機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU   作:後藤陸将

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あはは……リアルでいろいろあって現実逃避してたら書き終わってました~


FINAL-PHASE 終戦

C.E.71 10月25日 大日本帝国 内閣府

 

 

 

「これで、本当に終わったのですな」

いつもの会議室で奈原が肩の荷が下りたかのような安堵の表情を浮かべている。

「ええ、プラントとの戦争が終わり、暫定的ではありますが戦後の統治体制も決まった。これで一区切りついたと言ってもいいでしょうね」

先日まで各国とプラント利権や戦後統治について議論していた千葉も満足げだ。各国との交渉はかなり骨が折れたらしいが、満足げな様子から察するに、骨を折った甲斐はあったらしい。

 

 

 

 プラントは現在連合の加盟国が分割して占領している状態にある。各国の統治下にある市は以下の通りである。

 

 大西洋連邦が首都アプリリウス市、マティウス市、クィンティリス市、オクトーベル市、ヤヌアリウス市を統治。

ユーラシア連邦がマイウス市、セクスティルス市、ノウェンベル市、セプテンベル市を統治。

東アジア共和国がフェブラリウス市とユニウス市を統治。

日本がディゼンベル市を統治。

 

 もちろんこの割り当てには各国の思惑が複雑に絡み合っている。

大西洋連邦は開戦からユーラシア連邦と共に連合軍の主力を形成していたこともあり、この大戦では各国の内で最多の死傷者を出しており、経済的損失も最も大きかった。エネルギー危機もあったために大西洋連邦の世論の世論はザフトに対して徹底的な懲罰を望んでいた。大西洋連邦がこの連合国の中で最大の利益を得られなければ甚大な被害を被った国民が納得しないことが容易に予想される状況だったのだ。

そのため、大西洋連邦はプラントの首都、アプリリウスの占領に凝った。ラクス・クラインの降伏宣言の直後、他のものには脇目も振らずにアプリリウスを最優先で占拠しようとした。しかし、大西洋連邦と同じく多くの死傷者を出して経済的な大打撃を受け、一時は国土の一部を占領されたユーラシア連邦も首都の占拠を目論んでいたために両軍はアプリリウス内で鉢合わせることとなってしまった。

とりあえずその場は友軍同士で衝突するのは不味いということで、アプリリウス市のコロニーを折半して占領することなった。このこともあってか、先日まで行われていた戦後処理会議ではユーラシア連邦と大西洋連邦がアプリリウスの統治を巡って激しく口論するという一幕があった。

あまり連合国内の大国同士が敵対的になることは望ましくないので、日本側も仲介にはいり、ひとまずアプリリウスは大西洋連邦の統治下になることが決定された。ただし、この場でアプリリウスの占拠を勝ち取った分だけ大西洋連邦は後に各国に他のコロニーの統治に関しては譲歩せざるを得なくなった。

 

 政治的に見て最も価値のあるコロニーはアプリリウスだが、軍事的に見て最も価値があるコロニーはマイウス市である。マイウス市にはプラントのMS設計局が集中しており、ここを占拠すればプラントの軍事技術――特にMS関連技術――を得ることができるのだ。

大西洋連邦もマイウス市の占領を狙ってはいたが、アプリリウスを譲られた以上はユーラシア連邦が統治することに異議申し立てはできなかった。このほかにもユーラシア連邦はNJ(ニュートロン・ジャマー)NJC(ニュートロン・ジャマー・キャンセラー)などといった技術を世に送り出したセクスティルス市の統治権を勝ち取っている。

流石に各国もユーラシアがマイウス市に続いて核関連の技術が眠るセクスティルス市の統治権は握ることには抵抗があったが、残りのコロニーの統治権交渉で有利に立つために仕方なくこれを黙認した。因みにここで大いにごねた結果、大西洋連邦は次に兵器メーカーであるマティウス社があるマティウス市を獲得することに成功する。

 

 さて、ここまでアプリリウス、マイウス、セクスティルス、マティウスといった美味しいところは大西洋連邦とユーラシア連邦に持っていかれてしまった。プラントをすきやきに例えると、肉を徹底的に持っていかれた鍋に残っているのは豆腐やしらたきといったザク(MS-06ではない。具のことである)といったところか。因みにあの魯山人ははじめに肉、そのあとはザクと肉を交互に食すことを推奨していたとか。

だが、日本は特に気にした様子も見せない。実は日本は最初から狙いを一点に絞っており、マイウスやアプリリウスには見向きもせずに始めからディセンベルの獲得を主張して了承されていたのである。

ディゼンベル市はザフト関連の施設が集中しているコロニーで、ザフトの各種資料が揃っているため、その価値は軍需コロニーに匹敵する。実験中の最先端技術資料といったものまで置いているわけではないために科学技術的な価値はマイウス市には劣るが、ここを占拠できればザフトの技術力についてはほぼ完全に把握することはできる。

つまり、ディセンベルを得た国は他国が得た軍事技術を凡そ把握できるのである。

確かに各国にとって日本に渡すのは惜しいコロニーであるが、日本はジェネシスを破壊した功労者でもある。その日本が一位指名したコロニーを自分達が掻っ攫おうとすれば反発は免れない。戦時中も物資を融通してもらっていたこともあり、大西洋連邦とユーラシア連邦は不満はありながらも反対することはできなかった。

唯一東アジア共和国が頑固に統治権の獲得を主張し続けたが、援護してくれる国もなかったために彼らの主張は通らず、東アジア共和国の反対を無視して日本がディセンベルを獲得することとなった。

元々日本は戦後統治などという面倒なことに首を突っ込むつもりはなかったために、人口が少なく統治しやすい一つの市の統治権を得られたことで満足していた。

他国がプラントの技術的遺産を腐肉を喰らう鷲のように強欲に狙っていることは分かっていた。しかし、プラントの技術を得るメリットと占領統治の面倒くささ、統治権を巡って起こる他国との軋轢を天秤にかけた日本は必要最小限度のコロニー獲得が最良であるという結論に達したのであった。

 

 最後に東アジア共和国だが、何故か軍事技術には脇目も振らずに医学、生物学系の技術を研究していたフェブラリウス市と、食糧系の技術を集めたユニウス市の統治権を所望した。プラント式の採算の悪い食糧生産技術など大した価値もないとして各国は二つ返事でユニウス市の統治については了承した。(ぶっちゃけ全く利がない貧乏くじそのものであった)

一方、フェブラリウスの獲得については揉めた。かつてS2型インフルエンザのワクチンを製造したフェブラリウスにはS2型インフルエンザウィルスを細菌兵器としてつくったという疑惑があった。そのために各国はフェブラリウスの獲得は細菌兵器製造が狙いだと考えたためである。

しかし、東アジア共和国は自国の医療技術の向上のためだと一貫して主張し続けた。直前のオーブ侵攻のこともあったために東アジア共和国に対して各国は不信感を拭い去ることは到底できなかった。

フェブラリウスの処遇に関して会議が平行線を辿る中、東アジア共和国が提案したS2型インフルエンザワクチンを開発したピアス感染症研究所については連合全体での管理下におくという案が妥協点ということで各国は合意し、フェブラリウスの統治権は東アジア共和国に委託された。

なんであれ予備のジェネシスを破壊した功績のある国の要求を全く通さなかったということは不味いと考えたために各国は内心で疑いながらも了承したのである。

 

 尚、地上の占領地については全てが元の国に返還されることで合意され、プラントに加担した大洋州連合には賠償金を請求することで各国は合意した。ただ、コロニーの統治権では他国に比べて大幅に少ない権益で満足した日本だったが、資源衛星の獲得には貪欲だった。日本はプラントに保有する資源コロニーの実に4割を獲得した。戦犯の裁判については国際軍事裁判所を設け、そこで裁くことが設定されたということだ。

 

 

 

 

 

「プラントの統治は10年ほどでいいだろう。我々にはプラントにかまっている余裕等ない。我々は新しい時代へと進むために忙しいんだ」

会議室の主、澤井は普段と同じ表情だ。そして彼は会議室を見渡し、最後に山場を終えて気が抜けている奈原たちに目をやった。澤井の視線を感じた奈原たちはすぐに気を引き締め、背筋を伸ばす。会議室の空気が張り詰めたものに戻ったことを確認した澤井は辰村に声をかける。

「辰村局長、東アジアによる今回のオーブ侵攻に関する報告が纏まったと聞く。報告してくれ」

「わかりました」

 

 手元の書類の束を持って辰村は起立する。

「今回の東アジア共和国によるオーブ侵攻――情報局並びに防衛省ではオーブ戦争と呼称しているこの戦争について、様々な角度から分析した結果について報告します。まず、開戦のきっかけについてですが、未だに東アジア共和国艦隊の駆逐艦『寧波』を撃沈した犯人の特定にはいたっておりません。現場は水深が深く、残骸の調査も難しいようです」

「オーブによる攻撃か、東アジア共和国による自作自演かの判断はいまだにできないということか?」

澤井が問いかける。

「物的証拠は全くありません。ですが、情報局では東アジア共和国が怪しいと踏んでいます」

澤井の眉が僅かに動く。

「……詳しく聞かせてくれ」

 

 辰村がコンソールを操作してメインスクリーンにある映像を映し出した。そこには政府や軍の施設に押し寄せる民衆の様子が映し出されている。

「大戦勃発以降、東アジア共和国軍は宇宙でも地球でも連戦連敗を重ねてきました。戦死者の数も50万人に及ぶとのことですが、これは人口の0.01%ほどにすぎませんから彼の国にとっては深刻な打撃というわけではありません。ですが、敗北続きで戦死者の数は鰻登り、しかも戦果は0ということになれば、当然不満は噴出します。無能な軍に、そしてそれを指揮する政府に対して民衆は不満を訴えていたのです」

ここで辰村は間を空けて出席者を見渡した。

「……しかし、そんな中で宇宙軍だけは対プラント戦で唯一活躍しました。ザフトの保有していた予備の大量破壊兵器を破壊した東アジア共和国宇宙軍はこの戦争で有数の武勲を挙げたといっても過言ではありません。独自の情報網でその大量破壊兵器の情報を掴んだのか、それともプラント側のリークがあったのかは判明していませんが。そしてこのことが今回のオーブ戦争の原因だと考えられます」

「……どういうことでしょうか?自国の戦果でしょうに」

奈原が疑問を口にする。

「東アジア共和国の陸・海・空・宇宙の4軍のうち、宇宙軍のみが華々しい活躍をしたとなると、活躍のない他の3軍は比較されます。地球の3軍は敵相手に死傷者を重ねて連戦連敗で戦果は0、それに対して宇宙軍は地球を救った英雄となりました。そして東アジア共和国の軍部は、民衆が宇宙軍を贔屓し、地上の3軍を無能の巣窟であると認識することを危惧したようです。もしもそうなれば、地上の3軍と宇宙軍の間で深刻な軋轢を生じる可能性は否めませんから」

 

 そこまで話すことで察しがついたのだろう。ここまで黙っていた千葉が自身の考えを述べた。

「……つまり、東アジア共和国の地上の3軍は、国民に活躍をアピールできる戦果を欲したということでしょうか?」

「はい。自分達の能力と戦果を示すことで彼らは国民の間にある地上3軍への不信感を払拭できます」

「しかし、何故オーブへと侵攻したのです?それならば補給もままならないカーペンタリアを攻略したほうがよかったのでは?」

辰村が手元の資料を捲って質問に答えようとするが、それを隣の席にいた吉岡が制する。

「軍事関連のこととなりますので、その質問には私がお答えしましょう。確かにカーペンタリアは弱体化し、攻略は容易のように見えます、しかし、カーペンタリアには水中用MSがあります。大西洋連邦はザフトの水中用MSに対抗できる機体を既にロールアウトさせ、ジブラルタル奪還に使用していますが、東アジア共和国にはそのような装備はありません。艦船が水中用MSに多数沈められた第一次カサブランカ沖海戦のころの大西洋連邦海軍にも劣る東アジア共和国の海軍力では確実にカーペンタリアを陥落できるとは思えません」

しかし、と吉岡は続ける。

「オーブはその点、確実に倒せる相手だと判断したのでしょう。確かに技術力は高く、東アジア共和国の兵器を質の面で上回る兵器を保有しています。しかし、その絶対数は多くありません。数倍の数で圧せば制圧は可能です。装備も戦前からあまり変わってはいません。MSは脅威ですが、陸戦用ですから戦い方次第ではどうにでも料理できます。これ以上恥の上塗りをすることはなんとしてでも避けたかったためにオーブを侵攻目標に選んだと防衛省は分析しました。」

「なるほど……オーブの方が勝率が高いと踏んだのにはそのような理由が。しかし、それだけではないかもしれませんな」

「……心当たりが他にあるのかね?千葉大臣」

澤井が訝しげに千葉に言った。

「ええ。民族感情も配慮してオーブ侵攻をしたということも考えられます」

千葉が続ける。

「過去の戦争での敗戦や外洋進出への妨害から、東アジア共和国は我が国を快く思っていません。そして内政で不満が高まるたびに歴代の東アジア共和国の指導者はナショナリズムモドキを掲げて我が国に対して不満を転嫁してきました。教育も基本は反日です。そのために東アジア共和国では我が国に対する印象はよくありません。そしてオーブの人口は8割が日系人です。無謀にも先に手をあげた憎き日本人の末裔をコテンパンにやっつけるという絵図は国民にとって非常に魅力的だったでしょう」

 

 澤井が不快そうな表情をする。自分達の怠慢から生じた軍と政府に対する国民の不満を外征で解消するというやり方は為政者である彼にとって到底許せないことなのだろう。

「……オーブについてはわかった。辰村局長、他に報告することはあるだろうか?」

「いえ……本日の報告はこれだけです。現在調査中の事項も多々ありますが、未だ調査中のことも多いですから」

辰村はそう言うと着席した。彼が着席するのを確認した澤井は席を立つ。突然席を立った澤井に会議室の視線が集中する。

 

「これで戦争は終わった。しかし、マスドライバーや軍港コロニーの復興、ネオフロンティア計画など、これからやるべきことは多岐に及ぶだろう。つまり、国益のために日夜戦う我々政治家にとっては終戦ではないということだ。我々はただ前のみを見据え、見えないゴール目指して走り続ける終わり無きリレーを続けなければならない。バトンを受け取る次のランナーが育つまでは、我々老人が頑張らなければならないな。これからもよろしく頼む」

 

そう言い残すと澤井は会議室をゆっくりと後にした。

 

 

 

 

 

 

 

C.E.71 10月27日 大日本帝国 宮城(ミヤギではない。キュウジョウ)

 

 

 

 戦争が終結してから一月以上が過ぎた。その間にも戦後のプラント処理の問題やオーブ戦争などがあり、世界は揺れ動き続けた。そしてそれがひと段落つき、世界が落ち着きを取り戻しつつあった。

それを見計らい、いとやんごとなきお方が国民にむけたおことばを述べられた。その様子は宮城から国営放送で全国に生放送された。

 

 

「朕はまず、此度の戦において喪われた数多くの臣民の命に対して哀悼の意を表し、一分間の黙祷を捧げたい」

正装を御召しになり、テレビカメラの前に凛々しいお姿でおいでになった主上は、最初に先の戦で喪われた臣民に黙祷を捧げられた。テレビを見ている人々も目を閉じ、静かに黙祷を捧げる。

 

 そして一分間の黙祷を終えた陛下は続けてこのようにおっしゃった。

「朕は臣民を守るべく臣と共に日夜努力してきた。残念ながらそれは実を結ぶことができず、我が国を突然襲撃したプラントなる組織と戦端を開くに至ったが、これは臣民の命をこれ以上喪わぬための決断であった。そして皇軍は地球を脅かす非人道的な兵器を撃ち滅ぼし、その手に勝利を掴み取った。これは偏に勤勉で職務に忠実な文官や軍人、そして大勢の民衆が一丸となって貢献したからにほかならぬ。だが、朕と臣たる澤井は常に平和な統治を求めて日夜努力しており、けっして武力を行使して人々が長く戦乱に苦しむような事態を望んではいるわけではなかった」

 

 主上は先ほどまでと異なり、臣民に語りかけられるかのような口調でおっしゃった。

「此度の戦に勝利して油断し、己の行動を省みず、驕り高ぶり怠ける考えが生じることが決してあってはならない。プラントを侮り、友好国の信用を失うようなこともあってはならない。すなわち、講和条約が発効した暁には友交関係を旧に復し、以前にもましてさらに厚く善い友好関係を結ぶことを決意せねばならない。朕は、臣民が朕の意志を実現してくれると信じている。朕は、国民の忠勇精誠に深く寄り頼み、国民の弛まぬ協力によって戦の無き平和な世が実現することを切に願うものである」

 

 

 主上が国民に語り掛ける形でおはなしを締め括られて玉音放送は幕を閉じた。そして臣民はまたいつもの日常に戻ることになる。彼らは皆、陛下のおことばを胸に刻んで日々を過ごすだろう。

 

 

 今ここに、大日本帝国の戦争が終わった。




日本の戦争は陛下のお言葉に始まって陛下のお言葉で終わりました。
本当はこの話は陛下の素晴らしき臣下達の会議で終わる予定だったのですが、何か物足りないと思い陛下のお言葉をいれました。
お言葉を入れて、なんかカチっとパズルが埋まった感じでしたね。


これで自分の中ではああ、この戦争が終わったんだなって実感が湧いてきました。

たぶん次回で最終回?なのかな?分量が予想より多かったり、ネタ増やしたくなったらもう1話ぐらい増えそうですが。
楽しみにしていただければ幸いです

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