短編集 らき☆すた~変わる日常IF、色々な世界~   作:ガイアード

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これも本編とは違う設定です。


みゆき編~大切な人、大事な記憶~

「あ、慶一さん。今日の帰りですが、ちょっとお付き合いして欲しい所があるのですが。」

 

私は今、自分の恋人となった森村慶一さんにそう声をかけると、慶一さんは私の方を振り向いて

 

「ん?どこか行くのか?なら、付き合うよ。」

 

そう言ってくれる慶一さんに私も笑顔で応えながら

 

「はい。よろしくお願いしますね?」

 

そう言う私に慶一さんも笑顔で応えてくれた。

 

そして、そんな私たちを見ながら泉さん達が

 

「むう、ラブラブだねー。いいなあ、みゆきさん。」

「でも、良かったわね。あんな事があったけど、治ってさ。」

「うんうん。どうなる事かと思ったよね?」

 

そんな風に言う皆さんに慶一さんが

 

「はは。皆には色々と迷惑かけちゃったな。でも、ありがとう。」

 

そう言うと、私もまた皆さんに

 

「色々とご迷惑をおかけしました。これから、その分はお礼としてお返ししたいと思っていますので。」

 

そう伝えると、皆さんもまた笑って頷いてくれたのだった。

 

そんな皆さんの姿を見て微笑みながら私は、今回の一件に関する事、そして、慶一さんと初めて出会った時の事を思い出していました。

 

あれは、私が中学2年生の頃、同じ学校に慶一さんも居たのですが、その時の私は慶一さんの事を全然知りませんでした。

 

ですが、ある時、慶一さんと出会うきっかけがありました。

 

それは、私が先生から学習用の教材を預かって教室に運んでいた時の事でした。

 

量的にも結構多めで、私は教材を抱えながらフラフラと歩いていたのですが、前が見えない程の教材は私の視界を完全に塞いでしまっていました。

 

そして、その時に前から歩いてくる慶一さんに気付かずに、そして、慶一さんも少し余所見をしていたらしかったのですが、お互いにぶつかり合う事となりました。

 

ドン!という衝撃と共に私は「きゃっ!」と短い悲鳴をあげてその場に教材をばら撒いてしまい、そしてぶつかった慶一さんもまた「うわっ!」という声と共にその場に尻餅をついてしまったようでした。

 

私はそんな慶一さんの姿を見つけたとき、物凄く慌てて

 

「あ、あのっ!す、すみません!私、前が見えなくなっててうっかりぶつかってしまいました。そ、その、お怪我はありませんか!?」

 

と、そう声をかけたのですが、慶一さんは無言で立ち上がり、私を一瞥すると軽いため息をついていました。

 

私はそんな慶一さんを見て、怒られるのでは?と思いましたが、そんな私の予想を覆すかのように慶一さんは何も言わずに私がばら撒いてしまった教材を拾い集めてくれました。

 

その様子を私はしばし呆然としながら見ていたのですが、すぐに気を取り直すと、私も慶一さんを手伝って自分でばら撒いてしまった教材を拾い集め始めたのでした。

 

やがて、教材の回収が済んで、私は慶一さんに

 

「あ、あの・・・ご迷惑をおかけしてすみませんでした。ばら撒いてしまった教材を集めてくださってどうもありがとうございます。あの、お怪我はありませんでしたか?」

 

そう声をかけると、慶一さんは私に

 

「まあ、あれだけの、しかも視界を塞ぐほどの教材だったからな、無理もないさ。俺は大丈夫。ちょっと考え事してただけだし、注意力をおろそかにした俺にも非があるさ。だからそんなに謝らないでくれ。」

 

そう言ってくれたのでした。

 

私は驚きながら

 

「で、でも、怒っているのではないですか?」

 

おそるおそるそう尋ねると、慶一さんはふっと微笑んで

 

「別に怒ってないよ。それとも怒られたかったかな?」

 

そう言って私をからかってきたのを聞いて私はおろおろと

 

「い、いえ、その・・・そう言う訳ではありませんが・・・。」

 

そう言うと、慶一さんはクスリと笑って

 

「はは。なら良いじゃないか。お互いに怪我もないんだし、俺も怒ってない。だからもう気にするなよな?高良さん。」

 

その言葉に私は驚きながら

 

「え?あの、私の事をご存じなのですか?」

 

そう尋ねると慶一さんは頷きながら

 

「まあね。生徒会長をやっていてなおかつ自分のクラスでは学級委員、そして、物腰の柔らかいお嬢様、っていう噂もあるくらいだからな。」

 

そんな風に言う慶一さんに私は照れながら

 

「そ、そんなことはありませんよ・・・あ、あの・・・よろしければお名前を聞かせてもらってもいいでしょうか?」

 

私は初めて出会ったこの人の名前を何故か聞いてみたくなり、自分でも驚くほど積極的に声をかけたのでした。

 

「ん?俺か?俺は森村慶一。よろしくな?えーっと、高良・・・なんだっけ?」

 

そこまで言いかけた慶一さんの言葉を補足するように私は

 

「高良みゆきといいます。森村慶一さん、ですね?よろしくお願いします。」

 

そう言うのだった。

 

そして、そんな私に慶一さんも笑いながら

 

「ああ、こちらこそよろしく。高良さん。」

 

そう言いながら握手を交わしあったのでした。

 

その後は私の持っていた教材を一緒に運んでくれました。

 

その事が嬉しかった私は、慶一さんにお礼を言うと、慶一さんも照れながら頷いてくれました。

 

そして、その出会いから私と慶一さんはたびたび話したり、勉強をしたり、時には本の貸し借りをしたりという事をやって、仲良くなっていきました。

 

とても不思議な事だったのですが、私は慶一さんとなら気楽に話す事ができました。

 

でも、慶一さん以外の男の人とはあまり良く話す事もできなかったから、そのうちに私は慶一さんこそが私の運命の人なんじゃないだろうか?と思うようになりました。

 

その時から私は、慶一さんに惹かれて行ったように思います。

 

その後は、私は慶一さんと色々な事をやってきました。

 

一緒に買い物にでかけたり、映画等を見たり、山登りをしに出かけた事もありました。

 

お互いの家に遊びに行ったり、来てもらったりという事もやっていました。

 

そして、その最中で私は今でも忘れられないのですが、ある公園へと2人で行く事がありました。

 

その公園には特に目立つ一本の木が公園の片隅にひっそりと立っています。

 

そして、その木にはある噂があって、その木の下で告白して成功したら、2人はどんな事があっても別れたりしない、ずっと一緒に居られる、そういう噂だったんです。

 

その頃には私は慶一さんの事を、慶一さんも私の事をお互いに想い合うようになっていました。

 

そして、私はついにその場所で慶一さんから告白される事となったのでした。

 

私をその木の下に呼び出して慶一さんは、顔を赤らめつつ私を見てしばらく戸惑っていたようでしたが、やがて覚悟を決めたようで

 

「・・・みゆき、あのさ・・・俺・・・今までお前と色々やってきてようやく自分の気持ちに気付いたよ。俺、お前の事が・・・好きだ・・・みゆき・・・お前の答えが聞きたい。」

 

決意の表情を向けて私にそう言ってくる慶一さんを見て私は、その言葉が嬉しくて涙を流しながら

 

「・・・私も・・・私もです・・・初めて会ったあの時から私はあなたに惚れていたのかもしれません・・・それまで他の男の人とも話したりする機会もありました・・・でも、初めて会った時からあんな風に積極的に話かける事が出来たのはあなただけだったんです。それに気付いてからは私はずっとあなたの事を見てきました・・・好きです、慶一さん・・・私もあなたが・・・。」

 

私は自分の思いを慶一さんにぶつけました。

 

私の気持を聞いた慶一さんは私をそっと抱きしめて

 

「・・・ありがとう、みゆき。とても嬉しいよ。これからも、こんな俺だけど、よろしくな?」

 

そう言ってくれる慶一さんに私も頷いて

 

「私こそです。ふつつかな私ですが、これからもよろしくお願いします。」

 

そう言った後、私たちはお互いを見つめあい、そして、そっと唇を重ねたのでした。

 

晴れて恋人同士となった私達は、中学3年生の半ばまでそれは仲良く付き合ってきました。

 

しかし、中学3年生の半ばを過ぎた頃、慶一さんは両親の都合によって転校していく事となりました。

 

その事を知った私はとても悲しい気持になりましたが、慶一さんはそんな私の心を知りつつも私をあの木の所へ呼び出したのでした。

 

私は慶一さんの待つあの木の下へと急ぎました。

 

そして、慶一さんを見つけると、私は急いで駆け寄って

 

「・・・お待たせしました、慶一さん。」

 

そう言うと、慶一さんは辛そうな顔を私に向けながら

 

「すまないな、みゆき・・・今の俺には、どうする事もできない・・・けど、俺はお前の事が好きだ。だから、お前の事は絶対忘れないし、それに、またお前の前に帰ってくるよ。だから、これをお前に託しておく。」

 

そう言って慶一さんは、私に星の形のネックレスを渡してくれた。

 

「それを、持っていて欲しい。俺もこれを持っておくから。」

 

そう言って慶一さんは自分のお気に入りの帽子につけたやはり同じような星の形のバッチを見せて

 

「これがある限り俺とお前はまた再会できる。それに、俺は絶対にお前の事を忘れたりしないから、だからお前も・・・」

 

その慶一さんの言葉を補足するように頷きながら

 

「・・・はい。私も絶対に忘れません・・・そして、あなたが再び私の前に帰ってきてくれる事を願っています・・・ですから・・・もう・・・泣かないで下さい・・・。」

 

私に最後の台詞を言う慶一さんは、別れの悲しさですでに泣いていました。

 

そして、そんな慶一さんの顔を見ながら私も、慶一さんに最後の言葉をかけながら涙を流していたのでした。

 

その後は、私達は再会を改めて約束して再び唇を重ね合わせ、慶一さんと一時のお別れをしたのでした。

 

そして、それから半年の間は慶一さんと連絡を取り合い、メールを交換しあいとお互いに続けてきていたのですが、半年を過ぎた頃から急に慶一さんとの連絡が途絶えてしまいました。

 

最初は急に携帯が繋がらなくなった事が始まりでした。

 

それから後、メールを送っても電話をかけても、慶一さんの所に私の連絡は届かなくなってしまったのです。

 

私は不安に駆られました。

 

慶一さんとはあれほどの約束を交わしてきました。

 

そして、その約束は簡単に消えてしまうほど私達の繋がりは柔なものではない、と信じていたのです。

 

けれど、それ以降は待てど暮らせど、慶一さんからの連絡は来ません。

 

そのうちに私は、失意のままに陵桜の受験を終えて、慶一さんの事を心の片隅に残しつつ、陵桜に合格を決めた私は、そんな気持を抱えたまま1年近くを過ごす事となりました。

 

その最中で出会った私の親友が泉さんとかがみさん、つかささんでした。

 

彼女達は私に大変親しく接してくれ、私もまた皆さんの気持がありがたく、こんな私に友人として接してくれる事にとても嬉しい気持になっていました。

 

それと同時に、こんな楽しい人達の中に慶一さんも加わってくれたら、という事を考えた時、私はとても悲しい気持になりました。

 

いつしかそんな思いを泉さん達に気付かれていたのかもしれません。

 

私の様子がおかしい事に気付いた泉さんは私に

 

「・・・大丈夫?みゆきさん。なんか元気なさそうな顔してるよ?何か悩んでる事あるのなら聞いてあげるよ?みゆきさん。」

 

そう言ってくれ、そして、かがみさんやつかささんも

 

「みゆき。私達は親友どうしなんだから困ってる事あるなら相談に乗るわよ?」

「わたしも何が出来るか分からないけど元気のないゆきちゃんを見てられないから。」

 

そう言ってくれる皆さんの優しさが嬉しかった事と、私自身も不安な事があったのでしょう、結局私は意を決すると皆さんに事情を説明する事にしたのでした。

 

「実は・・・・・・という事がありまして・・・それで、その人と半年を過ぎてから連絡が取れなくなってしまったんです。私はどうすればいいのかわからず、それに今現在のあの人の居場所もわからず仕舞で・・・。」

 

事情を説明し終わると、3人とも私の方をじっと睨みつけるように見つめて

 

「・・・むう・・・まさかみゆきさんに恋人が居たなんて・・・。」

「いいなあ・・・私にはそんな人まだいないってのに・・・。」

「ゆきちゃんがうらやましいな・・・。」

 

そう言っているのを聞いて私は慌てながら

 

「え、えっと、あの、その、い、泉さん達にも必ずいい人が現れますよ、ですから・・・。」

 

そんな私のフォローも空しく泉さん達は大きなため息をついたのでした。

 

でも、その後は泉さん達も気を取り直し、私の相談事を親身になって聞いてくれました。

 

「・・・なるほどね・・・これがその時の誓いみたいなものだったんだね?」

「そいつも同じデザインのアクセサリーを持っているのよね?」

「大丈夫だよ。きっと色々あって連絡できないだけなんじゃないかな?きっとゆきちゃんの事忘れていないと思うよ?」

 

そう言ってくれたのを聞いて、私も嬉しい気持になったのでした。

 

そして、それから数日が過ぎた頃、私達のクラスに転校生がやってくるという噂が立ちました。

 

この時期に珍しいものだと私も思っていましたが、私も少しは興味があったのだと思います。

 

その転校生の事を気にしていました。

 

そして、私達のクラスにその転校生がやってくる時が来ました。

 

「みんな、席につきー!これからHRはじめるから、おとなしゅうしとるんやぞ?」

 

黒井先生の言葉にクラスの皆さんも一応は静かにしたようで、それを確認した先生は廊下の方へ声をかけたのでした。

 

「おい、入ってきい!みんなに紹介するから元気に挨拶せえよ?」

 

その言葉のすぐ後に教室のドアが開き、転校生が入って来ました。

 

そして、私はその転校生の姿を見て驚いたのでした。

 

何故ならその人は、私がとても会いたいと思っていたあの人だったんです。

 

私はその姿を確認した時驚きで声が出せませんでした。

 

その後は、自己紹介等を済ませてHRの終了となり、休み時間にはクラスの皆さんがあの人の所へと押しかけて質問攻めをしていました。

 

私は横目でその様子をちらりと見ていましたが、あの人が教室に入ってきた時に私は妙な違和感のようなものを感じていたので、その事に戸惑いを覚えていました。

 

確かにあの人に違いないのですが、なんというか・・・雰囲気のようなものが少し違っている気がしたのです。

 

やがて、質問攻めも一段落した頃、私はその違和感の正体を探ると共に、会いたかった人に声をかけたくてあの人の机へと向かいました。

 

そんな私の行動に気付いた泉さんとかがみさん、つかささんも私の近くへとやって来ました。

 

そして私は、あの人に思い切って声をかけてみたのです。

 

「あ、あの・・・お久しぶりです・・・慶一さん・・・私の事を覚えていらっしゃいますか?」

 

おそるおそるそう声をかける私。

 

そして、それを見守る泉さん達。

 

そんな私に、あの人は視線を私に向けてしばらく凝視していたのですが、その後であの人から発せられた言葉は私を奈落へと突き落とすものでした。

 

「・・・君は、誰?俺の事を知っているのか?」

 

あの人の言うその言葉に私は信じられない気持で

 

「私です!高良みゆきです!あなたは森村慶一さんですよね!?私はあなたの事を忘れた事などありませんでしたよ!?あなたは・・・あなたは私の事を忘れてしまったと言うのですか!?この1年の間で!!」

 

あまりの事に思わず大声であの人に今までの気持をぶつけるように言うと、あの人は心底困ったような顔で

 

「・・・ごめん・・・覚えていない・・・悪いね?」

 

その言葉を聞いた時私は、眩暈を覚えてその場に倒れこみました。

 

しかし、とっさにあの人は私を受け止めてくれたようで

 

「おい!しっかりしろ!!大丈夫か!?」

 

薄れていく意識の中でそう言うあの人の声だけが聞こえていました。

 

その後は、私は保健委員の人に保健室へ連れて行かれたらしいのですが、その時に教室ではあの人に泉さん達がくってかかっていたのだという事を後から聞く事になったのでした。

 

こなたside

 

うちのクラスに転校生がやってくるという事で、私もみゆきさんもつかさもそして、かがみもちょっとだけ楽しみにしていた。

 

そして、やってきた転校生はみゆきさんが言っていた森村君みたいだったのだけど、みゆきさんが森村君に自分の事を覚えているか、という質問に対して森村君はみゆきさんの事を覚えていないと言うのだった。

 

その言葉を聞いたみゆきさんはショックで倒れこんでしまったのだけど、森村君はとっさにみゆきさんを受け止めて床への激突を防いでいたのだった。

 

結局みゆきさんは保健委員に連れられて保健室に行ったのだけど、森村君だけはその様子を呆然と見送っていただけで、みゆきさんの側にすらついていてあげようとしなかった。

 

それを見た私たちは思わず森村君に詰め寄って

 

「森村君!どういう事さ!?みゆきさんは君に会いたがっていたんだよ?それなのにみゆきさんの事をおぼえていないってどういう事なのさ!?」

「たった1年ちょっと離れていただけであんたはみゆきの事なんてどうでもいい存在になったっていうの?最低じゃない!?そんなのって!!」

「ずっと森村君の事、ゆきちゃんは想っていたんだよ?それなのに酷いよ・・・ゆきちゃんがかわいそう・・・。」

 

その私達の剣幕に森村君は驚き、困惑していたのだけど、彼は私達に

 

「・・・なあ、今君達が言った事がどういう事なのか教えてもらえないか?」

 

そう言ってきたのだった。

 

その言葉を聞いた私達はさらに頭に来て

 

「どうもこうもないよ!みゆきさんは君の事が好きだったから君とまた再会する事を楽しみにしてたんだよ!聞けば2人はお互いに想い合っていたらしいじゃん!?それ程の仲だったのにどうして簡単にみゆきさんの事忘れられるのさ!!」

「・・・あんたって最低ね・・・みゆきみたいないい子に想わせておいて知らん振りとかしちゃうんだ?」

「酷いよ・・・ゆきちゃんの気持を踏みにじってそれでも森村君は平気なの?」

 

そう言って森村君を責め立てていた私達だが、次に森村君が発した言葉が私達を冷静にした。

 

「ま、まってくれ!俺の話を聞いてくれ!あの子が何故俺を知っているのか、何故俺があの子を覚えていないのかが分からないんだ!俺には・・・今の俺には半年前以前の記憶が無いんだよ!」

 

その言葉に驚く私達。

 

その言葉で少し冷静になった私達は、森村君に事情を聞いてみることにした。

 

「ねえ、森村君。君に半年前以前の記憶がない、ってどういう事なの?」

 

そう質問すると、森村君はその事情を説明してくれた。

 

「実は俺は半年前に交通事故にあったんだ。その時に頭部に衝撃を受けたみたいでね、半年前以前の記憶が失われてしまったんだ。医者は時間が経てば元に戻るかもしれないと言っていた。ともすれば何かがきっかけになって戻る事もあるかもしれないとも・・・そして、俺は自分の記憶の手がかりとして俺の持っていた写真が鍵になる、そう思ったんだ。その写真に写った人物を調べた時、その人はここに通っているのだと知ったんだよ。だから俺は、自分の記憶を取り戻す為にこの学校へやってきた。そして、さっきの子は俺の持っていた写真の子だったんだけど、でも、あの子を見ても記憶に何の変化も見受けられなかったから俺は思わずあの子にさっきみたいな事を言ってしまったんだ。」

 

苦しげな表情でそう説明する森村君に私達は

 

「事故、か・・・命が助かった代わりに記憶を失っちゃってるなんてね・・・。」

「だからあんたはみゆきの事を思い出せなかった、って訳なのね?」

「ごめんね?そんな事情も知らないで、わたし・・・。」

 

つかさの言葉に森村君は笑って

 

「いいさ。事情もわからない状態ならそんな風に言われたとしても仕方のない事だしな・・・。でも、どうやら彼女が俺の記憶の手掛かりになりそうだな・・・。」

 

そんな風に少し辛そうな顔で言う森村君に私たちは

 

「そういう事なら私達も人肌脱ぐよ。みゆきさんの為にも、そして、君の為にも記憶を取り戻す手伝いをしてあげる。」

「まあ、このままじゃあんまりにもあんたたちが可愛そうでもあるしね。私も協力するわ。」

「わたしも力になるよ?遠慮なく頼って欲しいな。」

 

そう言うと、森村君も驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔になって

 

「ありがとう。悪いけど、頼らせてもらうよ。記憶が戻った暁にはこのお礼はきっちりとさせてもらうから。」

 

そう言う森村君に私達も笑って頷いたのだった。

 

そして私達は森村君を伴い、保健室で寝ているであろうみゆきさんの元へ行くと、森村君の事情を説明した。

 

みゆきさんも驚いた顔をしていたけど、すぐに気をとりなおすと、森村君の記憶探しを始める決意をしたのだった。

 

みゆきside

 

先程の慶一さんの言葉にショックを受けた私は思わず倒れこみ、保健室へと連れて行かれる事態となりました。

 

そして、しばらくの間意識を失っていたのですが、その間に泉さん達と慶一さんの間で何かがあったようで、慌てた様子でやってきた泉さん達から慶一さんの事情を説明されました。

 

それを聞いた時はさらにショックを受けましたが、そういう事情であるのなら私は絶対に慶一さんの記憶を取り戻してみせると決意して、改めて慶一さんに挨拶をしたのでした。

 

私だけが慶一さんの事を覚えているだけに、記憶を失った慶一さんからの初めましてともいえる挨拶を受ける事はかなり辛いと感じましたが、それも慶一さんを取り戻す為の試練なのだと覚悟を決めて私達は記憶を取り戻す為の日々を送り始めたのでした。

 

時には慶一さんのいま住んでいるアパートに行き、子供の頃からのアルバムを見てみたり、時には慶一さんの通っていた小学校へと足を運んだり、慶一さんのご両親から聞いた慶一さんの思い出の場所を巡ったりと記憶を取り戻す為に駆けずり回る日々でした。

 

けれど、慶一さんの記憶の回復はなかなかならず、私達にも疲れが見え始めていました。

 

「・・・本当に・・・慶一さんの記憶は戻るのでしょうか・・・ひょっとしたら・・・もう・・・2度と・・・私を名前ですら呼んでもらえないのかも・・・・・・。」

 

そう言いながら涙する私を見て、泉さん達も困惑の表情を見せていましたが、ふいに泉さんが私の両肩を掴んで

 

「いいの!?みゆきさん。諦めちゃっていいの!?好きなんでしょ!?森村君の事、思い出して欲しいんでしょ!?記憶を、だったらさ、本当に取り戻したいって思うのなら諦めちゃだめだよ!!みゆきさんが諦めたら2度と森村君はみゆきさんの前に戻っては来ないよ!?ねえ!森村君を見て!彼はまだ諦めてないよ!?回復が中々見込めてない状況だけど、それでも必死でやってる!だから、頑張ろうよ!それに、私達だってついてるんだからさ!!」

 

そして、かがみさんも

 

「こなたの言うとおりよ?あんたの森村君に対する思いってそんなものなの?違うでしょ?あの時彼に自分の事を覚えていないって言われた時、あんた、思わず気を失うほどショック受けてたじゃない。それ程の思いがあんたにあるんなら簡単に諦めちゃだめよ。」

 

そう言ってくれてつかささんも

 

「ゆきちゃんは森村君の事好きなんだよね?好きな人の為にできる限りの努力はしようよ。大丈夫だよ。きっとゆきちゃんの思いは届くから。」

 

そう言って笑ってくれるつかささんを見て私は涙を拭って力強く頷くと

 

「・・・そうですね・・・私の思いはこんなものじゃないはずです・・・それを忘れる所でした。泉さん、かがみさん、つかささんありがとうございます。もう大丈夫です。たとえどんな事があっても私は・・・最後まで絶対に諦めませんから。」

 

その言葉に皆さんも笑って頷いてくれ、そして慶一さんは

 

「ごめんな、高良さん。君に辛い思いをさせて・・・俺は、最低だな・・・。」

 

そう言う慶一さんに私は首を振って

 

「いいえ、今回の事は不可抗力です。ですから、慶一さんは御自分を責める事はありませんよ?私は、今回の事を1つの試練だと思っています。あなたを取り戻すための・・・私達がより強く結ばれる為の試練だと・・・だから、私はやります。自分の為に、あなたの為に、そして、私を支えてくれる皆さんの為に・・・。」

 

そんな私の決意を見た慶一さんは少し驚きの表情を見せていましたが、やがて、その表情は覚悟へと変わったようでした。

 

それからも、私達の記憶探しの日々は続いていきました。

 

そして、ついにそのきっかけを掴むところにきたのでした。

 

それは、私達の通っていた中学へと行った時の事。

 

私はその時、あの時慶一さんと初めて会った時に持っていた荷物とは違うものを持っていたのですが、たまたまあの時と同じようにお互いがぶつかり合う状況が出来たのでした。

 

慶一さんは何かを考えつつ歩いていました。

 

私は私でうっかり自分の持っていた荷物を目の前に掲げてしまい、一瞬視界が奪われた所に慶一さんがぶつかって来たのでした。

 

「きゃっ!」と小さな悲鳴をあげて私は荷物を落としてしまい、慶一さんも「うわっ!」という声と共に尻餅をついたようでした。

 

そして、私が慶一さんに慌てて詫びながら荷物を拾おうとした時、慶一さんに変化が見られました。

 

「・・・あれ・・・?この状況、前にもあったような・・・。」

 

倒れている私、そして散らばる荷物を見つめる慶一さんがそう呟くと同時に、慶一さんは私の散らばった荷物を拾い集めてくれたのでした。

 

そして、それと同時に慶一さんは突然表情を歪めてしゃがみこんだのでした。

 

私が慌てて慶一さんの側へ近づくと、慶一さんは頭に強い痛みを訴えているようでした。

 

「・・・う・・・ぐっ・・・い、痛い・・・頭が・・・」

 

そんな慶一さんに私は、とりあえずタオルを冷やしに行って慶一さんの汗を拭ってあげたのでした。

 

その様子を見ていた泉さん達も心配そうに私達の様子を見守っていました。

 

そして、少しして落ち着くと、慶一さんは今度は自分が元々住んでいた自宅へと行ってみたいと言ったので、私達は慶一さんと共に昔に遊びに行った慶一さんの元の家へと足を向けたのでした。

 

そして、元の家のあったところへ着いた慶一さんはじっとその家を凝視していましたが、そのうちにまたも頭痛に見舞われたらしく、頭を押さえてうずくまっていました。

 

私はこれ以上は無理させるべきではないと思い、とりあえず今日の所はこれで終わりにしたのでした。

 

慶一さんを今住んでいるアパートに送り届けた時、慶一さんは私に

 

「ありがとう、高良さん、泉さん、かがみさん、つかささん。今日も付き合ってもらって悪かった。明日なんだけど、○○公園へ行ってみたいと思うんだ。また付き合ってもらえるかな?」

 

その言葉に泉さん達も頷いて了承してくれたのですが、私は慶一さんの言った公園の名前がでた事に驚いて

 

「慶一さん、ひょっとして思い出したのですか?その公園の事を・・・。」

 

そう尋ねると、慶一さんは頷いて

 

「ああ。さっき中学校に行って、そして、元の自分の家に行った時にあの公園の映像が頭の中に浮かんでいたんだ。きっとそこに俺の記憶に関することがある、そう思ったんだよ。」

 

その言葉に私は一筋の光明を見出した気がしました。

 

そして、その事を了承し、今日は解散となりました。

 

慶一side

 

俺の通っていたという中学校を訪れて、俺は自分の記憶が動き出すのを感じていた。

 

その動きは俺に頭痛というものを与えていたけれど、所々に重要な何かが見えた気がして、俺は痛みに耐えながらその映像を必死に確認していた。

 

そして、俺の元々住んでいた自宅へと行った時、俺の記憶に関する重要なものが見えたのだった。

 

それは、ある公園にある一本の木の映像を見て確信できた。

 

さらに、俺に決定打を与えてくれそうなアイテムもまた、あの後、今の自宅で俺の持ち物から見つける事ができたのだった。

 

俺はそれを持って、例の公園へ行ってみる事にしたのだった。

 

みゆきside

 

そして、次の日、いよいよ慶一さんの記憶が戻る時が来たのです。

 

その日学校を終えた私達は、そのまま例の公園へと向かっていました。

 

何故か、今日の慶一さんの顔がいつもの顔とは違って見えた事に私は、何かがおきるかもしれないという胸騒ぎを感じていました。

 

そして、私達はついにあの時私達がお互いの気持を伝えあったあの木の下へと再び訪れる事となったのでした。

 

木の側へ行き、木を見上げる慶一さんを見ながら、私の心臓はドキドキとしていました。

 

そして、しばらく木を見上げていた慶一さんが突然頭を押さえてうずくまったのを見て、私達は慌てて慶一さんの側へ駆け寄ったのでした。

 

「慶一さん!大丈夫ですか!?しっかりしてください!!」

「森村君、大丈夫?また頭痛いの?」

「あまり無理はいけないわ。少しこの場所を離れましょ?」

「頭痛のお薬持ってきてるよ?向こうで飲もうよ。」

 

私達4人がそう声をかけますが、慶一さんはそんな私達を手で制すると

 

「・・・だ・・・大丈夫・・・だ・・・もうすぐ・・・収まる・・・。」

 

そう言って少しの間そのままでいましたが、ふいに”すっく”と立ち上がり、木を改めて見上げると、慶一さんは

 

「・・・思い出した・・・思い出したぞ・・・俺は・・・ここで・・・。」

 

そう呟く慶一さんの言葉を私達は黙って聞いていましたが、おもむろに慶一さんが私の方に振り向くと

 

「・・・久しぶり、というべきなのかな・・・みゆき・・・。」

 

あの時のような優しい微笑みをたたえながら慶一さんは確かに、けれど、しっかりと私の名前を呼んでくれたのでした。

 

私はその言葉に思わず涙を流しながら

 

「・・・思い・・・出したんですか?慶一さん・・・私の・・・事・・・ぐすっ・・・ひっく・・・。」

 

泣き顔を慶一さんに向ける私に彼はゆっくりと頷く。

 

それを見た私は思わず慶一さんの胸に飛び込んでいました。

 

「・・・ずっと・・・待っていました・・・私は・・・突然あなたとお別れした・・・あの時から・・・あなたの記憶が無くなったと聞かされて・・・どれほどショックだったか・・・どれほどに・・・悲しかったか・・・でも・・・帰って・・・あなたは・・・帰って来てくれたんですね?私の前にもう一度・・・戻って来て・・・くれたんですね?会いたかった・・・ずっと・・・あなたを忘れずに・・・ずっと・・・待ってっ・・・うあああああ・・・・・・!!」

 

そう言って泣きじゃくる私を慶一さんは優しく受け止めてくれました。

 

そして、しばらく泣いて落ち着いた頃、慶一さんは私に星型のバッチを見せて

 

「記憶の戻る最後の決め手になったのはこれだったよ。お前と俺をつないでいてくれたもの、この星があったから俺は思い出すことが出来た。お前の首にかかるネックレスも俺の記憶を呼び覚ます手助けになった。ありがとうな、みゆき。そして、みんなも苦労かけさせてすまなかった。」

 

慶一さんが皆さんにそう声をかけると、私達の姿を見てもらい泣きしていたみなさんも

 

「いいっていいって。友達の役に立てたんだからこれくらいお安い御用だよー。」

「ま、まあ、何にしても雨振って地固まる、よね。よかったわ、本当に。」

「ゆきちゃん、森村君。おめでとう~。森村君、今後はゆきちゃんを泣かせちゃだめだよ?」

 

そう言ってくれて、その言葉に私たちも頷いて

 

「ああ。本当にありがとう。今度このお礼はさせてもらうからさ。」

「私もお礼をさせてください。本当にありがとうございます。私は皆さんのようなお友達を持った事がとても幸せです。」

 

そう言うと、3人とも笑って頷いてくれたのだった。

 

こうして一連の記憶喪失、そして、記憶復活の事件は終了しました。

 

そして今、私達は素晴らしい親友とそして、愛しい恋人と共に楽しくやっています。

 

皆さんの期待に応えて幸せにならないと、そう私達はこの噂の木の下で改めて誓いあったのでした。

 


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