機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU   作:後藤陸将

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過去最長の長さとなりました。
このままですと、最終決戦編の分量が全体の3分の1とかになりそうで怖いです。


PHASE-53 俺がいるから

大黒柱(メインブレドウィナ )に変化あり!!」

第一戦隊を護衛しているアークエンジェルの艦橋でチャンドラ伍長が声をあげた。

「正面のモニターに映せ!!」

黒木の指示で正面のモニターに望遠カメラで捉えた大黒柱(メインブレドウィナ )の映像が映し出される。大黒柱(メインブレドウィナ )が回頭し、そのアンテナのような面を第一戦隊の正面に向けようとしている。そして近くの衛星の影からは円錐のような形をして物体が出現し、大黒柱(メインブレドウィナ )の正面にその底面を向ける形を取ろうとしている。

黒木はザフトの思惑を瞬時に見抜いて素早く命令を飛ばす。

「トノムラ曹長!全部隊に通達してくれ!『目標は攻撃態勢に入りつつあり』だ!!」

「り、了解!!」

黒木は正面のモニターに映る大黒柱(メインブレドウィナ )を睨みつけた。

 

 ――事前に香月女史から聞いていたが、まさかここまで推測が当たるとは……

黒木は内心ここまで予測していた香月夕呼女史に感心していた。彼は作戦の立案中に軍がかの兵器について入手した全ての情報を携えて香月女史の元を訪ね、ガンマ線レーザー砲についての意見を伺っていたのだ。そして実際に彼女が存在を予見したような円錐型の1次反射ミラーが目標の前面に展開しつつある。女史の見解が正しければあの1次反射ミラーがパラボラアンテナ状の2次反射ミラーの正面に来ればいつでも発射が可能だという。

それまでに間に合うのだろうか。現在第一戦隊と目標との距離は15000。しかし防衛省特殊技術研究開発本部の試算では、デラック砲が確実に大黒柱(メインブレドウィナ )を撃ち抜くためには12000まで接近しなければならない。

敵に一次反射ミラーの設置を許せばその時点で作戦は失敗となる。だが、妨害に回せる戦力はこちらには既に無い。黒木は自身の席に備え付けられているモニターで戦場の様子を確認する。

蒼火竜(リオレウス)桜火竜(リオレイア)の2機に劾は梃子摺っており、同じ艦の艦載機と思われる蒼火竜(リオレウス)2機も『烈士』沙霧直哉中尉率いるガーディアン小隊の動きを拘束しているのだ。

先ほど補給と整備を終えて再出撃した大和曹長は第二航宙戦隊の艦載機を次々と撃破していたオレンジ色のパーソナルカラーを持つMSと交戦を始めている。頼みの綱の白銀中尉も前方の宙域で未だに天地無用の大舞踏会の最中だ。その時、篁中尉が交戦中だった桜火竜(リオレイア)2機を示す光点の一つが不意にモニターから姿を消した。同時にチャンドラ伍長が歓喜の声をあげる。

「篁中尉が桜火竜(リオレイア)を一機撃墜しました!!」

艦橋が一時歓声に沸く。これまで桜火竜(リオレイア)の撃墜記録は先ほど再出撃した大和曹長があげたものしかなかったが、遂に日本軍は2機目の撃墜に成功したのである。そして、吉報はこれだけに留まらない。未だ艦橋の熱気が収まらぬ中で更に嬉しい知らせが届く。

「……篁中尉が桜火竜(リオレイア)をもう一機撃墜しました!!」

その報告を受けた黒木は戦闘を開始してから初めてその顔に喜色を浮かべた。

 

 

 キラがアークエンジェルから再発艦したころ、唯依は2機の桜火竜(リオレイア)相手に互角の近接戦をしている真っ最中であった。

「何なんだこの連携は……」

唯依は敵の異常とも言える連携を前に攻めあぐねていた。正に阿吽の呼吸というべき連携で、片方は陽動、もう片方が本命となる一撃を叩き込んでくる。しかもその役割は一瞬で入れ替わり、見破ることは不可能だ。

「2人で1人の敵と戦っているようなものだ!」

攻撃に転じる隙も無く続く2機の連続攻撃で唯依の体力も削られていた。未だ限界ではないが、このままの攻撃が続けば先に息切れして動きが鈍くなるのは唯依の方である。そう彼女は確信していた。

ビーム砲による攻撃を専ら陽動や牽制に使ってくるために唯依はそれらを機体を僅かながらに動かすことで回避していた。別に攻撃が当たったところで損傷はないだろうが、ここで敵機が接近戦による連携攻撃を選べば現在の状況よりも確実に状況は悪化すると唯依は判断していたのである。

既に彼女は一度接近戦での連携攻撃は経験しており、その恐怖は肌で感じていた。その時は背部の則宗を引き抜き大立ち回りを演じ、敵機の内の片方の機体の左足の切断に成功していた。フェイズシフト装甲に覆われていない関節部であれば実体剣でも切り払えるとはいえ、あれは常に生死の境にいるような極限状況下での偶然による一撃であり、少しでも運命が変わっていれば今以上に体力を消費して苦戦を強いられていた可能性も高い。

機体自体の性能差をその時に敵機側も見抜いたのか、同じような徹を踏まない策にしてくれたのは彼女にとって嬉しい誤算ではあったが、これでは埒があかない。第一戦隊の護衛をしているMS隊からの応援要請や黒木中佐からの支援要請をメインモニターで確認した唯依は状況の悪化を感じていたのである。

自身の役割は日本という国を守る防人であること。皇国の興廃がかかった一戦で出し惜しみをしていられる状況ではない。――機体受領時に防衛省特殊技術研究開発本部で香月博士から、作戦開始前のブリーフィングで黒木中佐から軽率な使用は控えるように警告されていたが、状況は切迫している。唯依は奥の手を使うことを決意した。

 

「こちら白い牙(ホワイトファング)01、霧島応答願います」

唯依は最も近辺にあった味方艦の霧島に回線を繋ぐ。間をおかず相手口には若い男がでた。

「こちら霧島、どうぞ」

「貴艦に支援砲撃要請をする!ポイントを今からそちらに送るので、50秒後に指定のポイントに主砲を向けて欲しい!」

その支援砲撃要請に霧島の艦橋要員は目を丸くする。

「無茶を言うな!!こちらも敵MSの牽制のために主砲使っているんだ!!そちらの支援砲撃に答えるだけの余裕はないぞ!!」

砲術長が必死な形相で言った。現在彼らは第一戦隊に取り付こうとするMS隊を阻止すべく、持ちうる全ての火器を迎撃に当てている。既に対空機銃の3分の1が沈黙しており、対空迎撃ミサイルの残弾数も底が見えている状態で主砲まで支援に回す余裕などない。むしろこちらがMSの支援を必要としているほどである。

「……こちら霧島艦長の小金井大佐だ。支援砲撃の要請仕った。砲術長、第3砲塔左旋回、指定ポイントに照準あわせ」

「艦長!!」

艦長の決断に砲術長が異議を唱える。しかし、小金井は自身の決断を覆そうとはしない。

「砲術長、何も彼女は我が身可愛さでこのような要請をするようなパイロットではない。支援砲撃要請をするからには必ずなにかそれなりの事情がある」

小金井の言葉に砲術長は閉口する。

「それにな、かの麗しい山吹の姫武将からのお誘いを我が身の忙しさで棒に振ったなんて話が外に洩れてみろ。他の艦からの嫉妬の嵐でこの艦が沈むぞ」

小金井がニヒルに笑いながら冗談を飛ばす。心なしか艦橋のモニターに映る唯依の顔も赤い。砲術長はやれやれと言いたそうな表情でインカムを手にする。

「第3砲塔左60°旋回、射角上方23°。目標ポイントに照準あわせ50秒後に斉射に移る」

霧島の後部甲板に鎮座する第3砲塔が旋回し、そこに生えた鋼鉄の双牙を火線飛び交う戦場に向けた。

 

 未知の新型MS(アンノウン)に入れ替わり立ち替わり攻撃を加える2機のジャスティスの内、損傷の無い機体を操縦しているパイロット――コードネーム02、デジク・ビャーチェノワはこちらに砲門を向ける戦艦の姿に気がついていた。だが、同時に脅威となる可能性は低いと判断した。

艦砲射撃でこちらの機体を撃破するほどの精度はまず期待できないと考えたのである。思考波で同時にそれを僚機のパイロット――コードネーム03、ツィガン・ビャーチェノワに通達し、艦砲射撃を避ける際に敵機に牽制射撃を行い僚機をカバーできるように備えた。

その時、敵機が動く。両腕部のユニットからビームサーベルを展開し、2刀流でツィガン機に斬りかかった。ツィガンのジャスティスもラケルタビームサーベルを両手に持ってこれを迎え撃つ。おそらく、敵機は左足を損傷して機動に難を抱えるツィガン機に接近戦を仕掛けることでその動きを拘束し、艦砲射撃で狙い撃たせる算段であるとデジクは判断する。

砲身が動き、その砲口に光が灯る。それを目にしたデジクは砲身の向いている方向からツィガン機が標的であることを確認し、救援すべくビームライフルによる牽制射撃を無防備な敵機の背面にお見舞いする。

その対処のために噴射ユニットの推力の差を持って強引に前に出てビームを回避しようとする動きを瞬時に僚機からの思考波で把握し、鍔迫り合いをしていたツィガン機は背部のファトゥム00を切り離し、小旋回させて敵機の下部から突撃させた。

同時にビームサーベルを消滅させたジャスティスは両腕部を敵機のビームサーベルによって斬りつけられ、装甲を破損すし、突然の襲撃と目の前の敵のビームサーベルの消滅に敵機は怯む。

そして戦艦の砲口から光芒が放たれ、先ほどまでツィガン機がいたはずの宙域に押し込まれた形となった敵機はその光芒の直撃を受ける。戦艦の主砲の直撃を受けた敵機を凄まじい閃光が覆った。

目標の無力化を確信したデジクはそのまま機体を先ほどの砲撃を行った戦艦の方角に向ける。次の目標はナガト・タイプの無力化だが、そうなるとナガト・タイプを守っているあの戦艦群は邪魔である。まず、この一角からその迎撃網を突破する。そのように判断したときであった。ツィガンからの思考波で体が勝手に臨戦態勢に入る。

周囲を警戒しようとメインカメラを動かしたとき、彼女の機体は不可避の距離から発せられた金色の光芒をその眼に捉えた。一瞬の内に彼女の機体は光芒に飲み込まれ、彼女の体も不思議な感覚に包まれる。最後まで何が起こったのかを理解できずに、彼女は銀河の大海に散った。

 

 その瞬間を僚機のツィガンははっきりと目撃していた。艦砲射撃の直撃を受けた敵機はその光芒が止んだとき確かにそこにいた。装甲には傷一つ見当たらない。同時に思考波でデジクに危険を知らせようとする。しかし、思考波を受信したデジクの対処は間に合わなかった。

思考波による通達は通信を介すよりも早く情報を通達することができるが、情報の受信側に送られてくる情報について意識を持っていなければ正確な情報を通達することができない。今回、デジクはあの艦砲射撃を受けてなお反撃に出てくる敵機の姿のイメージが彼女の頭の中には一片も存在していなかったために受け取ったイメージに対する対処が遅れ、警戒のイメージは受け取ったものの、“何を”警戒するかを瞬時に判断できなかったのである。

そして、デジクのジャスティスを葬った敵機は再度両手にビームサーベルを展開し、ジャスティスに斬りかかった。ツィガンもラケルタを振るって応戦するも、純粋な近接戦闘の技量で敵パイロットに劣っているツィガンは当然のことながら苦戦を強いられる。

そして、幾合と打ち合っている中でツィガンの機体に破局が訪れた。突如左腕がコントロール不能となり、左腕に握られていたラケルタは振るった時に生じた慣性の力で明後日の方向に吹っ飛んでいく。

ツィガンがモニターを確認すると、そこには左腕駆動系統の損傷を報告する赤色の警告ウィンドウが出ている。おそらく、先ほどビームサーベルで斬りつけられて装甲を損傷した際に内部の駆動系の部品にも浅く傷が付けられていたのであろう。激しく両腕のビームサーベルを打ち合っている中で駆動系統に負荷がかかり、浅く傷が付けられていたところから損傷したというところだろう。

 

 ツィガンが全く動じることなく冷静に機体の分析をしている間にも不知火の刃はジャスティスに迫っていた。そして、ビームサーベルの刺突が正確にジャスティスの胸部を穿った。

自身に高熱の刃が接近する中でも最後の一瞬まで全く動揺や恐怖といった感情を見せずにツィガンは蒸発した。

 

 

 

 山吹の不知火のコックピットの中で、唯依は肩で息をしながらも安堵の笑みを浮かべていた。おそらく、乗機がこの不知火でなかったならばもっと梃子摺ったであろうことと彼女は判断していた。

唯依の取った戦略は単純なものだ。彼女は敢えて戦艦の艦砲射撃に不知火を曝すことでエネルギー収束火線砲からエネルギーを吸収し、プラズマ・グレネイドを発射したのだ。彼女の乗機である不知火にはダイヤモンドコーティングが全面の装甲に施されており、ビーム攻撃を受けるとそのエネルギーを吸収しプラズマエネルギーに変換することができる。

そしてそのプラズマエネルギーを収束して撃ちだすプラズマ・グレネイドと呼ばれる最強の兵器が不知火の背部に備え付けられているのだ。しかし、プラズマ・グレネイドは一発撃つたびに砲門が高熱になるため、廃熱が完了するまでは第2射が撃てないという欠点がある。

唯依は霧島の艦砲射撃を不知火のダイヤモンドコーティングで受け止めてプラズマ・グレネイドの発射エネルギーを溜め、油断している敵機にプラズマ・グレネイドを叩き込んだのだ。彼女がそれまでビーム攻撃を敢えて避け続けてきたのはこの攻撃のための布石と、敵機にこちらの装甲の性能を秘匿するという二つの意味合いがあったのである。元々プラズマ・グレネイドを一射撃つにはかなりのエネルギーを溜め込む必要があり、そのエネルギーが溜まるまで効かないと分かってビーム攻撃を敵機が続けてくれるとも思えなかった。

その時唯依は霧島から通信が入っていることに気づき、慌てて応答する。安堵感から緊張が解け、見落としていたらしい。

「篁中尉、大金星おめでとう。だが、祝福をしようにもこちらは手一杯なんだ。敵MSの掃討に力を貸して欲しい」

「……了解、これより霧島周辺の敵機を掃討します」

 

 山吹の姫武将の戦いは未だ終わっていない。

 

 

 

 

複製人間(クローン)……だと!?」

武は眉を顰める。彼の脳裏を掠めたのは人工授精で大量に出産(生産)されたESP発現体の存在だった。目の前の人物はなんらかの目的で大量に生み出された存在なのかと考える。しかし、彼の思考はクルーゼの独白で否定される。

「私は別に昔のSF作品にあるような人間兵器として大量生産された複製人間(クローン)だとか、大昔の英雄を復活させるべく彼らの遺伝子から生み出された複製人間(クローン)ではない。至って平凡――というまでではない、まぁ、莫大な財を生み出すほどには優秀な人物の複製人間(クローン)さ」

「てめぇのようなイカレタ人間のオリジナル(本物)ださぞかしイカレタやつだったんだろうなぁ!!」

武の皮肉にクルーゼは気にした様子も無く寧ろ愉快だと言わんばかりに高笑いする。

「ははははは!!なるほど、それは正解だよ。私は狂っている自覚があるが、確かに私のオリジナル(本物)も傍目から狂った存在だった」

「そんな狂ったやつがこの世に二人もいるとはなぁ!!末恐ろしいなおい!!」

武は若干冷や汗をかいている。

「安心したまえ、私のオリジナル(本物)は既に私が殺害している」

「……よくあるアイデンティティーがってやつか?オリジナル(本物)殺せば自分がオリジナル(本物)だって証明できるって」

武の推測をクルーゼは一笑に付す。

「ふん、私のアイデンティティー?私は人類の業そのものだ!!私は自身の財閥の後継者として自分自身を複製(クローニング)した愚か者!!それが私のオリジナル(本物)さ!!」

 

 クルーゼはプロヴィデンスのシールドを構え、不知火のビームサーベルによる刺突を受け流す。同時にシールド内のビームサーベルを展開すると、返す刀で不知火に斬りかえした。しかし、不知火もバックステップを思わせるような小刻みな軌道でプロヴィデンスの薙ぎを回避し、後方に回り込んでいたドラグーンによる攻撃を回避する。

「人の欲望が私をつくった!禁忌を恐れぬ愚かな科学が私を生み出した!故に私は私を生んだこの世界を憎む!そしてこの世界は正しく破滅の道にむかうのだ!!」

「お前をここで倒してあの馬鹿でかいアンテナさえぶっ壊せばいいんだろ!?やってやるさ!!人類を滅ぼさせてやる筋合いはねぇよからな!!」

武の不知火は両腕部からのビームでドラグーンに回避行動を取らせ、その隙にライフルを構えなおした。

「ふん、私を倒しても第二、第三の私が何れ人類を棺桶に引きずり込むだろう!人類の欲望と業の根は地球上の如何なる雑草の根よりも深い!!」

「お前はどこのRPGの大魔王だよ!!」

あんなイカレタ変態仮面が何人もいたらそれこそ災害である。

「ふん、誰がオリジナル(本物)が造りだした複製人間(クローン)が“私だけ”だと言った!?」

その言葉に武は驚愕するが、それ以上に納得する。確かに複製人間(クローン)が彼だけだと断定する根拠なんてない。

「人類が人類であるかぎり私のような存在が消え去ることは無い!!人類の滅びは確定された未来なのさ!!」

クルーゼは高らかに宣言する。彼の感情の高鳴りに影響されたかのようにドラグーンもより鋭角的に、キレのある動きで飛翔する。

「人類は滅ぶ!!滅ぶべくしてな!!」

 

 錐揉みするような軌道を描きながら不知火はプロヴィデンスに迫る。より動きにキレがでてきたドラグーンから放たれる幾条もの光の雨を潜り抜ける不知火のコックピットの中で武はただ前だけを見据えていた。倒すべき敵は目の前にいる。二度と敵から、現実から、戦場から目を逸らさないと彼は誓っていた。

「……守るんだ!!地球に住む人々を!思い出を!愛しい(女性)を!」

武は脳裏に蒼き故郷(ふるさと)を浮かべる。母なる星を、そこに住む命を守る力、地球を救える力が今の自分にはある。

「人類は負けない!!絶対に負けない!!」

突進する不知火を迎え撃つべくドラグーンを前方に展開し、ライフルも併せて前面からの集中砲火を浴びせようとするプロヴィデンスをその眼に捉えるが、武は不知火の軌道を変えようとはしない。

「何故人類は負けないと言える!?これほどの業を重ね、自滅しつつある人類を何故信じる!?何故滅亡に打ち勝てると言えるのだ!?」

クルーゼはドラグーンとライフルから一斉にビームを発射する。計14門の砲口から放たれたビームは不知火に吸い込まれていく。

「……がいるから」

武は避けられるはずの攻撃を避けるそぶりも見せず、不知火をただまっすぐに進ませた。当然のごとくビームは全て不知火に突き刺さった。

その瞬間、クルーゼは自身の勝利を確信した。しかし、不知火の装甲は畳み掛けるように浴びせられた幾条もの光条を全てその銀色に輝く装甲で受け止めた。驚愕の表情を浮かべるクルーゼ。そして遮るものがいなくなった不知火はそのまま腕部からビームサーベルを展開し、プロヴィデンスに擦れ違いざまに斬りつけた。そして武はプロヴィデンスの右腕を肩口から切り飛ばす。

プロヴィデンスの脇を抜けた武はすばやく残心をとり、プロヴィデンスに再度正面から相対する。先ほどの攻撃はプロヴィデンスに傷をつけさえしたが、撃墜するまでには至っていないと武は判断していた。

未だ驚愕の表情をしているクルーゼを前に武は得意げな笑みをしながら言い放った。

 

「人類は負けないさ……俺がいるからな!!」

 

 

 

 

 

 

 

形式番号 XFJ-Type4

正式名称 試製四式戦術空間戦闘機『不知火』

配備年数 C.E.71

設計   大日本帝国防衛省特殊技術研究開発本部

機体全高 19.7m

使用武装 71式支援突撃砲

     特71式近接戦闘長刀『則宗』

     71式攻盾ユニット

     背部格納型プラズマビーム砲『プラズマ・グレネイド』

     肩部搭載型ミサイルユニット

 

備考:Muv-Luvシリーズに登場する94式戦術歩行戦闘機『不知火』そのもの。

   ただし、脹脛の部分にスラスターを内蔵している。

   原作では短刀を収納していたナイフシースに代わり、三式機龍の4式レールガンユニットのレールガンをビームに換装、レールガンユニットのメーサーブレードをビームサーベルに換装した『71式攻盾ユニット』が装着されている。

 

 

安土攻防戦にて白鷺を凌駕する性能を見せつけたザフトの新型MS、ジャスティスとフリーダムの存在は日本の軍部にとって大きな脅威として移った。

来るべき反攻作戦においてこの2機に対抗できる機体が無ければ甚大な損害が発生することを危惧した防衛省は、この2機の性能を上回る機体の開発を行うこととなった。(この開発の提言にはフリーダム、ジャスティスの両機を核エネルギー搭載型MSであると見破った香月博士が深く関わっているという噂もある)

反攻作戦の実行が閣議で決定された直後から特殊技術研究開発本部が総力をあげて開発を進めていたが、反攻作戦の予定が3カ国会談で決まったこともあり、開発が中盤に差し掛かった頃にロールアウトまでの期限が設けられてしまった。

後付で期限を設定されたため、現状の開発計画では作戦開始までに要求された中隊規模の戦力を揃えることは困難であることは明白だった。この時開発主任も兼任していた香月博士はこのことに一時は激怒して防衛省に駆け込みかねない勢いであったが、縁が深いとあるエースパイロットの助言を得て、発想を転換することでこの問題を解決した。

曰く、『小隊規模の核エネルギー搭載型MSを単機で撃墜できるMSを3機作ればいいんじゃない』とのことである。元々無理を言っていることは防衛省側も理解しており、少々後ろめたいものもあったために無理を通して戦力が揃わないよりは彼女の提言を受け入れるべきと考え、これを了承した。その時にちゃっかり香月博士は莫大な研究開発費を榊大蔵大臣から分捕ることに成功している。

つまりは、予算度外視で『科学者(へんたい)がかんがえたさいきょうのきたい』を開発する許可が与えられたということと同義である。もちろん、特殊技術研究開発本部(ヨコハマ)科学者(へんたい)たちが身震いしないわけが無い。彼らは自重と睡眠時間と理性をなくしたまま開発に没頭したという。一部の科学者はこの夢のような開発プランを実現させた香月博士を女神として慕っていたそうな。本人も開発に並々ならぬ熱意を持って臨んでおり、一号機ロールアウトの後に行われた性能試験で白鷺を圧倒し、出席した軍の高官が唖然とする中で『私は聖母になったのよ!!』とハイなテンションで叫んでいたそうな。

しかし、やはり時間に限りがあったため、結局ロールアウトが間に合ったのは2機だけであった。

 

装甲は日本の最新鋭戦艦である長門型戦艦の装甲にも使用された超耐熱合金TA32を惜しみなく使用した。これは特殊チタン合金と耐熱セラミックタイルを複合して使用していた従来の戦艦の装甲の2倍以上の物理的な強度、数倍の対ビーム防御力を誇る。更に表面に開発されたばかりのダイヤモンド・コーティング技術を施したため、全身がパールホワイトという非常にめだつ容姿となった。

全身のダイヤモンド・コーティングはビーム攻撃をプラズマエネルギーに変換する作用を持ち、エネルギー収縮火線砲の直撃やプラズマ収束ビーム砲の直撃にも焦げ一つなく耐えることができる。実弾防御に関しても化け物くさい防御力を誇っており、88mm電磁砲の直撃を受けても耐え切るほど。しかし、直撃の衝撃までは緩和できるわけではないため、幾度も連続して直撃を受ければ内部機構を損傷する可能性はある。

装甲のダイヤモンド・コーティングで吸収したエネルギーは収束・増幅して肩部から展開される超兵器『プラズマ・グレネイド』から発射される。一度使用すれば10分は冷却のために再発射は不能になるが、その威力は絶大で、ラミネート装甲でもフェイズシフト装甲でも貫通可能である。性能比較試験では長門型戦艦の主砲である245cmエネルギー収束火線連装砲と同等の破壊力を見せつけた。

背部に搭載している専用武装、『則宗』は宇宙軍技術廠第一開発局の巌谷中佐が鍛造したという特別製の長刀である。その鍛造には巌谷中佐がグレイブヤードから招聘した蘊・奥という老人が関わったらしい。その刀身には特殊技術研究開発本部がMS武装用に開発した特殊合金を用いていたためにその切れ味は凄まじいの一言。これも表面にダイヤモンドコーティングを施しているためにビーム攻撃は通用しない。

しかし、最大の特徴はその機動力にある。これまでに培ったエンジン技術の粋を凝らした製造された不知火専用噴射ユニット『松風』の出力は最大で白鷺の2倍という凄まじいものとなった。また、その凄まじい推力を制御するために機体を制御するOSを搭載するCPUも特殊技術研究開発本部(ヨコハマ)の魔女謹製の一品である。

量子コンピューターへのハッキングシステムを持つ機体の存在が情報局の諜報活動によって明らかになったこともあり、不知火には最先端のハッキング対策も取り入れられている。ハッキングの媒介となるミラージュコロイド粒子による干渉を防ぐべく、電子部品らに関しては香月夕呼博士が開発した思考波通信素子のスピンオフ技術によって作り出された特殊素子を電子部品に装備することで外部からのハッキングを阻止する機能を搭載している。

頭部に搭載された各種センサーもこれまでのものとは一線を画すものが使用されている。

当初は無尽蔵のエネルギーを得るためレーザー核融合炉の搭載が考えられていたが、香月博士にその計画は一蹴された。元々大規模火力は外からのビーム攻撃のカウンターとなるプラズマ・グレネイドしか備えておらず、フェイズシフト装甲も採用していないためにそれほど電力を消費することは無いと想定されていたことと、レーザー核融合炉の安全性に疑問符がついていたことがその理由である。

 

各部のスラスター配置もこれまでの機体で得られた運用データを参考にしているため、AMBAC制御と同時に攻撃オプションを選択できるように最大限の工夫が凝らされている。

整備班をその整備性の悪さで泣かせ、榊大蔵大臣をその調達費用で泣かせ、特殊技術研究開発本部(ヨコハマ)科学者(へんたい)をそのロマンで泣かせた機体である。

尚、製作された2機の内、二号機はパイロットの希望でダイヤモンドコーティングの際に山吹色に近い黄色の塗装がなされた。




唯依姫大活躍!!
そしてようやく出せたプラズマ・グレネイド。
連射できるとパワーバランス的にやばいんで枷は付けましたが、十分チートですなぁ……
後、ビャーチェノワ姉妹の名前はソ連の宇宙犬からとりました。

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