短編集 らき☆すた~変わる日常IF、色々な世界~   作:ガイアード

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本編設定永森やまと編~風邪と不安と看病と、そして、2人の誓い~

私の名前は永森やまと。

 

今、私は陵桜学園総合大学の2年生だ。

 

そして、今私は、中学時代からの想い人である森村慶一先輩と付き合っている。

 

更には、私と先輩は先輩の家で同棲もしていた。

 

けど、私は今、自らの体調管理をしくじって風邪を引き、寝込んでいた。

 

そんな私を気遣ってか、先輩は今日、早めに帰って来てくれる事となった。

 

先輩が私を心配してくれる事も嬉しかったけど、それ以上に先輩には私の風邪を移したくはないな、と考えていた。

 

けど、先輩の性格からして、そうなったとしてもきっと先輩は私を気遣ってくれるだろうし、そんな先輩の性格には感謝もするけど、同時に、誰かを心配するあまりに自分を見失う事もあるもう1つの先輩の一面に少々の不安もあるにはあった。

 

そんな先輩ではあったけど、それだけ私も先輩の事は好きだったし、先輩も私の事を好きになってくれた。

 

布団に篭って風邪のだるさや寒気と戦いながら、先輩が帰って来るの待ちつつ、私は先輩との日々を思い出していた。

 

先輩と初めて出会ったのは、お互いに中学生の頃。

 

その時は私も、そして親友のこうも先輩の事は、悪い噂は聞いていたけれど、実際に会ったり、話したり等、そんな風にコミニュケーションを取るような接点すらない人だった。

 

けど、ある時に私はこうと大喧嘩をした時期があった。

 

あの時の喧嘩は、私にとっても、こうとの仲が終わる寸前になるほどの危機だった。

 

こうにそれまでに自分の中で溜まっていた感情をぶつけ、その後少し冷静になった時、自分のやった事を後悔すらした。

 

でも、あの時の私には、素直にこうに謝る事もできずに悩んでいたのだけど、その時にその場に偶然居合わせていた先輩がこうに接触していたのだった。

 

先輩は、私の知らない所でこうと共に、私がこうと仲直りをする為の作戦を練ってくれた。

 

そして私は、その作戦に見事にはまり、それがきっかけでこうと仲直りをすると共に、先輩と初めて出会う事となった。

 

あの時の先輩は演技とはいえ、噂どおりの怖さと雰囲気を纏った人に思えた。

 

でも、素に戻った先輩を見て、その噂の信憑性のなさと、本当の先輩の姿に大きなギャップを感じて戸惑ったものだった。

 

それと同時にこの時に私は、先輩に興味を持つと同時に何となく気になる人となった。

 

その後の中学時代はまさに試練の連続でもあった。

 

先輩の風評はいまだ悪いまま、そして、それを鵜呑みにして先輩に陰口を叩き敬遠する者、そんな先輩を貶めようと企みを展開させる者、そして、やはり風評に踊らされて厄介者を扱うように接する教師達、様々な連中から先輩は疎まれた。

 

だが、そんな中でそんな先輩の風評が誤解だと気付いてくれた人もいたし、何より、先輩にとって親友と呼べるもう1人の先輩の存在もあった。

 

その先輩とは慶一先輩自身が犯してしまった罪により、一時親友関係を断ちかねない事態になったが、それでもその先輩は、こっそりと先輩を支援しつづけてくれていた。

 

そして、私達も先輩の事を信じてずっとついてきた。

 

ある時先輩が私達に言ってくれた事がある。

 

その言葉を私は今でも忘れていない。

 

「今の俺のイメージは俺自身の行動が原因で作ってしまったもんだ。それが俺の罪ならば仕方がない事さ。けどな、俺はこの状況であっても辛い訳じゃないさ。だって俺の側にはこんなに俺を心配してくれるお前らがいるんだしな。だから、言いたい奴には言わせとけ。俺は、俺を信じてくれるお前らさえいるならそれでいい。」

 

その言葉は、私達と先輩との信頼をさらに強くし、その信頼はその後に起きる給食費窃盗事件という逆境さえも乗り越えさせた。

 

こうして私達は試練の中学時代を何とか乗り切り、無事に先輩の卒業を見送る事が出来た。

 

けど、先輩の卒業時、私は親から言われてた事もあったのだけど、その時には聖フィオリナ女学院への受験を目標とする事になっていた。

 

こうはこうで、先輩についていこうとしたらしく、先輩と同じ陵桜学園を受けるつもりでいたらしい。

 

先輩の卒業前にはこうの進路は知っていたものの、私もまた、それを知ってからはかなり自分の中で揺れていた。

 

だから、あの後に私は、フィオリナを受けると同時に密かに陵桜も受けようと考えていた。

 

そして、こうにも気付かれないようにこっそりと陵桜の受験を済ませた私は、その結果に自分の進む運命を委ねた。

 

だが、結局両方とも合格するという結果になり、私は進路決定に大いに頭を悩ませた。

 

散々悩んだ末、私は陵桜に行く事を決め、その事に悩んでいた所為もあり、こうにも相談する事すら忘れて陵桜に行った結果、そこで会ったこうは私の事情を知らないままに同じ学校で私と再会した事に驚き、私から事情を聞くために先輩を呼んだ。

 

そこで私は、先輩とこうに進路の事で悩んでいた事、その事を相談できなかった事、そして、最後には自分の行くべき学校をここに決めた事を涙ながらに2人に告白した。

 

私は自分で言った事を覆し、2人を結局は裏切ってしまった事を凄く後ろめたく思っていた事もあり、こんな決断をした私の事など呆れて、もう私とも係わってはくれないのではないか?そう思った。

 

けれど、先輩はそんな私を気遣ってくれ、そして、私が陵桜にいる事を受け入れてくれた。

 

そんな先輩の気持がとても嬉しくて、そして、その事がきっかけとなり、私はますます先輩に対しての好意を感じるようになった。

 

それからの学校生活はとても楽しいものだった。

 

慶一先輩以外の先輩達との出会い、こうのアニ研設立、そして、先輩が1人暮らしをしている事と今先輩が暮らしている家の事もこの時に知り、更には先輩の本当の御両親の事、私達が中学の時に一緒にいた頃に何度か会っている先輩のお父さんが義理のお父さんである事も知った。

 

それぞれの先輩達のお誕生日会をし、夏祭りに出向き、そして、久々に再開した瞬一先輩から慶一先輩の過去に関する話も聞き、その後には先輩と一緒に海にも出かけた。

 

そこで、慶一先輩が自分の過去を乗り越えると大切な事にも立ち会った。

 

逆に慶一先輩の誕生日を皆でお祝いする、という事もやったし、体育祭での大活躍も見た。

 

文化祭前に先輩の身に大変な事が起きるというトラブルも乗り越え、文化祭でも先輩の活躍を見てそして、慶一先輩が瞬一先輩と再び親友に戻る事が出来た事に喜びもした。

 

文化祭の後では私の為に、忘れられない誕生日を先輩は開いてもくれた。

 

その後、先輩と同じ場所でのアルバイトも楽しかったし、クリスマスで送ってくれたプレゼントも嬉しかった。

 

そんな1年を乗り越えてそして、忘れられない出来事の1つにバレンタインデーがあったのだが、この時の私は、前以上に先輩の事を意識していた。

 

私はかがみ先輩とも性格は似ていた事もあり、先輩に対して素直には中々なれず、先輩にチョコレートを渡せなくなる危機に陥りかけた。

 

でも、諦めたくなかった私は部室に逃げ込んできた先輩を待ち伏せて、勇気を出して先輩にチョコレートを送った。

 

先輩はそんな私のチョコレートをその場で食べてくれたのだが、私にはその行為の意味が良くわからなくて、先輩に何故そういう事をしたのかを尋ねたのだが、先輩は、それが自分の成意なのだと私に言い、私はそんな先輩の思いが嬉しくもあり、そして、さらに強く先輩に対しての好意を意識し始める事になった。

 

そんな中で、その後、先輩は私達の進路に関しても色々と考えてくれた。

 

皆と同じ学校へ行く為に、皆が学びたいと思う、それ相応のレベルを持った学校を先輩は必死に探していた。

 

そして、それも決まり、私達は新たな目標も得て、ますますこの先に希望を見出していた。

 

そのまま順調に進めば何の問題もなかったのだろうけれど、先輩の運命はまだまだそれを許してはくれないようだった。

 

その後に先輩にとっての悲しい出来事が起きてしまった。

 

やっと親友に戻れたはずの瞬一先輩の事故による死、そして、それによって落ち込む先輩は本当につらそうだった。

 

そんな大事があったものの、泉先輩達の協力や私達の励ましによって、何とか先輩も立ち直る事はできた。

 

そうして再びの日常を踏み出した私達だったのだけど、また1つ先輩の過去に関するある重大な出来事が起きる。

 

それは、先輩が中学に上がる前に先輩が恋をした子の存在を知った事。

 

そして、先輩自身も無意識に封印したその子の記憶を呼び覚ます事になってしまった事だった。

 

先輩があの時私に声をかけた本当の理由を知った私は、凄く悲しくなった。

 

その日までの私は永森やまとではなく、篠原しおんとして私は私にその子の影を重ねられて見られていたからだった。

 

私を永森やまととして先輩が見てくれていなかった事を知り、私は先輩を許せない気持にもなった。

 

でも、それ以上に私は先輩の事が、先輩に対する思いが強くなっていたから、今後は私をちゃんと私としてみてくれる事を約束してもらい、更には、私とのそれまでの罪滅ぼしの為のデートをしてもらう事をお願いした。

 

先輩は私の申し出にちゃんと応えてくれた。

 

その時に、最後にもう一度先輩に会いたい、と願うしおんさんの願いを聞き入れた私は、ちょっとした不思議体験をする事になったのだけど。

 

その時に、少し調子に乗ったしおんさんが私の体で先輩にキスをするのを、私は自分の意識がある状態で見せられた。

 

その事に嫉妬した、という事もあるのだけど、すぐに先輩に永森やまととしてのキスをしなおし、今度こそここから私と先輩の関係を始めたいと思った。

 

その後は、今まで以上に大胆に私は先輩達ライバルに負けたくなくて行動をしていった。

 

それが効を奏し、先輩が高校を卒業する頃には私は先輩と両思いになる事が出来たのだった。

 

あの日の事は今でも忘れない。

 

先輩は私を星桜の樹の所に呼び出して、私に自分の気持を伝えてくれた事を。

 

「先輩、言われた通り来たけど、用事って何?」

 

と、外見ではいつものように冷静を装いつつ、内心は凄く心臓をドキドキとさせながら先輩にそう言うと、先輩は私を見て、顔を赤くしつつ照れながら

 

「・・・えっと、だな、その・・・・・・」

 

そう言って先輩は、言葉を詰まらせつつも、自分の言いたい事を伝えようと必死になっている様が見て取れた。

 

そして、先輩はぐっと表情を引き締めて何かを決意したような顔で私を見ると

 

「やまと。中学の頃からいつも俺の側に居てくれたよな?俺がつらい時、悲しい時、楽しい時、嬉しい時、その全てのシーンにお前が居てくれた。俺は最初からあの時までお前を篠原しおんとして見ていた。だが、その後、俺はお前をちゃんと永森やまととして改めて見てきた。そして、気付いたんだ。俺の気持ちに・・・お前に対する俺の気持ちがどうなのかにさ・・・。やまと・・・俺はお前が・・・好きだ。やまと、お前は俺をどう思ってる?お前の素直な気持を聞かせてくれないか?」

 

その言葉に私は目を見開いて驚いていたが、やがて、その目から涙をあふれさせると

 

「・・・嬉しいわ、先輩。私も同じよ?私は初めて先輩と出会ったあの時から先輩の事を意識していたわ。それがたとえ私を篠原しおんと重ねて見ていたのだとしても、あの日から私は先輩と付き合っていくうちにその思いがどんどん強くなっていくのを感じていたわ。どんな時でも私が先輩の側に居たのは私も先輩の事が好きだったからというのもあるけれど、気付いたらその思いが本物になっていたから、なのよ。私も先輩が好き。大好きよ?だから、その言葉を聞けてとても嬉しい・・・。」

 

そこまで言った私は、感極まって先輩に抱きついて泣いたのだった。

 

先輩はそんな私を優しく受け止めてくれ、私はそんな先輩の胸の中で自分の想いが届いた事を喜んでいた。

 

その後は、私達の事を知った泉先輩達とも色々あったのだけど、最終的には皆私達の事を認めてくれた。

 

そして、先輩が高校を卒業し、その後2年間は、先輩とも学校では会えない事を寂しく思ったりもしたけど、先輩はそんな私に気を使ってくれ、私には必ず電話やメールもくれたし、学校が終わった後などに会ってデートしたりもした。

 

必死の思いで先輩の居る大学へと行きたいが為に勉強をし、その勉強も先輩が手助けをしてくれた事もあり、私は先輩の居る大学へと無事に合格を果たす事が出来た。

 

そして、大学で先輩と楽しいキャンパスライフを謳歌したのだが、ある時先輩が私に同棲の話を持ちかけてきた。

 

「なあ、やまと。お前さえよければだけど、一緒に暮らさないか?俺はお前にいつでも側に居てもらいたいと思ってるからさ。それで、その・・・ゆくゆくは俺はお前と一緒になりたい、って思ってるし・・・考えてはもらえないかな?」

 

その言葉に私は一も二もなく同意の意思を伝えた。

 

「先輩、その申し出、凄く嬉しい。私も先輩が大学に進んでから先輩と学校で会えなくなった時も凄く寂しくなったもの・・・。こうしてまた先輩と同じ学校で楽しく学校生活を送れる時間は凄く嬉しいけど、今の私はその後の時間も先輩と一緒に過ごして行きたい。大好きな・・・先輩と一緒に・・・。」

 

私のその言葉に先輩もまた、嬉しそうな顔で頷いて

 

「ありがとう、やまと。それじゃ、近いうちにお前のご両親にもご挨拶に行かないとな。」

 

そう言ってくれる先輩の言葉が嬉しくて、私は涙を流しながらも笑顔で頷いたのだった。

 

そして、私の両親との会合も会ったが、元々先輩はうちの両親からの印象も悪くはなかったので、この話はあっさりと決まった。

 

その後、私は自分の荷物を持って、高校時代にも文化祭の時や勉強会や先輩のお誕生日会で訪れた見慣れた先輩の家に、これから一緒に暮らしていく為にやってきた。

 

私を迎えてくれた先輩は早速私を迎え入れてくれ、私の荷物の整理も手伝ってくれた。

 

そして、荷物を整理し終えた後、先輩は私に

 

「今日からここがお前の家だ。この家を好きなように使ってくれ。俺はもうお前と一緒にはここに居られないから出て行くな?それじゃな、やまと。」

 

そう言って、家を出て・・・って、え!?

 

「ま、待って?先輩!!どうして、私と一緒に居たいって、一緒に暮らしたいって、ゆくゆくは一緒になりたいって言ってくれたじゃない!!なのにどうしてここを出て行くの!?待ってよ!先輩!!」

 

そう言いながら私は泣きながら先輩を引きとめようと、家を出て行こうとする先輩に手を伸ばすが何故かその手が届かない。

 

私は必死になって先輩に手を伸ばし、行かないで!と叫びつづけたのだが、ふいに感じた冷たさにふっとその映像が消えうせ、私は目を覚ました。

 

何時の間にか私は先輩との事を思い出しつつ、眠り込んでしまったようだった。

 

そして、大慌てで布団から起き上がると、そこには机にお粥を置いて、困惑の表情で私を見つめる先輩の姿があった。

 

その姿を確認したと同時に私は先輩に飛びつくと、そのまま泣きじゃくったのだった。

 

慶一side

 

やまとと暮らすようになってそれなりに時間も経っていたが、今回はやまとが体調管理をしくじった事もあり、風邪を引いてダウンしてしまっていた。

 

俺は、そんなやまとの事が心配だったので、大学の講義もきっちりと済ませると、すぐさまやまとの看病をする為に自宅へと戻った。

 

そして、お粥を作り、薬と冷却シートを用意して俺はやまとの寝室へとやまとを起こさないように静かに入り、やまとの様子を伺った。

 

やまとはどうやら寝てしまっていたようなのだが、何故かうなされているようだったので、俺はその様子を心配気に見つめつつ、やまとの額の冷却シートを取り替えた。

 

そのショックの所為か、やまとは目を覚ましたらしいのだが、俺の姿を見たやまとは俺に飛びついて来て俺の胸の中で泣きじゃくり始めたのだった。

 

「やだ・・・やだよ・・・先輩、行っちゃやだ・・・私を置いてっちゃやだ・・・やだよ・・・先輩・・・。」

 

俺はそんなやまとの様子に困惑しつつも、やまとが泣き止むように優しく背中をさすってやりながら

 

「おい、どうしたんだ?やまと。何かうなされてたと思ったら、急に俺に飛びついて泣いたりして。何か嫌な夢でも見たのか?」

 

そう尋ねてみると、やまとは俺の胸に顔をうずめて泣きながら

 

「・・・ぐすっ・・・わ・・・私・・・先輩と・・・ひっく・・・こんなふうに・・・ううっ・・・一緒に暮らすまでの事を・・・ひっく・・・ぐす・・・先輩が・・・ぐす・・・帰ってくるまでの間・・・ふえ・・・思い出して・・・えぐ・・・いたんだけど・・・うっく・・・何時の間にか眠っちゃって・・・ひっく・・・先輩が・・・ぐす・・・私を家に招いてくれた時のシーンが・・・ひっく・・・夢に出てきて・・・うう・・・私にこの家に居ていいって言った後・・・ひっく・・・先輩が私1人を置いて出て行こうとして・・・えぐっ・・・私はそんな先輩を・・・ううっ・・・必死に止めようとしたけど・・・うぐ・・・だめだったの・・・うわあぁぁぁぁ!」

 

途切れ途切れだったけど、やまとが言いたかった事が何となく理解できた。

 

どうやら夢の俺は、やまとと同棲する為にやまとを家に招いてそして、俺はやまとをこの家に置いてここから立ち去ってしまう、そんな夢をみたらしい。

 

風邪や病気にかかっている人は妙に不安になるものだ。

 

心細くなり、誰かに側に居て欲しいと願う。

 

そんな不安が、やまとにそんな悲しい夢を見させたのだという事を理解すると同時に、それほどまでに俺と居たいと思ってくれるやまとの気持が嬉しくもなった。

 

だから、俺はそんなやまとにできるだけ優しい声で

 

「大丈夫。大丈夫だ、やまと。俺はどこにも行かないよ。ずっとお前の側に居る。お前が望んでくれるのなら、俺はいつまでもお前の側に居てやるし、居たいと思っている。お前の側から離れる事なんて絶対無いから、心配するな。な?だから、もう泣くな。」

 

そう言う俺の声を聞いたやまとは、逆にますます泣き出したのだが、俺にはわかっていた。

 

さっきまでの悲しい涙とは違う、嬉しい涙を流すやまとなのだと言う事を。

 

だから、俺は、そんなやまとが愛おしくて、やまとを抱きしめる腕にさらに力を込める。

 

それからしばらくして、泣き止んだやまとと俺は、お互いの気持ちを確かめ合うように熱く口づけを交わした。

 

そして、ようやく落ち着いたやまとを見て、俺はほっと胸を撫で下ろしていたのだった。

 

やまとside

 

夢の事があまりにもショックで、夢から覚めた時、すぐ側で困惑顔で居た先輩に私は無我夢中で飛びつくと、先輩の胸の中で泣きだした私だった。

 

先輩はそんな私を抱きとめながらも、私を優しく抱きしめてくれ、私が落ちつくように背中を優しくさすってくれていた。

 

そして、先輩が私の泣いている原因を尋ねて来たので、私は泣きながらも、さっきの夢で見た事を先輩に途切れ途切れになりながらも告げる。

 

それを聞いた先輩は、私が夢で見たような事は絶対にないと言ってくれ、更には、先輩も私の側に居たいという先輩の思いを聞いた時、さっきまでの悲しみの涙とは違う、喜びの涙があふれ、さっき以上に私は先輩の胸の中で泣いていた。

 

そして、ようやく落ち着いた私は、先輩と、お互いの気持を確かめ合うように熱いキスを交わした。

 

その後は、先輩は私の為に作って来てくれたお粥を私に食べさせてくれた。

 

「ほら、少し冷ましてやったからゆっくりと食べろよ?はい、あーんして?」

 

と言う先輩の言葉に、恥ずかしさと照れで顔を真っ赤にしつつも、私は先輩の好意に従った。

 

「・・・あーん・・・ん、美味しいわ、先輩。先輩も料理は出来るから、こういう時は助かるわよね。」

 

そんな風に言う私に、先輩は照れながら

 

「はは。これも1人暮らしの成果ってやつだな。高校の時から経験していてよかったよ。こうしてやまとの看病や世話ができるんだからな。」

 

その言葉の最後の部分に私は、またしても顔を赤くしつつ

 

「う、うん。その、先輩、ありがとう。それと、ごめんなさい。風邪なんか引いて先輩に面倒かけて。」

 

そう言う私に先輩は再びにっこりと笑うと

 

「元々は俺がお前に先に迷惑かけたよな?中学の時にさ。あの時の事、今でも忘れてないぞ?お前のおかげで俺はあの時死なずに済んだんだ。あの時の恩を少しでも返せるのなら、この程度の事はわけないさ。」

 

その先輩の言葉に私は、物凄く嬉しくなった。

 

先輩は今でも覚えていてくれたのだ。

 

あの日、先輩が体調が悪いのに無理をして雨の中を家に向かって走り、その途中で力尽きて倒れた事。

 

その先輩を私が見つけ、先輩の実家に助けを求めた事。

 

その甲斐あって、先輩は最悪の結果を免れる事ができた事。

 

あの時の事はたぶん一生忘れる事はないと思う。

 

あれは、先輩が私たちの前から居なくなってしまいかねない程に危険な事でもあったから。

 

そして、私がもっとも怖かった事だったから・・・。

 

だから、今こうして私の前に先輩が居てくれる事が凄く嬉しい。

 

私の側で微笑んでいてくれる事が凄く嬉しい。

 

私は、この人を好きになって本当によかったと思う。

 

そして、これからも、この人と一緒に過ごして行きたいと改めて思う私だった。

 

そんな事があってから3日後、私の風邪はようやく完治した。

 

だが、やはり、あの時のキスがまずかったのかもしれない。

 

今度は先輩が、私の風邪をもらってしまったようで、熱を出して寝込んでいた。

 

そんな先輩に、今度は私が色々とお世話をしていた。

 

「ふー・・・ふー・・・はい、先輩?あーんして?どう?美味しい?」

 

そう言って私は、お粥を適度な温度に冷まして先輩に食べさせて上げた。

 

先輩はそんな私の行為に顔を真っ赤にしつつも

 

「あ、えと・・・あーん・・・うん、美味い。ありがとな、やまと。」

 

そう言って食べてくれ、にっこりと笑ってくれた。

 

「いいのよ?これからも私達はお互いに助け合って行くんだから。だって私は先輩の・・・恋人だから・・・。」

 

私は顔を赤らめながらそう言う。

 

先輩はそんな私の言葉に照れながらも、ベットの横をなにやらごそごそとまさぐって、小さな箱を取り出し、私に

 

「お前の為に、これを用意した。こ、今後は俺達は恋人以上になるつもりだからな。だから、受け取って欲しい。」

 

そう言って箱を差し出して来たのを受け、私はその箱を受け取って

 

「えと・・・これってもしかして?」

 

そう言うと、先輩はにっこりと笑って頷いた。

 

私はドキドキしながらその箱を開ける。

 

その中には、エンゲージリングが入っていた。

 

私は嬉しさで泣きそうになりながらも、その指輪を手に取り、自分の左手の薬指にはめて先輩に見せた。

 

それを見た先輩は笑顔のままで

 

「うん。よく似合うよ。とりあえずそれが俺のお前に対する誓いの証の前約束みたいなものだからさ。式の時には、もっといいのをお前に送るよ。」

 

そう言う先輩の言葉に感極まって、私は嬉し涙をこぼしながら

 

「うん、うん。ありがとう先輩。私、嬉しい・・・。凄く嬉しい。先輩、愛してるわ・・・。私、誰よりも先輩を愛してる・・・。」

 

そう言う私に、先輩は少し不満気な表情を見せつつ

 

「やまと、そのお前の思いはとても嬉しい。だけどさ、もうその先輩ってのはやめにしないか?これからは・・・その・・・俺の事も名前で呼んでくれよ。そうなって初めて、俺達は本当の夫婦になれる、そう思うからさ。」

 

その言葉に私は凄く照れながらも勇気を振り絞って

 

「・・・わかったわ。そうよね?先輩はいつでも私の事を名前で呼んでくれた。私も先輩の・・・お嫁さんになるんだから、そんな他人行儀じゃだめよね?そ、それじゃ・・・えっと・・・け、慶一、さん・・・これでいいかしら?」

 

その言葉に慶一さんは笑って頷いて

 

「ああ。それでいいよ。これからもよろしく、やまと。これからも俺は、ずっとお前を守っていってみせるからな?だから、お前もずっと俺の側に居てくれ。」

 

そう言う慶一さんの言葉に私も満面の笑顔で頷いて

 

「もちろんよ。これからずっと・・・最後の最後の時までずっと・・・私はあなたと一緒に居る。慶一さんと一緒に最後まで・・・だから・・・こちらこそよろしく。」

 

そう言って私達はお互いに誓いを立てた。

 

この日から、私達はお互いを名前で呼び合うようになり、これがきっかけで、私の中にあった先輩と私を隔てていた壁も壊されたような気がした。

 

その後皆に祝福されて結婚をし、皆に看取られて逝くその時まで、私達はお互いに愛し合い、仲の良い2人であり続けた。

 


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