体強化でなんとか耐える。

 この程度の衝撃ならなんとか耐えられる。このまま身体強化を維持したまま地面に――

 

 

 

――――ドンッ(ザクッ)!――――

 

 

 

「…………あ?」

 

 

 

――死なない程度の勢いで地面に叩きつけられた翔太の目に飛び込んできたのは、左肩を貫くむき出しの鉄骨だった。

 

 

 

「――っ!!――っ!?」

 

 それを自覚した翔太が意識を手放すその直前に、突き抜けた穴から降りてくる金の少女の姿が見えた気がした。

 

 

 

 


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