機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU   作:後藤陸将

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PHASE-0 日出づる国

  時は西暦1945年、4年に渡った太平洋戦争は集結した。

 

 『日米講和』という幕引きであった。

 

 1941年のフィリピン沖での武力衝突をきっかけに勃発した太平洋戦争であったが、守勢にまわった日本海軍は来寇した米機動艦隊にかなりの打撃を与えていた。

 特に1944年初頭のマリアナ沖海戦で米海軍の主力艦隊に大損害を与えて撃退したこと、ヨーロッパ戦線においてドイツ軍の驚異的な進撃をみせたことでアメリカも切羽詰っていた。

 さらに、新聞社に日米開戦をあおり、多くの人命と兵器の損耗による特需を見込んでいた企業とホワイトハウスの癒着がすっぱ抜かれ、アメリカは戦える状況になかったのだ。

 

 後の歴史家はこの事を日本の事実上の勝利と呼ぶ。

 日米の国力からすれば当然だろう。

 

 そして世界は喉元に核を突き付けられた冷戦に突入した。

 日本はアメリカ、イギリス、フランス、ソ連と共に新たに組織された国際連合の安全保障理事会の常任理事国になり、朝鮮戦争では国連軍として参戦し、補給基地として大きな役割を果たした。

 

  この頃には日米は資本主義陣営の2強として強固な関係を結んでおり、世界経済も日米を中心に動くようになっていた。

 日本国内でも憲法改正によって軍の暴走を抑えれるように軍の編成などに内閣が天皇を輔弼する形で深く関われる制度が作られる一方で、日本の海外の植民地を独立させる等の変化が見られていた。

 

 そして20世紀末の冷戦崩壊後、各国は軍縮を始めたために世界は平穏を向かえていた。

 

 しかしながら、この平穏は22XX年に崩れさった。

 エネルギー、資源が枯渇し、各国が残った資源を求めたために第三次世界大戦―再構築戦争が始まったのである。

 

  この戦争で日本は第二次世界大戦後に敵対勢力となった中華人民共和国の海軍戦力を早期に駆逐し序盤から極東での制海権を確保し、国土の防衛にいち早く成功していた。

 終戦時にはアジアのほとんどの国が疲弊し東アジア共和国に編入されていく中で、ほとんどの国力を温存できたために独立国として戦後の列強国に名を連ねることができたのである。

 

 なお、第二次大戦後に移民が増加していたソロモン諸島近海では、この世界大戦のどさくさで各国が介入できないタイミングを狙いオーブ連合首長国が誕生していた。

 オーブは日系の移民が中心となった国家のため、日本との関係は良好だった。

 

 C.E.に入ると日本は世界初の本格的宇宙巡洋艦『咸臨丸』の建造や種子島のマスドライバー『息吹』を竣工させる等、宇宙開発を積極的に進めた。

 L4には日本の工業用コロニーと農業用コロニーが作られた。一方で宇宙でも新鮮な魚を求めて水産物生産のためにコロニーを一基建造するなど、日本人のどこかおかしい面も全開で発揮されていたのだが。

 

 地上においても再構築戦争終了後も続く化石燃料の枯渇によるエネルギー危機を海草を培養して得られたバイオエタノールを利用した火力発電の推進で国内の電力需要を賄うことで解決した。

 

 しかし、日本は後に『PLANT』と呼ばれるL5コロニー郡にはあまり投資していない。

 これは砂時計の底面の部分しか居住できないという非効率的なコロニーの構造を疑問視する声が多数だったからである。 

 限られた狭い国土に二億近い人口が住んでいるために、いくらあの『ジョージ・グレン』の開発したコロニーという宣伝文句がついても、やはりデッドスペースを作ることに忌避感を持つ体質が他の国よりも遥かに強かったのだ。

 普段ピーチクパーチクうるさい無責任なマスゴミもこれを煽った。

 

 故に日本の宇宙での拠点はL4コロニー郡のみとなった。

 これほどの発展を成し遂げられたのは偏に勤勉な国民性と技術者達の汗と涙のおかげである。

 

 ……まぁ、よく言われる変態性も無視できない。(イギリスの兵器に見られる使用時の事を考えない変態性ではなく、ロマンと技術の極みに猪突猛進し不可能を可能にする変態性であることを日夜戦う技術者の名誉のために追記しておく)

 

 ジョージ・グレンの告白の後、世界ではコーディネーターの誕生が相次いでいたが、日本国内でそのような風潮が出てこなかった。

 日本ではいつものように動きが鈍い行政の法整備に時間がかかり、遺伝子の改変という倫理に関わる問題に直ぐに結論を出せずに迷走する様は何世紀たっても変わらない日本人の特性だったのだろうか?

 

 結局は議会も決断を下せず、やんごとなきお方の御聖断を仰ぐ事態となった。そして、陛下のお言葉がこの後の日本を変えた。

 

「朕思うに、遺伝子の改変というものには少なからず危険性がついて回るものである。過去に遺伝子組み換え食品が世に誕生したときも安全性が完全に立証されるまでに数十年の歳月を要した。人の遺伝子の改変という技術が世に出てから10年もたたぬうちに安全性を認めることは時期尚早ではないか」

 

 コーディネーターの可能性と倫理的嫌悪感を叫び割れていた世論も熱が冷め、日本で遺伝子改変技術に対する関心も下火になっていった。

 

 C.E.50年代に入り、S2型インフルエンザの流行、ナチュラルとコーディネーターの間で生じる摩擦が切欠となり世界中にコーディネーター排斥運動が広まっていた。

 プラントの存在するL5でもプラント理事国とプラントの対立も深まり、大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア共和国の合同軍が駐留するほど鮮明化していた。

 

 一方で、そもそも国内にコーディネーターのほとんどいない日本ではコーディネーターに対して無関心なものが大半であった。

 加えてL4コロニーで生産される食料の主要な取引相手ではあったがプラントにも積極的に出資していたわけでもないために、権益の維持に拘る理事国の反コーディネーター、反プラント運動に関しても世間一般の反応は薄かった。

 

 理事国とプラントの対立は深まるばかりで、C.E.69にはついに武力衝突が勃発した。この時の戦いでMSは駐留軍のMAを翻弄し鮮烈なデビューを飾った。

 戦争回避にむけた外交もなされていた。しかし翌年に国連事務総長の呼びかけで計画された調停の場はテロの標的となり、結果的には国連の崩壊を招き地球連合の成立とプラントとの戦争の戦端を作ることとなった。

 

 そして地球連合軍によって実に70年ぶりに核兵器が実戦に投入された。標的となったのはプラントの食糧生産コロニー郡、ユニウス市であった。地球連合軍はプラントの食糧庫を核の炎で焼き払うことで食糧事情を悪化させ、早期に降伏を強いることを考えていたのである。

 アガメムノン級宇宙母艦『ルーズベルト』から発進したTS―MA2『メビウス』1個中隊『ガーディアンズ』が放った核ミサイルは12発。内5発はザフトの奮戦で迎撃されるも、残りの7発は目標に命中した。食糧生産コロニーに改装されていたユニウス市の7から10区のうち9、10区は各3発のミサイルが命中し完全に崩壊、一発のミサイルが至近距離で炸裂した7区も半壊した。

 

 唯一無傷で残ったユニウス8だけでは到底プラントの食糧需要を満たすこと等不可能である。戦争継続の危機に瀕したプラントは中立国からの大規模な食糧輸入を決定する。

 この食糧の輸入は対戦勃発後しばらくの間プラントの財政を圧迫する原因となった。そして食糧不足の解消を狙ったザフトは3月には地球降下作戦を実施することを強いられたのであった。

 地球上の一大食糧生産地帯でもある大洋州連合の領土内に地上での拠点を得ることに成功したザフトは、食糧事情の改善に成功。憂いの無くなったザフトは快進撃を続けた。

 

 

 開戦から一年ほどが過ぎ、いまだに地球連合は防戦一方であった。宇宙では地球連合は『世界樹』を失い、東アジア共和国の資源衛星『新星』の放棄も強いられた。

 侵攻は地上にまで広がっている。ジブラルタルは奪われ、アフリカ北岸と地中海はザフトの勢力圏となった。カーペンタリアを橋頭堡に東アジア共和国にも侵攻し、同国の分晶宇宙港の目前まで迫られていた。

 

 これが現在の――C.E.70 12月の戦況だった。


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