短編集 らき☆すた~変わる日常IF、色々な世界~   作:ガイアード

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今回の設定も本編とは違う設定です。


柊かがみ編~ツインテールの理由~

きっかけは、いつものようにこなた達との昼食の最中に何気なく言った、こなたの一言からだった。

 

「ねえ、かがみ。かがみのその髪型っていつからそうだったの?」

 

こなたは私にこの、こなたが”ツインテール”と称した髪型の事を聞いてきた。

 

そんなこなたの言葉を聞いて私は、あの日、私のツインテールを可愛いと言ってくれたあいつの事を思い出したのだった。

 

そんな私の様子を察してか、つかさが少し心配そうに

 

「・・・大丈夫?おねえちゃん・・・。」

 

そう聞いてきたので私は少し無理して笑いつつ

 

「大丈夫よ、つかさ。昔にこの髪型を初めてした時に可愛いって言ってくれた人がいたのよ。その事がなんとなく嬉しくてね、それからずっとこの髪型を続けてるって所ね。」

 

そんな私のちょっといつもとは違う様子を悟ったのか、みゆきも少し心配そうに

 

「・・・かがみさん、過去に何かあったんですか?何となく今のかがみさんの顔が寂しそうな、悲しそうな、そんな風に見えましたので・・・。」

 

そう言って気遣ってくれるみゆきに私は苦笑して頷きつつ

 

「あはは・・・さすがにみゆきの目は誤魔化せないって所かしらね・・・まあ、ちょっと色々とあってね・・・。」

 

そんな私にこなたが

 

「ねえ、かがみ。なんだか気になるから聞かせてもらってもいい?」

 

そんなこなたにつかさは慌てながら

 

「こ、こなちゃん!それは・・・ちょっと・・・・・・ねえ?おねえちゃん・・・。」

 

私に同意を求めるようにこちらを伺うつかさに、私は重々しくため息をつきながら少し考え込んでいたけど、いずれはわかる事かもしれないしな、と思った私は

 

「・・・ふう・・・いいわ。どうせいずれはわかる事だもの。それに、私は隠し事は上手くないみたいだしね・・・。」

 

そう言って気を取り直し、私は事情を知っているつかさ以外の2人に向き直ると

 

「・・・あまり楽しい話じゃないんだけどね、それでもいいなら話すわ・・・あれは、そう・・・・・・幼稚園時代に出会ったある人と私の事なんだけどね・・・・・・」

 

幼稚園の頃の私とつかさは、髪の毛の長さは今と同じような感じで、ロングヘアーとショートヘアーであり、でも私は、今みたいに髪の毛にリボンはつけていなかった。

 

つかさはあの当時から頭にはいつもリボンをつけていて、周りの人や幼稚園の先生にも可愛い、って褒められていた。

 

私はというと、あまりそういう風に褒められる事もなかったが、そうであっても私はつかさの姉としていつもつかさと一緒に過ごしていた。

 

そんな時に同じ幼稚園に入園してきた男の子と出会う事になった。

 

そいつの名前は森村慶一と言って、その当時から人当たりのよかったあいつは、気付けば私達とも普通に友達になっていた。

 

あいつと私達とは、いわば、幼馴染とも言うべき間柄になった。

 

「ねえねえ、かがみちゃん、つかさちゃん。きょうはなにしてあそぶー?」

「すなばでおおきいおやまをつくろうよ。」

「わたしはおままごとしたいな~。けーちゃんがわたしのだんなさまで、わたしがけーちゃんのおよめさんだよ~?」

「つかさ、わたしにもおよめさん、やらせてよ?」

「え~?いいよ~?それじゃかわりばんこでやろっか~。」

「ぼく、どっちもおよめさんにしたいな。」

「だめだよ、およめさんはひとりなんだっておとうさんやおかあさんもいってたもん。だから、わたしがけいくんのおよめさんやってるときはつかさがわたしたちのこどものやくをやるのよ?」

「それじゃ、わたしがけーちゃんのおよめさんやくやるときは、おねえちゃんがわたしたちのこどものやくやるんだね?」

「ええー?なんだかよくわからなくなっちゃうよー。」

「しかたないよ。およめさんやくはひとりしかできないんだもん。」

「うんうん。だからかわりばんこね~。」

 

そんな風に私達は幼い頃はおままごとをしたり、色んな所へ遊びにいったりして、とても楽しい幼少時代を過ごした。

 

そんな中で、あいつが私に言ってくれた事があった。

 

それは、私がお母さんに言われて仕方なくツインテールにしていった時、森村君が私にその髪型を見て可愛いと言ってくれたのだった。

 

その時の言葉が子供心にも嬉しかった私は、あいつにまたそんな風に言ってもらいたい一心もあったのかもしれない、その思いから私は、この髪型を自然と続けていくようになった。

 

そして、私達はそのまま同じ小学校に上がる事となり、小学生時代を同じように楽しく過ごしてきてたのだけど、ある時からつかさがいじめの対象にされた時があった。

 

私はつかさの姉だったし、そんな事がある度にいつもつかさを庇っていた。

 

その当時から私は、姉としてつかさを守る事が当然のようになっていて、その時から姉として妹を守る為に強くならないと、と思うようになっていた。

 

小学校は一緒になったものの、あいつとはクラスが違っていた為、あいつはつかさがいじめられている事には気付けなかったみたいだった。

 

そんな風にいじめがエスカレートしてきた頃、その矛先が私にも向くようになった。

 

「こいつ、生意気だな。いつもいつもそんなのろまでぐずな妹を庇ってやがってさ!」

「大体女の癖に俺達に逆らおうってのが間違いなんだよ!」

「痛い目見たくなかったら、そのとろいやつをこっちに渡せよ、そいつ見てるといらついてくるんだよな。」

「何よ!あんたたちにつかさはいじめさせないわよ!?つかさに触ろうとするなら私は絶対にあんた達を許さないから!!」

「うるせえ!邪魔だ、どけよ!!」

 

そう言って私を突き飛ばす男子生徒、そして、そんな私を見て泣き出すつかさ。

 

そして、いじめっ子の手がつかさに伸びようとしたその時、そのいじめっ子に体当たりをかます男の子がいた。

 

その子は私達のいじめられてる姿に気付いて、助けに飛び込んで来た森村君だった。

 

「このやろう!よくもかがみを突き飛ばしたな!それにつかさまで泣かせやがって!お前ら絶対に許さない!!」

 

そう言ったかと思うと、途端にいじめっ子達との殴り合いのケンカに発展した。

 

そして、この頃には私とつかさはあいつの事を慶くん、けいちゃん、あいつは私とつかさを、かがみとつかさ、と言う感じで呼ぶように変わっていた。

 

そして、騒ぎを聞きつけた先生達が止めるまで、いじめをしたあいつらが泣くまで森村君は自分もどんなに殴られてもその倍以上に相手を殴り返していた。

 

そうして、私達はあいつに助けられたんだけど、その時の私はつかさの為に強い姉でいる、その行為はいつしか私を気の強い女の子と変えてしまっていた。

 

「大丈夫か?かがみ、つかさ。」

 

ボコボコになった顔で私とつかさに聞いてくるあいつ。

 

そんなあいつに私が返した言葉は

 

「・・・余計な事しないでよ!あんたに助けてもらわなくたってあいつらになんか負けないわ!!つかさは・・・つかさは私が守るんだから!!」

 

そう言って私はあいつの好意を突っぱねた。

 

そんな私に、あいつは困ったような顔をしていたのを覚えてる。

 

あいつは困っている私達を救ってくれたけれど、その時の私は、その事に素直にお礼を言う事ができなかった。

 

むしろ、その事すら屈辱に思うほどに張り詰めていたんだと思う。

 

だから私は、この時にあいつに素直にお礼が言えなかった事を一生悔やむ事になる、その事に気付けなかった。

 

そうして、それ以降はあの時の一件がきっかけで、つかさへのいじめもなくなっていった。

 

それからあいつとはなんだかギクシャクし始めた。

 

前みたいに話したいと思う私だったけど、変なプライドみたいなものがいつも私の邪魔をした。

 

だから、あいつとの会話も自然と減っていって、気付けばあいつと距離を置くようになっていた。

 

今だからわかるんだけど、私はあの時にあいつの事が気になり始めていたんだと思う。

 

それでも、その時の私はその思いに気付けなかったから、あの時代は少しだけ寂しい思いがあったものの、あいつへの罪悪感みたいなものを持ったまま日々を過ごした。

 

そんな折、小学5年生の頃に突然何の前触れもなくあいつが学校に来なくなった。

 

最初の数日はただの風邪かなんかで休んでいるんだろうと思っていた。

 

でも、3日過ぎても、一週間過ぎてもあいつは学校に現れない。

 

それに、あいつが転校したという噂も出ていないし、病気で休んでいるという噂もなかったので、流石に一ヶ月くらい経った頃にはあいつの動向が気になっていたのか、当時のあいつのクラスの担任の先生にあいつの事を訪ねてみたところ、突然の親の事情で転勤が決まり、私達にも何かを伝える暇もなくこの街を離れたのだと言う事だった。

 

私は、それを聞いて凄く動揺した。

 

あいつとは中学行く頃までは一緒にいられると思っていたから、その事を疑いもしなかったから、いつかあいつに助けてもらった時のお礼もそのうちに思い切って伝えたい、そう思っていたから、突然にいなくなったあいつの事を思った時、私はとても悲しい気持になった。

 

そして私は学校が終わった後、1人あいつの住んでいた家へと足を向けた。

 

学校で聞いたことをこの目で確かめたかった、と言う事もあるのだけど、あいつがいなくなった事を信じたくなかった、というのもあったんだと思う。

 

そうして色々な思いでを頭に浮かべながらあいつの家の前に来た時、その家はすでに空家となっていて、あいつの居た痕跡も残っていない事を見せ付けられた時、もうあいつはここにはいないんだ、そう考えたら途端にどんどん涙があふれて来た。

 

「・・・うっ・・・うっ・・・ううう・・・うええええん!!うわあああん!!」

 

そして私は、あいつの家の前でしばらくの間大声で泣いていた。

 

あいつの近所にいた人が、そんな私に気付いて私を慰めてくれるまで、私はその場で泣き続けていた。

 

しばらくしてようやく落ち着いた私は、重い足取りで家へと戻る。

 

私の様子がおかしい事に気付いたつかさは、私に元気のない原因を尋ねてきた。

 

そして、私は慶くんの事をつかさに話すとつかさもまた、その事にショックを受けて泣き出し、それにつられて私も再び泣き出して、2人して泣いている所をお母さんに見つかり、気まずい思いをした。

 

それから中学へ上がる少し前までずっと、あの日から私の気持は沈んだままだった。

 

だが、もうすぐ6年生も終わりが近づいたある日、あいつは突然私の前に帰ってきた。

 

しかも、あれから1年近くが経っていたにもかかわらず、あいつの元々住んでいた家に借り手がつかず、あいつら家族はまた同じ家へと帰って来た。

 

もう、時期が時期だから小学校へ来る事はできなかったのだけど、中学からは一緒の所へと通えるとの事。

 

そう言う事情を持ってあいつは、私の家へとその事を説明しに来てくれた。

 

そして、私の家に現れたあいつを見た時、私は思わずあいつに抱きついて嬉し涙を流していた。

 

「・・・今まで連絡1つよこさないで何やってたのよ・・・突然居なくなるからびっくりしたし・・・それに・・・あんたが居なくて寂しかったんだから・・・。」

 

その時の私は、あの時とは大違いな程に素直にそう言えていた。

 

「・・・ごめん、かがみ。突然だったからさ、かがみに何も伝えられずに君の前から消える事になった。きっとかがみ、怒ってるだろうな、って思ったよ。だから今日はかがみに殴られる覚悟もしてここに来たよ。」

 

そんなあいつの覚悟を汲んでやろうと思った私は、あいつの言う通り一発強烈なのをお見舞いした。

 

あまりのダメージに、殴られた頬を押さえて苦笑するあいつの顔が今でも忘れられない・・・。

 

でも、この時の私には気付かなかった。

 

あいつの突然いなくなった本当の理由と、そしてその時に再び戻ってきた理由に。

 

それに気付いたのは中学3年になった頃だった。

 

私の前に帰ってきたあいつは、以前より少し痩せたような感じだった。

 

そして、中学に入った時から、いや、ひょっとしたらあの再会の時からすでにあいつは少し変わっていたのかもしれない、今にしてみればそう思えた。

 

中学に入ってからのあいつは、今までとは少し人が変わったようだった。

 

小学生の頃見ていたあいつは元気にあふれていて、体を動かす事も好きな奴だった。

 

けれど、クラスの役職等は面倒がって逃げていた、って言う事もあいつ自身が私に話していたのを覚えてる。

 

そんなあいつに、少し以前のような元気が見受けられなくなったのと、クラスの役職を積極的にやるようになった事、そして、あの時以上に誰かの為に何かをする、そう言う行動が目立つようになっていた。

 

元々あいつはその人当たりの良さとキャラクターから、意外とクラスの人間達には好かれる方だったから、そんなあいつがそういう事に積極的になった事でさらにクラスでの人気も高まった。

 

当然ながら、女子にももてるようになっていたから、あいつにアプローチしようとする女子も結構いた。

 

私はというと、そんなあいつの事があの時以上に気になりだしていた。

 

でも、なぜかあいつはそんな女子達のアプローチをすべてかわし続けていた。

 

そんなある日、私はあいつに思い切って聞いてみる事にした。

 

「ねえ、慶くん。最近色々な女子からアプローチ受けてるみたいだけどさ、全部断ってるよね?あんたにはそう言う女子の中に気になる子とかいないの?」

 

その質問に慶くんは複雑な表情で

 

「うーん・・・まあ、いる事はいるかな?だから、断っているって言うのもあるけどね。」

 

その答えに私は内心ドキリとしながら

 

「へ、へえ?そうなんだ。そ、それで?あんたの気になる子って誰なのよ?このクラスにいるの?」

 

当時の私と慶くんとは同じクラスだったから、私はその事に探りを入れてみたくなったので訪ねてみると慶くんは急に不機嫌そうな表情になり

 

「・・・どうだって良いだろ?かがみには関係ない事だ。」

 

と、短くそう言う。

 

その答えに思わずカチンときた私は慶くんに

 

「何よ!その言い方!そりゃー私には関係ないかもしれないけど、あんたにそういう子がいるなら私も応援してあげようって思ったからいったんじゃない!!そんな私の好意を無下にしようっていうの!?」

 

そう怒鳴りつけると、慶くんはその言葉に

 

「余計なお世話だよ!大体俺は、かがみに心配してもらおうなんて思ってない!むしろ余計な事に気を回される方が迷惑だ!!」

 

そう答えると、私はさらに頭に来て

 

「余計って何よ!!私はあんたの事を心配してやってるだけじゃない!!」

 

この言葉を皮切りに2人での大喧嘩となった。

 

「その心配が余計だって言ってんだ!!」

「何よ!!あんたが態度をはっきりさせないから言ってやってるんでしょ!?」

「俺の為を思うのならもう余計な口を出さないでくれ!!」

「っ!!わかったわよ!!もう勝手にすれば!?」

「ああ、そうするよ。それじゃあな?かがみ。」

 

そう言って教室を出て行く慶くんを、私は納得のいかない顔で見送った。

 

そんな大喧嘩をしてからしばらくは慶くんとは顔を合わせにくくなり、またもあの小学生の時の状況になってしまった事に私は少し後悔をし始めていた。

 

それからも、慶くんの行動は以前以上にいろいろな事に積極的になっていった。

 

そして、中学3年生になる頃には、慶くんのそんな行動に対する違和感のようなものが感じられるようになってきたのだった。

 

時が進むにつれ、その行動に必死さが出てきた事を感じたのも理由の一つだった。

 

その時の私は、何故慶くんがそんなにも必死でいろいろな事に取り組もうとしているのか、その理由がわからなかった。

 

まるで、その時の慶くんは何かを焦っているような・・・慶くん自身が時間が足りないとさえ思っているようなそんな必死さを何となく感じるようになっていた。

 

それに何となく気付いたのは、慶くんが自分の存在の痕跡を残したい、そういう事をしようとしている姿を見たからだった。

 

そして、それを感じる事のできる出来事が3年に上がってすぐに起きた。

 

私は慶くんから呼び出しを受けたので、何らかの用事でもあるのだろうと思い、呼ばれた場所へ出向いた事がそれを知るきっかけになった。

 

「約束どおり来たわよ?慶くん。私に用事って何なの?」

 

私が慶くんにそう尋ねると慶くんは少しだけ憂いを帯びたような表情で

 

「ありがとな、かがみ。来てくれて。まず1つ謝っておきたい事がある。あの時の大喧嘩の事だ。俺も色々あったからついかがみの言う事に過剰に反応しちゃってあんな事になった。だからごめんな、かがみ。」

 

慶くんの言葉に私は少し呆れたような顔になりつつも苦笑しながら

 

「呆れた・・・あの時の事ずっと覚えてたのね・・・ま、まあ、私も慶くんには余計な事言っちゃったみたいだし、お互い様って事でいいわよ。」

 

そんな私の言葉に慶くんはほっとしたような顔を見せて

 

「そっか。それならよかったかな。俺の胸につかえていたものが取れた気分だ。」

 

そんな風に言う慶くんに私は

 

「あはは。私も、かな?実はちょっとだけ気にしてたんだ。あの時の事。あんたが今この場で言ってくれなかったら、いつか私があんたに言ってたかもしれないわ。今のあんたと同じような事をね。」

 

軽く笑いながら慶くんにそう言うと、慶くんも驚いたような顔を一瞬したが、すぐに笑顔になった。

 

「そっか・・・なら、今言えたからよかったかな?これで1つ心残りがなくせた。」

 

その言葉に私も笑いながら

 

「それを言うなら私もよ。ねえ?私を呼び出した理由ってそれだけなの?」

 

何となく私が呼び出された理由が気になったので、私はそう尋ねてみると、慶くんは一瞬はっとしたような顔をして、そして、真剣な表情になって

 

「・・・うん。実はもう1つ俺の心残りをなくしておきたい事があったから、かがみを呼んだんだ。」

 

その表情に私も思わず緊張しながら

 

「もう1つ?それって何なの?」

 

そう、おそるおそる尋ねると、慶くんは1つ何かを決心したような顔で

 

「・・・かがみ、俺は・・・あの時お前に気になる子がいる、そう言ったよな?」

 

その言葉に私はこくりと頷くと、慶くんは更に言葉を続けて

 

「あれな・・・気になる子っていうのは・・・実は・・・かがみ、お前の事なんだ。」

 

その言葉に私は思わず驚きながら

 

「・・・え?そ、それって・・・その・・・。」

 

慶くんから信じられない事実を突きつけられた事で、混乱した頭で私はそう聞き返す。

 

その言葉に慶くん1つ力強く頷くと

 

「そうだよ。俺が気になる子って言うのは・・・俺の好きな子は・・・かがみ、お前なんだ。」

 

私はまだ混乱する頭で慶くんに

 

「・・・嘘、だよね?あんたの好きな子が私って・・・からかってるんでしょ?だって私は・・・」

 

そう言う私に慶くんは首を振り

 

「からかったりしてないよ。本気さ。俺は本気でお前の事が好きなんだ。それともかがみは俺にそんな事を言われるのは迷惑かな?」

 

そんな風に言う慶くんに私は焦りながら

 

「で、でも、私はあんたとケンカばっかりしてたのよ?何度も気まずい思いもしたわ。それもほとんどの原因が私にあったじゃない!それなのに・・・いいの?私で・・・今後も迷惑かけるわよ?そんな私でいいの?」

 

私の心の叫びに慶くんは黙って頷いて、そして、私を抱きしめながら

 

「そんなかがみだから、いいんだよ。そんなかがみにだから俺は俺の素直な気持ちを伝えたいって思ったんだ。」

 

その言葉がとどめだった。

 

私は何時の間にか泣きながら

 

「・・・私も・・・私も・・・あんたが・・・好き・・・それに気付いたのはあんたが5年生の時に突然私の前から消えた時よ?あんたがいなくなって自分の中の本当の気持に気付いたの・・・。」

 

そんな私の言葉を聞きながら慶くんは

 

「そうだったのか・・・ごめんな?かがみ、あの時は何も言わずにいなくなって。」

 

そう言う慶くんに私は首を振って

 

「いいの・・・今こうしてあんたと気持が通じ合ったからそれでいい・・・あんたが今私の前に居てくれるからそれでいい。」

 

私のその言葉を聞いた慶くんは、私から体を離すと私の顔をじっと見つめる。

 

私もまた、そんな慶くんを見つめ返す。

 

そして、そのまま私達は唇を重ねたのだった。

 

けど、その時の私は、そんな事に気持が舞い上がってしまっていて、彼から受けた告白の違和感に気付かずにいたのだが、慶くんからの告白を受けた数日後、その違和感に気付く事になった。

 

あの告白以来、私と慶くんは以前以上に仲良くなって付き合っているかのようだった。

 

けれど、何かがおかしかった。

 

告白によって縮まったかのように見えた2人の距離、それがなんとも微妙なのだ。

 

あれ以降の慶くんは私とは一定の距離を置いているように見受けられた。

 

でも、慶くんは私の事は前以上に構ってくれるし、遊んでもくれるし、一緒に過ごしたりもした。

 

だからこそ、2人の間にある妙な壁が気になった。

 

どこかで慶くんは私に深入りしないようにしている、そんな感じに思えたのだ。

 

そして、その理由は、改めてあの時の慶くんの告白を思い返してみた時に気付いた。

 

そう、あの時慶くんは私を好きだと言った。

 

けれど、”付き合って欲しい”彼はその一言だけは言っていなかったのだ。

 

彼が私に好きだと言った、けれど、付き合ってくれとは言わなかった、その理由がその時の私には結局理解できずにずっと悩んでいたけれど、その意味が分かる時が訪れた。

 

それは、中学3年生の2学期の終わりに近い頃にやっていた体育の授業での事。

 

その授業の最中に慶くんが倒れたのだ。

 

最初はただの貧血だと思っていた。

 

本人も私にそう言っていたから、その事を疑いもしなかったのだけど、慶くんが保健室に行ってしばらくして学校に救急車がやって来て、遠目にストレッチャーに乗せられている慶くんを見た時に、これはただ事じゃないと思った私は、学校が終わった後すぐさま慶くんの入院した病院へお見舞いに向かった。

 

受付で病室の場所を聞いた私は、いても経っても居られない気持で慶くんの病室へと急いだ。

 

そして、病室の前まで来たとき、中で医者と話をしている慶くんのお父さんと、慶くんの声が聞こえてきたのでそれに耳を澄ましてみた。

 

「・・・もう、あまり時間がありませんね・・・おそらくは彼は卒業までは持たないかもしれません・・・。」

「先生、なんとか卒業まで生き延びる事はできないんでしょうか・・・。」

「先生!なんとかなりませんか?せめて、卒業までは・・・。」

「・・・その為には当分は病院での治療が必要となりますが、それでも構いませんか?」

「・・・そうする事で卒業までは持ちこたえる事ができるのであれば・・・」

「分かりました。では、これからは私の指示通り、治療を受けてもらいます。決して無理はなさらないように。」

「分かりました・・・ありがとうございます、先生。」

 

その会話を聞いて私は愕然とした。

 

(あいつが死ぬ?もう助からない?嘘だ!嘘だ!!嘘だ!!!何かの間違いだ!そんなの、嘘だ!!)

 

頭の中で渦巻く声を聞きながら私は、気付いたら慶くんのいる病室へ飛び込んでいた。

 

いきなりの私の来訪に驚く慶くん。

 

「か、かがみ?お前、どうしてここに・・・。」

 

私は泣きそうになるのをこらえながら慶くんに

 

「・・・あんたが今日の体育の時間に突然倒れて、救急車で運ばれたのを見て私はあんたが心配でここにかけつけたのよ。それよりも、さっきの会話は何!?卒業まで持たない、って・・・」

 

そんな私の剣幕に、慶くんは私が自分達の会話を聞いていた事を悟ったのだろう、申し訳なさそうな顔をしながら私に包み隠さずに話してくれた。

 

「・・・俺達の話を聞いてたんだな?かがみ・・・お前の言う通りだよ。俺は癌に冒されてる。もう俺の時間は残り少ないんだ。後数ヶ月、持つかどうかって所らしい・・・。」

 

私はその言葉を聞いて絶望にかられながら

 

「・・・そんな・・・そんなのって・・・どうしてよ!どうしてあんたはそんなに冷静でいられるのよ!自分がもう・・・助からないかもしれないって言うのに・・・どうして・・・。」

 

それだけを言うのが精一杯だった。

 

私の我慢は限界を超えてそして、慶くんに抱きついて大声で泣いていた。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!わぁぁぁぁぁ!!」

 

泣きながらも私はそれでも、慶くんが後少ししか生きられない事を信じたくないと心の中で何度も何度も叫んでいたのだった。

 

そんな私を受け止めながら慶くんは優しい声で

 

「ごめん、かがみ・・・お前には心配かけたくなかったからずっと言わずにいようと思ってた。でも、俺の病気の事知られてしまった以上、お前には隠し事をせずに話しておきたい事がある。聞いてくれるかな。お前の前から一時姿を消していた時からいままでの事を・・・。」

 

その言葉に私は真実を知らなければいけない、慶くんの言葉を聞かなければいけないそう思い、私はなんとか自分を落ち着けて

 

「・・・わかったわ・・・聞かせて?あんたの事・・・あんたがいなくなったあの時からのこと・・・。」

 

そう、慶くんに促すと、慶くんは1つ頷いてゆっくりと私にあの時からの事を話し始めた。

 

「俺が学校を休んだ日、俺は突然体調不良になった。最初は風邪を引いただけだろうそう思っていたけれど、その後数日過ぎても俺の体調は回復しなかった。その状態をおかしいと感じた両親は俺を病院へ連れて行き、医者に見せた所、詳しい検査が必要だと言われた。両親も俺も不安になる中、検査を行い出た結果は・・・かがみが今知る通りだったと言う事さ。」

 

そう言って一旦言葉を切り、再び話し始める慶くんの言葉に耳を傾ける。

 

「・・・その後、病気の治療の為にすぐさま癌専門の病院に移っての治療が開始された。その関係もあって、一時期あの家を手放して両親もすぐに俺の様子を見に来られる程に病院に近い場所に住まいを移して俺が戻ってくる1年ちょっとの間、病気と戦い続けていた。学校側にもこの事を知りつつもかがみたちを不安にさせたくなかったから学校には俺達の事は黙っていてもらうようにお願いしたんだ。そしてようやく病気を克服し、俺達は元の家へと帰ってきてそれでお前に会いに行った。それが3年前だ。」

 

そこまで話して一息ついた慶くんに、私が水を手渡してあげると、ゆっくりと水を飲んでから更に話を続ける。

 

「ふう、ありがとうかがみ。んじゃ、続きを話すぞ?それから中学に入って俺は今までどおりにまたかがみやつかさとも一緒に学校に通って楽しい日々を取り戻せる、そう思っていた。でも、2年生に上がった頃に俺は一度体調不良で学校を休んだ時があった。その時の体の状態に違和感を感じた俺は一応医者へ行って診てもらう事にしたんだが、そこで再び検査となってな・・・そして・・・俺の癌は全身に転移をしている事が分かったのさ・・・。」

 

そこまでの話を聞いた私は、辛さと慶くんの置かれた状況の悲しさで再び涙が滲んできたけど、それを我慢して話を聞く。

 

「俺に残された時間は少なかった。まともに学校へ通う時間も俺にはあまり残されていない・・・けれど、俺はそんな短い時間の中でも俺の生きた証を残したくていろいろな事を惜しみなくやってきた。それはお前もそんな俺の姿を見ていたから分かるだろうと思う。その中で俺はやり残した事がある事に気付いて・・・そして、俺は・・・お前に大喧嘩での事を詫びたかった事と、俺の本心をお前に伝えた。それだけは俺が死ぬ前に伝えておきたかったと思ったから・・・お前を悲しませる事になるかもしれないけど・・・俺の自己満足かもしれないけど・・・俺にとっての心残りを・・・なくしておきたかったんだ・・・。」

 

私はそんな慶くんの言葉に涙を流しつつ

 

「そっか・・・慶くんが私にした告白した時に”付き合って欲しい”その言葉だけを言わなかったのは・・・あんたはもう・・・自分が長くない事を知ってたから、なのね・・・?もうすぐ死んでしまう自分とはこの先付き合えないと言う事をわかっていたから・・・。」

 

その私の言葉に慶くんは頷くと

 

「・・・そういう・・・事さ・・・そして、今日俺は倒れ・・・お前に俺の真実を知られてしまったわけだ・・・。」

 

そう言う慶くんの顔には苦悶の表情がありありと見てとれた。

 

「・・・つかさが知ったら・・・きっと泣くわね・・・あの子もあんたの事好きだったみたいだし・・・。」

 

慶くんは私のその言葉に驚きながら

 

「・・・え?そ、そうだったのか?つかさは俺の事を兄のように慕ってくれていたのかとばかり・・・。」

 

そう言う慶くんに私は苦笑しながら

 

「ふふ・・・本命だけしか見えていないあたりも・・・あんたらしいわね・・・。でも、よかったかな・・・あんたが好きだって言ってくれたのが私でさ・・・。あの子だったらきっと、この状況に耐えられないかもしれないからね・・・。」

 

その言葉に慶くんは心底すまなそうな顔をしていた。

 

そんな慶くんを見ながら私は1つ決心すると

 

「慶くん、私、最後まであんたと一緒にいてあげるわ。あんたに付き合ってくれ、までは言われてなくても私はあんたの彼女だと思ってるんだからね?あんたが私を悲しませないように拒絶してもこの思いだけは譲れない。だから・・・覚悟してもらうわよ?」

 

私のそんな言葉に驚いたような表情を向けていた慶くんだったけど、その顔がだんだん崩れてきて、ついには声をあげて慶くんは泣き始めた。

 

「・・・うっく・・・うう・・・ごめんな・・・ごめんな・・・かがみ・・・俺が・・・俺の所為で・・・お前を・・・お前は・・・お前にだけは・・・笑っていて欲しいのに・・・俺は・・・そんなお前の心を傷つけて悲しい思いさせてる・・・こんな・・・こんなはずじゃなかったのに・・・うぅぅ・・・」

 

そんな風に私にすまないと、何度も謝ってくる慶くんを私も泣きながらそっと抱きしめて

 

「・・・ううん・・・いいの・・・私が決めたんだから・・・そうするって・・・決めたんだから・・・ねえ、慶くん。あんたがもしも卒業式出れない事になるなら・・・私と2人だけで・・・卒業式しよう・・・ね?約束しよ?いいよね?慶くん・・・。」

 

その私の言葉に驚きの表情をで顔を上げた慶くんはうんうん、と頷いてくれたのだった。

 

そんな約束を交して私は、その日は病院から戻ってきた。

 

つかさには慶くんの事は知らせておきたかったから知らせてあげた。

 

いつも3人でいた私達だったから、つかさにも知る権利はあると思ったからだけど。

 

そして、案の定つかさは慶くんの事を知って大泣きしていた。

 

私はそんなつかさに

 

「・・・つかさ、気持はわかるけど、私達は慶くんの為に最後まで一緒にいてあげよう?それが・・・幼い時から一緒だった3人の・・・私達の慶くんのためにしてあげるべき事だと思うから・・・。」

 

そう言い聞かせると、つかさも決心を固めたみたいで、何とか涙を止めて私に頷いてその力強い意思を見せてくれたのだった。

 

その後は私達は慶くんのお見舞いに毎日通った。

 

慶くんは先生に言われた通り、少しでも長く生きようと先生のいいつけを守って治療を受け続け、安静にしていた。

 

あまり無茶をしなかった事もあり、慶くんは卒業式の日まで持ったのだった。

 

そして、卒業式が終わる頃、慶くんの容態が急変したという知らせが私の携帯に入ってきた。

 

私とつかさは慶くんの卒業証書を携えて慌てて病院へとかけつける。

 

病室に急ぐと、慶くんは酸素吸入マスクを施されてもう、意識もほとんどないように見受けられた。

 

それを見たつかさは泣き出してしまい、慶くんに取りすがって

 

「けーちゃん!やだよ!死なないで!お願いだよう~!!」

 

必死に慶くんに呼びかけていた。

 

私もまたそんな慶くんの姿を見て泣き出し始めていたが、それでも慶くんに卒業証書を渡さなければと思い、慶くんの枕もとへ行って

 

「慶くん・・・ほら・・・卒業証書だよ?私達・・・今日で卒業するんだよ?慶くんもちゃんと貰えたんだよ・・・これ・・・あんたの為に・・・貰ってきたんだよ・・・さあ受け取って?お願い・・・目を・・・開けて?」

 

そう呼びかけた時、私の願いが通じたのか、慶くんは少しの間だけ意識を戻したようだった。

 

そして、私の手にある卒業証書に触れながら

 

「・・・そ・・・っか・・・俺・・・も・・・卒業・・・でき・・・たんだな・・・かがみ・・・つかさ・・・ありがとう・・・俺は・・・2人に・・・会えて・・・かがみを・・・好きになって・・・本当に・・・よかった・・・つかさ・・・俺みたいに・・・なるなよ?お前なら・・・大丈夫だと・・・信じてるけどさ・・・そして・・・かがみ・・・俺の事は・・・忘れてくれてもいい・・・だけど・・・俺の分まで・・・し・・・しあ・・わ・・・せ・・・に・・・なって・・・くれ・・・ありが・・・とう・・・俺の・・・愛しい・・・人・・・・・・・・・。」

 

そこまで言うと、慶くんの心臓が停止を告げる電子音が病室に響き渡る。

 

「慶・・・くん?やだ・・・いや・・・いやあああああああ!!」

 

それを聞いた瞬間、私は慶くんにだきつきながら大声で泣きじゃくっていた。

 

こうして、私の好きだった人は、高校生にもなれないままにこの世を去った。

 

私に大きな悲しみと・・・心を残して・・・・・・

 

そこまで話した時、私もつかさもその時を思い出したのだろう、気付いたら涙を流していた。

 

「と、まあ、こういう事よ。」

 

私は涙を流しながらも短くそう言う。

 

私の話を聞いていたこなたとみゆきももらい泣きをしながら

 

「・・・ぐすっ・・・そっか・・・そんな事があったんだね・・・でも、かがみは今でも森村君の可愛いって言ってくれた言葉を覚えてるから・・・今でもその髪型を続けてたんだね・・・。」

「・・・ひっく・・・ぐす・・・かがみさん・・・大丈夫ですよ・・・森村さんの思いはちゃんと・・・届いています・・・だって・・・私達が・・・今・・・あなたの側にいるんですから・・・。」

 

泣きながらそう言っているのを聞いて、私は涙を拭きつつ苦笑しながら

 

「・・・そうね・・・あいつの言葉どおり私にもあんた達って言う友達ができた。今幸せを感じる事が出来ているのもあいつが私にそう言ってくれたからよね・・・。」

 

そう言いながら私は校舎の外のグラウンドに目をやって

 

(ありがとう、慶くん。あんたの事好きになった事、あんたがいた事、私は忘れない・・・そして、あんたがくれた大切な親友と・・・あんたに言われた通り幸せになってみせるから・・・だから、私達を・・・見守っていてね?そしていつかあんたに会いに行ったなら・・・きっと私はあんたと一緒にいる、そのつもりだからね?)

 

そう考えながら私は、私の話でいまだに涙を流す、高校に入ってから出来た親友2人を見ながらそう心の中で慶くんに誓うのだった。

 


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