機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU   作:後藤陸将

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ようやく収容所から脱出できました。いや~16日間は長かった。



PHASE-51 十人十色の戦場

 閃光飛び交う宇宙で二人のエースパイロットは交信していた。無論、操縦に手を抜くことは無い。お互いに命のやり取りをしながら言葉のやり取りをしているのだ。

「実に面白いよ、君は!!」

クルーゼが仮面の奥で笑う。

「男に興味もたれても嬉しくねぇぞ!!」

反面、武は心底嫌そうな顔だ。妻子持ちの身でありながら男に興味をもたれるなんぞ彼は御免であった。

「それで、何の用だよ変態仮面!!殺し合いながら話すことでもあるのか!?」

「そうつれないことを言わないでくれ。私達が話し合える機会は二度と来ないんだ。どちらかが死ぬ前に一度くらいは話しておくべきだと思ったのだよ」

「告白じゃねぇだろうな!?」

武は嫌悪感を隠さずにモニターに映る仮面の男を睨みつけた。同時に機体は両手のライフルから薙ぐような軌道でドラグーンを掃射する。しかし、クルーゼもおしゃべりでドラグーンの操作をおろそかにすることはしない。軽やかな動きで回避させる。

 

「君は何故戦う?」

クルーゼは問いかける。

「何のために戦うというのだ!?」

いきなりの問いかけに武は眉を顰める。

「地球の命運がかかってるからだよ!!わかったらそこをどけ変態仮面!!」

「……初対面の人に変態仮面と連呼するのは如何なものかと思うのだが」

変態仮面と連呼されたのは流石に不愉快だったらしい。ここで初めてそのことについてクルーゼは苦言を呈した。しかし、武はそのことを気遣うこともなかった。

「それがいやならミステリアスな仮面かぶって紫の趣味悪いパイロットスーツ着てんじゃねぇよ!!鏡みてから来い!!」

武の口調も荒くなる。守るべきもののために、この勝負に早くケリがつけたいのだ。その心情を察したクルーゼはその心情を煽ることを考えた。おそらく、彼は未だ余力を残しているだろう。もしも、彼を必死にさせることができたなら、どれほど自分を楽しませてくれるのか、その興味がクルーゼを突き動かす。

「私のセンスを否定されるのは心外だが……まぁいい。そうだな、次は私の戦う理由を教えてあげようか」

「誰も聞いてねぇから!!さっさと失せろよ変態仮面!!」

一方通行の会話に武はストレスを溜めていく。だが、クルーゼは話を止めようとしない。そのストレスからか、武は一気にプロヴィデンスの懐に飛び込んだ。

「私はね、人類の滅亡のために闘っているのだよ!!」

その言葉に武の意識は引き付けられる。

「地球に向けて放たれたガンマ線は地球上の7割以上の生命を死滅させる!そうなれば地球圏に生ける人類は滅びに直面するだろう!」

「てめぇ!プラントを勝たせるためにそこまでやるのかよ!!」

無差別大量破壊行為を宣言したクルーゼを武は睨みつける。だが、クルーゼはその愉悦を思わせる笑みを浮かべたままだ。

「違うな!地球が滅びれば当然君たち連合軍は憎悪に囚われてプラントを襲うだろう!そしてプラントも崩壊し、人類は滅びを迎える!!」

「それを聞いて俺達がお前の思惑に乗るわけがないだろうが!!」

武の駆る不知火は彼の怒りが乗り移ったかのような熾烈な斬撃を叩きつけるが、プロヴィデンスはシールドでそれを防御する。そしてコックピットの中でクルーゼは蔑むような表情でモニターを見つめた。

「どうかな!!自身の守りたいものを奪われたとき、人が常に理性的に考えられるとは思えんよ!!それほど人類は知性的な生物ではないからな!!」

その返しに武も詰まる。

実際、あの世界では人類は滅亡の淵にあってなお国同士の利権争い、思想の違いなどから対立から力を合わせることができなかったのだから。

実際に地球が滅ぼされたら復讐に走らないものがどれだけいるだろうか、愛するものを殺されても尚人類の滅亡を防ぐために復讐の刃を捨てることができるものがどれだけいるだろうか。

 

「人類を滅ぼすなんて神をきどったつもりか!?」

武の不知火はブースターを噴射することで機体を縦軸に半回転させ、機体の爪先をプロヴィデンスの肩部に叩き込んだ。その衝撃でプロヴィデンスは後方に吹き飛ばされる。

「私は神などという上等なものではないさ……そもそも、人が神を気取るなど、おこがましいことだとは思わないのかね?」

後方に吹き飛ばされたプロヴィデンスは後退しながら不知火に牽制射撃を放つ。

「そうさ、私が裁くのではない……神への道を一歩、歩みだしたときから繰り返してきた過ちの末に!人類は!自らの業によって自滅するのだよ!!」

「滅びることが運命だというのか!?」

武の言葉にクルーゼはさらに声高に叫んだ。

「そうさ……人類が数多持つ予言の日だ!!」

武はドラグーンから放たれる牽制射撃を受けて後退する。

「だが、人類には運命に素直に従えん愚か者が多すぎる!故に私が引導を渡してやるのだよ!」

ドラグーンは隊列を組んで不知火を包囲し、四方八方から攻撃を加える。武の不知火はまるでレーザービームを掻い潜るダンサーのような動きでこれを回避する。そして上下左右に不規則に揺れ、常人であれば感覚を保っていられないほどの負荷が掛かっているコックピットのなかで武が憤怒の形相を浮かべている。

「……ねぇぞ」

クルーゼはモニターに映りこむ敵機のコックピットに座る青年の形相に一瞬怯む。そして、武は叫んだ。

「人類を見くびってんじゃねぇぞぉ!!」

誰よりも人類の滅びを、絶望を知る男が戦場の中心で吼えた。

 

 

 

 エターナル級2番艦トゥモローの艦橋ではシュライバーが苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

「ビャーチェノワはまだ敵を撃墜できんのか!?」

そう、彼らが切り札として投入したビャーチェノワは未だに敵機の迎撃を掻い潜ることができずにいたのである。怒りの形相で報告を求められたオペレーターは顔を曇らせながらも口を開く。

「現在のところ、本艦の艦載機がナガト・タイプに取りついたという報告は入っておりません。全機が敵MS部隊の足止めを受けています」

「ビャーチェノワが攻め切れんとは……一体ジャップはどれだけのMSをナガト・タイプの護衛に当てているのだ!?」

シュライバーが拳を艦長席に叩きつける。その反動で体が浮こうとするが、腰のベルトが浮かべあがろうとする彼の体を押さえつけ、そのふくよかな腹に食い込んだ。腹に食い込んだベルトのせいでシュライバーは一瞬苦痛の表情を浮かべる。その表情をやり場の無い怒りの表れと勘違いし、萎縮しながらもオペレーターが職務を全うしようと報告した。

「艦長……その……本艦の艦載機の迎撃に当たっている敵戦力は、6機です」

艦橋の中で時が止まった。

「貴様、今……何と言った?」

シュライバーがオペレーターに鋭い視線を向ける。嘘偽りは許さないという意思がその眼光にはっきり現れているが、オペレーターは発言を撤回しようとはしない。

「01、04と、02、03の一個分隊(エレメント)はそれぞれ敵の新型MS1機と交戦中!05、06はフランクの一個小隊と交戦中です!!」

その報告を聞いたシュライバーは唖然とする。自分達の作り上げた傑作は並のコーディネーターが束になっても太刀打ちできるようなパイロットではない。特にそのコンビネーションは凄まじく、ジャスティス、フリーダムを駆った連携では、ザフトが本土決戦に備えて決戦機として開発していたプロヴィデンスを駆る仮面のクルーゼ相手に互角の戦いをするほどである。

今回の作戦に投入したのは完成したばかりのビャーチェノワ6体だが、そのどれもが期待された役割を果たせず、自身と同数の敵機に進撃を阻まれている。これは最強の兵士を作るべく進められてきた計画の意義を否定するものであった。故に、シュライバーは動揺する。

「な……何かの間違いではないのか!?今訂正するのであれば……」

シュライバーは報告の訂正を求めるが、副長がそれを圧しとどめる。

「艦長……信じられないことですが、これは事実です。アヅチの戦いでもフランクは一個小隊でチィトゥィリの駆るフリーダムを押さえ込んでいました。フランクの改良型であれば、性能面でフリーダム、ジャスティスを凌駕している可能性は否めません」

副長に諭されたシュライバーは冷静さを取り戻す。

フランク――アヅチ攻防戦に現れた近接戦闘重視の新型MSのコードネーム――の一個小隊を相手にチィトゥィリの駆るフリーダムは押さえ込まれた。単機でビャーチェノワ2体を押さえ込んでいる機体はフランクとは違う新型だ。フランクを上回る性能を持つ最新鋭機だとしても不思議ではない。

あの異常な速力と火力を有するナガト・タイプを竣工させたジャップのテクノロジーであれば、こちらのMSを凌駕するMSを製作しても不思議ではない。目の前でビャーチェノワが押さえ込まれている光景が映っているのはパイロット(ソフト)の問題ではなく、機体性能(ハード)の圧倒的な技術格差によるものである可能性が高いだろう。

彼はそう結論づけ、目の前の戦場を見据える。自分の推測が当たっていようが当たっていまいが、このまま彼女達が拘束され続けることはまずい。そうなれば、『アレ』を使わざるを得ない可能性もある。『アレ』が使えるのは01と02だけであり、作動の前後は無防備に近くなる。

また、『アレ』を使ってしまえば正確なデータの採取に支障をきたす恐れが大だ。それに現在ロールアウトしているビャーチェノワは6体のみ。『アレ』を使えばその後01と02が使い物にならなくなる可能性も高いとなると、迂闊には使えない。責任は自分が追及されるのだから。

 

 後にシュライバーはこの時の葛藤を後悔することになった。彼らは忘れていたのだ。先ほどまで戦場で激闘を繰り広げていた連合の悪魔、ストライクを髣髴とさせるトリコロールが特徴的なMS――アスラン・ザラの駆るジャスティスを打ち破ったMSの姿を。

 

 

 

「死ねよオラァ!!」

カラミティの背部ビーム砲が火を噴き、2条の閃光が敵機を襲う。相手のフリーダムはそれを旋回して回避するが、その回避ルートにはもう一機の歪な鳥型MSが待ち構えていた。

「滅殺!!」

頭部から放たれたツォーンがザクの左肩のシールドを吹き飛ばした。

カラミティのパイロット、オルガ・ザブナックはコックピットで舌打ちをする。目の前の敵機のパイロットは中々の腕の持ち主だ。砲戦型のカラミティの砲火を掻い潜りつつ、時折通り魔的な攻撃を仕掛けてくるクロトのレイダーの奇襲にも対応することは並のパイロットに可能な技ではない。

TP装甲の採用で従来のMSよりも燃費のいいカラミティであるが、それでも砲戦型MSである以上はビーム攻撃によるエネルギーの消費は避けられるものではない。既にバッテリーの残量は半分ほどになっていた。クロトのレイダーは自分に比べればマシであろうが、あれだけ飛び回っていれば推進剤の残量が気がかりである。

 

「オルガ、聞こえるか」

不意に通信が届き、モニターにムウの姿が映った。

「聞こえてるぜ」

ぶっきらぼうに答える彼に対し、ムウは気にすることなく言葉を続ける。この程度のことで目くじらを立てていたら彼らは更に反抗的になるだろうが、多少は多めに見なければ彼らの手綱を握ることは難しいとムウは理解していた。

「もうすぐフレイがそっちの応援にいくからな、こちらが指定する座標まで敵機を上手く誘導しろ。遠巻きに攻撃して誘い込め」

「了解」

そう言うと通信が切れた。ムウももう一機の黒い敵機をシャニと共に相手しているはずだ。こちらに指示をしながら戦う余裕は流石にないらしい。こちらも決定打に欠ける中で薬の効果切れ(タイムリミット)が近づいているのでフレイの援護は心強い。

「おい、クロト!少しペース抑えていくぞ!」

僚機のクロトに通信を入れると、モニターに映し出されたクロトは心底嫌そうな表情をオルガに向けた。

「嫌だね。僕はあいつの左肩をぶっとばしたんだ。次は反対側をぶっとばすんだ」

小馬鹿にしたような口調に腹が立つが、ここで彼は激情しなかった。以前の彼ならば敵のことなど関係なしに罵っていたのかもしれないが、今の彼は自分の感情を押さえ込むことができるようになっていた。オルガはブーステッドマンの3人の中でも最も強化の具合が少ない。ブーステッドマンが強化の度合によって凶暴性を増したり社会性を消失する等の精神的な障害を抱えるため、言い換えればオルガは3人の中で最もまともな理性を持っているということだ。

故に彼はムウからいざというときに他のブーステッドマン2人のストッパーになれるようにある程度の教育と指導をされている。そしてオルガはムウ直伝の聞き分けの悪い部下(ブーステッドマン)への対処法を使用した。

「……ムウに言いつけて明日からの飯をIMレーションにしてやる」

その言葉を聞いたクロトの表情が青ざめる。

「わ……分かった。分かったよ。分かったからさぁ。だから、僕は……」

彼らブーステッドマンはムウからの懲罰として事あるごとに鹵獲されたプラント製軍用食品を食べさせられていた。幾度も鉄拳制裁の方がマシだと思えるような味覚的懲罰を受けさせられた彼らは、プラント製食品と聞くだけで鳥肌を立ててしまうほどのトラウマを植えつけられていたのである。

その中でも、オルガが口にしたIMレーションは彼らにとって禁句(タブー)となった恐ろしき破壊兵器であった。実はIMレーションと口にしただけのオルガですら背筋に薄ら寒いものを感じていたのである。

 

 ザフト地上軍の基地での食事は基本的に地元の市場などから調達した地球産食材を調理したものを食べることになっている。L5から地球までの兵站を支えるにはザフトの規模は小さく、工業部品以外のものを前線まで送り届けるだけの余裕が無かったためである。

また、そもそも本国ですら小麦から造りだしたタンパク質合成食材に頼っているプラントに前線に送れるだけの食糧が無かったのだ。寧ろ、地球からプラントに向けた輸送船に食糧が大量に積まれる始末であった。

尚、陸上戦艦や潜水艦の食事も基本的には基地で積み込んだ地元の食材を調理したものとなる。ただ、長期航海のノウハウが無いザフトでは、食糧の効率的な配分、調理計画等を立案することもできなかったため、航海の末期になると毎日缶詰の食事が続いて乗員の士気を落すこともあったのだという。

補給係や調理係もただ規定の量を積み込むことしか考えていないからこのような目にあうのだ。開戦から一年以上経ったが、航海計画に基づいた食糧の積み込みと最も効率的な献立立案とができる補給係と調理係が揃った艦は未だに少ない。

生鮮食品の割合やその消費期限、保存食のレパートリーを考えた補給を行うことができない未熟な補給係や、考え無しに材料を使ってしまって航海の終盤には乗員に毎日同じ具のスープを出すことしかできなくなった考え無しの調理係は航海の末期には艦内で白い目で見られ、時にはイジメじみたことが行われたりするらしい。

 

 余談ではあるが、クルーゼ隊が種子島襲撃任務の際に宛がわれたボズゴロフ級潜水母艦ラッセンの補給係はぺーぺーの新米であった。異常な艦内温度で積み込まれていた生鮮食品が早々に食べられなくなってしまい、保存食はレパートリーに乏しかったために(何故か殆どが豆!!)毎日チリコンカンっぽい豆料理となった。

一応その新米補給係の言い分はある。オペレーション・スピットブレイクの際に多くの潜水艦隊が基地にあった保存食を積んででていってしまい、その過半が帰らぬ艦となった。パナマ攻撃という任務にあたった艦の補給係は乗員の士気をあげるために人気のある保存食を我先にと倉庫から持ち出したのである。

結果、倉庫には人気の無い保存食が大量に余るという状態にあった。そしてそこにオペレーション・スピットブレイクの失敗、ついで発動したオペレーション・ウロボロス。ただでさえ人気の保存食を切らしている中で倉庫への補充が入る前に入った大規模作戦は倉庫の僅かな在庫をも払底させた。

その後に持ち込まれたのが種子島奇襲作戦である。新米補給係は保存食の積み込みのために保存食倉庫の中に入るも、そこに在ったのは豆の保存食ばかりであった。倉庫が払底寸前になるまで多くの保存食が持ち出されていたとなれば、残っているものは不人気なものしかないというのは当然のことである。

この豆、地上に降りた直後にザフト補給部がとにかく基地に多くの食糧を備蓄しようと安価だった豆の保存食を大量に買い込んだことで元々大量に倉庫内にあったが、やはり味付けも同じで飽きやすいということもあって中々消費されなかったのだとか。

 

 さて、一方のザフト宇宙軍であるが、基本的に基地での食事はプラント本国と同じく合成食糧を調理したものが主となる。天然物に比べれば遥かに味も食感も悪い合成食品であるが、ある程度手間をかけて料理すればまぁそこそこの料理になる。宇宙軍の基地の調理係が民間から徴用された料理人や料理人としての経験がある軍人であるため、彼らの料理はまずまずのものであった。

問題は艦船勤務である。艦船勤務で出されるプラント製の半加工食品ないし加工済み食品は非常に不味い。生産性以外取り柄がないのである。合成半加工食品や合成加工済み食品を胃袋に収めるためにザフト宇宙艦に勤務する士官らは調味料を使っているらしい。

そしてその半加工食品や加工食品にもレパートリーがある。熱湯を注いだり加熱したりする半加工食品がCレーションシリーズだ。CA~CZまで26種類、加工済み食品のIレーションがIA~IZまでの26種類だ。

これらのレーションは一つのセットを指しており、主食、副食、スープ、飲料が纏められて一つのパックとして梱包されている。専属の烹炊員を配属していないザフト艦艇では当然献立を考えられる人員はいないために全てをセットにして主食、副食、スープ、飲料の組み合わせを固定したのである。

 

 ここで問題のIMレーションだ頭文字のIが示すように、これは合成加工済み食品である。簡単な温食配給食であるのだが、これがIレーションシリーズでも群を抜いて不味いものであった。

トースト、スクランブルエッグ、ソーセージ、オニオンスープ、コーヒーという組み合わせを見ただけでは地雷臭はしない。しかし、それが曲者。普通そうに見えるこれが一番の危険だったのである。

まず、トースト。喫食したオルガ曰く「焦げたスナック菓子」だそうだ。噛んだときのザクザクという食感、口の中に広がる焦げの苦さ、喉を通った後に腹から感じる何ともいえない熱がヤバイらしい。

スクランブルエッグはクロト曰く「水かけて固まったインスタントの粉末コーンスープの食感」、ソーセージは彼らの同僚のアルスター曹長曰く「噛むと中から不味い汁が出てくる焼いた蒲鉾」、オニオンスープはシャニ曰く「塩スープ」、コーヒーはフラガ少佐曰く「臭いは香ばしい胃薬」だそうだ。

こんなものをセットで食べさせられても喉を通るわけがない。そんな食事でも食べなければ人は死ぬ。彼らはフラガによって3食IMレーションを食べさせられたことが3度あるのだ。あの時は地獄だったと後にブーステッドマンの3人は述懐している。

 

 

 流石にそんなものを食べさせられたくないクロトは懇願するような眼差しでオルガを見つめる。オルガはクロトに向けて再度口を開く。

「……ペース抑えるよな?」

クロトはすごい勢いで首を縦に振る。それを見たオルガは続けた。

「いいか、やつに対して遠巻きに攻撃を仕掛けて艦隊の左方に誘導するぞ」

「りょ~かい!!」

クロトは返事をすると同時にザクの上方のポジションをとるために加速する。オルガもそれを援護すべくフリーダムに牽制射撃を放った。敵機は上方でライフルを構えるクロトのレイダーに気づき、その射線上から離脱しようと機体を右方に振ろうとするが、そこにクロトが76mm弾を撃ち込んで進行方向を制限させて針路を変更させる。

その方向に追い込むようにオルガのカラミティが火箭を浴びせる。エネルギーの残量は心もとないが、ここで全火器の砲門をもってしなければとても敵機を追い込むことはできないと判断したのである。

 

 オルガたちは何とかムウが指定したポイントに近づいていた。だが、オルガに余裕は無い。彼らの薬の効果切れ(タイムリミット)が近いのだ。既にレイダーも推進剤がギリギリの状態だ。オルガのカラミティのエネルギーも危険域にある。レーダーに目を通すが、フレイのダガーMkⅡの反応は未だない。

「既に誘い込もうってのはバレてるんだよ!畜生あの売女!!早く来やがれ!!」

そう、イザークもバカではない。ブーステッドマンたちのかなり強引な誘いこみを早期に看破し、何とか離脱しようとしていたが、カラミティの全力の砲火と時折通り魔的に接近してミョルニルを叩き込んでくるレイダーのせいでなかなか離脱できないでいたのである。

そしてついに恐れていたことが起きてしまう。

「ぐぁぁ!?」

「が!?……ぎぃぎぎぎ」

オルガの視界が回転する。体が揺られる感覚、激しい嘔吐。強化薬の効果が切れて副作用が彼らを襲ったのである。動きを止めたカラミティに対し、イザークのフリーダムは一瞬で距離を詰め、構えたビームサーベルを突き出そうとする。

オルガは敵機のビームサーベルの光に気づいて機体を動かそうとするも、体は動かず、ただ光が自身に近づくのを見ているほかなかった。ただ、薬の作用ゆえか恐怖を感じることは無かった。

 

「油断大敵よ!!」

オルガが目の前に近づく光を呆然と見つめていた時、下方から放たれた緑の閃光がカラミティの前方の空間を貫いた。イザークのザクもそれに反応して攻撃を中断し距離を取った。

「遅くなって悪かったわね。オルガ、クロト、聞こえてる?」

謝意などかけらも見せずに赤毛の女性はモニター越しに顔色が悪い二人に問いかけた。

「遅刻だ売女……うぉぇ」

オルガは口にこみ上げてくる吐瀉物を我慢しながら言った。

「だから、悪かったってぇ。お詫びにこの化け物はチョチョイって首刈ってあげるからさ、先に帰ってなさいな」

オルガはまだまだ言いたいことがあったが、体調的にそれを言うことは不可能だった。そして彼は朦朧とする意識の中で機体の自動着艦プログラムを起動させてシートに崩れ落ちた。

 

「クロトとオルガは自動着艦プログラムを作動させたか……なら、後は私の役目よね」

ダガーMkⅡは両手にビームサーベルを構え、背部バックパックからガンバレルを展開する。相対するフリーダムもライフルを構える。そして彼女は虹色の淡い光が彩るコックピットの中で叫び、フットバーを蹴っ飛ばして機体を突撃させる。

 

「失せろ!!宙の化け物(コーディネーター)!!」




武ちゃんVSクルーゼはまだまだ続きます。
しかし、自分はミリ飯ネタが好きなんだなぁ・・・・・・今回もミリ飯ネタでかなり文字数増えてますし。

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